貫くは白銀と赤の刃
連続投稿2話目です…と言いたいところですが間に合わなかったぁぁぁ!orz
茨の巨人と化した王鳥族の鋭い鉤爪が白銀の巨人――エクスマイザーに迫る。
「よっと!」
ヨーコは軽快な声を上げながら、鉤爪を両手で受け止め、がっちりと掴み取る。
茨の巨人はエクスマイザーを絡み取ろうと、茨を伸ばすがエクスマイザーがウォンと瞳を輝かせると、鉤爪がメキメキと異音を立てて握りつぶされていく。
「IAAAaa!!」
もう一体の茨の巨人がエクスマイザーの背後に回り、両腕から無数の茨をドリル状に変化させ、貫かんと襲い掛かる。
目の前にいる巨人も無事な腕から茨を伸ばし、エクスマイザーの腕に絡み付くが、ヨーコはエクスマイザーの上半身を捻り、グリンッと背後の茨の巨人を視界に入れる。
「せーーのっ!!」
ヨーコは前にいる茨の巨人の掌を掴みながら、背後に陣取るもう一体の巨人に向けて勢いよく投げつける。
「GUUUuuu!?」
「GIIIiii!?」
振り回された茨の巨人は、身体を茨で貫かれながらもう一体の巨人と激突し、空中で錐もみしながら市街地へと落ちていく。
そこに秋葉からの〈ウィスパー〉が飛んできた。
《ヨーコさん! 投げ飛ばすにしてももうちょっと方向を考えて投げてください! 運よく避難が済んだ広場だったからよかったものの、一歩間違えば私達が街を破壊する側ですよ!》
《ごめーん! 今度から気を付けるわ》
ヨーコは秋葉から入ってきた〈ウィスパー〉を、エクスマイザーのコクピットで受け取り、苦笑する。
〈ウィスパー〉は異世界人だけの固有スキルの様なものだが、使用するには制限があるもののヨーコも同様に扱えるようになっていた。
扱える切欠は、ヨーコがエクスマイザーと契約をしたのが大きな要因となる。
今は亡き『超合金』がプレイしていたゲームはVRMMOFPS【アーマード・トルーパーズ】と呼ばれるロボットをメインとしたゲームだった。
そのゲームの能力の内、ヨーコは搭乗している時限定の機能を扱えることが出来、〈ウィスパー〉もその中の一つだ。
操作に関しても、ヨーコはコクピットに乗ってはいるが備え付けのスティックを握るだけになっている。
しかし、【アーマード・トルーパーズ】の設定の一つに、搭乗できるロボットはそのプレイヤーのみという設定が存在した。
欲望のままに振るう『超合金』から、帝国の将軍達がエクスマイザーを強引に奪取できなかったのも、仮に奪ったとしても動かすことすら出来ない事を『超合金』から教えられていたからだった。
だが、エクスマイザーはヨーコが契約した式神だ。
エクスマイザーと心を通じ合わせたヨーコは、エクスマイザーの中に存在する搭乗者登録を契約の際にヨーコに上書きし修正した。
それにより、ヨーコはエクスマイザーのシステムに認められ、搭乗時のみエクスマイザーの固有スキルを扱う事が可能となった。
扱うことは可能でも、動かすとなると問題は別になるが、元よりヨーコはゴーレムや式神というモノを操る事に長け、触れているだけで思うとおりに動かすことが出来る。
下手にスティックを握り、プレイヤー達の様に操作するよりもただ握るだけに留めておいて、自分はエクスマイザーに張り巡らせている魔力の糸を操り自分の手足の様に操作する方がよかった。
その操作は、仮にもトッププレイヤーの一人だった『超合金』には不可能な動きも多く含まれており、手先から足先まで操るヨーコは人馬一体ならぬ、人機一体と化していた。
ヨーコによって投げ飛ばされた2匹の巨人が茨の翼を羽ばたかせながら、猛烈な勢いで戻ってくる。
破壊したはずの鉤爪も、茨に貫かれた胴体も再生しており憤怒の表情を浮かべながら向かってくる。
「あらま、本当に再生能力が高いわね。手を完全に破壊しちゃったのにもう再生しちゃってるわ。それなら――再生できないように完全に消し去るまでよ!!」
エクスマイザーに備え付けられているマップやブースター、戦闘スキルや武装なども〈ウィスパー〉同様にコクピット内にウィンドゥとして表示されて扱う事も出来た。
その機能の内の一つ、〈ロケットパンチ〉の文字を押す。
エクスマイザーは登録されたモーションに移り、両肘を引く。
「ロケットオォォ! パァァァンチ!!」
ヨーコの掛け声と共にエクスマイザーの両腕が突き出され、螺旋を描きながら飛んでいく。
本当は声は要らないのだが、こういったノリはヨーコは大好物なので遠慮なく叫んでいる。
飛んでくる両腕を2匹の巨人は避けようと翼を動かすが、両腕は巨人を的確に捕えた。
めり込んだ拳は回転し続け、巨人の身体を抉り続けつつ、地上から引きはがし空へと持ち上げる。
「地上でやったら、迷惑がかかるからね。悪いけど空まで付き合ってもらうわよ!!」
「「GUAAA!?」」
ロケットパンチによって無軌道に空を舞っていた2匹の巨人が、エクスマイザーの丁度真上で激突する。
「〈ボルト・ウェーブ〉!!」
2匹を捕らえると、エクスマイザーの両手が開かれ、バチバチと放電の渦を作り出す。
放電の渦に捕えられた2匹の巨人は逃れようと暴れるが、全身を電撃の鎖によって縛られ空中で固定される。
ヨーコはエクスマイザーに表示されるウィンドゥを操作し、点滅している〈バーニングビーム〉を押す。
エクスマイザーの目がウォンと輝き、視線を頭上で固定されている2匹の巨人に向ける。
輝きは徐々に強さを増し、大気を震わせ、エクスマイザーに備え付けられている全てのブースターが衝撃に備えて稼働を備える。
「いっけぇぇぇ!! バーニングゥゥゥ! ビィィィーム!!」
カッと周囲を埋め尽くすほどの閃光が走り、大気を切り裂きながらエクスマイザーの両目から極太の光線が放たれる。
光線は2匹の巨人を巻き込み、焼き焦がしていく。
焼き焦がす先から再生をはじめ、それもまた焼き切る。
極太のビームとはいえ、10メートルを超える巨体を飲み込むには無理があったのか、徐々にその場を逃れようと巨人達があがきだすが、未だ縛る電撃の鎖がそれを許さない。
火力不足を感じたヨーコは、もう一つの手札を切った。
「『術札:アグニの火』!! バーニングビーム、フルパワァァァーーー!!」
ヨーコ魔学者としての知識欲は、エクスマイザーを多種多様な独自調査によってある程度の事は判っている。
エクスマイザーに備え付けられているスキルについても、属性による強化が可能という事も。
『術式:アグニの火』は炎の神、アグニの紋章を描いた魔法の札を使って炎属性を強化する術式を行使することが出来る。
〈バーニングビーム〉は文字通り炎の属性を持っており、アグニの紋章の加護を受ける事が出来る。
加護を受けた〈バーニングビーム〉は、ヨーコの魔力を受け取って、更に光線の太さを、熱量を増して2匹の巨人の全身を飲み込む。
高出力のビームを出しているエクスマイザーは、全身のブースターを全力で吹かしながら堪える。
あまりにも威力が高すぎて、こうまでしないとエクスマイザー自身が地面に押し込まれるからだ。
―――プシュゥゥゥゥ………―――
閃光が収まると、冷却の為にエクスマイザーが排熱を始める。
空気を焼き、大気を貫き、天を穿つ極太の光線は、神の火と呼ぶにふさわしく、エクスマイザーは 2匹の異形の巨人を完全に焼き尽くしたのだった。
◆◇◆
アデルとノーフェイスの戦いは一進一退を繰り広げていた。
アデルの斬撃は易々と、ノーフェイスの茨を切り裂くが再生力と数が茨の巨人とは段違いに高く、逆にノーフェイスの攻撃はアデルに対して全くと言っていいほどに当たらなかった。
周りを飛び回っていた王鳥達もアデルを追いかけるが、空に生きる王鳥達でさえアデルに追いつくことが出来なかった。
「「ちぃ、羽虫の様にちょこまかと!! 王鳥! 何をしているのです!! 数を生かして囲みなさい!!」」
「デ、デスガ! クッ! ナンテ速サダ!」
アデルの速度は王鳥族を遥かに上回り、茨の攻撃を圧倒的な速度で避け続けていた。
アデルを追いかけるのに集中していた王鳥達だが、それを後ろから鉄で出来た筒状の物体が追ってくるのに気づくが、既に遅く。
ズドォォォン!!
「ギャァァァァ!!」
一匹の王鳥を中心に、爆音が響き渡り、爆発に巻き込まれて多数の王鳥達が粉々に吹き飛ばされる。
王鳥達を吹き飛ばしたのは、秋葉が放った“スティンガーミサイル”だ。
RPG(対戦車ロケット弾)や、ロケットランチャーに比べて誘導性が非常に優れ、放てばあとは自動で追尾してくれるという強い誘導性能を持っている。
空を飛びまわる王鳥族を打ち抜くよりは、こちらの方が手間が省け、まとめて処理が出来ると秋葉は判断し、狙撃用のライフルより“スティンガーミサイル”を採用した。
その結果、アデルの周辺で爆発が巻き起こり、見る見るうちに王鳥族の数が減っていく。
秋葉を危険視した数人の王鳥族もいたが、あえなく持ち替えた狙撃用のライフルによって眉間を打ち抜かれて墜ちていく。
秋葉とアデルにノーフェイスは苛立ちながらも、茨の竜を大きく無数に展開してアデルを囲い始める。
切り落とされた茨が次々と茨の飛龍に変化し、徐々にアデルを追い詰める。
「「悪あがきもここまでです!! 同胞と同じく物言わぬ躯と成り果てろ!!」」
アデルの上下左右から飛龍と竜の咢が一斉に襲い掛かった。
その戦いを見ていた王城の騎士、城下町の冒険者達は女性が一方的に嬲られ、殺される姿を幻視して思わず目を伏せてしまう。
しかし、幻は幻。現実にはならなかった。
「――アックス」
アデルは剣に纏わせた魔力の形状を変える。
魔力は剣を軸に粘土の様に形を変え、巨大な両刃斧の姿になる。
アデルは真っ先に襲ってきた竜の咢に向け、斧を振り下ろす。
斧は重さを感じさせない程に素早く振り下ろされ、ズシャァと勢いよく竜の頭を切り裂いた。
振り下ろされた魔力の斧は既に形状を変化さえ、鋭い穂先を持つ槍へと形を変え、牙をむける飛竜に向けて槍を突き出す。
槍は飛竜の額を貫き、アデルが魔力を込めると槍全体に赤い魔力が渦を巻く。
「ハァァァァァア!!」
渦を巻く魔力が勢いを増して穂先に集まると、横向きの暴風が巻き起こり多くの飛竜達が風に巻き込まれてバラバラになっていく。
アデルは迫りくる茨の異形に対し、最も的確な武器へと形状を変化させ、次々と仕留めていく。
ある時は剣で切り捨て、ある時は双剣で2匹の鳥型を切り裂き、無数の蝙蝠型に対しては魔力を剣先から三日月上に変化させて飛ばし、打ち落とした。
武器を変えながらの剣舞は、まるで劇の一幕のようだったが決して見せ掛けだけの剣舞だけではなく、的確に敵を仕留めるための剣舞だった。
一振りごとに茨の竜が切り落とされ、飛龍の翼が切り裂かれて落ちていく。
最後に向かってきた一際大きな茨の竜の首を切り裂きながら、アデルはノーフェイスに向けて肉薄し、鋭く、早く剣を振るう。
ノーフェイスは茨を切り捨てて避けるが、アデルの剣先から魔力の刃が放たれて肩に傷を負った。
ノーフェイスは、王城を囲む城壁まで茨を伸ばして自分を引き寄せ、アデルから一気に距離を置いた。
「浅かったか……! だが、次は仕留める」
「「マグレ当たりの分際で、図に乗るなぁぁ!!」」
ノーフェイスは激昂し、自分たちの周辺を飛び回っている茨のモンスター達に向けて茨を伸ばす。
茨はモンスター達を飲み込むように絡み付き、次々と喰らっていく。
喰らう度に茨は太くなり、刺の数も増えていく。
勝負に来ると感じたアデルは、剣を自分の前に掲げて魔力を込める。
強く、硬く、鋭く、そしてしなやかさを強くイメージ。
アデルが目標にしたのは、聡から教えてもらった日本刀だ。
西洋の剣は叩き切るのをメインとしており、日本刀の様な滑らかな切れ味は出すことが出来ない。
アデルの剣『ドラクル』であっても、切ることは出来るが名刀と呼ばれる日本刀までの切れ味は出すことが出来なかった。
聡は日本史に造詣が深く、趣味の範囲でだが日本刀に関しても深い知識を身に着けていた。
アデルは日本人である聡の助言により、様々な武器の形状に変化させながら、能力の練度を磨き上げていった。
その中で一番困難だったのが、日本刀だ。剣にはないしなやかさという概念はアデルを非常に苦しめた。
しかし、それでもアデルは日本刀の切れ味を目指して毎日精密な魔力の鍛錬を行い、つい最近になってやっと実践に使う事が出来た刃は、上位の狂獣の鱗でさえ切り裂く強靭な刃と化していた。
ノーフェイスは周囲に展開していた茨をも使い、大きさだけならリヴァイアサンやヨルムンガルドに匹敵する巨大な竜を作り出す。
「「ぶっつぶれろぉぉ!!」」
男女の入り混じった荒々しい怒鳴り声を上げて、巨大な竜の咢をアデルに向ける。
アデルは赤い粒子をまき散らしながら避け、首筋に剣を振るう。
ザシュっと勢いよく茨の竜の首が裂け、緑色の体液が飛び散るが再生力が今までの茨とは段違いで目の前で直ぐに塞がった。
しかし、アデルは焦ることなく冷静に、鋭く魔力を剣に纏わせる。今度は真っ直ぐに、最も鋭くイメージを固める。
「もっと速く……もっと鋭く……!! ハァァァァッッッ!!」
再度竜の咢がアデルを襲うが、それよりも、速く鋭い神速の速さで竜の額を細剣で貫く。
アデルの持つ刀と化した剣が真っ赤に光ると、茨の竜の表面に血管の様な光が走り出した。
その光は茨の竜全体に伸び、ノーフェイスの腕まで光が及び、警戒の色を強める。
「「これは!?」」
「その身に受けろ!! 〈真紅の聖痕〉!!」
光が走った場所が隆起する様に盛り上がり、次々と赤い刃が内側から茨の竜を切り裂いていく。
このままでは危ういと感じたノーフェイスは茨を切り落とそうとするが、既に遅く右腕の先が盛り上がり始め、ズシャリと赤い刃がノーフェイスの右腕を切り裂いた。
アデルが行ったのは、ラーフの街で魔族軍を率いていた女性、アスタに教えてもらった一部の魔族にしか扱えぬ秘伝〈魔力供給〉という本来は魔力を分け与えるスキルだ。
〈魔力供給〉を行う際、相手の魔力の波動を読み取って自分の魔力と波長を合わせる必要性がある。
そうしなければいくら魔力を送っても、相手の魔力は回復せずにそのまま相手の体内に自分の魔力が留まり、最終的には霧散してしまうからだ。
しかし、アデルは逆にそれを逆手に取った。
魔力の波長を完全に合わせず、相手の体内で魔力を残した。
そこにアデルが持つ固有スキル〈魔力凝固〉を使用すれば――魔力が固形化し、膨張した魔力の塊が体内から相手を吹き飛ばすこととなる。
いかに強靭な鱗や皮を持った相手としても、内側は弱い。
神龍を模した茨の竜は、全身をズタズタに分断され、地面へと落ちていく。ここまで切り裂かれては如何に強靭な再生力を持ってたとしても、もはや再生は不可能だ。
「「グァァァァァァァッッッ!!」」
右腕を切り裂かれたノーフェイスは、痛みで悶絶しながらもアデルへの殺意を高めどす黒い殺気を放ちながら我武者羅に残った茨を振り回す。
「「死ね!! 死ね!! シネェェェッェ!!」
「死ぬのはお前だ!! 散れ!」
アデルは嵐の様な茨を掻い潜りながら、赤い残光を残してノーフェイスの懐に飛び込み細剣を太刀、いや、確実に切り裂くべく自らの身長よりも大きな野太刀を作り出し、振りぬく。
赤い刃が一閃し、ノーフェイスの身体に赤い光が走る。
顔を隠していたフードが、攻撃の拍子に外れる。
黒だった。顔、というモノは見えず顔がある部分にあるのは辛うじて判る程度の線で構成された作り物の目と口。後は全て真っ黒でそれは顔とはいえるものではなかった。
名前の通り顔無しは信じられないと、真っ黒な表情の中、初めて白い目を見開き、驚愕の表情を浮かべ、上半身と下半身が別々に宙を舞った。
感想・誤字報告・ポイントなどをくださるとモチベーションの維持につながるので大変ありがたいです。
考えていたエクスマイザーの本領を発揮できた回です。元ネタを色々探ると楽しいかもしれません。
あ、これで完全決着ではありませんので、待て次回! 2巻作業後に!




