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十六夜  作者: 桜騎
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始まりは~姉とは~

 月が出ない日が何日も続いた。人々はこの世の終わりだと言い、嘆き悲しんだ。中には、山や海の中に隠れる場所を用意している者もいた。そんな日が何日も続き、人々の活気が失われた時、月は現れた。その日は、十六の夜だった。


 私は足音を立てず、黙って道を歩く。すると、私を見かける人が私に挨拶をして、頭を下げて去っていく。中には年上までいる。

「十六夜ちゃん、おはよう」

「おはようございます、おばあさん」

私はそれに笑顔で返す。

 そして、私はそれを何度か繰り返し、やっと家に着いた。

「お帰り、十六夜。あなたは偉いわねえ。みんなに挨拶してきて。もうすぐお姉ちゃんになるけど、心配する必要はなさそうね。あなたはいい子ね。妹のお手本になってあげてね?」

「はい」

その日はまだ、妹が生まれる日ではなかった。


 私は今日もまた、道を歩く。そして、挨拶を交わす。繰り返すたびに、私の評判は上がっていった。中には私に「様」を付ける人もいた。

 「お母さん、今日はどう?大丈夫?」

お母さんは少し苦しそうにうめきながら、私の頭に手を乗せ微笑んだ。

「大丈夫よ。十六夜は今日も偉いわねえ」

私は、嬉しかった。

 その日の夜、お母さんは急に苦しみ出した。お父さんはお母さんを抱きかかえて病院に駆け付けた。私は付き添えなかったけど、帰ってきたお父さんとお母さんを見てわかった。妹が、生まれた。

 嬉しくて私はいつもより笑顔で挨拶に向かった。みんな、私におめでとうって言うの。私は幸せだと思った。だけど、私はこの後、人間の黒い部分を知ることになる。

 「ただいま」

いつものように玄関に入ると、お母さんは出迎えてくれた。

「お帰り」

驚いた。それだけだった。たったの一言。それだけ。いつものように、一言付け足してはくれなかった。

 その日からはお父さんもお母さんも生まれたばかりの妹に夢中だった。

幸姫(こうき)

なんて妹の名前を連発したりして。お父さんもお母さんも、小さくてかわいらしい妹にメロメロだった。

『…ひどい。…幸姫は、私からお父さんとお母さんを奪った…』

気が付いたら、私は幸姫にそんな想いを持つようになった。そして、お父さんやお母さんにも…。そんな事実はいやだったし、そんな事を思う自分もいやだった。

 次の日も、私は挨拶に向かう。いつものおばあさんと目が合って、私から挨拶をしたらおばあさんはにっこり笑った。

「どれ、十六夜ちゃん。幸姫ちゃんとお母さんとお父さんの事が嫌になってきたろ?」

「…え?」

おばあさんは私の顔を見て笑った。

「何、かくさんでいいよ。それはね、嫉妬だね。大好きな人を取られていやだったろ?」

私は黙ってうなずいた。

「わかるよ。私が小さいころに弟が出来てね、お父さんやお母さんは私をかまってくれなくなってね。…まあ、私は少し大きかったから十六夜ちゃんほどつらくはなかったね」

私は黙ってうなずいた。今度は、目に涙をためてうなずいた。

「そのことを親に言うとね、親はもう大きいのにこんなふうにかまうのはおかしいって言うんだよ。悲しかったねえ、私は。更に弟の失敗を自分のせいにされて、つらかった。十六夜ちゃんも、もうすぐそうなるからね。お姉ちゃん、頑張ってね」

私はおばあさんと別れ、考えた。人間は、欲望の塊なのだ。私は親を、親は妹を、欲しがる。汚いな、人間は。

 私はまた、いつものように玄関に入った。

「ただいま」

またお帰りの一言かと思うと、今日はいつも道理だった。たまたま昨日はそういう気分だっただけなんだと思った。だけど、次の日家に帰ると、その日からお帰りの一言になった。…さみしかった。悲しかった。妹が出来たからと言って、私に冷たくするんなら最初から冷たくしてほしかった。逆に、新しいものでも前のに飽きずにいてくれるのなら、優しくしてほしかった。

 私はこのつらさを胸に押し込んで自分の部屋に向かった。


 それからは、いつも同じだった。冷たくされた。つらかった。

 そうして、妹が大きくなった頃、そのつらさから解放される頃、今度は別のつらさが私の心を貫いた。

妹は、泣き出す。

「十六夜はお姉ちゃんでしょ?何で幸姫の面倒も見ないの?」

そんなことを言われても、私は私のやることで精一杯だ。それに、私は5歳幸姫は2歳だ。私は幸姫と三つしか離れていない。

 私はあまりにも理不尽な言葉に、私は怒りを抑えきれずに自分の部屋に戻ろうとした。

「十六夜っ!!」

ぱあんっと大きな音がして、私の頬は赤くはれた。

「何をしようとしてるの!?今はお母さんと話している途中でしょ!?」

「…はい…」

私は涙をこらえて俯いた。

 私にとって、つらいだけの日々がしばらく続いた。

 私たちが二人共大きくなった時、私はちゃんとしたお姉ちゃんになっていた。

 こんにちは、桜騎です!今回書かせていただいた十六夜は十六夜中心の物語です。次は妹です。そしてまた、十六夜に戻って話が本編となります。最初から本編じゃないって、どんなだよ!?…ですよね。実は、今回の話はかなり苦戦すると思います。わかりにくい所もあると思いますが、それは感想の欄に書いて送っていただければお答えします。ついでに、一番最初に出てきたのは妹編が終わってから意味を成しますね。こっから先はネタバレなので、お楽しみに!

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