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死霊の王

明けましておめでとうございます。今年も一年皆様どうぞ宜しくお願い致します。

「キェェェェエ!!」


 気合一閃、王鳥ガルーダ族の騎士が雄叫びと共に、鈍い銀色の線を走らせ聡に槍を突きつける。

 聡は槍に怯むことなく、更に一歩踏み込むと槍先が僅かに服を掠める。


「〈紫電掌〉!」


「ぐがっ!」


 聡は槍を持った王鳥ガルーダ族の騎士の懐に飛び込み、雷撃を纏った掌底を胸部に当てると勢いよく吹き飛び、後ろにいた兵士達を巻き添えにしつつ倒れる。



 また別の方ではクリスタに斧を振り下ろす騎士がいたが、頑丈すぎる鱗に阻まれてミスリルの斧が弾かれ。鱗には傷一つ付けることすら出来なかった。


 それもそのはず、宝玉竜ジュエルドラゴンは誕生する時に注ぎ込まれた魔力と質によって強さが変わる。

 親竜でさえ魔力のギリギリで抑えるところを、正樹はそれをはるかに超える魔力を注ぎ込んでいた。

 正樹は魔法使い10人分と言っていたが、基準がレベルがカンストした魔法職プレイヤーの10人分だ。装備品も含めると、この世界でいえば一人当たりが魔法使い1000人の魔力を持っている。

 クリスタには、実際は1万人ほどの熟練した魔法使いの魔力が込められていた。


 質もまた正樹が全ての魔法が扱えることにより、三龍すら超えるほどの質へと昇華していた。

 過剰ともいえる魔力を注ぎ込まれたクリスタの鱗はミスリルを飛び超え、オリハルコン相当の強度を得ている。

 ミスリル如きではクリスタの鱗一枚傷つけられるわけがなかった。


「クソッタレ! なんて硬さだ!」


「ぎゃう!」


「ゴフゥッ!?」


 クリスタの周りに群がっていた騎士達も、クリスタが勢いよく尻尾を振り回すと避けきれずまとめて薙ぎ払われる。

 クリスタに吹き飛ばされた騎士が、シジャの足元に転がるとシジャはビクッと怯え、鼻水を流しながら後ずさりを始める。


「さて、残るは君だけだがどうするかね? まだ援軍を呼ぶというのなら呼ぶといい。全て残らず片付けてしまおう」


 聡やガードル達の周りには既に多くの騎士や兵士達が無残な姿をさらし、気絶していたり、足を骨折し立ち上がることが出来なくなっていた。足を折られた兵士達は全てが黒い鱗を持つ者で、その殆どが王鳥ガルーダ族だった。

 

 正樹達が出発し、一時間は経ち幾度となく援軍がやってきたが、この時になってようやく増援の波が尽きた。



「はぁ……はぁ……聡さん。なんでアンタそんなに余裕なんだよ」

「本当ですよっ……! 私達が必至なのに対してっ汗ひとつかいていませんしっ!」


 前衛で共に戦っていたガードルとグンアは息も絶え絶えにしながら、一人涼しい顔をしている聡を見ていた。

 指揮をしていたシジャは何度も援軍を呼び、密かに街中に潜ませていた盗賊団でさえ援軍として駆り出していた。

 最初は武器のお蔭もあって二人は余裕を持って対処していたが、相手も手練れの騎士達だ。

 徐々に物量差に押されてガードルとグンアの二人は消耗していくが、それさえもカバーする様に聡が無手で薙ぎ払い、蹴り飛ばし、雷の束を落として騎士達を倒していった。


「経験の差、と言う奴ですよ。これでも幾つもの修羅場を潜っていますからね。――このような」


 倒れた騎士達の中に隠れていた一人の虎頭人が、自慢の爪で聡に不意打ちで襲い掛かる。

 聡は爪を自分に当たる直前で〈クリティカルガード〉し、完全に防ぐ。

 攻撃後で硬直している兵士の腹を狙い、左拳でボディーブロー。からの右拳で飛び上がりアッパーを食らわせる。

 ゲームならば大きくK,O!! と表示されそうな程に綺麗に決まり、どさりと地面に頭から落ち、倒れた。


 ダメ押しにと、クリスタがあぐあぐと虎頭人の頭を甘噛み。


「不意打ちもよくあることですので、倒したと思った時こそ一番気を付けましょう。ああ、クリスタ君。そんなものを食べたらお腹を壊すからぺっしましょうね」


「ぎゃうっ!」


 クリスタが咥えていた虎頭人の頭をぺっと吐き出すと、涎だらけになったまま彼は白目を向き、失神していた。


「潜った場数が違いすぎるわ。うん。服しか傷ついてないし」

「お蔭で私たちの方が少し楽させてもらったけどねー。おじさんすごーい!」

「ご主人様ですから当然です」


 後ろでは屋敷を守るように布陣していたエリス、シブラ、そして聡のメイドのリナがもう一本の『デュランダル』を手にその様子を見ていた。

 彼女達の言うとおり、聡はダメージと言えるダメージを殆ど受けておらず、40人を超える兵士達が掛かっても与えられたのは服への損傷、そして軽い打撲程度だった。


 彼女たちの役割はガードル達の後方支援だったお蔭でガードル達程の消耗はしていない。

 彼女達はガードル達を支援する様に、率先して敵の弓兵や魔法使いを狙い的確な援護でガードル達を助けていた。

 リナは万が一に備えて彼女達の護衛である。彼女達に向けて魔法や矢が飛んでくるが、頑丈さに定評がある『デュランダル』によってすべてが防がれている。

 中には聡達の防衛を掻い潜った盗賊もいたが、無骨で歪な『デュランダル』の一撃によって叩き伏せられた。


「ぐぐぐ……!」


 頼みの援軍も、子飼いの盗賊たちもやられてしまったシジャは顔を青くしながら後ずさりを続け、終いには足元の小石に躓き尻餅をつく。


「クソッタレ! こ、こんなはずじゃ! なんでこんな所にこんな奴らがいるんだ!!」


 理不尽すぎる強さにシジャが腰を抜かしながら、後ずさりを続ける。

 その様子は騎士としても男としてもみっともなく、ガードル達は一斉に残念そうな目を向ける。


 その時、ゴゴゴゴッと大きく地面が揺れだした。

 意識がある騎士達もシジャも、ガードル達、その場にいる全員が何が起こったのか判らずに辺りを見渡し始めるが、ただ一人聡だけがしっかりと土の大神殿の方角を睨んでいた。


 聡は長年の勘から、戦いの気配と言うのを感じ取ることが出来る。

 聡は、格闘ゲームのキャラクターの強さを用いてこの世界に来た。

 格闘家だからこそ、感じ取ることが出来る戦いの気配。

 その気配は土の大神殿の地下から徐々にのぼり、今土の大神殿を食い破らんばかりに迫る。






「来る……」


 その声を合図に、土の大神殿の屋根が吹き飛び国中に魔力嵐ガストと瘴気が広がり始めた。


 聡は眼前にいるシジャに目を向ける。


「ガッアッ! ア゛ッァ゛ァ゛ァ゛!」


 シジャは先ほどまで腰を抜かし、部下を置いて逃げようとしていたが今は頭を抱えて全身を震わせる。

 身体の黒く染まった鱗から黒い煙が立ち上がり、獣のような呻き声を上げていた。

 シジャが聡を睨みつける。その瞳を見た聡は一瞬で拳に殺意を込める。


 聡は、変貌を遂げていくシジャに向け残像を残すほどの速度で接近し頭を鷲掴みにし、レンガの壁へ向けて走っていく。

 シジャは爪を禍々しくトカゲの様に変貌させ、聡の腕を掻き毟り皮膚が削げ、血が噴き出るが聡の動きは止まらない。


――ゴシャッ!――

 

 聡は勢いをつけたまま壁へシジャの頭を叩きつけた。


 赤黒いシミが壁に張り付き、シジャの身体がズルズルと重力に従って崩れ落ちる。

 今まで殺さずにいた聡が、目の前で躊躇なく王鳥ガルーダ族の騎士を殺した事にガードル達は動揺していた。


「お、おい。サトシさん。何も殺さなくたって……」


「ガードル君。足元を見たまえ」


「足元……っ!?」


 ガードル達の足元には斧を持った王鳥ガルーダ族の青年がいた。

 彼も他の王鳥ガルーダ族と同じく身体に黒い鱗を持っていた。

 その身体に異変が生じ始める。


――バキバキ、ベキ、ガッ――


 その体が歪に、変貌していく。

 冷気を通さぬ、水を弾く羽毛は全て高質化し爬虫類のような鱗へ。

 鋭い嘴は無数の牙が生え、顔つきが細長く口を飛び出したような骨格に。

 目つきは猛禽類の物からぎょろりと瞳に縦に線が入ったトカゲのような物に。

 背中の羽はまるで蝙蝠の様に変質を遂げていく。


 変貌した王鳥ガルーダ族が四つん這いになりながら、ゆっくりと起き上がる。足が折れているせいで上手く立ち上がれていない。


「ギッギギッギッギ! ギィー!!」


「うおっ!?」


 涎をダラダラと流しながらまるで餌を見つけた獣のような目つきで、ガードルに向かって襲い掛かった。

 ガードルは鋭い爪を剣で往なしながら、隙だらけの背中に向けて剣を振り下ろす。


 ギャリリリ! と金属をひっかいたような音を立て、弾かれた。


(んだと!? 剣が弾かれっ! いや、こいつは!)


 ガードルは自分の攻撃がまともに通らなかったことよりも、今の手ごたえに驚きを感じていた。

 驚きは一瞬だったが、ガードルの攻撃は騎士の背中に少なからずのダメージを与えており、騎士は前のめりに倒れこんだ。

 ガードルは伊達に二つ名もちの冒険者ではない。


 直ぐに頭を切り替えて、対人の戦いから、対狂獣・・・の力に切り替えて全力で剣を振り下ろす。

 人に使えば大ぶりな攻撃で避けられるが、狂獣に対しては隙を作ってから大ぶりの攻撃でなければ歯が立たない。

 

 ガードルの剛剣によって元王鳥ガルーダ族は背中の羽を散らし、背中の鱗を背骨ごと砕かれて絶命する。

 

「何だこいつは……。まるで」

 

「狂獣、ですね。そこの彼も同じ目をしていました。もはや獣人としての誇りや意識すらない。モンスターと同じ雰囲気をだしていました」

 

「人がモンスターになるなんて話聞いたことがありませんよ!」

 

 グンアが悪夢でも見たような鬼気迫る様子で声を荒げる。

 人や獣人がアンデッドになることはあっても、モンスターになるという話はガードル達も一度も聞いたことはなかった。

 

「なら、その話は初めて出たという事だ。気を引き締めたまえ。エリス君、シブラ君、リナも動ける準備を」

 

「えっ? それはどういう……」


「や、やめろにゃっ! 助けてくれにゃぁぁっ!」


 エリスの疑問は直ぐに氷解する。

 目の前で変貌したガルーダ族の騎士や一部の盗賊たちが最も近くにいた仲間の獣人達に貪るように襲い掛かっていた。


「グウゥゥゥ!!」


 まるで狂獣の様にうめき声をあげ、倒れていた猫人族に襲い掛かる元王鳥ガルーダ族。

 聡は足元に転がっている兵士達を一足で飛び超え、跳躍しながら空中で体を捻る。


「シュッ……!」


 聡の直ぐ横をシブラの矢が通り過ぎ、元王鳥ガルーダ族の首筋を貫く。

 通常の矢ならば通らないが、シブラの放った矢は正樹特製の鉄製のやじりを使っている。

 旅の間にシブラの矢が狂獣に対して中々有効なダメージが通らず、困っていたところを正樹が持つ鍛冶レシピの中から最も手軽で入手がし易い矢をレシピごと譲ってもらっていた。

 この鉄製の矢は『スパイラルアロー』と言いやじりが螺旋状を描く特徴を持っている。

 スパイラルアローは貫通力に特化した矢で頑丈な敵であるほど効果が高い矢だ。

 頑丈すぎる鱗を持つ狂獣に対しては効果が抜群で、アイアンアリゲーターもダマスクリザードでさえ貫くほどだ。

 詳細なレシピさえあればあとは鍛冶屋に持っていくだけで量産も可能。

 

 更にはシブラ自身が持つ弓も正樹の手による〈オリハルコンコーティング〉で強化されている。オリハルコンは剣や弓や投擲類の攻撃力を上げる力を持っている。

 コーティングを掛けた部分も弓本体ではなく、弦なのでそう目立つこともない上に弦さえ取り換えればさらに強い弓に取り換える事すら可能だ。

 余談だが、エリスが持つロッドも〈アダマンコーティング〉を施され、打撃力が上がっている。ガードルの丈夫さに期待しよう。


 強力な矢を受けた元王鳥ガルーダ族がのけぞり、聡がその側頭に向けて雷撃を纏った後ろ回し蹴りを振るう。


「グガァァ!?」


 ゴッ! と頭から鈍い音が鳴る。常人なら即死だが、強化された元王鳥ガルーダ族は辛うじて耐えている。

 ギョロリと、聡の一撃を耐えた騎士は爬虫類の眼で聡を見る。

 その眼は怒りと憎悪と飢餓、まるで食事を邪魔された獣そのものだった。

 だが、まだ聡のターンは終わっていない。

 

「〈|双雷牙(そうらいが〉〉」


 聡は後ろ回し蹴りから、更にもう片方の足から繰り出される稲妻の如き踵落としを王鳥ガルーダ族の頭へと振り下ろす。

 破城鎚はじょうついの様な重い一撃を喰らった騎士は、顔中の穴と言う穴から血を噴き出して絶命した。


「あ、ああ。た、助かったにゃ。あ……口調が。げふん、ありがとう」


(その語尾は素だったのだな……)


 内心聡はそう思いながら、手を猫人族の兵士に貸して起こす。


「礼はまだ早い。君にもやってもらう事がある」


「やってもらうことか?」


「彼らの対処だ」


 聡の視線の先には全身を人型の狂獣の様に変異させ、ゆっくりと起き上がろうとする元王鳥ガルーダ族の騎士達や盗賊達がいた。

 しかし、彼らは全員足を折られており、変異しつつも上手く起き上がれないでいる。

 


「彼らを放っておけば街に多大な被害が出るのは明白だ。彼らを止めてほしい」


「ああ、街を守るのは俺らの仕事だ! 任せてくれ! それにあいつ等には普段から散々酷い目に合わせられたからな。ついでにここいらで憂さを晴らさせてもらおう!」


 ふしゃーと尻尾の毛を逆立させてやる気満々になる猫人族の兵士。その点だけは聡も猫らしいと思った。

 王鳥ガルーダ族の騎士達は傲慢で、他の種族の兵士達を見下し、道具にように使っていた。

 特に酷いのは半獣人ハーフと呼ばれる人族に近い彼らだ。

 日頃から理不尽な扱いをされていることは聡も知っていた。

 聡は密かに親交がある貴族に声をかけて、手を回し出来る限りの範囲で助けたこともある。

 猫人族の兵士は他の無事な獣人達を起こして、戦える人数を増やし始める。

 その様子を見た聡は次に、ガードル達の方に振り向く。


「ガードル君、グンア君。後は任せた。彼らと協力して、この場を鎮めてくれ。リナ、屋敷の地下に避難できる部屋も使ってくれて構わない」


「畏まりました、ご主人様」

「後は任せたって……サトシさんは?」


「私はやることが出来たからね。ほら、もう来たようだ」


 玄関の先を見ると、そこには無数のアンデッド達の群れがゆっくりとした足取りでやってくるのが見える。

 瘴気が、ワイルガード全体に広まり至る所でアンデッド達が生まれていた。


「街の大掃除に出かけてくる。リナ、いつもの時間に紅茶を用意しておいてくれ」


「はい。ご主人様、ご武運を」


「では、行ってくる」


「ギャウッ!!」


「クリスタ君……君も行くというのか?」


「ギャウギャウ!」


 クリスタが何度も首を縦に振ると、聡はぽんっとクリスタの首を撫でる。


「そうか。ならば共に行こう。背中を借りるよ」


「ギャウッ!」


 任せろと言う様に翼を広げるクリスタ。

 聡はクリスタに乗り込み、アンデッド達に群れの中に飛び込んでいく。

 聡の無手から放たれる雷撃と、クリスタの突進力にアンデッド達は成すすべもなく吹き飛ばされていった。


 聡の後ろではガードル達、兵士達と変異した獣人達との戦いが始まる。

 変異したといっても、大半は足が折れ機動力を失った者達ばかりだ。

 聡はさほど苦労はしないだろうと思い、意識を目の前に向ける。

 目線の先には先ほどよりも多く、更に強力なアンデッド達が立ちはだかっていた。


 瘴気により生み出されたアンデッド達の大半が昔の戦争で亡くなった獣人達、周辺で討伐された狂獣達だ。

 骨だけの身体で飛び掛かってきたスカルダマスクリザードをクリスタの背中に立ち、足刀で消し飛ばす。


 道には、40を超える大量のアンデッド達が狭い路地を埋め尽くしていた。

 空にも無数の鳥や蝙蝠型のアンデッド達が聡達を狙っている。

 

 聡はクリスタの背中からアンデッド達に向かって飛び、足を銀色に光らせる。

 地上ではクリスタが足に力を込め、砂煙をあげながらアンデッド達に向かって爆走する。


 アンデッド達が空にいる聡、地上にいるクリスタに向かって牙や爪を振るおうと襲い掛かるが。


「〈斬鉄脚・飛燕〉」


 牙や爪が辿り着くよりも早く空中で足を素早く数回振ると、足先から斬撃が飛び狂獣も獣人の関係なく切り裂く。

 聡が放った斬撃は鎧も、鋼鉄の牙も、鉱物の鱗も容易く切り裂いた。

 クリスタの突進の威力も凄まじく、多くのアンデッド達と激突しても速度は緩むことはなく踏み潰し、砕いていく。


 聡はクリスタの背中に再度着地する。


 聡の通った後には、塵となったアンデッド達が残るだけとなり街の中へ走り抜けていった。





 ◆◇◆






 地下から上空へ飛び出したパラケルスス達は土の大神殿の前にある大広間に降り立つ。


 空からはパラケルススによって呼び出された無数のアンデッド達が雨の様に降り注ぎ、至る所で人達を襲い始めた。


 混乱の最中、パラケルススの足元を中心に黒いシミが広がり、そこから多種多様な多くのアンデッド達が現れる。

 ゾンビ、スカルワーウルフ、レイス、ヘドロフロッグなど今では絶滅したアンデッドが中央広場を埋め尽くしていく。


 ノーフェイスは袖か茨で出来た無数のモンスター達を生み出し、街中に放ち、パラケルススが呼び出したアンデッドは兵士や住民を襲い、次々と新たなアンデッドへと仕立てていく。


「ガァァァ!!」


「う、うわっ! やめっ! ギャァ!!」


 アンデッドの本能に赴くままに仲間である兵士達を喰らい始める。

 喰らわれた兵士はまた次の兵士を、そしてその次の兵士は民をとネズミ算式にアンデッドの量が増えていく。

 その様子を見ていたノーフェイスは満足そうに頷く。


「「流石は古代死霊都市ネクロポリスの王。2000年経っていてもその力は健在ですね」」


「ノーフェイス、それは過去の事。今はタダのしがない術士ですヨ」


 空ろな目でノーフェイスを一瞥するパラケルスス。

 それに呼応する様に無数の骨で構築されたスカルスケルトンが黒いシミから生まれた。


「「フフフ、タダの術士がこのような事を出来るわけがないのに拘りますね。まぁ、いい。では私も自分の仕事をしましょうか」」


 ノーフェイスが肩を竦めつつ、自分の下に狂獣人と化した騎士2名を呼び寄せる。

 彼らはザンドの腹心と言える部下で、ノーフェイスが密かに手を施した者達だった。


 跪く彼らに、ノーフェイスは額に種を植えこむ。

 その種は帝国でフィリア姫に埋め込まれた種だった。

 種は狂獣人となった身体を媒体とし、全身を茨で構成していく。


 狂獣人は10メートルを超える巨体となり、背中に巨大な茨の翼を生やす。

 両手からは無数の茨の触手を生やし手、手当たり次第に建物を破壊し始めた。

 

 ノーフェイスはその姿を見て、顎に手を当てながら頷く。


「「ふぅむ。流石に天性の素質があった姫とは大きく成長の度合いが違いますね。しかし、今はこれでも十分、殺戮と絶望をまき散らせるでしょう。まずは心の拠り所を潰しましょう。パラケルスス、私は王城へ向かいます」


「勝手にして下サイ。そうそう、決して人を侮らぬ様ニ。足元を掬われますヨ」


「「人如きが……と言いたいところですが、心に留めておきましょう」」


 ノーフェイスは巨人の肩に乗り、巨大な樹の上に建つ王城へと向かっていく。

 その姿を見送るパラケルスス。

 彼の傍には少女の姿をした一人の亡霊が寄り添っていた。

 亡霊少女は心配そうな目でパラケルススを見つめる。


「ええ、漸く託せそうな人達を見つけまタ。カレらにはこの程度の困難は乗り越えてもらわなくては困りまス。時間がありせんからネ……早いですネ。もう、カレらが来たようでス。アナタは下っていてくだイ」


 パラケルススは亡霊少女の手を離すと、亡霊少女は惜しむように何度も振り返りながら物陰の裏に隠れる。


(幾万の罪を重ねたワタシですガ、この役目だけハ果たさなくてはいけまセン。あの方々との最後の約束だけハ)



 亡霊少女の背を見送りながら、後ろを振り向くとエクスマイザーの手に乗った正樹達が姿を現す。




◆◇◆




 まさかここにパラケルススが残ってるとは思ってなかった。

 流石にノーフェイスは何処かへ向かってしまったようだ。



 俺達がエクスマイザーの手に乗り、地表に飛び出ると既に瘴気はワイルガード全体に及び、至る所で悲鳴や剣の音が聞こえる。

 魔法の爆発音が聞こえないのは瘴気と同時に魔力嵐ガストがまき散らされた事が原因だろう。


 魔力嵐ガストはどうにもならないが、瘴気の発生源は目の前にいるパラケルススだ。

 こいつさえどうにかすればこのアンデッド達は止まるだろう。多分。


「エクスマイザー……。そうでしたネ。その巨人が貴方達にはありましたネ」


「まさか律儀に待ってるとは思ってなかったな。あいつ、ノーフェイスはどうした?」


「あの方なら王城へ向かいましタ。追うなら早く行った方がいいでしゅウ」


「城へ!? くそっ! やらせるか!!」


「王子!!」

 

 シリウスがエクスマイザーから飛び降りようとした所で、シーザーが肩を掴み喰い留めた。


「何故止めるシーザー!」


「落ち着いてください王子! 貴方一人で向かって何になるのですか!」


「しかし!」


「だから落ち着け、シリウス。シーザーは一人で向かうなと言っているんだ」


「うむ……マサキ殿。済まぬがそれがし達に力をお貸し頂きたい」


 シーザーは頭を深々と下げ、シリウスも遅れて頭を下げるがそんなことされなくてもやるつもりだ。


「言われずとも。ヨーコ、アデル、秋葉、エクスマイザーに乗ってノーフェイスを追ってくれ。レヴィア、ジーク、ネメア―、司は街中に広まったアンデッド達の討伐を頼む。俺はこいつを食い止める」


「おっけー! 前の戦いじゃお留守番だったからね。全力でいくわよ!」

「分かった……マサキも無理はしないでくれ」

「正樹さん、直ぐに戻りますからね」


「まかせい! 爺を助けたのに国が滅んでは元も子もないからのぅ」

「馴染みのある国だ。やらせるわけ位にはいかねぇ」

「りょーかいや。ここいらで一つぱーっと裏晴らしさせてもらうわ」

「分かりました。マサキさん達もご武運を」


 俺を残し、エクスマイザーはブースターを吹かしながら王城へ飛んでいく。

 彼女達なきっと大丈夫だろう。アデルもあの技に磨きをかけているはずだし、ヨーコに至っては……うん。下手すると『超合金』よりエクスマイザー使いこなしてないかな。

 秋葉の方は獣王国に向かう途中で弾に細工を仕込んでおいたのを渡してある。

 万が一の時に備えて、春香と共同で開発しておいた奴だ。少なくとも効果はあるだろう。



 レヴィアとジーク、司とネメア―も斧と素手でアンデッドの壁を打ちこわし、進んでいく。

 司なら広域マップがあるし、〈気配感知能力上昇(中)〉があるから敵の位置も大丈夫だ。

 レヴィアを筆頭にジークと、ネメア―に関しては言わずとも本人たちの力が飛びぬけてるのでそこらの アンデッドじゃ相手にもならない。

 ジークは土地勘とリーダーシップがあるし、上手く皆を引っ張ってくれるだろう。



 さてと、まさかパラケルススがここまで手出しせずに待ってくれるとは思わなかった。

 パラケルススは俺達を待っているかのように、悠然と立ちながらアデル達にもジーク達にも手を出さなかった。


「追わないんだな」


「えエ。元からワタシの目的は異世界人、マサキ。アナタですカラ」


「俺が目的だと? どういうことだ」


「アナタがワタシの待っていた人なのかもしれないのですヨ。さぁ、問答は終わりにしましょウ。今代・・の英雄マサキ。アナタの力を見せて下さイ」


 今まで抑えていたのだろうか、周囲を覆い尽くすほどの濃い瘴気がパラケルススの身体を覆っていく。

 瘴気は黒い光沢をもつ鎧となり、パラケルススの手には骨で形成された杖。


 瘴気からは次々とアンデッド達が生まれていく。スカルジャイアントにドラゴンゾンビ、巨鳥のゾンビまでいる。

 この場でこいつを止めなければ、獣王国は瞬く間に滅ぶ。

 

 力を見せろか。何を考えているかは知らないが、いいだろう。

 新しく手に入ったこいつ・・・の力も見たいしな。全力で振るわせてもらおう。

『レヴァンテイン』を構えると、刀身を青白い炎が覆う。

 パラケルススが前に重心を傾けると同時に、俺も走り出す。

 

 ――ズガァァァァァァンッ!!――

 

 俺の『レヴァンテイン』と、パラケルススの杖がぶつかり合い、周囲に蒼炎と瘴気が衝撃波となって周囲を襲った。


感想・評価ポイントなどをくださるとモチベーションの維持に繋がりますので大変助かります。


特番的な物を作りたかったのですが、正月休みが仕事上一日しかなかったのであえなく断念。

本になりまして喜んでいましたら、気が付いたら会社中に広まり、更には家族までもが読んでいたという事実をこの間教えられました。気恥ずかしさで吐血したのは言うまでもありません(ガハァ!)


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