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ピンボールおっぱい

作者: まつだ

あれは冬の夜だっただろうか、春の夜だっただろうか。いずれにしても我が家にファミコンが来る前の話だ。

地元では不良で名の知れたT先輩だったが、T先輩の弟と私が同級生だったこともあって、なんとなくの距離感での付き合いだった。当然のように面倒が多い人だったけれど、話をしてみれば言葉が通じないわけでもなければなにも考えていないわけでもない。ただただ思考を言葉にまとめる前に手が出るだけの人だった。面倒くさい。


その夜、そのT先輩から電話があった。

「ファミコンを買ったぞ!」

田舎の夜では自慢できる相手が私くらいしかいなかったのだろう。それを受けた私も、すぐに自転車をかっ飛ばして先輩宅に向かったのだから、思うツボだった。

先輩はこれまた当然のように、当時の不良の条件である離れに自室をもっていた。私はその離れの前に自転車をきちんと止めると(こういうところに細かい人だった)離れのガラス窓をたたいた。

「おうおう、あがれあがれ」

機嫌のいい声だった。何度か来たことがある赤いじゅうたんの部屋に入ると、弟のK君もいた。当時、ファミコンといえば最新の、これまでに比べるもののない娯楽だったのだから、怖いアニキのところにも葛藤の果てに至ったのだろう、と思われた。

「終わったらかわってやるよ」

これまた赤いちいさいテレビには「ピンボール」が映っていた。今、こうして正直に言うと、がっかりだった。「ピンボール」はあんまり面白くなさそうに思っていたからだった。

つつがなく先輩はゲームオーバーになると、ちゃんとコントローラを渡してくれた。面白くなさそうに見えても、ファミコンだ。今までのどんなものより「面白い」に決まっているのだ!


で、ゲーム開始。ぽんぽんとフリッパーを動かす。打ち返しの音が大きくて、思ったより面白い。


「おっと」

と先輩の声がすると、テレビが切り替わった。

エロビデオだった。

「わるいな」

とピンボールに戻る。

何が起こったのかわからない。一瞬だったからボールは落ちていない。助かった。いや、もっと見たい。明らかにいま、2つのおっぱいが両手で揉まれていた。

「なんだ、その顔。見たことないのか?」

またおっぱい。まだ揉んでいる。

「ファミコンのほうが面白いか?」

ピンボール。慌てて操作。

「おっぱい、見たいだろ?」

おっぱいに。

ピンボールに。

おっぱいに。

ピンボールに。


結局、ピンボールはそのままゲームオーバーになったような気がするが、まったく覚えてない。おっぱいは覚えているのに。


だから、多分、それは、春の夜の出来事、だったのだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 古き良きエロ弱者の愛おしき記憶。 [一言] あの当時、おっぱいには、今と比べ物にならないほどの価値がありました。いわば秘部。それが動くなんて! なんという恵まれた記憶でしょう? テレビ…
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