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ある雪の日の眠り兎

 その赤ん坊は生まれながらにして病気を患っていた。病気の名前は先天性色素欠乏症、通称アルビノ。その赤ん坊を見た両親は時に見える赤いを気味悪がる。

 両親は我が子に「白兎」と名を与える。傍から見ればかわいい名前に見えるがその名前に込めた意味は「人間扱いしないこと」。


 その名前の由来を露も知らずに赤ん坊は周りから遅れながらも成長を続ける。最低限の世話であるがそれでも彼にとっては大切な両親である。


 赤ん坊が児童になると両親は厳しくあたる様になる。何かにつけて怒り、怒鳴り、時には罰を与える。彼は両親に怒られない様に努力をする。それが子供として無理なことでも。自分が悪いと言い聞かせる。彼にとっては大切な両親は悪ではないからだ。


 白兎は児童の中で浮いていた。その特異な容姿は子供には受け入れてもらえず怖がられては追い出されていた。それでも彼は追い出されない様にと笑って接する。大切な両親から与えられた体が受け入れられないのは自分の態度が悪いと思ったから。


 ある年、両親は2人目の子供を出産する。自分の弟である赤ん坊は白兎と違い黒い眼と黒い髪と両親と同じ色である。両親は弟の世話にかかりっきりであった。白兎は放って置かれたがそれでも構わなかった。彼にとっては大切な家族であったからだ。


 白兎が少年と呼ばれる年齢になる。白兎は「幽霊うさぎ」というあだ名と共に周りから疎外される。また両親も段々と口を聞かなくなっていった。


 白兎は弟の見本になるために努力をした。学校の成績も良い結果を出したり好き嫌いをしないようにしたりと世間では正しいと言われている事をし続けた。それが気に食わない同級生がいじめを始めるが本人は気にすることは無いとした。自身の心の痛みに気付かずに。


 白兎がいじめを受けてから3年。弟も喋れるようになるが、やはり容姿が怖いのか中々近づかずにいた。その弟の反応を見るたびに怒られたのは白兎である。家でも立場の無い白兎であったがそれでもその環境を受け入れていた。自身の心の限界に気付かずに。


 ある雪の日、白兎は道路で倒れ込む。頭では立とうとしても体が動かない。自身の限界が来たのを知らずに雪の冷たさを感じながら目を閉じる。頭によぎったのは家族の笑顔。自身が居なくても悲しまない事を望んでいたが、目に溢れる涙の意味に気付かずそのまま1人の兎は眠りに就く。









 耳に入る何かを置く音に意識が目覚める。重い瞼を必死に開けて目を細めながら見る色は白色。知らない天井の無機質な白。口に付いている人工呼吸器に任せて音のした方に首を向けようとするが動かない。手で体を持ち上げようとするがそもそも指が動かない。最後に足を動かそうとするもやはり動かない。

 体が動かないことを理解し目線で音のした先を見る。ぼやける視界であったがピントが合っていき、置かれた物を認識する。それは花の入れられた花瓶であった。花の種類は分からないが色とりどりの花は綺麗である。

 次はその花瓶を置いた人に視線を移すと、それは見知らぬ女性である。その女性は目に涙を浮かべながらも驚いた様子で口を手で覆っていた。視線を合わせたまま言葉を紡ごうと口をパクパクさせるが喉が震えずに声が出ない。どういう状況なのかと思っているとその女性が泣きながらも思い切り抱き着く。

 抱き着いた時の反動で自身の髪が視界を覆う。それは自身には無かった色。家族と、そして女性と同じ黒色であった。


「クロちゃんっ……!クロちゃんっ……!」


 嗚咽とともに抱きしめ耳元で名前を呟く。黒……自身とは無縁の色、名前。そこで自分「白兎」は理解し困惑する。それは別の誰かと入れ替ったのだと。

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