029 雪崩
今日も一日三匹のおネエは頑張ります。
「パトラッシュ、ジャンプよ!!」
私はパトラッシュを誘導する。
目標は上空の薄っすら光る四角。
勢いよくジャンプするパトラッシュに必死にしがみ付く私。
ザザザザザザァアアア!!!!
間一髪、私の下を雪崩が通り過ぎていったわ。
パトラッシュは勢いを生かしたまま、目標の四角の上に降り立ったの。
この足場は私が空間魔法で作り出したもの。
正しくは空間座標上に風魔法の足場を用意した感じかしら。
ホバリングするようにその上で浮いている私達だけれど、本当に広範囲に渡って雪崩が通り過ぎたわ。咄嗟とはいえ成功させられたのは、某少年漫画の記憶が有ったお陰よ。空間を囲うだけだと不安だったから、さっきの空間封鎖の要領で断裂を作って、その上に風を敷いてみたの。結果的に成功したけれど、胆の冷える出来事だったわ。
さて、流れも止まったから良いものの、このまま降りたらずっぽり行くわよね。
仕方ないから幾つか四角を作ってパトラッシュに飛び移って貰いながら、少し上空から見渡したの。そうしたら、川の流れが堰き止められて上流の被害にあってない場所で水が氾濫し始めていたのよ。
このままだと危険だから何とかしないといけないわね。
火の魔法だと熱の効率が悪くて全てを溶かすには大変そうだし、水の魔法でも雪の量が膨大過ぎて操作するのが辛そうよね。土魔法は論外として、残る風魔法もこんな状況じゃ歯が立たない。
さて、どうしたものか。
熱効率を高めることが出来れば、熱を発生させて溶かすことも出来るかもだけれど、とりあえず全てやるのは不可能として、川だけでも復旧出来れば良いのかしら。……たぶん、抉られたりで地形は変形しているかもしれないけれど、水の通り道さえ確保できれば、雪解けを待って土地を復元することも出来るかしら。
私は鑑定眼を使って川の流域をトレースしたわ。
おおよその流れを把握したら、次は空間魔法で流域の雪の被っている部分を覆う。そして、その周囲を真空断熱していく。
「んむぅぅぅ」
流石に結構しんどい。
広すぎて体中から魔力がダダ漏れしている様な感じ。たぶん、LPからも持ってかれている感半端ないわ。……これはさっさと終わらせないと。
次に断熱区画内部の雪を利用して幾つもの水球を浮かべる。そして、あとの仕上げは角度を調整っと。
「出来た」
急速に水蒸気が空間内部で発生しているのが見える。その水蒸気の温室効果で更に保温され、空間内部の気温が上昇し雪解けを促進したわ。……私がしたのは太陽光を誘導して赤外線で発熱させて熱を得ること。これなら水魔法をちょっとの間維持したら解除するだけで済むから魔力を節約できる。
火魔法で全てを熱するなんて、いくらLPも注ぎ込んだとしても私の手に負える様な代物じゃないと思ったから、ふんだんにある雪を活用できる水魔法を利用して消費を節約し、レンズ効果で太陽熱を誘導したってわけ。
最初に作った閉鎖空間が熱を籠らせるから、溶けた水蒸気との相乗効果でどんどこ溶かしてくれるでしょう? 私にしては考えたっしょ?
と、来たわ。
スキルレベルが上がりました。
水属性 LV,8 → 9
風属性 LV,2 → 5
空属性 LV,1 → 3
流石に上がるわね。
LP3消費してたし、大魔法に間違いないから不思議じゃないけれど、こんなん命が幾つあっても足りないわね。
雪解けが終わったのを確認してから空間を解除したら、もわっとした熱が一気に駆け上がる様に登って来たわ。あまりの風にパトラッシュも姿勢を維持できず飛ばされてしまったけれど、何とか姿勢を直して着地した。……と思ったらずっぽり埋まったわ。
やだ、雪崩の層意外に深いじゃないの。
穴の上までに2メートルくらいの高さがあるわ。
「ぱ、パトラッシュ大丈夫?」
「大丈夫だ。問題ない」
そう言ったパトラッシュは踏ん張ると一気にジャンプしたわ。そして、さっき作った足場に空中で姿勢を変えて戻ったの。何というアクロバティック。私は必死にしがみ付いているのがやっとだったわ。
戻ったところで着地も出来ないんじゃしょうがないから、せこせこ足場を作って雪原を抜けたわよ。
幸い雪崩で塞がって溜まってた川の水は、流れる場所が出来たことですぐに引いたわ。あとはこの膨大な量の雪が解けた時の水さえ何とかなってくれれば良いんでしょうけれど、何日かかることかしら。
……暫く下流の洞窟へ向かうのは難しそうね。
着地してからは普段通りの道を走って帰ったわ。
パトラッシュも今回ばかりはパワーを使ったっぽいから、ちょっと控えめに走ってもらったわ。あ、私自身も全力疾走に耐えられないってのもあるんだけれど。
雪崩で雪が覆ったからこの谷間の地に吹く風が微妙に寒くなったのよね。春っぽい気温になっていたのに冬に逆戻りみたいな印象。
なんとか五時ごろには到着出来たの。
家に入ったら、ケリーが食事の用意をしていたわ。
肉の焼ける美味しそうな匂い。
「ただいま~」
「あ、キョーコちゃんおかえり~。大丈夫だったぁ? さっき、キョーコちゃんの行った方角で雪崩が有ったから心配していたんだよ~?」
「あぁ、それね。私が原因よ」
「は?」
ケリーの目が点になっていたわ。
そこに風呂上りのガリがまたまた半裸で登場したの。
「……あんたはよくよく非常識だけれど、今度は何を無茶したのよ」
「えー? ケリーの言っていた空属性の研究していたのよ。で、上手く行ったんだけれど、風の玉がどーーんって山にぶつかって、ドカーーンって弾けて、その後ズザザザザザーーーーって感じだったのよ。死ぬかと思った」
「「……」」
「何よ、二人してアホな顔して。年増のおネエがそんな顔したら、余計年取るわよ」
「……説明は後で聞くわ。あたし着替えてくる」
そう言ってガリは手を振って二階に上がっていったわ。
ケリーも食事の用意に集中しだしたから、私もお風呂を頂くことにしたの。
そして、その日の夕食時にしっかりと説明したわよ。
二人して私の事「馬鹿じゃないの?」って言っていたけれど、私だってしたくてしたんじゃないのよ。あれは事故であって偶然起きたことなんだから、無事に帰ってきたことを労っても良いと思うのよね。ぷんぷん。
でもほんと、無事に帰って来れて良かった。
魔力の使い過ぎもあって、その日は我先に寝かせてもらったわ。
LP消費してまでの作業はなるべく回避の方向で動かないと体がもたなそうね……。
翌日
朝はゆっくり目に起きたわ。
LPを消費した日の朝って気怠いのよねぇ。低血圧とかそういうわけじゃないんだけれど、全身の動きが悪くなる感じ。これって体の中の魔力の流れと関係しているのかしら。ハッキリとしたことは分からないけれど、この世界に来て分かる変化の一つね。
ケリーは私の事を気遣って朝食を冷蔵庫に控えてあったわ。
私はまずはお風呂に入ってゆっくりと眠気を覚ましたわ。
聖水のお風呂はLPを消費している状況だと全身に痺れるような感覚があるわね。やっぱり体が消耗している場合は強めの反応が有るみたいね。まるで電気風呂に浸かっている様な気分だけれど、これはこれだと思えば有りね。
風呂を上がって着替えて出てきたらテーブルの上に朝食を用意してくれていたわ。
「まぁ、ありがとう」
「今日はホーホーの卵で作った卵焼きがあるよ~。玉子料理があると違うわよね~」
へぇ。卵? まぁ、鳥みたいな魔物が三種類くらい飛んでいるのは知っていたから、有って不思議じゃないけれど、巣穴をその為に探してきたって事でしょう? ケリーも頑張るわねぇ。
スープも温めなおされていて暖かい。
ゆっくりと食事をとりながらケリーの動きを見ていたわ。
キッチンに立つ彼は色々と食材を加工しているみたいだけれど、その際に魔法を使っていたのよ。
「ケリー、貴方魔法で作っていたの?」
「うん。魔法覚えてからは魔法を結構使ってるよ~。ちょっと加熱したり、冷ましたりといった感じの作業を時短出来るから便利なの。魔力も殆ど使わないし。魔法を覚えたら便利過ぎて文明が発展しないってお話が嘘じゃないってのは実感したよ~」
あぁ、そういう話あるわよね。
私がよく暇つぶしに読んでいた異世界転生ネタの小説で、中世以上に文明が発展しない理由が魔法の便利さ故って奴。でも、魔法を使えない人はずっと不便なままだとしたら、そうした人々は努力をしようとしないのかしらと思うのよね。ただ、研究開発力を持つのは裕福な層だから、そういう人がパトロンに付かないと開発が進まないって現実もあるけれど、それでも江戸時代の庶民は各自で努力して色々な地場産品の開発をしたとも言うし、どっちが本当なのかしらねぇ。
その日はゆっくりと家で作業したわ。
ケリーは私が居るからと、私に夕食の準備をお願いしてきたから引き受けたわ。そして彼は自分の修行のために出掛けて行ったの。また例の戦隊もの怪人と戦闘していそうな場所で修行するのかしら。
私は私で色々と作業したわ。
下着づくりや薬づくり、器づくりやパトラッシュの持ってきた獲物の解体。便利小物として爪楊枝や綿棒を作ってみたり、爪が伸びてきたから爪切りを作って切ってみたり。あと、缶詰も作ってみたわ。料理をそのまま缶詰に詰めておけば便利かなと思って。勿論缶切りも作ったし。……こんな小物だけど、こういうものが有るか無いかで異世界生活の感覚がずっと違うのよ。やっぱり私達って現代人よねぇ。
LPが完全回復するまでの間はこんな日常を繰り返したの。
封印の洞窟を目指すには万全の状態で挑みたいし。
そうして二日ほど過ごしたわ。
雪崩を何とか空魔法の発動で防いだキョーコ。
新しい魔法を活用して川の流れを取り戻しました。
帰宅後はLPの消費による消耗でさっさと眠りました。
後日は回復に努めます。




