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十六夜  作者: 桜騎
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夕暮れの道

 最近、妹が私を見て怯えている気がする。それはいつもの事なのだけど、いつも以上に…。まあ、確かに犬にかまれて怪我をしたことが私のせいにされ、その誤解を解けなかったのであれば、それは仕方ないだろう。まだ物心がはっきりしていない時だ。どうすればいいのかわからないのだろう。

 その時、妹が私を目指して走ってきた。

「い…十六夜姉さん、おはようございます…」

「…」

いつも通り、無言…を貫き通そうとしたけど、妹はこんなに怯えているのだし、もうそろそろ物心がはっきりする頃だろう。やっぱり、優しくして手なずけておくのは今のうちだ。

「おはよう、幸姫」

私は挨拶を返してやった。しかも名前付きで。

 妹は「え?」という顔をして私の前から去って行った。

 私はすぐに着替えを済ませ、玄関を出た。この前までは、一緒に挨拶に回ったのだが、足に傷を負ったせいで、妹は出禁になった。まあ、そのくらいで済めばいい方だろう。後に犬の飼い主が来て、事情を説明したため、私の罪…?は軽くなった。…から、妹は出禁になったのだ。

「行ってきます!」

私は出かけようとした。そしたら、妹が玄関から少し顔を出した。

「幸姫!?」

「十六夜姉さん、私も連れてって…」

「えぇ!?」

ダメに決まっている。妹は出禁になったのだ。

「ダメ…?」

妹はもう一度私に訊ねた。もう一回言おう。

「ダメ」

に決まっている。

 「幸姫は出禁になっているでしょ?」

それとも、出禁の意味がわからないのだろうか?

「わかってるよ、わかってるんだけど…。幸姫、外出たいんだもん」

出た、幸姫呼び。お父さんやお母さんはそれで甘えられても、私には効かないよ!

「出禁でしょ?今度何かあったら、私はどうなるかわからないんだよ」

それを聞いた幸姫は、急に涙目になり始めた。しまった。ここで泣き叫ばれたら、私が無理矢理妹をここに連れてきたことになる。

 私はついついため息を漏らす。

「…わかったよ。だけど、今回だけだよ?次は連れて行かないからね」

妹は笑顔で出てきた。

「十六夜姉さん、ありがとう!!」

私たちんの家は厳しく、年上の人には敬語を使うように習わされているのだが、今回はよしとした。

 私たちは地域を回って挨拶に言った。妹はもじもじしながらもちゃんと挨拶をした。まあ、二回目としては上出来である。

 そうして全部を回り終えた私たちは家に帰った。

「お帰りなさい。ああ、十六夜。幸姫がさっきからいないのだけど、何か知らない?」

「ゑ!?い、いや、知らないよ?」

…私としたことが、うっかりしていた。帰りはお母さんが玄関で出迎えてくれるのだった。それに、地域内全部回るのだから、時間がかかるのは当然。

 私は妹を背にかばいながらカニ歩き。そして玄関へむかった。

「ちょっと、外を探してきますね!!」

「え?幸姫は出禁なんだから、外にはいないはずじゃ…」

そんなお母さんの言葉を無視して、私は外へ飛び出した。

 ぜえぜえと肩で息をしながら私は地面に座り込んだ。そして、妹の肩を力強くつかみ、更に力を入れた。

「いいか、幸姫。私は少し外に出てくるから、お母さんが玄関から離れたらすぐに入って私の帰りを待っている風を装え!その前はと訊かれたら、靴箱に隠れて私を驚かすつもりだったと言え。いいな!?」

私の慌てようを見た妹は、ただ黙ってコクコクとうなずく。

「よし!」

私は北へ走り出した。どこに行くか決めてなかったけど、がむしゃらに走った。

 「ああ、もう!ああ、もう!」

私はただただ後悔しながら走り続けた。何で、あの時妹を隠そうとしたのだろう。べつに隠さずに突き出していれば、私は叱られる妹を見て、今までの恨み・嫉妬を晴らせただろうに。

 しばらく走って、私は向きを南に変えた。ここから家まで走って十分。往復して約二十分。十分な時間のはずだ。私は少しでも早く家に帰りたくて、かなりのスピードを出した。

 家に着いて、私は即刻玄関にいたお母さんに訊いた。

「幸姫は!?」

「…いますよ、ここに」

私はお母さんが何でこんなに不機嫌な顔をしているのかわからなかった。そして、その答えを予想して恐る恐る妹を見ると、妹はだらんとしていた。

「十六夜、ここに正座なさい」

「…はい…」

これは、どういう形であれ、ばれたことに違いはなかった。

「聞きましたよ。あなた、幸姫を連れて一緒に回ったそうですね?」

私が幸姫を見ると、幸姫は首を振った。言ったのは幸姫じゃないって事?

「まったく!あなたは私が幸姫を出禁にしたのは知っていますよね!?」

「…」

「それなのに連れまわして」

お母さんお母さんは幸姫に向き直った。

「あなたは、もっと悪いですよ。近所にはあなたが出禁なんて知らされていないけど、出たのなら挨拶はきちんとなさいな。この家の恥です!」

「そんな!お母さん、幸姫はちゃんと挨拶が出来ていましたよ!?」

「十六夜は黙ってなさい。…今日ね、近所の人がいらしたのよ。そして、何て言ったと思う!?今日はお宅の子が二人来ましたよ。十六夜ちゃんはちゃんと挨拶が出来ていて偉かったけど、幸姫ちゃんの方はねえ…ですって。笑っちゃうわよねえ。私がちゃんとしつけた子にそんな文句!!」

妹の顔からついに活気が消えた。

「あのねえ、あなたの名前には幸せな姫ってつけたのよ。十五日間月が出なかった時に十六夜が生まれたのだから、十六夜は人々に幸運をもたらすと言われたのよ!?それは、我が家にとってどんなにうれしい事か。それなのに、あんたはねえ!?」

妹はビクッとした。まさか、名前と偶然で姉と比べられるとは思ってもいまい。しかも、一話で紹介したとおり、様付されるほどの相手にだ。

 そうして、お母さんの説教は長く続いた。

 妹は自分の部屋に戻るも、かなりしょんぼりしている。初めての説教だ。かなり効いたのだろう。

「幸…」

私が名前呼ぶか呼ばないかのタイミングで幸姫は振り返った。

「十六夜姉さんなんか、大っ嫌い!!」

私は急な強気発言に驚いて固まって何もできなかった。


 妹が出禁を解かれ、外に出れるようになったころ、私は夕方に妹に呼ばれた。

「幸姫、こんな時間に何をするの?」

妹の久しぶりの元気な対応に安心した私は、ついてこいといわれ、素直について行った。

 そして、途中まで来て、ハッとした。ここは、体調が悪かったり、自殺志願者が通ったりすると必ず行方不明になるという、夕暮れの道と呼ばれる道だった。

「幸姫、ここは今通ったら危ないよ!?」

幸姫は立ち止まり、振り返った。

「勝負しようよ」

「勝負!?」

「この道を通って、生き残れた方が勝ち。どちらが先に死ぬかわかるよ」

まさか、最初は無邪気だった妹がそんなことを考えているとは思わず、のこのことついてきてしまった。

「危ないよ、やめよ?ね?こんなことしてどちらかが行方不明になったっていいことなしだよ」

幸姫は鼻で笑った。

「怖いの?」

「べつにそんなんじゃ…」

「私、十六夜姉さんが嫌いなの。そして、生まれた順から考えて十六夜姉さんがいなくなるはず。…だから、消えて?」

私はあの日、親を奪われた時の嫉妬と、妹が嫌いと言った言葉に対して頭が真っ白になった。

「幸姫。私の事、嫌い?」

妹は、私が絶望していると見たのか、平気でうなずいた。

「嫌いだよ、最初から」

その瞬間、私の意識は頭の片隅にしか残らなかった。

「嫌い?あんたが!?笑わせてくれる!私から親を奪ったのはあんたのくせに!!!嫌いなのはこっちの方だよ!」

妹は唖然として私を見つめた。

「いいよ、この勝負、受けようではないか。そして、勝ち負けを決めよう。そして、負けた方は絶対に家には帰らない事。そして、絶対に顔を合わせない事。以上!!!」

妹は我に返ってうなずいた。

「負けない!!」

力む妹を見て、私は笑った。

「そうそう、言い忘れたけど、あんたも死ぬ覚悟はあるんだよね?」

「え…?」

「当たり前でしょう?この道は生まれた順ではなくて、もうすぐ死ぬ人がいなくなるの。あんたがいなくなる可能性だってあるのよ!?」

妹は震えだした。

「行くわよ。…よーい、スタート!!」

二人共ゆっくり、歩き始めた。そりゃそうだ。先に行ったら相手がいなくなるのかわかんないじゃん!

「あ、そうそう。言い忘れてたけど、立ち止まるのは無しよ」

「…」

そこからは、二人共何も言わなくなった。

 しばらくして、私は妹を追い越した。明らかな歳の差に、歩幅が違うのだ。

「立ち止まることは不可。立ち止まることは不可…」

そうつぶやきながら歩いていたら、いつの間にか私はその道を抜けていた。今はもう夜になっていて、後ろを振り返っても妹は確かめられない。私は「先に帰ってるよ!?」と叫び、家に帰った。

 次の日、お母さんにたたき起こされ、問われた。

「昨日の夕方、あなたどこの幸姫を連れて行ったの!?」

お母さんの顔を見ると、どうやら妹は帰ってきてないらしい。私は、勝ったと思った。これで、私に親が戻ってくると…。だけど、違ったんだ。親は妹がいない事から腐りはて、私の元に親は舞い戻って来なかった。改めて、嫉妬とは恐ろしいと思った。

 こんにちは、桜姫です!今回は、物語の中に夕暮れの道が入ってきました。そして、終わりました!初めての別の小説とつなげること!楽しかったです!自己満でわかりにくかったり、面白くなかった事があったと思います。すみません。これから、他の小説でもやりたいと思います!よろしくお願いします!

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