剣と拳
近況報告です。次の絵師様ですが決まりました! いや、本当に良かった……。
続報がありましたらまた活動報告にて報告します。
「マ、マサキー! フェンを止めてー!」
「アリス! 意地でしがみ付け! 振り落とされるなよ!」
「そ、そんなこといったってー!?」
はい。現在全力疾走中です。
現在一位独走はフェン選手となっており、並ぶというかくっつく形でアリス選手。
3位争いは俺とレヴィアです。〈疾風の如く〉使っても追いつけないよ!
5位以下? 僅差でアデルかな。でも相当離れて、あ、曲がり角で更に離れた。
飛行状態でも足場に影響されないとはいえ、曲がり角は減速しないとぶつかるからな。
「マサキ、すまない! 速すぎて……追いつけない!」
「わ、私もー! これ以上速度だすとゴーレムが持たないわ! 先に行ってて!」
「分かった! 無理はするなよ!」
5位以下はこんな感じになってます。俺達が速すぎてアデルの飛行状態でも追いつけず、一番足が速い馬型ゴーレムでも追いつけません。ゴーレムに乗っている秋葉達が酔わないか心配だ。
俺とレヴィアはスキルと身体能力を駆使して通路や壁を走っている。まさか壁走りする羽目になるとは思わなかった。
道中で兵士をちらほら見かけるが、速度が速すぎて対処できず置いて行かれている。
フェンも兵士とは戦わず、走り抜けるので戦闘にすらならない。
ある程度の兵士が固まっていたら止まらざる得ない状態になっていただろうが、上手く聡さん達が引き付けてくれているお蔭だろうか、思ったより人数が少ない。
「と、止まれ!!」
「邪魔!」
「ぶべらっ!?」
俺達に気づいた勇気ある兵士が仁王立ちするが、フェンは小柄な体を生かして横を通り抜け、俺とレヴィアはそのままの勢いで吹き飛ばす。車と同じで急には止まれない。
しかし、フェンのあの小さく細い体のどこにあんな力が?
水が入った小さなバケツを運ぶのにも、ヨロヨロとふら付くほど非力なはずなのにな。
いや、まぁそこが可愛いんだが。
「レヴィア、フェンの事だが、どう思う?」
「可能性は幾つがあるが、この能動的な動きは憑依に近いものがあるのぅ」
「憑依? フェンの身体に何か宿っているとでも?」
「うむ。神降ろしも考えたが、もしそうであれば相当量の力を感じるはずじゃ。それほどの力を持つというのであれば、妾が気づかぬわけがないからのぅ。フェンは呼んでいる。と言うておった。恐らくはその者に関する者が宿っておるじゃろう」
ふむ。この先にいるのは王子やヨルムンガルド、他の神官達だ。多分いるだろうとしてパヴァリア。対象が多すぎて絞れん。
流石にパヴァリアって線は消したい。フェンが敵に回るって想像すらしたくないからな。
「ひとまず、フェンに追いつくのが先決じゃ。ほれ、また速度を上げおった」
げ、マジか!?
気づいたらフェンが銀色の狼に獣化して4本足で走っていた。アリスは首にしがみついて振り落とされないように必死だ。メイド服は獣化に合わせて変形するコスチューム装備なのでメイド服を着た狼が走ってる感じだ。何ともシュール。
マップで確認をすると、アデル達とだいぶ距離が離れてしまった。
そろそろ最下層に着きそうだ。だが、その手前の階に妙に広い部屋がある。
そのエリアには何人もの人の反応があった。そのうちの一つはモンスターの反応。5人ほどの小さな人型の反応が相対するように陣形を組んでいる。
他にも人がいる部屋はあるが、どうやらフェンはその広い部屋を一直線に目指しているようだ。
さてさて、何が出てくることやら。しかし、走りながらレヴィアと喋ると舌を噛みそうだった。今度から『念話』で会話しよう。
このエリアも随分と兵士の数が少ないが、聡さんの方は大丈夫かねぇ。
まぁ、あの人の能力は心当たりがあるから、大丈夫だと思う。見たことある技があったしな。
下手なゲームより戦闘能力に特化してるからな……あの人がいたゲーム。
◇◆◇
正樹達が土の大神殿に向けて飛び去った後の聡邸。
玄関の前には20人を超える騎士達が集まっていた。
「おい! 開けろ! この屋敷に罪人のエルフが匿われているという匿名の情報が入った! ただちに屋敷を調べさせてもらう!」
ドンドン! と扉を壊さんばかりの勢いでノックをする王鳥族の騎士。
「ご主人様、如何なさいますか?」
「私が出よう。ガードル君やリナ達は下っていてくれ」
「構わないが……素手で大丈夫か? 相手は公爵家に仕える騎士だぞ? 俺達も傍にいた方が」
「問題ない。あの程度なら大したことはない」
「あの程度って……。戦闘になったら俺達も出るからな?」
「ああ。屋敷を壊されたら困る。皆で苦労して作った屋敷だからな」
「この屋敷って手作りかよ」
「紙から全てに置いて私の自作だよ」
「マジか……」
思わぬ事実にガードルが茫然としていた。
知識があり、腕に覚えがある職人に場所と資材を与えるとこのような結果になる。
正樹はスキルと仲間の恩恵が非常に大きいが、聡は日本歴史を専門に学んでいたお蔭で紙の作り方や屋敷の構造などを把握していた。もっとも、ここまで凝るのは珍しい方である。
木目の廊下を歩きながら聡はスーツのポケットから黒いレザーグローブを取り出し、両手に嵌める。
名工の一品で黒竜のなめし革で作られたグローブは拳を保護するとともに、滑り止めの役割を果たしている。
聡は武器の類は一切持たない中で、冒険者として名を馳せていた頃から愛用している一品だ。
玄関に近い部屋ではメイドのリナがアイテムボックスから取り出したと思われる、身長より大きい2メートルを超える大剣を取り出した。
あまりの大きさにガードルが目を見開き、大剣を凝視する。
リナが愛用する大剣は一般的な大剣と大きく違い、歪に曲がり、奇妙な形状をしていた。
「妙な形をしているが、そんなので斬れるのか?」
「問題ありません。形こそ曲がっていますが、この大剣は希少武具です。名は“デュランダル”。鑑定をしてもらいましたが、強度は其の辺の武器よりは優秀ですよ。斬るというより、叩き潰す為の剣です」
「そりゃすげぇな。しかし、言っちゃ悪いがよ。そんな細腕で振り回せるのかよ?」
「当然です。この程度の剣を振り回せなくてご主人様のメイドは務まりません」
「メ、メイドってそういうものなのか?」
「私はそういう風に教育はした覚えはないのだがな……。リナ、くれぐれもその剣は室内では振るわないように。たたき出すからその後で頼むよ」
「承知しました」
聡が軽く溜息を吐き、窓から玄関先を眺めると、痺れを切らした騎士達が扉を打ち壊そうと巨大な木槌を持ち出してきた。
「応じないというのであれば、中の者全員を共犯者として捕える! 扉を打ち壊せ!」
「ハッ!」
獣人の中で最も体格の大きな像頭族が巨大な木槌を振りぬくと同時に、聡は扉を開いた。
「やれやれ、最近の若者は待つことも出来ないのかね」
「ぬおっ!?」
扉が内側に開かれ、思いっきり空振りした像頭族は一回転して、バランスを崩し転んだ。
周りの騎士が像頭族の騎士を起こす中、騎士達のリーダーと思われる全身をミスリル製の武具で覆った王鳥族が、扉を開けた聡に一瞥すると、明らかに見下した態度で剣を突きつける。
剣を眼前に突き付けられても聡は動じた様子を見せず、冷静に温和な表情を浮かべている。
「人族か……貴様がこの家の主か?」
「あぁ。そうだが。貴殿らは? 見た所、騎士のようだが」
「ふん。私は王鳥騎士団王騎士団長シジャ。この屋敷に罪人のエルフがいるはずだ。命が惜しければさっさと出せ」
「ふむ、怪我を負ったエルフならいるが、この屋敷には貴殿らの言う罪人などはいない。お引き取りを」
「それは我らが判断することだ。おい、屋敷を調べろ!」
「ハッ!」
王鳥族の騎士達が屋敷に踏み入ろうと一歩踏み出した。
次の瞬間、シジャの前から聡の姿が消え、屋敷に押し入ろうとした騎士達がまるで木の葉のように舞い、玄関先に吹き飛ばされた。
飛ばされた騎士達に巻き込まれる形で数人の騎士達が押しつぶされる。
「住居不法侵入……という法律がないのが残念だな。怪我人がいると言っただろう。屋敷には一歩たりとも入らせん」
温和な表情を浮かべながら聡が一歩踏み出し、強烈な威圧感を放った。
背筋が凍りそうな威圧に、まるで凶悪な獣に睨まれた様に騎士達が硬直して、一歩後ずさった。
シジャも同様に下がってしまったが、王鳥族には自尊心が強い傾向がある。
思わぬ反撃に呆気に取られていたシジャだが、事を成したのが目の前にいた聡だったことに気づくと怒りを露わに全身の羽を逆立たせる。
「貴様! たかが人族風情が我らにたてつくとは! 穏便に済ませてやろうと思っていたが、貴様ら! 遠慮はいらん! 屋敷を打ち壊してでも探し出せ!」
「元から穏便に済ませるつもりはなかっただろうに」
聡がゆっくりと玄関から出てくると、騎士達が剣や斧を抜いて四方から一斉に襲い掛かってくる。
対する聡は慌てた様子もなく、拳を構える。
真っ先に振り下ろされた斧を受け流し、騎士の腹部に一撃。
鎧を着ているにも関わらず、衝撃は騎士の腹部を突き抜けた。対する聡の拳は怪我ひとつなかった。
続いて左右からタイミングを合わせて斬りかかってきた二人の騎士の襟首を掴み、頭同士を激突させて怯ませ、二人の顎を同時に打ち抜いて二激。
最後の4人目は慎重に聡の動きを見ながら、最も両手を突出し隙が大きくなった――ように見えるタイミングで仲間の身体を掻い潜る様に剣を突き出してくる。
先に襲った騎士たちの身体が遮る壁となり、死角からの一撃は熟練の冒険者でも回避するのは困難だっただろう。
だが、聡は跳躍し、軽業師のよう前方空中回転しながら後ろに潜んでいた騎士に踵落としを決め、地面へと沈める。
通り過ぎる間に、4人の騎士達が崩れ落ちる様子を玄関から覗いていたガードル達が口を開けたまま茫然としていた。
「う、動きが見えなかった」
「鎧を素手で、いや、グローブをつけていますが、殴ってましたね」
「しかもー、怪我もないみたいだねー」
「世の中には凄い人もいるのね……」
「ご主人様ですから」
聡を褒められ、まるで自分の事のように嬉しそうに微笑み、慎ましい胸を張るリナ。
聡にもその言葉は届き、苦笑しながらも一切の隙を見せずにシジャに向けて歩いていく。
苦笑を侮蔑の笑みととらえたシジャは更に怒りを募らせ、未だ剣を収めたままの闘獅子族の騎士達に怒鳴り声をあげる。
「貴様ら! 何をボサッとしておる! さっさとこやつを血祭りに上げろ!」
「し、しかし」
「我らが剣は民を守る為の剣だ……。このようなことをするためでは……!」
「ほう、では貴様らは奴がどうなってもいいというわけだな」
「ぐっ」
猛禽類独特の鋭い眼光で闘獅子族をにらみつけるシジャ。
苦汁をかみつぶした表情を浮かべながら、剣を構える闘獅子族の騎士達。その剣は迷いに満ちていた。
その様子を見ながら聡は、歩みを止めずに口を開く。
「掛かってくるといい」
「え?」
「守る為に掛かってこいと言っているのだよ」
手を曲げて挑発する聡。だが、その眼は決して相手を見下さず、真剣に闘獅子族の騎士達を見据えていた。
まるでドラゴンに目の奥を覗きこまれるような感覚を覚えた闘獅子族は、本能に刻まれた強者と戦う喜びを引き起こされ、同時に戦うしか道がないと言う事を聡から教え込まれ、自然と剣に迷いが無くなる。
人質を取られている今、闘獅子族の二人の騎士は心の中で聡に謝り、感謝しながら剣を向ける。
「こういう時はあの台詞かな。……お手並み拝見と行こうか」
「参る!」
迷いが無くなった闘獅子族の二人の騎士は、先ほど襲い掛かってきた騎士達とは段違いの速度と剣速で聡に迫る。
聡が行ったのはゲーム上で行える行動の一つ〈挑発〉だ。
聡がプレイしていたゲーム【World of Fightaers’NEO】という格闘ゲームだ。
オンライン要素があり、必殺技や容姿の組み合わせにより、世界中で自分だけの格闘ゲームキャラを作り出すことができるこのゲームは格闘ゲームでも飛びぬけた人気を博していた。
世界大会もあるこのゲームで、聡は日本人代表で世界大会にも出場するほどの腕前を持っていた。
このゲームでの挑発は相手の攻撃を誘い、〈挑発〉をキャンセルして攻撃を加える事も出来る。だが、その代償としてほんの僅かだが、対戦相手の必殺技ゲージを貯めてしまう。
聡はこの世界に来たころにこの仕組みについて調べていた。
相手を怒らせる事もあるが、その他に相手の戦闘本能を引き出すことができる事がわかった。
特に獣人に対しては言葉も含めれば効果は引き上げることができる。
言葉によっては相手が怒り狂うことにもなるが、適切に相手の本質を見抜き、言葉を選べば今の様に迷いを一時的に打ち消すことができる。
闘獅子族の騎士の攻撃は苛烈を極め、聡は紙一重でかわし、受け流す。
隙を見つけては反撃をするが、それをカバーするようにもう一人の騎士が攻撃を仕掛ける。
見事な連携に笑みを浮かべ、剣に拳を打ち付けて軌道を逸らし、聡の足が青白く光りだす。
「〈雷神脚〉!」
雷を纏った足技が騎士の鎧を穿ち、背中に電撃の衝撃が突き抜けた。
「ぐう!?」
「〈紫電掌〉!」
聡は軽く浮き上がった騎士に向けて繋げる様に雷撃を纏った掌底を打ち込み、吹き飛ばす。その様子にもう一人の騎士は驚きつつも、強者との戦いに身を震わせ、剣を振るう。
聡はそこで追撃をやめ、身体を捻り避ける。視界の隅では吹き飛ばされた騎士は受け身を取ったらしく、まるで狩りをする獅子のように雄々しく牙をむき出しにしながら、聡に向かって再度襲い掛かってくる。
闘獅子族の騎士に続いて、シジャは他の騎士達にも攻撃を促すが、今の聡にとってはそれはただの雑音にしか聞こえない。正直邪魔だ。
「ぬん! 〈千之雷〉」
聡が雷を纏った足を踏み鳴らすと、他の騎士達との間に雷の束が地面から生えてくる。
騎士達は後ろや横に飛び退くが、急停止が間に合わなかった豹人族の騎士は雷を全身で受けて失神する。
聡の持つ必殺技の一つ。〈千之雷〉。聡の持つ必殺技ゲージを一本使い、天からではなく、地面から雷の束を巻き起こす必殺技だ。
〈放雷蹴〉のゲージ消費版で、〈放雷蹴〉が雷の束一本に対し、〈千之雷〉は優に10を超える雷の束を放つ。千というのは細い雷が千本重なっているという設定である。
地面から雷が生えるというありえない現象を近くで見た騎士達は歩みを止め、その隙にリナ達が屋敷から飛び出てくる。
「ご主人様の邪魔はさせません!」
「俺達もいるぜ!」
武器を構えたリナとガードル達が騎士達の前に立ちふさがる。
リナの大剣が騎士の盾を吹き飛ばし、ガードルの剣が騎士の剣をぶつかり合う。
後方で魔法を打とうと構えていた魔法使いに向けてシブラが矢を打ち妨害する。
グンアはほかの騎士と打ち合っているが、正樹から渡された棍の追加効果が発動したようで騎士の身体が震えている。
エリスは後方で魔法を唱え、仲間の身体強化を促していた。
だが、それ以上に騎士の数が多く、数人が聡に向かって殺到する。
その時だった。
「ギャウウ!」
クリスタが高らかな声を上げて、庭先から玄関に向けて威嚇しながら駆け抜ける。
綺麗に均された砂利を巻き上げながら、一人の騎士に向けてクリスタは突進し、吹き飛ばした。
「ド、ドラゴン!?」
「しかも希少種だと!?」
思わぬドラゴンという乱入者に騎士達は慌てふためき、足を止める。
シジャは獲物を見つけたように笑みを浮かべた。
「ほう、こいつは高く売れるな。おい、援軍を呼べ! 何としてでも仕留めるぞ!」
「ハッ!」
ドラゴンに対して金にしか見えないシジャは配下の騎士に援軍を要請させた。
内心、そのことに作戦通りと笑みを浮かべた聡は迫る騎士に向け〈放雷蹴〉を放つ。地面から生えるように飛び出てきた雷の束に全身を打たれ、闘獅子族の騎士は膝をつき、倒れた。
ドラゴンは金になるというのは冒険者だけでなく、一般人ですら知らぬ者はいない程の事実だ。鱗一枚から血の一滴まで金になる素材。それがドラゴンだ。
欲に目が眩んだ指揮官ならば、クリスタを出せば援軍を出してでも狙うだろうという読みだ。
最初からクリスタを出さなかったのは、最初からクリスタを出せば騎士達が竦み、勢いを殺してしまうからだ。
戦闘になり興奮状態になった所に出せば、冷静な判断が鈍りドラゴンに対して引くという事を考えにくくさせてしまう。
その分、クリスタに騎士達が殺到することになるが、正樹の魔力を十二分に食べて生まれたクリスタの水晶の鱗はミスリルの剣では歯が立たず、尻尾を振り回して騎士達を薙ぎ払っていく。
「ギャオオ!!」
「ひっ!?」
クリスタの雄叫びに騎士達は怯えすくみ、攻撃の手を止めて後ずさりを始める。
だが、シジャはそれを許さなかった。
「下がるな! 目の前に希少種のドラゴンがいるのだぞ! 貴様らにも分け前は分けてやる! やれ!」
引くことも許されず、目の前には凶悪なドラゴン。実際はクリスタにとっては遊びにしかなっていないが。
騎士達は追い詰められ、破れかぶれでクリスタに挑み、叩き潰され、吹き飛ばされる。
一方で聡と戦っていた闘獅子族の騎士は、仲間の様子が気になりながらも、聡の攻撃を受け続け満身創痍で立っている。
対する聡はいまだ怪我ひとつ負っておらず、息すら乱れていない。
「はぁ……はぁ……! まさか……シーザー様以外にもこのような強者がいると。その腕前があれば王家にでも使えることができたでしょうに」
「王家に仕える等とんでもない。貴族のゴタゴタに巻き込まれるのは簡便だ。此度の事も弟子と、そして友人の為に動いたに過ぎない。そろそろ体力の限界だろう。君の全身全霊を籠った一撃を繰り出すといい」
「ぐっ……はあ! 分かりました! ハァァァ!〈ギガノスラッシュ〉!」
闘獅子の騎士は片手剣スキルの上位スキル〈ギガノスラッシュ〉で勝負に挑む。
ミスリルの剣が青白く光り、右斜めから光の軌道を描き、今までで最も早く聡に向けて迫る。
光る刃は同じミスリルの盾すら切り裂き、狂獣ミスリルザウルスの鱗でさえも貫く威力を持っていた。
聡はじっと剣の軌道を見定めながら、腕を突き出す。
「見事」
腕に当たると思われたその時、カァン! と乾いた音が響いた。
「なっ!? 素手で防いだ!?」
聡は今まで受け流すや回避を優先する中で、初めて防御をした。
だが、ただの防御ではなく、聡の持つスキルの一つ〈会心防御〉だ。
相手の攻撃が当たる直前に、防御態勢を取り、気を高めることによってあらゆる攻撃を防ぐ絶対の防御。
防御のタイミングが難しく、下手すると防御が間に合わず直撃を受けてしまうスキルだが、何度となく相手の剣を受け流した聡はそのタイミングを読むことができた。
懇親の一撃を防がれ、無防備となった騎士に向けて、聡は腰を深く落とし、拳を構える。
「君の剣に応え、私も拳を見せよう」
聡は全身から、今までとは比べ物にならないほどの威圧を放つ。手足が青白く光り、バチバチと放電が始まっていた。
(来るっ!)
咄嗟に闘獅子の騎士は盾と剣を構え、防御の体制を取ろうとする。
だが、それは一瞬遅かった。
「〈瞬雷殺〉」
聡は騎士との戦いで貯めたゲージを全て放出し、聡の持つ最大速度で騎士に迫る。
その速度は雷と同様で、瞬く間に闘獅子の騎士の後ろに移動した。
じっと後ろで戦闘を眺めていたシジャの目にも、あっという間に後ろに通り過ぎたぐらいにしか見えなかった。
一瞬遅れて、闘獅子の騎士の全身に放電とともに衝撃が走る。
その衝撃は大気を揺るがし、辺りの騎士達にも響いた。
「……貴方のような強者と戦えて……誇りに思う」
「私もだ。願わくば、次はこのような場でないことを」
「ああ……」
コクリと頷いた闘獅子の騎士は、そこで意識を失いドサリと地面に倒れこんだ。
「リナ」
「はい!」
「彼らを屋敷の中に」
「分かりました!」
聡はリナに倒れた騎士達の事を頼むと、後ろで騎士達に守られるように眺めているシジャを睨みつける。
「ずっと見てるだけか? 王鳥の騎士というのは随分と臆病な鳥なのだな」
「何っ!? 言わせておけば……雑魚を倒して位で調子に乗りおって! 貴様らやれ! やってしまえ!」
聡に挑発されてもなお、騎士達の後ろから援軍としてやってきた騎士達に指示を出すだけのシジャ。
騎士達は一斉に聡に群がり四方を囲む。あぶれた騎士達はクリスタやガードル達の方へと向かっていた。
援軍としてやってきた騎士達は全員、黒い鱗を持つ王鳥族の騎士達だった。
「グッグッグ! シジャサマ! コイツハ喰ッテモ?」
「好きにしろ。そこのドラゴンもだ。鱗や骨は取っておけ。女も好きにしろ。持って帰っても構わん」
「ヒャッホイ!」
彼らはまるで騎士というより、野盗に近く、荒々しい口調だ。
黒い鱗の騎士達は全員黒鎧を着こみ、様々な武器を持っていた。
それら全てはミスリル、またはそれ以上の武器で、中には希少武具も混ざっていた。
冒険者、または傭兵から権力を持って奪い取った武器達だ。
聡は、はぁっと溜息をついた聡は改めて拳を構える。
「やれやれ、面倒事を避けて過ごしていたが、余り避けすぎるというのも考え物だな」
「グッグッグ! 安心シナァ! 死ネバ永遠ニ面倒事カラ避ケレルカラヨォ! 女ノ面倒ハ俺達デ見テヤルヨ!」
「馴染んだ街に下種を放置しておいた私の責任だな。……加減は要らないか」
「ナニィ?」
ドンっと衝撃とともに、聡は気を高め、全身を青白く光らせる。
格闘ゲームにおけるゲージ貯めの行動だが、効果を知らない騎士達にとっては高まる気迫に押され、動けずにいた。
聡はさっきまで戦っていた闘獅子の騎士なら、この隙は逃さないだろうなと内心に思いながら、拳に殺意を乗せる。
先ほどの戦いでは全く乗せなかった殺意。
黒鱗の騎士達は、今まで感じたことがない命の危険を感じた。
全身から殺意の覇気を放ちながら、聡は黒鱗の騎士達に向けて一歩踏み出す。
「さぁ、死合を始めようか」
聡は青白い残像を残しながら、黒鎧の騎士達に迫る。
殺し合いという名の、第二ラウンドの始まりであった。
感想・評価ポイントを下さるとモチベーションの維持につながるのでとてもありがたいです。
待望の格闘ゲームから聡が出てきました。
格ゲー程戦闘に向いてる職業はないと思います。元ネタは色々と想像すると楽しいかもしれません。色々混ざってます。
最近はアイギスにはまってます。魔法都市きつすぎませんかね……。




