表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/157

034 下流の洞窟 前編


 昼食後はガレージに色々な物を収納することにしたの。



 予め色々な物を保存しておけば、何か必要なことが有っても困らないでしょう?

 幸いにしてガレージは時を止めて保存ができるから、生きた物でもそのまま保存しておくことが出来る。あの空間で動くことが出来る存在は私の許可がある者だけだから。


 まず集めたのは植物ね。


 ラズウルドの大地には回復薬に役立つ草花やハーブに染料と、様々な素材となる植物が生えているわ。流石に木は丸ごと持っていくことは出来ないから、挿し木で着そうな大きさで切った物を保存するに留めたけれど、それ以外は簡単に鉢植えして保存したわ。それも一つ二つじゃ植えた先で枯れると困るから複数本ずつ。


 次に集めたのは石材や金属といった素材。


 ここで集められる貴重な素材と言えば精霊銀やミスリル銀とかといった物だけど、そうした貴重な魔法銀を重点的に採集したほか、魔石も大量に保存したし、石炭も科学素材の元として保存したわ。

 また、合成して作成できる素材の元になるものとかも積極的に採集して保存。

 ガツガツと取り込んでいったわね。


 忘れてならないのは水ね。


 滝壺で聖水の板氷をごっそり作って保存したわ。

 部屋二つ分あるから十分だと思う。


 あとはテントとかキャンプ用品も作ったわ。


 大きめのテントにカーペット、折り畳みの椅子やテーブルにバーベキューコンロとか。

 もう、これらを作っている時はワクワクしちゃったわ。やっぱりテントとかテンション上がらない?

 まぁ、泊まるのは場末のお姉が三人なんだけれど。


 ケリーと私で料理も沢山作ったわね。


 それらを缶詰や瓶詰にしたり、料理そのものを鍋に入れて保存したり、保存の仕方は様々だけれど、調味料も含めて当面必要ないぐらいの量は頑張って作ったわ。きっと食事を作ることも出来ない状況だってあるかもしれない。そんなことになっても困らない様に美味しい料理を用意したの。

 美味しく食事が出来るってどんなこんな状況でもほっこりさせてくれるものでしょう?


 薬も沢山作ったわね。


 小瓶に居れたポーションを大量生産したり、万能薬も飲み薬タイプと塗り薬タイプの二種類用意したり、傷薬も回復性能を分けたものを幾つか作ったわ。例えば旅先で使った際にあまりに効能があり過ぎて驚かれるという失敗談とかを異世界ネタ小説では見るじゃない? ああいうことが起こらないように、わざと低性能の物を用意したの。

 薬の類はケリーのガレージ……というよりロッカーかしら?……にも詰め込んだけれど、ガリにも持たせたわ。この手の物は各自が確実に持っていないと困るものだから。


 建築素材としての材料も豊富に用意したわ。


 レンガやガラスや木の板とか、DIY出来そうな素材を綺麗に揃えてみたの。

 ホームセンターみたいな雰囲気が有って、これもちょっと私がワクワクするネタかしら。


 あ、実は三人でワクワクしたけれど。


 建材類を揃えたのは、今後また家を作ろうってなった時に、必要な素材がある程度あったら楽よねって話があってのことなのよ。旅先で満足に素材が集まるとも限らないしねぇ。


 武器や防具も錬成したわ。


 簡単な剣やナイフや槍といった武器を色々と用意してみたの。

 使うかどうか分からないけれど、無いより有った方が良いかなって。

 防具もそこら辺は同じね。私の着替えとかも含めて衣服はそれなりに用意したわ。



 粗方詰め込み作業が終わって、私は最初に私達が現れた丘の上にパトラッシュと共に上ったの。

 あの場所から見える景色には、私達の家が追加されている。

 それが私達が居るということの証であり、紛れもない異世界転移の証拠。

 最初はこの景色が途方もなく感じたものだけれど、いざ先が見えてくると、ちょっとノスタルジックな気分になるかしら。

 丁度夕焼け空になって、まさに黄昏時ね。


 

「パトラッシュ」

「どうした主」

「あなたと出会って一週間近く経つのかしら。色々あったけれど、あなたはこのラズウルドの大地に残る?」

「何故だ」

「だって、ここはあなたの故郷でしょう?」

「……確かに我はここで生まれた。だが、それ以上の意味は無い」

「そう? だったら、私と一緒に付いて来る?」

「勿論だ主。我はずっと主と一緒だ」

「まぁ」



 私はパトラッシュを思わず抱きしめたわ。

 夕日に照らされて銀色の毛並みが茜色に染まる。

 その日は作業を終えて帰宅して皆で食事をしたら眠ったわ。

 



 翌日。




 翌日は、朝からケリーと二人でパトラッシュに乗って雪崩跡の所へ出かけたわ。



「……酷いわねぇ~。こんなに凄い自然破壊だなんて、キョーコちゃん自然の敵ね~」

「誰も好き好んで自然の敵になりはしないわよ。多少は罪悪感を感じているからここに来ているんじゃない」

「この雪を溶かしてしまえば良いの~?」

「そうね。でも、溶かしただけだと、雪崩で抉られた土までは修復できないから、土地の修復も必要よ」

「あー。私、土の魔法はどういうわけか上手くないから、そっちはキョーコちゃんがやって。雪は私ががんばるから~」

「へ? あんた、この雪全部溶かせるの?」

「うん、かんた~ん」



 そう言うとケリーは前に進んで私と距離をとると、両手を前に出して構えたわ。

 彼が構えた瞬間、私とケリーの周りが四角い空間に覆われたの。たぶん、空魔法の結界だと思うんだけれど、それらが覆ったのを合図とするように、ケリーの前方で渦を巻いた風が起こって、それが雪原に暴風を突きつけたわ。風を受けた雪は驚くほど速く溶けているあたり、あの風は熱風の様ね。その証拠に溶けて湿った大地もあっと言う間に乾燥したのが見て取れたの。そうすると風向きを動かしてどんどん雪を溶かしていくわ。


 時間にしてものの5分程で殆どの雪は消えてなくなったの。


 僅かに残った雪が有るけど、あんなのはそのうちすぐ溶けちゃうでしょう。

 山の麓から続いた雪原はケリーによって消し飛ばされてしまったわ。



「おまたせ~。こんなもんで良いでしょ~?」

「……十分すぎるわよ。しかし、雪が無くなってみても、凄まじい爪痕ね」

「うん。自然の力こわーい」



 私はあんたの他人事の様な態度が怖いわよ。

 いえ、確かに他人事でしょうけど。

 雪崩の爪痕は予想通り土を抉っていて、川べりの辺りも随分とがっつり土を持っていかれていたわ。



「それじゃ、私が今度は行くわよ。パトラッシュ、お願い」

「応」



 私はパトラッシュに跨ってから、空魔法で足場を空に幾つか作ってパトラッシュにお願いしたわ。パトラッシュは私の出した足場をステップにして空高く上がっていったの。

 上空から見下ろした大地は下から見るのとはまた違った爪痕の大きさを実感させてくれる。こんなにすんごい破壊力があの魔法にあったかどうかは兎も角、ケリーの言う通り自然の驚異ね。



「さーて、んじゃ始めるわよ」



 土魔法をどう使えば良いかしら。

 全体の地形は分かったけれど、抉られた方向を考えれば雪崩の終わりから始まりに土を均しながら戻していくイメージかしら。

 私はキョーベンを構えて大地に向けると、戻したいイメージに思い描いて魔力を注ぎ込んだわ。

 大地はゆっくりとその魔力を受けて流動し始めたの。

 それはまるで雪崩を逆再生する様な印象を受ける絵ね。

 潮が引く様に大地が均されていくのをじっと見守りながら魔力を注いでいくわ。その時間は10分程度は掛かったと思うけれど、なんとか山の斜面の大穴も含めて綺麗に修復することが出来たと思う。


 でも、このままだとただの土が露出した荒野なのよね。


 元通りとはいかなくても緑を戻すことは出来ないかしら。

 植物も生命だから、成長を促進する様な魔力の注ぎ方とかどうかしらね。

 私は試しに水の魔法で癒しを行えないか考えてみたわ。

 RPGの回復の定番は水属性だもの。

 で、結論から言うと、微妙に効いたのか薄っすら大地が黄緑色になったの。……とりあえずここまでやれば、あとは時間が何とかしてくれるわよね?

 作業を終えてパトラッシュと共に地上へ降りたわ。



「キョーコちゃんすごーい。芽まで出てるよ~」

「えぇ。荒野じゃ残念でしょう? 少しくらい芽吹いていた方が回復も早いかしらと思って」

「どうやったの~?」

「均した土の上に水の魔法で回復するように祈って魔力を注いだだけよ」

「それでこんなことができちゃうんだ~。魔法万能~」



 土地を元に戻す作業を終えたら、私達はちょっと素材集めをして家に戻ったわ。

 魔物も増えてきて素材集め中に襲われたりってこともあったけれど、魔法で撃退出来ているから安全上の問題は無かったかしら。例のケリーのトコロテンバリアが万能過ぎてねぇ、毎度それに対応していたら手間だから助かったわぁ。……グロイけど。

 家に帰ってからはガレージに家の中にあるものをどんどん整理して入れることにしたの。

 ずっとここにいることも出来ないから、旅立てるように準備をしているの。

 離れると思うと、ここでの生活が無くなるのが寂しいものね。



 ちなみにスキルレベルも上がったわ。

 水属性 LV,9 → 10

 土属性 LV,7 → 9

 風属性 LV,6 → 7

 空属性 LV,6 → 7




 翌日。




「物が無くなると殺風景なものね」



 私達は昨日のうちに必要そうなものは全部ガレージに押し込んで旅の準備を整えたわ。物が無くなって殺風景な私達の家だけど、誰かが道に迷ってここに来ることが有れば、ここはセーフハウスとして機能してくれるはずよ。

 


「キョーコ、行きましょう」

「えぇ」

「さようなら~、我が家~」



 私達はパトラッシュの背に乗って走ったわ。

 目的地は下流の洞窟。

 パトラッシュの足で一時間半の距離を景色を眺めながら進んだわ。

 昨日癒した土地には草原が出来ていたの。

 たった一晩でこんなにあの新芽が伸びるだなんて想像つかないわよね。

 ケリーと一緒にちょっとはしゃいじゃった。

 魔物の気配は明らかに増えているけれど、癒した土地には不思議に寄り付いていなかったわね。


 何故かしら。


 新芽とか若葉って柔らかくて美味しそうだから、うさちゃん辺りは群がりそうなものよね。まさか、お姉の草には毒があるとか言って敬遠された? ……嫌だわ~。


 川の水は昨日雪原を溶かしつくしたこともあって増水していないわ。今日は水嵩が元に戻っているにしても、昨日の午前中までの増水の影響が、地下にどのような影響をもたらしているのかは未知数ね。

 何事も無ければいいけれど。


 洞窟に着いた私達はパトラッシュから降りて各自歩くことにしたわ。

 パトラッシュも勿論連れていくわよ。



「湿気が凄いわねぇ」



 ガリの言う通り、先日来た時に比べると湿気が多いわ。

 どうやら昨日飛ばした雪の水分が蒸発したことで湿度が上がったのかしら。

 それとも、増水の影響?


 ガリを先頭にケリー、私、パトラッシュの順番で洞窟を進んだわ。

 洞窟の岩の質は水の力で長い年月を掛けて抉られたような感じの岩肌で硬いの。グランドキャニオンとかに有りそうな岩と言ったら伝わるかしら? 見た目には縞模様も綺麗な赤茶色の岩だから、まるで宝石の様な雰囲気なんだけれど。


 グランドキャニオンなんて行ったことないのよ?


 ……それどころか海外旅行なんて、母と一緒に行った台湾旅行が一度だけね。旅行とか好きな方だけれど、私にはそんな余裕もなかったし。だから、私の頭にある知識なんてネットで見たり拾った様なものばかりよ。でも、そんなもので知ることが出来るって楽しいのよね。


 私の時代のこっちの世界の人間は、ネットが有るお陰でまだマシな方だったのよ。

 自分と同じ考えの人間と話し合うことが出来て、交流することもお手軽で、知りたいことも割と簡単に知ることが出来る。

 私より上の世代の人達は、それは不遇な青少年として暮らしたそうで、出会いの場はそういう人が集まる夜の酒場か雑誌の読者投稿欄だったそうよ。凄い話よね。

 だからというか、私は自分の立場を必要以上に不幸だとか思うことは無いわ。


 ただ、そうね。

 私が見ることが無かったもう一つの側面みたいなものは、気になるものじゃない?

 自分では開かなかったドアの向こうがどうなっているのか。

 それはどんな人でも気になることだと思うの。

 でも、まさかこんなドアを開くことになるとは思ってもみなかったけれど。


 洞窟の道は一本道で距離にして500メートルは進んだかしら。

 グローブの光で辺りを照らしながら進んでいたら、滝の様な音が聞こえてきたわ。

 ちなみにグローブの光の魔石に魔力を込めるのを続けていたら、光属性が5まで上がったわ。

 暫く進むと、道が途切れて川の水が落ち込んでいたの。



「……あぁ、これじゃ行き止まりも同然ね。どうする?」

「どうするったって、進むしかないじゃない」

「どうやって?」

「削るのよ」



 私が前に出て滝の脇側の私達が進んできた道の先を土魔法で範囲を指定してくり貫いたわ。

 空間魔法で範囲を指定して、周囲への影響を抑えるように配慮しながら、土魔法で分解して土を引き出したわ。

 引き出された土には様々な物質が含まれていたから、それらをとりあえずガレージを起動して新しく作った素材部屋に突っ込んでおいたの。



「さ、行きましょう」



 私が先頭になって足場を用意しながらゆっくりと下まで降りたわ。滝壺を下り切った辺りで再び今度は押し出すようにくり貫いたら、進めそうな岩場が出てきたの。


 これならまた暫く普通に歩けるわね。

 沢山の素材をガッツリとガレージに収め、家の中の物もしっかりと収納し、持っていけるものは粗方持っていくことにした三人。用心深い三人は準備に抜かりは有りません。伊達におネエはやっていないのです。

 そして、ケリーと共に修復した雪崩跡には草原が生まれていました。

 遂に三人はラズウルドの大地を出ることにしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ