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032 勇者?

 光が消えて、部屋の中が元の仄かな光だけになったわ。



「……勇者に羽が生えて消えちゃったわね。というか、チヒロって名前、どう見ても日本人よね。私達の言葉を理解していたし」



 ガリの言う通り、彼は日本語を理解し話し、名前も日本人らしいものを名乗った。仮に私達に某国民的アニメの狸型ロボットが出す翻訳コニャックみたいな悪酔い機能が付いているならばともかく……そんなことはなさそうよね。

 そもそも、私達の推測通りなら、勇者は一緒に戦いに出なかったら意味無いんじゃないかしら。仮に消えたのが戦いに出かけたとするには、あの「来るべき日に備えます」って言葉にはならないはずなのよね。



「彼が勇者だと名乗っている以上、半分は正解ってことだと思うわ。でも、まるで私達に託すみたいな話になっていたわよね?」

「キョーコちゃん、もしかしたら~、私達が勇者だったりして~!」

「……おネエが三人も?」

「「「あはは、有り得ないわ~」」」



 私達はお互いの顔を見合わせて思わず笑っちゃったわよ。

 よりにもよっておネエ三人を勇者にするだなんて、世も末よねぇ。あ、この世界が黄昏ているだとかそういう事情なんか知ったこっちゃないわよ? ただ、もっとマシな人を選んでも良さそうなものよね。私が神様だとしたら、もう少しイケメンな絵になる子を攫うわよ。



「……仮にあたし達が勇者だとしたら、あたし達が魔王を倒す旅をしなくちゃいけないってことなのよねぇ。それってどんな罰ゲームかしら」



 ガリが受け止めてはいけないことを話し始めたわ。



「あんたそれ本気で受け入れる気なの? 場末のおネエがどうとち狂ったら世界の救世主になるのよ。仮にもそんなことが起こったら、世の中にどういう伝説が残るか末恐ろしいじゃないのよ!」

「そんなの分かってるわよ。末恐ろしい話は勿論、あたし達の場違い感を全部無視して突きつけられている現実を考えた時に、あのチヒロって子が私達の行動を望んでいる以上は『戻れない』っていうことじゃないかしら!」

「え? そこ掘っちゃう?」

「掘らないわけに行かないでしょう? あの子はつまり魔王討伐に失敗したのよ。失敗したから戻れなかったという解釈になるじゃない。そうすると、あたし達が元の世界に戻るには討伐するってことは一つの条件になっていると解釈するほか無いと思わない?」



 そう、受け止めたくないけれどガリの話はそういう意味で捉えられる。何故討伐に失敗したかなんて分からないけれど、討伐に失敗したり、失敗しそうな状況が生じた場合にチヒロ君の様なことが起こりうるってことで、それはどう控えめに見ても「帰してくれる」ことではなさそうだった。

 だって、羽が生えたのよ? これから帰るはずの人間に羽を生やす意味は何? そして、彼は明確に帰るだなんて言わなかった。言ったのは「備える」よ? 魔王を倒す時の為にどっかで備えていると捉える方が自然よ。

 そして何より、この世界から元の世界に戻るということ。

 これはこれまで語らず各自の中で仕舞っていた言葉だけれど、実際問題このままを続けて良いかどうかは判断が分かれるところ。私達の世界に未練が無いかどうかを問われると、私自身では何とも言えない。でも、ガリやケリーが私と同じ答えだとは限らない以上、避けては通れない問題。とはいえ、その為の道筋もこの一連の流れで見えてしまったのだけれど。

 私は一息溜息を吐くと、二人に話を振ったわ。



「……ねぇ、仮に戻るとして、魔王倒す気ある?」

「あたし? 微妙」

「ケリーは?」

「うーん、微妙~」

「そうよねぇ。私も微妙だわぁ」

「「「はぁ……」」」



 思わず三人で溜息を吐いたけれど、先が思いやられる様な現実を突きつけられちゃった。



「魔王云々は……暫く隅に置いておきましょう。まずはここを出て、人里を見付けて、この世界がどんなものかを知ることから始めてみましょう。そもそもお姉が救う必要がある世界なのかどうか、もとい救いたいと思える世界なのかどうか」

「……そうね。あたし、それに賛成しとくわ」

「私もさんせー! もしダメっぽかったら、逆に魔王に味方して世界を滅ぼしちゃうってのも有りかもしれないもんねぇ~」

「……あんた怖いこと言うわねぇ。でも、それ分かるわ~。人間ってコワーい」



 私達はまた骨の折れる階段を上り、長い道を歩いて外に出たわ。

 帰り道は何事もなく終わって、なんだか拍子抜けするくらいよ。

 外には律儀にパトラッシュがお座りして待っていてくれたの。



「あら、パトラッシュ。待っていたのね」

「主を待つのが我の喜び」

「しかし、薄暗いわねぇ。まだ昼過ぎくらいでしょう? 随分と天気悪いわねぇ」



 私はそう言いながら腕時計を見たら、時計がいつの間にか午後5時を過ぎている。あれ? 洞窟の中で見た時はまだ1時過ぎくらいだったと思うんだけど、あれれ?



「ねぇ、私の時計壊れているのかしら。さっき1時過ぎだったと思うんだけれど、5時過ぎてるの。二人のはどう?」



 二人に時計の確認してもらったわ。



「あ、ごめんなさい。あたし今日時計してきていないの」

「私はあるよ~。私のは……キョーコちゃんと同じだよ~。……洞窟の中と外で時計の進みがズレている……なんて事があるのかも……」

「そんなファンタジーなことあるわけ……あるわね。じゃないとこの世界にいる時点で色々説明付かないものね。はぁ。兎に角帰りましょう。パトラッシュ、お願い」

「応」



 私達は紛れもなくファンタジーの世界にいるんだもの。こんな不思議なことが起こっても有り得ないわけじゃないのよね。



 走っていたら、なんかやたらに魔物の数が増えた気がするの。

 封印が解除された影響かしら。……そうとしか思えないけれど、ステータス表示を見る限りは比較的弱めな魔物の様ね。これまで抑えられていた弱めの魔物の出現が増えたって感覚なのかしら。


 パトラッシュは私の指示に従って魔物が沢山いる道を避けて通ってくれたわ。魔物も私達の方が強いと感じたら避ける傾向があるようで、弱い魔物は先に遠ざかる動きを見せてるの。でも、強めの魔物……アルミレージだとか封印が効いていた頃も出ていた魔物ね……は近づいて来ようとしてるのよ。

 パトラッシュは早いからうさちゃん程度には追いつけないけれど、完全に日が暮れたらダークウルフが出てくるから、出来るだけ急いでもらったわ。その後は魔物と戦闘になることも無くなんとか帰られたの。家に入った頃には完全に真っ暗になったから、あともう少し遅かったらワンちゃん達とお付き合いする羽目だったわね。


 ……なんだかんだと衝撃の話を知ってしまったけれど、家って落ち着くわねぇ。

 私達は家に着いてからテーブルを囲んで暫く突っ伏したわよ。



「……封印解いちゃったけれど、微妙な話聞いただけで何にも変化無かったわね」

「……あたし、勇者ごっこに憧れたことどころか、ゲームもそんなにやらない子供時代過ごしたんだけれど、これは誰の夢なのかしら」

「ガリちゃん、私じゃないよ~。どっちかといったらキョーコちゃんでしょう?」

「あ、ごめん。私かも~。確かに厨二病的世界観大好きだわ~。でも、こんなお姉クエストを望んだことは天地神明に誓って無いわよ」

「「「……」」」



 その後、それぞれ着替えたりして、ケリーは食事の支度、ガリは先にお風呂、私は皆の服の洗濯をしたわ。

 夕食が出来上がるころにはみんな落ち着いたから、食事をとってお風呂に入った後寝たわよ。

 本当に、この先どうなっちゃうのかしら。



 夜寝ていたら、外で唸り声が聞こえたわ。

 あの声はダークウルフのものね。それも一匹や二匹の声じゃない。私は気になって外から眺めてみたの。

 二階の家から出て周囲を覗いてみたら、周りに沢山のワンちゃんが居るのが見えたわ。月明かりでほんのりと目が光っているのが不気味。でも、ダークウルフは私の結界に阻まれて突入することも出来ずにいる様ね。時折体当たりをかましているけれど、壁にぶち当たって悲鳴を上げて後ろに跳ね返されているの。ちょっと哀れだけど、周囲にいる魔物の数を考えると、これが有って本当に良かったと思えるわね。



「……酷い数ね」

「あら、ガリ、起きたの?」



 背後からぬぅっと現れたガリ。

 手には剣が握られているわね。



「これだけうなっている声が聞こえれば気になるわよ」

「ケリーは?」

「……あの子はぐっすり眠ってるわ」

「……大物ね」



 私がケリーの図太さに呆れていると、ガリが剣を構えたわ。。



「ガリ、まさか」

「ここから少し間引くくらいは良いでしょう。どっち道うるさくて眠れないから」



 そう言うとガリは「飛燕」と言って剣を一閃したわ。

 それは青白く光って走るリングとなってダークウルフを一体切り裂いたの。

 


「あら、おみごと」

「ふん、まだまだこれからよ」



 その後はガリの一方的な無双だったわ。

 飛燕が次々と飛んで行ってダークウルフを切り裂いていく。倒しているからレベルが上がっているんでしょうね。威力がみるみるうちに高くなっていくのが見えたわ。と思ったら、



 ピコン!



「え!?」


 

 唐突にガリの頭上に白熱電球が光ったの。

 ピッカリと光ってるのよ!

 そうかと思ったら、ガリが構えを変えたわ。

 


「烈風」



 彼が両足を踏ん張ると瞬間的に風が足元から吹きあがり、その後高く跳躍すると周囲に回転しながら剣を一閃したの。そうしたら周囲に無数の飛燕が飛んで、一気に周りにいた20頭以上のダークウルフを切り裂いたわ。まるで意思が有る様に追尾する飛燕がスッパリと的を切り裂いていったのよ。恐ろしい威力だわ。

 さすがにこれだけの数が減ると大人しくなるものね。

 着地したガリは剣を鞘に納めたわ。



「寝ましょう」

「うん。でも、さっきあなたの頭の上にとってもアホっぽく電球が光ったわよね」

「アホっぽくは余計よ! ……あたしにも分からないけれど、技を閃くときに出るのよ」

「まぁ……そうだったの」



 電球が光るなんて滑稽だけれど、もしかして私にもアレが起きることがあるのかしら? ……というか、あれだけ倒したんだから、たぶんガリのレベルは相当上がったわよね。

 何だか色々と凄いものを見てしまったけれど、これで落ち着いて眠れるのかしら。心の中は落ち着かない感じだけれど、眠らないと始まらないものね。寝るわ。



 おやすみなさい。

 勇者に世界を託された三人は、あまり考えたくない現実に突き当たりました。現実世界に戻るためには魔王を倒さなくてはならない……かもしれない。そんな現実に疑問を感じつつ洞窟を後にしました。

 そして、その夜の襲撃でガリが無双しました。電球もピッカリ出て技が決まります。

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