プロローグ
ようこそお越しくださいました。
初めまして。
世の中には色々な異世界ネタが有りますが、こんな人が行ったらどうなるのか?
これは、そういう物語……だと思います。
プロローグ
私にとっては最後の砦だったのよ。
離婚して女手一つで私達を育てた母。
中学になる頃に義父と再婚して、その頃に癌を患うの。
たぶん、それが無かったら、まだ別れの日は後だったかもしれない。
努力家な母と違って、私はどちらかというとずぼらな子だったから、何事にも意欲が無いし、それこそ極楽とんぼの如く漫画やゲームやアニメの世界に浸りながら空想する子だったわね。
そんな子がどうして私の様な子になったのかと言われると、この後話はするけれど、それを今更どうこうなんて言うわけでもないから、ただ、なる様にして選ばれた道なのかしらね。
さて、現代なら医療ミスとか医療過誤とか、そういう言葉が出てくるのかしら。
母の病気は手術でどうにかなったけれど、その後の治療と称して使われた薬で肝臓を悪くしてしまい、どうしようもない状態になっていったわ。それでもそれから20年以上の時間を生きられたのは、母と私の努力の結晶だったのかもしれない。
それでも、失われたことで空いた穴は簡単に塞ぐことが出来るものでは無かった。
そもそも私の様な性分の男には、人並みの幸せなんてものは望むべくもないのよ。
そりゃ、世の中にはどっちも選べるような便利な思考の持ち主もいるものだけれど、私にはそうした見方が出来るほどには割り切れないのよね。
別に嫌いってわけじゃないのよ? ただ、これまでに積み重ねられてきた嫌と言う程のフェミニズム的な指導的何かとかを聞いて、そこに実の父の駄目さを嫌と言う程聞いて来れば、自己肯定感なんて育たないし、自己不信が女性不信に繋がるのは早かったかしら。
女は肉体的にも社会的にもか弱く可哀想な存在。
確かにそうした部分が有るのは理解するのよ?
実際、母と暮らす中で様々な理不尽な場面を見ることが有ったし、守られるべき部分というものが有るとも思うの。でも、だからと殊更に男を下げる必要も無いのよね。……当時の私には考えようも無かったことだけど、いい大人になった現在なら分かるのよ。それは母の苦悩であったとは思うけど、少年時代の私にとっては百害有って一利無しとでも言えるんじゃないかしら。
でも、こうして生きることで理解したこともあるわ。
こうなってしまったからこそ、人より多くの苦労を背負うことになったけれど、それだけ沢山の人の感情と触れる中で自分を客観視して、物事を深く見る目が養われたんじゃないかしら。
それだけじゃない。
理不尽な対応をされても動じない程度の我慢強さも備わったと思う。……とはいえ、そもそも頭の出来がよろしくない高卒のお馬鹿な私が、超氷河期とも言われた当時を順風満帆に送れるほどには世の中簡単じゃなかった。
それでも、インターネットという新しい文明の利器が、私の様な存在に対する新しい出会いの場を提供し、一人で思い悩むことも無く、より前向きに暮らせる様になっていったのは良い流れよね。
そうやって、私は二人に出会い、そして、お馬鹿な毎日を互いに笑い合いながら、気付いてみればアラフォーになっている始末なんだから、口では暗いことを言いつつ、のらりくらりとしぶとく生きているものだと思うわ。
それでも、肉親との別れというものは、なかなか割り切れないものね。
あ、母が亡くなる一年程前に実の父が亡くなったんだけど、あの時は普通に笑っちゃったのはここだけの話よ?
……散々な人生の最後を締めくくったのは、自殺ですって。
あの人は全ての原因を作り出して、それでも自分の行きたい道を進み、自分の親ながら呆れるほどに好き勝手生きて、最後は自分で幕を引いたのよ? その道は決して真似したくないし、していたことも全く誇れるような事じゃないけれど、よく頑張ったんじゃないかしら。
私にとってのあの人は、幼い自分の見たくない未来だったのよ。でも、19の頃に短い間だったけれど一緒に暮らしたことが有るの。その時に私は理解したのよ。私の中に流れる彼の血は勿論、私が想像していたよりもずっと小さな父の姿を。
あ、実際私の方が背は高かったけれど、背の話じゃないのよ?
その思考回路だとか、持っているものの現実よね。でも、この経験が無かったら、私は姉を理解することが出来なかったかもしれない。私の姉は、私の家系に繋がるどうしようもない血を集めたサラブレッドだったのよ。
私はそれに気付くことが出来たし、彼女の思考回路をある程度トレースすることも出来ていたはずだった。……しっかりとケアできると思い込んでいたのよ。
でも、私の中にも甘さがまだ残っていたのよね。
肉親だからこそ出来るフィルタが。
それを見誤ったがために、母はショックを受け、私が必死の思いで看病してきたのも水の泡になってしまった。それもこれも、私がより強く対応していなかったことの罪ね。
私にとっては、母は最後の家族なのよ。
彼女を失ったら、私にはもう家族が出来ることはないの。
それが、こんな性分として生きる道を選んだ私の定めみたいなものかしら。
そりゃ、世の中には新しい制度を模索する動きもあったりするけれど、家族という道はそんなに簡単なものじゃないということを、私は様々な形で見てきたわ。
いくら情を掛けて育てた娘がいても、結局は元の場所に戻ってしまったように、私ではどうすることも出来ない壁がそこにあって、ギロリと私の侵入を拒んでいるのよ。……とか言って、結局は諦めという名の甘えだと言われたら、それまでだけどね。
私は心に埋められない穴を開けてしまった様なもの。
いつか来る道だと理解していても、想像と現実は違い過ぎるのよ。
そんな私が選んだ道が夜の街を出歩くことだったのは、同じ仲間、戦友の様な二人のお陰かしら。
1人でいたら、きっとろくなことを考えていなかったわ。
では、彼らの冒険(?)をお楽しみください。