対船団戦
帝国を無事逃げ出した俺達は北へ向かった。
南はほぼあいつらに占領されている。行けば簡単に捕まり沈められるだろう。
俺は大丈夫だが、勝手に大親分にしたこいつらを見殺しにはできない。
北にはまだ帝国と争っている国がある。
セントドラグ王国。
ゲーム時代の記憶を引っ張ってもそんな名前の国はない。
魔法やスキルが適用されるのはGMという異能力のお蔭だろうと今は納得しておこう。
魔法の原理も学べばこの世界の魔法も使えるかもしれない。
とにかく北へ。風の魔法も使って北上していく。
俺も手伝ってみたがこれはイメージが大事らしくて加減が大変だった。
「おおおお!?大親分!と…止めてください!」
「お…おう。すまん…」
思った以上に風が出過ぎてマストが軋み始めたのだ。
初期の突風を起こす魔法。『ストーム』を使ったら船が傾くほどの勢いが出た。
魔法は要練習だ。弱く押すようなイメージを使い1時間もしてやっと加減が出来た。
魔法使いの部下ーパドルとぺドルの双子の魔法使いが感心したように見ている。
「大親分は魔法もすげぇんですね。まるで物語の英雄みたいですぜ」
「英雄なんてものは後々の世の奴らが勝手に決めるモノだろ。見る立場が違えば凶悪な化け物にもなる」
俺は英雄という言葉には引かれない。
元の世界でも後世の奴らが決めつけて英雄にし、敗者は悪。
宗教も絡んだ戦争は特にそれが多い。
「確かに帝国から見たら大親分は化け物だろうなぁ…」
「大事なのは化け物でも良いから守るべきものを護る事だろ。国にしろ、嫁にしろ、家族にしろ、な。大事なものを護りきれなかったら死んだも同じ。生きていても魂が死ぬって話だ」
「そうっすね…あ、大親分。少し西へ。少し方角がずれてやす」
「解った」
風の角度も調整は出来るようになった。俺はそのまま風をパドルとぺドルの二人と共に操り続けていくとマップの端に大きな船のマークが5隻ほど現れる。
するとマストの天辺で見張りをしている部下から大きな声が響いてきた。
「大親分、親分!!この先に帝国の奴らの船だ!」
「戻ってくる奴らとかちあっちまったか。大親分、どうしやす?」
このまま逃げても良いが出来るだけ帝国の戦力も削っておきたい。
「船のサイズはデカい奴か?」
「はいッ!デカい船ばかりです。一つの船には捕虜も大勢いるのがみえやす!」
「捕虜を連れて補給しに帰還してきたという所か?」
「船にも戦闘の後がありやすから多分そうだと思いやす!」
捕虜が一か所に固められてるなら都合が良い。俺はぺドルとパドルの二人を手招きした。
「お前ら、大型戦5隻相手に避け続けるって出来るか?」
「この船は小回りがよく効くから俺一人でも余裕です。それにパドルは防御の魔法も使えるから数発程度なら弾けますぜ」
「大親分から支給されたMPポーションや装備のお蔭で今までより強い防御魔法がいけやす!」
海賊船の防衛は問題無さそうか。
双子の言葉に頷くと俺は全員に向けて声を掛けた。
「お前ら!!今から俺はあの船に突撃する!二人までだが一緒に行くやつはいるか!!」
大声で声を掛けるとバルバロッサとローハスの兄弟が進んで前に出てきた。
「俺達がいきやす!これでも帝国兵を何人も斬ってきた実力はあるぜ!」
「兄さんだけ付いていかせると心配ですからね。俺も行きます。大親分」
「解った。なら突撃だ!全速前進!ヨーソロー!!いくぞ!!」
「「「「アイアイサーーー!!」」」」」
雄叫びともいえる号令と共に俺ら海賊団は船を前方にあるフリゲート艦へ走らせる。
魔法の射程距離も練習で確認したのでその間にスキルの設定をし直しておく。
パッシブスキル
MP自動回復(中)
HPMP自動回復(中)
身体能力上昇(特大)
近接戦闘能力上昇(大)
気配感知能力上昇(大)
リーダー統一能力上昇(中)
魔力増強(中)
アクティブスキル
波動剣
ソニックブレイド
手加減攻撃
リーダー統一技能で俺が味方と認めた仲間の戦闘力を少なからず底上げする。
アクティブスキルの中にはコンボというのもあって代表的なもので波動剣とソニックブレイドだ。
ソニックブレイドは剣を振うとその剣のリーチに応じた衝撃刃を飛ばすアクティブスキル。
代償としてHPを消費するが、波動剣と併用するとリーチが伸びた威力の高い衝撃刃が繰り出せる利点がある。
コンボの欠点としては、アクティブスキルの代償でHPが削れる事だ。後衛が回復を掛けつつ前衛がそれで暴れるというのが大規模戦闘で上位PC達が使うのをよく見かける。
調子に乗って暴れているとHPが代償で減ったところに大ダメージを受け戦闘不能になるPCも大勢いる。
それでも回復を間に合わせるように攻撃のタイミングをずらしたり工夫が必要だが、使いこなせれば殲滅力は一押しのコンボだ。
手加減攻撃は言わずもながら、殺さずの攻撃だ。生かしたい奴がいれば使う程度。
何度もやっているとスキルを組むのも手早くなる。
10秒程でスキルを組み直すと魔法の射程範囲に敵艦を収める。
普通なら届くはずがないが…装備やスキルの恩恵で凄まじく距離が延びていた。
飛距離もある程度まで確認済みだ。
手を突きだしイメージが大事だ。俺が今イメージするのは槍。狙いはマストを貫くように強くイメージする。
『フレイムジャベリン』
帆を打ち抜ければ上出来も考えて魔法を念じてみると…。
両手に凄まじく大きな槍。大きすぎた。太さが電信柱くらいあるんじゃないかこれ。
辺りを見てると部下達が愕然としてる。そりゃそうだろうな。
だがあの船は動かせないようにするに越したことはない。
俺は両手に集まった炎の槍を船団の中央に向けて解き放つ。
爆音と共に炎の巨槍は海上を突き進み、狙い通りマストに当たると……そのまま貫通してイメージ以上にマストの半分が消滅した。
更にそれでとどまらず後方にいた船にも直撃し炎上を始める。捕虜の船を狙わなくてよかった。
「大親分の魔法はとんでもねぇ威力…これ下手したら街くらい消し飛びませんか?」
「そうならないように街中では魔法は抑える。今回は船を止める為に少し上げたからな。バルバロッサ、ローハス。船に乗り込むぞ!」
「「は…はい!アイアイサーー!!」」
もうこうなったら勢いで突っ込んでしまおう。俺は『ウィング』を発動し二人を両手で持ち上げる。
「残ったお前たちは大砲や弓や魔法で船を沈めろ。だが二隻だけ残せ。解ったか」
「「「アイアイサー!!」」」
部下達が返事よく応じると俺はバルバロッサとローハスを掴んだまま共に『ウィング』『無敵』で一気に船団へと向かい飛んでいく。
「今のは何だ!?マストが吹っ飛んだぞ!」「それより消火作業を手伝え!!」
「船長、後方の船が炎上してます。もうダメです!早く救助を!!」
被害を受けた帝国の船団は突如の魔法砲撃により混乱を極めていた。
それもそのはずだ。さっきまで戦果を手に酒を飲み飯を食い騒いでいたところに不意の攻撃だ。
「さっきの攻撃は何処から来た!被害状況を報告しろ!!」
酒瓶を片手に、後ろの部屋には捕虜だろう。今まで楽しんでた様子の船長が慌てながら
ブリッジへと上がってくる。
「砲撃は南。その先に海賊船が見えます!!」
「被害状況!第三番、第二番艦のマストが焼失!奥に居た第四番艦は被害が酷くもうダメです!沈みます!」
「クソッタレが…!!何をどうやったか知らねぇがあの海賊船に巨大な戦力があるのは間違いねぇ!!お前らぁ!!潰せ!殺せ!奪え!!」
激昂しながら手に持っていた陶器製の瓶を木床に叩き付けると大きな音を立てて瓶が割れる。
近くに居た兵士がオドオドとしながら船長に声を掛けた。
「で…ですが四番艦の救助は…?」
「そんな役立たず共放っておけ!!今は早くあの糞海賊を叩き潰せ!早くしろ!!俺の前にあいつらの首を持ってこい!!」
船長は近くに居た兵士を殴りつけると当り散らすように指示ともいえない命令を下す。
兵士は苦い顔をしたが、帝国では上司の命令は絶対命令だ。死ねと言えば死ぬしかない。
仲間を助けずにあの敵と戦う。一体どんな奴がいるのかと恐怖を覚える兵士もいた。
だがやらなければならない。早く倒せば救助も出来るかもしれないと淡い期待をしつつ。
兵士達は海賊船へと向かい速度を上げようとしたがその時、信じられないモノを見た。
人だった。人が空を飛んでいる。しかも両手に大の男を掴んで。
一部の兵士はとっさに反応して弓や魔法、魔力を込めて鉄の砲弾を空飛ぶ人に放つ。
空飛ぶ人は上下左右に動き回り人を抱えてるとは思えない程の身軽さで避けていく。
その動きはまるでダンスを踊るかのようにクルクルと舞い。ならばと範囲を広げた火炎の魔法を打ち込むと空飛ぶ人たちが炎に包まれる。
「やったか!!」
兵士達が期待するように声を上げるが、その希望はあえなく打ち砕かれる。
火炎の中から無傷の3人が飛び出てきて火傷どころか服すら燃えていない。
火の粉を舞い散らせながら兵士達にとって死のダンスを送り届ける恐怖の者が3人。
一番艦の甲板へと舞い降りた。
パッシブスキル
身体能力上昇(特大)(グラップラー)
近接戦闘能力上昇(大)(ダークロードナイト)
MP自動回復(中)(マジックフェンサー)
HPMP自動回復(中)(ロードパラディン)
気配探知能力(大)(アサシン、ハイシーフ、テイマー、アーチャー系)
リーダー統一能力上昇 (ギルドリーダースキル)
魔力上昇 (ウィザード・ヒーラー)
アクティブスキル
波動剣 (ロードパラディン・ハイナイト)
ソニックブレイド (剣士系)
手加減攻撃 (汎用)
魔法
フレイムジャベリン (中級炎魔法)