リハビリ
一週間開けずに何とか投稿を。一応ストックは作ってるので、定期的な更新は出来そうです。ひとまずは前の投稿ペースを取り戻したいですね。
それからは数日間、王宮で過ごし軽いリハビリに取り組んでいた。
一週間寝込んだ程度で、と思うがこれが思った以上に体力が落ちているんだよ。
歩けないレベルじゃないが、走ろうとすると意識に身体が追いつかず、足がもつれかける。
前に介護系の仕事に就いた友人から聞いた話だが、一週間寝たきりになると筋肉の二十%も衰えるらしい。一ヵ月寝込めば八十%とシャレにならない程の衰えだ。
こうなれば歩くのも困難で、必死にリハビリしても元に戻るには一年以上かかるらしい。
ステータスを見ても、STR、VIT、DEX、AGIの身体に関する四つが二割割減少していた。
回復魔法もリハビリには効果はなく、地道な筋トレによって取り戻すしかなさそうだ。
素の状態で『セブンアーサー』を持てなくなった時はちょっと愕然とした。
あれはDEXの値が高くないと装備できないからな。
リハビリと言っても、そう難しい事はしない。
何時もやっているトレーニングを代えて、速度を落としての走り込みと剣の素振りの回数を増やすだけだ。
対人もしたいところだが、体調が万全じゃない今はやるべきじゃないだろう。
素振りに使う剣は重さや長さに慣れる為にも『レヴァーテイン』を使っている。
そうそう、この『レヴァーテイン』なんだが陽炎の様に消えたって話だったが、何処に行ったのかと俺のステータスウィンドゥを開いてアイテム欄、装備欄等を探ってみると『大事な物』の欄に入っていた。
これはアイテムボックスとは別口で、ヨルムンガルドを助けた際に使った『アレクレピオスの薬』と同じ貴重品の枠だ。この欄に結構心当たりが多い人もあるはずだ。通行手形とか、船のチケットとか、自転車とか。
いきなり消えたと聞いた時は焦ったが、無事見つかって良かったよ。
後日、『レヴァーテイン』の事も包み隠さずに獣王とレヴィアに報告したのだが。
「その剣はトウドウ伯。貴殿が持っていてくれ」
「いいんですか?」
「いいもなにも、それを扱えるのは恐らく、トウドウ伯だけだろう」
「うむ、そうじゃのぅ。剣に認められぬ者は話の盗人同様に燃やし尽くすじゃろうし、これは他の七柱の武器も同様じゃ。七柱の武器は全て主を選ぶ性質を持っておる。その代り、認められた者は世界を変える力を得ると言われておる。まさか、マサキが手に入れるとはのぅ。くれぐれも取り扱いには注意するのじゃぞ」
「判ってるよ」
「ま、マサキなら心配ないじゃろう。普段から気を付けておるようじゃしな」
説明文にもあったが、かなり物騒な武器だ。
まさか七柱の武器全部がこういう性質持っているのか……?
『レヴァーテイン』が手に入った事は正直物凄く助かる。
『セブンアーサー』の場合は、ランダムで複数回の攻撃が出る代わりに基本攻撃力が低く、相手の防御力次第だと大したダメージが与えられないし、頼りにしていた『ロストドミニオン』は折れたからなぁ……。
こいつも直せるなら直したいが、鍛冶スキルが足りないからな。
そういう事で正式に『レヴァーテイン』は俺の武器となった。
振り心地を確認し、数回の走り込みの後、一息入れて剣を何度も素振りする。
最初の頃はこれだけでも汗だくで、次の日には筋肉痛に襲われたが、今は大分調子を取り戻している。
毎日トレーニングをしておいて良かったよ。
秋葉から聞いた話なんだが、毎日のジョギングを日課にしている友達が酷いインフルエンザで一週間寝たきりになったのだが、復帰明けの市民マラソンでベスト記録を更新したらしい。
医者の話によると、毎日のトレーニングのお陰で筋肉の衰えが最小限で済んだらしい。これはアスリートの人達も同じとの事。
俺もその例に当たるんだろう。確かに異世界人の高ステータスで走り飛び跳ねたり、重い剣を軽々と振り回してりゃアスリートレベルの運動量にもなるか。
「ふぅ……」
「マサキー、大丈夫―?」
座り込んだ俺にヨーコが心配そうに声を掛けてくる。
朝から王城にある訓練場の一角を借りて、ひたすらトレーニングに明け暮れていた。
暑く太陽が照らす中訓練場をランニング、それから剣の素振りを繰り返す。
それを何度と無く繰り返していた。
アデル、ヨーコ、秋葉の三人はそんな俺に飽きもせずに付き添い、見ていたのだが、今日はアデルと秋葉は司に呼ばれて街に降りている。ついでに何か良さそうな差し入れを買ってくるそうだ。
ヨーコも呼ばれていたんだが、俺を一人放っておけないという事なのでくじ引きで勝ったヨーコが残る事に。
当初はフェンも混ざっていたのだが、フェンも力の訓練という事でヨルムンガルドとレヴィアの方にいる。
〈神獣変化〉による、暴走を防ぐためと、力の使い方を教える為らしい。
土の大神殿で起きたあの現象は半分程暴走状態だったようだ。
理性が失われていなかったのは好戦的でなく、大人しい性格だったのが幸いしたのだろうと言うのがレヴィアの談だ。
今回の一件で、フェンは完全にフェンリル族としての血が目覚めている。
〈神獣変化〉による暴走は、周囲のみならずフェンにも多大な被害を及ぼすらしく、何かの拍子に暴走しないとも限らないので、獣王国にいる間ヨルムンガルドとレヴィアがつきっきりで制御できるように教え込んでいる。フェンもやる気があるらしく、毎朝俺に手を振ってからヨルムンガルドの方に向かってる。
フェンも頑張ってるんだ、俺も頑張らないとな。
「そろそろ休憩位したらどう? はい」
「うおっ!」
そう思っていた所に、ヨーコがキンキンに冷えた瓶を俺の頬に着ける。
「早く体力を戻したいからと言って、無茶したらダメよ? ささっ、休憩しましょ」
ヨーコに引っ張られるように木陰に連れ込まれた。
やれやれ、確かにちょっと無理していたかもしれない。
汗もびっしょりで、シャツが汗で濡れてしまっている。
丁度いい、休憩しようか。
ヨーコは自分用にも用意していたのか、陶器製の瓶を開け美味しそうに飲んでいる。
俺の手の瓶もキンキンに冷えている。
多分、王宮に流れる水路で冷やされた物だろう。
王宮には、大量の高品質な水の魔晶石から、絶え間なく水が流れている。
僅かに氷の魔晶石も併用しているので、水は常時冷たく、王家のみならず兵士達の喉を潤している。
贅沢とも思えるが、獣王国の王城は巨大な樹の上にあるので、井戸から組むわけにもいかないからな。魔晶石頼りになるのも仕方ないだろう。
瓶の中身を一口飲んでみると、甘酸っぱい味がして、体に染み渡る。
蜂蜜レモン水か。疲れた身体には最適だ。
材料の方が気になったが、レモンに似た果実なら旅をする間にも見かけたし、蜂蜜も蜂型の蟲人族と妖精族のお陰で、豊富に取れるらしいので作るのは難しい事じゃない。
現に、同じ訓練場にいる兵士達も飲んでいるようだ。ここでは一般的に飲まれる物の様だ。
話によれば、獣王国郊外にいる異世界人から教えてもらったものだと、聡さんアンタか!
蜂蜜レモン水で喉を潤し、もう一度立ち上がる。
「よし、ヨーコ。次はちょっとゴーレムを出してくれないか」
「おっけー! 普通のでいいわよね?」
「ああ、頼む」
今回はヨーコにも訓練を手伝ってもらう。
毎日の訓練のお陰で弱体したステータスもほぼ戻った。次の段階に進んでいい頃だろう。
感覚を取り戻すには実践が一番だ。
その点、ヨーコのゴーレムは様々なバリエーションがあり、容赦しなくてもいいという利点がある。ゴーレムの命であるコアさえ無事であれば魔力を使えば元に戻るからな。
流石にアデルや秋葉相手に剣を振るうのは躊躇うし、ネメアーは今はシリウス王子の訓練と、聡さんの所での特訓で忙しいからな。
訓練場の端に、二メートルを超えるゴーレムが五体ほど現れる。
そのうち一体は趣向を変えて虎型だ。俺の実力を知っての事だろうが、病み上がりでこれか。
「おいおい、ゴーレムが五体ってどういうことだ」
「いくら訓練とはいえ、やりすぎじゃ……」
「シーザー様ならやれるだろうけど……」
同じ訓練場にいる兵士達が、遠巻きに騒ぎながら俺達に注目する。おい、訓練はいいのか。
「おい、お前ら」
「あっ、すいません教官! 戻ります!」
「休憩だ」
「え?」
「休憩だと言っている。さて、あのお方は何処までやれるのか……」
教官らしき人が一番食い入るように見てる。ダメだありゃ……。
「いっくわよー!」
ヨーコの掛け声と共に、ゴーレム達の群れが一斉に俺に襲い掛かる。
それから昼までの間、ゴーレム相手に模擬戦を繰り返す。
『レヴァーテイン』の炎が煌き、アイアンゴーレムの身体を容易く切り裂く。
飴細工の様に鋼鉄の身体は切り裂かれ、返す刀で次のアイアンゴーレムの首を刎ねる。
追加でストーンゴーレムが呼び出されたが、あんな後ろに設置してどうするつもりだ。
不思議に思っていると、後方に呼び出されたストーンゴーレムが自らの拳を俺に向けて飛ばしていた。
これって『ロケットパンチ』かよ!? 迫る四つの拳を『フレイムジャベリン』で迎撃する。
『フレイムジャベリン』は、ストーンゴーレムの拳を吹き飛ばし、俺は一気に距離を詰めて〈ヘキサスラッシュ〉や、〈波動剣〉など感覚を取り戻すべく振るう。
攻撃範囲の中にいたゴーレム達が音を立てながら崩れ落ちる。
獣王国全体を覆っていた魔力嵐だが、今はヨルムンガルドの手により結界が再度張られて再び魔法が使えるようになっている。
アース大陸全体を覆ってきた魔力嵐も沈静化が始まっており、各所で強力な狂獣達は姿を消しているそうだ。
前代未聞の大規模な魔力嵐の原因だが、これはヨルムンガルドが封印、弱体化されたことにより、地脈が大きく乱されていた事が原因のようだ。
何故それが知られてなかったのかと言うと、そういった事を知っているのはヨルムンガルドと、ハイエルフ族の長老と言った長い年月を生きる二人だけだったからだ。
なんせここまで大規模に起きたのは二千年ぶりの事。
それだけ長い年月が立てば、言い伝えで残っていたとしても、薄れてしまうだろう。
それに毎年この時期には自然と地脈が乱れ、ある程度の魔力嵐(ガスト)が起こるらしく、台風の様な自然現象のようだ。
ヨルムンガルド以外に唯一知っているハイエルフ族の長老だが、高齢でボケが始まり、寝たきりになっているそうだ。二千年以上も生きてりゃなぁ……。
魔力嵐の脅威がなくなり、こうして魔法が使えるのはありがたい。
「おー! うん、大分感覚戻ったんじゃないかしら」
「さっきのは何なんだよ。今までヨーコのゴーレムはあんな動きしなかっただろ」
「んー、エクスマイザーの〈ロケットパンチ〉あるでしょ? あれが再現出来たらなーってちょっと試行錯誤してたのよ。ちょっと複雑な術式使ってるけど、使い物になりそうだったし、いい機会だから打ってみたの。欠点は二発しか打てない事と、手が無くなる事だけどねー」
「アレを再現するか……」
一度に五体以上のゴーレムを操る手際といい、『ロケットパンチ』を再現したこといい、ヨーコの努力と、才能は目を見張るものがある。
これは負けていられないな。
「ヨーコ、ゴーレムはそれくらいでいい。ありがとう、助かった」
「どういたしまして♪ 訓練はこれで終わりかしら?」
「いや、もうちょっとやっておきたいことがあるから、それが終わってからだな」
次の課題は〈イグニス〉を発動し、今現在どこまでやれるか……。
練習用として、ブロンズフロッグの皮で作ったブロンズナイフを百本。
虚空はこれを容易く千本以上操った。それも手に持たずにだ。もしかしてこれは、意識さえしていればアイテムボックスから直接出せるのかもしれない。まずはやってみないとな。
アイテムボックスに入れておいたままの木材を、丸太のままドスンと地面に突き刺す。
「……ねぇ、マサキ。何故そんなものがアイテムボックスの中に入っているのよ」
「何かあるかもしれないから、一応こういった資材はいれたままにしてあるぞ」
「……単に入れて出すのを忘れてただけじゃ」
「そうともいう」
否定はしない。アイテムの量が多いと、どうしても入れっぱなしが増えるんだよ……整理整頓しないとなぁ。
確かに実際、旅をする中でこの資材達を使ったこともある。
薪を作ったり、椅子作ったり、石版を使って地面を平らにし、獣の皮を敷いて寝床を確保したりしてたしな。
〈イグニス〉をセットし、自分なりにやりやすいようにイメージを込め、指先を突きつけ、的に向けて〈イグニス〉を発動する。
すると、アイテムボックスの中に入れたままのブロンズナイフが武器を装備する時に起きる光と共に現れ、的に突き刺さる。
その数は五十。
的になった丸太が串刺しになり、黒ヒゲ危機一髪の様な姿になる。
上には何も置いてないので飛ぶことはない。
ふむ。出さずに打てるという嬉しい発見でもあるが、虚空との差が歴然だ。
ステータスの差か? それともイメージ、魔力量が原因なのか。色々検証が必要だ。
それからしばらくの間、INT重視、AGI重視、DEX重視と装備を代えながら、イメージを変えていく。ガチでどこかの金ぴかの様にもやってみたが、上手くいかなかった。あれはあいつが使い慣れているからこその戦法だろう。
その度に丸太は串刺しになり、ボロボロになっていく。
ナイフを引き抜くのは〈イグニス〉を使うので手間はかからない。
五本目の丸太が廃材になった所(この後、これは薪の材料にした)で〈イグニス〉の理論が判ったような気がした。
これで大事なのは、DEX値と、イメージだ。
イメージはもう本数とか気にしない方が良いというのが判った。
手の先から濁流を出すように、武器を放つイメージが一番うまくいった。
ただし、これだと命中が散漫になるので、命中を補正する為に高いDEX値も要求される。
DEX値が低い状態で〈イグニス〉を放った時は、思ったような方角に飛ばず、ずれて城の壁に向かって飛んで行った。
幸いにも少し下向きに飛んで行った事もあり、地面に突き刺さった。あぶねぇ、ブロンズナイフで傷がつくとは思わないが、もし城の壁に穴なんてあけたら怒られるってレベルじゃない。
しかし、これで千本となると、相当高いDEX値が求められる。
俺のステータス値だが、DEXはGMとプレイヤー次代メインジョブとして動いていたジョブの両方が適応されている。
数字で表すと、DEX八十九に、『ロキの奇策』で+四十で百三十九だ。
普通に剣を振るうならこれで十分すぎるんだが、これでも、さっきの様に百本単位だと命中が定まらない。
DEX強化の魔法、『ブースト』を掛けてこれで+二十、更に装備品として『紫炎の指輪』(DEX+十六)を二つで三十二、もっと追加してパッシブスキルの中に〈タクティカルアタック〉(DEX+二十)を付けて強化含め、占めてDEX二百十一だ。これで安定して命中させることが出来る。
他の武器も混ぜてやってみるが、どうやらこれ以上は差が出ないようだ。
その代り、量が多ければ多い程複雑な動きは出来なくなり、直線的な動きがどうしても増える。
思えば、虚空の放った〈イグニス〉は、一本を除いて全部が直線の動きだった。
これでファン○ルの様に複雑な軌道を描かれたらヤバかっただろう。
俺には〈六道千塵〉があるので、数を減らして複雑な動きを増やす方が良いだろうな。
虚空は最低でもDEXは【ブリタニアオンライン】基準で、二百以上なのは間違いない。これは相当高いステータスだ。ゲーム次第ではステータスは千を超えるかもしれない。
あんな奴が敵にいるとなるとこれからが思いやられるな。まぁ、敵ならやるしかないけどさ。
「ねー、マサキー。そろそろ昼食にしないー? 私お腹すいちゃった」
ヨーコがベンチに腰を掛けながら、足をぶらぶらとしている。
思えば朝からずっと身体を動かしっぱなしで腹が減った。
身体づくりで大事なのは、適切な運動量と美味しい食事だ。
「そうだな。ヨーコ。今日は街に降りて何か食べないか。折角獣王国に来たんだし、何か美味しいものでも探そう。観光もしたいしな」
「うんっ♪ それなら膳は急げ!」
「なんか字が違わないか? お、おい。そんな引っ張らなくても」
ヨーコが嬉しそうに俺の腕を引いて、早く早くと散歩をねだる犬の様に引っ張っていく。
三本の狐尻尾がパタパタパタとご機嫌に動いている。
そういえば、こうして二人っきりでの外出は久々か。
結構復興も終わっているし、いろいろ見て回るのもいいだろう。
俺はそう思いながら、ヨーコに手を引かれ、城下町に向かうのだった。
◆◇◆
正樹達が立ち去った後の訓練場。
今まで正樹達の様子を見ていた兵士達が、嫉妬が籠った視線で正樹の背中を見ていた。
「羨ましいぃぃぃ!! 俺もあんな美人と一緒に食事に行きたい!」
「パルいわ、妬ましい、爆散すりゃいいのに、爆散すりゃいいのに」
「膝が割れたらいいのに!」
血涙を流しそうな程、憎しみに困った眼で正樹達の後姿を眺めていた兵士達がいたのであった。
感想、評価ポイントを頂けるとモチベーションの意地に繋がるので大変ありがたいです。
台風が次々とやってきますね。皆さんも気を付けてください。作者は暴風圏の真っただ中出勤です……。原付でな!




