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003 モフモフ

第3話「モフモフ」



「ケリー、アレ、何かしら?」

「……犬~? というには大きいかなぁ~」

「そうよね。あんな遠くなのにモフっているのが分かるものね」



 それはゆっくりとだけど、間違いなくこちらへ近づいてきているわね。

 真っ黒い毛をした犬というより狼っぽいそれは、どう考えても私達を餌だと思ってるに違いないわ。

 自分で言うのもなんだけど、誰がどう見ても不味そうな私達を狙うだなんて、ちょっと上がると思わない? これまた自分で言うのはなんだけど、こういう場合、飽く迄一般論として前置くけど、私達って罰ゲームのネタ的扱いされるのがオチじゃない?

 だからというか、あのモフモフっ子も仲間内では罰ゲーム扱いで、「はん、おネエを狩るとかどんだけだよ。やれやれだぜ」なんてぼやきがモノローグに乗っていたりして、渋々仕方なーくやって来ているって感じだったりするじゃないかしら。


 それがよ?

 あの目つき!

 明らかに私達狙いっていう目つきをしているの!

 これが上がらないならどこで上がれっていうのってくらいだと思わない!?!


 ……って、上がっていても意味ないんだけど、どうしたものかしら。

 ふと周囲に視線を走らせると、私がおバカな妄想をしている間にガリが近くを何やら探し始めたわ。

 ケリーはバッグの中に手を忍ばせているわね。

 私はというと、何も出来ることが思い浮かばない。

 強いて挙げればガリの後ろに回ろうと思うことかしら。

 私がガリの背後に向かうと、ケリーも一緒に付いてきたわ。


 ……あらやだ、考えることは一緒なのね。


 ガリはというと、結構なごん太の立派な枯れ枝を拾ったわ。

 長さにして1メートルちょっとはありそうね。

 太さは握りで5センチちょっとかしら。

 あらま立派ねぇ。


 え、何が立派って?

 ……それは、何がかしらねぇ?



「ガリ、行けそう?」

「わ、わかんないわよ。こんなの相手にしたこと無いんだから」



 そう言いながらも構えは結構様になっているのよ。

 格好良いって言ってあげることも出来るわよ。


 ……ブロンドボブのズラが無ければね。


 とはいえ流石に彼も緊張しているのか手がガチガチね。



「がんばってー、ガリー。骨は拾ってあげるよ~」

「きーーー! むかつくチビね!あんたわぁ!」

「きゃー、怖いー。キョーコちゃん助けて~」



 ケリーがお馬鹿な煽りをしているけど、あの子あれで計算高いから、そこそこ緊張しているガリを良い感じにほぐしたわ。

 全く目敏いわねぇ。

 それに気付いているのか気付いてないのか分からないけれど、ガリの表情にも余裕が出来たわね。

 私は溜息を吐いてケリーに言ってやったわ。



「無理よ。大人しくガリに虐めてもらいなさいな」

「え~~~。そんな~。……ガリ、や、優しくしてよ~?」

「ちょっとぉ、あんたは私のタイプじゃないの!……全く」



 そう言いながらも凛々しいガリ。

 白いファーコートを風に靡かせながら枝を構える様は、ほんと絵になるくらいよ。


 ……ブロンドボブのヅラじゃなければね。


 黒いモフモフは私達の10メートル向こうくらいに近づいたところで歩みを止めたわ。

 こちらをじっと見据える瞳が野生の色を帯びていて、とっても格好良いの。

 こんな子がペットだったら格好良いわよねぇ。


 行け、パトラッシュ!的な。

 え? 今はそれどころじゃないだろうって?

 ……嫌ねぇ、いつも心にゆとりが必要でしょう。



 それは唐突に始まったわ。

 急に突進した狼は一番体格の小さなケリー目掛けて飛びかかる。

 それをガリが木の枝で叩き払うと、狼さんはキャインと鳴いて元居た場所に返されたわ。


 あらやだ、ガリのパワー半端ないわぁ。

 こわーい。


 でも、そんなんで黙ってくれる狼さんじゃなかったの。

 今度は周囲を駆け回り始めたわ。

 ぐるるるとか唸りながら走り回るものだから余計に緊張してきて、何処から飛びかかってくるかわからないスリルに思わず身を屈めたの。


 きゃー、狼さんが私達を舌なめずりして襲ってくるわ~!

 食べられる~!


 あらごめんなさい。

 言いたかっただけなの。

 ほんとよ?

 狼さんは、私が身を屈めたのを合図とするように私のもとへ飛びかかってきたの!



 怖い!



 思わず目を閉じたら、バチバチという音と共にダンって鈍い打撃音が私の上で聞こえたわ。

 おそるおそる目を開けて見たら、私の背後2メートルくらい向こうに大きな狼がピクピク痙攣しながら横たわっていたの。

 私の前に立っていたケリーの手にはスタンガンが握られていたわ。

 ガリの方を見たら呆れた様にケリーの方を見ていたの。


 ……どうやらスタンガンでショックさせたところで、ぼっこでぶん殴って払い落した感じかしら。


 あの子のアレ、若い頃は結構狙われて護身用に持っていたものだけど、未だに?

 そんなことより私はゆっくり立ち上がると、狼さんのもとに近付いてみたの。

 ケリーも一緒に付いてきたのは、私を心配してかしらね。


 狼を間近で見たら……なんというか、こんな体でよくもというくらいに痩せていて、正直可愛そうなほどよ。

 こんな体で一生懸命走ってきたと思うと、なんだか切ない感じがしてね。

 私はゆっくりしゃがむと、横たわる狼の頭を撫でたのよ。

 そうしたら苦しそうにしていた狼の呼吸が整い始めて、目つきが穏やかになってきたのよね。

 その透き通るような金色の瞳を見ていたら……もう駄目。

 あまりに可哀想に感じちゃって、何かあげられるものが無いかしらと考えたら、そういえばお客様から貰ったうちの猫のための餌に、鳥のささ身の干し肉が有ったのを思い出して、バッグから取り出して袋を開けて口元に咥えさせてみたの。


 狼は力ない感じにゆっくり咀嚼すると、それを飲み干したわ。

 その途端、狼の瞳に涙が浮かんだのよ。

 涙よ!

 私は思わず狼の頬に顔を寄せてしまったわ。

 そうしたら、狼は懐いた様に私の頬を舐め始めちゃって。


 ……思わずバター犬ならぬバター狼の誕生よ。

 とか、馬鹿なことを思い浮かべちゃったわ。


 

「あんた、手懐けちゃったの? 動物大好きなアンタらしいというか、何というか。それ、調教ってスキルの効果もあるのかしらね」



 呆れた様に私を見るガリ。

 警戒していたケリーも、ガリの方に後ずさりながらスタンガンをバッグに仕舞ったところを見ると、もう大丈夫と思っていると見たわ。……それでもガリの後ろからは離れない辺りの用心深さは流石よね。とてもさりげなくガリの後ろに行く動きが手慣れているというか……。

 まぁ、何にせよ、危機は去ったわ。



「どうかしらね。なんだかこの子が可愛そうに思えちゃって。……ごめんなさいね。痛い思いをさせてしまって。そうだわ、あなたのこと、パトラッシュと名付けてあげる」



 私が思い付きでそう言った途端、狼が突然光りだして、黒い毛が綺麗な銀色に変わっていったの。同時に私の中から何かがごっそり抜けていくような脱力感が有って、思わず胸を押さえて目を顰めたわ。でも、私がちょっと目を離した隙に、狼のがりがりに痩せていた体も気持ちゆったりと丁度良い肉付きになった感じかしら。


 へ? 

 何これ、……どういうこと?


 不思議の世界にいるのだから、こんなことは当然なのかもしれないけれど、こうも不思議なことが続くと何が何だか自分の思考が停止し始めるわね。


 あ、そこ!お前は元々頭なんて動いてない!

 とか思ってるでしょー!


 そうよ、頭なんて働かせたら疲れるだけだもの、正解!

 モフモフする動物って癒しですよね。動物との戯れは心の清涼剤の様な気がします。でも、動物からしたらいい迷惑かも。とはいえ、相手にされないのも寂しいという天邪鬼っぷりが動物の気持ちなのかな。


 キョーコの場合は猫可愛がりするのは間違いありません。

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