093 メイリンの散歩 前編
メイリン視点です。
私はメイリン。
今日はグレイズをお散歩しているの。
グレイズは西の帝国の玄関口の町で、洋の東西が交わる事からとっても古くから栄えていたんだって。古くはギルドの有る山の上がこの町の始まりで、それから船での航海貿易が始まった事で港が発達したそうなの。
もともと海の町だから漁をしたりといった事はしていたそうだけど、グレイズが帝国から半独立する切っ掛けがこの海路の発達だって言われているから、海運の始まりは大きかったのね。
海運で力を蓄えたグレイズは帝国とも張り合えるだけの戦力を保持しつつ、東の帝国への防波堤としての役割を担うことで西の帝国との関係を安定的に保っている。
そんなところに食い込んだのが私のお爺ちゃん。
若い頃は旅をして行商で稼いだと言っていたけれど、ただの行商だけじゃうちの商会なんて大きくなれなかったと思うの。……きっと何か秘密があるんでしょうね。
「お嬢さん、あまり無暗に出歩かれては……」
この口うるさいのはフェンよ。
いつも小言を言いながらも付いて来るの。
確かに居ないと困るけれど、いつもいられると自由に動けないじゃない?
お爺ちゃんが結構有名な人だから、私に護衛としてフェンやターレンが付けられているんだけど、本当に困っちゃうわ。
「大丈夫よ。こんな白昼堂々とお爺ちゃんに喧嘩を売る様な人、流石にこのグレイズ広しと言ってもいないわ」
「……そうかもしれませんが、万が一ということもありますから、あまり変な方向には向かわないでくださいね」
「わかりました」
私はプイッと顔を逸らして視界からフェンを外したわ。
そうしたら、メインストリートの東側に目新しいお店が出ていたの。
家主が変わったのか、私が過去に来た時とは雰囲気が違うお店がそこにあるわ。
確か、あそこはオームラのおじ様が生前よく行かれていたというお店よね。
料理屋は昼間はあまり人が混むことも無いものだけど、ここには人が来ている様ね。
どうしてかしら?
お店の前庭は石畳が綺麗に波紋を描いた様に円く敷かれていて、その上に四角いテーブルが幾つか置かれているのが見えるわ。前提を囲む柵は木製で斜め格子状に組まれていて、表面を白く塗装して綺麗に整えられているわ。そして、門には鉄で出来たアーチが作られているの。何これ? ちょっと変わってるけど素敵ね!
テーブル席に座って既に食べている人達を見てみると、あれは……何かしら? パンの様だけれど、ちょっと普通のパンとは様子が違うわね。
私は引き寄せられる様にふらりとお店に近付いたんだけれど、よく見たら戸口に並ぶ人の姿が見えるの。それも一人や二人じゃないのよ? 2~3人程の組で並んでいるのよ。この店ってそんなに人気があるのかしら? まぁ、オームラのおじ様が気に入っていたぐらいだから、普通に美味しいお店なんでしょうけれど。
年齢層は私より少し上の女の子やご婦人が多い気がするわ。
どうしようかしら。
入っても良いけど、待つのは大変よねぇ。
でも、飲み物もちょっと変わった香りをしているわね。
とてもいい香りだけれど、この辺で嗅いだことのある匂いではないわ。
あれは何なのかしら。
「お嬢さん。どうしたんです? このお店に入られるんですか?」
「え?あ……うーん、気になる……かな」
「では、入られてはどうです?」
フェンはキリッとした顔に笑みを浮かべてそう言うの。
何時も真面目に連れ戻そうとするはずのフェンが、どういうわけか私に入る様に勧めたわ。……フェンも匂いにつられたのね。それを私を出汁にして……と。
もう、仕方ないわねぇ。
「分かったわ。行きましょう」
「はい」
ここは特別に貴方の我儘を聞いてあげることにしようじゃないの。ふふん。
私は鼻歌交じりに店の入り口へ向かったわ。
玄関に近付くと、僅かに開くドアから料理の香ばしい香りが漂っていて、お腹を刺激して来るわ。香ばしく焼けた肉や魚の香りがするわね。それも決して獣臭いわけじゃなく、良い感じのハーブの匂いもあって、とっても美味しそうなの。
中まで人が並んでいるから、ここからじゃ中の様子は分からないわ。
「いらっしゃいませ。申し訳ありません。ただいま混みあっておりますので、順番にご案内致します。暫しお待ちください」
中から現れた方は白いシャツに胴巻きを付けて、とっても上等な布を綺麗に黒く染め上げたズボンを履いていて、そのズボンには綺麗に山折が走っているほど仕立てが良いの。そして、それを着ている方は長身で、金髪で宝石の様に青い瞳のお兄さんなのよ。
しかも、ただ背が高いだけじゃなく、程よく体も出来ているから、頼りがいがありそうなの。本当に容姿端麗で非の打ち所が無い感じ。……こんなに素敵な方がいらっしゃるだなんて、グレイズって凄い街よね。
彼は笑顔でそう話すと中に戻っちゃったわ。
もう少し見ていたかったのに。
その後私達が並んで待っていると、お店の中からトレーに料理を乗せて、今度はオレンジ色の髪をツンツンと立たせたお兄さんが出てきたわ。
この方も従業員の様ね。
背はそれほど高くないけれど、程よく鍛えられているのかシュッとした印象かな。見た目からは想像つかなそうだけど、結構力が強そうな人かも。身のこなしに隙が無い感じがするから、きっとライセンスを持っているのね。
その方が門前のテーブルのお客さんに料理と飲み物を置いていくわ。
接客としての身のこなしはそれ程洗練されていないけれど、彼の笑顔が可愛らしいというか……格好良いというか、母性本能みたいなものをくすぐると言うのかしら? とっても目が離せなくなりそうな。
その彼のトレーの中には、パンに何かを挟んだような変わった料理があるのが見えたの。野菜と肉がメインなのかな。香ばしい香りに何かのハーブの香りが使われているのかも。見た目の印象からするとさっぱりとした香りづけで気になるわ。
「どうぞ、こちらが特製ハーブティです。そして、こちらが魚のフライを挟んだフィッシュバーガーです」
バーガーって何かしら。
ハーブティは酸味と甘みを感じるちょっと変わった感じだけど、夏らしい良い香りがするわ。ただ、色が紫色をしているのはちょっと怪しいかしら。漂う香りが素晴らしいだけに、惜しいとおもう。
そして、お客さんに料理を出したら、彼は腰ベルトから下げた変わったバッグの中から横笛を取り出して吹き始めたの。
……あのバッグ、意外に便利そうね。何処の商品かしら。
それにしても綺麗な音色。
彼のちょっとワイルドな雰囲気とは違って、とっても優しい笛の音が心を和ませるの。暖かい日差し……というにはちょっと暑くなってきているけれど、そんな暑さも和らぐ様な涼し気な音色に、穏やかな曲が続くと思っていたら、唐突にお祭りの様にちょっと華やいだ曲に変わったわ。まぁ、二曲も吹いてくれるだなんて、素敵ね。
どちらも聴いたことのない曲だけれど、とっても素敵な音楽が掛かっているわ。
それにしても考えてるわねぇ。
待っているお客さんに向けて、こうしたサービスを展開して和んでもらおうっていうことね。これなら長い待ち時間だとしても、そう退屈せずに待っていられるわ。
それに女性客からすれば、容姿の良い若い店員に接客されるなら満足出来るかも。実際、座っているご婦人も喜んで微笑みを浮かべているのが見えたわ。
「お待たせしました。どうぞお入りください」
遂に私達の番が巡ってきたわ。
先程の金髪の彼が私達を甘いマスクで出迎えてくれたの。
私はウキウキしながら彼の後をついて行ったわ。
少ないですがこの辺で区切ります。
メイリン視点続きます。
9月8日に加筆修正していますので、最初のバージョンより内容が少し増えたり表現が変わっています。




