襲撃
前回はハッカーとクラッカーを間違えて申し訳ございませんでした。
正樹達がヴォルフと戦っている頃、アデル達は突如現れた襲撃者によって足止めを食らっていた。
「ばーんばーん! ってな!」
土嚢に隠れながら楽しげに二丁の長銃からビーム砲を放ち、反動で豊かな胸を揺らすテレサ。
絶え間ない弾幕によりアデル達は苦戦を強いられ、身動きが取れなくなっていた。
「こうも攻撃は激しくてはっ! ヨーコ! ゴーレムを壁にはできないのか?」
「無理! 一番硬い『パラディンゴーレム』でもあっさり砕かれたのよ! 自信作だったのにー!」
「ヨーコさん危ないですよ!」
秋葉がヨーコを引っ張りながら壁際に寄せると、ヨーコの眼前に弾丸が飛び交う。「うひゃぁ!」とかわいらしい声を上げながらヨーコは後ろに下がった。
アデル達は突如現れたテレサと戦闘を繰り広げ、激しい弾幕により曲がり角まで追い込まれた。
テレサの傍には、全身をレア装備で揃えた傭兵風の女が絶え間なく弾丸を打っている。
両手にマシンガンを構えた者やライフル、果てにはバズーカなど機銃の展覧会のようだった。
彼らは全員、テレサの持つサポートキャラクター達だ。
テレサは【ソルジャーフロンティア】というMMO出身のプレイヤーで、彼女は専らソロで遊び、たまにパーティを組むとしても大手ギルドの傭兵として参加するくらいだった。
対ギルド戦では勝利の女神とも称される程の腕前で、同時に業突く張り、金の亡者とも呼ばれるほど金銭を要求していた。
そんな彼女の唯一といっていい仲間はサポートキャラクターと呼ばれる彼女が育て上げたアバタ―達だ。
【ソルジャーフロンティア】の特殊な環境として、公式でRMTが許されていた。
テレサの家は幼い頃から貧乏で、親の愛に恵まれずに育ってきた。
16歳という年齢で親元を出て、一人暮らしを始めるが人と会うのが苦手だった。
だが暮らすには、お金を稼がないといけない。
そんな時に街頭で見た【ソルジャーフロンティア】に目を引かれる。
生きる為に金を稼ごうとするテレサは見る見るうちに腕を上げ、キャラを育て強くなっていく。気づけばテレサは【ソルジャーフロンティア】が自分のいるもう一つの世界となり、テレサはそんなゲームが大好きだった。
だが、テレサにとって夢のような生活は一晩で変わる。
異世界に召喚されたテレサに待ち受けていたのは、本物の戦争だった。
テレサを召喚したのは小国同士で長い間紛争をしている国であった。
平和な地域で生まれたテレサにとっては、力を持っていたとしても振るうには勇気がなく、逃げ出した。
自分の持つ力も知らず逃げたテレサだったが、当てもなく知らない土地で逃げ切れる訳もなく、国の兵士に捕まった。
テレサに待ち受けていたのは教育という名の男たちによる凌辱だった。
異世界でのテレサの日々は地獄だった。
それでも生きたいという願望が勝り、自分の能力を知り、銃で撃ち、人を殺す術を覚える。
テレサは必死に金を稼ぐ方法を身に着けた。
生きる為の力を身に着けたテレサは紛争で指揮官を偶然、流れ弾という不幸な事故で死んだドサクサに紛れて、逃げ出し傭兵となって世界へと飛び出た。
いつしか彼女は人を金をくれるモノとして見て、苦手意識を無くしていった。
パヴァリアに関しても、異形ではあることは知っているが、彼女にとってはどうでもいいことだった。
望む金額さえくれれば誰であろうとも腕を売る。それでも無用な殺しはしないが、ターゲットとなれば遠慮はしない。そして今の彼女のターゲットは、侵入者であるアデル達だった。
「ぬう。銃というのはこうも厄介な武器なのだな。こうも攻撃が激しくては某の剣も届かぬ」
「新手のようだが……彼らは騎士ではないようだな。傭兵……とも違う」
戦いの場では剣を振るい、様々な戦いを経験していたシーザーだったが、初めて目にする銃という武器に驚きと近づくことすら出来ない事にもどかしがる。
同じ闘獅子族であるネメア―も同じ気持ちで、拳を握りしめながらも何の役にも経てないことに歯がゆい気持ちを感じていた。
「その分、矢の様に弾薬の補充は必要ですけどね。その弾薬も私達プレイヤー……異世界人でしか生み出せないものばかりですし」
「だな。黒色火薬ぐらいなら何とかなるだろうが、雷管や詳細な事は俺も判らん」
重機を扱う秋葉とジークがタイミングを狙い、銃を撃つが相手も土嚢へと身を潜め避ける。互いに隠れ、一進一退の攻防が繰り広げる。
こう着状態に陥り、じれったそうにアデルが通路の先を覗き込む。
「このままではらちが明かない……ここは強行突破を狙うか」
「アデルー……それはダメでしょ。幾らなんでもこの弾丸の雨を通り抜けるなんて死にいくものよ」
「……だってまた置いて行かれてるんだ。早く追いつきたい」
「はぁ、マサやんも罪な男やな。ごちそう様や」
司が呆れ、膨れっ面でアデルは通路の先を見る。ただでさえ距離を離されたというのにここで足止めを食らって大変不満なようだ。
そんなアデルを見てヨーコと秋葉もやれやれといった感じで見ていたが、ジークは何か思案する様にじっとしている。
「いや、ここは強行突破でいこう」
「ジークさん!? 無理ですよ、こんなの。突っ込めばヨーコさんが言った通り、死ににいくものです」
「俺に考えがある。全員耳を貸せ」
ジークの言葉にアデル達は耳を貸すが、作戦を聞くとアデルとヨーコ、秋葉は驚くが、司、シーザー、ネメア―は楽しそうに笑みを浮かべる。
作戦の間もジークと秋葉は銃を撃ち続け、作戦を練っていることを知らせない。
「ヨーコ、アデル、可能か?」
「出来なくはないが……無茶苦茶だな」
「うん。前だけに張るなら耐久力と高めることは出来るわ。軽さも……んー、土の宝玉を使えば何とかなるかしら。でもシーザーさんがいけるかよねー」
「シーザーさん。いけそうですか?」
秋葉の言葉にシーザーは大きく頷く。
「ああ、やってみせよう」
「ほな、うちからもシーザーはんにプレゼントや♪」
「ほう、プレゼント?」
そういうと司は斧を収め、ハープを取り出す。
「『金剛のクーラント』『盗賊のヴォット』!」
ポロンポロンと戦場と場違いな音楽が通路に響く。通路の先までは銃撃の音が邪魔をして聞こえないが、近くにいるアデル達にはしっかりと聞こえた。
続けざまに奏でられる音楽に、訝しみつつで聞き入っていたシーザーだったが、音楽をプレゼントかと呆れていた。だが、それは直ぐに勘違いだと気づく。
自分の身体に淡く光が籠り、更に身体が軽く感じ始めたのだ。
「これは……?」
「歌魔法や。これなら助けになるやろ」
「ええ!? 司さんって前衛系じゃ……」
「うち一言も前衛系ともいっとらんで♪」
ニハハと司は楽しげに笑い、斧を担ぎなおす。
そう、司のジョブは“バード。吟遊詩人とも呼ばれる歌を得意とする中衛のジョブだった。斧を装備しているのはバードが一番火力を出せる武器であり、司の趣味だったりする。
「オーケー。好都合だ。タイミングは俺が指示する。そのタイミングで突っ込んでくれ」
「分かった」
ジークと秋葉が銃を持ち替え、アデルとヨーコがシーザーの身体を土と魔力の鎧を纏わせる。
土はパラディンゴーレムにも使ったミスリルの成分を多く含む土で、今回は土の宝玉も使った核を使い防御力を高めている。
前にのみ防御を特化したおかげでシーザーの動きも阻害しないようになっている。
そこにアデルの魔力による鎧だ。硬化した魔力は軽く、柔らかさも自由自在となっている。
ジークの案は、アデルの能力とヨーコのゴーレムによる即興防弾ベストを作るという事だ。想定外だったが、司の歌による支援も凄まじく、シーザーの身体能力を引き上げていた。
「ジーク、弾力はこれくらいか?」
「オーケー。強度も弾力性も問題ない。シーザー、動きの方は問題ないか?」
「うむ。正面のみ、というのは些か防御に不安を覚えるが、某の背は貴殿らが守ってくれるのだろう。ならば某はその信頼に応えるのみ」
頭から足先まで、全面をゴーレム製の鎧に包まれたシーザーは奮起する様に剣を構える。
シーザーの両肩には二つの土の宝玉が埋め込まれており、重量の軽減と防御力の向上を担っている。
ここまで来ると即興とはいえ、秋葉とジークが装備している防弾ベストの防御性能を軽々と超えるようになっていた。
準備が終えると、ジークは弾幕が切れるタイミングを見計らい秋葉と視線を合わせる。
ジークがスタングレネードを投げ込む。
放物線を描く手榴弾を秋葉が打ち抜いた。
「ぐあっ!」
通路に光と音による爆弾が巻き起こった。
ジークが手を勢いよく下げ、合図を出す。
「GOGOGOGO!」
大声を上げるジークに合わせて、シーザーは壁から飛び出し通路を駆け抜ける。
咄嗟に目を閉じて何を逃れた者もいたが、二人は目と耳をやられて押さえている。
テレサは舌打ちをしながら苦虫を噛んだような表情を浮かべ、シーザーに向けて弾丸を3発放つ。
弾丸は鳥のような形状を取り、シーザーに突き刺さるが即興防弾ベストに遮られ、シーザーの身体には届かなかった。
ならばと隣の傭兵がロケットランチャーを取り出すが、秋葉のマグナムによってロケット砲が弾き飛ばされる。
秋葉にとっては僅かでも姿が見えれば当てるのはそう難しくはない。
熟練のプレイヤーにとっては、僅かに姿が見えればそれが隙であり的だからだ。
シーザーが軽く跳躍すると、隙間を縫うように斧と石材が上下からシーザーの身体を超え、傭兵たちへと襲い掛かる。
「うわっちゃ!?」
「よけろっ!」
地面と水平になる様に斧が投げられ土嚢が崩される。更に上から石材が降ってくると慌てて土嚢から全員飛び出た。
斧を投げたのは司、石材を投げたのはネメア―だ。石は床を砕いた物を使っている。
土嚢の内側に着地したシーザーは長剣で薙ぎ払い、動きが鈍った二人の傭兵を薙ぎ倒す。
「ツヴァイ! フィーア! 畜生! 〈コール・ツヴァイ、フィーア〉!! 戻れ!」
テレサの怒声が響くと、二人の傭兵の姿が光り足元から消えていく。
帰還スキルによってテレサは仲間を無事な場所へと強制送還させる。
スキルを使った隙を狙われ、続いて振るわれる垂直の斬撃をテレサは残った傭兵に襟首を引っ張られ難を逃れる。
激しい轟音と共に床石が割れ、威力を様々と見せつける。
「げほげほっ! アインすまねぇ」
「テレサ、潮時だ。引こう。ドライ」
「おうさ!」
ドライと呼ばれた女性が腰につけていた手榴弾を投げると、シーザーが残っている土嚢に身を伏せる。
爆発が来るかと思いきや、プシューと音を立てながらあたりに煙が充満する。
「ぬう! 煙幕か!!」
シーザーが片手剣スキルの〈トルネードスライス〉を放つと、煙がまき散らされる。
土嚢が砕かれ、石が煙共々切り刻まれて煙が霧散していく。
煙が晴れると既にテレサの姿はなく、残った傭兵たちの姿も消えていた。
「くっ! 逃げれたか……!」
「シーザーさん、大丈夫ですか? 2,3発貰ってたみたいですけど」
「うむ。問題ない。アデル殿とヨーコ殿が作ってくれた魔法鎧のお蔭で怪我ひとつない」
「あ、分類的にゴーレムの鎧って魔道鎧に入るんですね」
「そりゃ一応ゴーレムも魔法の一つだからねー」
「私のは固有スキルだな」
アデルが弾力性を持たせた魔力を解くと、埋まっていた弾丸が零れ落ちる。その下にあったゴーレム性の鎧には少々のヒビは入っていたが、シーザーの身体にはダメージを通さなかった。
ヨーコが印を着ると、ゴーレムの鎧も宝玉に吸い込まれるように消え去りヨーコの手元へと戻る。
「マサやんの仲間も多芸揃いやな。こりゃ頼もしいで。それよりは急いだ方がええかもしれんで。 変に足止め食ろうてしもうたし、それにさっきから地面が揺れ取る。こらヤバい予感がビンビンや」
「ふぅむ。先ほどは敵の攻撃で気づかなかったが……確かに。先を急いだ方がいいだろうね」
ネメア―が地面に手を付けながら確認していると、ドン! と地震のような揺れが起こる。
「くっ!?」
「きゃっ!」
「わわ!」
「こらあかん!」
「うおお!」
「ぬうっ!」
「むうっ!」
全員が壁や地面にしがみついていると、揺れは直ぐに収まった。
「司の言うとおり急いだ方がよさそうだ。ヨーコ、騎乗用ゴーレムはまだ出せるか?」
「さっきの戦闘で馬型はやられちゃったけど、風と土の宝玉を使ったライノス型ならいけるわね。馬よりは速度は落ちるけど、普通に走るよりは早く行けるわよ」
ヨーコがアイテムボックスから緑と茶色の宝玉を取り出し、札を二枚貼り付けると二つの宝玉が光りだし、サイ型のゴーレム、ライノスゴーレムへと宝玉は形を変えた。
ライノスゴーレムにヨーコと秋葉、司、ジークが乗り、足が速い闘獅子のシーザーとネメア―の二人には司の『快速のミュゼット』を歌い、支援を掛ける。
アデルが空を飛び、先行しながら先へと進む。先ほどの揺れに大きな揺れを感じながら、正樹へと追いつくためにアデル達は急ぐのであった。
◆◇◇
「ぅ……」
シリウスの闇の淵に落ちていた意識が覚醒する。
「大丈夫……ですか?」
心配そうにフェンがシリウスの顔を覗き込む。
この時、シリウスは今まで感じたことない感情が湧きあがった。
獣王国『ワイルガード』の王子、シリウス・ハティ・ベオウルフ。
体格には恵まれず小柄であったが竜人族特有の優れた戦闘センスと、幼少の頃から培った剣術と体術、更には生まれ持った負けず嫌いの性格で小柄な体格を生かした独自の技を生み出し、シリウスは周囲の人達から将来を期待されてた。
といえばカッコいいが、実際は城下町で出会った傭兵から汚い戦術を取り込み、砂を掛けるや剣を投げつける等、王族に相応しくない戦い方を身に着けてしまった。
10歳になるころには、指南役の騎士が辞職届を出すほどのヤンチャぶりを見せつけていた。
次の指南役に選ばれたのはシーザーだった。彼は今代の獣王、ヴォルガンフとともに山野を駆け抜け、ヴォルガンフを王として育てたといっても過言はないほどの忠臣。
シリウスは指南役として選ばれたシーザーに対してもあらゆる手段を用いて戦いを挑むが、何度も真正面から打ち倒された。
負けず嫌いはここでも発揮し、次こそは勝つと意気込み、訓練に励むというのが毎日の風景になっていった。
シーザーが指南役になってからシリウスは多少落ち着きを見せ、心身ともに王族に相応しい振る舞いを身に着けていった。
だが、ある日、シーザーが行方不明になったという侍女達の話をシリウスは聞いてしまう。
数日たっても見つからず、遅々として進まない捜査に業を煮やしたシリウスは近衛兵の目を掻い潜り街中へと飛び出る。
シリウスはタイミングが悪かったとしかいえなかった。
丁度その時、ザンドの計画は標的を王子へと定める段階へと移り、シーザーの騒動の中、どうやって王城から引っ張りだすか考えていた頃だったのだ。
街中に出ていたところを王鳥族の流した流言により、人気のない路地へと誘導され薬で眠らされ連れ去られた。
目を覚ますと、儀式の真っ最中で自分が生贄にされると聞き生まれて初めて恐怖という物を感じた。
力を搾り取られる感覚を覚え、初めて「助けて」と叫ぶが声が出ず、助けを求める声を聞き届ける者はいないかと思われた。
それを聞き届けた者がいた。フェンだ。
必死に助けを求める声をフェンだけが聞くことが出来た。
フェンは身体に潜む力と助けを求める声に突き動かされるように走りだし、シリウスの下へと向かう。
フェンは自分に湧き上がってきた未知の力に恐れつつも、どこか懐かしい感覚を覚えていた。生まれる前、遥か昔、こうやって森を駆け抜ける温かい感覚。傍には誰かいたような気がするが、フェンには誰か判らなかった。
だが、その誰かによく似た力を扉の先から感じ、フェンはシリウスと出会う。
フェンとシリウスの視線が交錯した時、じっとシリウスはフェンの瞳を捕えて離さなかった。
「あ……あの……大丈夫です?」
「目は覚めた様じゃが……様子がおかしいのぅ?」
「……」
「えっと……」
戸惑うフェンに不思議がるレヴィア。
するとシリウスはフェンの肩を掴み、口を開いた。
「お前、俺様の妃になれ!」
「ふぇえっ!?」
「人の義妹に何言ってる!!」
「ぐはぁぁ!」
唐突なプロポーズをしたシリウスの頭に、爆発の勢いで飛んできた正樹の蹴りが突き刺さった。
◆◇◆
全く、目が覚めたと思ったらいきなり妃にだと。10年早いわ。
とりあえず蹴りを噛ましたが反省も後悔もしていない。
『メテオハザード』が爆発起こすから、偶然爆発で飛ばされたんだ。
偶然って怖いね。
「貴様! 俺様を足蹴にするとは何事だ!」
「やかましい! 人が真面目に戦っている余所で義妹にプロポーズする奴がいるか!」
「なんと! 義兄者だったか!」
「おいこら、勝手に義兄者って呼ぶな」
「あ……あのえっと、ケンカは……ダメですよ」
「フェン、これは喧嘩じゃない。男同士の譲れない問題なんだ」
「そうだぞ。あ、俺様はシリウスという。フェンというのか。良い名だ」
そういってシリウスはフェンの手を取ろうとするが、そうはさせん。
シリウスと火花を散らしあい、レヴィアは楽しそうにし、フェンはおろおろとしていると呆れた様子でヴォルフが声をかけてくる。
「オイ、イツマデ茶番ヲシテイル」
あ、ヴォルフの事をすっかり忘れていた。律儀に待っていてくれたようだ。正直すまん。
ヴォルフとの戦いに戻るが、思った以上に『メテオハザード』が面倒だ。
こいつの攻撃って常時爆発起こるから攻撃がぶれる。さっきは視界の先でシリウスが口説いていたから、爆風を利用させてもらった。
『メテオハザード』から発せられる爆発に翻弄されながらも、剣を振りかざすが骨だけのヴォルフは動きが速く、容易く受け流される。
まぁ、受け流されるのには『メテオハザード』のステータス強化の影響もあるだろうな。確かDEXが大幅に強化されるはずだ。大体のレア武器が+6か8なのに対して数値は+12くらいだったかな。
それに、足さばきや攻撃の鋭さから見るとこいつも自身も強い。
強者にステータス上昇効果が付いた最上位武器。
鬼に金棒というのはこういうことをいうのだろう。
「カーッカッカッカッカッカ! ソレソレソレソレェェ!!」
上下左右から凶悪な斧の斬撃と爆発が襲い掛かる。
爆風をこらえながら、剣で斧を横殴りにし攻撃を逸らす。
「ヌオッ!?」
斧自体を狙った一撃は、『メテオハザード』の重量もあってヴォルフのバランスを崩すことに成功した。
「これならどうだ!!〈波動剣〉! 『パワード』!」
スキルと魔法で瞬間的に攻撃力を増加させ強引に身体を捻り、力任せに薙ぎ払うと斧で受け止められた。
だが完全に勢いを防ぐことはできなかったのか、数歩ヴォルフの身体が後ろに下がる。
更に追加効果の3回分の斬撃がヴォルフを襲うが、後ろに飛び退かれ避けられた。
追加効果が発生するタイムラグの隙を狙われたか。
「カカカカ!! 見事ナ膂力ダガ、我ニ小細工ナゾ通用セヌゾ!!!
「くそっ! それ両手斧だぞ! なんでそんな簡単に振り回せるんだよ!」
「当然ダロウ! 生前ハ丸太ヤ石柱デ敵ヲ薙ギ払ッタ物ダ!」
「無茶苦茶だなおい!」
「俺様も戦う!」
シリウスが声を荒げ、立ち上がろうとするが衰弱しきっており足元がふらついている。
その根性だけは認めるが、正直足手まといだ。
「そんな成りで何を言っている! 邪魔だ!」
「そ、そんなことは」
「マサキの言う通りじゃ。ほれ、奴の周りを見てみぃ。あのような場にお主が向かった所で犬死するだけじゃ」
『メテオハザード』の爆発の所為で俺達の周りは酷いことになっていた。
綺麗に舗装された石畳は砕け散り、ひび割れ、穴が空き。壁も大きく抉れて、場所によっては地下水が近かったのか水が染み出している場所まである。
無事なのはレヴィアの周りだけだ。
レヴィアの水の膜によって爆発や攻撃の余波が防がれ、フェンとシリウスを守っている。
レヴィアも戦闘に参加できれば手っ取り早く片が付きそうだが、もしもの時が怖い。
速度だけあって戦闘の心得がない子だ。一発でも掠ったらそれだけでも致命傷になりかねない。シリウスも満身創痍だ。仮に攻撃を避けれたとしても爆風に巻き込まれるだろう。
『ルーム』も戦闘中は使えないしな。
レヴィアに指摘されて冷静になったのか、それでも悔しそうに歯噛みしながらシリウスはその場に座り込む。
落ち着いてくれたことにホッとしつつ、意識を目の間にいるヴォルフに集中する。
俺から大きく距離を置いたヴォルフは三つの口を大きく開け、紫・黒・赤と三種の魔法陣を口の中に展開する。
魔方陣を見たアリスが自分の手に魔力を集中させている。
「『腐食ノ吐息』!『ファイアアロー』『ダーク・スピアーズ』」
こいつの更に厄介なのは三つの首から放たれる多重魔法だ。
左の首は腐食、毒、黒煙といった多彩なブレスを吐き、中央は炎を中心とした魔法、右側の首は初めて見る闇魔法系統を使ってくる。
「『フェアリアロー』!」
「『アクアファング』!!」
水属性中級魔法の『アクアファング』を放つ。範囲が広く威力もあるので水属性が苦手な相手に頻繁に使われる魔法だ。
アリスの妖精魔法で闇の槍は打ち消され、水の牙によって炎の矢は噛み砕かれる。腐食の力を持つブレスはレヴィアの水の膜によって防がれた。
うん、アリスがいると楽だわ。多種多様な魔法が使えるのは味方として心強い。何気のうちの仲間達って魔法特化がいないんだよ。ヨーコは平均的に使えるがゴーレム特化だしな。
《無敵》と《状態異常無効化》によって毒も魔法も効果はないんだが、時折標的をフェンに向けられているので困る。どうやらフェンの祖先と因縁があるようで、執拗に狙っている。そのたびにアリスとレヴィアが魔法でけん制し、俺が割って入るというパターンが出来上がる。
反撃するも、上手く斧の爆風を使い、俺の攻撃を押し留めつつ自分は爆風に乗って後ろへと下がる。攻防一体とか、汎用性高すぎだろ『メテオハザード』。
シリウスは茫然としながら、俺の戦いを眺めていた。
自分に自信があったようだが、次元が違う戦いに自信を喪失し落ち込んでいた。
まぁ、増長して死ぬよりましだろう。何事と経験で、大事なことはそれをどう生かすかだ。
だから抱きしめて頭を撫でてなくても大丈夫だ、フェン。
少し離してやりなさい。お義兄さんが嫉妬でもう一発蹴りをいれないうちに。
「カカカ! 余所見ナゾシテル暇ガアルノカ!!」
うおっ!?
ほんの少し気を取られた隙に足元を吹き飛ばされ、宙に舞った。
いかん、さすがに気を取られすぎた。
追撃で毒のブレスと闇と炎の魔法が飛んでくるが、『ウィング』で姿勢を整えながら、〈空き〉に〈ダブルスペル〉をセットし発動。
追ってくる魔法に対し、人差し指を向けて狙いを定め、『フレイムジャベリン』。
帝国との戦いでよくやった魔法を分散化させるマルチロックだ。
獣王国に入ってからは魔力嵐の影響で鍛錬は出来なかったが、こいつの魔法の動きはそこまで早くない。秋葉達の銃に比べれば遅すぎるくらいだ。
あっちが速すぎるというのもあるかもしれない。
特にジークの武器はレールガンもあるし、比べる方が間違っていたな。
魔法同士がぶつかり合い、空中で大きな衝撃が巻き起こる。
その衝撃でブレスも上手いこと散ったようだ。
分散させた『フレイムジャベリン』の中の3発がヴォルフに向かう。
「チィ!!」
炎の槍に向けて斧を叩きつけ、更に爆風で炎の槍が一発消し飛ばされるが、攻撃を逃れた炎の槍がヴォルフの身体に直撃し、炎で包み込む。
「グゥオオ!!」
炎で包まれたヴォルフは自らの身体に毒液のブレスを吐き、消火する
無理やり毒液で消火したからか、ヴォルフの骨の身体は少し紫色に変色していた。
〈鑑定〉でステータスを見てみると毒状態になっている。体力も徐々に減っている。
毒になるのも顧みず炎を消すか。
アンデッドだからか、炎には弱いのかもしれない。
なら、こいつはどうだ!
「『ティバイン・レイ』『ホーリーブレイズ』」
魔力を込めて聖系上位魔法を構築し、右手と左手で打ち放つ。
『ティバイン・レイ』は聖属性単体最上位魔法で、浄化の光をレーザーにして放つ魔法だ。貯め時間がある上に消費MPが多いが、その分威力が高く悪魔やアンデッド系列のモンスターに対しては効果が絶大なので墓場や悪魔のいるダンジョンではよく使われている。
もう一つの『ホーリーブレイズ』は自分から扇状に聖属性の炎を放つ魔法だ。こっちは範囲攻撃に優れる分威力は控えめ。追加効果として浄炎という特殊な状態異常がかかる。
「ヌオオ!? 聖属性魔法ダト!?」
『ティバイン・レイ』は当たるとヤバいと察したのか、飛び退いて直撃は避けたようだが、骨の一部がレーザーに巻き込まれ塵になる。
だが本命は『ホーリーブレイズ』だ。前方5メートルに放たれる光の炎までは避けきれず、ヴォルフの身体が光の炎で包まれた。
「グッウウ! ナ、ナンダコノ炎ハ!?」
ヴォルフは地面に転がり、再び毒液で炎を消そうとするが浄炎はそんなことでは消えない。
状態異常:浄炎はゾンビやアンデッドや悪魔にのみ発生する状態異常だ。
効果は持続ダメージの他に速度、防御力低下を引き起こす。
アンデッドであるヴォルフにとっては、文字通り体が焼けるようなダメージを受けているだろう。
「〆だ! 〈波動の太刀〉!」
スキルを入れ替え、複合スキルの〈波動の太刀〉を纏った『セブンアーサー』を構える。
視界がぶれながら、神速の踏み込みでヴォルフに迫り、剣を振りぬいた。
ヴォルフは光の炎に包まれ、焼ける苦しみに悶えつつ『メテオハザード』で防ごうと斧を振り下ろす。
バリン!! とあり得ない音が響いた。
「ナッ、ナンダト!? ソンナ馬鹿ナ!」
それはこっちのセリフだ。
確かに俺はヴォルフを斬った。だが、斬れたのはヴォルフだけでなく〈破壊不可〉のスキルを備えている『メテオハザード』まで斬れ、ガラスのように砕けた。
世界が変わっても破壊不可なものは破壊できない。“希少武具”のスキルというのはそういうものだからだ。
だが、ヴォルフの持つ『メテオハザード』は砕け散った。
ヴォルフも真ん中の頭骨が真っ二つに割れ、残った二つの顔が信じられないという表情を浮かべ、直ぐに怒りを露わにする。
「グオォォ……オノレ……謀ッタカァァ!」
するとヴォルフの空の瞳から光が消え、カラカラと軽い音を立てて骨の身体が崩れ落ちた。
「た……倒したのか?」
「武器の所為もあったが、難儀な敵じゃったのぅ」
「ああ。だが、なぜこれが壊れたんだ……」
いや、本当にな。司に壊したのがバレたら怖いというわけじゃないよ。
壊れた斧の破片を手に持ち、〈鑑定〉してみると鑑定結果が赤文字で表示された。
『メテオハザード複製品の欠片。違法により複製されたメテオハザードの欠片。性能は本物そっくりだが、複製により劣化しており破損する』
は? メテオハザード複製品?
嘘だろと思ったが、それは俺が見たこの赤文字が真実を証明している。
GMの機能の一つとして不正な物に対しては赤文字で表示される。
他ゲームで数年前にチートによって増やしたコピーアイテムが大規模にばら撒かれた事件があり、以後隠しデータとして違法かわかる様にしてある。詳細な事はシステム的な事なので詳しくは知らない。機密情報だしな。上位権限を持つ先輩なら知ってると思う。
複製品は競売に売りに出せば自動的にGMに連絡が伝わり、ログの解析後適切な処罰を下される。
斧が偽物だったことに気を取られていると、先へ進む扉の方から声を掛けられた。
「ほう、ヴォルフを下したか」
声のする方を振り向くと、そこにいたのは黒いスーツを着込んだ男。虚空がいた。
「ヴォルフと戦い、多少は怪我を負っていると思ったが無傷か。流石は異世界人と言いたいところだが、お前の力はそれだけではないだろう」
「……なんの事だ」
「戦いの一部始終を見させてもらった。偽物とはいえ『メテオハザード』だ。近接戦闘で無傷でいるという事は至難。ならば何かしら別の力を持っているという事だ」
戦いを見られていたか。戦闘とシリウスに気を取られていたせいでマップを見る余裕がなかったからな。まぁ、能力の断定はできてないから大丈夫だろう。
しかし、偽物って知ってるって事は『メテオハザード』はパヴァリアの手に落ちたか。
「偽物と知ってて渡したのか。なら、本物は何処にある」
返してもらわないと俺が司に怒られるんだよ!
いや、怒られるとは確定してないけど経験上よく怒られる。理不尽だ。
「教えてほしければ力を見せろ。正樹」
虚空はビームセイバーを抜き、刀状に変形させ中腰に構える。
やれやれ、全く少しは休ませてくれよ。俺が敵なら休ませるなんてことはしないけどな。
互いに剣と刀を構えると、突如地面が揺れだした。
「ヨクモ我ヲ謀ッタナ!! 異世界人!! 三首狼ヲ舐メルナ!! カカカカカ!!」
ヴォルフ!? まだ生き……てはいないけど動けるのか!
ヴォルフは地面に伏したまま、地面に爪を突き立てると床が大きくひび割れ始めた。割れた先から光が噴き出している。
「死にぞこないがっ!」
虚空が叫ぶが同感だ。まさか真っ二つになっても動けるなんて思わなかった。油断もあったものじゃない。
虚空が斬撃……あれは〈ソニックブレイド〉!? を右半身に向けて飛ばす。
虚空がなぜ【ブリタリアオンライン】のスキルを使えたか気になるが、俺も〈ソニックブレイド〉で左半身を狙う。だが、二人とも一瞬遅かった。
「〈ディストラクションクロー〉!!」
ドン! と地震のような音が響いたかと思うと、広間の床が大きくひび割れ、地面が崩れ落ちる。
ヴォルフの俺達の斬撃で砕かれながらも「カカカカ!」と楽しそうに笑っていた。
『ウィング』で空を飛ぼうとするが、どうやら地下空間は魔力嵐が充満しており、直ぐに効果が切れた。
「ちっ!」
虚空もこの事態は想定外らしく、ビームセイバーを鞭の様に伸ばし、壁に剣先を突き立てるが、どうやら虚空の身体を支えきれずにずり落ちてしまう。某王女様伝説の緑エルフみたいにはいかないようだ。
フェンとシリウスはレヴィアが水の膜で覆い保護。俺達は瓦礫と共に底が見えない穴底へと落ちて行った。
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今回は二つの意味での襲撃(蹴撃)でした。
某デルタ式に突っ込ませようと思いましたが、奪うモノがないので強行突破に。
更新速度が遅々となってますが、その代わりに文字数は増やす様にしてみました。
最近はTRPGにまたどっぷりと嵌ってます、しかし、オーク(プレイヤー)でやると運命が働いたかのように女王様と(断ればヤバい)縁が結ばれるのはどういうことなのだろうか(´・ω・`)




