城下町にて
先週は台風の件について申し訳ありませんでした。
流石に危険と思った時は無難に徒歩かタクシーかにしてあります。不快に思った方が居られましたら申し訳ございません。
さて、城下町に降りようと思ったんだが。
「あ、そうそうマサキ。姿を変える道具とかはあるかしら?」
「あるにはあるが、何でだ?」
「……マサキの事は大々的に国中に広まっちゃってるのよ。そのままの恰好だと大騒ぎになっちゃうわよ」
「ああ……」
確かに。
ノーフェイスを倒した時、落ちた場所が街のど真ん中だったからな。
俺の姿を見た人達も多い筈だ。
「んー……それなら……」
何かないかなーと探る。
手っ取り早くパンダの着ぐるみ……ないな。これ来て行くのは無いわ。
姿を一部変えるなら、コスチューム装備よりもアクセサリーの方だな。
フィルタを掛けて、アイテムボックスの欄を下っていく。
お、丁度いいのがあった。
『黒狼耳バンド:黒狼の耳を模したヘアバンド。付けると黒い狼の耳が生える。もっふもふである。ピコピコ、怪しい人狼じゃありませんよー』
定番の獣耳シリーズのアクセサリーだ。本物そっくりな獣耳を生やす事が出来る、が説明文に突っ込みたい。もふもふではあるが、なんだこの説明文。
黒狼耳バンドを選択すると、俺の頭にぴょこんと黒い狼の耳が生えた。ピコピコと勝手に動く。
「やーん♪ 可愛い!!」
俺に狼の耳が生えると、ヨーコは俺に抱き着き、頭を撫でまわしてきた。
「もふもふ……うふふ」
「おい、ヨーコ?」
ヨーコが夢中になって耳を弄っている。ちょっ、耳の内側まで弄るな!
くすぐったい! これ感覚もあるのかよ! 無駄に高性能だな!
「ヨーコっ」
「はっ……! ごめん、つい。可愛すぎて……。うん、これならきっと大丈夫よ」
「あぁ……」
「……それでね、マサキ。後……でいいんだけど、もうちょっとその耳、沢山触らせてもらってもいい?」
「構わないが……気に入ったのか?」
「うん♪ だってマサキに半獣人の様な耳が生えるなんて思わなかったし、こう、本能的にビビッと来たのよ」
ヨーコは満面の笑みを浮かべ、頷く。
くすぐったくはあるが、まぁ、喜んでくれるならいいか。
無事? 変装し、ヨーコと一緒に城下町に降りた。
「いらっしゃい。今朝取れたての川魚だよー!」
「その魚、3匹……いや、4匹買うからこの小さいの一匹おまけしてもらえないかしら?」
「おう、いいぜ。奥さん美人だからおまけしちゃう」
「あらやだ、お口が上手なんですから」
「ブロンズフロッグの肉だよー。焼き立てだよー。何をするにもまずは食べてからだよー!」
「親父さん、それを五本貰おうか」
「まいどー!」
城下町はある程度復興が済み、今では殆どの店が元通りに営業していた。
パラケルススの放ったアンデッドの群れは、数や種類は多いものの建物に被害を与えるような奴は少なく、意外と被害が少なかった。アンデッドの性質的に、生きる者を狙って襲い掛かったようだ。
今立て直している家屋は、ノーフェイスが地面に触手を伸ばした際、踏みつぶした家屋が殆どだ。
その中には俺が焼いてしまった家もあるが、見ないふりをする。
こういった建物は、全壊してしまっているので一から立て直しとなっている。
熊頭人の大工らしき獣人が、軽々と丸太を二本抱えて運んでいく。
その後ろを大量の資材を積んだ荷車を象頭族の獣人が轢いていた。荷車には魔法使いらしきエルフも同乗している。魔法を使っての建設は一般的によく見られる。
アタミでも馴染みの光景だ。俺も竜馬に頼まれて土台や石壁を作る為に手伝った事がある。
特に城壁を作る際には、腕利きの土魔法を使える魔法使いは必須とされている。
術者によって強度が変わるので、腕利きの土魔法使いの殆どは宮仕えとなっている。
アタミの場合は俺が代わりにやったので、そういった心配もないが、俺の代わりを出来る人も育てるか、見つけないといけないなぁ……。
荷車が通りの往来を通っているが、特に狭くは感じない。通りすがりの人達も、運搬の邪魔にならないように行く道から反れていく。
獣王国の通りは多種多様な種族に適応する為に幅広く作られており、荷車が通ってもまだまだ余裕がある。
車通りまーす。とか人を避けなくて済むのはいいな。これは獣王国ならではだろう。
人族の街じゃこうはいかないな。余りにも広いと疲れるし、建物を建てる面積も減る。
アタミでも、他の街よりは広く幅を取っているが、象頭族が悠々と買い物を楽しめる程、道幅は広くない。
アタミの道幅は大体、15メートルくらいで、獣王国は50メートル以上だ。
因みに日本の場合は一般的に見る片側二車線の一車線分が3メートル、でそれが四車線で12メートルだ。こうして数字にすると、どれだけ広いかよくわかる。秋葉原の歩行者天国よりもはるかに広い。
それだけ広い道幅なので、道のど真ん中で露店を開く奴も多い。
通行の邪魔にならない様に気を付けつつ、朝早く場所取りする必要はあるだろうけどな。
その辺りは衛兵とかが管理しているんだろう、きっと。
「ねぇねぇ、マサキ! あれ見て! なんか面白い事やってるわよ」
ヨーコの指さす先では、魔法を使った大道芸が披露されていた。
観客も大勢いて、芸人一座を囲んで円が出来ている。
よく見えそうな良い場所がないかなと探していると、高台を見つけた。
そこでも多くの人達が大道芸を見ようと詰めかけているが、距離がある所為かここよりは人が少ない。
俺とヨーコは高台に上り、良く見える位置を確保する。
ついでなのでアイテムボックスに入れておいたベンチも設置。
野営の時に作ったんだが、便利なんだよな、これ。
「さぁさぁ見てらっしゃい見てらっしゃい! 我が一座による魔法の芸術をご覧あれ!」
小さな水球を大量に浮かべ、まるでシャボン玉の様にふわふわと浮かして自由自在に操り、同時に白いモヤの様な物を水玉に吹きかけると、水玉は一瞬で凍り付き、砕け散った。
氷の欠片がキラキラと周囲を舞い、俺達を含め観客の目を引き付ける。
「へぇー……、極限にまで薄くした水の膜に、冷気をぶつけたのね。あんな魔法の使い方初めて見たわ」
「ああ。普段使う魔法と違って、こんな魔法は俺も初めて見たな」
「うん、でもあれって相当難しい筈よ。水と氷の似ているようで異なる属性の魔法を二つ同時に、いや、風魔法も使っているから三つかしら。流石エルフねー」
ヨーコは感心したように言ってるが、一目見ただけでそこまで判るヨーコも大概だと思う。
ヨーコは舞い散る欠片を掌で受け止めると、欠片はしばらくの間は輝きを保っていたが徐々に形を崩し水滴になる。
「俺としては何というか、この光景を見るとエルフのイメージが変わるけどな」
「ふふっ、確かにね」
今までのエルフのイメージは、神秘的にあふれていた。
ジェイムズが連れていたダークエルフの女性も、寡黙で凛とした中で神秘的な感じを出していたからな。
他の大道芸では豪快な炎の魔法で肉を丸焼きにし、外側の肉を振る舞ったり、土魔法で高い塔を作り、てっぺんまで登ると、猿人族が踊りながら降りたりなど、ここならではの芸が見受けられた。
滅多に見られる物じゃないし、ヨーコも物珍しそうに見ている。
飲み物を買ってくるかな。
こっそりとヨーコの傍から離れ、近くで店を開いている露店に向かう。
「いらっしゃい!」
「えーと、このマスカットマトのジュースを二つ」
「はいよー。ほい、二人分で5フランね」
5フランを支払い、手のひらサイズのヤシの実に近い器に並々と注がれたジュースを受け取る。
この実は『ミネラルナッツ』と言って中に水分を多く含む木の実だそうだ。
冒険者や商人達にとっては貴重な水筒替わりになっている。
代金を支払いジュースを受け取る。器は外側が硬い樹皮で覆われていて、ヤシの実そっくりだ。
「いやー、あの人らのお陰で商売繁盛。助かるねぇ」
「この国には最近来たんだが、ああいう芸人と言うのはここでは良くいるのか?」
「おや、冒険者さんかい。いんや、流石に往来であんな芸をしたら憲兵にとっ捕まっちまうよ。今はほら、獣王祭が明後日からやるからよ。ああいった旅芸人も往来で芸をするのが許されてるんだよ」
「ほー。獣王祭か。話には聞いてたが、あんな襲撃があっても本当にやるのか」
「おうよ。あれ位でやめられちゃ困るしな! 昔に獣王様と王妃様の夫婦喧嘩で城が半分吹き飛んでも、獣王祭だけはしっかりとやってくれたからな。最後は獣王様が王妃様に平謝りで決着がついたけどさ」
獣王様、何やってるんですか。と言うか負けてるのか!
何処の世界でも、旦那は奥さんに勝てないものなのだろうか……うちの親父もそうだしなぁ。
俺も勝てる気がしない。
「襲撃があったって知ってるという事は、もしかして街の為に戦ってくれた口かい?」
「え、ああ。まあ……そうだな」
むしろ最前線でやりあってました。
「おお、やっぱりそうか! あんた腕が立ちそうな気がしてたんだよ。こいつはサービスだ。取っておきな」
そういうと、露店の親父さんは売り物であろう焼き鳥を2本分差し出す。
焼き鳥は大きく食べごたえがありそうだ。香ばしい香りが俺の鼻孔をくすぐる、
ぐーっと、俺の腹が食わせろと訴えてきたので、俺は店主の好意を有り難く受け取り、ジュースと焼き鳥を持ってヨーコの下に戻る。
「ほら、ヨーコ」
「あ、ありがとう。いやー、ついつい見入っちゃってたわ」
ヨーコはそういうと、マスカットマトのジュースと、焼き鳥を受け取る。
俺もヤシの実の様な器に空いた小さな穴から、ジュースを一口含む。
程よい甘みと酸味が効いていて中々美味しい。冷えてないのが残念だが、それでもこの暑さの中で飲み物は助かるな。
焼き鳥を先端から頬張る。
養鶏の肉より若干硬めだが、噛み切れない程じゃない。
獣人ならこれ位はらくらく食べられるんだろうな
味付けも屋台なので大胆な味付けになっているが、これは岩塩で味付けをしているのだろうか、塩味が効いていて旨い。
「はふはふっ。うん、これおいふぃい」
「せめて口の中の物を片づけてから喋ろうな」
「んっはぁー。固めだけど美味しいわねこれ。マサキの所のビールが欲しくなるわねー」
「あー、確かに、これならビールと合いそうだ」
焼き鳥を片手にビールをグイッと煽る。俺も良くやっていた事だ。
「まぁ、今は昼間だ。ビールはまた今度な」
「判ってるわよ、もう」
そういうと、ヨーコは頬を膨らませながら、ジュースを啜る。
他の観客たちも各々に食べ物を片手に眺めている。
俺達と同じように焼き鳥や、謎の肉を焼いた串焼きに焼き魚、バターの香りを漂わせる焼きペトト等様々だ。バター焼きペトト、ここで見かけるという事は、あの時の屋台の人がいるのかな。
大道芸も大詰めに入り、エルフ3人による大掛かりな合成魔法が展開される。
エルフ達が放った赤、青、緑と、三つの球体が中央に集まり、一つの真っ白な球体が出来上がる。
そしてその真っ白な弾は、猿人族の蹴りにより天高く蹴り上げられ、青い空で炸裂する。
真っ白な花火だ。音もならないし、熱さも感じない事から『ライト』とか光源系統の魔法を使った大魔法だろう。
ヨーコも他の観客たちも見入っており、一座の面々が揃って一礼すると一斉に拍手が鳴り響く。
一座の見習いらしき猫人族の子供がお捻り用の器を高台にまで持ってきたので、銀貨を入れておく。
中々いいものを見せてもらった。
「大道芸って他の街でも見たことあるけど、ここのは一風変わってて面白かったわー」
「ヨーコは他の街のも見たことあるんだな。他の街のはどういう感じなんだ?」
「んー、魔物使いによるショーとか、後は身軽な身体と力を使った芸ね。魔物のショーは人を乗せて走らせたり、樽の上に載せたりとかね。他は高い台の上から、テントの天辺からぶら下がってるローブに飛び移って、その反動で更に次のロープにわたり続けたりとかー、四方から投げられた樽を次々と剣で切ったりとかね、こういった魔法を贅沢に使った芸は初めてね」
そっちの大道芸も見てみたいと思うが、何処か元の世界の芸と似通るな。この辺りは仕方ないのかもしれないが、そういった芸も一度も見たことがないので機会があったら見てみたいものだ。
「ほー、ヨーコも結構いろんなところ見てるんだな」
「これでも長く冒険者やってるからね♪ 獣王国は遠いし旅費も掛かるし、来たことはなかったけど
これて良かったわー」
「そういえば、獣王祭も明後日かららしいな」
「え? それって本当!? あんなことがあったのに?」
「本当。さっき屋台の人が言ってたぞ」
俺も驚いたわ。普通なら中止か延期するはずなのに、予定通りやるなんてな。
「私達がツカサに呼ばれたのもそれ関係なのかしら?」
「さぁ? 司はそういったのも好きだったし、それに俺達より長く獣王国と関わっている筈だから、そうかもしれないな」
「ついでだし、ツカサの方も覗いできましょ♪ そっちの方も楽しそうだしねー」
「そうだな、それとまだ食べ足りないだろ、道すがらで何か買っていくか」
「うん♪」
そういうと、ヨーコは串を口に含みながらニカっと笑う。
ヨーコの場合はこういった気楽な笑顔が本当に似合うな。
ベンチをアイテムボックスの中に仕舞い、俺達は食べ物を買い込みながら司がやっているコンサートの下に向かうのだった。
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屋台の料理は割高ですが、雰囲気的な物もあってついつい買ってしまいますね。そろそろ正樹にもまた何か料理をしてもらおうと思ってます。




