獣王
毎度大変お待たせしております。世の中は連休という事なので、連日投稿一回目です。
正樹達が天井の穴から飛び去り、しばらく経った頃、土の大神殿の地下深部では土の中に埋められた神官達が次々と、その場に騎士達によって助け出されていく。
「すまなかった……。何と詫びをしていいか」
「いえ、……貴方がたの方もつらかったでしょうに……」
中には手遅れの者もいたが、騎士達は手を土まみれにしながらも丁寧に掘り出していた。
動ける神官達は深部に溢れる地下水を組み、簡易的な治療を始めていた。
フェンも手伝おうとしていたが、正樹達が出て直ぐに手足に鋭い痛みにより膝を着き、今はザランディ大司教に支えられていた。
「あぅぅ……、ごめん……なさい。私も手伝わないと……いけないのに……」
「フェン、大丈夫ー? ねぇ、おじさん。フェン大丈夫だよね?」
「ああ。大丈夫だ。無理せずゆっくりと休みなさい」
ザランディがフェンの頭をゆっくりと撫でながら、アリスにも優しい笑顔を浮かべる。
(だがこれは、むぅ……)
ザランディの見立てによると、この細すぎる少女の肉体には信じられない程の信仰力が満ちていた。
生まれつき一定の信仰を持った神官や巫女は極まれに現れる事がある。
ザランディ自身も、生まれつき一定の信仰力を身に着けていた。
しかし、目の前にいる少女がこれほどの信仰力を身に着けているのは、ザランディも長年生きているが初めてだった。
(なんという力だ。この子は上位の土地神に匹敵するほどの信仰力を蓄えておる。やれやれ、このような幼子に儂の力を上回れるとはのぅ。しかし、不味いな……)
ザランディの見立て通り、強すぎる信仰力がフェンの身体を蝕み、痛めつけていた。
今まで動けていたのが不思議なほどで、緊張の糸が切れた所為で自分の身体の異常に気付いたのだろうと、ザランディは判断しつつ気休めにと、フェンに回復魔法を直接触れながら施していく。
魔力嵐の影響はヨルムンガルドの張った結界によって抑え込まれているが、怪我ではないものを癒すことは出来ず、痛みを軽減させるのが限界だった。
ヨルムンガルドはすっとフェンの近くまで頭を下げ、じっとフェンの身体を見つめる。
《――今、楽にしよう。如何にウロボロスの加護を持つとはいえ、過剰すぎる力は辛かろう》
フェンとアリス、ザランディの三人のみに声を伝え、ヨルムンガルドは髭を操ってフェンの身体に触れた。
すると、フェンの身体から光の本流が間欠泉の様に立ち上る。
何事かと周囲の騎士や、神官達は目を見張り、動きを止める。
光は徐々に収束し、フェンの胸元に集まり……一つの小さな宝玉と形を変えた。
「ぁ……身体が……楽になりました」
「ヨルムンガルド様、これは……?」
ザランディは、目の前に現れた美しい宝玉に目を奪われる。
宝玉は純白で一見すると巨大な真珠にも見えるが、手に触れようと思っても畏れ多く、触れる事が出来ない存在感を醸し出していた。
《その娘に眠る信仰力を儂の力で覆い、封じ込めた物だ。常時離れぬように付加も掛けておる。――まさか再びこの力と出会えるとは……長生きするモノだ。もっとも、術を掛けたのは儂ではないがな。これほどまでの力を抑え込みつつ、儂の力に割り込みするとは。余程この娘を気に入っていたようだな。ウロボロスの奴め》
「ウロボロス様が……?」
フェンは、物心がついた頃からウロボロス教団の巫女として仕え、毎日真摯に純粋にウロボロスへ祈りをささげていた。
それは、教団が無くなり、ネメアーと共に逃げた時も、正樹達と出会った後も毎朝の日課として行われていた習慣だった。
フェンは自分たちを見守っていてください。という純粋で、決して多くを求めない願いと共に。
ネメアーも、正樹もそれは止めずに好きにやらせていた。
ネメアー自身も教団の神官であり、旅する中、自身の調べた文献では知識の龍としてあがめられ、時代の神官達の考えにより歪められていることが判り、生贄も何も捧げない献身的な祈りだけならばと特に何も言う事はなかった。
正樹も日本が多神教という事もあって、害さえなければ全く気にしない方だ。
「ヨルムンガルド様、ご無礼ながらお聞きします。ウロボロスとはあの邪龍と呼ばれるあの? それにこの少女の力に関して、心当たりが……?」
《うむ。ウロボロスで間違いない。だが、それは正しき呼び名ではない。奴の名は蛇龍ウロボロスだ。歪められた名が広まってしまったが、お主達だけでも覚えてやってくれ。奴も案外、さびしがり屋なのでな。加護も無欲な祈りの賜物だろう》
「あの龍が寂しがり屋って……何というか想像がつかないよ」
アリスの言うとおり、まさか邪龍、もとい蛇龍がさびしがり屋という事実をヨルムンガルドから教えられ、フェンやザランディは勿論、楽観的で余り物を考えないアリスでさえ戸惑ってしまった。
(もしや、ウロボロスがこの子を気に入っていたのは……教団が滅んでなお、ずっと覚えて、崇めていたからなのか? いや、まさかな)
ザランディの脳裏に一瞬過るが、あまりにも人間味があり過ぎてありえないと思考を振り切る。
それが真実というのは、知らない方が幸せという事もある。
《そして、その子の力に関してだが……フェンよ。お主は自らの力と向き合う勇気はあるか?》
「私の……力……」
フェンは自分の小さな手を見る。
今までは誰かにずっと守ってばかりだった。
物心がついた頃から、表情は怖いが常に自分を守ろうと必死だった闇の神官のおじさん達。
お付きとなってから教団の中でのお世話、脱走の手引き、旅する中でずっと守ってくれたネメアー。
初めて、自分の家族となってくれた正樹。そして優しく仲良くしてくれたみんな。
不意にフェンの後ろ髪がくいくいっと引っ張られる。
振り向けば、フードの中からひょっこりと顔を出すアリスが見える。
「フェン。どんな力を持ってたとしてもずっと友達だからね!」
自分より小さい身体で、よく自分と一緒にいて守ってくれた友達のアリス。
「ヨルムンガルド様……んと……私の……力で皆さんのお役にたつことが……出来ますか?」
《可能だ。此度の騒乱、収めるにはお主の力が必須となるだろう》
フェンはもう一度、アリスの方を向くとアリスは自信たっぷりに頷く。
根拠はないだろうが、アリスの自信満々な笑顔にフェンの勇気が後押しされる。
「……教えて……下さい。私の力の事を」
《よかろう。娘、フェンよ。お主に眠る力は、狼人族だけではない。お主の中には――大狼族の血が。我が友、ハティルスに連なる尊き血が流れておる》
◆◇◆
一方その頃の城内では、惨劇が繰り広げられていた。
「軟弱軟弱軟弱ぅぅぅぅぅ!!」
「ヒギャァァァァ!?」
「遅い脆い弱い!! 多少なりとも強くなったようだが、この程度では儂の相手は務まらぬわぁ!!」
千切っては投げ、千切っては投げと言う言葉が相応しいように黒い鱗を身に宿した王鳥族達が吹き飛ばされていく。
嵐の中心地にいるのは現獣王ヴォルガンフ・ハティ・ベオウルフ。
王族でありながら積極的に前線に赴き、数多の侵略者、災害級のモンスターや狂獣を打ち倒した獣人族の覇者。
戦いを見た冒険者や新人の兵士達は口をそろえてこういう。
「王こそが災害だ」 と。
既に数十体は襲ってきたのか、豪華絢爛だった政務室は血に塗れ、頑丈な机は粉々に砕かれている。
当初は騎士達が自らを守ろうと駆け込んできたが、自分よりもメイドや文官達を守れと指示を出した。
王を後回しにするという常識外れな事に、流石の騎士達も戸惑ってはいたが暴れまわるヴォルガンフの姿を見て、この場にいても巻き込まれる上に邪魔にしかならないと判断し、未だ逃げ回る非戦闘員を守る為に騎士達は散開していった。
茨で出来た虎の様なモンスターも斧の一振りで薙ぎ払うと、不意に足元に軽い振動と何かが迫る予感を感じる。
(上、いや、横!!)
ヴォルガンフは脚に力を込め壁際まで飛ぶと、先ほどまでヴォルガンフがいた場所に無数の茨の槍が床を貫き現れた。
茨は黒く染まっていて、茨の槍は天井付近まで達していた。
茨は自身が意志を持ったかのように曲がり、先端をヴォルガンフへ向け迫ってくる。
「小賢しいわぁぁぁ!!」
ヴォルガンフは怒声と共に斧を一閃。
黒い茨は激しい斬撃を受け、バラバラになるがその中にヴォルガンフは別の気配を感じる。
「ぬんっ!!」
「チィ!!」
ヴォルガンフは咄嗟に斧を振り回すと、ギィィィィン!! と鋭い金属音が鳴り響く。
茨の波の中に潜んでいたのは、怨霊騎士と化したザンドだった。
「しばらく見ぬうちに随分と不健康そうな身体になったものだなぁ! ザンド!!」
「オオオオゥゥゥゥゥ!!」
ザンドは素早く離れ、黒く染まった翼を羽ばたかせると、暴風の様な風が執務室に巻き起こる。
赤いカーペットを真空の刃によって切り裂きながら、暴風がヴォルガンフに迫る。
迫るのは暴風だけではない。黒い茨も床板を砕きながら迫っていく。
対するヴォルガンフは避けるでもなく、息を大きく吸い込む。
「〈竜殺の吐息〉!!」
暴風と黒い茨に向け、ヴォルガンフは圧倒的な破壊力を持つ業火のブレスを解き放つ。
業火のブレスは暴風もろとも、茨を消し飛ばしながらザンドに直撃し政務室の壁に大きな穴を空けた。
「っ!?」
ヴォルガンフの足に鋭い痛みが走る。
視線を足元にやると、足先から黒い茨が生え、足の甲を貫いていた。
「フンッ!!」
ヴォルガンフは斧を振り下ろして茨を斬り飛ばす。
「「良くここまで戦えるものですね。流石、獣王とよばれるだけはありますね」」
ブレスによって、巻き起こった粉じんの中から男女が入り交ざった声が響く。
粉じんが収まるとそこには、幾つもの茨の壁によって守られたザンドと、ノーフェイスの姿があった。
「狼藉者に褒められてもうれしくとも何ともない。そんな事よりも答えろ、何が目的でこのような事をする!! ザンドに何をした!」
「「本当は別の目的がありましたが、生憎と余計な邪魔が入ったのでねぇ。代わりと言ってはなんですが、この地に飽くなき騒乱を生み出させてもらいます。その為に、獣王。貴方の命をもらいますよ」
「儂の命だと?」
「ええ、獣人にとっては長、または王の命は何より尊き者。獣人は獣の因子が強く、強きリーダーに従う性質を持っているのは知ってます。しかし、獣人は王を失えば、多種多様の種族が新たな王の座を奪い取ることになるでしょうね。さぞかし、多くの血と絶望が流れるでしょう」」
「貴様……!!」
「「ザンド公爵も本来は私たちの駒の一つとして扱う予定でしたが、いかんせん身体が弱い。病気によって死する駒なら、最初から死霊にして使役した方が断然楽という物です。いやぁ、楽しませてもらいましたよ。散々私達の事を信じて、薬を配下の者達に飲ませ、私達に献上してくれる健気な姿は。絶望に死する様子も、実に面白い道化でした」」
「この下種がぁぁぁ!!」
ヴォルガンフは怒声を上げながら、ノーフェイスに向かって飛び、斧を振り下ろす。
斧がノーフェイスの頭に直撃する瞬間、ザンドが割って入り、爪で斧を弾き飛ばした。
「ザンド! そこを退け!!」
「オオォォォ!!」
「もはや言葉も通じぬほどに堕ちたか……! ぬう!」
ヴォルガンフは後ろに飛び退くと、今さっきまで立っていた場所に無数の茨の槍が床板を貫いていた。
「「ヴォルガンフ王。貴方も直ぐに彼と同じ、怨霊騎士の仲間入りにしてさしあげましょう。竜人である貴方です。さぞ、強力な怨霊騎士になるでしょう」
ヴォルガンフを狙って、床板や壁から無数の茨が迫ってくる。
まるで津波の様に襲い掛かる茨、更にはその波に乗るようにザンドが襲い掛かり、徐々に手傷を負わせ、ヴォルガンフを追い詰めていく。
ヴォルガンフも斧を振るい、ザンドの爪を弾き、茨を両断するが、それよりも速く茨が再生し、ザンドの怒涛の攻めによって血と共に体力を奪われていく。
ヴォルガンフを壁際にまで追い詰めると、ザンドの爪、茨の波が一斉に襲い掛かってくる。
「ぬおおおお!! 〈ドラグ・ブレイブ〉!!」
ヴォルガンフは斧を上段に構え、渾身の力を込めて斧を振り下ろす。
竜の気が籠った一撃により、ザンドの右肩から先が吹き飛び、更に茨の波が真っ二つに割れる。
斬撃はノーフェイスにまで届き、彼の身体を斜めに切り裂くが茨の壁によって威力を殺された斬撃は、彼の身体に軽い裂傷を負わせる程度に留まった。
ノーフェイスは自身が怪我を負ったことに驚きつつも、ニィっと邪悪な笑みを浮かべる。
「「ぐっ……! まさか、まだこれほどの力を持っていたとは。やはり獣王と言うのは侮れませんね。しかし、王手です」」
「何っ!?」
ドンっと大きな音と共に、ヴォルガンフの背面の壁が崩れ、巨大な手が伸びる。
手はヴォルガンフを握りしめたまま、外へと引きずり出す。
「ぐっあぁ!」
巨大な手の正体は、ラーフの街でも暴虐の限りを尽くした巨大な人型の茨。
それを改良したもので、王鳥族の力を取り込み、背中に翼を生やして飛行能力を得た茨の巨人だった。
茨の巨人はギリギリとヴォルガンフの身体を握りしめ、ヴォルガンフは逃れようと両手足に力を込める。
「ぬおおおおぉぉぉぉ!!」
「「ほう……まさかこれほどの力をまだ持っているとは」」
ノーフェイスの目の前で、ヴォルガンフは万力の如く握りしめる手を強引にこじ開けていく。
「「しかし、貴方なら脱出出来るでしょうが、彼女はどうでしょうかねぇ。ふふふ」」
ノーフェイスが楽しげに笑うと、城の壁が大きく吹き飛ぶ。
壊れた城の壁から現れたのはもう一人の茨の巨人。
その手には綺麗なドレスアーマーがズタズタになり見るも無残な姿になった、麗しい虎人族の女性が握りしめられていた。
巨人が出てきた穴から、傷だらけで瓦礫に手を掛ける熊猫族の大男が姿を現す。
「っ……!? ルーチェ! トントン!!」
茨の巨人の手に握られていたのは獣王国ワイルガード王妃、ルーチェだった。
「陛下……。私の力が及ばず……ルーチェ様を……申し訳ありません……」
熊猫族の領主、トントンは悔しさと無念で膝を着き、必死に倒れそうな身体を支える。
「「さぁ、獣王。最愛の者を失う苦しみに貴方は耐えられますか? ふふふ獣王の怨み、妬み、怒り。さぞ、甘美な怨霊となるでしょう」」
黒一色の表情で、口元をおぞましく歪めるノーフェイス。
「「やりなさい」」
「やめろぉぉぉぉぉ!! くそったれがぁぁぁ!!」
ノーフェイスの指示の通り、茨の巨人はルーチェの身体を握りつぶさんと力を込める。
ヴォルガンフもまた、巨人によって両手で掴まれていたが渾身の力を込めたヴォルガンフの力は凄まじく、ヴォルガンフの両腕から血を噴出させながらもこじ開けていく。
ヴォルガンフの慟哭と、ノーフェイスの笑い声が響く中、キィィィィィンと風を切るような音が轟いた。
その音に遅れるように二人の声がヴォルガンフの耳へと届く。
「父上ぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!」
「ヴォルガンフゥゥゥッッッッッ!!」
その場に現れたのは、巨大な白銀の拳の上に乗った二人の獣人、シリウスとシーザー。
「「ハイ・Xスラッシュ!!」」
二人は互いの剣をX状にクロスさせながら、ヴォルガンフを捕らえている茨の腕を切り落とす。
「「あの腕は!? ぐはっっ!!」」
驚くノーフェイスだが、立て続けに強力な衝撃を胸に受け吹き飛ぶ。
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数メートル吹き飛んだところで、体勢を整えると、胸からは鋼鉄の弾丸がポロリと落ちる。胸部からは紫色の血が出血しており、茶色のローブを黒く染める。
自分を狙撃したと思われる方角を見ると、片腕を無くしたエクスマイザーと、遥か後方の建物に立ったままスコープを覗き、対物ライフルを構えている秋葉の姿を見つける。
「「エクスマイザー! それに『狙撃姫』ですか」」
その間も白銀の腕はUターンし、シリウスとシーザーはヴォルガンフを抱えたまま、大穴の空いた王城へと飛び乗り、白銀の腕はエクスマイザーの腕に戻っていく。
「父上!」
「シリウスか! いろいろ言いたい事があるが後だ! 二人とも、儂よりもルーチェの方に!!」
「ヴォルガンフ。大丈夫だ。あちらなら既に」
シーザーが言い終わるよりも速く、もう一体の茨の巨人の腕に赤い閃光が走る。
ズルリと、茨の腕が斜めに切れ、ずれおちる。
茨の巨人の手には既に、ルーチェの姿はなかった。
茨の巨人から少し離れた位置から女性の姿を見つける。
そこにはルーチェを片手で抱きかかえ、血の様に赤く、何処か心を引き付けるような剣を持ったアデルの姿があった。
アデルの背には赤い帯状をした、幻想的な翼が生えており、翼からは赤い粒子が重力に従って落ちていく。
「おぉぉ……」
幻想的な様子に、トントンは危機的状況と言うのに見惚れてしまっていた。
アデルはゆっくりと、トントンの下へと飛び、片手で支えるルーチェを差し出す。
「彼女をお願いします。外傷は多いようですが、気を失っているだけの様です」
「はっはい! 有難うございますっ!? 後ろ!!」
「分かっている。はぁぁぁっっっ!!」
アデルは自分の背に迫っていた黒い茨の束を、振り向きざまに剣を薙ぎ払い、同時に発した魔力の刃を飛ばして粉々に吹き飛ばす。
硬質化した魔力の刃は、ノーフェイスに向かって飛ぶが、腕を切り落とされた茨の巨人が間に入り、その巨体で受け止める。
深々と切り裂かれた巨体は見る見るうちに再生し、元通りに戻ったが、ノーフェイスの表情は怒り一色に染まっていた。
「「吸血鬼風情が……邪魔を!! 王鳥!! 何のために貴方がたにその身体を与えたと思っているのです!! 叩き潰しなさい!!」」
ノーフェイスは怒りを露わにし、完全に再生した茨の巨人たちをアデルに差し向ける。
「GAAAaaaa!!」
2体の茨の巨人が雄叫びを上げながら、アデルに向かって殺到する。
そんな巨人に対しアデルは焦り様子もなく、冷静に剣を構えていたがふっと、突如構えを解いた。まるでもうその必要がないかのように。
巨人の凶悪な魔の手が、アデルに届くよりも速く、別の手が飛び込んでくる。
「スパイラルゥゥゥ!! シュゥゥーートォォォ!!」
エコーのかかった声、そしてズゴォォ!! と轟音と共に白銀の両腕が茨の巨人の横腹に穿たれた。
両手をがっちりとかみ合わせ、高速回転するロケットパンチは一体の茨の巨人の胴体を抉り穿ちながら、吹き飛ばす。
アデルに遅れて到着したヨーコは、ガシャンガシャンと両腕をエクスマイザーへと戻し、空中で停止しながらアデルに並ぶ。
「アデルー! 雑魚は秋葉が引き受けてくれるみたいだから、こっちは2体とも私が引き受けるわよ。だから、そっちを済ませちゃいなさい」
「ああ、判った。しかし、大丈夫か? アイツらの回復能力は尋常じゃないぞ」
「あっちが尋常じゃない回復量持ってるとしても、この子なら大丈夫よ。そうでしょ、エクスマイザー」
ヨーコの威勢のいい声に、エクスマイザーが応えるようにウォンと瞳の軌道音を鳴らす。
「そうか。なら、頼んだ」
「頼まれました!!」
ヨーコは体制を整いなおしつつある茨の巨人たちに向かって、エクスマイザーを走らせる。
「「一人で私に挑むとは、なんと愚かな。力の差が見えないようですねぇ」」
「その言葉、そっくりと返そう。力の差が見えないのはお前の方だ。人質を取る姑息な真似をする奴の相手なぞ、私一人で十分だ」
アデルは剣先と鋭い眼光をノーフェイスに突き付ける。その真紅の瞳は自信に満ち溢れていた。
それがノーフェイスの琴線に触れたのか、怒りを主張する様に無数の茨がノーフェイスの背から飛び出てくる。
「「吸血鬼風情が調子に乗って……!! ヴァレンタイン皇国諸共滅んでしまえばよかったですが、ここで殺してしまえば同じこと!! いいでしょう。貴女の死体をあの英雄気取りしている異世界人の前に晒して、奴も絶望の淵に落としてあげましょう!!」
ノーフェイスが袖を振るうと、背中の茨が全て竜の頭に変化し、一斉にアデルに向かって襲い掛かる。
アデルは帯状の翼に魔力を込め、赤い軌道を描きながら向かい打つ。
夕日が沈みつつある獣王国の空にて、茨を従える異形と赤い閃光のヴァンパイア騎士がぶつかり合った。
念願のエクスマイザーの戦闘が次回入ります。スーパーロボット○戦はじまるよー!
あ、今2巻の方の作業に入ってますので、明日の投稿でまた一か月ほど空きます。
感想も全部読ませてもらっていますが、仕事の方で人手がゴリっと減ったので中々仕事が大変です。毎日朝7時前に仕事して夜7時過ぎに帰るのは嫌や……。




