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土の大神殿

懇親会やTRPGコンペンションと用事が続いたので日曜からずれて投稿となりました。

仕事の方が繁忙期に入り、当分の間は更新が遅れがちになるかもしれません。

 土の大神殿の中は神秘性を思わせる大理石で出来ており、通路は魔道具の明かりによって照らされていた。

 雰囲気は穢れとは無縁に思え、この地下には濃い穢れがあるとは想像できないほど清らかで、静寂に包まれている。


「本当にこの地下にアポイタカラがいるのだろうか……」

「信じられないわよね。土の大神殿って言ったらアース大陸各地の信徒が一度は訪れたい場所の一つよ。こんなところに封印されているなんて思わないわ」


 アデルとヨーコが周囲を見渡しながら、つぶやく。

 その疑問に答えを返したのはレヴィアとフェンだった。


「そうでもないぞ。ここには数多くの信徒が訪れる場所じゃ。それ故、一番信仰力が高まっておる。封印というものは一回封印して、終わりというわけにはいかぬ。常に力を補充して封印を維持する必要があるからのぅ。他にも理由はあるが、封印には人目につかぬ神殿の地下が一番適しておるのじゃよ。聖遺物も同様じゃな」


「あとは……信仰力……の性質上、力が地下に溜まりやすい……というのも理由です……ね。一階が……一般のお祈りする場所で神事や儀式の間は……基本的に力が必要なので力が溜まる地下が殆ど……です。基本的に……立ち入り禁止ですし」


 なるほど。封印といってもやっぱりそれだけで終わらないんだな。

 封印し続けるためには常に力がいる。まるで使用済み核燃料みたいな扱いだな。

 扱い的には変わらんか。

 

 さて、静かな神殿の通路では声が響くのに、こうしてのんびり話をできるのには理由がる。

 それは俺が入ってすぐに、全員に『マフリング』と『バニシュ』、そして『クリーン』の魔法をかけたからだ。

『マフリング』の効果は消音、足音や話し声を抑える魔法だ。こういった石畳の通路は足音だけでも響くので、侵入する際には優先してかける魔法になっている。

『バニシュ』は姿を消す魔法で、足跡すら消してしまう魔法。『マフリング』も『バニシュ』も好戦的なモンスターとの戦いを避けるために使われる魔法だ。

 パーティー間では、互いの姿が半透明に見えるだけで声も聞こえるのではぐれたりすることはない。

 ガードル達や聡さん達が足止めして騎士たちを引き付けてくれるのに、ここで見つかってしまうわけにはいかないからな。

 『クリーン』は消臭の魔法。臭いで気づかれないようにと用心を重ねてのことだ。

  一部の獣人は鼻が利くからな。

 欠点は効果時間が短いということと、全員分にかけるのには少々時間と手間がかかるということくらいか。

 

 といっても、地下に入ったらかけなおせばいいし、俺には〈ダブルスペル〉と〈高速詠唱〉のスキルがあるのでそこまで時間はかからない。ちなみに戦闘行動に入ると効果は切れる。

 不意打ちには便利だが、腕の立つ相手だと気配だけで防がれる。そう都合よくはいかないな。

 

 姿を消しながら地下への階段を目指していく。道中で慌ただしく騎士が走り、すれ違うが端を歩く俺達には気づいていない。

 どうやら聡さん達が上手く足止めをしてくれているようだ。しかし、あまりあっちに負担をかけるのはよくないな。さっさと進もう。

 地下への階段はマップで映っているし、リリンさんから《ログ解析》で手に入れた記憶があるので迷わずに行くことができる。

 

 地下への階段を見つけると、入り口には闘獅子バトルレオ族の騎士と、身長が3メートルを超えそうな牛頭ごず族の騎士が立っていた。片方は馬頭めず族じゃないのかよ。

 牛頭ごず族の騎士が大きな巨体を震わせ、大きく欠伸をする。



「ぐあぁぁ……ブルゥッ、さっきから騒々しいな」

「あぁ……どうやら、神官を襲っていた犯人を見つけたようだ」

「そうかそうかぁ。だが、お前さん浮かない顔だな?」

「そ、そうか?」

「ああ。なんというかぁ……、苦しんでいる感じだ」

「そ、そんなことはないぞ。気のせいじゃないか」

「ブルゥ、困ったことがあればきくぜぇ。お前さん達がここの交代に来てくれっから俺も馬頭めずの野郎も休みの余裕が出来たしよぉ。あいつも奥さんの出産が近いしよかったぜぇ」

「あぁ……」


 どうやら馬頭めず族もいたようだが、病気のようだ。二人そろって地獄の門番ケモキュア

 この地下が穢されているとあながち間違っていないな。

 闘獅子バトルレオ族の顔は苦々しい表情を浮かべていた。どこか後ろめたさがあるような感じだ。

 おそらく彼は地下にシーザーが囚われているということを知っているのだろう。

 階段を見て、ため息をついたのがその証拠だ。

 もうすぐ、その苦しみから解放してやるからな。待っててくれ。







 門番をしている彼らの横を通り過ぎ階段を下っていくと、扉が見えてきた。

 む、魔法の効果が切れかけてきた。

 ちょうどいいタイミングだったな。扉を開けたらもう一度かけなおそう。

 扉には結界が張られていたのでフェンにもう一度頼み、解除してもらった。

 扉を潜り、そっと閉じるとレヴィアが扉にかかっていた結界の膜に手をついた。

 すると、レヴィアの手が発光し、それに応じるように膜が光り始める。

 魔力とは違う感じだ。何だろう。


「レヴィア、何してるんだ? 先を急ぐぞ?」


「援軍が来たら面倒じゃ。妾の力で結界を張りなおして置こうと思ってのぅ」


「そんなことできるのか? ここって土の大神殿だろ?」


「当然じゃ。水と土の違いはあるが、必要なのは信仰力には違いないからの。水の大神殿の結界も妾が張っておるしの。ほれ、この通りじゃ」


 レヴィアが指を動かすとフェンによって空けられた膜が再生するように穴が埋まり、薄い膜が元通りに戻った。

 なるほど、さっきの力は信仰力が表に出たものだったのか。


「これで水の護符を持たぬ者には入れぬ。フェンのような存在はごくまれなものじゃしの。先へ進もうぞ」


「わかった」


 後でわかったことだが、本来ならば結界を通り抜けるには人数分の土の護符が必要だったらしい。フェンのおかげで色々と手間が省けたな。


 地下へ潜って直ぐに再度、『マフリング』『バニッシュ』『クリーン』の魔法を全員にかけて隠ぺいを施す。

 この魔法を使っていると元の世界のゲームを思い出すなぁ……。『クリーン』だけはしに魔法だったから使わなかったけど。

 地下通路は思ったより広く、天井は5メートル以上ある。さっきの牛頭ごず族でも余裕で通れそうだ。

 マップを見ると、道はアリの巣のように複雑に入り組んでいて、まるでダンジョンのようだった。

 マップと《ログ解析》の記憶があるから迷うことはないが、普通なら迷って帰ることすら困難だ。

 5つ目の十字路を北に向かうと、警備をしてると思われる兵士とすれ違った。

 兵士は狼頭族だが、体全体に黒い鱗がびっしりと生えていた。パヴァリエの手が入ってるのは間違いないようだな。

 兵士は魔法で俺達に気づくことなく通り過ぎた。


 魔法による隠ぺいのおかげで道中にいた兵士はスルー。戦闘を避けるに越したことはない。

 だが、地下に潜伏していたのは兵士だけではなかった。ある程度地下へと潜ると、兵士とは違った大きな反応がマップに現れる。


「グルルル……」


「ミスリルザウルスか……」


 ジークが壁際に張り付きながら、鏡越しに姿を確認する。

 地下には狂獣まで潜んでいた。しかも、道中で出会った狂獣とは比べ物にならないほど凶悪な狂獣だ。

 姿は背中に鋭い刃が生えたステゴザウルスに似た感じだ。

 体は全身薄い緑色。ミスリルの独特の色をしている。体長は3メートルを超えている。

 こいつの厄介な所はミスリルで出来た鱗に覆われた強靭な身体、石臼のような骨すらすりつぶすような牙、背中の刃じゃない。

 こいつは――。


「グアァァ!!」


「ちっ! 気づきやがったか!」

「魔法による僅かな魔力を感じ取った様じゃな」


 魔力によって獲物を感知する能力を持っていた。魔法による隠蔽は自分の身体に魔法を纏うのと同意義だ。人ではわからない微力な魔力でも感度が鋭い上位の狂獣なら気づいたようだ。

 魔法ではない、GM権限の《ステルス》なら気づかなかっただろうが、これが魔法の限界か。


「フェン! ネメアーの後ろへ! ネメア―、フェンを守ってくれ」


「わ……わかりました」

「分かった!」


 フェンを下がらせると、俺とレヴィアが前に出る。

 ミスリルザウルスは、その巨体を通路に響かせながら俺達を押しつぶそうとドスンドスンと足を鳴らしながら走ってくる。

 全員が武器を構え、迎撃態勢を取った。

 先に動いたのはヨーコだ。宝玉を取り出し、ミスリルザウルスに向けて突きつける。


「おーいでーませー!『パラディンゴーレム』!ゴー!」


 ヨーコの掛け声に応じるように宝玉は光り、2メートルのゴーレムが現れた。

 見た目は甲冑騎士。パラディンという名にふさわしい白銀色をしている。

 メイスに盾、武器を持ったゴーレムか。これは見たことがない奴だ。


 ミスリルザウルスは道を塞ぐように現れたパラディンゴーレムに狙いを定め、大きな爪を振りかざす。

 パラディンゴーレムはミスリルザウルスの爪を受け止めると、ガキィンと大きな金属音が響いた。

 尻尾まで含めれば自分の倍以上の体格を持つミスリルザウルスの攻撃をビクともせずに、逆に一歩踏み出すとミスリルザウルスが驚きの表情を浮かべながら押し込まれる。

 パラディンゴーレムは左手に持っていたメイスを胴体にたたきつけると、ドスンっと鈍い音を立てて頑丈な鱗が凹んだ。パラディンゴーレムの方は見た目以上に頑丈なのか何ともなさそうだ。


 パラディンゴーレムがミスリルザウルスを抑え込むと、俺たちの後ろで、パシュパシュとかすかな音が起き、ミスリルザウルスの強靭な鱗に穴が空いて、血が噴き出した。

 

「ガァァ!?」


「頑丈なだけでただの的だな」

「そうですね。ミスリルの鱗程度なら私の弾丸でも通ります」


 秋葉とジークの射撃だ。二人とも短銃の先端にサイレンサーがついている。銃の音はその特性上よく響くからな。それを抑えるために今回はつけてもらった。

 まぁ、狂獣がこれだけ暴れてるから、もう隠密とかそういうレベルじゃなくなったけどさ。

 それでもジークと秋葉の武器の存在は隠しておいたほうがいいだろう。何せ、弓やクロスボウとは違い、魔法に匹敵する威力を持つ重火器だ。敵に知られないほうがいい。


 二人ともアクセサリーや装備によって遠距離射撃能力を引き上げている。普通なら弾かれる弾丸も強化によってこの通りだ。これで対物ライフルなんて打ったらどうなるんだろうな。


「グウウ!! グアァアァァ!!」


 自慢の身体を傷つけられた所為か、高らかに吠えて目が赤く灯して背中の刃が青白く光った。某ゲーム風に言うと激昂状態か。


 ミスリルザウルスが勢いよく踏み鳴らすと、背の刃が勢いよく俺達に向かって飛んでくる。こんな直線的な攻撃、かわす必要すらない。


「ハァァ!」

「シッ!」


 俺とアデルが剣を振るうと、銀色と赤色の一閃がミスリルザウルスが飛ばした刃を切り落としていく。

 俺の『ロストドミニオン』とアデルの『ドラクル』はミスリルより頑丈な素材、オリハルコンとアダマンタイトで出来ている。

 切り落とされた刃は二つに割れ、地面に落ちていく。

 精錬されていないミスリルなら、この通りだ。

 そのままの勢いで左右に分かれ、アデルと息を合わせて両前足を切り裂く。

 真っ赤な血を吹き出し、筋肉の筋を切り裂かれたミスリルザウルスは、重い体重を支えきれなくなったのか、前のめりに崩れ落ちる。

 

「せぇぃ!」


 止めにレヴィアの拳がミスリルザウルスの頭を穿うがつと、大きな巨体がズシンと音を立てて崩れ落ちた。

 


 ヨーコがパラディンゴーレムを元の宝玉に戻す。何だろう。どっかで見たような。

 モンスターをボールで捕まえて少年少女が旅するあのゲーム。

 あれに似た感じがする。


「ヨーコ、そのゴーレムは初めて見たけど、新作か?」


「ええ。タツマからもらった土の宝玉と、ミスリルの素材で新しく作った『パラディンゴーレム』よ。私もアデルも待ってる間、何もしなかったわけじゃないのよ」


「そうか。心強いな。頼りにしてる……ってもとから頼りにしてるけどさ」


「ふふ、うん、ありがと。もっと頑張るわね♪」


「頑張りすぎて無理しないようにな?」


「あら、徹夜を平気でするマサキが言うことかしら」


 言えません。はい。社会人の癖で仕事が終わるまで寝ません。あと、鍛冶やってる時はゲーム感覚で時間忘れます。


「マサキー、急いだ方がいいかも。何か人っぽいのがいっぱい来るよ」



 アリスに言われて、マップを見るとどうやら人のマークが大勢、俺達に向かって集まりだした。人っぽいということは、おそらくは全て黒鱗持ちだろう。

 魔法を使う暇はなさそうだな。

 近づく気配に気づいたジークが通路に何か仕掛けだした。


「簡単な物だが、罠を張っておく。生憎と非殺傷の奴しかねぇけどな」


「時間が稼げるなら助かる。ネメア―、フェンを抱えて運んでくれ。囲まれると面倒だ、急ごう」


 俺の掛け声に全員が頷き、ジークも罠を仕掛け終わったようでミスリルザウルスの遺体の横を通り過ぎる。


 後で聞いたが、ジークが仕掛けた罠は黒塗りの線に引っかかると強烈な催涙スプレーが周囲にまき散らされるという代物だった。食らったら一時間は涙と鼻水が止まらないという強力な物だ。鼻が利く獣人に対しては効果は抜群だろう。


 ミスリルザウルスは素材としてとっておきたかったが、あの巨体だと分割しないと俺のアイテムボックスにも入らない。惜しいがここに置いて行く。

……可能ならあとで回収したい。ミスリル貨幣にも限りがあるし。資源は大事です。





 迷路のような通路を駆け抜け、時折遭遇した兵士は〈疾風の如く〉〈無音撃〉で轢いた。

 中には山賊のような恰好をした奴らもいた。おそらくは捕えて、ここで手駒にしていたのだろう。もちろん、兵士と一緒に仲良く天井に埋まってもらった。

 運さえよければ通りかかった誰かに助けてもらえるだろう。


 走りながら出くわした狂獣は倒し、兵士は埋めて突き進むとリリンさんの記憶で見た重厚そうな扉が見えた。この先が牢屋になっている。

 扉の先には兵士と思われるマーカーが5つほど。牢屋の中にはマーカーが二つ。恐らく、シーザーと司だろう。他の人の可能性もあるが、助け出すのには変わりはない。


 扉を蹴って開け、あ、飛んだ。立て付け悪かったようだ。


 ガゴォン! と鈍い音を立てて扉が吹き飛ぶと、巻き込まれたのか兵士が3人扉に押しつぶされて気絶していた。よし、作戦通り!


「な、なんだお前たちは!?」


「答えるやつがいると思うか?」


 兵士が剣に手をかけるが、それよりも早く俺の拳が顎を打ち抜き、気絶させる。

 両腕を後ろに回し、小手を鍛冶スキル〈接合〉でくっつける。両足も同様に。鋼鉄製なので手早く終わった。扉に押しつぶされてる連中は……面倒だから扉に〈接合〉しておこう。 

 因みに丁寧にロープを用意するより、相手の服を剥いでそれで手足を拘束すると楽です。

 あと一人いたはずだが……見当たらないな。マップを見ると、この先を曲がった一番角にいるようだ。ここからだと死角だな。後回しにしよう。

 

 檻の中に目をやると、驚いた様子で俺達を見ている闘獅子バトルレオ族がいた。

 となると、この人がシーザーか。

 

 元は豪華な刺繍を施されていただろうと思われる騎士服はボロボロで、両手足を鎖で縛られて身動きが取れなくされていた。

  右肩から斜めにかけて、傷跡も見える。一応化膿しないように手当はされたようだが、それなりに新しい傷だ。おそらくはアンデッドとの戦いで付いた傷だろう。

 立派なたてがみも薄汚れ、一見やつれてる様にも見えるが、その眼は光を失っておらず、この状況でも屈しない意思を輝かせていた。

 

 反対側には、彼以上に鎖で縛られ……というか簀巻きにされていた一人の女性。

 よっぽど暴れたのだろうか、髪は乱れて今はぐっすり眠っている。

 黒髪ツインテールで、涎を垂らしながら眠る女性……司がいた。何で寝てるねん。


「おい、司。起きろ」


「むにゃむにゃー。もうたべられへんー。あ、デザートは別腹やー」


「食べれないんじゃないのかよ!」



 ミスリルハリセンでスパーンと突っ込みを入れた。ついやってしまった。

 ハリセンはダメージが出ないユニーク武器だ。いい音が鳴る。


「あいったー!? 捕虜はもうちょっと丁寧にあつかいー! あれ? マサやん? なんでこないなところにおるん?」


「まぁ、説明するからじっとしててくれ。まったく……こんな状態で寝れるなんて司らしいよ」


「そないに褒められると照れるわー」


「褒めてないって」


 簀巻きにされたまま器用に悶える司の鎖を剣で切りほどくと、長く縛られていたのか身体を猫のように伸ばして体をほぐす。

 その間にシーザーと思われる人の鎖も断ち切り、自由の身にする。盗賊王の針金でもいいんだが、鎖で雁字搦がんじがらめにされてると切った方が手っ取り早い。


「貴殿らは……?」


「俺はマサキといいます。そして」

「妾はリヴァイアサンじゃ。ヨルムンガルドの様子がおかしいと感じ、この国へと参った。後ろの者たちは妾が協力を頼んだ仲間たちじゃ」


「なんと……! それがしはシーザーと申します。リヴァイアサン様! どうか王子を助けください!」

「そや! このままやとあかんねん! マサやん、リリンちゃんを助けてや!」


「分かったから少し落ち着いてくれ。状況を整理しよう」


 檻から助け出したシーザーと司に軽くこれまでの事を説明した。

俺がこの世界に召喚されてからの事と、リリンさんを助け、ここの事を教えてもらった事だ。


「マサやんも苦労しとったんやねー。そんでもってハーレムかい! マサやん、爆散しろ!」


「なんでだよ!?」


「妬ましいわー羨ましいわー! うちかてこんなかわいらしい子ほしー!」


「おい、お前は女だろ。それよりも司はいつ頃ここに?」


「あ、そやったわ。んー、うちかー。うちは寝落ちしとったらこの世界におったんよ。それが大体4年前やね」


 4年前か。だいぶ前だな。司が海外出張で連絡が取れなくなったのは3年前だ。

 やっぱり時間のずれがあるな。


 詳しく話を聞くと当初はゲームの世界にキターと、喜んでいたようだが、話を聞くと【ブリタリアオンライン】の世界とは似ても似つかない異世界で、召喚された国の傲慢な王子の嫁にされかけた所を逃げ出したようだ。その後、冒険者としてこの世界を見て回り、その際、リリンさんと偶然知り合い、エルフの里の家で長く世話になっていたらしい。

 リリンさんがワイルガードに呼ばれる際、護衛として同行。

 そして土の大神殿で罠に嵌められ、拘束されたようだ。


「そかー。リリンちゃんちょい下手やってもうたけど、結果的にマサやんに助けられたんやな。よかったわぁー。あん子、どんくさいから心配しとったんよ。マサやんありがとなー。うちらも助けてもろうてほんま感謝しとるで。なぁ、シーザーの旦那」


 ニカっと司はシーザーに微笑むと、大きく頷き、手を胸に当てて深く頭を下げた。


「ああ……。それがしからもリリン殿と我らを救って頂き感謝いtたします、マサキ殿、リヴァイアサン様。我らが闘獅子バトルレオ族は、我を人質にいうことを聞かされていたのです。全ては黒い獣人と、王鳥ガルーダ族の領主、ザンドの仕業です。ザンドの奴は……己の運命を賭け、このような暴挙に」


「自分の運命を? ザンドは何が目的なんだ?」


「ザンドは……不治の病にかかっており、余命幾ばくか……あと半年の命だと奴自身が申しておりました」


「半年の命……」


「奴は、『どうせ短き命、ならば、心の赴くままに歴史に名を遺してやろう。たとえ大罪人となろうとも。俺は王を目指す。短き命、全てを使ってでも獣王を取ってやる』と言い此度の事態を! 欲のままにリリン殿にも手を掛けようとし、愚かにもそのために王子を攫い、アポイタカラの復活を企んでおります。何としてでも防がなくては……!」


「それを防ぐ為にも俺達は来たんだ。仮に復活しても何とかする。それより、身体は大丈夫か?」


「問題ありませぬ。この程度で動けぬほど軟な鍛え方をしておりませぬからな」


 シーザーはいまだ気絶している兵士から剣を抜き取り、剣を数度振るう。

 その太刀筋は全てを一太刀の元に両断しそうな程に力強く、長く囚われていたとは思えないほどの腕前だった。

 これなら大丈夫そうだな。剣自体も悪くなく、耐久性が高いダマスク製だ。


「うちもやり返さんとな!! でもどないしよ。うちの斧取られてしもうたんや」


「おい!? まさか『メテオハザード』取られたのか!?」


「そのまさかや。うちと戦った相手がなー。銃から色んなもん出しよったんや。黒い狼やら、銀色の鷹やら、緑色の豹やらなー。大半はぶっ飛ばしたけど、動き止まったところにごっついレーザーぶち込まれてばたんきゅーや。起きた時には『メテオハザード』も無うなっとったしなー」


 銃か……。話を聞く限り、どう見ても既存の銃とはかけ離れてるな。異世界人とみて間違いないだろう。

 しかし、『メテオハザード』を取られたのは痛い。あの特殊効果は洒落にならん。


「ほかの斧はあるのか?」


「『ベルセルクアクス』ならあるで」


「それ狂戦士バーサーカーモードで暴走するだろ。俺らを殺す気か」


「あかんか。なら、『雷神之斧タケミカヅチ』でええやろ」


 『雷神之斧タケミカヅチ』か。『メテオハザード』と比べると格段に威力は落ちるが、『ベルセルクアクス』よりましか。あれ、味方まで攻撃する常時混乱状態になる代わりに攻撃力3倍だからな。あれで斬られたら俺以外死ぬ。基本、ソロかPKプレイヤーキラーしか使わない斧だ。

 『雷神之斧タケミカヅチ』は攻撃速度も速く、攻撃力も申し分ない。


 司は『雷神之斧タケミカヅチ』をアイテムボックスから取り出して、装備し、軽く素振りをし始める。


「後は王子か……二人とも、王子の居場所は知ってるか?」


「すまない。それがしも王子の姿は檻越しに見かけたのみで、居場所までは……」


「うちもや。王子とはリリンちゃんと一緒に捕まったんやけど、暴れて気ぃ失っとったから場所までは知らへん」


 二人ともダメか。

 兵士なら知ってるかと《ログ解析》をしてみたが、外れ。王子の姿は見えたのだが、王子は別の兵士が担当していたようで、こいつらは居場所については全く知らなかった。

 記憶を覗いた際、余分なものが見えた。……一人、同性愛の奴を見つけてしまったが、ここはスルーしてやるのが優しさだろう。

 それが扉と一緒に複数で〈接合〉されていたとしても。うん。

 俺に関わらなければ恋愛は自由だ。

 

 さて、一部混沌とした記憶を見てしまったが、参ったな。王子の手掛かりがない。

 まぁ、司とシーザーを助けたことだし、これからは闘獅子バトルレオ族とは戦闘を避けれるかもしれない。

 このまま地下に降りて、先にアポイタカラでも処理するかと思っていると、アリスが騒ぎ出した。

 

「フェン。どうしたの? ねぇ、フェンったら」


「アリス? どうしたんだ?」


「フェンがね、動かなくなっちゃったの!」


 フェンをじっと見てみると、微動だにしていない。目を合わせてみるが、空ろで、焦点があっていなかった。

 フェンの肩を揺すろうとすると、レヴィアが俺の手を掴み押しとどめる。


「これは……マサキ、動かすでないぞ。一種の催眠トランス状態じゃ。この状態で動かせばフェンの精神にダメージが出かねぬ」


「なら、どうすればいいんだよ」


「様子を見るしかあるまい。しかし、神託とは違う感じじゃな……別の何かがフェンに干渉しておる」


 そうか……。マップを見ると、ジークが張った罠のおかげで多少の足止めはできているが、数人がこちらに走ってきている。

 このままずっと様子を見ているわけにはいかない。しかし、フェンを動かすわけにも……。


「呼んでる……」


「フェン?」


「こっち……」


 フェンが前のめりになり、ネメア―が肩を支えようとするが、一瞬遅く、次の瞬間には異常な速さで通路を駆け抜けていく。


「フェン!?」


「な、なんじゃあの速さは!? ええい、マサキ。追いかけるぞ!」


「分かった!」


 〈疾風の如く〉を発動し、味方全員に『クイックブースト』をかけて移動速度を引き上げる。俺に並ぶようにレヴィアも駆け抜ける。


 後ろではヨーコが騎乗用ゴーレムを呼び出し、ネメア―とシーザー、ジークに司に秋葉を乗せて通路を滑るように走り、アデルは空を飛びながら付いてくる。


 フェンの身にいったい何が起きたのだろうか。ひとまず考えるのは後だ!

 スキルと魔法を駆使し、全速力で俺達は追いかけていった。


新しいノートを手に入れました。中古なので多少おかしい所がありますが、起動が早いですね。感想返しや誤字修正は明日行います!睡眠時間4時間だと拙いことに気づいた今日この頃です。


同ギルド内の仲間、司が登場です。知人にハーレムの事を知られるのは非常に気まずいですね。彼女はマサキより年上で、年齢は(バーサーカーモードにより消されました)。エイエンノ18サイデス。



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