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理不尽の一撃

明日、12月25日GMが異世界にログインしました。発売です!


 ザンドがノーフェイスによって貫かれ、追い打ちをかけるように四肢を茨によって串刺しにされていく。

 

 仲間割れか? まぁいい。今はそんなことよりヨルムンガルドとフェン達だ。

 

 光が俺を覆い隠している間に、《ステルス》のまま奴らの目から逃れてフェン達を抱きかかえる。


 「っ……!」


 《ステルス》の効果が切れ虚空に気付かれたようだが、不思議と攻撃を仕掛けてこなかった。

 それどころか声を上げることもなく、ただ沈黙を貫いていた。



効果が切れた《ステルス》を再発動し、フェンを脇に抱えながらヨルムンガルドの下へ向かい、首を絞めつけている茨を切り裂く。

 

 茨が切り裂かれるとヨルムンガルドの痛々しい傷が露出する。

 傷口には何本ものバルムンクが突き刺さっており、毒らしき物まで入っているのか紫色に変色している部分さえ見て取れた。

 バルムンクを《違法武具イリーガル剥奪》で消し去り、毒を毒消し薬で治そうと振り掛けたが、効果が現れず毒のままだった。

 気になり〈鑑定〉してみると、このように出ていた。


『地神ヨルムンガルド

 種族:ハイエンシェントドラゴン

 HP:1300/50000000

 MP:0/60000000

 状態異常:ヒドラ毒(MPが多ければ多いほど効果が増す猛毒)、昏睡』




 うーわ。厄介な毒に掛かってる上にHPが残り1割を切っていて危険な状態だった。

 ヒドラ毒は数多の英雄を殺した有名な毒だ。俺のオンラインゲームでもNPCをヒドラ毒から助けるためのクエストがあり、時間制限内にダンジョンから『アレクレピオスの薬』という特効薬が必要だ。俺もこのクエストには挑んだが、移動速度上昇アイテムがあってやっとクリアできるという難易度だった。

 クリアしたという事なので、『アレクレピオスの薬』は未だアイテムボックスの中に入っている。正しくは貴重品枠なので入りっぱなしだな。

『アレクレピオスの薬』をヨルムンガルドに振り掛けながら思う。

 ヒドラ毒自体も【ブリタリアオンライン】では実装されている猛毒だ。フィールドレイドボス、ヒドラが落とすレア素材として実装されている。

 もしかしたら、この毒は【ブリタリアオンライン】から来たものなのかもしれないな。

 改めて〈鑑定〉してみると、ヒドラ毒は無事治ったようだ。

 ほっとしつつ、エリクサーを振り掛ける。

 この巨体だと気休め程度にしかならないだろうが、エリクサーを振り掛けると僅かにHPのバーが動いた。

 本当に気休めだな。回復量が5万とか出てるから、やらないよりはマシだったか。


 光が収まった所で小脇に抱えているフェンに声をかけた。


「フェン、大丈夫か?」


「あ……大丈夫……です。マサキお兄さんが……助けてくれるって……信じてましたから。……んと……マサキお兄さん……さっきのお兄さんがすまないって……謝ってました。後、騎士の人達に……チート? の装備が付けられて操られているって……マサキお兄さんに教えてほしいって……」


 洗脳系のチート装備か、また厄介な物を……しかし、これはさっき覚えた《違法武具イリーガル剥奪》の事を感づかれたか。そりゃあれだけの武器を消したら勘の鋭い奴なら分かるか。

スーツや腰のビームセイバーとか虚空のまともな装備は無事だし。

虚空の意図が全く読めないが、どうやらパヴァリアも一枚岩じゃなさそうだ。

さっきも攻撃も仕掛けてこなかったし、ここは半分程度に信じておこう。


「そうか。わかった」


「ちょっと、マサキー! アタシの事忘れてないー!?」


「あぁ、うん。アリスも大丈夫そうだな」


「ぶー。ついでっぽい! っと、それどころじゃないね。何々、仲間割れ?」


「どうやらそうみたいだな」


 まぁ、フェン達を助けるのには都合が良かったが何がどうなってるのやら。

 

「やれやれ……。一瞬目を離したすきに巫女どころかヨルムンガルドまで。まぁいいでしょう。目的は達しているのですから、ねっ」

 

「あっが……!」


 ノーフェイスが黒い茨を動かすと、ザンドの身体が茨に貫かれたまま宙へ浮いた。

 まるでモズの早贄のようだ。


「な……何をっ……! 漸く我の願いが叶うと……いうのにっ……何故! ガハッ!」


 ザンドは吐血を起こしながらノーフェイスを睨みつける。


 ノーフェイスは悪戯が成功した子供のように残酷で無邪気な笑みを浮かべ、笑い声をあげていた。


「なぜ? ふふふ、ふはははは! 貴方如きにこの力を渡せるわけがないでしょう。」


「そ、そんな……我は貴殿らとの約束を果たした……。我に破壊の力を、狂獣の力を与えてくれる約束では……」


「ああ。そんな約束でしたね。ええ。嘘ですよ。当たり前じゃないですか」


「なっ……!?」


 ああ。やっぱり嘘だったんだな。となるとフェンの約束も守るつもりはなかったのだろう。

 どういうつもりで見逃したかわからないが、虚空にはちょっとだけ感謝だな。

 

 さて、仲間割れを起こしているうちにやることをやってこう。

 アイツらはアポイタカラを使って何かしようと企んでいるのは明白だ。


 なら、それさえ取り除けばあいつ等の目論見は叩き潰せるってことだ。

 その前にエリクサーを掛けたし、ヨルムンガルドに『念話』で声をかけてみよう。


《俺の声が聞こえますか?》


《……あ、あぁ。聞こえるぞ。助かった……異世界の者よ》


《今からアポイタカラを砕こうと思いますが、問題はありますか?》


《砕く? ……無理だろう。奴の身体は希少金属ヒヒイロカネで出来ておる。如何な聖剣や魔剣であろうとも傷をつけるのすら困難だ。それこそ、神器と呼ばれる物でなければな》


 ヒヒイロカネか……だが、困難であっても砕く事は否定しないようだ。


《時間がありません。もう一度聞きますが、砕いて問題はありますか?》


《問題はない。だが、結界も破られた今、今にもアンデッドとして復活してもおかしく無ないぞ》


《つまり、まだアンデッドにはなってないんですね?》


《うむ》


 よし、ならいける。

 マップで見てもまだ、アポイタカラの亡骸はモンスターとしての反応はなかった。

 鑑定してみても『アポイタカラの亡骸』としか表示されない。


《今から動きますので、少しの間、この子の事をお願いします》


《この娘は……!? あい判った。何をするつもりか判らぬが、気を付けるのだぞ》


 さてと、許しももらったことだし動きますかね。

 ノーフェイスも都合のいいことと言うか、ザンドをいたぶることに意識を裂いている事だしな。


「貴方には楽しませてもらいましたよ。国を売ってでも歴史に名を残そうと、あがく道化っぷり。薬も何の疑いもなく飲み、挙句に広める。今だから教えて差し上げますが、あの薬には精神を蝕む作用があり、服用し続けると強力な力と共に私達の下僕になるようになっているのですよ。お蔭で王鳥ガルーダ族の殆どは私達の物になりました。ほら、この通り」


 ノーフェイスが腕を振るうと、部屋にいた王鳥ガルーダ族の騎士達が一斉に膝をつく。数人混ざっていた闘獅子バトルレオ族の騎士達にも影響が出ているのか、頭を押さえて苦悶の表情を浮かべている。


「そんな……そんな!」


「くっくっく。どうですか。自分たちの同胞をプレゼントした気分は? いやぁ、貴方は歴史に名を残せますよ。歴史に残る大馬鹿として」


「き、さ……まっ!!」


「貴方には最後の役割があります。それを果たしてもらいましょうか」


 ザンドは腹部から血を噴き出しながら、手を振るうと風の刃が生まれた。

 風の刃は茨を数本切り裂くが、地上から突き出てた黒い茨によって遮られ霧散する。

 ノーフェイスに届いたのはそよ風で、フードを軽く揺らす程度だった。


「では、さようなら。やりなさい」



「お……おのれえええぇぇぇぇぇ!!」


 操られた王鳥ガルーダ族の騎士達が一斉にザンドに襲い掛かり、多くの剣や槍で貫かれる。


「これでおしまいです」


 黒い茨がザンドを包み込む。

 手を、足を、身体を黒い茨が包み込み、全身を覆うと雑巾を絞る様に圧縮されメキメキ、グチャリと嫌な音が聞こえた。


《幼子、妖精族よ。お主は見るな》


「は……はい」


 ヨルムンガルドが咄嗟に長い胴体を動かしてフェンの視界を遮った。

 フェンとアリスには目の毒だ。ヨルムンガルドの気遣いに感謝だな。

 

 そのドサクサに紛れて《ステルス》を発動し、姿を消す。


「うぇ……げぇぇ」

「惨たらしいものじゃな……」


 シリウスはしっかりとみてしまったらしく、折れたバルムンクを杖代わりにしながら吐いていた。

 レヴィアでさえも不愉快そうにその様子を見ている。

 あれを楽しく見れる奴なんてイカれてるか、頭がどうかしてるやつだろうな。


 ポタポタと赤黒い血が地面を濡らし、赤黒い血がまるでスライムの様に動き始める。

 あの赤黒い血からは禍々しい気配を感じる。あれを使って何かするつもりなのか。


 赤い血はアポイタカラに向かってくるが、遅い。俺は既にアポイタカラの骨の上に登り切っていた。


『アポイタカラの亡骸』の首に手を置き、採掘ポイント・・・・・・に狙いを定める。

 俺から見る視線では、稀に伐採、採取、採掘できるポイントが見える。これは【ブリタリアオンライン】での仕様だ。採掘は岩場だけでなく、骨にも適用される。

 アポイタカラの亡骸は全て白骨になっており、一部は採掘可能なポイントとなっていた。

 その中で最も効果がありそうなのがここだ。掘り砕いてしまえばどう利用しようと企んでいても関係がない。掘る手段はつるはしだけだったが、ここは異世界だ。手段はなんでもいい。

 

 スキル構成も一撃必殺の構成でくんである。


パッシブスキル:〈武神の心得〉〈無手の心得〉〈HPMP自動回復(大)〉


アクティブスキル:〈聖拳突き〉〈無音撃〉〈波動剣〉〈捨て身〉〈ダークパワー〉〈ファイナルアタック〉〈オーバーブレイク〉


〈無手の心得〉は格闘武器のダメージを倍加させるスキル。

〈捨て身〉は一定時間防御力を半減させる代わりに物理ダメージを引き上げる効果がある。

〈ダークパワー〉はHPを犠牲にして相手に大ダメージを与える。

〈ファイナルアタック〉〈オーバーブレイク〉は、二つともHPMP両方を消耗し、次に放つアクティブスキルに必殺の一撃を与える大技だ。再使用に一日もかかるが威力はけた外れだ。

 それが二つ。相当HPMPが削れるが割合なので問題なし。直ぐに自動回復するしな。


 そしてそれら全てを上乗せして放つのが、骨、鉱物など頑丈な物に対して最も効果が高い〈聖拳突き〉。聖属性のスキルなのでアンデッドに対しては効果は絶大だ。

 更に頑丈な防御を打ち抜く〈無音撃〉。止めに強く拳を包み込むようにイメージした〈波動剣〉。


 全てのスキルを発動させ、〈聖拳突き〉によって光る拳に、〈ダークパワー〉の漆黒の力がまとわりつく。この時点で《ステルス》の効果が切れてしまった。


「おや、まさかそんなところにいるとは。ザンドで遊んでいる隙にアポイタカラを排除しようとする目の付け所は良いのですが、ヒヒイロカネで構成された骨はそんな攻撃ではビクとも……」


 ヒヒイロカネね。伝説クラスの鉱石で出来てるなら自信もあるだろう。

 だが、こっちもこの一撃には自信があるんだ。

 普段はまともにやれないような一発限りの極端な構成。更に避けられたら終わりと言う博打的な物だが、動かず、砕ける的――採掘ポイントがあれば話は別だ。


「はぁぁぁぁぁぁぁあああ!」


 燐光りんこう漆黒しっこくが混ざった無手による一撃をアポイタカラのポイントに打ち付ける。


 ズガァァァン!! と強烈な衝撃音と共に部屋全体が大きく揺れた。

 崖も一部崩れ、天井からは岩まで落ちてくる。 

 やっべやりすぎたかもしれん。だが――手ごたえありだ。


《おお!?》


「なんですって……!?」


 ヨルムンガルドからは驚喜きょうきと、ノーフェイスが驚愕の声を上げ、愉悦の表情に浸っていた(顔は見えないがそういう感じがした)のが、一転して口を茫然とあけたまま固まっていた。


 俺が放った一撃は見事にアポイタカラの強靭な骨、ヒヒイロカネで出来た骨を打ち砕いた。

 至る所にひびが走り、割れて地面に転がる。

 流石に全長30メートルを超えそうな巨体は一撃で砕けなかったが、もはやアンデッドとしても使う事は出来ないだろう。

 地面から出ていた部分も、手応え的にまだ土の中にあった部分にも衝撃は伝わっているだろう。

 這いよっていた赤黒い液体も攻撃の衝撃波で吹き飛び飛び散っていた。


「なんという、何という事を! しかし、まだ――」


 まだ、ね。なら、更にダメ押しだ。

 地面に落ちたアポイタカラの頭蓋骨に手を当てる。


「何をするつもりです! 止めろ! 止めなさい!」


 男女の入り混じった声で焦りと怒りを見せたノーフェイスは、俺に向けて黒い茨を放つ。


 更に念入りに砕くと思ったか? 残念。再使用で使えないが、この方法なら完全に使い物にできなくすることが出来る。


 収納・・と念じると、5メートルを超えるアポイタカラの頭蓋骨が俺のアイテムボックスの中に収納された。

 普通のアイテムボックスなら入る筈がないサイズだが、GMが扱うアイテムボックスは特別で、重量や個数制限、枠の制限などが全く存在しない。

 イベントで直接手渡しで配布するときがあるのだが、アイテム制限で持てませんなんてなったらイベントが進まず、GMの面目も潰れるのでそういう制限はない。

余談だが、プログラム上99個を超えると一六進数で表示される。


 このことに気付いたのは、ゴールドドラゴンゾンビの死体を片付けていた時だな。

 腐った死体を解体するのが面倒と思い、収納出来ないかなと念じたら入った。

 あれには驚いた。

 なら、このサイズの骨なら入らない訳がない。

 予想通り、アイテムボックスの中に入り表示欄に『アポイタカラの頭蓋骨(呪われている)』が追加された。

 流石に土の中に埋まっていたり、家等固定されてる物は無理だったがな。

 遅れてやってきた黒い茨を『セブンアーサー』で薙ぎ払い粉々に切り刻む。珍しく7回分の追加効果が出たようだ。


 ふと、砕いた首から強い力を感じる。骨髄と言うべき個所から、一本の柄が飛び出ていた。柄の長さ的に両手剣?


 引き抜いてみると、炎の様に赤く刀身に文字が刻まれた刃が現れた。

 装備してみるととんでもないものだった。


『レヴァンテイン:七柱の武器の内の一振り。消失希少武具ロストアーティファクト。永すぎる年月によって本来の力を失っているが、切れ味は失われておらず、魔力により万物を焼き斬る刃を宿している。剣に認められぬ者は悠久の炎によって焼き尽くされる。STR+30。攻撃力250。スキル:〈炎熱操作〉レア度:EX 装備条件:神器によって認められし者にのみ装備可能』


 ふぁっ!? 攻撃力250ってなんだよ!?

 俺の『ロストドミニオン』で攻撃力100。『セブンアーサー』は性質上攻撃力が50とミスリルソードと同値で、偽聖剣バルムンクは80。

『セブンアーサー』はこれに頻度が高い追加攻撃が発生するから凶悪な火力になっている。


 GMやってる俺でも見たことがないが【ブリタニアオンライン】で一振りしかない剣。『ゼクスキャリバー』は220を超えると開発陣から聞いたことがある。入手方法は未だ謎のままだ。

 この『レヴァンテイン』はそれに匹敵する力を持っている。これが敵に回れば『メテオハザード』以上に厄介な事になっただろう。



「くううう! 一体、なんなんですか貴方は! ヒヒイロカネを砕き、あのサイズの骨を収納!? 無茶苦茶にも程があるでしょう! その剣だってそうです! 本来ならば、炎神に認められなければ触れただけで燃え尽きる代物ですよ! 理不尽すぎます! 本当に貴方は何者なんですか!!」


 おろ、そんなに危ない武器だったのか。炎神なんて心当たりが……あ。

 GM専用装備として一つだけ心当たりがあった。


『スルトの誇り:HP+10%上昇、STR+50』

 推測にすぎないが、これのおかげかもしれない。炎神に関する物なんてこれしかもってないからな。スルトは巨人族だが炎の神族でもあるので間違っていないだろう。


「さぁな? お前らに答える義理はない」


 今まで上手くいっていたようだが、ここで一気に目論見を崩されてノーフェイスは怒り狂っている。

 帝国でも色々裏で細工を行っているような策士のような奴だ。

 自分の思った以上の力でペースを崩されて冷静さを欠いてしまっている。

 こういう奴は徹底的に策を予想外の手で壊されるのが堪えるからな。


「くくくははははははハハ!! これはこれハやられましたネ。ノーフェイス」


 心底面白く、愉快そうに笑い声をあげる人物が一人。

 そうだ、こいつがいたんだ。――パラケルスス。アンデッドを操る死霊術師。

 何処に行ったか気になっていたが、アデル達の方でなくここに潜んでいたか。


「肝心のアポイタカラの復活はもう望めませんネ。アンデッドとして利用するにしても、砕かれ、頭を失ってハ不可能。ダメ押しに神器まで奪われるとは。いやはヤ、此度の件はワタシ達の負けでショウ」


「パラケルスス!」


「ノーフェイス、ここまでやられたのでス。アポイタカラを復活させることが出来なければ、大陸を落とすことは無理でしょウ。それは貴方も判る筈でス」


「くっ……そうですね……あの種を使ったとしても、この者達がいる限りは」


 種ってあれか。帝国でバリーやイーロ、フィリアに使った人を化け物にする植物。

 確かに強かったが、頑丈なだけでやりようはあるからな。既に対抗する術はある。


「随分と素直に負けを認めるんだな」


「私は人の可能性という物を実に大事にしておりますからネ。敬意を払ったまでですヨ」


「そうか。だったら、どうする? 素直に帰るか?」


 帰さないけどな。こいつ等は放っておくと危なすぎる。

 今後の憂いの為にも仕留めれるなら仕留めておきたい。


「そう言いたいところですガ、私にもプライドがありましてネェ。勝つことはもう不可能ですガ、命を懸けて道連れ、いや、私には命という物はありませんでしたネ。ここは、引き分け・・・・とさせていただきますヨ」


 引き分け? どういう事だと思っていると、パラケルススからとてつもなく濃い瘴気が放たれた。

 瘴気に魅かれたように周囲にゴースト、スペクター、亡霊剣士など集まりだした。


「オォォォォ」

「カカカカカカカ!!」


 げ、よく見たらザンドやヴォルフまでゴーストとして復活してる。

 ヴォルフはともかく、ザンドはあれだけ深い絶望と恨みを抱いて死ねばゴーストにもなるか。

 ヴォルフもザンドも実体を持つ亡霊として、パラケルススの支配下に置いているようだ。


「ふふふフフ、宴にハ一人でも多い方がいイ。今は獣王祭直前。祭りまでとっておきたかったのですガ、こうなっては少し早いカーニバルとしましょうカ」


「……ええ。そうですね。多くの者に絶望を、多くの者に悲劇を、多くの者に死を」


「虚空、貴方は戻りなさイ。その怪我でついてこられては足手まといにしかなりませン。それにもう限界でしょウ」

 

「……判った」


 虚空は懐から宝石のようなものを取り出し、割ると光に包まれて姿を消した。

 転送系のアイテムか!

 出来れば異世界人である虚空を捕えてから色々パヴァリアについて聞きたかった。


 パラケルススから一枚の漆黒の羽が落ちる。

 羽から波紋の様に黒い波が地面を覆っていく。


 ゾワリ……と鳥肌が立った。

 咄嗟に〈ソニックブレイド〉を放つが、パラケルススの足元から無数のゾンビ・スケルトン・ゴースト・スペクターなど大量のアンデッド達が間欠泉の様に噴き出し、斬撃が津波に飲み込まれた様に吸い込まれる。パラケルススとノーフェイスもその中に入り込み上へと上がっていった。

 アンデッド達で構成された柱は天井へとたどり着き、天井を腐食しながら次々と階層を食い破っていく。



「拙い、あれだけの量の不死者じゃ! あれを外に出しては大陸とはいかぬが、獣王国が滅びかねぬ!」


「俺様の国が滅びる……!? そんなことさせてたまるか! 今すぐ奴らを追いかけよう!」


「でもー! どうやっておいかけるのー!? 私は飛べるけど私一人じゃ無理だよー!」



 そうだ。魔力嵐ガストの影響で『ウィング』は使えない。アリスやアデルの様に空を自力で飛べるものはいない。

 レヴィアを元の姿にするにしても、この狭い場所で変身しては獣王国自体に深刻な被害が出る。


 柱を切り落とそうと最も威力がある〈波動の太刀〉を当てるが、海を切ったようなもので直ぐに元に戻ってしまう。

 レヴィアのブレスも考えたが、ただでさえ崩落が始まっている地下だ。こんな所で放つと俺達が生き埋めになりかねない。

 どうするか、こうなったら俺もあのアンデッドの波に乗って地上へでるかと考えた時、ドスンと扉が開かれた。


 扉からはごついショットガンを手にしたジークが扉を蹴り空けていた。

 ラグビー選手や軍人のような体格をしているからムービーシーンの再現にみえるな。

 その後に続くのはアデル、ヨーコ、秋葉、シーザー、ネメア―、司だ。一人も欠けることなくここまで辿り着いてくれたか。良かった。

 少々怪我を負っているように見えるが、大半が返り血だな。特にジーク。またあのチェンソーでの切り裂きをやったのだろうか。


「マサキ!」

「うわっ! なにこれ!」


 急いでやってきた皆に事情を説明すると、ヨーコ以外全員が顔を青くしていた。


「ならば、急がなければ!」


 アデルが一人、空を飛んで向かおうとするがヨーコが肩を掴んで止める。

 止めなければ俺が止めるところだった。無茶にも程がある。


「待ちなさいって! 一人で行ってもあの数相手には無理だって!」


「だが!」


「だーかーらー! 一人じゃなくて、皆でいけばいいのよ」


 きょとんとした目でアデルは目を見開く。他の皆も同じだ。


「ヨーコ。何か手があるのか?」


「とーぜん! 全員ちょっと離れててね」


 ヨーコは自信満々に胸を張りながら、一枚の札を胸の谷間から取り出した。何処から出しているんだけしからん。


「『来たれ来たれ、我が盟約の名の下に、契約者ヨーコ・イザナミが命ずる。異界の白騎士よ。我が魔力、縁を元にその姿を現したまえ。式神:エクスマイザー! 招来!!』


 札が太陽の様に輝き、光が人型の形を成していく。

 人型は10メートルを超える巨人となって、光が収まるとそこには白銀のボディ、中央には光るコア。巨人やドラゴンとさえ渡り合えそうな力強さを持つ手足。

 ウォンと、瞳の光を輝かせながらゆっくりと地上へと降り立ち、片膝をつく。


 プシューと、空気が漏れるような音を鳴らしながら胸のコクピット部分が開かれて登場用のワイヤーロープが降りてきた。


「この子なら手の平に全員を乗せて一気に上まで行けるわ。それに――もう地上までやられちゃったみたい。全員手の平に乗って!」


 なるほど、エクスマイザーなら背中のブースターを吹かせばある程度の高さまで飛ぶことが出来る。

 天井を見れば光が差している。どうやら最後の階層まで食い破られ、土の大神殿の地上まで出てしまったようだ。もう予断は許さない。


 ヨーコは慣れた手つきで足場に靴を入れて乗り込んでいく。

 ファンタジー世界の住人なのに手慣れすぎじゃないかな。

 

 俺達も全員エクスマイザーの手に乗り、体勢を低くする。

 フェンが心配そうに俺を見ていた。傍には土から掘り起こされたのか豪華な服を着た老年の神官が付き添っている。大分汚れてはいるが酷い怪我も憔悴した様子もない。

 

《ヨルムンガルド様。俺達は奴らを追います。その間、フェンをお願いします!》


《分かった。儂もこの少女には用がある。くれぐれも気を付けるのだぞ……。獣王国を、我が子らを頼む。異世界人たちよ》


 ヨルムンガルドの言葉に俺達は頷き、しっかりとエクスマイザーの手に捕まる。


「全員しっかりと捕まっててねー! ヨーコ・イザナミ! エクスマイザー! いっきまーーす!!」


 実にヨーコがノリノリである。ちなみにこのノリを教えたのは俺と竜馬、意外な事に秋葉も。

 某ロボットアニメを毎週欠かさず見ていたとのこと。意外な共通点で3人盛り上がったな。


 エクスマイザーに取り付けられているブースターが火を噴くと、一気に俺達の身体に重力が襲い掛かる。


 凄まじい重力に全員が大勢を低くしてこらえながら、それでも俺達全員は上を向き、地上へと飛び出て行った。



感想や評価ポイントをくださるとモチベーションの維持に繋がりとても心身ともに助かります。


書籍の表紙はこのようになっております。


挿絵(By みてみん)


次回は大詰めの決戦です、

寒い日が続きますが皆様、お体に気を付けて! メリークリスマス!


なお、著者は年明けまで仕事です。(吐血)

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