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021 コスプレ

 翌日、私が起きた時にはみんな起きていたようで、部屋には誰もいなかったわ。

 部屋を出ると良い天気で心地よい風が吹いていたの。

 私はそこで欠伸をしながら背伸びをして、しばしぼーっと突っ立っていた。



「やっぱ、日の光って良いわね……」



 そんなことをつぶやいた後、縄梯子から下に降りて行ったわ。

 下に降りるとケリーが食事の用意をしていたの。



「あ、キョーコちゃんおはよう!体の具合は大丈夫~?」



 にこにこと声を掛けてきた彼に降りながら「大丈夫よ~」って返した私。

 木の株のテーブルにはガリが既に座って待っていたわ。



「あら、ガリおはよう」

「おはよう。まだ寝ていても良かったのよ?」



 昨日血まみれで帰ってきただけに、二人とも私の事を心配してくれている様ね。

 幸い、傷薬で治せる怪我だったから、帰る前に粗方治してきたんだけれど、服ばかりはねぇ。

 私は気遣いに感謝しつついつもの返しをしたわ。


 

「もう、これ以上寝ていたら牛になるわよ」

「あら、中年太りとは大変ね」

「むぅ、キショガリには言われたくありません」

「な!? ……筋トレくらいしなさいよね」

「あーはいはい。ご忠告有難うございま~す」



 罵り合いながらも普通に椅子に座る私。

 彼もそんなに根に持っているわけでもないのよね。

 私の思いを汲み取ってくれたからこそ返しだと思うの。

 そう思ったらなんだか妙に顔が綻んじゃうわ。フフ。

 なんだかんだ言っても、私達の間柄って変わらないわね。


 私が席に着いた頃、ケリーが料理を並べ終えて座ったわ。

 今日の料理は兎肉の燻製と豚とハーブのスープよ。

 綺麗にスライスされた燻製肉はハムの様でとっても食べやすくて塩加減もばっちり。

 豚とハーブのスープも豚の臭みをハーブで良い感じに消していて心地良い塩加減。


 はぁ、この世界に来て一番の救いは食事かしら。

 ケリーの工夫っぷりには頭が下がる思いね。


 私達が一頻り食事を楽しみ終えた頃、パトラッシュも加えて昨日の話になったわ。


 私がポンポン狩りに出て帰る頃、こっちでも襲撃が有ったそうで、ガリとケリーが沢山のダークウルフを狩ったことを話してくれたの。ダークウルフが何故あんなに襲撃してきたのかは分からないけれども、パトラッシュはこちらに沢山集まるウルフの気配を察知して駆けつけたらしい。



「あら、飼い主の私のところよりこっちに来たっていうのぉ~。失礼しちゃうわぁ」

「あー、そう感じちゃうのは無理もないと思うよ~。でもね、パトラッシュちゃんは最初キョーコちゃんは安全だと思っていたから来たみたいなのよ。で、狩り終わって気配を探ってから焦っていた感じかしら。だから、パトラッシュちゃん的には大丈夫と思って来たんじゃないかと思うのよ~」



 ケリーのパトラッシュへの弁護の弁を聞いて、確かに私が安全な場所にいると考えていたなら、そういう行動をとったとしても不思議ではないかもしれない。でも、何をもって私が安全であると判断したのかしら。こればかりはパトラッシュに聞かないことには分からないわね。



「ねぇ、パトラッシュ、どうして私が安全だと思ったの?」

「……主の居た辺りは以前から魔物の数が少ない場所だった。あの場所と比較するとこちらに向かっている気配の方が深刻だったのだ。だが、結果を見れば主を危険に晒してしまった」

「良いのよ。無事に帰って来れたから。でも、そうなの。経験的に知っていた場所なのね。とすると、例外が起こっているってことになるわよね。私達を警戒して魔物が襲撃したってことになるのかしら」



 例外的な状況が起きたということは、そう考えるのが自然よね。

 ただ、ダークウルフには意思があるのかしら。

 パトラッシュを例にするなら有ると考えるべきだけど、その思いを共有して行動するものなのかしら。



「ねぇ、パトラッシュ。あなたは元々ダークウルフだったじゃない? 前は他の子とよく交流していたのかしら?」

「……我は独りを好む。だが、群れるものもいる。群れるものには意思が薄い。単独で行動するものは意思が強い。そうした違いはある」



 一匹狼型は意思を持っていて、群れ型は意思を持たない?

 どういうことかしら。

 今回の襲撃してきた方を群れ型と仮定すると、群れ型の意思を決めるものは何かしら。



「それって、群れ型にはボスみたいなものがいるのかしら?」

「群れにボスはいない。だが、強く意識に働きかける力を感じて動く。我はその力を好かぬ。故に反抗した。それが我という個体を作った」



 なるほど。何か別のバイアスが掛かるみたいな感じなのね。

 それは野生の意思みたいなものなのかはわからないけれど、パトラッシュはある種自我に目覚めたタイプってことになるわけね。



「わかったわ。有難うパトラッシュ」

「役に立てずすまない」

「いいえ。あなたは十分に役に立っているわ。これからもよろしくね」



 私はパトラッシュの頭を優しく撫ぜてあげたわ。

 彼は目を瞑って気持ち良さそうに受け入れていたの。



「まぁ、でも、パトラッシュちゃんが来なくても、ガリ一人でも十分対応出来たっぽいから余計なお節介だったのかなぁって思ったりもするよ~。ね?」

「そうね。あんたの作ってくれた剣のお陰で遠隔攻撃が出来るから、割と楽勝で倒せたわ」

「はぁ!? ちょっと、一応は助けてもらったんだから感謝するのが礼儀ってもんでしょう!」

「うん。感謝はしているよ~。有難うね!パトラッシュちゃん!」



 白々しく笑顔で感謝を告げるケリーだけど、先にあんなこと言っていちゃ意味ないでしょうよ!

 全く、唐突に毒を吐くのはお姉の悪い所よね。



「ったく、じゃぁ、何? あたし一人が苦労する羽目になったってわけ?」



 ごめんなさい。パトラッシュ。

 ケリーに言ってすぐの爆弾投下よね。

 パトラッシュを横目に見たら……伏せて耳を垂らしているの。

 あら、可愛い。



「ねぇ、あんたは一体どんな状況だったのよ~。血まみれで帰って早々、スウェット作って飯食べてさっさと寝ちゃったでしょう? あんたのところは何も出なかったわけじゃないんでしょ?」

「そりゃ出たわよー。なんだかんだとカウントしたらたぶん黒いワンちゃんが20匹以上かしら。倒しても倒しても何匹も私を囲むのよ? 有名人の囲みでもこんな恐怖は味わえないでしょうよ~」

「……いやそれ、有名人がテロリストに囲まれるシチュでしょ。そんなのなかなか無いから」



 ガリが呆れ顔で話していたけど、ケリーが私に真面目な顔して尋ねて来たわ。



「ねぇねぇ、キョーコちゃんどうやって20匹ものダークウルフを倒せたの? ガリも剣が有ったから良いものの、そうじゃなかったら大変だったと思うよ~?」

「あー、それはね、魔法を覚えたからよ」


「「魔法!?」」



 二人は声を揃えて驚いたわ。

 その反応を見て気を良くした私は得意顔で話したの。



「そうよ!魔法。……私ね、ずっと錬金術を使っていて気になってはいたのよ。あんた達より肉体的には動いてないのに疲労感が酷くて寝入りが良かったり、何もない空間から物を作るときに大量のМPが必要だったり、そうした色々な出来事を深く考えて、試しに何もない空間に氷を作り出すことを考えたの。そうしたら、上手く行ったのよねぇ」



 私は二人に昨日の出来事を詳しく話したわ

 魔法の原理や魔法の使い方についての私の考えと、実際のデモンストレーションとして、ライターの魔法を見せたの。流石に話だけでは半信半疑だった二人も、実物としての炎を前にしては頷かざるを得ないって感じね。


 で、今度は二人が魔法を使えるかどうかの話になったの。


 ガリは剣で遠方を攻撃する際にMPを消費していたらしいの。

 殆ど自然に何の感覚もなく消費していたからよくわからなかったということだけど、消費していることを認識していることが大事だと話したわ。そして、ケリーの方は、タロットカードを利用した時に自分の中から何かが抜ける感覚があったと話したから、それが魔力だと教えてあげたの。


 二人には試しに私が作ったライターの魔法を練習してみることを勧めたわ。


 まずは、自分の中の力を一転に集めるイメージで出したいものを思い浮かべる様に話したの。

 ガリはそもそもの魔力に対する認識がまだ無いから苦戦していたけど、ケリーは魔力を認識していたからあっさりと親指の先に火を出すことが出来たわ。それを見て負けず嫌いのガリは、一心に集中した末にようやく親指の先に火を灯すことができたの。

 二人にはその瞬間に魔法と集中と火属性のスキルが備わったそうよ。


 

「しかし、あんたもよくこんなものを見つけたわね。……いや、こういう世界だから有ってもおかしくはないとは思っていたけど、そもそも魔力なんてものを感じないじゃない?」



 ガリの言葉は本当にその通りなのよね。

 普通に何も疑問に思わずに錬金術のスキルを使っていたとしたら、この原理に気が付かなかったと思うの。たぶん、ひたすらに幼少期の美少女変身モノの変身ステッキをブンブン振っている様な感じかしら?


 ……え? 実体験じゃないかって?

 そんなこと有るわけないじゃないのよ。

 ……私の姉がやっていたのを見ていたけれど。

 ごめんなさい。私もこっそり真似しました。

 兎に角、有るものを「それだけ」と思って受け入れていたら、何の発見にも至らなかったわね。


 ケリーは火を灯した後は凄かったのよ。

 親指の先の炎を風の力で火炎放射器の様にしたり、複数のボール状にして打ち出したり、魔法の扱い方をすぐに飲み込んじゃったみたいなのよね。楽しそうに使いだしたから、この子の器用さにちょっと嫉妬しちゃったわ。


 さて、これでみんな魔法が使えるようになったわけだけど、ダークウルフへの対抗策としては魔法の存在は大きいと思うわ。現に私が生還できたのも魔法のお陰だもの。ただ、これらの魔法はまだ全く洗練されていないんじゃないかしら。

 この世界にはスキルという名の力が存在していて、この技術はたぶん誰でも取得できるものなんじゃないかと思うの。この先、この世界の人間と出会うことが有った場合に、対人戦……という事態も想定できるんじゃないかしら。


 ……あんまり考えたくはないけれどね。


 いずれはこの場所を動くにしても、万全の体制を目指してから向かうことを考えたい。

 私はどちらかといえば、ゲームは縛りプレイより万全の態勢で臨むのが好きなのよ。

 やっぱり慌てて対応するのって辛いでしょう?

 とはいえ、何処までそれが可能かなんて、この世界の事を全く知らない現状ではどうしようもないんだけれど。


 魔法の習得が終わってからは、各自で今後は魔法を練習することにして、今日の予定を話し合ったの。


 ガリは一階部分にも屋根を付ける作業に入ると言っていたわ。

 昨日は材木集めに歩いていたそうで、家の裏手に必要な材木を集めていたそうなの。

 なんでも、向こうの山の麓に雪崩か何かで押し流されて倒されていた樹木が沢山あったそうで、良い感じに乾燥して使いやすそうだったから持ってきたというんだけど、話の後で確認したらとんでもなく立派な木がいっぱい。

 ……よく一人でこんな大木を持ってこれるものだわ。


 ケリーは食材も集まったから、今後のことを考えて保存食作りをするそうよ。

 燻製だとか干物だとかといった感じのものかしら。調理関係は流石調理師免許持ちのプロよねぇ。任せて安心の仕事っぷりだわ。


 私はというと、ポンポンを沢山もってきたことだし、衣類や毛布とか必要なものを作ることにしたの。いつまでいるのかわからないけれど、着替えも無く暮らすのは辛いと思うのよね。特に私の服は昨夜の襲撃で血まみれ。まぁ、黒だから目立たないけれど、気分的には気乗りしないでしょう?

 とりあえずはうさちゃんや豚さんにワンちゃんの毛皮もあるから、ちょっとデザインも工夫してみようと思うのよ。



 午前中は家の一階で作業していたわ。

 ちなみにガリには大工道具を作って渡したのよ。

 いい加減包丁や剣で作業は申し訳ないから。

 金槌とか釘とか有ると便利でしょう?

 釘はステンレス製の釘にしたから錆に強かったりと普通の釘より高機能にしたわ。

 鋸は包丁の方が切れ味良いということから、使いやすいナイフやノミの様なものを用意したの。それらを使って私の頭上で屋根を葺いている感じ。

 ……結構うるさいわね。


 私はケリーが調理をしているのを見ながら、テーブルの上でポンポンや染色に使えるお花とかを用意して、早速服作りを始めたの。

 この世界がどんな服装をしているのか分からないけれど、中世ヨーロッパ風の民族衣装っぽいものを作ればそれらしいかしらと、試しに黒いパンツと、だっぷりとしたグレイの上着に腰辺りを縛るベルトを用意したわ。上着の裾と袖と襟に緑と白の三角模様を付けてあるの。黒パンツの裾にも刺繍で緑と白の格子模様を入れて、サイドに赤い糸でステッチを入れたわ。中のシャツはモスグリーンの丸首Tシャツにしてみたの。



「ねぇ、どうかしら?」

「随分黒っぽいけれど、模様が民族っぽいから良いのかなぁ。腰ベルトにナイフとか小剣を携帯する鞘を付けたら良いかもね」

「ケリー、それ採用!この服は私が着るわ。ケリーはどんなのが良いかしら?」

「私? そうねぇ、私はVネックのカーキの長袖シャツに兎のファーフード付き深緑のチュニックに、ぴっちりめの黒タイツとスキニーっぽいカーキのパンツと革のハンティングブーツでお願い」

「こ、細かいわね。でも、確かに良い感じに中世の冒険者っぽいかも」



 ケリーの要望に応えて作り始めた私。

 一つ一つ材料を用意してイメージを固めて錬金術を施す。

 この技術は基本的に魔法だから、イメージが具体的であればあるほどカッチリと細部まで組み上がる。そのため丁寧に思考して組んでいくことが重要なの。細かい細工が必要な場合は細かくイメージを想像していく手続きが要る分時間が掛かるのよね。

 作り始めて2時間ほどかけてようやく完成よ。

 自分の服はその半分で作り上げたことを考えると、随分と時間が掛かったものね。



「完成よ!」



 私がテーブルの上に並べた服を見たケリーは、目を輝かせて眺めていたわ。



「すごいすごーい!まんまファンタジーだよ~!やばいよ~」

「まぁ、コスプレにしては本格的ね~」



 上から声が発せられたので見て見れば、ガリが作業の手をやめて上の梁の上でしゃがんで見降ろしていたわ。



「あんたはどんな服装が良いのかしら~?」

「あたし? そうねぇ、ぴっちりめのスポーツウェアの上下に、五分袖のチュニックと綿パンにブーツかしら。出来ればレザーのプロテクターっぽいのも欲しいかも。イメージは剣士っぽい奴」

「あら、随分と男らしい服装をするのねぇ」

「折角コスプレ出来るんだから、本格的な方が良いでしょう?」

「……まぁ、そうだけれど。分かったわ。頑張ってみるわよ」



 私はその後2時間程でガリの服も作ったわ。

 ガリの服は黒のスポーツウェアっぽい伸縮性のある下着に、ベージュのチュニックとパンツ、辛子色に塗装した兎と狼の革で作った肩から二の腕までカバーするプロテクター。ブーツもプロテクターと同じ辛子色よ。

 出来上がった服を見たガリは目を輝かせていたわ。……やっぱりこういうの素で着るのは憚られるとはいえ、こういう世界に来たと思えば着たくなるものよね。

 その気持ち、わかるわ~。



 私達はケリーの作った昼食を食べた後、早速着てみたの。



「……二人の服装と比べると、私の服装って地味ね」



 なんというか、ケリーはちょっと裕福そうだし、ガリはご丁寧にブロンドズラを取って刈り上げた短髪だから結構格好良いのよね。なんか悔しい。

 二人も私の格好を見て生暖かい目でいるあたり、同じ様に感じているんだと思うのよ。ぬぬぬ。


 とりあえず、着替えてからはそれぞれの作業に戻ったわ。

 ケリーはどんどん燻製を作ってるし、ガリの屋根作りは終わりが見えてきているわね。

 私はというと、二人の寝間着として私も使ってるスウェットを用意したわ。

 その後は毛布を作ったり、シーツを作ったり、椅子のクッションを用意したりね。


 パトラッシュに首輪も作ってあげたの。

 うさちゃんの革を使ってるんだけど、この兎革って鑑定さんによると状態異常防御効果があるらしいの。特にアルミレージが使う睡眠魔法に強い耐性があるそうよ。

 そんなわけで、私も兎革で作ったネックレスをしてみることにしたの。二人の服には兎革使っていたから良いけど、私のには無かったからね。


 屋根を葺き終えたガリは、私に金具類の注文をしてきたから、その対応をしていたわ。

 蝶番とかL字の金具だとか色々。


 その後は、パトラッシュと一緒にまた素材を集めに出かけたわ。

昨夜の出来事を話し合った三人と一匹。

キョーコの話から魔法を知った二人。

そしてコスプレ会をした三人。

首輪を貰ってご満悦の一匹なのでした。

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