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怨霊騎士

                                                 


「GAAaaa!!?」

「!?!?」



 俺とパラケルススが巻き起こした衝撃波の波が左右にいたアンデッド達を吹き飛ばした。

 ドラゴンゾンビの身体が燃え、スカルジャイアントの頭が何処かへ吹き飛んだ。

 巨鳥のゾンビは炎に飲まれ、燃え尽きた。

 恐らくこのアンデッドの中で強いと思われる奴らでさえこれだ。


 周囲を取り囲んでいた脆弱なアンデッド達は、衝撃波の巻き添えで大半が吹き飛ぶ。

 骨やらボロ布やらが消し飛んで、土の大神殿前がすっきり片付いた。


「aaa……」


 無事なのは俺とパラケルススの背後にいるやつらくらいか。

 それでも余波で腰と言うか腰の骨が抜けている。スケルトンがそれでいいのか。


 正直、これは予想外の攻撃力だ。

『セブンアーサー』の多段攻撃もGM装備とスキルによってとんでもない火力を持っていたが、この『レヴァンテイン』はそれ以上だ。

 周辺の家が燃えているが、これは俺の所為じゃない。うん。こいつらの仕業です。


「それがレヴァンテインの力ですカ。恐ろしい力ですネェ」


「それに関しては同感だが、それはお前が言える台詞じゃないだろ」


 切り結んだパラケルススも大概だ。

 レヴァンテインを杖で易々と受け止め、杖には傷一つ入っていない。

 見た目術士にも見えるが、細腕から繰り出される怪力に気を抜けば押し切られそうだ。こっちはこれでも相当力を込めているというのにっな!


「ぬオッ!?」


 鍔迫り合いの状態から、レヴァンテインに魔力を込めると、刃に纏っていた蒼炎がゴウッっと勢いよく燃え上がる。

 持っているだけで熱そうだが、意外と熱さを感じないな。『スルトの誇り』か《無敵》の所為かどっちか判らないが、調べるのは後回し。

 

 レヴァンテインの扱い方は自然と剣自身が教えてくれた。こうすればいいという感じで、前から知っているかのように頭に流れてくる。


 蒼炎は意志を持ったようにパラケルススに襲い掛かるが、咄嗟に後ろに飛び退く。

 焼き損ねた炎が地面と衝突し、パラケルススの周囲にばら撒かれるが、細やかなステップで回避される。

 意外と素早いな、こいつ。

 

 それでも最も近かった両手が蒼炎に飲まれていたが、ブンッと杖を素振りすると蒼炎が舞い散る。ぶすぶすと両手が焦げており、多少のダメージは負ったようだ。


「痛みと言うのも久しぶりですネ。これは楽しく……チィっ。ノーフェイス、余計な真似を」


 楽しみの所を邪魔されたようで、パラケルススが表情を歪ませる。

 俺達の戦いに割り込むように、矢が俺に向けて放たれる。


 あっぶなっ!?


 顔に当たるすれすれの所を、頭を傾けて避けた。


 矢が飛んできた先を見ると、剣や槍を持った騎士と複数冒険者達が蒼炎の壁を破って飛び込んできた。

 蒼炎に飲まれたのか、服やマントの一部が焼け焦げている。

 何故こんな無茶をと思っていたが、こいつ等全員、頭に黒い輪を付けていた。


 確かこれは……そうだ。前にネットニュースで話題になった、キャラクター操作を奪うチートアイテム『堕天の輪』だ。

 相当大きな騒動になり、ネットニュースで画像も流れたのでよく覚えている。

『堕天使の輪』と言う線もなくはないんだが、こいつ等全員の目が虚ろで明らかに様子がおかしいからその線はないだろう。

 それに、虚空がフェンに伝えていたチートアイテムによって操られていた者達の事。

 恐らくはこの事だろう。なら――。


「邪魔だ!!」


 剣や槍を構え、襲い掛かってくる騎士や冒険者達に手を向け、GM権限《違法武器イリーガル剥奪》!!


「ほウ……」


 パラケルススの感心したような声が聞こえる。

 目の前で騎士や冒険者達は時が止まったかのように停止し、頭についている黒い輪、武器が輝き、陽炎のように消えていく。


 ドサリドサリと、次々と騎士や冒険者達は意識を失って倒れ、俺のアイテムボックスに多数の複製武器や『堕天の輪』が入っていく。


「なるほド。虚空が押し負けるハズですネ」


 パラケルススが袖を振りぬくと、暴風が巻き起こりまるでゴミが散るように騎士や冒険者達が外に放り出される。


「随分と優しいことだな。お前らの事だからてっきり利用するかと思ったんだが」


「雑魚がいくら居ても貴方の相手ハ、務まらないデショう。邪魔になるだけデスシ、私は貴方の力が見たいダケですのでネ!!」


 こいつの考えはよくわからないが、操られていた奴らにまで気を回さなくていいのは助かる。

 あまり手の内は晒したくはないが、パラケルスス相手にどこまでやれるか。



 パラケルススは杖を突きだすと、パラケルススの後ろに10を超える小型の魔法陣が展開され、光弾が打ち出された。

 魔力嵐ガストの影響を受けない魔法か! 羨ましい! 違う、面倒な!


 大きさがボウリング球ぐらいのサイズの光弾が、密度を濃くして迫ってくる。

 速度にも差があって中々に避けづらい上に追ってくる。

 横に飛び退き、〈波動剣〉で追ってくる光弾を斬り飛ばしていると、不意に背中に衝撃を受けた。


「ぐっ!?」



   ――超麻痺・超猛毒・超混乱・超暗闇・超石化・超魅了――レジスト発生!!――



 うーわ、当たったら状態異常のオンパレードかよ! 嫌らし過ぎる攻撃だ。《全状態異常無効》がなければヤバかった。

 後ろの方をちらりと見ると、骨の手から魔法陣が展開されていた。あれもまた瘴気で生んだアンデッドなのだろう。多様過ぎるだろこいつ。

  

 後ろを振り向かずに剣を素早く振るい、蒼炎で手だけのアンデッドを焼き尽くす。


「状態異常は……かかった様子がございませんネ。結構結構!! 楽しくなってきましタ!」


「こっちは楽しくとも何ともないけどな!」


 距離を空けたまま〈波動剣〉〈ヘキサスラッシュ〉〈ソニックブレイド〉の多段攻撃を格子状にして飛ばしていく。

 蒼炎を纏った斬撃は広範囲に広がり、石畳を削りながらアンデッドを切り裂いてパラケルススに襲い掛かる。

 


「ぬゥッ!!」


 パラケルススは両手の翼を羽ばたかせながら空へと逃げる。

 まぁ、そりゃそうだよな。目の前には格子状になった高密度の斬撃。横に逃げるにして俺の放っていた蒼炎がまだ周囲で燃え盛っている。

 先ほどの痛みの記憶が残っているのなら、自ら飛び込むのは躊躇するだろう。

 なら逃げるなら上だ。


 多段攻撃を飛ばした時点で俺は〈ソニックブレイド〉を外し、〈グランドクロス〉を組み入れる。

 頑丈さに秀でたロードパラディンが覚える対アンデッドとしては〈聖拳突き〉と並ぶ最上位のスキルだ。


 空へ逃げたパラケルススへ視線を定め、剣先を足元に向け、勢いよく蒼炎を噴射する。

 蒼炎の勢いは凄まじく、俺の身体に強力なGを与えながらもパラケルススとの距離をあっという間に詰めていく。


「なんトっ!?」


 剣をロケットエンジンの様に見立て、打ち上げロケットの様にできないかとやってみたが、思ったより勢いが強すぎた!

 勢いが強すぎて身体が回転し、変な方向へと飛びかけるが剣先を動かして強引に軌道を修正。

 短距離だったから何とかなったがぶっつけ本番でやるもんじゃないなこれ。


 噴射を止めて剣を下段に構える。噴射の勢いが乗ったまま狙いをパラケルススに定める。


 パラケルススは翼を羽ばたかせ逃げようとするが、それよりも速く蒼炎を纏った〈グランドクロス〉が空間を切り裂いた。






◆◇◆






「はぁ……はぁっ!」

「頑張れっ!! とにかく逃げるんだ! 畜生、何でこんなことに!」


 路地裏を走る二人の男女。

 女性の手を引きながら男性は何かから逃げるように走っていた。


「GUUUU!!」

「GAAAAA!!」


 雄叫びを上げながらゾンビとなったアイアンアリゲーターが障害物を蹴散らし、飢餓の本能に従って男女に向かっていく。


「なんで……! なんでなの! なんで街中にモンスターが!」

「わからねぇよ! もうすぐ祭りだってのに……!」

「はぁっ! はぁっ! あっ!」


 女性のポケットから虹色貝殻のペンダントが落ち、男性の手を離して女性はペンダントの下へ向かった。

 女性はペンダントを握りしめ、ほっとしていたが。


「GAAAAAAAA!!!!」


 女性の目の前にはアンデッドと化したアイアンアリゲーターが骨と腐肉に塗れた牙を向け、今にも喰らおうとしていた。


「あ……」

「やめろおおおおお!!」


 男性の悲痛な叫び声が路地に響き、無情にも牙が女性を襲おうとしたその時。



――ズゴンッ!――



 鈍い音と共にアンデッドが吹き飛び、壁へと叩きつけられる。

 アンデッドの頭部には銀色に光る鉄、弾丸が撃ち込まれ頑丈なはずの狂獣の骨を粉々に吹き飛ばしていた。


「すーぱー! いーなーずーなー! ぎりー!!」


 空から奇妙な掛け声が聞こえたかと思うと、一瞬の光と共にドンッ! と激しい音が聞こえる。

 爆音に近い音に男女は耳を塞ぎ、砂煙が晴れると一人の女性がもう一体のアイアンアリゲーターを両手斧で粉砕していた。

 女性は両手斧を軽々と片手で担ぎ直し、腰を抜かし倒れていた女性に手を差し出す。


「お嬢ちゃん大丈夫かいな? 怪我はあらへん?」


「え、ええ。ありがとう」

「馬鹿野郎! なんで戻ったんだよ! 死ぬところだったんだぞ!」


 男性が怒鳴り声を上げながら必死になって女性の下へ駆け寄る。よく見るとその眼には涙が浮かんでおり、いかに女性が大事であるかを物語っていた。


「ご、ごめんなさい。だって……これ、貴方からもらった初めてのプレゼントだから……」

「あ〜……もう、馬鹿! 本当にっ! そんな事言われたら怒るに怒れないじゃないかっ……」


 男性は女性を抱きしめて、泣きじゃくる女性を宥める。

 そこに気まずそうにするのは駆けつけてきた彼ら、司達だ。

 司が視線でジークに何とかせぇと訴え、ジークはやれやれといった感じで二人に声を掛ける。


「あ〜……いい雰囲気の所悪いんだが。それは後でやってくれないか? 今は早く避難した方がいい」


「あ、ごめんなさい」

「すんません。助けてくれてありがとうございます。でも、逃げるってどこに」


 ジークが何もない空間を眺めているが、ジークの目にはマップが表示されており、周囲の警戒と地形の確認を行っている。

 

「この先に熊猫パンダ族の領主、トントンさんの屋敷がある。そこに逃げ込むんだ」


「トントン様の屋敷に避難って……」

「貴族様の屋敷に逃げ込むなんて無茶なっ!」


「あの人なら大丈夫だ。民を思う優しいお方だからな。ネメアーとレヴィアさんが追いつき次第……と噂をしたら来たか」


 屋根からレヴィアが軽やかに降りてきて、皆の後ろへ着地した。

 レヴィアに続くように屋根からネメアーが降りてくる。

 二人とも無傷で、多少返り血で汚れていた程度だった。


「うむ。上空の敵は全て片付けてきたぞ」

「これで当分の間、空からの強襲はないでしょう」


「助かる」


 レヴィアとネメアーが別行動を取っていたのは、通りの道を占拠していたアンデッド達を掃討した後、この付近の上空に多くの鳥型や蝙蝠、蟲型のアンデッドがいるのを司が見つけたからだ、

 いかにプレイヤーの身体能力を持つとはいえ、司もジークも足場もなしに屋根の上にまで飛ぶほどの能力は持っていない。

 ネメアーは、師である聡から学んだ独特の跳躍で一気に屋根の上まで上ることが出来、レヴィアは素の身体能力で登りきることが出来る。

 不意打ちの危険を感じたレヴィア達は先に上空の戦力を削るべく、屋根に上り一戦を繰り広げてきた。

 地を歩く者達にとっては難敵である飛行系のアンデッド達も、この二人にとっては準備運動程度の相手にしかならず、あっという間に蹴散らされた。


「あ〜……」

「司、どうしたんだ?」


「いやな、トントンさんの屋敷の前やけど、どうやら激戦区になっとるっぽい。そんでちょいと兵士が押され気味や」


「そ、そんな……!」


 女性が口元に手を当ててガクリと倒れかけ、男性がそっと支える。

 

 司の見つめる先には他の人には壁しか見えないが、司にはマップが表示されていた。

 司には〈気配感知能力上昇(中)〉によって敵の位置と一般市民、兵士の位置がマップに表示されていたが、彼女の言うとおりトントン邸の前には多くの敵対マーカーと少数の黄色、中立のマーカーが入り混じり戦いを繰り広げていた。

 

「司、数と戦力は判るか?」


「数は真っ赤っかでようわからへんけど、一体だけドでかい反応があるで。多分やけど、これが周辺のアンデッドを統一しとるリーダーやないかな? マップ上の動きを見とるとただのアンデッド達にしては統一が取れ過ぎとるんや。これが苦戦の原因やな」


「なら話は簡単だ。そいつをぶっ殺してしまえばいい。そこの二人はすまないが、守ってやれるほどこっちにも余裕がない。適当な所に隠れていてくれ」


「ま、守ってくれないのか?」


「そうしたいのが山々だが、状況が状況だ。あっちも急がなきゃ手遅れになりそうだしな。それに、男なら自分の女ぐらい守って見せろ」


 ジークが軽く男性の胸をごつい手で小突くと、男性は戸惑いつつも女性の顔を見て、決心した様子でしっかりと頷いた。


「ジーク、先にアンデッドの気配が3や。頼むで♪」


 ジークは満足そうな笑みを浮かべて、司の言葉通り壁の先を覗き込むと、獣人のアンデッドが3体、路地をふらふらと徘徊していた。


 敵の正確な位置を視認し、ライフルのトリガーを引く。


――ドンドンッ! ドンッ!――−


 曲がり角の先にいたアンデッドが消滅したのを見届けると、ハンドサインを送って全員を誘導する。


「障害は排除だ。司、レヴィアさんとネメアーを連れて地上から行ってくれ。俺は上から援護する」


「了解や、レヴィアちゃん。先行頼んでええか?」


「ちゃんか。……ううむ、構わぬがこれでも妾。お主よりもはるかに年上なのじゃがのぅ」


「なんやレヴィアちゃん、ロリババアやったんか。マサやんもこないな子まで落としとったんやなぁ」


「待てぃ。先行するのは構わぬ。じゃが、そのロリババァの言葉の意味はよく判らぬがなんか嫌な感じがしたぞ」


「にはは。まぁ、頼むわ。ネメアーはんは後方を頼むで。うちは間で援護するわ」


「ああ、分かった」


「なら、突撃やっ!」


 司の号令の元に、ジークは近くの家の階段を駆け上がり、更にそこから排水管を伝って巨体にもかかわらず軽やかに上っていく。

 上空の心配をせずに済んだお蔭でジークは屋根に無事登りきることが出来た。

 地上ではレヴィアを先頭に司、ネメアーと続いて路地を掛けていく。


 屋根から屋根へとジークが飛び移り、貴族街へとたどり着くとそこでは多くの騎士達と狂獣人、アンデッドが死闘を繰り広げていた。

 その死闘の中で一際目立つのが青白く輝く一体のアンデッドと、それに騎乗する三つ首のアンデッド。


「UUOOOOOOO!!」


「カカカカカカカ!!」


 全身の骨格がオリハルコンで出来た竜、アンデッドと化したオレイカルコスに騎乗しているのは正樹と虚空に打ち砕かれたヴォルフだった。

 だが、ヴォルフの身体はスケルトンではなく半霊体と言うべき怨霊騎士ファントムへと変貌していた。


怨霊騎士ファントムか。くそったれなモノに変化してやがる」


 怨霊騎士ファントムとは、自我を保ったアンデッドが強い妄執や怨念、執念によってごくまれに進化クラスアップするアンデッドだ。

 スケルトンの時よりも生前に近い動きが可能で、更に非常に強力な魔法を扱うことが出来るA級冒険者パーティーが複数で組んで挑むような相手だ。

 更に物理防御が通りにくく、白兵戦を得意とする獣人達にとっては非常に相性が悪い。


 そのような存在を相手にしているのは複数の熊猫パンダ族の騎士達だ。

 騎士達は門前を死守しており、門の中では大勢の市民たちが避難している。


「決して門を通らせぬな! この場を守りきるぞ!!」


「「「ハッ!!」」」


「カカカカ!! 良イ威勢ダ! モットモット我ヲ楽シマセロ!!」


 ヴォルフはオレイカルコスの胴に足を叩きつけ、地響きを起こしながら騎士達へと突撃していく。


 通常の熊族よりも胆力と魔力に秀でた熊猫パンダ族だが、オレイカルコス相手では分が悪く、突撃を止めようとした騎士が吹き飛ばされる。

 運よく近づけた騎士も、ヴォルフの爪とブレスによって倒され、吹き飛ばされた。


「好き勝手やりやがって!!……調子に乗るんじゃねぇ!」


 ジークはパイルライフルを構え、オレイカルコスへ向けて杭のように太い弾丸を放つ。

 パイルライフルは通常の弾丸とは別に、頑丈な盾すらも打ち貫く特殊弾を放つことが出来る。

 一発撃つ度にリロードが必要な物だが、ジークの放った弾丸はオリハルコンで出来た皮を貫き、オレイカルコスに突き刺さる。


「OOOOO!!??」


「カカカ!! 新手カ!」


 オレイカルコスは苦悶の雄叫びを上げながら、屋上へ陣取るジークへ向けて殺意の目を向け、新たな強者を見つけたヴォルフは歓喜の声を上げる。


 ヴォルフはオレイカルコスの身体を駆け抜けてジークのいる屋上へと飛び、禍々しく紫色に光る爪を振るう。

 ジークは屋上を転がって爪を避けると、今までジークがいた場所に深い爪痕が残される。


「ちぃっ! 化け物が!!」


「我ニトッテハソレハ褒メ言葉ヨ!! カカカカ!!」


 ジークが続いてやってくるオレイカルコスを警戒していると、いくら待っても衝撃がやってこなかった。

 視線を一瞬だけ向けると、そこには細腕でオレイカルコスを組み合っているレヴィアと、傷ついた騎士達を運ぶ司とネメアーの姿が。


「ジークよ! こやつは妾達に任せるがよい!」


「ああ、頼んだ!」


 ジークは短く返し、地面を転がりながら武器をパイルライフルからレールショットガンへと変える。

 そこにヴォルフの放った爪が空を切り、屋上の塀を切り裂く。


 ジークは地面を転がりながら、ヴォルフへ狙いを定めトリガーを引く。

 レールショットガンから、青白く光る散弾が高速で放たれ、ヴォルフの身体を吹き飛ばす。


「グガッ!?」


 ヴォルフは塀へと叩きつけられ、倒れこむ。

 通常ならばアンデッドですら即死のダメージだが、アンデッド、それも上位の怨霊騎士ファントムとなったヴォルフにとっては致命傷には届かなかった。


「これくらいじゃ死なねぇか。だが、弾が効くのならば問題ねぇ」


 ヴォルフにとって不幸だったのは相手がジークだったという事だ。

 普通の相手なら近接してくる間にヴォルフは体制を整えられたが、散弾による回避困難な、一発一発が重い一撃が絶え間なく距離を置いたまま襲ってくる。



――ズガン! ジャコン、ズガン! ジャコン、ズガンッ!!――



 倒れた隙を見逃さずに歩きながらジークはトリガーを引き続け、ヴォルフを滅多打ちにする。


「カカカ!! ふざけたマネを!!」


 ヴォルフは強引に身体を起こし、散弾を受けながらも毒のブレスを吐き散らす。

 毒のブレスは吸い込めば猛毒を引き起こし、浴びただけでも神経毒によって身動きを封じる凶悪な複合毒だ。


 毒々しいブレスが放たれると、ジークの身体が毒の煙によって包まれ姿が見えなくなる。


「カカカカカカカ!!」


 ヴォルフは毒に飲まれたジークをあざ笑うが、その笑いも長くは続かなかった


「うらぁぁ!」


「ガッ!?」


 ブレスの中から、ジークは毒も麻痺も受けた様子もなく、平然として現れ唸るチェンソーを斜めに振り下ろす。

 頭には先ほどまではつけていなかったフルフェイスのヘルメットが装着されていた。


 チェンソーはギャリギャリギャリ! と音を立てながら肉を引き裂き、骨を削る音を立ててヴォルフの右の頭を削り落とした。


「ガァァ!! 我が頭ガァァ!?」


「二つになってすっきりしただろっ!!」


 頭を一つ失い悶絶しているヴォルフに向け、ジークのごつい蹴りが左の頭に撃ち込まれる。

 鉄板が仕込まれたブーツによる蹴りは、ヴォルフの牙を砕きながら屋上の端まで吹き飛ばす。


「何故ダ! 何故貴様ハ毒ノ中生キテイラレル!?」


 ヴォルフにとって想定外だったのは、ジークのプレイしていたゲームでは毒と言うのはありふれた物だったという事だ。

 毒ガスより強力な、星を汚染する生命体が蔓延する星で生き抜くゲームでジークは苦戦しつつも完全に毒を無効化できる特殊な防護マスクを手に入れていた。

 

 常に装備しているアーマードスーツも対毒に優れており、ヴォルフの猛毒のブレスはジークにとってはそよ風も当然だった。


 ヴォルフを蹴り飛ばしたジークはチェンソーからレールショットガンで追い打ちをかける。

 ブレスを吐こうにも爪を振るおうにも身動きが全く取れず、ヴォルフは身体に散弾を打ち込まれ続け、遂には屋上から吹き飛ばされる。


(カカッ! 何という奴だ! だが好機!)


 地上へ向けて落下する間にヴォルフは体制を整えようと身を翻すが、黒い影がヴォルフの身体を覆った。


「ちまちま頭落とすのは面倒だ! 首は二つあるだろうが、身体は一つだろう!!」


 ジークはレールショットガンをヴォルフの胴体へと押し込み、ひたすらトリガーを引き続ける。


「ウガァァァァァァァァァアアアア!?!?」


 ズガンッズガン!! とヴォルフは胴体へ超至近距離で散弾を受け、ジークと共に地面に激突する。

 散弾から逃れようと牙と爪を振るおうとするが、続けざまに来る胴体への衝撃で爪も牙も振るえず、魔法も魔力嵐ガストの影響で使えなかった。


 ズズンッ……! と大きな音が響き、大地を揺らす。

 衝撃で周囲に大きな砂煙が巻き起こり、「フゥーー……」と野太い声が中から聞こえる。


 ショットガンを持ったごつい腕が砂煙を散らし、そこに立っていたのはジークだった。

 レールショットガンの銃口は赤熱しており、 オーバーヒートを起こしていた。


 地面に埋まるように倒れていたヴォルフは白目を向き、泡を吹きながら苦悶の表情を浮かべ絶命していた。

 ヴォルフの身体が爪先から霧散していく。


「おお……!! あの……怨霊騎士ファントムが!」


 周囲でアンデッドと戦っていた騎士達が歓声を上げる。

 それと同時にジークが巻き起こした砂煙を巻き込むように強い風が巻き起こった。


「せぇぇぇい!!」


「GYAAAA!?」


 ジークの視界の先には、レヴィアがオレイカルコスの尻尾を持ち、ジャイアントスィングをしていた。

 細腕から繰り出される怪力によってオレイカルコスは無様に振り回され、ブォンブォンと大気を切る音が周囲に響く。

 

「〆じゃ! ネメアー!!」


「はいっ!!」


 レヴィアは勢いをつけてネメアーの方へ向けて放り投げる。

 オレイカルコスは巨体を水平にしながらネメアーに向けて飛び、ネメアーは脚に力を込めると脚が銀色に輝き始める。


「はぁぁぁぁ!!」


 脚の輝きが頂点に達した時、ネメアーはオレイカルコスに向けて大きく脚を振り上げる。


「斬鉄脚!!」


――スガァンッ!!――


 ネメアーから繰り出される鋼鉄をも切り裂く足技は、オレイカルコスの強靭ならオリハルコンの鱗、皮、骨すら切り裂き頭から尻尾の先まで真っ二つに両断した。


「す……すげぇ……!」


 その場にいた一人の騎士が感歎の声を上げる。その言葉はその場にいた兵士、騎士、避難してきた一般市民の心情を表していた。


「ふぅぅ……」


 ネメアーは呼吸を整え、足を地に着く。


「うむ、見事な技じゃのぅ」


「いえ、まだまだです。師ならばこのような無様な姿にはなっていないでしょう」

 

 精錬されていないとはいえ、オリハルコンの身体を持つオレイカルコスを切り裂いたネメアーの足は血に塗れており、至る所に負傷を追っていた。

 日々の鍛錬の成果、更には頑丈な闘獅子バトルレオ族と類まれなる肉体のお蔭か

骨には異常はなさそうだが、今のままでは万全のままに技を振るう事は出来ないのは誰の目から見ても明らかだった。


「そんな謙遜することはあらへんとおもうけどなー。ほな、うちもうちで仕事しよか♪」


 司は銀色の竪琴から金色の竪琴へと入れ替え、深く呼吸を吸い込み、竪琴をかなでながら歌い始める。


「『戦者のピーアン』〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜〜〜♪」


 司の奏でる竪琴の音楽に合わせ、戦場の最中でもよく届く、心に響く歌が周囲に流れていく。

 司の歌を聞いていた騎士達は、場違いな演奏に不思議そうに思いながら聞き入っていると、怪我した場所が光り輝き始める。


「怪我が……」


 ネメアーの怪我も同様で、裂傷が輝き塞がっていく。

 司の歌はトントン邸の庭にまで届き、負傷した一般市民、戦うすべを持たない貴族達を癒していく。


 司は歌を終えるとニカっと屈託のない笑顔を浮かべる。


「これでみんな、まだまだ戦えるやろ♪」


 高らかに声を上げていた司は、疲れを見せずに笑顔を騎士達に振りまく。

 騎士達も膝をついていた足を立ち上がらせ、剣を杖代わりにし起き上がり、一人、また一人と起き上がっていく。


「人族の女性がここまでやったのだ!! 皆の者! 獣人である我らが自らの国を守れずにどうする!!」

「そうだ!!」

「騎士の本懐を思い出せ!!」


 騎士達が次々と雄叫びを上げながら剣を掲げる。

 落下した拍子にできた穴からジークが這い出てきて、司に近づく。彼の傷もまた司の歌によって完全とは言えないまでもある程度治っていた。


「司、これを狙ったのか?」

「半分賭けやったけどな。歌っちゅーんは、意外と戦いの場でも心に来るもんなんや。ほら、軍歌とか歌は戦意高揚の為に昔から歌われとるしな。うちのやっとった【ブリタリアオンライン】では『戦者のピーアン』は勝利のための歌ちゅー、フレーバーテキストがあったんやけど、現実となったこの世界なら通じるかなーと思ってこの曲を選んだんや。本来の効果はHPを徐々に回復するモノやけどな」

「そうだったのか。凄いなお前は。歌も素晴らしい、いい女だ」

「そ、そないに誉められたら照れるわっ!」


 バシンッとジークの肩を叩く司の顔はほんのり赤くなっていた。

 そこに、熊猫パンダ族の騎士の中で、立派なマントを付けた一人の騎士が司達の下へやってくる。


「君らのお蔭で助かった。所でこの事態で何か知っているのなら教えてほしい」

「ああ。分かった、急ぐから要点だけ話すぞ」


 ジークはこれまでに合った事を熊猫パンダ族の騎士に話すと、彼は驚きと、ともに納得した様子で頷いた。


「それで最近の王鳥ガルーダ族はおかしかったのか……。ヨルムンガルド様は大丈夫なのだな?」


「ああ。無事とはいいがたいが一命は取り留めた」


「そうか。……すまないが貴殿らに頼みがある。逃げ遅れた民や孤立してしまった兵士や騎士達も大勢いるはずだ。彼らを助け出してきてほしい。我らは今いる民を守る義務がある。この混乱の最中迂闊に戦力を分断させるわけにはいかない。どうか、頼めないか?」


「大丈夫だ。元からそのつもりだ」


「さらに欲を言えば王城の方も見てきてほしいのだが……」


「城の方か?」


「今朝、トントン様が緊急のとのことで登城したままでな……いや、すまない。流石にそこまでは欲張り過ぎだったな。これは我らがやらねばならぬことだった。忘れてくれ」


「いや、そういった欲を出すのは悪いって事じゃないだろう。気にするな。それに」


「それに?」


 ジークは火の手が上がりつつある王城、そしてそれを支える大樹を眺める。

 トントン邸から見える大樹の周りには多くの飛行系アンデッドと、変異し堕ちた王鳥ガルーダ族達が王城を攻めているのがここからでも見える。

 

 一瞬、昼間であるというのに太陽より輝く閃光が走った。

 次の瞬間、多くのアンデッドと王鳥ガルーダ達が燃え尽き、落ちていく。


「既に頼れる仲間が向かっている。あいつらに任せれば大丈夫だろう。何せ、帝国をぶっ潰した奴らだからな。俺達は俺達でやれることをするぞ。まずは――」


 ジークは獣王国の地図を開き、騎士達から緊急時の避難場所と、衛兵の詰所、更には使えそうな堅気なマフィアの聞き出し、臨時の救助作戦を立て始めるのだった。




感想、評価ポイントをくださるとモチベーションの維持につながるのでとてもありがたいです。


最近、大雪が降ったり暖かくなったりして温暖差が激しいですね。

皆様も体調にはお気を付け下さい。作者は風邪ひきますた。もう雪はイイヨ……脛まで埋まったの初めてダヨ……。

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