希少武具(アーティファクト)
大変遅れて申し訳ございません。何度も書き直した上に、流石に半月ほど連勤だと体力がギリギリでした。
神殿の地下深くにある一室では、透明なケージの中に数人の冒険者が閉じ込められていた。
その隣には麻布で覆われた箱状の物が設置されており、透明なケージと複雑な線でつながっていた。
閉じ込められている彼らは、盗賊団の村によって誘拐された者達だ。
武器も没収され、全員頭に鉄製の輪が装着されていた。
「くそっ! 出せ!」
「こんなところに閉じ込めて何するつもりだ!」
「俺の仲間達はどうしたんだ!?」
各々にケージを破壊しようと炎の魔法を放ったり、素手での格闘スキルを放つ者もいるがケージは頑丈でビクともしなかった。
「ぐおおお……かてぇ……!」
「力自慢の像頭族の拳でも無理かよ……!」
「魔法に長けたエルフや蟲人の魔法もだめだ……なんだよこの壁は……」
冒険者たちは見慣れぬ透明な壁に四苦八苦していると、奥の扉から黒い鱗を持つ王鳥族達が出てきた。
彼らは全員、黒い鱗を全身に纏っていた。
彼らに守られるように更に奥から、一人の王鳥族が現れる。彼もまた、他の王鳥族同様、全身を黒い鱗に覆われていたが、所々が赤く不気味に光り、まるで心臓の音と鼓動する様に点滅していた。
傍らには神官服を着た、四肢に枷を付けられている蟲人族の女性が彼に肩を抱かれていた。
彼女は恥辱と苦痛の表情を浮かべながらも、王鳥族に抱き寄せられる。
「あれは……東の領主のザンド公爵!? なんでこんなところに」
一人の冒険者が声を荒げながら現れた王鳥族――ガルーダ族の王、東の領地を治める四大公爵の一人、ザンドを見据える。
それに釣られてケージの中にいる冒険者達の視線がザンドに集中する。
だが、ザンドは全く意に関せずに、傍にいる兵士に声をかける。
「むう、今回はこれだけか?」
「ハッ。どうやら奴らのアジトが壊滅したようで……。奴らから我らの事が知られる恐れも。如何なさいますか?」
「所詮は盗賊だ。捨ておけ。盗賊の言い分なぞ誰も聞かぬ」
「ザンド公爵……貴方という人は! この方々を捕え、一体何をするつもりですか!」
ザンドに肩を抱かれていた蟲人族の女性が声を荒げてザンドを睨みつける。
ザンドは不気味に含み笑いをしながら、蟲人族の女性を見つめ返す。
「何、我にもたらされた力の一端を貴女にも見せてやろうと思ってな。おい。やれ」
「ハッ!」
ザンドに指示され、兵士が透明なケージとつながっている箱状の物を覆い隠している麻布を取り去ると、そこには無数の狂獣達が眠らされていた。
ブロンズフロッグ、アイアンアリゲーター、シルバーラプトル、ダマスクリザードなど、数多の強力な狂獣達が眠らされていた。
「狂獣……!?」
「驚くのはまだ早いぞ。ククク。これぞ異世界人がもたらした我の新たなる力だ」
ザンドが壁際に設置されたレバーを下げると、二つのケージが青白く発光する。
「な、何だ!?」
「床に魔法陣が……!?」
「うわっ!? 身体が沈む!?」
二つのケージの中に大きな魔法陣が展開される。その魔法陣は盗賊のアジトで使われた物と同じで、ゆっくりと冒険者達と眠る狂獣達が地面に飲み込まれるように沈んでいく。
冒険者と狂獣。二つのケージの中が空になると、今度は床から染み出るように人型の者達が現れた。彼らの姿は沈む前とは打って変わり、周りの王鳥族と同じく全身を黒い鱗で覆われていた。
目は空ろでどこか正気を失っていた。
原因は頭につけられた鉄輪だ。
この輪は『堕天の輪』というアイテムで、テドからもたらされたアイテムだ。
装着した者を意のままに操るチートアイテムだ。
【カオスクロニクル】では『堕天使の輪』という装備品が存在し、『堕天の輪』はそれを模して造られている。
発端は『堕天使の輪』の元となった、『能天使の輪』が非常に高性能な能力を持つが、余りにも入手困難な事から劣化版として『堕天使の輪』というアイテムが実装された。
実装直後にアイテムデータにハッキングウィルスを仕込んだ『堕天使の輪』を流し、その後、『堕天使の輪』を装備した多くのプレイヤー達の操作が奪われるという問題が発生した。
操作を奪われたプレイヤー達の殆どは装備と有り金の殆どを失い、RMTで現金に換えられた。
仕込みには一年以上をかけており、数万以上のプレイヤー達に行きわたった後だった。
対処には大規模なメンテナスが行われ、プレイヤー達にも運営にも多くのダメージを与えたチートアイテムだ。ゲームを愛する一部のハッカーも対処に協力するほどの騒ぎになった。
テドがその犯人であり、この世界に呼ばれた時もウィルスが仕込まれている『堕天使の輪』を大量に隠し持っていた。
テドは資金と多くの獣人達を引き換えに、『堕天使の輪』改め『堕天の輪』をザンドに提供し複製の手助けをしていた。
こうしてハッキングウィルスはテドの知識と異世界の技術によって『呪術』へと変貌し、人を縛る隷属の首輪よりも凶悪な『堕天の輪』へと変貌した。
「な、なんという事を……!」
「どうだ。素晴らしいものだろう。狂獣と獣人との融合だ。魔族や人族では出来ぬ、選ばれた我ら獣人のみに許される神の力だ! くくくく! この力さえあれば獣王の座なぞ容易い! 人族との戦を避ける臆病者の竜人なぞうち滅ぼしてくれるわ! はぁーはっはっはっはっは!」
自慢げに、狂気に満ちた様子でザンドの哄笑が部屋に響く。
だが、その哄笑も直ぐに止むことになる。
「ふん、騒ぎも知らずに随分と楽しそうなことだな。ザンド公爵」
ザンドは笑みから一転、険しい表情で声のする方を向く。
視線の先には虚空が入り口の傍に背を預け、腕を組んでいた。
「貴様か……。パヴァリアの協力者。コクウ、といったか。どういうことだ」
「ここに侵入者だ。もう地下4階は突破されているぞ」
「なんだと!? 警備の連中は何をやっているんだ! それに、その階層にはミスリルザウルスを配置しておいたはずだ! あの狂獣が突破されるわけが!」
ザンドが怒鳴り声を上げた直後、勢いよく入り口の扉が開かれた。
「失礼します!!」
「大変ですザンド様!」
二人の騎士が肩で息をしながら部屋へと入ってきた。
ノックすることも忘れ、入ってきた事にザンドは苛立ちながらも心を冷静に落ち着かせる。
「何事だ!」
「侵入者です! 侵入経路は不明! 既に地下5階まで突破されております!」
「逃げ出したリリンを発見しましたが、異世界人の妨害により先行した騎士達は半壊!! 闘獅子の二人も打ち倒されました!」
「な、何だと!?」
思わぬ二つの報告にザンドは驚愕した。
地下5階には苦労して捕えたシーザー、そしてリリンを捕まえるために手練れの私兵に加え、獣王国でも10本の指に入る闘獅子族の騎士二人共倒されてしまった。
「至急救援を!」
「こちらもシジャ様が至急救援をとのことです! あの異世界人は異常です! このままでは全滅します!」
「くうう! 貴様ら!」
ザンドは声を荒げながら、今作られたばかりの黒鱗持ちの元冒険者達に振り向く。
「半数は地下6階に回り防衛をしろ! 残りはシジャの元へ迎え! リリン以外は殺しても構わん! 指示権を一時的にそのものら二人に渡す! 行け!」
「ハイ、ワカリマシタ。偉大ナルワレラガ王」
冒険者達は無機質な声を発し、言われた通りに動き出す。
壁に掛けられていた剣を取り、不気味なほどに一糸乱れぬ足取りで部屋の外へと出て行った。
「はぁ……はぁ……げほっげほっ」
ザンドは興奮からか息を荒げ、口から血を吐く。
「ザンド様!」
「ザンド様! お薬を!」
近くにいた兵士が急いで薬瓶をザンドに渡すと、口元に血が付いたまま勢いよく薬を飲み干す。
「はぁ……はぁ。あと少し、あと少しだ。まだ、我は死ねぬ! 死んでたまるものか!」
ザンドは口に着いた血を袖で拭きながら、生と欲に塗れ、狂気と気迫に満ちた様子で空の薬瓶を握りつぶす。
黙って静観していた虚空は、ザンドを冷ややかな目で一瞥すると入り口に向けて歩き出す。
「おい! 貴様! どこに行くつもりだ! 貴様の仕事は最下層の警備だろう! 勝手に出歩くな!!」
「貴様に言う必要はない」
「なんだと!? 貴様ぁ……!」
「勘違いしているようだが、俺は貴様の部下でも配下でもない。貴様に協力しているのはノーフェイスとパラケルススの二人だけだ。俺は奴らから手伝いをお願いされてるだけにすぎん。俺を動かしたければあの二人に言うのだな。もっとも、あいつ等が貴様ごときのいう事を聞くはずもないがな」
「ぐうっううう! 待て! 待てと言っている! ぐっ……! げほげほっげぽっ!」
再び吐血し、床を赤く染めたザンドを無視して虚空は部屋を出て行った。
虚空は薄暗い通路を歩いていると、壁に寄り掛かっている一人の女性を見つけた。
女性は赤い髪を白い布で束ね、ポニーテールのようにしていた。腰にリボルバー式の奇妙な2丁の長銃を下げており、緑色のフード付きパーカーを羽織っていた。パーカーの下は白の軍服を着ていた。
軍服は谷間が大きく開かれており、豊かな谷間を強調するようなデザインになっている。
男性を誘うような服装の彼女だが、虚空は全く意に関せず、無表情のまま彼女を見る。
「や。ご苦労様。全く、ザンドの奴はどうしようもないねぇ。テドのチートを自分の力と勘違いしてるんだからね。あれはアタシらからしても嫌な物なのによ」
「お前か。テレサ。それには同意するが。何の用だ」
「ちょっと侵入者について情報をね。テドから借りた使い魔から覗き見たんだけど、入ってきた侵入者。どうやらアンタが気にしてたマサキって奴と外見と服装が一致してるよ。あとの異世界人は日本人が二人、ゲルマン系が一人かな。他にはシーザーに、女が4人。あのまま行くとヴォルフの所に着くだろうよ」
「……それは本当か?」
「本当本当。情報料銀貨1枚だぜ」
「……ふん、相変わらずの金の亡者だな」
虚空はポケットから布袋を取り出し、銀貨を一枚弾くとパシッとテレサが掴み取り胸ポケットの中に収めた。
「毎度あり♪ そりゃ、金は裏切らないから。何処の世界でも」
そういうテレサの目はどこか達観した様子があり、胸ポケットから金貨を取り出しじっと見つめる。
金貨はこの世界では珍しく、混ざりものなしの純金で、純金の金貨をテレサは愛おしそうにキスをして、ポケットに戻す。
用が済んだとばかりに虚空が歩き出すが、テレサが長銃を抜いて虚空の先を防ぐ。
「追加サービスで送ってあげようか? 現場は無理だけど、近くまでなら運んでやるよ」
「……貴様にしては気前がいいな。どういうつもりだ」
「アタシも行くついでだよ。あいつら、何があったか判らないけど3人だけで先行し分断しちゃってるし、遅れてる方をもらおうかな。それに、後方集団の中にあの斧使いがいるしさ。ザンドの奴が手籠めにしたいからって勝負はお預けになったけど、きっちり勝負を決めとかないとすっきりしなくてねぇ」
「そうか。警備をサボるから黙ってろと」
「ああ。そういう事」
「……お前ひとりで大丈夫か?」
「おろ、心配してくれるのかよ。大丈夫だって。アタシにも仲間がいるしよ。それに、危なくなったらさっさと逃げるさ。命あっての物種だからよ。それじゃ、門を開けるぜ」
そういうとテレサは長銃を構え、地面に向けて弾丸を放った。
弾丸は地面に吸い込まれるように沈み、淡い光を放つ渦を巻き起こした。
虚空は迷うことなく渦の中に足を踏み入れ、重力に引かれるように渦の中に落ちて行った。テレサも続いて渦の中に落ちると、光の渦は粒子となって霧散し、後にはいつも通りの石畳だけが残る。
空間を超えた先にテレサと虚空が辿り着くと、テレサは虚空に手を振りながら走り出す。
「アタシはこっちだからよ。アンタも頑張りなよ」
「ああ」
テレサと別れた虚空は足早に目的の場所へと足を進める。目的は正樹だ。
虚空は今まで何人ものの異世界人を見て技を覚えてきた。
帝国で使っていた『ハンター』の技も同じく、全て見て覚え、オリジナルを超えるコピーとして昇華してきた。
多くの異世界人を見て、覚えてきた虚空だが、虚空は正樹に似たようで似てない同類のような感覚を覚えていた。
「正樹。お前の正体を確かめてやる。ただのゲームの力を宿した者なのか。それとも俺と同じなのか。それとも全く別の者か……」
コツコツと石畳に足音を響かせながら虚空は薄暗く光る通路を走るのであった。
◆◇◆
俺とレヴィアは遭遇した兵士を薙ぎ倒し、通路を駆け抜けていく。
流石にミスリルザウルスのような強力な狂獣はいなかった。あんな凶暴な奴がうろうろしてたら兵士達でさえ危ないからな。当然と言えば当然か。
そう思っていると、マップ上に移っているフェンの動きが止まった。扉の前だ。
「レヴィア、フェンの動きが止まったぞ」
「ほう。場所はどこじゃ?」
「この先にある扉の前だ。しかし、随分とアデル達と距離を離されたな……」
「仕方あるまい。フェンの奴が相当飛ばしておったからのぅ」
「しかも立ち止まってるな」
「何かあったのかもしれぬな。心配かの?」
「当たり前だろ」
フェンがやっと止まった頃には、アデル達の反応はマップの彼方にあった。
直線距離の時に時折マップを覗いていたんだが、どうやら途中で騎士達と遭遇し戦闘になったようだ。
敵対反応は多く、足止めを食らっている。
そう簡単に足止めを食らうような仲間達じゃないんだが、もしかしたら異世界人と遭遇してるのかもしれない。
「マサキは戻るかの? ここから先は妾でも大丈夫じゃぞ」
「冗談。戻ったら怒られるに決まっている」
アデルやヨーコ、秋葉にほかの皆も大事な仲間だが、フェンも大事な義妹だ。放っておくなんてできるわけがない。
程なくして、大きな扉が見えてきた。扉の前では、フェンとアリスが警備兵と思わしき連中と戦っていた。
「『エアバースト』!」
アリスが両手をかざすと、警備兵の二人が何か見えないものに押しつぶされるように地面にたたきつけられた。こっちにも風が来たから恐らくは風の塊で押しつぶしたのだろう。
フェンの攻撃は速度を生かして翻弄しているが表情に焦りが見える。
そりゃそうだろうな。フェンは今まで戦ったことがない。
素人が見よう見まねで戦ってる感じだ。速度で警備兵を翻弄してるだけでも十分凄いと思うが。
フェンの動きを目で追い、動きが止まっている隙に警備兵に〈無音撃〉を発動させた右ストレートを食らわせ、一撃で沈める。
「ぁ……マサキ、お兄さん」
「全く、急に走って驚いたぞ。意識はあるようだが、どうしたんだ?」
「ごめんなさい……でも、早く……急がないと危ないの! 助けてって……中から声が……するんです」
「お、おう。開けるから俺達の後ろに下がっててくれ」
フェンらしかぬ必死な声に驚きながらも、扉を開けると広間の中央に竜人の少年が黒い鎖で縛られていた。正面には退屈そうに胡坐をかいている三つの狼の首を持つスケルトン。三首狼族のスケルトンが陣取っている。
床には巨大で複雑な魔方陣が描かれており、四方に魔法使いらしき獣人達が杖を持って呪文を唱えている最中だった。
彼らは全員、黒い鱗もちで禍々しい魔力を発し、中央にいる竜人の少年にその魔力を送り込んでいた。
少年の顔色は悪く、真っ青で衰弱していた。更に相当暴れたのか全身傷だらけだ。
「あの子……です。ずっと……助けてくれって……声が」
フェンを呼んでいたのはあの少年か。なぜフェンだけが声を聞くことができたのか気になるが、後回しだ。
「ナニモノダ!?」
「警備ノ連中ハドウシタ!!」
「儀式ノ邪魔ハサセヌゾ!」
「シリウス王子ヲ奪ワセルナ!!」
縛られているあの少年がこの国の王子、シリウスか。
俺達に気付いた魔法使いの連中が呪文を止め、『ファイヤーボール』や『サンダーブリット』などの魔法を打ち出してくる。
しかし、距離もあり足止めする者もいない状態での直線的な魔法なんて当たるわけがない。
俺はフェンを抱きかかえてあっさりと避け、レヴィアに至っては『ファイヤーボール』を蹴り返していた。炎に強いレヴィアだからこそできる芸当だな。俺もやろうと思えばできるかな?
魔力を込めればタイガーシュー○とか、バズーカチャン○ルとか頑張ればできそうだ。当たれば多分死にます。文字通り必殺シュートです。稲妻的なものはさすがに無理だ。
蹴り返されると思っていなかった王鳥族の魔法使いが『ファイヤーボール』に直撃し、炎に包まれる。
三首狼スケルトンもいるが、どうやら欠伸をしており、動く様子がなかった。何だアイツは。
まぁ、動かないなら好都合だ。仲間が炎に包まれ、動転している隙にアイテムボックスから10本のダマスクスローイングナイフを取り出す。
「〈イグニス〉!」
フェンを下ろして、魔法使い達に向けてナイフを飛ばすと、ローブをはためかせながら魔法使い達は避ける。魔法を使っているのか意外と動きが速い。だが、ナイフが追尾してく炎に包まれていた王鳥族の魔法使いは回避が遅れ、眉間と喉に深くナイフが突き刺さり絶命した。
「アンナ遅イ攻撃ガ当タルカ!」
当たり前だ。シリウスから引きはがすために、わざと避けれるように遅く操作してるんだから。人質に取られる方がよっぽど面倒だからな。
一人跳躍し空中へと逃げた魔法使いがいるので、そいつに向けて手をかざすと、宙に浮いていたナイフがそいつに向けて襲い掛かる。
「ナッ!? ギャァァ!」
吸い寄せられるように肩、胴、足にナイフが突き刺さり、空を飛んだ魔法使いは体制を崩しながら地面へと落ちていく。
「ヒイィ!? ナイフガ追ッテクル!」
「ギャァァ!」
残り二人の魔法使いは俺が片手で操作するナイフに追い回され、魔法の詠唱すらできない状況だ。一人は足がもつれ、止まったところに背中にナイフが突き刺さった。
その隙にレヴィアが、シリウスに近づきを縛っている鎖を引きちぎろうと手を伸ばすが、バチっと衝撃が走りレヴィアの手を弾き飛ばした。
「ちぃ! 封印の鎖じゃと! 小賢しい真似を!」
「フハハ! ヨルムンガルドノ力ヲ使ッタ封印ダ! 貴様ガイカヨウナ力ヲ持ッテタトシテモ解ケヌゾ!」
あ、それなら解けるわ。レヴィアも同じことを思いついたようで顔を見合わせ頷く。
ひとまず、十分に引きはがせたので必死に逃げている魔法使いに向けて、残りすべてのナイフを向かわせる。
「フェン、頼めるか?」
「はい」
フェンはそういうと、身体を淡く光らせながら少年に向けて近づいていく。
それに反応する様に鎖から黒い影が飛び出てくるが、レヴィアが割って入り、拳に纏った魔力で全て消し飛ばした。
「フェンには指一本触れさせぬぞ」
「レヴィアお姉さん……有難うございます」
「礼なぞ要らぬ。フェンは妾にとっても大事な妹分じゃからの」
レヴィアに護られながら、フェンが鎖にまでたどり着く。
フェンの小さな手が鎖に触れると、黒かった鎖が波紋の様に色が揺れ、フェンが触れた先から白くなっていく。
「ホウ」
今までずっと様子を眺めるだけだった三首狼スケルトンが驚いた様子でその光景を眺めていた。
手出しはするつもりはなく、興味津々という感じだ。
鎖を覆っていた黒が解けるように消えると、ジャラジャラと音を立ててシリウスを縛っていた鎖が解け、シリウスが地面に倒れこむ所をフェンが咄嗟に抱きかかえた。
「ソ、ソンナ!? アノ鎖ヲ解ケル訳ガ! ヒィィ! ヴォルフ様! オ助ケヲ!」
魔法使いは最後の頼みの綱として、未だ動かずに眺めていた三首狼スケルトン、ヴォルフの下へと逃げ込んだ。
「フン、逃ゲ回ルダケノ臆病モノガ。目障リダ」
ヴォルフは肩に担いでいた斧を振り下ろし魔法使いを真っ二つにした。更に俺が投げたナイフは斧をまるで小枝を振る様に軽々と振り回し、全て叩きとおされた。
ナイフは幾つかへし折れたり、酷いものによっては真っ二つに割れて使い物になりそうにない。まさかダマスク製のナイフを折れるとは。俺のナイフ……。
ヴォルフは楽しそうに顎の骨を鳴らしながら、俺達に向けて斧を突き出す。
「カッカッカッカッカ! 死ノ淵ヨリ目覚メテ、小娘ナガラモコノ現世デ奴ノ力ヲ受ケ継グ者ト出会エルトハナ!! コレモ因縁カ! 小娘ェ、貴様ニ恨ミハナイガ死ンデ貰ウゾォ!!」
唐突にヴォルフは斧を掲げ、フェンに向かって突撃してきた。
獣人のアンデッドだからか動きが速い!
〈疾風の如く〉を使い、間に割り込む!
「させるか!!」
「邪魔ダァ! 消シ飛ブガイイ!!〈メテオドライバー〉!!」
〈メテオドライバー〉!? それはっ!
振り下ろされる斧を剣で受け止めた直後、目の前で巨大な爆発が巻き起こった。
《無敵》によって爆風は俺の肌を軽く熱するだけで済んだ。だが、周囲の床は吹き飛び、俺を中心にクレーターが出来ている。
くそっ! さっきから見たことある斧だと思ってたが、よりによってこいつの手に渡ったか!
それよりフェンだ! レヴィアや俺と違い、この爆風を浴びたらひとたまりもない。
「フェン! 大丈夫か! 返事をしてくれ!」
「マサキお兄さん!私は……大丈夫です。レヴィアお姉さんが……守ってくれました。この子も無事……です」
「ギリギリじゃったがの。しかしなんじゃあの武器は! 水の結界が破れかけたぞ」
「『メテオハザード』だ。追加効果で隕石の衝撃を巻き起こす力を持っている! まともに浴びればレヴィア、お前でもただでは済まないぞ!」
「その様じゃ。済まぬが、奴はお主に任せるぞ」
『メテオハザード』は固有スキル、更に固有特殊能力を持つ武器で【ブリタリアオンライン】の最強クラスの斧だ。
〈メテオドライバー〉等の固有武器スキルはGM権限の《全スキル・魔法習得》からも外れる。
武器固有スキルはシステム上ではモンスター限定スキルに分類され、セブンアーサーの特殊能力〈時々1〜7回追加攻撃)と同じでプレイヤースキル枠の中に入っていない。
〈メテオドライバー〉はMPを消費し、斧中心に大ダメージを与える。その威力は『フレイムジャベリン』の比ではない。その分MPを消費するけどな。
更にオブジェクトや破壊可能な武器でさえも容易く破壊する。しかも、仲間と自分はその爆発の対象にならないと来てる。
その性能はこいつが爆心の中心にいるにもかかわらず、焦げ目ひとつ付いていないことからその設定も生きていることを示す。
あと一つまだ攻略掲示板にも載っていない隠しスキルも知っているが、これに関しては発動条件を満たさないとスキルの欄にすら表示されないので大丈夫。だが……開発陣!
何を考えてこんな武器を作った! 少しは自重しろよ!
味方の時は助かったが、敵に回ったら厄介極まりない武器だぞ!
「カカカカ! 耐エルカ! 面白イ! ソレニコノ斧ノ事ヲ知ッテイルヨウダナ! 実ニ良イ拾イ物ヲシタゾ! 俺ガ生前ノ時デモココマデ良イ武具ハナカッタワ!」
「俺の仲間から奪った癖によく言う。気に入ったところ悪いが、手に入れるのにも凄まじく苦労したんだ。返してもらうぞ」
本当に。元のゲームでは中衛役で10回以上デスペナ食らったからな。防御が一番高い仲間でもデスペナ5回だ。一度の戦闘であんなに死んだのは初めてだった。レベル下ったし。
文字通り死に物狂いで手に入れた司の武器を、他の奴に使われるのは気に入らない。
「ナラ奪イ返シテミセロ! 力ズクデナァァァ!! カーカッカッカッカ!!」
「言われずともそうするつもりだ!!」
感想・評価ポイントをくれるとモチベーションの維持につながるのでとてもありがたいです。
今回は異世界産のアイテムてんこ盛りです。
因みに作者はFF11の頃、一度垢ハックに会い、装備と資金を丸ごと奪われました。発覚した時に最終ログイン日含め、詳細をGMに伝えて無事取り戻すことが出来ました。皆さんもアカウント管理はしっかりと!クラッカー死すべし慈悲はない。
そしてドグマに手を出そうとか考えてる今日この頃です。




