010 文明の利器
第10話「文明の利器」
家の方へ戻ったら、しっかりとアレが置かれていたわ。
場所は縄梯子のある木の裏手ね。ケリーが指示して置いてもらったようね。場所としては邪魔にならない場所だし、ケリーがガリに作って貰った棚とかの影に隠れるから丁度良い場所ね。そのうち柵でも作って仕切ればそれらしく見えるかしら。
ケリーがアレの前で呆れた様子で立っていたわ。
「お帰りキョーコちゃん。流石というか~、どうするのよ~」
「ただいま。良いでしょう? バスタブよ~? お風呂入りたいと思わない?」
「そりゃ、思うけど~、湯を沸かすの一苦労だと思うよ~」
う、確かに。
そのことはスッパリ私の中で抜けていたわ。鋭い!
私は忘れていたことは隠して取り繕ったわ。
「……ま、まぁ、そこはまた考えることにして、用意はしておいて損はないと思わない? ね、ね?」
「良いけど~、何処に置くのよ~」
「出来れば家の方に置きたいけど、持ち上げるのが大変よねぇ。仕方ないからこれは下になるでしょうね」
これを上げて木の上でお風呂とか洒落込みたい気持ちもあったけれど、ただでさえデカくて持ち運びが大変なものだから、まして上に持ち上げるなんて無理よね。水だって上に持って行かないといけないと思ったら、さすがに下一択だわ。
私がそんなことを思っていたら、ケリーが唐突にパンと手を打ち鳴らしたの。
「そうだ、一応囲炉裏は用意したんだよ~。家の方に先に囲炉裏は私が組んでみたの~」
とっても嬉しそうに話す彼をみて、出来具合に満足している様子が伺えるわね。
「まぁ、重たいのによく運んだわね~」
「あ、それは大丈夫よ~。ガリが全部運んでくれたから。なんかひょいひょいってジャンプして持ってっちゃうのよ。ほんと凄いのよ~」
ガリが運んだ? まぁ、彼の方が力は有るからケリーと比べればひょいひょいってもんかしら。
そんなに感心する程のもんかしらね~。まぁ、力が無い側からすれば確かに感心するかもだけど。
「あら凄い。あ、そうそう、それより水を何とかしないとね」
そう言って私は周辺の木くずに触れてコルク栓の様なものを作ってみたわ。
それをバスタブの底に予めイメージして作っておいた穴に嵌めて栓をしたあとで、板氷をケリーと一緒に切ってバスタブにぽいぽいっと入れたの。
全部入れ終えたところで氷に触れて水に戻すイメージでやったら、ちゃんと水に戻ったのよ。
「わぁ、戻ったよ~」
「やっぱりねぇ。錬金術のスキルアップの際に物質還元とか色々獲得したっぽいこと言われてたから、固められるんだもの、戻せるわよね~」
「でも、ここまで来ると便利なスキルね。錬金って」
「うんうん、チートなスキルだと思うけど、有ってよかった錬金術って感じよねぇ~」
「とりあえず、水の用意は出来たから、色々と始めちゃいましょう」
「あ、私はもう一つ作るものが有るから、パトラッシュに石を取ってきてもらっているところなの」
「何を用意するの~」
「文明の利器!冷蔵庫よ~」
「冷蔵庫!? 電気もないのに無理よ~」
「あら、昔の人は最初から電気が使えたわけじゃないでしょう?」
「それはそうよ~」
「だから、昔の人と同じものを考えれば良いのよ」
程なくしてパトラッシュが持ってきてくれた数個の堅そうな岩塊に手を触れて、しっかりとイメージする。それは瞬時に目前に成形されていったわ。上に氷を入れて下の棚で冷やす仕組みの氷室式冷蔵庫。全部石で造られているから、構造を簡単にするために上の氷室は扉ではなく上蓋式にしたわ。そこに土鍋の中のキンキンの氷を入れておくの。
下の層は4段に分かれていて、棚板はパンチングしたように穴の開いた板になっていて冷気が下に行くようになっているわ。
ふふん、この自信作。
どうよ!
「どう、ケリー。便利なものが出来たと思わない? これで兎肉もばっちり保存よ!」
「実際に見ると白い陶器の棚って感じだけど、凄いと思うよ~」
「でしょ? でしょ~? とりあえず、あんたそっち持って」
「うん、わかったわ」
「せーの!」
私は二人で冷蔵庫を持ち上げて近くの棚の横に置いたわ。
とりあえずは近場にあれば便利でしょうし。
その時、上からガリが下りてきたの。
見事にジャンプして着地よ。……ほんとにあの子、人外化激しいわ。
「何しているの? ん? 何それ」
「冷蔵庫よ」
「冷蔵庫? ふーん。それ、運べばいいのかしら?」
「え、ええ。出来れば」
「分かったわ。貸して」
そう言うとヒョイっと持ち上げて、サッとジャンプして持って行っちゃったの。
それはもう呆気にとられたわ。
ケリーは全く動じてなかったけど、初めて見た私からしたら流石にね。
その後は何だか何も言う気になれず、ケリーの兎の解体を手伝った後で、小屋の方の様子を見に上に上がったわ。縄梯子で上がってみると、もう完璧に家になってるのよ。綺麗に屋根も葺かれているし、壁板も張られているわ。窓にはガラスこそないけど、ちゃんと板戸が付いていて、それがスライド式に嵌められているの。
中は4畳半くらいの広さがあるから3人で寝るには十分なところに、ウッドデッキが3畳分くらいある広さだから、ゆったりとしているわ。なんだか某アイドルグループの開拓を思い出しちゃう様なシチュだけど、残念ながら私達北国のただのお姉。
……誰もこんな場所、見たいとは思わないわよね。
「ガリ、ご苦労様」
「まぁ、キョーコもお疲れね」
「それにしても、よく作れたわねぇ。一人で。感心するわ~」
「そんなのはアンタもでしょう。あんたの錬金で作ってくれた剣。あれは凄いわよ。素振っただけで遠くの木が切れるとか信じられる?」
「へ? どういうこと!?」
「どうもこうも言った通りよ。素振っただけで標的を切れちゃうの。まるで魔法よ。しかも、その切れ方がすんごく綺麗なのよ。まるでレーザーで切り取ったかと思うくらいブレが無いの。そのおかげというか、切った物も研磨不要なくらいにけば立たないのよ」
ほえーーー。そんなに凄いの? ……まぁ、あの子って木の枝でもそんなことやっていたから、剣の力というよりはあの子の才能みたいなものの可能性という線も。でも、レーザー並みって話は聞き捨てならない話ね。確かにレーザーで断ち切ったりしたなら寸分の狂いも毛羽立ちも無く出来上がりそうなイメージよね。それがあの剣の一振りで出来ちゃうとしたら、とっても便利よね~。
「それは凄いわね。それは剣で切ってもかしら?」
「そうねぇ。試しに切ったら、あまりにさっくり行くもんだから、切れすぎて力加減が難しいから細かい作業には向かなかったわ。そういう作業はアンタが最初に作った包丁が丁度良い感じね。アレも切れ味が良いんだけど、色々な意味で普通な感じで使いやすいのよ」
「そうだったの。剣については作った私も信じられないわ」
まさか実際に剣で断ち切っても同じように綺麗な切れ味だなんて、恐ろしい剣ね。
その後私は木から滑車を作って、枯草から縄を錬金して滑車式のエレベーターを用意してみたの。これで下からの物の持ち運びがガリ頼みにならずに済むでしょう?
ケリーも上に水を持って来られる様になったから、上の囲炉裏で調理作業をしていたわ。土鍋に解体した兎の肉と茸と香草っぽいものを入れていたわね。そうそう、どうもあの子の方が鑑定レベルが私より上に上がっている様子なのよね。それで、岩から岩塩のある層を見つけてパトラッシュに取りに行って貰ったのよ。
パトラッシュは山へ駆け登って行ったと思ったら、ガリっと岩肌を引っ掻いたの。そうしたら、バキンとか音がしてゴロゴロと岩塊が転がり落ちていくの見えたわ。抉れ方がやばかったわね。その中からちゃんと岩塩を持ち帰ってきたのは偉かったと褒めてあげたの。
もう、パトラッシュ優秀すぎよ。……でも、私は猫派だけど。
で、その岩塩を入れて煮込んでいるわけ。
味はあまり期待もしていないけれど、何も食べられないということにはならなくて良かったわ。下手したらこんなに一日中動き回って餌も無しという状況も考えられたんだもの。来たばかりの時点では、あまりにも唐突に変わりすぎて気が遠くなりそうな感もあったけれど、人間やれば何とかなるものね。
文明の利器、バスタブ。
お水を張ることは出来ました。
そして冷蔵庫も用意できました。
お鍋の仕上がりが楽しみですね。




