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035 下流の洞窟 中編

引き続き、下流の洞窟です。


 滝壺の向こうの道は入り口付近程均された感じじゃないから、足場が悪くてちょっと危険ね。石の質感が硬質でつるつるしているから、用心しないと川の流れにドボンって感じ。とはいえ、入った時と違って現在は私が前を進んでいるから、危ない所は土魔法で予め足場を固めているわ。どんな悪路も変えてしまえば良いだけのことだもの。


 天井高は思ったより高くて広いのよ。たぶん、長い年月で削られたことで水位が下がってこの天井高が出来上がったんだと思うけれど、そう考えるといつからこの川は流れていたのかしらね。


 道は滝壺から2キロ程進んだかしら。

 川は微妙に蛇行しているけれど、ほぼ真っ直ぐね。

 暫く歩いていたら緑色に光る壁が有ったわ。

 近くで見たら光るコケみたい。



「あら、光ってるわ。不気味ね」

「苔らしいよ~」



 二人の声に私も鑑定してみたらこんな結果よ。



 鑑定結果

 ルミエノルト 苔、発光体、毒性なし、魔力受容体



 魔力受容体って何かしら。

 とりあえず集めてガラス容器に詰めてガレージに保存したけれど、何かに使えるのかしら。まぁ、こんなところに来ることなんてまず無いでしょうから、貴重な素材には違い無さそうだけれど。

 


 再び私を先頭に歩き始めたら、それから300メートル程カーブする道に入ったの。カーブが終わった先は大きく開けた空間に出たわ。光を上に向けてみたら高さは4階建てくらいの高さはあるかしら。とても広くて先が見えない程度には開けている様ね。



「凄いわね。洞窟の先にこんな場所が有るなんて」

「秘境だとは思うけれど、私の鑑定に微妙なものが移っているのよね」

「……遂にきた~って感じだよね~」



 私の言葉にケリーも同意したところをみると、彼も見てしまったのね。

 この空間には沢山の魔物の反応が出ているわ。しかも、私達に気付いたのが幾つも見える。

 私はキョーベンを構えると、すぐに魔法を使い始めたわ。



「座標設定、範囲指定、区画確立……邪悪なるものから守る力を……」



 私は空間魔法で私達の居る半径10メートル程を囲うと、その周囲に破邪結界の効果を持たせたわ。以前の聖魔法だけでイメージして構築するより空間魔法の区画に効果を持たせた方が魔力効率が良いみたいなのよね。とりあえずセーフポイントが出来たら、次は攻撃準備よ。

 早速やってきたのは……え!?



「じ、G!?!」



 鑑定にはラズウルドグローって出てたけど、グローじゃなくてグロいわよ。それは体長5メートルは有りそうな巨大なゴキブリだったのよ。それも、一匹だけじゃないわ、どんどん集まってきてる。



「が、ガリ、いける?」

「あ、あたしが!? アレを? ……無理無理無理無理無理!!!」

「ケリーは!?」

「……」

「……立ったまま気絶してるわ。ちょっとー、もう、やってやるわよ。パトラッシュは動いちゃだめよ」

「何故である?」

「あんな汚い物に触れたら、あなたの事を触れなくなるからよ!」

「……了解した」



 ラズウルドグローは個々のレベルも高くてだいたい18前後、HPも800くらいはあるわね。攻撃力もそこそこ高いから、何も備えが無かったらあっという間に食べられちゃうかもしれないわ。

 幸い私の結界のお陰で襲い掛かろうにも弾かれているけれど、結界を囲う様にわらわらと集まっちゃって、あいつらの体しか見えないみたいな。いやん。


 ゴキブリには何が効くかしら。


 イメージ的には殺虫剤よね。あの煙の出る奴?

 ……でも、そんなの出したら私達もやられかねない。



「キョ、キョーコ!? Gが、Gが齧ってるわ!」

「え!? ……あ!?!」



 なんと、あいつら私の結界を齧ってるのよ。

 そりゃGは雑食って聞くけど、結界を食べようとするなんて思わないじゃないの。た、食べられるものなのかしら。って、そんなこと考えている場合じゃないわね。早く何とかしないと。

 ガリが剣を構えて烈風で周囲のGに攻撃を仕掛けたわ。おかげで周りを囲っていたGが烈風に刻まれて倒されたんだけれど、怯むかと思ったらGが、Gが……仲間の死体を食ってる。



「ぐ、グロすぎる」

「キョーコ、早くなんか使いなさいよ。私の剣で倒しても、グロいショーが増えるだけよ!」

「分かってるわよ!」



 ガリが必死に烈風で切り刻んでいくわ。

 仲間の死体を食べるのに気を取られているから、それを狙い撃ちするのは簡単そうなんだけれど、なんせ数が尋常じゃない。Gって一匹見たら百匹を覚悟しろとか言うけど、こんな巨大なのが百匹とか……ただの悪夢でしかないわ。実際は百匹で済むのかどうかだけど。


 Gへの特効といえばバールサンよね。

 あのガスでシューっとするやつ。


 でも、アレを使っている時は人間にも影響が有るからお部屋から出ている必要があるのよねぇ。……って考えると、こんな空間でそんなものを仮に使ったら危険……でもないか。

 そうよ、忘れていたわ。



「ガリ、烈風をやめて」

「何を始めるの!?」

「これよ!空間隔絶!」


 

 私はまず私達の空間と外の空間の間に真空の断裂を作ったわ。そして、鑑定で分かる範囲のG達の外側を空魔法で囲って逃げられないように閉じ込めたの。そしてその空間の空気を抜いてやったわ!

 G達は空気が抜けて真空に近づくにつれて、どんどんその圧力に耐えられず潰れて弾けていったの。


 こ、これはグロい。

 で、でも、絶対に手なんて抜かないわよ。


 パンパンと弾けるGを驚愕の表情で見つめるガリをよそに、私は徹底的に真空で圧殺してやったわ。そして鑑定に出ているGが全ていなくなったことを確認した時点でようやく集中を止めたの。

 出来上がった惨状は……原型留めていなくても元が元だからねぇ。



「お、終わったの?」

「そのつもりよ。……とりあえず、消毒!」



 私は真空の空間に空気を入れて火を放ったわ。飛散したGの残骸に火がついて燃えていくのが見えるけど、全部燃え切るのが確認できないと安心できない。暗い洞窟が炎の明かりで鮮やかに照らされているのだけが救いかしら。

 この炎もGを燃やして起きていると思うと、憂鬱過ぎて見たくもないけれど。


 燃え終わったのを見てGを覆う空魔法を解いたわ。

 私は用心して酸欠防止のために換気を行う。そして結界を解除したわ。

 結局ケリーは最後まで目を開けたまま気絶していたわね。



「……無事に済んだとはいえ、アレがまだいるかもしれないと思うと嫌なものね」



 唐突にそれはきたわ。


 スキルレベルが上がりました。

 鑑定眼 LV,6 → 7 世界の詳細へのアクセスが解除されました。


 なんだかレベルが上がったけれど、頭の中はGのおぞましい光景がリフレインしてそれどころじゃなかったわ。





 大空洞をトボトボと歩く私達。

 つい先ほどまでGがうようよと蠢いていた場所を歩いているのかと思うと、本当に身の毛もよだつわ。

 ケリーは気絶していたおかげで、Gが共食いしたり弾け飛ぶところを見ていなかったからケロッとしているけど、私らはあれをまともに見ていたから軽くトラウマよ。

 私達が進んでいる方向は川の流れに沿ってよ。大空洞の中も流れ続けている川の流れはきっと海まで続いているはずだから、川を下っていくことを基本的に進路としているのよ。それしか手掛かりもないし。

 歩いていたら前方からガサゴソと音がするのよ。鑑定の反応を見たらラズウルドグローが二匹突進してくるわ。



「げぇ、またGが迫ってるわ」

「とりあえず2匹なら何とかなるわね」



 鑑定結果

 魔物 「ラズウルドゲージ」 Lv,20

 HP1278/1400

 MP260/329

 属性:無 麻痺毒


 でも、よく見たら後方から近付くのがある。

 それはラズウルドゲージと書いてあるから、Gではないことは確かね。レベルが20を越えててHPが1200もある。これはもしかしなくても大物っぽくないかしら。

 とりあえず向かってくるのは一匹だけの様ね。っていうか、あまり気にもならなかったけれど、いつの間にか属性表示が出ているし、麻痺毒って出てる辺り、得意技? いずれにせよ毒持ちとは厄介ね。


 私達はガリを前にすぐ後ろで私とケリーが並び、背後にパトラッシュという形で構えたわ。

 音がどんどん近づいてくる。

 私達の光に誘われる様に現れたそれは、あまりにお約束だったわ。



「げ、げじげじ!?ひゃだ、だからゲージなの!? どんなおやじギャグよ!」

「げじげじというか、ムカデかしら。どっちにせよあたしは足が一杯なの苦手よー」

「ケリー!また気絶しちゃだめよ!!」

「……」

「あぁ、既に遅し!」



 ケリーがまたまた器用に立ちながら気絶しちゃったわ。もう、全く役に立たないったら。

 前方ではGが突進してくるスピードに勝ってゲージがGに追いついたわ。

 これはゲージの方が先に仕掛けてくるかしら。

 私はそう思っていたんだけれど、そんな想像なんて軽く裏切る事態が起こったわ。



「食ってるー!?」



 そう、ゲージはその強靭な顎でGを噛み千切ったのよ。

 もう一匹のGが犠牲になったGから遠ざかる様に逃げようと進路を変えたけれど、ゲージの長い胴体の尾部がそれを阻止して叩き、すかさずゲージの口がその体を噛み砕いたわ。

 どうやらあのG達はゲージから逃げるために走っていたのね。そして、ゲージはここのGの食物連鎖の中の上の存在ということよ。あれだけのGが居たんだから、ゲージが食料で困ることは無さそうね。


 私は空魔法の結界を張って防御を固め始めると、ガリが剣を構えて飛燕を放ったわ。でも、あのげじげじめっちゃ速いのよ。あんなに長くてガサゴソ言わせながら速いとか何なの!?


 あのスピードを何とかすることは出来ないかしら。


 ガリは次々に飛燕を放って牽制し、近づけさせないようにしてくれているわ。でも、決め手に欠けているのは否めない。Gの時みたいに真空にすれば行けるとは思うけれど、アレはとっても燃費の悪い魔法なのよ。しかも、ちょこまか速いあいつを正確に区画に放り込むのは至難の業だから、結局大技にならざるを得ない。そんなことしていたらあっと言う間にMP切れになってしまうわ。

 何とか足を何本か切断できれば結構良い線に行くと思うけれど。

 


「……キョーコちゃん、逆ツララで進路を妨害して。私が風の壁で更に側面を囲うから、ガリちゃんはその後でぶった切って」



 ケリーが正気に戻ったかと思ったら唐突にそう言ったの。

 私は彼の言葉に頷いて従ったわ。

 逆ツララを周囲一帯に発生させたらゲージの姿勢が乱れたの。

 そこにケリーが風の魔法で圧迫するように風を打ち付けると、ゲージの進路が定まったわ。



「どっせええええい」



 ガリがパトラッシュに乗って飛び出したかと思ったら、パトラッシュの背から跳躍して剣をゲージに向かって上空から振りかぶったわ。そのままガリの剣はゲージを綺麗に真ん中から真っ二つにしたの。瞬間的にどっぱりと体液が飛び散って気持ち悪い。でも、倒したことは間違いないわ。


 私達はガリのもとに走って近づいたわ。

 彼の体は緑色の体液でぐちゃぐちゃ。



「うえぇぇぇ、きもいー。どうしよー」



 ガリがそう言った瞬間、ドバっと水がぶっ掛けられたわ。

 何事と思って出た方を見たら、ケリーが魔法で水を飛ばしていたの。水の力で洗い流されたガリはびっしょりだけれど、綺麗に体液は消えていたわ。私はその後無言でドライヤーの魔法をしてあげたわよ。流石に濡れ鼠は可哀想だったから。



「……止めを刺したヒーローに対する仕打ちじゃなかったわよ」

「綺麗になって良かったね~」



 にっこりとほほ笑んで話すケリーに、ガリは引きつった笑みを見せていたわ。



「まあまあ、みんなで力を合わせて切り抜けられたんだから良しとしましょうよ。さぁ、先へ進みましょう」



 私達はまた川沿いを進む。

 川はゲージが出てきた方へ続いているあたり、ゲージの住処と鉢合わせも予想されるのかしら。

 大空洞を暫く進んでいると、壁にぽっかりと穴が開いているのが見えてきたわ。川の流れもそちらに向かっているところを見ると、大空洞を出るようね。

 穴へ到着した私達は少し周辺の様子を伺ったわ。

 川の流れの側面に道が付いている辺り、何か……この場合は先程から出てきている虫達かしら……が通っていることは間違いないわね。私達の歩いている反対側の岸に行かないといけないから、私は錬金で水面に手を付いて氷の橋を作ったわ。そして、向こう岸に渡って穴の中に入ることにしたの。


 穴の中は結構広くて、私達の通っている道幅は5m程あるわ。天井高は3mくらいかしら。ゲージの大きさを考えれば、それだけの幅が無いと通りようもないことは理解できるけれど、あんなのがまだ沢山いるとしたら気が遠くなりそうね。

 道は緩やかに坂になっていたけれど、それが徐々に急になってきたわ。そして、水の音が徐々に大きくなってきたの。



「また、滝!?」

「下は見えないわね」

「ねぇ、二人とも~、こっちに穴があるよ~」



 ケリーの声に彼の方を見ると、彼が上の方を明かりで照らしていたの。そこにはこの通路と同じくらいの穴が開いていたわ。この穴って、もしかしなくても虫たちの通り道よね。つまり、この上の道が虫の住処とかって可能性があるって事でしょう? ……うげぇ、川の流れを考えればこの先に進むべきだけれど、上にしか道が無いのよね。



「ねぇ、二人ともどう思う? 道はたぶん川の流れを進んだ先だと思うけれど、上に行ってみる?」

「……Gやゲージが通ってきた穴ってことでしょう? あたしは嫌よ」

「……私も嫌~。でも、だからって川に飛び込むのも……私~、泳ぎ自信無いのよ~」



 私も自慢じゃないけれど泳ぎには自信は無いわ。でも、二人が考えた通りこの上はたぶん鬼門ね。

 川の中を進む方法……潜水艦みたいなものを用意できれば良いのかしら。でも、動力なんて作れないし。それでもせめて滝の中に飛び込んでも頑丈な奴が有れば行ける?


 私は川の水面を凍らせて平行に平らな工作台を作ったわ。まずガレージを開いておいて、素材が取り出せるようにしておいて、台の上に錬金で潜水艇を思い浮かべる。私達三人の座席とパトラッシュが入れる貨物室を用意して、充分な強度を持つようにグラフェンで加工してフロントとサイドにダイヤの窓を付けて、足漕ぎ式スクリューと方向陀を用意っと、安定を保つために小さな水平翼を付けてあげたら安定するかしら。


 えい!


 私の中からごっそりと魔力が分捕られる感じがしたわ。

 周囲の壁が抉られて素材を集めている様ね。

 魔力が台座に形を成形し始めた頃、上の方でギチギチと嫌な音がしだしたわ。



「何が来るの!?」

「ら、ラズウルドゲージ!?」


  

 このタイミングで嫌なお客様の登場ね。

トラウマな虫二連発!

ケリーは器用に立ったまま気絶しました。

突き当たった先は再び滝です。

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