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019 その頃

「キョーコちゃん遅いよ~」



 私はケリー。

 キョーコちゃんとガリと一緒に異世界に飛ばされてきちゃったんだけど、現状はそんなに不自由しないで暮らしていけているの。


 住めば都というのかしら?


 ガリのお陰で家も出来たし、食料も幸いにして沢山お肉も確保できているし、植物も色々と採集出来ているから大丈夫かな。

 現実の世界……っていうのが良いのか分からないけれども、そこから全く違う場所に来て戻りたくないのかって問われたら、私はこう答えると思うよ~。


 私のいた世界が私を受け入れてくれたかしらって。


 ゲイって現実を持つ私の様な存在が一時でも世間から消えたとして、元通りの生活が戻って来るって考える方が難しいと思うの。ただでさえ不安定な時代で普通に生きるのも大変だったでしょうに、私みたいな何の背景も無く生きる存在は、より難しいのが現実かな。

 勿論、それを選んだのはお前だと言われれば、その通りに否定しないわ。選ぶ自由は有ったじゃないか。そして、その結果は自己責任だろうと。そうして世間から切り離され、ともすればピエロの様な扱いが待っていて普通というものは遠い日常だった。少なくとも、何の疑問もなく普通に生きられたなら無用な苦労ね。

 私はそういう世界に生きるために、この世界で言うスキル同様に資格や技術を学ぶことを大事にしてきたから、仮に全てを失ったとしても、新しい場所でやっていくことは出来ると思う。でも、それが必ずしも私達のいた現代である必要は無いってくらいには、拘りは無いよ。だって、この世界が理不尽だったとしても、それは何処にいても起こり得る事だから。

 親や家族はどうするのかって言われても、そもそも家族すらいなかった私にそんなものを気にする様な余地は無かった。物心つく頃には施設で育てられて、容姿故に貰われた先には実子が生まれ、私の存在はあの家にも無かったもの。そして、既にアラフォーの身よ。あの場から離れて十年以上過ぎて、これまで何の連絡もなかった。とっくに忘れられているわ。

 

 私からしたら、二人の方がよっぽど私との付き合いが長いと思う。

 二人が私の居場所をくれて、私の存在を確固としたものとして受け入れてくれている。お馬鹿な話ができる二人がいるから私も頑張れるって思うの。だから、二人の向かう先がどちらであろうと、私は構わないわ。

 きっと、二人がいない世界の方がずっとつまらないと思うから。



「ほんとに遅いわねー。何処ほっつき歩いているのかしら。まぁ、パトラッシュも一緒だから大丈夫だろうけれど」

「うん、そうだと良いけど不安だよ~」



 私はキョーコちゃんに何かが起こったらどうしようと不安だったの。

 だって、なんだかんだと長い間私みたいなのと付き合ってくれてるのは、キョーコちゃんとガリくらいなものだもの。


 この世界の男っていうのはそんなに長く続かないものなの。でも、二人とは不思議とそういう関係になることもなく長々と続いているのよ。別に二人に魅力が無いとかって話じゃないんだよ? ……私から見たキョーコちゃんもガリも、普通に見たら年齢的に考えても高レベルの見た目だと思うの。なんせ、年齢より10歳は若いって言われている二人だもの。それに性格だって素敵な二人よ?

 だけど、私は二人の中にそういうものを持ち込んだらダメだなって思ってる。二人もきっとそんなことを思っているんじゃないかって、なんとなく思うのよ。


 食事の用意も出来ているのに帰ってこないのを不安げに待っているのは辛いわ。せめて何かすることがあったなら、それに没頭することで気を紛らわせたりも出来るんでしょうけど。


 そこで、私はふとあることに気付いたの。


 この世界に来てから一度も使っていないものが有ることに。

 普段なら私は毎日これを扱っているのに、どうして触れることが無かったのかしら。

 そう思ってバッグの中からそれを出したわ。



「あら、やっぱりそんなもの入ってたのね」

「うん、一応私の商売道具だもの」



 私は趣味でタロット占いを始めたのだけど、それが良く当たるということで評判になって、週に一度キョーコちゃんのいるお店で占いのお仕事を貰ったの。そんな私だからこの世界に来て付いたスキルの一つが占術なんだろーなって思っているんだけれど。


 まずはキョーコちゃんの現在の運勢を占ってみたわ。

 ヘキサグラムでやってみた結果を言うと、塔の正位置……不意打ちとか突発的な危険が起こる可能性を示している。


 現在の状況は魔術師の正位置だから、何か新しいことが起きているのかしら。

 周囲の状況は隠者の逆位置……割と冷静に判断していそうね。

 近い未来は愚者の逆位置だから……割とここでも安定した気持ちを示しているのかしら。

 対策は太陽の正位置だから……勝手に解決しそうね。



「結果はどうだったの?」

「うーん、何かが起こっているけど、自分で解決できそうっぽいよ~」

「何それ、つまり危険な目に遭っているってことじゃない」

「うん、そうだけど、試練を乗り越える的な意味合いもあると思うから、酷いことにはならないんじゃないかなと思うよ~」

「ふ~ん。んじゃ、あたし達の状況はどうなのよ」

「やってみるね~」



 もう一度ヘキサグラムをやってみたんだけど、またしても塔の正位置……私達にも何かあるのかも。

 現在が星の正位置、近未来が吊るされた男の正位置、周囲の状況は運命の輪の正位置、対策が節制の正位置、自身の気持ちが隠者の正位置……総合的に見ると困難があるけど、二人で冷静に解決出来るということかしら。うーん。



「で、どうなの」

「うーん……私達にも何かあるかも。自力で何とか出来るっぽいけど、お節介も入るっぽいんだよ~」

「お節介? 何それ」

「わかんないよ~」



 その時、私の鑑定に表示が出た。

 それは急速に私達の家に向かって迫っているの。



 魔物 「ダークウルフ」……LV,18

 HP849/974

 MP532/797



「ガリ、魔物が迫ってる。ダークウルフって奴。めっちゃ強いよ~!」

「えぇ、了解。行くわ!」



 そう言うや否や剣を抜いて外に出て行ったわ。


 大丈夫かしら。


 外は真っ暗なのに対して、たぶん、相手はこちら側の事を見えているはずだよ?

 むー、仕方ない。ガリの近くにいるっきゃないよ。幸い私はガリを鑑定で見ることが出来るから、ガリを見つけるのに困ることは無いのよ。すぐに追った私はダークウルフがまだ遠くから走って来る最中にあることは確認していたの。



「ガリ、あなたウルフの事を分かるの~?」

「あたし、鑑定LV5よ」

「あらー、いつのまに上げたのよ~」

「あたしがただ伐採しているだけだと思ってたの? あんた達が採集に出かけたのと同じように、あたしも木の種類を調べて回ったりしているの」



 うーん、まさか既にガリもレベル上げてあったとは思わなかったわ。

 このままガリに任せた方が行けそうな気もするけど、出てきちゃったしぃ。

 やるっきゃないよねぇ。

 うん。私頑張るよ~!


 でも、どうしたらいいかなぁ。


 そういえば、私って占術ってスキルはあるけれど、占術って何かに使えるのかなぁ。

 例えば某国民的RPG作品の占い師姉妹がタロットを使ってランダム攻撃ー!って感じでやってた記憶があるけど。



「まさかね……」



 私は徐にタロットを一枚引いた。

 それは「力」のカード。その途端、カードが光って緑色の光が私達に降り注いだの。

 同時に体の中から何かが流れ出たような感覚が起きて、胸がきゅーっとなったのよ。

 でも、その後何だか体が妙に軽くなった様に感じたんだよ?

 これって、やっぱり効果あるってことだよね?


 ガリがいきなり突進していったよ。


 何だろうと思ったら、丁度近づいてきたダークウルフと衝突したっぽいの。

 でも、消えたのはダークウルフの表示だけで、ガリの表示は出たまま。

 そうしたら周囲に一気にダークウルフの気配が増えたよ!?何!?

 さっきのダークウルフの後方からと周囲からも向かってくる反応が見える。


 ガリが先程のダークウルフが来た方から迫る表示に向かって素早く迫っていくのが見えたよ。

 表示と表示が衝突したと思った瞬間にダークウルフが消えていく。

 消したと思ったらすぐに次の表示に向かっていく。それが消えたらまた次。

 私にはどうすることも出来ないし、ガリが片付けてまっさらになった場所に移動して距離をとりながら、ガリの始末していく様を見ていたよ。


 そんな時、背後から近付いて来る音に気が付いたの。

 何かしらと振り向いたら、ダークウルフの表示が迫っているのが見えたんだよ。周囲の奴が来るのが早かった。あまりの勢いにへたり込むように座り込んじゃった私。どうしよう。攻撃オプションなんて私にはスタンガンくらいしかないよ。私はバッグからスタンガンを出して構える。

 


「グルルルルル!!!」



 囲まれた。

 ガリはいないし、こんな数を相手にするなんて無理だよ。でも、どうにか考えなきゃ。

 私は右手にスタンガンを構えつつ、先程ポケットの中に仕舞ったタロットを一枚引く。



「月の逆位置!?」



 その瞬間、私の中から一気に何かが抜けたかと思うとカードが白く光って、私の頭上に大きな月が現れたの。月は白く透き通っていてホログラムか何かを見ている様な印象だけど、幻想的で不思議な色合いの光を満たしていたわ。

 その光を浴びたダークウルフは突然後ずさり始めたの。後ずさっていく中の一匹が痙攣して倒れたわ。



「え!?」



 苦しんでいる? この光が苦手なのかしら。

 これはチャンスね。でも、次の一手が浮かばない。この光がある内になんとかガリが向こうの始末をつけてきてくれれば良いけど、そんなの待ってられるかなんてわからない。私は一か八かで倒れたダークウルフに駆け寄ってスタンガンを充てる。



 バチバチバチバチ!!!



 電気の力で痙攣したダークウルフは気を失ったっぽい。とりあえず一匹。

 そこに仲間をやられたことに腹を立てたダークウルフが私を挟むように二匹で仕掛けてきた。

 私は寸でのところで二匹を避けると一匹の頭にスタンガンを押し付ける。激しく閃光が走り、一匹は勢いを付けたまま気を失って倒れたけど、もう一匹が私の右腕を引っ掻いてった。



 痛い!!


 

 鋭い爪が突き刺さったかと思うと、熊手で引っ掻くみたいにがっちりと引っ掻かれた。私は思わず手を庇い姿勢を崩してしまう。そこに折り返してきたダークウルフが私の顔目掛けて口を開いて跳躍してくる。

 これはやられる!? 恐怖に目を閉じた。



「キャイン!!キャイキャイン!!!」



 突然ダークウルフの悲鳴が聞こえた。

 恐る恐る目を開けたら、そこにはパトラッシュちゃんの姿があったのよ。



「ぱ、パトラッシュちゃん!?」



 声のした方にはダークウルフの首根っこを齧って組み伏せるパトラッシュちゃんの姿があったわ。



「こちらによからぬ気配を複数感じたためやってきた」

「あ、……ありがとう」



 パトラッシュは私の礼を聞くまでもなく走り出し、再び現れたダークウルフを蹴散らしていく。

 それはガリと良い勝負だと思うよ。



 それから数分もしないうちにみんな倒されたわ。

 ガリとパトラッシュが私のもとにやってきたの。



「大丈夫だったようね。それにしても、随分な数ね」



 ガリの言う通り、倒されたダークエルフの遺体は全部で30を超えてたわ。

 これほどの数をガリとパトラッシュで捌いてくれたから私が助かったんだけど。

 もしいなかったらどうなっていたのかしら。

 そこで、ふと思いあたる。



「ねぇ、パトラッシュちゃん。キョーコちゃんは?」

「我が主は大丈夫……ではないかもしれない」

「え!?」



 パトラッシュの表情はよくわからないけれど、その声からは不安が感じ取れたわ。



「は、早く行って!キョーコちゃんのところに!」



 パトラッシュは頷いて駆け出していく。

 私達はそれを見送ったわ。



 大丈夫かな、キョーコちゃん。

ホームにも迫ったダークウルフ達。

ガリが相手をするにも全てを相手に取るのは無理でした。

ケリーの占術のスキルが発動しました。

心配して来てくれたは良いけど、ご主人様は大丈夫なのか不安です。

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