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三匹のおネエ ~おネエ達の異世界生活~  作者: ジェード
第Ⅱ章 人里に出た三匹
41/157

038 一年前

 それは一年前。




「水神様、水神様、どうか心を静められ、我らが民をお救い下さいませぇ」




 今日は年に一度の水神祭の日。

 村の収穫を願い、水の神様に感謝の心をもってお祈りを捧げる日。

 この日は村の広場に村民全員が集まって輪を作り、夜通し宴を開き日々の疲れを癒す。作付が終わり、作物の芽が出始めた頃に行われる春の祭りは、これから成長する作物に水神様が御恵み下さることを願い行われる。


 大昔に始まったこの祭りは毎年欠かさず催されるものだけど、10年ほどに一度だけ特別な事が起こる。それは、十年に一度水神様に生贄を捧げるという習わしがあり、その前年に生贄の選定がされるというもの。だから、十年に一度の今年はみんな緊張しながら参加している。

 生贄に選ばれる人は水神様のもとに行き、その身を捧げる。


 これは大昔に水神様の怒りに触れた私達の祖先が、その怒りを鎮めるための契約として行われている儀式で、過去にその契約を破ろうとした時には大きな怒りに触れて、あらゆる水が枯渇することになった。

 

 夜、村長が村の中央広場の演台に上り儀式を執り行う。

 水神様へ捧げる降神の儀式をし、村長に憑いた水神様が村人の一人を選ぶ。

 選ばれたものは体のどこか、主に額や腕などに水神様の贄の紋章が発光して現れる。それが出た者を生贄として認定し、翌年の水神祭で生贄として捧げられることになる。


 その日、私は兄と弟と一緒に参加していた。

 家は両親が行商をして暮らす商人の家で、村で出来た産品をうちの両親が南にある自由商業都市グレイズに卸してくる。でも、その両親も昨年末の行商に行った際に魔物に襲われて亡くなってしまい、私達一家は突然に生活に苦しむことになった。

 兄が出稼ぎに出て、私が内職をして暮らしを支えていたけれど、その兄も先日足を怪我して以来、体の不調を訴えている。今日は無理して参加しているけれど、本当ならゆっくり休ませてあげたい。

 

 祭りでは食料が振る舞われる。

 正直なところ、冬の間の稼ぎが無くなったうちの家計は火の車。毎日の食事すら難儀する生活のため、こうした行事で食事が振る舞われるのは有り難い。

 育ち盛りの弟も、この日をとても楽しみにしていたほど。


 もうすぐ村長さんの儀式が終わる。

 村長さんが振るう杖が青白く光り、その神秘的輝きに皆の目が集まる。

 私もほぉっとため息が出るほど美しいそれを眺めていたわ。

 その時、横に座っている弟から突然声が上がったの。



「お、お姉ちゃん、腕が!?」

「え?」



 見れば私の右腕が青白くほんのり光っているんです。

 なぜ、私の腕が光るのかしら。そんな風に思っていたら、周りの人達が騒がしくなり、何事と動揺していると、演台の方から一際大きな声で村長さんが言ったの。



「生贄は選定された!!!」



 そう聞こえた瞬間、私の周囲の地面が青白く光ったの。

 周囲を見れば熱狂的に騒ぐ人々の声がして、両隣に座る兄や弟の顔からは青白い光を受けて青いだけじゃなく、実際に血の気が引いた様な顔をしていた。



(あぁ、そういうことなのね)



 私が選ばれた。

 それはもはや火を見るよりも明らかなこと。


 その後、私のもとに村長の息子さんの奥様が生贄の冠を持って来て、私の頭に被せたわ。冠は茨で出来た刺々しいものだけれど、頭と直接触れる部分には布が巻かれているもの。それでも見た目にはとても痛々しい冠ね。

 

 周囲の人が座る中、冠を被せられた私はすっと立ち上がり、ゆっくりと村長の待つ演台へ歩く。沢山の衆目に晒される中、その目に見えるのはこの先の未来に対する哀れみの様な色が見て取れる。同時にホッとした様な表情をする人も。……無理もないわ。もし自分が選ばれていたらと思えば。


 村長のもとに行くと、村長はその手に持つ杖を私の右腕の光に当てる。すると焼けるような痛みが一瞬走ったの。



「痛っ」

「ここに、生贄は確かに定まったことを確認する。実りは約束された。村の者達よ、贄の勇気に感謝を捧げよ!そして、水神様の慈悲を願いたまえ!」



 こうして、私の上には確かに生贄の紋章が刻まれた。

 そして、私の生きられる時間が限られた瞬間だった。



 生贄となった私には弔慰金というものが支払われる。

 弔慰金は村に十年の収穫をもたらす恵みへの感謝として相当の額が支払われると言われているから、私が亡くなれば兄や弟の暮らしは困ることは無いと思う。……二人と別れることを思うと悲しいけれど、それで暮らしが安定するなのなら、私の死も無駄にならないと思う。だって、両親は魔物に襲われたから何も払われることは無かったけれど、私の死にはお金が支払われるんですもの。



 でも、問題はそこじゃない。

 これからの一年をどうやって暮らしていくか。



 弔慰金が支払われるのは私が「亡くなってから」だから、私が生きているうちは三人で何とか暮らすことを考えなくちゃいけない。うちで持っている村近くの畑を売れば、少しは高い金額が着くと思うし、村の中央に陣取っている家もそれなりの値段がつくかもしれない。売れるものは売って、食料は村はずれにでも開墾すれば……何とかなるかしら。あとは兄さんが元気になってからの狩りで得られるお金も足せたら、一息は付けるのかな。



 考えようによってはこれは幸運だと思う。



 私は両親が居る世界に行くだけだから、あとに残される二人が問題なく暮らせる算段がつくと思えば、こんな幸運はそうそう無いことだと思うの。



 お金を稼ぐということはとても大変な事。



 両親も行商という危険な仕事をしてでも私達を育てようと頑張っていたんだもの。

 私だってその気になれば何でもできるはず。



 悔いの無いように頑張らなくちゃ。

第二章の始まりです。

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