030 封印の洞窟
「この世界にこんなもの持って歩いている人って、どれくらいいるのかしらね」
「知らないわよ。そもそも人がいるのを見たことないじゃないの」
「それもそうだけど、パトラッシュはいるって言っていたじゃない?」
「ねぇ、キョーコちゃんもガリも~、もう少し緊張感を持った方が良いんじゃないかなぁ~」
私達が何をしているかって?
私達はあの封印の洞窟を歩いているのよ。
今回の服装は3人お揃いの現代チート素材で出来た旅装よ。手袋に光る魔石をはめ込んで懐中電灯の様にしてあるの。左手に付けてあるから左手を前に出す感じで歩いてるのよ。
洞窟の中はひんやりしていていかにもな洞窟なんだけど、ジメジメしているって程湿気が有るわけではないの。どちらかと言えばカラッとしているくらいなのよ。そう考えるとちょっとイメージとのギャップを感じるわよね。勿論、世の中には湿気の無い土地の洞窟というものが有るから、これは私の先入観に過ぎないけれど。
道は一本道で、緩やかに下る傾斜が続いているわ。自然に出来たというよりは、人為的に掘りぬいたって言う方が合っていると思う。
実際「封印の洞窟」というくらいだから、誰かが何かを封印するために掘ったと考えるのが自然な理解だと思うけれど、問題は何が封印されているのかよね。
この世界がゲームかラノベにある世界だとしたら、封印されるべきものって魔物や悪魔や邪神とかかしら。触れてはいけないものフラグは立っていると思うの。でも、確認してみないことには分からない。興味本位ではあるけれど、そうすることに意味が有るとも感じるのよね。
そもそも私達がこんな場所に呼び出されること自体が随分と非常識な状況なわけで、そんな非常識がまかり通る状況ってものはよっぽど何かの縁があっての事なのよ。例えば、別にこんなものが有る場所に呼び出される必要はなさそうじゃない? あえて言えば、どっかの王国だとか神様のもとだとか、導入を与えてくれる場所に導かれているのが当然だと思うのよ。
何の因果か知らないけれど、私達は誰もいない山奥に突如として連れ去られ、こんな意味深な洞窟のある場所に捨て置かれた。……これで見ないでと言っているとしたら、どんだけツンデレなのって話でしょう?
「ねぇ、いつも思っていたんだけれど、どうしてあたしのことはガリって呼び捨てで、キョーコのことはちゃん付けなわけ? あたし達の差ってあんたの中でどうなっているの?」
あー、私もそれは思ったわ。
どうしてケリーは私にだけはちゃん付けなのかしら?
ケリーは右手の人差し指を顎につけて、どう伝えようか少し考えた後口を開いたわ。
「それはねぇ、キョーコちゃんは存在が天然で可愛い人でしょう? でも、ガリはどちらかというと勇ましいというか、厳ついじゃない? だから、キョーコちゃんはキョーコちゃんだし、ガリはガリなのよ~」
「はぁあ!? 確かにキョーコが天然なのは否定しないけれど、あたしだって乙女心を大事にしているのよ!失礼ねぇ!」
「あらやだ、あんた乙女意識していたの? 私はてっきりネタ作りのキャラだと思っていたわ。まぁ、ごめんなさぁい」
「キィーー!!そんなすまなそうに思ってない顔で言わないでよねぇ。ったく、あたしはこれでもキョーコより服にも気を付けているし、見た目にも頑張っているのよ!」
「ブロンドのズラで? 正直アレは似合ってないと思っていたから、今日の姿の方が良い感じにイケメンで良いと思うわよ?」
私の言葉に激高してたガリがハトが豆鉄砲を食らったような顔して止まったわ。まぁ、貶されると思っていたところに褒められれば肩透かしを食らったように感じるわよね。
「はぁ、……って、も、持ち上げられても何も出ないわよ……兎に角、ケリー、あんたキョーコだけちゃん付けはおかしいんだからね。もしキョーコにちゃんをつけるなら、私にもちゃんを付けるべきでしょう!」
「そんなんで良いの~? 拘る先がおかしい気もするけれど、面白そうだから良いよ~」
「オモシロ!? ……って、分かったなら良いのよ。フン」
ケリーの言う通り拘る先が違う気もするけれど、あの子にとってはそれが重要だったようね。しかし、ケリーって愉快犯というべきか、自分で火をつけて楽しんでいる節が有るのよねぇ。放火魔とか怖いわ~。
暫く進んでいると、少し天井高があって開けた空間に出たわ。
部屋の中は彫刻されて出来たレリーフが側壁と天井に飾られているの。色々な動物……というよりは魔物なのかしら? ……の絵が描かれていて、それを討伐する人間の姿が描かれているのかしら。でも、その人間が魔物に倒される姿も描かれているわね。
それらは全て側面の壁に描かれているものなんだけれど、天井の方を見ると、羽の付いた人間とよく分からない魔物っぽいものが描かれていて、それらが大軍勢で対立している姿が描かれているんだけれど、どちらかというと羽の付いた方が押されているというか、追われているというか
……あまり勢いはよろしくないようね。
これらはたぶんここに封印されているもののヒントが描かれているのでしょうけれど、どう解釈したらいいのかしら。
「ねぇ、二人とも、この上の天井画を見てどう思う?」
「そうねぇ……、天使と悪魔の戦いってところかしら。パッと見は悪魔が優勢って感じ?」
「私もそんな風に感じるけれどぉ、つまり、この不定形な悪魔が封印されているってことなのかな~?」
腕を組んで考えながら話す二人。
印象ではやはり私と同じ様に感じた様ね。
「二人もそう感じたのね。私もそういう結論か、若しくは逆の可能性もあるかなって思ったんだけど」
「逆って、まさか、天使が封印されているってこと?」
「えぇ。だって、人間は悪魔に倒されているし、天使も悪魔に押されているじゃない?」
「……確かに。でも、そうすると、私達は封印を解くべきってことになるのかしら」
「そういう理解も出来るけど、逆だった場合はパンドラを開く様な話よね」
そう。逆の解釈をした場合、私達がまさに災厄の蓋を開けることになってしまう。
元々封印するという行為は、そのものを倒しきれなかったから、せめてその力を眠らせるといった意図が働いていると思うのよね。だとすれば、眠らされている存在に災いの芽が無いとは言い切れないのよ。
そこにケリーが眉を下げて私に話しかけてきたわ。
「キョーコちゃん、もし悪魔がこれを作ったとしたら、客観的に描く理由が分からないよ~?悪魔が勝利したなら圧倒的な姿を描くべきじゃないかなぁ~」
「……それもそうね。どうして引いているのかしら。言われてみれば変ね」
ケリーの指摘通り、この壁画はどちらとも解釈が出来る様なとても曖昧で客観的な描かれ方をしているの。押されているという表現も、見方を変えれば押されるほど厳しい戦いだった……とか、その大変さを伝えるように意図して描いたとも言えるかもしれないし、見た目通り、人間も天使も悪魔の圧倒的強さの前に押されるばかりだったと捉えることも出来る。
作成した存在があまりにも客観的に見つめているのではないだろうか……そんなことを思ったのだけれど、どんな意図であれ何かが封印されたからこそ封印の洞窟なのだと思うのよね。
奥へ続く道は真っ暗な穴に見えたけれど、近づいてみると下りの階段が伸びていたわ。その階段の長さだけれど、パッと見で下が分からない。光源が無いからってのもあると思うけれど、もの凄く深い奥に続いているということはわかる。……こんなところで躓いたら死ぬほど怖いゴロゴロ地獄が待っているわね。
距離にして500メートルくらい続いたかしら。これ、降りるのもえらい苦労だけど、登るとなったらその比じゃないわね。帰る時を考えると憂鬱になるわ。
みんな終始無言で歩いたわよ。
流石に真っ暗で私達の腕の明かりしかないから。歩く順番はガリ、ケリー、私の順よ。私が背後の安全を守る様に警戒して歩く感じ。最初に入る際にそういう取り決めで動くことにしたの。ガリの方が即応能力が高いし、物理的に攻撃して対応できるのに対して、私は魔法での能力以外はガリ程高くないから。
そうそう、ガリったらめっちゃ強くなってたの。
私も相当強くなったと思ったんだけど、あの子もレベルは同じくらいあるわ。ケリーは私達の中では一番弱いから真ん中っていうのはすぐに決まったの。
階段の終わりが見えてきたわ。
「きゃぁ!?」
突然前を進むガリが奇声を上げたわ。
「ちょっとー、あんたの声の方が怖いわよ!」
「むきーーー!!あたしだって上げたくて上げたんじゃないわよ!これよこれ、みて!これ」
私とケリーはガリの腕の光が向ける先に見える地面に転がるものを見たわ。
「「きゃあああああ!!!!」」
そこにあったのは骨。しかも、結構な数よ。
階段の終わりが見えてきたと思ったら、下の段には無数の骨が散乱していたの。しかも、損傷が激しくて原型を留めていないわ。階段の5段目くらいの高さまで大小様々な骨が散らかっているの。遠目に見る範囲にはただの白い何か程度にしか気にしていなかったけれど、こうして近くで見るとグロいとしか言いようがないわね。
どうしてこんなところに骨が散乱しているのかしら。
私達は周囲を見てみたけれど、特別変わったものは無いのよね。
「のたれ死んだにしてはぐちゃぐちゃね」
「動物の骨っぽいのが結構あるよ~」
ケリーの言う通り、人骨というよりは動物の骨が大半の様ね。
「この砕け方がどういう意味を持つのか分からないけれど、食い荒らされたって方向もあるのかしら?」
「その可能性を否定しないけど、もしそうなら顎の力が随分強いやつよ。それ」
私の言葉にガリがそう答える。
確かにこの砕かれ方は尋常じゃない。
普通の動物は骨についている肉を食らうのであって、骨をバリバリ食べることはない。……でもこの骨達は余程の力で咀嚼されたと考えないと説明がつかない。
「食べたと考えると器用な動物だよね~。まるでスイカの種を出すように骨を出しているから~」
「……それもそうね」
ケリーの言葉は本当にその通りなのよね。漫画のキャラクターじゃあるまいし、食べた後で骨だけぴゅーっと出すなんてあり得るかしら? それだけバリバリ食べられる存在が骨丸ごと飲み込まないなんて変よね。
「考えていても仕方ないわ。先を進むわよ」
「えぇ」
「りょーかーい!」
ガリに促されて私達は先を進むことにしたわ。
階段を下り切った先はまた真っ直ぐな道よ。ただ、岩を削った洞窟という感じから、綺麗にタイルを敷き詰めて加工された通路になったわ。でも、そのタイルだと思った床や壁もよく見たらパターン模様になっているだけで、はめられて出来ているわけじゃないのよね。これ、どうやって作ったのかしら?
歩いて1キロくらい行ったかしら。
扉が現れたわ。
明かりで照らされたそれは、緑色をした金属質の扉で重厚そうな雰囲気ね。扉には文様が描かれているの。丸い円の中に細かい文字らしきものが沢山書き込まれたもので、ドアノブの様なものは見受けられないわ。文様の真ん中に赤く丸いちょっと大きめのビー玉くらいの宝石が嵌め込まれているの。
「どう思う? コレ、たぶん、この宝石に触れるべきよね?」
ガリが問いかけ、それに触れようとしたのをケリーが止めたわ。
「ガリちゃん、ちょっと待って~。この文様、魔法陣か何かだとしたら、何かの意味が隠されているかもしれないよ~? 不用意に触れて罠とか発動したらどうするの~?」
「……ここまで来て罠なんて有るかしら」
「わからないよ~。この文様、文字に気を取られていると見失いがちだけど、波紋状に同じ文字の羅列が繰り返されているよ。文としてはシンプルなものだけれど~、そのシンプルな文が繰り返されているところに何かの意味があるんじゃないかなぁ。言葉が分かれば良いんだけど~」
「もし波紋だとしたら、印象としては跳ね返されるような感じかしら。そうだとしたら罠っぽいわよね。扉の宝石に触れないとしたら、何処に触れたらセーフなのかしら。そもそもセーフが有るのかも定かじゃないけど」
私達は暫く考えながら観察していたわ。
この扉が仮に触れるものを拒絶するトラップが有るとしたら、それを付ける側の意図がどっかに有る筈よね。
意図して避ける存在ってどんなものかしら。
この世界の高位の存在が真っ先に排除するものが有るとすれば、それは低次元の存在っていうことになるのかしら。ここは封印の洞窟なのだから、封印しているものが誰でも何処の馬の骨だろうが簡単に入って触れられる様では意味が無いわけよね。じゃぁ、どうやったら逆に入れる存在と認めてもらえるのかしら?
ここに仮に普通の人間がやってきたとしたら、たぶん赤い宝石に触れちゃうわよね。そして、弾かれるという結果になるのよ。そして、そこらの魔物が入り込んだりした場合も、たぶん弾かれてしまうオチだと思うのよ。だからこそ、ここはまだ封印されたままって認識で良いのよね?
あら、そうするとさっきの骨って……、
「ねぇねぇ、さっきの階段下のあの骨って、ここに触れた末路って事じゃないかしら?」
「あぁ、確かに」
「……うん、私もそう思うよ~。それもあるからガリを止めたんだもの~」
「あら、あんたそこから考えてたの。目敏いわね~」
相変わらずというべきか、ケリーはよく考えているのよねぇ。私が馬鹿なだけかもしれないけれど、この子が居てくれなかったらって考えると怖いわね。
弾く対象には人間も含まれていて、そこらの魔物にも解くことが出来ない。こう考えると、壁画の解釈の話同様に天使にも悪魔にも公平に弾かれる要素が存在しているってことになるわね。それにしても、どっちも触れられないものだとしたら、どうやって開けろというのかしら。
アレ? ……どちらも触れられない?
……あぁ、どうして私は気付かなかったのかしら。
あの赤い球、アレはどう見ても……。
「ガリ、ケリー、ちょっと離れてちょうだい」
「「えぇ」」
二人が私の後ろに離れたわ。
私はキョーベンを構えて魔力を先端の宝石に集中させる。そして、扉の赤い宝石に向かって魔力を注ぎ込むイメージで放ったわ。放たれた魔力は赤い魔石に衝突した瞬間、その魔力を急速に吸い込んだの。その勢いはとんでもなくて、軽く私のМPの三分の二を持って行ったわ。すると、扉が青く輝いてゆっくりと中央から割れるように開いたのよ。
「……魔石だと思ったのよ。行きましょう」
「「……」」
二人は無言で頷いたわ。
私達はガリを先頭に真っ暗な扉の向こうへ入ったの。
スキルレベルが上がりました。
空属性 LV,3 → 4
遂に封印の洞窟へ突入です。
ケリーのちゃん付けの理由が明らかになりました。
ガリは平等に呼ばれたかった様です。
そして、開かれた扉の先は一体?




