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異形の最後

大変お待たせしました。続きです。

熊本地震の方ですが、祖父母も直撃は免れ無事でした。本当に良かった……!

作者も隣県なので一応無事です。それでも大きな揺れが来ましたね……地震はもう勘弁してほしいですね。今もたまに揺れますし。

被災地の方々は一刻も早い復興をお祈りします。

「負けましタ……カ」


 俺の目の前で十字に切り裂かれたパラケルススは、骨の口をカランカランと鳴らす。

 身体は『レヴァーテイン』の炎によって燃え、切り口から徐々に消滅していく。

 灰すら残らないようだ。


「その割に、満足そうだな」


 俺の敗れたはずのパラケルススは、何処か憑き物が落ちたようにすっきりとした様子だった。まぁ、アンデッドの身体で憑き物というのもおかしな表現だけどさ。


「それはそうでしょウ。残った持てる力を全て振り絞り、戦う事が出来たのですカラ。あぁ……死にざまにしては上出来でしょウ」


 確かに、こいつの力は厄介な物だった。当たれば状態異常のオンパレード。一発当たればそれで終わる戦いでは、こいつは本気を出すことは出来なかったのだろうな。

 バトルジャンキーの気持ちは判らないが、力を満足に振るえない苦しさと言うのは何となくわかる。


「良い死に場所を与えてくれたお礼です。一ついいことを教えましょウ。『パヴァリア』の目的デス。何故、このような事をしているのか知りたくありませんカ?」


 確かにそれは喉から手が出る程欲しい情報だ。今までは何を目的として動いていなかったのか判らなかったからな。しかし。


「何故、それを俺に教える? 何か企んでるんじゃないだろうな」


「えェ。企んでますヨ。当たり前じゃないデスカ」


「清々しいくらいに堂々と言うな」


 しかし、ここで聞かないという選択肢は……ないな。『パヴァリア』に関しては、情報がなさすぎるのが現状だ。


「なら、企みついでに教えてもらおうか」


「えェ。『パヴァリア』の『長』の目的は『門』を開くことにあるようでス。その『門』が何を表すかは判りませんガ、話では貴方達の世界に通じるトカ……」


「俺達のと言うと……まさか………あの世界に、地球に通じてるのか!?」


 今まで誰も見つけられなかったあの世界への帰還。それをそいつは知っているというのか!? 『長』の言う事が正しいか判らないが、これは異世界人達にとってかなり興味を引かれる話だ。


「それは判りませン、シカシ、それだけが目的というのはないでしょうネ。もっと別の何かを探っているような感じモシマス。これ以上の事は、私にもわかりませン」


「そうか……んで、何を企んで俺にこの事を話したんだ?」


「それは、最後に話しますが、一つは私が『パヴァリア』の事を心底嫌っているからに他ありません。つまり、私の代わりに組織を滅ぼしてほしいという事デス」


「……お前にとって『パヴァリア』は仲間じゃないのか?」


「ハッ……そんなわけないでしょウ。パヴァリアは2000年前、私の国を滅ぼした『長』が作り上げた組織デス。私は『長』によって死霊都市ネクロポリスごと滅ぼされ、強制的に使役されましタ。戦友たちがいる冥府にも行けず、ただ酷使されるだけの魂の奴隷。――もう彼らの言う通りに動くのは嫌なのですヨ」


 自分の国を滅ぼした奴に強制的にか……、確かに、それなら長年積りに積もった怨みや辛み、怨念があるだろう。


「それに、アンデッドの王として、人類の敵として動いてきた私ですガ、異世界人である『長』にこの世界を好き勝手にされるのは我慢なりませン」


「ちょっと待て、その『長』が異世界人って……」


「えェ。貴方方と同じ【プレイヤー】の能力を持つ異世界人デス。2000年前、猛威を振るい、多くの異世界人を殺し、たった一人で多くの国を滅ぼした恐るべき者デス」



 おいおい、嘘だろ……!? この世界に呼び出されたのは大概が上位プレイヤー達のはずだ。廃人とまではいかなくとも、その時のエンドコンテンツまで辿り着いた奴が殆どと次郎の調査で分かっている。

 つまり、『長』というのは上位プレイヤー達が束で掛かっても適わない程の力を持っているということか。


「『長』はその時代に封印されていた邪神なる者を呼び起こし、邪神の力を使い強引に『門』をこじ開けようとしましたガ、その時代の三龍と生き残った異世界人達の協力によって防ぐことが出来ました。邪神もある一人の異世界人の決死の特攻により、世界の狭間へと封じる事が出来ました。『長』自身もその戦いで命を落とし、私に掛けられた支配モ解かれ、眠りに付きました。この時は、確かに彼は死んだはずでしたガ……」


「生きていたという事か。それも二千年以上」


「えエ。どうやって生きていたのかは不明デスガ、私が再び呼び起こされた時は最後に見た時と同じ姿でしタ。アンデッドという線も考えましたガ、それなら私が判る筈ですノデ違いまス。彼は生きた人間でしタ。彼の事に関してハ、ヨルムンガルドか、リヴァイアサンに聞けばわかるでショウ。ヨルムンガルドやリヴァイアサンが狙われた理由は話さなくても判りますネ」


「三龍を警戒している……か」


「彼にとっても三龍は目的を阻んだ忌々しい存在ですからネ」


 それなら残りの三龍、バハムートも警戒しておいた方がいいだろう。帰ったら真っ先に調査を頼もう。

 しかし、パヴァリアの長は思った以上に洒落にならない存在だな。

 俺の持つGM権限も同じだ。《無敵》により全てを阻み、全てのスキルや魔法を操り状況をひっくり返す存在だ。

 俺もそいつみたいになる可能性があるのだろうか。


「彼は、過去の過ちを繰り返すつもりはないようデス。彼は目を掛けた異世界人達を仲間に引き入れてまス。それと同時に、『門』の正式な鍵、七柱武器の確保にも動いてマス。現代デも帝国を陰ながら操り、獣王国を滅ぼそうするノモ、『門』を開くための下準備に過ぎませン。レヴァーテインの封印が解けた事により、他の封印にもほころびが生じ始めマス。何としてでも彼より先に七柱の武器を集めた方がいいでしょウ。大事な人を失う前ニ。私の様にネ――」


パラケルススの言葉を遮るように、大きな音と共に昼間の太陽の様な眩しい光が城の近くで放たれた。


 こいつも昔は大事な人がいたのだろう。しかし、国も滅ぼされ、大事な人も奪われた。

 パラケルススなりの忠告だろうな。


 まぶしさに目を細め、そう考えながら光の元を探ると、ヨーコが操るエクスマイザーが、目から極太のビームを放ち、二体の巨人を焼き払っている所だった。


 そのすぐそばでは、アデルがノーフェイスと戦っているのが見える。時折、触手に穴が空くのは秋葉の狙撃だろう。

 大事な人を失うその絶望。俺には耐えきれないだろう。何としてでも、皆を護りぬく。


 俺の視線の先でアデルが、茨で出来た龍に『ドラクル』を突き刺し、え。何あれ。

 茨の龍全体に魔力の刃が飛び出てる。アデル、いつの間にあんな技身に着けたんだ。


 そしてそのまま、ノーフェイスに肉薄し、身体を真っ二つに断ち切った。


「ノーフェイスモ、これまでデスか。あの者も、彼によって『落とし子』に二つの人格を押し込められた不安定な存在、長くは持たなかったでショウ。最後に、私の企みですガ、

敵の敵は味方という言葉が異世界人から聞いたことがありますからネ。散々人類の敵として動いてた私デス。ここはこの世界・・・・の人類の敵らしク、貴方に迷惑ヲ押し付けさせて頂きまス」


 押し付けられた方はたまったものじゃない、が。


「はぁ……いいだろう。背負ってやるよ。お前の迷惑を」


「これで心残りが……アァ。ありますネ。彼の死に顔が見れないのが残念でス」


 それは確かに未練なのかもしれないな。


 目の前でパラケルススが徐々に崩れ落ちる。

 既に喉仏まで消滅し、胴体は完全に消え去っている。後に残ったのは地面にこびりついた焦げ跡だけだ。


 パラケルススは、首をコロンと傾けて、空ろな表情で俺の方に振り向く。まだ何か言う事があるのだろうかと思うが、俺も最後に聞くことがある。


「パラケルスス。その『長』とやらの名前を教えろ。お前の迷惑を晴らす相手の名ぐらい知らないとどうにもならん」


 パラケルススは一瞬、きょとんとしていて、楽しげに笑った。それでいい。死ぬなら笑って死んでいけ。


「ふふふ、そうですネ。名ぐらいは教えなければ。『長』……彼は――ミナモト・コウキと言いまス。本名かは判りませんガ、異世界人達からは名前を呼ばせてイマス」


 ミナモト・コウキか……。俺は聞いたことがないが、誰か知っている人がいるかもしれない。


「彼ハ近いうちに姿を現すでしょウ。貴方はレヴァーテインを手に入れたことにより、『パヴァリア』に狙われまス。精々頑張ってくださイ。それと急いでノーフェイスの元に向かう事をお勧めしまス。奴は最後の力を振り絞り自爆をするつもりデス。もしアレガ自爆してしまえバ、獣王国は毒に飲まれ滅びるでしょウ。全てを貫き通さぬ力を持つ、貴方なら、防ぐことが出来るはずデス。私はもう疲れましタ……後を頼みまス……」


 もう疲れた……か。こいつは何年、リヴァイアサンより年上となると何千年か……ずっと使われてきたのだろう。ブラック企業も真っ青だ。


「最後に一つ頼みがありまス。私ヲ、レヴァーテインで、魂ごと炎で焼き尽くしてくださイ。レヴァーテインにハ、倒した者の魂を取り込む事ガ出来ると聞いてまス。私ハ祝福のろいの所為で、肉体を失うト、彼らの元に魂を強制的に戻されマス。お願いしマス」


 レヴァーテインにそんな力があったのか。取り込むことでの悪影響はあるのだろうか。

 その辺りは要検証となるが、こいつ自身が実験台になってくれるならそうさせてもらおう。最悪、アイテムボックスの肥しになるだけだしな。

 ここまで教えてくれた礼だ。望み通り介錯してやる。


 俺はレヴァーテインを構え、刀身に業火を纏わせる。


「ああ。判った……一太刀で仕留めてやる。〈波動の太刀〉」

 

 太刀を天高く構え、周囲の火の粉を巻き上げながら、強力な力の本流がレヴァーテインを中心に巻き起こる。


「塵は塵に、灰は灰に、業火の中に眠れ――古代の死霊王」


―――――ありがとう


 最後の最後に、礼を言われた気がした。

 骨すら焼き焦がす業火が渦を巻き、空気を熱する。

 天に火の粉が舞いあがり、炎が収まった後には塵一つ残さない焼け跡だけが残った。


 パラケルススのやらかしたことは決して許せることではないが、やらされてたとなると、こいつだけを憎むのは間違いだ。

 憎むのは2000年前の異世界人、パヴァリアの『長』だ。そいつは明確に、俺の敵だ。

 そいつさえいなければ、帝国も大陸統一なんて野望は抱かなかっただろうしアデル達は今も家族と一緒に暮らせていたはずだ。

 平穏で、平和を望むヴァレンタイン皇国も健在だったはずだ



 突如、大気が大きく鼓動する。同時に突風と共に凄まじい威圧感が身体を打ち付けてきた。気配の先は、ノーフェイスだ。

 

 ノーフェイスの切り口から、無数の手や生えて身体を包み込む。手と手が積み重なり大きくなっていく。

 切り離された下半身も同じく切り口から腕が生え、上半身だった腕の塊と結合し、一つの大きな球体上に変化する。

 腕だけで構成された球体は、見るからにもおぞましく、生き物とはかけ離れた姿をしていた。

 それでも生きてる様に見えるのは、心臓の様に大きく鼓動しているからだろう。


 パラケルススの言う通り、あれは、ヤバい!

 徐々に〈気配感知能力上昇〉が示す危険地を増している。


 〈疾風の如く〉を発動させ、壁を駆け上り屋根を駆け抜けて、視界を置き去りにしながらアデル達の下まで走る。

 





 異形の肉の塊となったノーフェイスに向けて、無数の弓矢、投げ槍、突風や魔力嵐ガストに影響されない精霊魔法や妖精魔法が飛んでいく。

 肉が飛び散り、腕が千切れ飛ぶがあっという間に新たな腕や肉が生え変わり、肥大化する。

 再生能力と、ノーフェイスの身体が大きすぎて効いている様子が全く見えない。


「〈ブラッディ・スピアーズ〉!!」


 アデルが巨大な槍を投擲するが、半ばまで食い込んだ所で止まり、まるで槍を食すかのように飲み込んでいく。


「無駄だ」「こうなれば」「あのお方の為に」「わたしの」「俺の」「いのちをもやして」「多くの命を捧げよう」


 男女の声で交互に入れ替わるように喋るノーフェイス。いつもは混ざった声だが、今ははっきりと聞こえる。


 ノーフェイスは反撃と言わんばかりに手を束ねた触手を伸ばし、次々と獣人達に襲い掛かる。

 攻撃の手はアデルやヨーコの操るエクスマイザーにまで及んでいる。

 アデルは剣で、ヨーコは力任せに腕を引きちぎり振り払うが他の獣人達はそうはいかず、数人が無数の手に絡み取られ、骨ごと握りつぶされていく。


「孤立するな!! 手に囲まれ握りつぶされるぞ! 円陣を組んで背中を守りあうんだ!!」


 隊長格と思わしき獣人が指示を出し、兵士達の隊列を整える。

 

 無数の手は王城や大樹にも絡み付き、抱き着くようにみしみしと締め上げながら浮かぶ肉塊自体が迫ってくる。


 肥大化したノーフェイスの身体は優に40メートルを超える。エクスマイザーを超える馬鹿でかい球体だ。白い機動戦士より大きい。


「死なば諸共」「ともにゆこうぞ」「獣人達よ」「いせかいじんたちよ」


 肉塊から紫色の煙が溢れ出る。煙に触れた一人のハーピーらしき獣人が力を失ったように落ちる。


 『ウィング』が使えないので、〈イグニス〉で王城を支える大樹に剣を突き刺し、即興の足場を作って駆け昇り、彼女を捕まえた。

 煙に触れた翼は紫色に変色しており、僅かに触れただけで顔色は真っ青になっていた。


〈鑑定〉してみると、状態異常に『ヒドラ毒』と出た。また厄介な毒を!

 ヨルムンガルドに毒を仕込んだのはノーフェイスなのだろうと思いつつ、残り少ない『アレクレピオスの薬』を彼女に振り掛け、急いで《システムメッセージ》を開く。

 範囲は王城周辺だ。


『全員あの煙に触れるな!! 治療困難な猛毒だ! 触れただけで死ぬぞ!!』


 グリフォンに乗り、槍を持って突撃をしようとしていた獣人達が俺の声に気付いて急停止する。

 その中で数人、静止が間に合わず煙の中に突っ込み、3秒も経たないうちにグリフォンと共に落下していく。

 仲間の獣人達や空を飛べるハーピー、蟲人族が兵士を支えるが、全員が首を横に振っていた。恋人か兄弟なのか、涙を流している人もいる。

 あの煙は浴びただけで、致死量の猛毒を与えるヒドラ毒で出来ている。

 腕の中にいる彼女が辛うじて無事だったのは、軽く浴びた程度で済んだからだ。あんな猛毒を全身で浴びてしまえば、即死は免れない。

 俺の薬ももう残り僅かだ。あの毒の塊が城にぶつかれば、確実に国が滅ぶ。


 ハーピーの彼女の仲間と思われる女性が、必死になって俺の下まで飛んできた。

 さっきの《システムメッセージ》を聞いたのだろう。顔色が真っ青だ。


「ミィシャ!! ねぇ! この子は大丈夫なの!?」


「ああ、この子の毒は解毒したから大丈夫だ。だが、あの短時間で激しく体力と魔力を奪われている。安全な場所でポーションを飲ませてやってくれ」


「あ、あぁ! ありがとう! ありがとう!!」


 唯一助ける事が出来たハーピーの彼女を、同族の仲間らしき女性に手渡し、安全な場所まで運んでもらう。

 毒は取り除くことが出来たが、短時間でもHPとMPに受けたダメージが大きく、絶対安静が必要な状況だ。HPポーションとMPポーションを渡しておいたので後で飲ませて十分な休息を取れば大丈夫だろう。


 ようやく王城の壁まで上りきると、その間にも大樹に絡み付く手の数が増え、徐々に王城に球体が近づいていた。

 獣人達も毒によって近づけないが、それでも必死になって攻撃を仕掛けている。


「〈竜殺の吐息ドラグ・ノヴァ〉!!」

「〈爆風の吐息ブラスト・ロア〉!!」


 獣王親子がブレスを放ち、近衛兵達が衝撃波や斬撃を飛ばしているが、圧倒的な質量を相手では力不足。


「エクスマイザー!! 頑張って!!」


 ヨーコがエクスマイザーの両手を飛ばし、必死に抑えているがそれでもまだ力が足りない。

 

 近づくことが出来れば、全力でブースターを吹かして押し返すことも出来そうだが、エクスマイザーは無事でも、中にいるヨーコは無事では済まないからだ。


 かなり危険だが、やるしかないか。上手くいくかは博打に近い。

 俺はレヴァーテインと、『ロストドミニオン』を下段に構える。

 要はイメージの問題だ。今度は一本のジェット噴射ではなく、二本。イメージをしやすいように二刀流だ。戦闘機が飛ぶようなイメージ。


 手に持ったロストドミニオンから熱を感じる。横目で見ると、赤く発熱していた。


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


 気合を込めて、更に熱を高め、一気に放出する。


 ゴウッと視界も、音も置き去りにして紫色の煙に包まれた球体に迫る。

 途中で噴出を止めるが、勢いが強く慣性の法則に従って真っ直ぐに飛んでいく。

 ここまでは成功だ。問題は次からだ。ここから一気に押し返す必要がある。

〈波動剣〉を発動し、X状に斬りつける。


「ぬおおおおお」「おおおおおぉぉ」


 肉塊を大きく切り裂かれたノーフェイスは無数の手をまき散らしながら、僅かだがのけ反った。しかし、それ以上に大きく大樹が軋み、王城に絡み付いた触手が壁や屋根を砕きながら外れる。

 勢いが殺され、こいつを蹴って元の位置まで戻る。絡み付いた触手を外さないとダメか!


『誰か! こいつの触手を斬ってくれ! 頼む!!』


《心得た!》


 俺の呼びかけに答えてくれた声があった。聡さんだ。


 下から声がしたので見ると、え。

 ちょっとまて、あの人垂直に樹を走ってないか?


「ぬんっ!!」


 勢いよく聡さんは空に向かって飛んだ。 飛んだ!?

 空中へ飛び出た聡さんは、大樹を縛り付けている無数の手を束ねた触手に向けて両手を煌々と輝かせる。


「〈双哭・紫電大槍〉!!」


 両手から、数メートルもありそうな紫電の槍が放たれ触手の束が切り離される。切り飛ばされた手は雷を受けて、炭クズとなって散っていく。


「聡さん!!」


 大技を放った聡さんは、そのまま重力にしたが――わずに、空中でジャンプし、後ろ向きに勢いよく飛んで戻ってきた。流石格ゲー勢……壁走りに二段ジャンプからの空中ダッシュとは、常識はずれな動きするなぁ……。


「半分ほど上手く切り離せたが、正樹君。すまない。後一発放つにはゲージが足りそうにない」


 聡さんは申し訳なさそうに、視線をノーフェイスに向けながら謝るが、十分ですよ。貴方一人で触手半分切ってるんですから。


「十分です。それに、どうやら他の皆も集まってきたみたい、ですよっ!」


 迫ってきた触手を〈ソニックブレイド〉で切り裂き、聡さんが足から斬撃を飛ばして切り飛ばす。


「〈斬鉄脚・強断〉!!」


 逆側の触手には、ネメアーの輝く足が根元付近の触手を吹き飛ばし、上からはアデルが魔力を大きな鎌に変形させて一気に振り下ろしていた。


「〈レッド・クレセント〉!」


 真紅の鎌が真っ赤な三日月上の斬撃を描き、上層部に絡み付いた触手の束を斬り落とす。


「真ん中はうちの出番や!! 〈ブレイジング・フォール〉!!」


 司は手に持っていた、斧を天高く放り投げると、スキルの効果によって一瞬のうちに斧の元にまで向かう。

 そして錐もみ回転しながら、赤熱した斧を触手へと叩きつける。


 ブチブチブチィと千切れるような音を立てて、残った中層の触手の束は歌によって自己強化した司の斧スキル〈フォール・クラッシュ〉によって叩き切られた。


「許さぬ」「ゆるさぬ」「貴様ら達から」「ざんこくに」「惨たらしく」「しぬがいい」「死ぬがいい」


 城を捕まえていた全ての触手を壊されたノーフェイスは、触手の矛先を俺達に向けるが、伸ばした先から触手がはじけ飛ぶ。


「良い的だ!! ハエ型エイリアンに比べたら楽なもんだ! 撃って撃って撃ちまくれぇ!!」

「了解!! シュート!!」


 地上では、触手をジークと秋葉が撃ち貫き、束ねた触手は秋葉のロケットランチャーと、ジークのニトロボウによって吹き飛ばしていた。


「ぎゃおおおおぉぉーーー!!」


 すぐ傍ではクリスタがブレスを放って、薙ぎ払っていく。

 ジークやクリスタ、ネメアーに司が大樹の周りにいるという事は、レヴィアもいるな。


 マップで確認すると、レヴィアも聡さんと同じように大樹を垂直に駆け上り、ノーフェイスに向けて飛び、空中を漂いながら六枚の龍の羽根を具現化する。


「許さぬのはこちらじゃ。龍の怒りを思いしれぃ!! 〈タイダル・ロア〉!!」


 レヴィアが両腕を広げると、一瞬だけだが本来の姿。海神リヴァイアサンの姿になる。

 その姿は半透明で、実体を持っていないようだが力は確かに感じる。


 レヴィアが口を大きく開けると、青白い光を持った水のブレスが放たれる。

 圧倒的な水量のブレスは、竜巻の様に回転し削りながら、勢いよくノーフェイスを押し出していく。

 城から大きく吹き飛ばされたノーフェイスは、街の半ばまで押し出されていた。


 今だ! 今度こそ、一気に押し出す!!


 再びレヴァーテインとロストドミニオンに炎を宿し、今度は更に強く、熱く。

 魔力を液体燃料とガス燃料に分け、火をつけた液体燃料に、高圧縮させたガスを噴出させるようなイメージ。昔特番で見たのを思い出して……!


 ドンッと、身体全体を置いていくような感覚。上手くいったが……速すぎる! しかしこれなら……!!


 炎を止めても赤熱を帯びた二本の剣を、交差して球体を斬りつける。


「おおぉぉぉ!!」「おおおおお!!」


 呻くような声と共に、ノーフェイスが仰け反った。イケる!!

 交差状に斬りつけた後、スキルによって強引に身体を動かす。


「〈ヘキサ・スラッシュ〉!! 〈ペンタグラム・ブレイク〉!! 〈四連突〉!!」


 高速の二刀流による、六回切りからの、五回殴打攻撃。繋ぐように四回連続の突き。

 多段系スキルは一発当たりの攻撃力は低いものの、元の攻撃力値が高ければ高い程ダメージを増すスキルだ。【ブリタリアオンライン】では、大型ボスモンスター相当相手となると、その分、敵対心ヘイトを稼いでしまい、狙い撃ちにされやすいが、今この世界でそれが適用されても俺としても好都合だ。そっちの方がやりやすいからな。


 絶え間ない、連続攻撃に身体が軋むような音、剣が悲鳴を上げるような音が聞こえる。

 高速の連続攻撃によってノーフェイスは大きく押し出され、吹き飛ばされる。


「マサキ!! これも使って!! 〈スパイラル・シュート〉!!」


 勢いが弱くなりかけた所で、ヨーコがエクスマイザーの両手を組み合わせて飛ばしてきた。


「助かる!!」


 上手く足を乗せて勢いに乗ったまま、更に全力で剣の残像が残るほど速く交互に振るい、引いたかと思えばもう一本の剣がノーフェイスの身体を一歩、一歩と吹き飛ばす。


「おおおおぉぉぉ!! 〈飛燕三段脚〉!! 〈双牙〉ぁぁぁあ!!」


 絶え間なく放ったスキルを入れ替えながら、エクスマイザーの両手から飛び、右上段回し蹴り、からの左足による中段回し蹴り、最後に振り抜く形で右足の踵による回し蹴りがノーフェイスの身体を大きく吹き飛ばす。

 そこに追撃を掛ける形で、スキルモーションの動きにより、離れたノーフェイスに向かって一気に肉薄する。


〈飛燕三段脚〉は、上段中段下段と、三回の回し蹴りを繰り出す格闘系スキルで、相手の防御力を落とす効果の上に、多段系スキルの例外に漏れず、威力が高くボスモンスターに対して効果的にダメージを稼げるスキルだ。〈双牙〉の事を考えると、防御力を下げればさらに効果は出る。こいつ相手に防御力が下がるかどうかは知らんが、ボスモンスター相手にも下がったから多分効くはずだ。


 そして今放っている〈双牙〉だが、相手に一瞬のうちに近づき、両手に持った剣を同時に振り下ろすという単純なスキルの割に、異常に攻撃力が高いスキルだ。

〈双牙〉は、武器による重量によって攻撃力ボーナスが付くという特製を持っている。

 レヴァーテインの重量はそこまで重くない方だが、ロストドミニオンがかなり重い方に入るので、両手分の重量による攻撃力ボーナスが付く。

 

 エクスマイザーの拳が螺旋を描きながら、ノーフェイスを抉り、同時に俺の〈双牙〉による上段振り下ろしがノーフェイスの球体状の身体を削り取る。


「おおおお、おおぉぉ!!」「おおおおぉぉぉぉぉ!!」


 ノーフェイスの身体の半分以上が吹き飛んでいるが、それでもまだ濃厚な毒の煙は健在だ。むしろ濃さが酷くなっているうえに、白黒だった身体の色は時間が経つごとに紫色に変わり、同時に〈気配感知能力上昇〉が示す赤い危険度が増していく。


 城からは大分離れたが、まだ街の中だ。ここで落としたらダメだ。まだ、まだ遠くに! 人気がない、外へ!!


「おぉおぉ、なぜだ。何故俺だけ」「なんででわたしだけ。ひとりはいやだ」「嫌だ嫌だ」「しぬならみんなと」「逝くなら多くとおぉぉ」


 ノーフェイスはまるで子供が駄々を捏ねるように呻き声を上げ、触手を街中へ向け始める。不味い!! マップには多くの人の反応がある!!


「させるかぁぁぁぁ!! 〈波動の太刀〉ぃぃぃ!!」


 二つの剣を一つに束ね、全力で横薙ぎの一撃を叩きつける。

 ノーフェイスの身体と、〈波動の太刀〉が拮抗し街の上空で強烈な衝撃波が巻き起こる。


 今までの連続のスキルの所為で、MPが枯渇しかけているが、更に〈波動の太刀〉に魔力を込めて剣を纏うオーラを強める。


「はああぁぁぁぁ!! らぁぁっ!!」


 MPをギリギリまで使った一撃は、ノーフェイスの身体を大きく吹き飛ばすことに成功する。

 球体も半分以上が斬れ、辛うじて繋がっている程度だ。それでもまだ生きて……!?


 ノーフェイスは触手を街に向けて突き刺し、無数の手で地面を鷲掴みにしながら堪えていた。幸運にも、その攻撃で被害は出ていないが、まだ街中から出ていない。


 しかも、今の攻撃の反動の所為で俺の勢いが完全に止まり、空中に投げ出された。


 あと、あと一撃! 手を突き出すが、届かない。〈イグニス〉も〈ホーミングシュート〉も射程外だ。


 くそっ。魔法さえ使う事が出来れば……!


―――ワオオォォーーーーーン!!―――


この騒々しい戦いの中でどこまでも響くような狼の遠吠えが聞こえた。


 ―――ワオオォォォーーーーン!!―――ワオォォーーーン!!


 遠吠えが何度も何度も続き、その声が何処かで聞いたような声だと気づく。

 この声は……フェン? 声の正体に気付くと、ヨルムンガルドから『念話』が届いた。


《聞こえるか。異世界人、マサキと言ったか》


 何故『念話』が……、疑問に思っていると返事を返す前に続いて声が届く。


《急ぎ故、詳細は省く。汝の力はウロボロスの巫女から聞いておる。巫女の本当の力を使い、魔力嵐ガストを一時的に消し去った。心置きなく、やってしまえ》


 フェンの本当の力が気になるが、それは後回しだ。

 ステータスを見ると、本当に魔法が使えるようになっている。これならっ!!


 地面に直撃する寸前で『ウィング』を使い、地面すれすれを飛行する。

 そしてそのまま、ノーフェイスを支えている手を切り裂く。


「こうなれば」「この場で」「おおくを」「道連れにぃぃぃぃぃ!!」


 支えを失ったノーフェイスは、半壊の身体を震わせながら身体の色を紫から、血の様に真っ赤な赤色に変色させ、ドクンドクンドクンと鼓動を響かせる。

 爆発寸前だが、もう遅い!


 ノーフェイスの至近距離まで近づき、剣を突き出して残ったMPを絞り出しレヴァーテインとロストドミニオンに魔力を込める。


 意識が飛びかけるが、歯を食い縛り、堪える!


「消しっ……とべぇぇぇぇぇえ!!! 〈波動の太刀〉ぃぃぃぃ!!」


 束ねた2本の剣から、通常の〈波動の太刀〉とは違った極太の炎の束が生まれる。

 青いオーラを纏った炎はノーフェイスの身体を半分以上巻き込みながら、空へ空へと吹き飛ばす。




 炎は更に勢いを増し、ノーフェイスの身体を全て包み込む。






「あついあついあついあつい」「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」「うわあああああ」「あああアアア嗚呼ゝゝゝAAAaaaa!!」





 ノーフェイスは炎に飲まれたまま雲の向こうへと消え、レヴァーテインの炎が止むとそこには、禍々しい毒を吐く球体は完全に姿を消していた。焦げ跡すら残さない完全な消滅だ。


 雲がぽっかりと空き、魔力嵐ガストによって紫色に変色していた空は、レヴァーテインの炎と、フェンの力によって元の夜空を取り戻していた。


 終わった……と思っていると、手元に違和感を感じる。

 手元の『ロストドミニオン』に無数のヒビが入り、ついにはキィィィン!! と音を立てて砕け散った。


 なん……だと……。剣の霊圧が……消えた……。と言えるような出来事が手の中で起きてしまった。あ……消えかけてるのは俺のMPもだ……いかん、全ての魔力を使い切った反動が今きた……!


 俺は剣の柄を握りしめながら、『ウィング』を維持できずに空に投げ出され、意識を失ったまま地上へと落ちて行った。





これで獣王国での戦闘は殆ど終わりです。後は閑話的な物と、その他もろもろ(飯含む)です。

次の更新は……速くできればいいかなと思います。GWは仕事ですしね。

それでは、また次回!

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