閑話 パヴァリア
大変遅くなりましたが、続きです。閑話ですが。
そしてここで告知をさせて頂きます。
今月30日に、GMが異世界にログインしました。2巻が発売されます。
今回は半分以上が書き直しで更に書き下ろしです。
特典の方は虎の穴様からはイラストカードが、文教堂様からは書き下ろし4Pリーフレットが着きます。
2巻の方は肌色成分多めです。
獣王国から少し離れた所にある狂獣の森。
そこにはミスリルザウルスや、ゴールドドラゴン、ダマスクリザードと言った高位の凶悪な狂獣達が住処にする地域。
狂獣達からは豊富な鉱物資源が取れる。それは狂獣達が森の中や山の中にある鉱物資源を食べて育つからだ。
一獲千金を狙う事が出来る狂獣の森だが、ここを探索するには冒険者ランクB以上の許可が必要だ。力不足の者が迂闊に入れば生きて帰れない魔境の地であった。
狂獣達は魔力嵐の中でしか生きる事が出来ず、常に魔力嵐が蔓延している狂獣の森は狂獣達にとって楽園だった。
獣王国から近い狂獣の森だが、獣王国との間には広大な草原が広がっており、迂闊に森から出てしまえば直ぐに発見され討伐隊によって打ち取られてしまう。
その事を狂獣達も理解しており、時折はぐれ者が草原に向かう事はあるが、多くの狂獣達は豊かな森の中で長年過ごしている。
しかし、豊かな森は一部分が大きく切り倒され、樹齢500年を超える巨大な大木が無残にもへし折られていた。
切り倒された大木の切断面は滑らかで、熟練の腕前で綺麗に切断された事を示し、対照的に、へし折られた木は強引に力技でねじ切られていた。
この森では強者である狂獣たちも、住処を荒らした狼藉者を許すはずないのだが、狂獣未だ戦いを繰り広げている、桁違いの強者たちに怯え息を潜めていた。
そのうちの一人、テダ・サントスがゆっくりと木の上に降り立つ。
テダは遠く、狂獣の森から見える獣王国を眺めながらため息を吐く。
「あ〜あ。ノーフェイスの奴もやられちゃったし、あれだとパラケルススもやられちゃったかな。まさか、お姉さんみたいな人が待ち伏せしてるなんて予想外だったよ」
テダは地上を見下ろすと、そこにはヘカトンケイルに腹部を貫かれた月兎族の女性、『サウンシェード』の領主、リデアの姿があった。
テダの姿はボロボロで、右腕に至っては半分千切れかかっている。
崩落した洞窟から脱出したテダはノーフェイス達の手伝いとして獣王国に向かっていたが、辿り着く直前にリデアに襲われ、今の今まで誰にも知られる事無く戦っていたのだ。
テダは服はボロボロ、至る所に裂傷があり満身創痍だが、命に別状はない。
しかし、リデアの傷は致命傷。腹部に穴が空き、大量の血が流れている。
そんなリデアに対し、テダは決して彼女から目を逸らさず、何かを観察するように見ていた。
リデアが、ニコっと優しい笑みを浮かべる。
「貴方を向かわせちゃったら、私のレヴィアが危ないもの。それで、もう終わりかしら?」
リデアが右手をヘカトンケイルの頭に向けると、リデアの右手を覆っている白く長い布が蛇の様に動き、ヘカトンケイルの頭に絡み付く。
「―――! ――――!!」
ヘカトンケイルは自慢の怪力と無数の腕を使い、布を引きちぎろうとするが、引けば引く程白い布は伸び、ヘカトンケイルの巨体を包み込んでいく。
頭の先から足の先までヘカトンケイルが布で覆われる。
「きゅっとな♪」
リデアが手の平を閉じると布が雑巾の様に絞られ、ハラリと地面に落ちると布の中にいたヘカトンケイルは影も形もなく姿を消していた。
すたりと、ゆっくりと地面に降り立ったリデアの身体には傷一つなく、シミひとつない綺麗なお腹が見える。
それどころか、血の跡も、戦った痕跡すら残っておらず、リデアは煌びやかな、豊かな胸元を露出したドレスをなびかせながら白い布を操り、手元に引き寄せる。
「あ〜ぁ。やめとくよ。連れて来た悪魔達も全部やられちゃったし、これ以上やっても無駄だもんね」
テダは木の上に座り込んで、手をひらひらと横に振る。
この森の惨状は、テダが使役する悪魔達とリデアの激戦が作り出したものだった。
テダの予定では、パラケルスス達に合わせて悪魔達を向かわせ更なる混沌を巻き起こそうとしていたが、リデアに先回りされていた。
月兎族の特徴の一つとして超聴覚が存在する。
超聴覚は数キロ先の足音さえ聞き取ることが出来るが、リデアはやろうと思えば数十キロ先の音さえも聞くことが出来る。
更にリデアだけが持つ固有スキルとして、〈万有重力〉により自身にかかる重力を自由自在に操る事が出来る。
ジェイムズからテダの事を聞いたリデアは、自慢の超聴覚と〈万有重力〉を使い、獣王国まで落ちて先回りをしたのだ。
「これ以上無駄に戦わないでくれて助かるわ」
「人は見かけによらないというけど、まさか、お姉さんみたいな人が魔王級の魔力を持つなんてね。パズズやオルトロス程度の悪魔じゃ勝てない訳だよ。街で見せていたあの姿は演技だったわけ?」
「いえ、あの姿も本当の私よ。だって、エッチな事って気持ちいいじゃないー♪ 貴方もどう? 良い夢見させてあげるわよ」
「あ、遠慮しておきます……搾り取られて死ぬ未来しか見えないし。異世界でテクノブレイクで死んだなんて情けなさすぎるにも程があるよ」
「ちぇー」
敵であるテダをも誘うリデアに、テダは毒気を抜かれたように呆気に取られる、
(どうもこの人相手だとペースが狂うなぁ。とんでもない隠し玉だよ全く。まぁ、この情報だけでも来た価値はあったものかな。それに、計画が失敗したなら虚空達も拾わないとだね。アイツも無茶してなきゃいいんだけど)
テダはゆっくりと立ち上がると、テダの足元に魔方陣が展開される。
「あら、もう行くの?」
「うん。失敗した以上、長居は無用だからね。今回は引くけど、次はこうはいかないよ」
「ええ、次こそは『ドッペルゲンガー』じゃなく、本体でいらっしゃいな。大事な私の子たちに手を出した報いを受けさせてあげるわ」
「――ばれてたか。お姉さんには適わないなぁ」
ふわりと浮いたテダの輪郭がぶれ、モザイク状の人型に変わる。
このモザイク状の人型は『ドッペルゲンガー』というモンスターだ。
『ドッペルゲンガー』は対象を真似る事が得意で、身体能力、スキル、魔法と言った様々な事を真似る事が出来る。
強いモンスターと思われるが、欠点として実力差がある相手だと相手の完全下位互換にしか変身できず、更に同じ強さの相手であっても、相手の経験までは真似る事が出来ないのでモンスターとしては脅威ではあるが気を付ければ倒せなくはないという評価のモンスターだ。
そんな『ドッペルゲンガー』には、【カオス・クロニクル】で召喚者の意識を憑依するイベントがある。天使に囚われた主人公を悪魔達が助ける、というイベントだが、テダはこのイベントの事を思い出し『ドッペルゲンガー』に憑依することに成功した。
テダは『ドッペルゲンガー』の中にあった設定を使い、獣王国へと出向いていたのだ。
魔方陣が煌々と輝き、『ドッペルゲンガー』を光の輪が包み込む。
『ドッペルゲンガー』は粒子状の光に変換され、主の下へと送還された。
ただ一人残されたリデアは、ぐーっと背伸びをすると後ろから慌てた様子で走ってくる足音を聞く。
ウサ耳をぴこぴこと動かして、良く聞くと数キロほど後方から「りーでーあーさーまーー!!」と情けない声を出しながら、必死にディノスライオスに跨り駆ける少年執事の声を聞く。
心音も聞けば、バクバクと心臓が破れそうなほど強く鳴っている。
「あらら、心配かけちゃったわねぇー」
罰が悪そうにリデアは苦笑しながら、獣王国でお気に入りの少年執事に特別なお詫びをしてあげようかしら。と思い、舌なめずりをする。
その特別なお詫びが少年執事にとって幸せになるかどうかは、彼次第になるだろう……。
◆◇◆
白い無機質な部屋に一人の少年、テダが白いベッドの上に横たわっている。
頭には金属製の輪が付けられ、その輪からは異世界に不釣り合いな機械の箱にコードがつなげられていた。
テダは目を覚ますと、頭に付いた輪を取り外して頭を抱える。
「……っ……はぁー……」
その部屋で作業をしていた一人の白衣の男性がテダが戻ってきたことに気付き、椅子を回転させて振り向く。
「戻ってきましたか。テダ。調子はどうですか?」
「だるさが残ってるぐらいで何とかってところ。あ〜……だるい。あんな人相手にやってられないよ。全く」
「倦怠感は『ドッペルゲンガー』とは能力の差があるので、その影響でしょうが、貴方がそういうとは、よほどの相手と戦った模様ですね」
「ちょっとまずい相手と当たった所為で連れて行った悪魔は全滅したんだよ。お陰で作戦大失敗。虚空達の方はどう? 戻ってきてる?」
「彼らはついさっき戻ってきました。転送系のスキルを持つ彼女が、虚空を拾ったお蔭で難なく回収ポイントにたどり着いたようです」
「そっか。生きてるなら何よりかな。テレサに感謝しないと。僕は光輝に報告しに行くから、後は頼んでもいいかな?」
「構いませんよ」
テダはベットから降り、白い部屋から出る。
一人残された白衣の男は、テダの背を見送ると、再び機械に向けて作業を始める。
カツカツカツと、石畳で出来た通路をテダは歩いていく。
通路には窓らしき物は一切見当たらず、その代わりに光の魔晶石を明かりに使っているので通路は昼間の様に明るい。
光の魔晶石が一定間隔に設置されている廊下を進むと、突き当りの部屋にたどり着く。
テダはふぅぅ……っと緊張した様子で、覚悟を決めるとコンコンコンとノックをする。
「テダです。報告に参りました」
「あぁ。テダか。待っていたよ。入ってくれ」
「失礼します」
テダは静かに扉を開けると、そこには白いスーツを身に纏った黒髪の青年が壁のレリーフに手を掛けながら立っていた。その傍には同じを白いレディーススーツ纏った黒髪の女性が立っている。
青年こそが、『パヴァリア』の長。異世界人の源光輝。
2000年前に死んだと思われた古き異世界人だ。
光輝が触れている壁には大樹のレリーフが張り付けられており、枝の先には無数の光る宝玉ガ付いている。
その宝玉の中で、二つの宝玉がひび割れ、光を失っていた。
「テダ。パラケルススと、ノーフェイスの二人がやられたようだね。君の方は間に合わなかったのかい?」
「……はい。想定外の妨害がありまして」
「君がそういうのなら、よほどの事が起きたんだろうね。説明してくれるかな」
テダは頷き、獣王国で起きたことを事細かく光輝に伝える。
獣王国に用事があった正樹達、現地に住むジーク達異世界人達と遭遇したこと。
遥かに強いリデアに作戦を妨害され、悪魔達を全滅させられた事。
ノーフェイスが目の前でやられ、獣王国の作戦が失敗したことも事細かく説明した。
光輝の傍にいる少女も、テダを咎めるように厳しい視線をとばしていたが、異世界人達の話、そしてリデアの話を聞くと、徐々に険しさを緩める。
テダの言う通り、正樹達一向とリデアの存在は予想し様にも無理というものだ。
これに関して失敗を咎めるのは酷なものだと少女は思い、口を開くのをやめ、光輝はどうなのだろうと思い、隣を見ると何か気になったのか考え込んでいた。
「テダの報告に何か気になることが?」
「あぁ。テダ。確かに彼は、ノーフェイスを倒したんだね?」
「はい。遠目からですが、落とし子の姿になり、最後まで頑張ったようですが炎の剣、恐らくはレヴァーテインの一撃により倒されました」
「なるほどなるほど……そうかぁ。テダ、疲れてるところ悪いけどさ、パラケルススをここに呼んでほしい。彼ならもっと情報を持ってるだろうからね」
「判りました」
テダは魔力を籠め、言葉を紡ぐ。
聞きなれぬ言語だが、言葉一つ一つに魔力が籠められ、テダの掌に魔力が集まっていく。
テダの指先からぽたりと黒い水滴が零れ落ち、それは波紋を描いて魔法陣の形になる。
「来たれ〈死者転生〉」
魔法陣は紫色に輝くと、中心からずるりと黒い鳥の頭蓋骨を持つ人型のアンデッドが現れる。
〈死者転生〉とはアンデッドを甦らせる魔法だ。【カオス・クロニクル】では、死んだ仲魔を甦らせる為にこの魔法が使われる。
「あれ……?」
呼び出したテダは違和感を感じる。確かにパラケルススを甦らせることには成功したのだが、何かが足りない。
「テダ、どうしました?」
「いや、ちょっと。あれぇ……パラケルスス?」
「……」
パラケルススからは何も反応が返ってこない。
テダも少女も首を傾げていると、一人だけ光輝が何かわかったように頷いている。
「テダ。ごくろうさま」
光輝がパチンと拍手を一回鳴らすと、パラケルススだった身体は砂の様に崩れ落ちた。
一人合点が要ったように光輝は嬉しそうに頷く。
「コウキ……? どういうことなのさ」
「あ、あぁ。どうやら彼、魂をレヴァーテインで焼き尽くしてもらった様だ。永遠に剣の中で生き続ける道を選ぶなんてね」
「まさかそんな……」
テダは七柱の武器についても資料で知っている。
レヴァーテインに魂を焼き尽くされた者は、身体を失った後でも剣に取り込まれ、永遠に眠り続けることになる。そうなれば輪廻も復活も望めない。
正樹がそれを知ってる筈がない。それを知っているのは七柱の武器に関連する者達か、またはこの組織に属するものだけだ。
つまり、あの場でレヴァーテインにその効果があると教えたのはパラケルスス自身という事になる。
(光輝の下に着くより、永遠の安らぎを選んだというわけか。僕には理解できないな)
はぁっと、テダがため息をつくと不意に光輝がテダの肩に手を置く。
「ドッペルゲンガー越しとはいえ、任務ご苦労様。テダもしばらく休んでいい。レヴァーテインの封印.が解かれたなら、今後は更に忙しくなるだろうからね」
休めるうちに休まないとね。と優しい笑みでテダを気遣う様に声を掛ける光輝は、どこにでもいる青年に見えるが、テダは彼を良く知っている。
自分よりも遥かに上の次元にいる、三龍とは比べ物にならない程の本当の化け物という事を。
この優しい笑顔の裏に何を考えているか。テダには想像がつかないがこれも『門』を開くため。
テダは光輝と傍にいる女性に一礼し、礼儀正しく部屋を出る。
テダは一刻も早くこの部屋から出たかった。
この部屋にいる化け物は一人だけじゃない。その隣にいる女性もまた同類だからだ。
彼女は――。
テダが部屋から離れたのを確認すると、少女が光輝の方に振り向き身を寄せる。
「お兄様。妙に嬉しそうですが……」
「あぁ。ようやく待ち望んでた者が来たようなんだ。光莉」
彼女は源光莉。光輝の地球における実の妹であり、異世界で再会した兄妹だ。
「それは本当ですか。お兄様!」
「まさか、帝国の方で発芽していたとは思ってもいなかったな。前のは逃がしてしまったが、今度こそ逃がさない。光莉、これから忙しくなるよ。あっちの計画の方はどうかな?」
「この間、試作型がロールアウトしたと報告が入りました。次は戦闘試験を行う模様です」
「そうか。大帝殿からも催促されているからね。同時並行になるけど出来るだけ早く頼むよ」
「はい。お兄様の為でしたら残り四柱の封印の捜索、及び『R』プロジェクトの完成を急がせます」
光莉の言葉に光輝は「頼んだよ。自慢の妹」と優しくも、決して断ることが出来ない笑顔で囁き、光莉を抱きしめた。
◆◇◆
テダが光輝に報告を終えているころ、虚空は光の魔晶石が照らす通路を、痛む体を押して進んでいた。
その体は簡易的な治療しかしておらず、包帯に血が滲んでもすれ違う人にも目もくれずにただ歩き続ける。
その背を追いかけるのは、テレサだ。
何よりも金を大事にするテレサにとって、『パヴァリア』は非常に金払いのいい組織だ。
『パヴァリア』に手を貸すことも、金さえ払えば大国をも敵に回すことすら躊躇しない度胸は『パヴァリア』にとっても貴重で、こうして半ばメンバー入りを認め本部の場所を教えるほどの信頼感をテレサは得ていた。
金にしか興味がないと思われるテレサだが、そんなテレサでも信頼できそうな相手を心配する程度の優しさは持っていた。
「お、おい。そんな体でどこに行くんだよ。仕事も終わったんだし寝てろよ!」
「……俺がどこに行こうと勝手だ」
テレサの心配する声を冷たくあしらい、虚空は歩き続けるが、ふらっと身体がよろけるとテレサが慌てて支える。
「あぁ、もうこの馬鹿野郎! ほら、何処に連れていけばいいんだ?」
「……金なら払わんぞ?」
「この程度で金を求めるほどあたしは落ちぶれていないんだよ。あんたはさっさとやることやったらベットに入ったらいいんだよ」
「……そうか。お前も案外、面倒見がいいんだな」
虚空は無表情で、いや、僅かに笑みを浮かべながらテレサを物珍しそうに眺める。
対するテレサは照れ臭そうに、虚空にそっぽを向きながらほんのり顔を赤らめて声を荒げる。
「うるせぇ! いいから行先教えやがれ!」
「……。……この部屋だ」
虚空がたどり着きたかったのは、今テレサと虚空が立ち止まっていた部屋だった。
「前の前かよ畜生!!」
心配して損をしたとか、色々と卑怯だとかぶつくさ言いながらテレサは扉を乱暴にけり開ける。
「……んだよここ。何も無いぜ?」
その部屋には一見何もなく、机も椅子もない部屋だった。ただ変わっているところとすれば、壁の一面だけ樹でできていることだ。
「っ……!?」
初めてそこで気づく。この部屋には無いもないように見えるがたった一つだけ異彩を放つものがあるということを。
それを見た瞬間に、テレサは言葉を失った。彼女がそうなったのも仕方がないことだろう。なぜなら樹で出来た壁には四肢と下半身すべてを樹の中に埋め込まれた少女。
グランファング帝国でもフィリア姫が同じことになっていたが、こちらは更に深刻だ。
フィリア姫は状態異常:樹木化となっているが、状態異常である以上、解除することが出来る。
しかし、この少女の場合は半分飛び出している身体も木と変貌していたからだ。
辛うじて生きているとわかるのは、呼吸の為に動く程度だろうか。
テレサが固まっていると、虚空はその少女に向けて近づき、頭をなでる。
「お、おい。そいつは何なんだよ?」
「……この子は……」
ポツリとつぶやく。そしてテレサは理解した。なぜ、虚空がこの組織にいるというのかを。
それなりにこの組織にかかわっている以上、数人の異世界人とも顔見知りになった。
彼らはここの目的があってこの組織に属している。
強い人と戦いたいから、研究するには最適だから、『門』を開け帰りたい、自分のように金の為になどだ。
しかし、その中で虚空だけが理由がわからなかった。
彼が何故、世界を敵に回すこの組織に力を貸しているのかを。その理由がこれなのだろう。
自分は得ることが出来なかったが、理解出来なくはない感情。
虚空が発した言葉は。
――八神鈴この世界に囚われた、俺の実の妹だ――。
異世界召喚によって生き別れ、再開した源兄妹。
世界に囚われているという八神兄妹と出会ったテレサ
七柱の武器の封印が解かれた混迷の中、『パヴァリア』は着々と動き始めて.いた。
と言うわけで戦闘後のパヴァリア側でした。
この続きは修正が終わり次第近いうちにあげれます。そのあとは…3巻の作業があるのでちょっとどうなるか判りませんが出来るだけ投稿します。3巻は半分以上が書き下ろしやねん……。
最後に2巻の方ですが、なんとバルバロッサも挿絵に登場してます。お楽しみに。