092 作戦会議
お店に戻って来たキョーコ達です。
クレアちゃん達のお店に戻ったら、既にライル達も帰ってきていたわ。
お店は開店休業状態になる程度には評判が落ちているから、本日はあえて休業にしてもらったわ。市場で買える物は限られていて、生鮮品の中でも野菜類は比較的値段が抑えられているから、野菜は市場で調達して、肉や魚といったタンパク質系の品物は手が出せない程なのでパス。香辛料も輸入品は宝石並みに高騰しているからパスよ。
香辛料の代わりにハーブ類を調合して代用し、肉や魚……特にグレイズの名物は魚介料理らしいから、そちらの方に力を入れるために自力で調達したというわけ。
一応ガレージに詰めた鮮魚とかは時が止まっているから腐らないので、刺身にして出すことも出来そうね。ただ、刺身文化が有るのかが不明なので、料理として出して売れるかどうかは別かしら。
ライル達は一階の四角い客用テーブル四つを寄せて繋いで一つの大きなテーブルの様にして採集してきたものを仕分けしていたわ。私は早速鑑定をしてみると、サンプルで渡したものはしっかり取ってきているわね。それにいくつか目新しい物も有るわ。
一応サンプルは渡していたけれど、それ以外にもちぎってみて香りの良いものや変わったものは試しに採集する様に言ってあったの。毒草かどうかは私が鑑定をすればハッキリするから、それでとりあえず仕分ければ済むでしょう?
新しい物の中には山椒の様な香りの草も有ったから、魚出汁に魚醤で蒲焼風に調理したら良い感じに使えるんじゃないかしら。
他にはお茶にして飲んだら美味しそうな香りの草も何種類かあったわ。ケリーの見つけたトロピカルティーな草も生えていたから、それと合わせてフレーバーティーで昼時にカフェっぽく売り出したらいけるかも。小麦粉系は主食だけに西側から多く入ってくるのでパスタやパンは作れるから、サンドウィッチやバーガーみたいな物を売り出せば良いんじゃないかしら。
「ライル君、お手柄ですよ。良い仕事するじゃないですか。普通に冒険者として独り立ち出来そうですね」
「これくらいは出来ないと、流石に俺もライセンス持ちとして格好がつかないですよ。それよりキョウさんはどうだったんです?」
「私ですか? こちらも結構大量です。息子二人が悪乗りして大量に捕獲してくれたので」
「へへ、悪乗りですか? どんな感じにです?」
「あぁ、そうだった。二人を外に待たせているんです。荷物が大量だからお手伝いを呼ぼうかと思って。みんな来てくれる?」
「分かりました」
みんなで頷いて私と外に出てくれたんだけど、外に出て来たみんなが固まってるわ。
……ここの人達ってこの反応が多いわよね。
固まらなくても飛び跳ねたり、倒れたりしても良いのよ?
え? 問題はそこじゃないって?
……分かってるわよ。
人を驚かしちゃいけませんって、母にもよくよく言われたもの。
外では二人がリヤカーを一台ずつ引いていて、そこに箱一杯に入った乾物がゴッソリ載ってる感じ。あまり乾いてはいけなそうなものまで形を微妙に留めながら乾ききっているから、傍目には看板か何かにも見えなくないかしら。
あ、それ良いわね。
魚介の乾物で看板とか斬新よ!……って、乾物に慣れていなかったりしたら、ただのゲテモノのオンパレードよね。しかも、あの独特の匂いがするし。
「とりあえず、小さな箱に仕分けて入れてあるから、それらを中に入れてくださる?」
「わ、分かりました」
固まっていたみんなも私の言葉に我に返って作業を始めてくれたわ。全ての荷物が入れ終わったら、リヤカーはお店の裏に持って行ってもらって、一階のお店で作戦会議をしたわ。
みんなとの話で出て来たことは、この世界ではイカやタコにそれ程の抵抗感は無いようね。
先日も東方の商会が丸く焼いた衣にタコを包んだ物を売り出していたそうよ。
まるでタコ焼きね。
でも、タコ焼きが有るなら、タコ焼きソースが有るって事かしら。
つまり中濃ソース的なものが。
手に入ればお好み焼きに発展させる事も出来そうだけど、うーん、話に聞く範囲だと結構な大手商会らしいから、独自の調達網を背景に独占的に売り出している感じかしら。
それだとこの店の様な零細な経営には手が出せない領域ねぇ。
この店の売り上げの波は、夜の売り上げと昼の売り上げでは圧倒的に夜が上というのがこれまでのお店の状態だったそうなの。実際ギルド付近の立地でギルドに多く人が戻って来るのは日没だから、当然需要は多くなるわよね。でも、私は昼の売り上げを重視したいと思うの。
「……昼間を多く稼げば、夜の売り上げに頼らなくても良くなるでしょう?」
「しかし、昼に何を売るというんです」
サイノス君が不安そうに尋ねているわ。
イケメンの憂い顔って良いわねぇ。もうこれだけで癒されるわぁ。
私は思わず顔がにやけそうになるのを我慢して答えたの。
「ここは料理屋としてやって来たけれど、客が必ずしも料理を食べなきゃいけないという理由は無いんですよ。昼の売り上げは原価の安い物で高く場所を売ると考えて貰えたら良いですね」
「場所を売る?」
みんな不思議そうな顔をしているわね。
この世界ではそんなに珍しい事なのかしら。
でも、バザーの様な土地取引が有るんだから、そんなに珍しい事じゃなさそうに感じるけれど。
「サイノス君、あなたは昼食も終わった時間に飲食店が有ったとして、入ろうと思いますか?」
「いいえ、腹も一杯でしたら、食べようとは思いません」
「そうでしょう? お客さんも同じ気持ちで、昼はお腹を空かせてやって来るというよりは、暑さをしのいだり、一休みするために……と考える方ならいると思います。そうした方々に料理を売り込んでも食べてはくれませんが、飲み物や軽い食事でしたら食べようかと考えてくれるはずです」
「なるほど」
「そして、そうした軽い気持ちのお客さんを多く留め置く事で、道行く人達に興味を持たせる動機付けになってもらったり、長く滞在している事で追加の注文を頂けるように誘導していくんです」
「ちょっと、お客を誘導って、そんな事をしたら嫌われるわよ」
あらあら、クレアちゃんが反発しているけど、あなた、散々な料理を鉄面皮で美味しいと言ってぼったくる気満々だったのをお忘れかしら。……と言っても、この子なりに考え無しながら必死だったんでしょうけれど。
私は心の中でため息をつきつつも笑顔で答えたわ。
「誰も強制するとは言っていませんよ。そいしたいなと思って貰える様な雰囲気を作るという事です。例えば貴女ならどんなお店でしたらゆっくりしていたいですか?」
「うーん、そうねぇ……しつこい従業員が居なくて、静かで綺麗な音楽が流れていたらステキかしら」
あらやだ。自分では分かっているんじゃないの。
それであの接客に結びついていくというのが本当に不思議ね。
「そうです。心地良い雰囲気が有れば、その場所に長く居たいと感じるんです。でも、全く何も買って貰えずに長居されちゃうと困っちゃいますから、一定のルールを定めるとかも必要ですけどね」
「ルールって、どんな事よ。まさか、何も頼まなかったらつまみ出すとか」
私は一瞬目が点になったわ。
いや、何も頼まず居座るのは何処でも論外でしょ。
というか、この子まさか経験者!? だったら怖いわよね
まさかね……。
「ルールは、例えば繁盛時間帯は最長滞在可能時間を限定するとかですね。それも一定額以上の注文が有れば延長出来るとかオプションが有れば、客は自分で考えて出るか残って注文するかを考えると思います。この選択は飽くまでお客さんの自由ですから、私達が強制するわけじゃありません」
「まぁ、そんな事でお客さんが納得するかしら? これまではそんなルールは無かったのに、急にそんな話になったら、余計にお客さんが離れたりしないかしら」
二人の母親であるシエナさんが不安そうに話したわ。
私は彼女に安心する様に言ったの。
「飽くまでそうしたルールを使う事も出来るというだけです。現状では使いません。ただ、それ程の大勢のお客さんが来ている状況ならば、そうしたルールがある方が公平にお店を利用出来るから、お客さんにとってもメリットは有るんですよ」
「……そうか、入りたい側からすれば、必ず客が出て来るルールがあるというだけで希望が有るな。まぁ、そんなに気長に待ってくれる奴が多いかどうかは分からないが」
あら、アレンったら、なかなか鋭くついてきたわね。
確かに並んで大人しく待ってくれる日本人は世界の非常識なんだっけ?
でも、日本以外でも某電話機の購入の為に並んだという話もあったくらいだし、必ずしも日本だけの特殊事情って訳でもないでしょう?
「アレンは良いところに気が付きましたね。その心配は有りますが、そこはこの店の価値に対する評価の結果でもあるから、そうしてまでも我慢して待つという気持ちを起こさせられるだけの価値をお店のサービスとして提供出来ているかどうかが問われているんだと思います」
「確かに。良い店なら何が何でも入りたいとは思うかもしれないな。で、そう思わせる物はどうするんです?」
「それは……」
私は用意した作戦を披露したわ。
みんなはそれを聞いて微妙な顔をしていたけれど、話を聞いているうちに自分の中で納得がいったのか異論は出なかったわ。という訳で、明日の開店までにみんなで手分けして準備に入ったわ。
作戦会議が纏まりました。
翌日はどうなるのか? 続きます。




