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剥奪

連続投稿二日目です。



「なっ……!?」


 俺と虚空が言葉を失った。

 目の前で展開していた全ての武器達がまるで霧の様に消えてしまったからだ。


 俺の目の前に表示されたGM権限《違法武器イリーガルウェポン剥奪》によって。

 確かにGM業務の一つとして違法チートやバグによって作られた武器を強制的に剥奪することがある。

 ただし、これは上位権限を持つ人に調査内容を伝えた上で申請し、他の色々な手続きを得てようやく使えるシステムの一つだ。


 なぜこの権限が俺に? それに頭に聞こえた女性らしき声と、増えたもう一つの権限《申請》も気になる。何を俺にお願いしたいのか、肝心な部分が聞こえなかった。


 一先ず考えるのは後回しにしよう。《申請》という設定に関しても。今は目の前の事に集中だ。気が付けば地底が見えてきた。

 全ての武器を失い、足場の武器も消えてしまった虚空は未だ動けずにいる。

 今がチャンスだ。


『デュランダル』を俺の下へ呼び寄せて乗り、『ウィング』で強引に浮き上がる。


〈サイクロンエッジ〉を外し、〈波動の太刀〉をセットして輝かんばかりの大太刀を顕現させる。


「ハァァァ!!!」


 大きく振り上げた太刀によって虚空の分身達が五人の内、四人が幻の様に消える。

 これは一度見たことがある。次郎の分身にそっくりだ。

 ただ、存在感というか、気配が次郎のより濃い気がする。

 普段から次郎の影が薄い所為か、別物なのかどっちかだろう。

 

 「ぐおっおおお!!」

 

 本物の虚空は咄嗟にビームセイバーを盾にするが、大きく吹き飛ばされて、迫る地面へと叩きつけられた。

〈波動の太刀〉を受け止めるか。遠距離攻撃ばかりだったが、虚空の近接能力も侮れない。もし、地上で戦争で見た力と大量の聖剣による攻撃を繰り出されたらもっと苦戦してたかもしれない。



 地面に叩きつけられた拍子に生じた砂煙で虚空の姿は見えないが、攻撃の手ごたえは薄かった。

 ビームセイバーに当たる瞬間に剣が押し留められて、僅かに届かない感じがした。

 特殊な防具でもつけているのだろうか。

 SF系なら反重力とかそういうのがあってもおかしくないしな。

 俺並みに多数のスキルを操ってた虚空だ。防御系も持っているだろう。


 砂煙が晴れると、虚空もダメージは免れなかったのか、黒のスーツが切り裂かれ、血を流しながらも立っていた。

 

 だが、それでも受けたダメージが酷い所為か膝をついて息を荒くしている。

 地面が近づくとレヴィアが俺の近くに寄ってきた。


「さっきのは……マサキ。お主がやったのか?」


「ん、ああ。俺自身にもよく判らないがな」


「お主は本当に規格外じゃのぅ。妾に迫っていた剣は紛れもなく龍殺しの力を持っておった。あのままでは妾は頭を貫かれ……死んでおった。永い時を生きていて初めて死ぬかと思った……怖かった。お主には感謝してもしきれぬ。……ありがとう」


「礼は全てが終わってからだ。まだヨルムンガルドの件が片付いてないだろ」


「うむ。……そうじゃな。またお主に借りを作ってしまったのぅ。礼を楽しみにするがよい」


 レヴィアははにかむような笑顔を俺に向けた。いい笑顔だ。

 この笑顔だけで十分なんだけどな。俺は。


 虚空に続いて、俺とレヴィア達も地面に降り立った。

 着地の瞬間に『ウィング』を発動し、強引に浮遊を得て落下の衝撃を抑え込んだ。


 

 底は崖のような段差になっていた。

 俺達は段差の底に降り立つ。

 底は地下とは思えない程に明るく照らされ、巨大な黒い茨が何かを包み込むように生えていた。



 「おやおや、まさか虚空がここまでの手傷を負うとは。ようこそ、『蒼の英雄』マサキ殿」


 底で出迎えたのは、聞き覚えのある声だった。

 声の方を振り向くとバリーの記憶で見聞きしたことがある奴がいた。

 こいつがバリーに何か薬のようなものを渡し、帝国を裏で操っていた男? 女? 周囲に生えている謎水晶が光源になって明るくなっているがこいつのフードの中だけは真っ暗で見えない。



「お前は……」


「ああ。申し遅れました。私は“ノーフェイス”と申します。直ぐに別れを告げると思いますがどうぞお見知りおきを」


 顔無し……ね。本当に顔がないのか、または隠したいのか。まぁ、どうでもいいか。

 問題は帝国でも暗躍していたノーフェイスが獣王国でも悪巧みをしていたという事だ。


 俺達に遅れてレヴィア達も降りてくる。着地する寸前に地面に水流を叩きつけて落下の威力を殺していた。

 着地するや否や、シリウスが折れた剣先をノーフェイスに突き付ける。


「お前に聞きたい。あの崖上は何だ! 俺様の国民を埋めやがって!」


「ふふふ、長い間縛られていたにもかかわらずその元気。流石は竜人ドラゴニアンですね。彼らは贄ですよ。貴方もそうなる予定だったのですがねぇ」


 どうやら囚われていた神官達は崖の上で埋められていたようだ。

 サウンシェード近隣で見かけたあの儀式と同じように土地を穢すための生贄にされていたのだろう。


「相変わらず反吐が出るのぅ。貴様らは」


「おやおや、異世界人だけと思いきや、まさか貴女まで来ていましたか。リヴァイアサン」


「ふん。帝国だけでは飽き足らず、獣王国でも暗躍するとはのぅ」


「目的のためならば水の底までも。ふふふ……、リヴァイアサン様。生贄の味はどうでしたか。魂まで染み込む味でしたでしょう」


「あれはお主の仕業か。此度の件と言い、よくもやってくれおったな!」


 水の底までと言うのは比喩的表現じゃなさそうだな。

 確か、水の大神殿は地下ダンジョンを通った先にある海底に建ってあると、レヴィアから聞いたことがある。

 神官も人魚とかマーマンらしい。


「ヨルムンガルドの事ですか。永い刻を生きてきた貴方がたです。まさか自分たちに迫る存在がいるなんて想像もしてなかったでしょう。ええ、その油断こそ、絶好の付け入る隙でした。大地を支配するヨルムンガルドでさえ、ほら。この通りです」


 ノーフェイスの袖の先を見ると、そこには帝国で見た巨大な茨の森があった。

 茨の隙間からは鱗が見える。

 一枚一枚が大人の男より大きく、その巨体は半分以上が地面の中に埋まっているがマップを見る限り果てしなく大きい。

 ……あれは恐らく、ヨルムンガルドだろう。その隣にも巨大な反応がある。

 茨の先はヨルムンガルドから巨大な骨につながっており、茨が血液の様に脈打ち何かを送っているようだった。


「貴様ぁ!」



 どうやらレヴィアの逆鱗に触れたようだ。

 両手にオーラを纏わせて今にも飛び掛からんとしている。


「おお、怖い怖い。ですが、手を出さないようにお願いします。もし手を出せば……この方がどうなっても知りませんよ」


 ノーフェイスは茨を動かすと、そこから大きな龍の首、ヨルムンガルドの顔が覗かせる。

 太い首には幾重にも黒い茨が絡み付いており、頑丈なはずの鱗が砕かれて蒼い血を垂れ流している。

 メキメキと嫌な音が響くと血を吹き出し、鱗が数枚砕けて地面に落ちる。


じい! くぅぅ!!」


 レヴィアが悔しそうにしながらも、オーラを抑え込んだ。

 元々少ない龍族であり昔馴染みを人……じゃない、龍質に取られてはレヴィアも動くことが出来ない。


「そう、それでいいのですよ。では、虚空……動けますか?」


「あぁ……何とかな」


 しばらく動かずにいた虚空だが、よく見ると血が塞がっている。

 自己回復系のスキルを使ったっぽいな。


「それなら何より。そこの彼女をこちらへ。彼女こそがヨルムンガルドの巫女ですよ」


 ノーフェイスが指をさした先は、フェンだった。

 指を差されたフェンは困惑し、周りをキョロキョロと見渡している。


「この子が……」


「ふぇっ…えっ?」


「すまないがこっちに来てくれ。出来れば手荒な真似はしたくない」


 虚空は申し訳なさそうな表情をしながらフェンに向けて手を差し出す。

 虚空の意外な態度にフェンは戸惑っている。それは俺もだ。

 いままで虚空は戦闘中でも無表情を保ち、冷徹に攻撃を仕掛けてきた。

 だが、今はどうだ。こういったら悪いが初めて人らしい感情が見える。

 それは兄が妹に対して抱くような、家族に対するような表情。


 丁寧な動作にフェンもおどおどしながらもヨルムンガルドと虚空を何度も見て、こくんと頷いて虚空の下へと歩いて行く。


 今は迂闊に手を出せばヨルムンガルドだけでなく、フェンまで危ない。

 一瞬でもいい。隙さえあれば何とかなるんだが……!


「私は……何をすればいいんですか?」


「ふふふ、貴女の『神喰らい』の力をお借りしたい。貴女ならば、アポイタカラに掛けれられている結界も解くことが出来るでしょう。勿論タダとはいいません。解くことが出来れば、ヨルムンガルドを解放します。どうです? 悪い話ではないでしょう」


 いやいや、うさん臭すぎる。


 この言葉に慌てたのはガラスの筒の中で偉そうに座っていた王鳥ガルーダ族だ。

 今まで見かけた獣人の中で最も豪華な服装をし、病気なのかやせ細っている。

 

「お、おい! 何を勝手な事を!」


「ザンド公爵、これは必要な事です。残り3割が向こうから飛び込んできてくれたのですよ」


「そ、そうなのか? う、ううむ」


 こいつがザンドか。こいつが……冒険者達を。秋葉を……!


「さて、やってくれますよね?」


「……ちゃんと、約束守って……くれますか?」


「ええ。勿論」


 意を決したようにフェンがアポイタカラの傍にまで近づくと、アポイタカラの亡骸の

眼球の窪みが真っ赤に光り、ゴゴゴ! と小さく揺れた。


「っ……!」


「今は私の力で縛っているので安心してください。貴女は存分に力を使うだけでいいのです」


「……んと、本当に……ヨルムンガルド様を助けて……くれるんですよ……ね?」


「ええ。嘘は言いません」


「……わかり……ました」


「ねぇ、フェン大丈夫?」


 今までフェンの服の中に隠れていたアリスがひょっこり顔を出して心配そうに顔を覗き込んでいる。


「うん……私が……やらなきゃ。それに、アリスが傍にいるから……大丈夫ですよ」


「うん! 私が絶対にフェンを守るんだからね!」


 アリスは偉そうに薄い胸を張る。

 頼んだぞアリス。今はお前が頼りだ。


 フェンはアポイタカラの亡骸に手を触れようと手を伸ばすと薄い膜に遮られる。

 神殿を覆っていた結界と同じ物だ。

 フェンは神殿の時と同じように力を使うと、結界の膜に穴が空きだした。

 そのままフェンは力を使い続けると、アポイタカラの全長を覆う結界にヒビが入り始める。


「おお……!」


 ザンドが感嘆の声を上げながらその様子を眺めていた。

 

 次第にアポイタカラを覆っていた結界のヒビが大きくなり、この部屋全体の空気が揺れ始める。

 遂にはガラスが砕けたような音と共に結界が破壊され、強烈な威圧感が俺達を襲う。


「ひゃっ!?」


「わわっ!」


 その威圧を直で受けたフェンは尻餅をつきかけたが、虚空が咄嗟に肩を支えていた。


「ふははっはっはっは! これでっ! 我が、この国の長に! 歴史に名を! 我こそが新たなる狂獣王となるのだ!!」


 ザンドが入っているゲージとヨルムンガルド、そしてアポイタカラの3つにつながったケーブルが赤く光る。

 ジェイムズから聞いた限り、あの装置は人と何かを融合させる為の器具には違いないだろう。


 このままアイツらの好きにさせるのは癪だ。


 ザンドの高笑いが続く中、光が強くなり部屋を包み込んでいる力が増して地面が揺れだした。

 揺れは大きくなり、目が開けられない程光が強くなる。


 ――行くなら今か。


「来い! アポイタカラよ! 我と同化せよ」


 ザンドが大声を上げると同時に《ステルス》を発動して光の中に消える。

 目も開けられない程に光が更に増す中、ガラスが砕ける音が聞こえた。

 あ、俺は《状態異常耐性無効》で光の目潰しも無効です。白い程度で薄らとは見える。



「あ……?」




 ザンドの腹部に黒い茨が突き刺さり、赤黒い血が噴き出ていた。

 ノーフェイスが不気味に赤い口元を三日月上に吊り上げ、笑っていた。 

 



途中ですがここで。続きはまた明日投稿します。

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最近はこちらの方も日曜更新で頑張ってます。 宜しければこちらの方も感想や評価諸々を下さると大変喜びます。 TSさせられた総帥の異世界征服!可愛いが正義! re:悪の組織の『異』世界征服記~可愛い総帥はお好きですか~
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