020 ワンコラッシュ
「ぜーはーぜーはーぜーはーぜーはー」
私は息が上がっていた。
ダークウルフが来るわ来るわで、もう10頭くらい倒したかしら。
スキルレベルが上がりました。
上魔法 Lv,3 → 4
水魔法 Lv,6 → 7
土魔法 Lv,5 → 6
いつの間にやら魔法のスキルがカンストして上魔法に変わっていたわ。
カンストしてから発動までのスピードは段違いで上がったわね。
それにしても、なんなのこのワンコラッシュは!?
走って逃げながら近付いてくる奴は魔法で先制攻撃して、当たらなかった奴は至近距離から魔法で打ち抜くの繰り返し。この繰り返しだけど、意外に安定しているのよ。しかも、倒せば倒すほどレベルが上がり続けて、現在16まで上がったわ。
ここまで上がってくると、こちらも余裕が出るかというとそんなことは全くなくて、体力だけがどんどこ削られている様な状況よ。
でも、鑑定さんも6まで上がって、私にも地名が表示される様になったわ。……地名が表示されたとはいえ、だから何状態なのには変わりないのだけれどね。だって、ここがラズウルド山脈という場所である以外はサッパリなんだもの。そんなん聞いて知ってるわよってツッコミを思わず入れたわよ。
あ、でも、あの例の洞窟については「封印の洞窟」って出ていたのよね。
何が封じられているのかしら。ちょっと気になるわね。
そんなこんなで私の足で走って逃げられるかどうかってことなんだけど、そんなん言わなくっても分かるわよね。
「グルルルルル」
そう、こんな声をしたワンちゃん達が現在5頭程周りに侍っておりますのよ?
どう、優雅だと思わない? 勿論、みんな私の事を狙っているのよ? モテモテでしょう?
羨ましい? え、羨ましくない? そんなんどうでもいいわ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
なんであの子達はこちらに来ないかって?
それはね、あ、一頭痺れを切らしてこちらに近づいて来るわ。
「グルルルルル!? ギャイン!!!」
掛かった。
私の周囲に来れば、トラップ発動よ!
私がただ逃げているだけのそんじょそこらのお姉だと思ったら大間違いなんだから!
走りながらも魔法をどう扱えば効果的かを考え続け、様々な使い方を編み出したわ。
「その一つがこの土の逆ツララよ!」
一定距離に近づいたら発動する条件付き魔法で、発動するとスパイク状に鋭く隆起して貫く。……これも最初出来たばかりの時は撒きびし程度の効果しかなかったんだけど、使っていくうちに慣れたおかげで驚きの鋭さよ!
ワンちゃん達もどんどん強化されていくにしたがって警戒するようになって、それで周りに侍っているってわけなのよ。でも、相手からやってこないとどうしようもない辺りは決め手に欠けるのよね。とはいえ、相手に突貫出来るほど私にも余裕が無い。
なんせ同時に5頭を警戒して行動とか聖徳太子様でも無理でしょうよ。
あ、一頭葬ったから4頭だったわね。
徐々にだけど歩く。
それしか道が無い。
んむー、腹が減ったし、暗いし、怖いし、ワンちゃんの目がたまに緑に光るし。
それにしても何の因果でこんなところに私いるのかしら。
そもそも三十路も過ぎたおネエが三人で異世界とか誰得なのよって思うでしょう?
だけど、現実にこんな危機的な状況に私一人で放り出されて戦って、ワンちゃんと死闘を繰り広げているのよ。
あ、また来た。
今度は私の正面の子と背後の子が同時にジャンプして向かってきたわ。
でも、私がお空を疎かにしているだなんて誰が言ったかしら。
「ギャ!」
「キャイン!!」
正面のワンちゃんはツララミサイルで串刺し!
背後のワンちゃんは自動隆起ヌリカベに衝突よ!
学習しないワンちゃん達はヌリカベ先生に頭をぶつけてキャンキャン言って倒れちゃうわけ。
ヌリカベ先生あざーっす!……とはいえ、正面は兎も角、背後の子は脳震盪起こしているだけだから、すぐに起きちゃうわ。
ヌリカベ先生も土魔法レベルの上昇に従って強化されていることは間違いないのよ?
最初はただの土の先生だったのが、育った先生ったら中に金属を含んでいるのよ?
まるで雪合戦の雪玉の中に石を入れる所業よね。鬼畜だわー。
そうとも知らずに全力でぶつかって来るワンちゃん達は、先生の鋼鉄の壁に強かに頭を打って脳震盪というわけ。
あと三匹だけど、どうしたものかしら。
あ、スプラッターなシーンについては、もはや騒いでられないくらいにどうでもいいのよ。
生死を賭けていると思ったら、そんなことに拘ってられないもの。
お姉の肝っ玉を舐めないでちょうだい!
でも、本気で迫られたら私も考えちゃうかもしれないけれど。
え、要らない? ごめんなさい。
さて、キョーコさん。
あと三匹のワンちゃんでとりあえず周辺のワンちゃん達は打ち止めっぽいわよ。
このワンちゃん達は先の子達の末路を知っているからちょっと慎重さんなの。
慎重さは大事なことだけど、お姉さんはもっと大胆な子の方が好きかしら。
でも、諦めずねっとりとした固執っぷりってのも捨てがたいのよね。
って何の話をしているのかしら私ったら。ウフフ。
そんな馬鹿なことを思っていたら、三匹で一斉に掛かってきた!?
ツララミサイル一斉発動!
左側面の一匹は引っかかってくれたけど、背後の脳震盪起こした子と正面のはすり抜けた!?
ヌリカベ発動!……も、これも捻って避けて着地してこちらに飛びかかる!
ならもっとヌリカベってやるわよ!
私は隙間なくヌリカベで周囲を囲ったわ。
ドンっていう音と共に跳ね返されたのが分かったけど、これじゃこちらも何もできない!
って、思ってたら上から来た!マジ!?
私はとっさにスピンアイスを放ったわ。
その勢いでワンちゃんはもろに突き刺さって上方へ飛ばされていく。
でも、その隙にもう一匹がやってきた。
とっさにショートソードを上に向けて構えると、そのままワンちゃんの口からぐっさりと刺さってきた。
ひゃだ、キモイ!っていうか、重いし、血とか色々とぶっかかるわで酷い!
ぐらついているところに更に上からもう一匹が来た!
刺さってる剣を持ったままじゃ対応できない!?
ヌリカベ邪魔!ヌリカベ解除!!!
私の意思が伝わったのか周囲を囲うヌリカベが解除されたけれど、状況は変わらない。
とっさに剣を放り投げて構えようとした瞬間、一歩間に合わず大口を開けてワンコが迫る。
恐怖が込み上げて避けるように捻るけど、右腕にワンコの上あごの犬歯が刺さりながら落ちていく。
痛い!やばい!チョー痛い!
よろけつつも蹴り上げると、わんこはキャインとか言って背後に飛びのく。
でも、すぐさまこちらに向かって飛び掛かってくる。
「ヌリカ……え?」
その時、私の目前を白いものが通り過ぎた。……と思ったら、飛びかかって来る筈のワンコも消えた。
通り過ぎた方を見てみると、そこには銀色の毛皮のワンコが。
「間に合った。すまない主」
「……全然間に合ってないわよ!!! ……でも、有難う。パトラッシュ」
私はその場にへたり込んでしまったわ。
正しくは腰が抜けたというのかしら。
そして、また来た。
スキルレベルが上がりました。
上魔法 Lv,4 → 5
水魔法 Lv,7 → 8
土魔法 Lv,6 → 7
その帰り道、私は何も話す気力が無かったわ。
ただパトラッシュの背に乗ってしがみ付いていた。
荷物を持つ気力も無かったから、パトラッシュが背負えるように加工して背負わせて、私は寝そべる様にしがみ付く感じ。……実際、それくらいしか出来ないくらいに消耗していたと思う。
家に戻ったら二人が走って出迎えてくれたわ。
私はなんとか笑顔でほほ笑んでただいまを言ったけど、そのままパトラッシュの背に乗ったまま家に行ったわ。そして、家に着いてからは血だらけのコートを脱いで手を洗って、糸ボールでスウェットを作ってから、お風呂に入ってスッキリしたの。
その後はケリーが用意してくれた食事をとって早めに寝かせてもらうことにしたわ。
詳しい話とかは明日っていうことにして。
何とか助かったキョーコさん。
緊張の連続と大幅な消耗でぐったりです。
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