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囚われの人々

書籍化関連の続報です。

活動報告にもあげましたが、諸事情により発売日が延期となりました。

後、夏バテと、少し仕事が更に忙しくなるかもしれませんので一週間に2話から一週間に1話にペースを落としています。大変申し訳ございません。

 ヨルムンガルドに関する事なら、レヴィアを呼んだ方が良いだろうな。

 

「すみません、この話をするなら欠かせない人が要るので一人呼びます」


「え? あ、はい。判りました」


 レヴィアに向けて〈念話〉を飛ばし、事情を説明すると直ぐに飛び込んできた。

 

「ヨルムンガルドの爺を使ってアポイタカラを復活というのは本当か!」

 

「じっ……爺って。貴女! ヨルムンガルド様になんて失礼なことを!」


 あ〜……信仰する人からしたらそうだよな。だが、リリアさん。


「あ〜リリアさん。すまん。信じられないかもしれないが、こいつ。こんな形でも実はリヴァイアサンなんだ」


「えっ? う、嘘ですよね?」


「嘘ではないぞ。証拠が必要なら見せるがのぅ」


 おい。証拠ってどうやって見せるんだよ。まさか元の姿に戻るんじゃないだろうな?

 不安に思ってみてみると、レヴィアはリリンさんの手を取り、何かぼそぼそと呟いた。

 ふっとリリンさんの身体が水色の光に包まれ、リリンさんは目を見開いて驚いている様子だった。


「レヴィア、何をしたんだ?」


「何、ちょいと妾の魔力を感じさせただけじゃ。ただの人には無理じゃろうが、神事に関わるエルフの神官なら判るはず。証拠には丁度いいじゃろ」


「え……ええ。リヴァイアサン様、申し訳ございません。私はなんて失礼な事を!」


 そういうとリリンさんはベッドから降りようとするが、レヴィアは肩を押して制する。

 あのままだと土下座までしそうな雰囲気だったな。

 

「あ〜よいよい。妾はそういうのは苦手じゃ。もっと楽にせい。それにお主は怪我人じゃ、自分の身体を大事にするがよい。それで、爺の居場所は分かっておるのか?」


「はい。ヨルムンガルド様は土の大神殿の地下にアポイタカラの亡骸と一緒におられる様子です。アポイタカラの亡骸には怨念が籠っており、悪用されぬようにと代々土の大神殿の枢機卿と王族、そして四大公爵にのみ居場所を伝えられておりました」


「うむ。妾もヨルムンガルドの爺からその話は聞いておる。アポイタカラは死してなお、底知れぬ怨念を元にアンデッドとして蘇ろうとしておったが、爺の手によって頑なに封印されておる。しかし、知る者が限られておる中、良くお主はその事を知っておったな」


「はい。私がこの事を知ったのは、私と同じく囚われの身となっていた四大公爵の一人、闘獅子バトルレオ族の領主、シーザー様とお話しする機会があったからです」


 その事を聞いたアデルが顎に手を当てながら何か思い出したように口を開いた。


「シーザー……冒険者ギルドで聞いたことがあるな。歴戦の武人であり、毎年の獣王祭に開かれる大狩りで毎年優秀な成績を収め一位を取り続けていた闘獅子族の領主であり勇者であると」


 領主であり勇者か。同じ闘獅子バトルレオ族のネメアーでさえあの強さだからシーザーという獣人はもっと強いのだろう。バトルマニアだったらぜひとも戦いたいというだろうな。生憎と俺は戦いたくないんだが。

 しかし、そんな四代公爵の一人が囚われてると言うのはどういう事だ?

 

 その事を聞いてみると、どうやらシーザーは王鳥ガルーダ族の領主、ザンド・バッハが妙な者達と夜な夜な密会をしているという報告を受けたようで、独自に調査をしていたがその密会していた相手が黒い鴉の獣人。

 傍にスケルトンがいたらしいので恐らく、パラケルススに間違いないだろう。



 シーザーの事に気づいたパラケルススとザンドはシーザーと一戦を繰り広げる。

 勇者と呼ばれるシーザーは無数のアンデッドと戦い、多勢に無勢という状況だったが、圧倒的な力で数多くのアンデッドを葬るも、疲労したところを一体の強力なアンデッドによって倒され、囚われてしまったそうだ。

 

 シーザーは表向きには急病により、療養地にて安静という事にはなっているが、実際はザンドが闘獅子バトルレオ族をシーザーを人質に脅し、王鳥ガルーダ族と共に流させた偽報だそうだ。四大公爵の中で一番真面目とされる闘獅子バトルレオ族がいう事だけあってその噂は真実味を帯び、あっという間に広まったようだ。


「そのザンドって奴が首謀者で良さそうだな」


 まぁ、どうせパヴァリアの奴らに良い様に操られてるんだろうけど。


「ヨルムンガルドとこの国の王子、そして神官とフェンを使って復活というのはどういう事だ?」


「先ほど、彼女が仰ってた通りアポイタカラの亡骸は強力な封印が施されています。ですが、ザンドは封印を弱めるために神官である私達を儀式の生贄にすると申しておりました。儀式の詳細は分かりませんが、土の大神殿の地下は非常に濃い穢れに汚染されております。恐らくは儀式によって大神殿を穢し、ヨルムンガルド様の力を削ごうということでしょう。あのような濃い穢れでは相当の力が削られているはずです。抵抗しようにも、あの場所ではヨルムンガルド様も無暗に力を振るう事が出来ません」


「迂闊に力を振るえば穢れが地上に吹き出、アポイタカラの瘴気によって王都にアンデッドが生まれてしまうからのぅ。しかし、お主は生贄にはされておらんかったのか?」



「私は……ザンドにその……身体を狙われておりましたので他の神官達とは別の地下牢に囚われておりました」


 その時の事を思い出したのか、リリンさんは身体を抱きしめてぶるっと震わせていた。


「……辛い事を思い出させてしもうたようじゃな、配慮が足りんかった。すまぬ」


「い、いえ。まだ未遂で終わってますので大丈夫です……。話しを戻しますね。ウロボロスの巫女に関しては、アポイタカラに掛かっている封印や結界を破る為に〈神喰らい〉の力を欲しているようです。王子の方は……申し訳ございません。そこまでの情報は手に入りませんでしたが、王子を使って何かする……とまでしか。こうなるのでしたら、身体を使ってでも情報を手に入れるべきでした……」


「いや、ここまでの情報を教えてくれただけで十分だ。そんな奴に身体を許す必要なんてない。貴女にはもっとふさわしい奴がいるだろうし、エルフは長寿と聞きますが、身体の傷は癒えても、心の傷は一生残ります。もっと自分の身体を大事にしてください」


「有難うございます……。マサキ様はお優しいのですね」


 美人に優しくしない理由なんて性格が悪い奴以外ないからな。

 いや、美人じゃなくても基本的に女性には優しくするけどさ。


「しかし、お主は囚われの中、どうやって逃げ出したのじゃ? 当然警備の者はおったのじゃろ」


「それは、先日、王子と一緒に囚われてきた異世界人の方の魔道具によって逃げ出すことが出来ました。『エスケープの巻物』というものですが……」


 『エスケープの巻物』!?

 それってうちのゲームじゃないか!

 【ブリタリアオンライン】では金銭の他にギルドポイントと引き換えに一人一つしか持てない特殊なアイテムをNPCから手に入れる事が出来る。エスケープの巻物もその一つだ。

 

「確かにそれを使えば逃げ出せますね……しかし、効果は施設の外に出れる程度だったはず」


「あ、はい。その通りです」


「マサキ、良く知ってたわね。もしかして心当たりが?」


「ああ。俺も持ってる奴だ。あれは使用者一名を施設、ダンジョンの外に脱出させるアイテムだ。もしかして、矢はその時に?」


「はい……一か八かでしたので。スラム街に逃げ込んだ所、運悪く王鳥ガルーダ族の手の者に見つかり……旧水路に逃げ込む際、矢を撃たれました。必死に逃げようとしましたが、王都を出た森の中で力尽きてしまって……」


 なるほど。あの場所は水路が近かったのか。

 旧水路っていうからには知ってる人も少なかっただろうしな。


「本来ならば王子に使ってもらうべきでしたが、王子は何処か別の部屋に連れて行かれ、彼女は私と同じ牢へと繋がれました。その時に彼女から密かに隠し持っていた魔道具を渡されたのです。下着の中に隠し持っておられたようで……まさか下着に縫い付けるなんて」


 その時の様子を思い出してほんのり頬を赤らめるリリンさん。

 だが、俺はそんなことする人に心当たりがあった。


「マサやん、よぅ覚えときぃ。海外に行くときはブラとかパンツの中に、いざというときの為にお金や大事な物を入れておくとええんやで! ほれ、こういう風に」


「見せんでいい!」


 そう豪語する人を。そういえば、アタミで出会ったフライドラゴンアックスを持っていた獣人の女性が言ってたな。黒髪ツインテールのアレ。


「すみません、もしかしてその人って……黒髪でツインテール。髪に羽飾りを付けて金色の毛皮羽織ってませんでしたか? 後なんか特徴的な口調では?」


「えっ!? ええ、その通りですが……、マサキ様はツカサ様をお知り合いで」


「ええ……まぁ」


 もしかしてと思ったがツカサと聞いて確信した。やっぱり彼女も来てたのか。

 ツカサ。本名は|北条司(ほう じょう つかさ)。彼女は俺が【ブリタリアオンライン】でプレイヤー時代だった頃のギルドメンバーの一人だ。

 斧をこよなく愛するプレイヤーで、全種類の斧を集めたほどだ。

 最強クラスの両手斧『魔斧メテオハザード』を手に入れる際には俺も手伝いに駆り出された事がある。

 海外長期出張で長らく音信不通となっていたが、まさかこの世界に飛ばされてたなんてなぁ。

 しかし、ポンポン重大な事が出てくるな。フェンが会わなきゃいけない気がしたって事も気になるがどういう事だろうか。


「フェン、何で会わなきゃいけないって思ったんだ?」


「んと……、信じられないかも……しれませんけど、心に誰かが囁きかけて……た気がします。話を聞き、汝の力を貸せと。……悪意とかは……感じませんでしたので……」


 フェンがたどたどしく言葉を紡ぐと、話を聞いていたリリアさんが顎に手を当てながら、考えていた。心当たりがあるっぽいな。


「恐らく、それは神託でしょう。心に響く……という表現は<念話>には当てはまりませんし、私も以前、村の守り神様に神託を受けた時は同じような感覚を受けた覚えがあります。この地ならばヨルムンガルド様か……または」


「フェンが信仰していたウロボロス……か。アポイタカラの線は?」


「それは無いじゃろ。あ奴は怨念の塊じゃ。神託を受けると同時に精神を犯しかねん」


「なら安心か。力を貸す……か」


 ヨルムンガルドにせよ、ウロボロスにせよフェンの力を貸すというのはどういう事なんだ。


 話をしているとコンコンとノックの音が響く。

 

 

「正樹君、ちょっといいか?」


 聡さんか。人払いを頼んでいたはずなのに、それでも来るってことは何か急用か?


「はい。何ですか?」


王鳥ガルーダ族と闘獅子バトルレオ族の騎士が玄関先に集まっている。どうやらここを嗅ぎつけたようだ。恐らくは彼女の匂いを辿ってきたのだろう」


 しまったな。街中で《ステルス》解除したからクリスタに血の匂いが残っていたか。

 それに、クリスタがここにいる事は街の衛兵なら知っているはずだ。思いっきり目立つしな。


「そうですか……すみません。ご迷惑をおかけしてしまって。直ぐにでも出ます」


「ああ、そうした方がいい。彼女の事は私の方でなんとかしよう。趣味で作ったものだが、屋敷の一室に隠し部屋がある。そこならば見破られることもないだろう。まさか、秘密基地気分で作った物が役に立つとはな」


 あぁ、地下の秘密基地とかは憧れるもんな。マップで確認してみると……ベタだが、掛け軸の裏に地下へ通じる階段を見つけた。

 悪代官の屋敷かよ! 助かるけど!


「すみません、お願いします。俺も手はある事にはあるんですが、魔法が使えない状況に陥るとまずいので」


 魔力嵐ガストや帝国の時のように、魔法が使えなくなればリリンさんを『ルーム』の中に閉じ込めてしまうからな。何があるかわからない以上、『ルーム』の中に避難は止めておいた方が無難だろう。


「君らはどうする? 脱出するのなら手を貸すが」


「このまま逃げるのはしょうに合わないので、逆に打って出ようと思います」


 話を聞く限り、フェンも狙われてるようだし、司が捕まっているのなら動かない理由が無い。《ステルス》で忍び込むのも容易だろう。

 動くなら早い方がいい。アイツらが言う通り、獣王祭まで待つ必要はない。先手で動く。


「ふむ、なら私達が陽動として動き、彼らの足止めをしよう」


「え? 助かりますが、いいんですか? 下手すると国に追われますよ?」


「何、気にすることはない。ここで弟子の友人を見捨てるような真似をすることは私には出来ないからな。それに、ここに居られなくなったとしても新しい土地を求めて旅立つのも一興だ」


「そうですか……有難うございます。もし、居られなくなったら俺の領地を紹介しますよ。温泉もあっていいところですよ」


「それは楽しみだな」


 にこやかにほほ笑む聡さんだが、温泉と聞いた時は眉がピクリと動くのが見えた。やっぱり温泉に反応したか。サウンシェードには温泉はあったが、ワイルガードにはないから気になるのだろう。

 

 ひとまず、アデルに皆を集めてもらうように頼み、その間にリリンさんに司とシーザーの居場所を知る為に《ログ解析》を使わせてもらった。

 リリンさんには過去を知る事が出来る固有スキルという事で誤魔化したが、うん。やっぱりこの権限能力あかん。下着の色だけじゃなくて色々と見たらダメな部分まで見える。ここは飛ばそう……。今必要なのは牢屋までの道筋だ。第一目標はシーザーと司の救出だ。

 シーザーさえ解放すれば闘獅子バトルレオ族とは戦う必要がなくなるからな。

 しかし、ここで問題が発生。


「土の大神殿にはヨルムンガルド様の加護により、強固な結界が張られておりますので、正規の方法以外で通るのは困難かと……」


「結界か……」


 参ったな。鍵穴があるなら盗賊王の針金で何とかなるんだが、結界破りなんてしたことが無いぞ。力任せにぶっぱして開くかな。地下にあるってことだからマップを見ながら土魔法で掘り進むのも手だが。どうしよう。


「あの……マサキお兄さん……」


「なんだ?」


「その結界……私がやります。私の……力ならきっと……出来ると思います」


「そうですね……結界もヨルムンガルド様の力の一端です。彼女の〈神喰らい〉の力があれば恐らくは、結界を破る事が出来ると思います。」


「いや、それだとフェンが……」

 

 俺としてはフェンもリリンさんと一緒に避難してほしい。話しを聞く限りフェンも狙われている。万が一大事な妹があいつらの手に落ちたら俺は怒り狂うかもしれん。


「……私も……マサキお兄さんの……皆さんのお役に……立ちたいんです。どうか……お願いします」


 そういうとフェンは俺の目をじっと見つめてお願いしてきた。フェンの小さな手は震えているが、その目は怯えを感じさせつつも、しっかりとやりたいという意思を感じた。


「いいんじゃないかしら? 結界もどうにかしないといけないんだし。それに私達が守れば大丈夫でしょ」

「うむ、左様じゃ。フェンは妾が必ず守ってやるぞ! 下賤な者達の指一本でも触れさせぬわ」


 ヨーコとレヴィアもフェンの味方か。……そうだな。俺達が守ってやれば問題ない。大事な妹の為だ。その為なら幾らでも力を振るおう。それに、神託の力を貸すって事も気になるしな。


「はぁ、結界を何とかしないといけないのも本当だし。仕方ないか。だが、危ないって思ったら直ぐにヨーコの後ろに隠れてもらうからな?」


 神殿の中に魔力嵐ガストが無いとも限らないし、魔法が使えないエリアがあるかもしれない。『ルーム』に頼りすぎるのも危険だからな。


「はい……マサキお兄さん、ヨーコお姉さん、レヴィアお姉さん……ありがとうございます」


 フェンは嬉しそうな笑みを浮かべながら深く頭を下げた。

 全く、俺も妹には甘いな。フェンが可愛らしいから仕方ないけどさ! 

 犬耳だぞ、尻尾がもふもふだぞ。小さいんだぞ。甘くもなるわ。

 

 フェンを撫でていると、アデルがガードル達とジークを連れて戻ってきた。


「マサキ、騎士達が来るって本当か?」


「ああ。俺達はその隙に大神殿に忍び込んで俺の知り合いを助けにいく。ガードル達はどうする? 脱出するなら手伝うぞ」


「いいや、俺達も手伝わせてくれ。ここまで乗りかかったんだ。このまま逃げちまったら夢見が悪いし、一生後悔しそうだ」


「そうか。なら……悪いがここで聡さんと一緒に足止めをしてもらっていいか? 人数が多ければ多い程、こっちに戦力を集中させると思うんだ」


「ああ、いいぜ」

「正樹君、帰ってきたらパインサラダでも用意して待っている。なぁに、片手間で終わる仕事だ。それに、足止めと言わず倒してしまっても構わないのだろう?」


 どう見ても死亡フラグですありがとうございます。でも事前に建てたフラグって折れやすいんだよな。


「聡さん、わかっててやってますね?」


「当然だろう。同じネタが通じる様で嬉しい限りだ」


 そういうと俺と聡さんはニヤリと微笑み、拳を突きあわせた。

 その様子を見てアデル達は分からないように首を傾げていたが、秋葉も理解できたようで苦笑していた。こればかりは日本人にしか判らない感性だよな。

 

「まぁ、殺すとガードル達も聡さん達も立場的に危ういと思うので、難しいとは思いますが殺しは無しの方向で。グンアにはこれを渡しておく」


「これは?」


「衛兵用に作っていたスタンバトンだ。扱い方は槍と同じで大丈夫。雷の属性を持ち、追加効果で相手を痺れさせる効果を持っている。鎮圧させるなら都合がいいだろ」


「そうですね。助かります。……僕が持っていた槍より強い気がする」


 うん、実はそのスタンバトンは試作品なんだ。研究過程でスタンバトンに仕込んである宝石と竜馬から貰った雷の宝玉を入れ替えたらどうなるかとやってみたらスタンの発動確率が上がり、雷の属性が付いた。魔法剣ならぬ、魔法棍だな。

 同じ要領でやれば棒の先から炎や氷、風が起こせるかもしれない。毒の宝玉もあるけどそれはダメだろう。斬の宝玉とかどんな結果になるか想像が出来ん。


 聡さんの屋敷に残って足止めをするメンバーはガードル、シブラ、グンア、エリスと、聡さんとその仲間達だ。

 土の大神殿に忍び込むのは俺、アデル、ヨーコ、秋葉、ネメアー、ジーク、レヴィア、アリス、そしてフェンだ。

 アリスにはフェンに付いてもらう様に頼んだ。これなら不測の事態があってもアリスが何とかしてくれるだろう。


「マサキ、クリスタはどうする? あの巨体だと建物の中に連れて行くのは難しいぞ」


「そうなんだよなぁ」


〈サモン・ドラグーン〉で宝玉になってもらってもいいんだが、クリスタ程の巨体が居ないと判ると探しに出回るかもしれない。クリスタには悪いが、ここで足止めしてもらうか?

 用事があれば〈サモン・ドラグーン〉で呼べばいいしな。

 窓に近寄ってクリスタを手招きすると、とことこと足早に近づいてきた。言葉がしゃべればなになにー? って感じで言いそうな雰囲気だ。


「クリスタ、ここに敵が来るから殺さない程度に遊んでやってくれるか?」


「がうっ!」


 クリスタは下手な狂獣より強いからな。旅する最中、ガードルのパーティーと遊びと称して模擬戦やらせたら、数分後にはガードル達が力尽きて地面に突っ伏していた。

 まだ空を飛べない幼竜と侮っていたらしいが、幼くても竜、しかも俺の魔力を分け与えた希少種だ。ただの幼竜とは桁が違ったらしい。ガードル曰く、竜族の下位に属するとはいえ成体のグリーンドラゴンより強かったらしい。俺としてはドラゴンを狩ったガードルに驚いたよ。

 実力ともに、派手さがあるクリスタなら足止めにぴったりだ。

 騎士達には悪いが、クリスタの遊び相手になってもらおう。なぁに、パンツ一つになるまで遊んでもらうだけだ。死にはしない。不慮な事故は知らん。


「ご主人様、王鳥ガルーダ族の騎士様がいらっしゃいました。……ここに匿っている者を出せと……今にも押し入りそうな様子です。どうしますか?」


「私が出よう。正樹君達はその間に裏口から出ると良い」


「判りました。じゃあ、皆。『ルーム』の中に入ってくれ。土の大神殿の近くに着いたらもう一度使う」

 

 壁に向かい『ルーム』の魔法を発動させると、大きな扉が壁に張り付くように現れた。

 

「何もなかった壁に扉が!? 一体どういう魔法なんですか!?」


 あ〜……リリンさんは見るのは初めてだったな。説明を求められたが、無視。エルフ的にこういう魔法は気になるらしい。

 説明しようにも難しいので、異世界人特有の固有魔法という事で納得してもらった。

 後に続くように全員が入ったのを見届け、扉を閉めると元の何もなかった壁に戻った。

 

 残されたのは俺と聡さんと聡さんの元冒険者時代の仲間兼メイドと弟子、そしてガードル達とリリンさんだ。

 これからここは戦場になるのでリリンさんは屋敷の地下に避難してもらい、代わりにメイドさんの一人を彼女に変装してもらう。

 着せていたローブはメイドさんの一人に着せ、更に幻術を使ってリリンさんに偽装すれば完璧だ。

 そのメイドさんはダークエルフ族で幻術を得意とする凄い種族だ。何が凄いって匂いまで再現する事だ。匂いの元さえあれば再現可能だそうだ。


「では、いってきます。ガードル、聡さん達もお気をつけて。もしかしたら、黒い鱗持ちがいるかもしれません」


「わかった」


 ジェイムズの話だと王鳥ガルーダ闘獅子バトルレオの中にはそういう奴らもいるようだしな。ただの騎士よりは強いだろう。


 聡さん達が部屋から出ると、俺は《ステルス》を発動して姿を消す。

 そのまま窓を開き、『ウィング』を発動させて空を飛んだ。

 空から屋敷を眺めると、三十を超える騎士たちが屋敷を取り囲んでいた。中には剣を抜いている奴までいる。攻める気満々じゃないか。

 あ、クリスタがノッシノッシと庭園から出てきた。おーおー、驚いてる驚いてる。

 

 さて、空を飛びながらだがスキルのセットをしよう。飛び込むのは敵の巣穴だ。準備は念入りに。

 

パッシブスキル:

〈武神の心得〉〈気配感知能力上昇(大)〉〈MP自動回復(大)〉〈HPMP自動回復(大)〉


アクティブスキル:

〈無音撃〉〈疾風の如く〉〈イグニス〉〈波動剣〉〈スタンボルト〉〈空き〉


 まぁ、こんなものか。敵を静かに倒すなら〈無音撃〉は外せない。

 〈スタンボルト〉は神殿の中にいる敵から情報を引っ張り出す為に久々に出した。〈イグニス〉と組み合わせると広範囲で敵を鎮圧出来るかもしれない。

 こればかりは実戦で試さないと判らないからな。

 

 陽動として〈時限式ボマー〉も考えたが、あれって爆発の威力高いから外に被害が出そうなので却下。下手すると地下が崩落するかもしれん。

 

 スキルをセットし終えた所で目的地の土の大神殿が見えた。

 土の大神殿は3階建てで、地下は深く迷路のように伸びている。

 マップに映っている闘獅子バトルレオ族の二人も神殿の地下に居るのが確認できた。

 

 人気が無い場所に裏口に着地し、扉に鍵穴に盗賊王の針金を差してみるが。

 

 バチっ! と音を立てて盗賊王の針金が吹き飛び、《ステルス》が強制解除された。

 宙を舞う針金を地面に落ちる前にキャッチ! あぶねェ……。針金は……少し焦げ目がついたが無事なようだ。良かった……。

 

 なるほど、これが結界か。これなら忍び込むのは困難だ。正規のルート以外では侵入できないな。魔法を打ち込めば穴くらいは開きそうだが、絶対にばれるよな。

 それでも忍び込むけどな。人がいないのを確認して『ルーム』を使い、扉を開く。

 中からアデル達が出てきて、最後にフェンだ。肩にはアリスが乗っている。リリンさんは奥のベッドに寝かしてきたようだ。流石に連れて行くわけにはいかないからな。

 

「フェン、結界が張られてるようだが、頼めるか?」


「……はい。力を使うのは……久々ですけど……やってみます……」


 フェンは扉に向かい、手を翳すとフェンの身体から淡い光が出てきた。

 光は扉に纏わりつくと、扉に薄い膜のようなものが浮かび上がった。

 これが結界なのだろう。

 フェンが手の平をぎゅっと握ると、扉に掛けられていた結界だけが消失した。これが〈神喰らい〉の力か……。凄い物だな。

 

「見事なモノじゃな。フェン、よぅやったぞ」

「フェンすごーい!」


「……んと……皆から……怖がられてた……力ですけど……。お役にたてて……良かった……です」


 フェンは俯きながらだが、嬉しそうに照れていた。

 力なんて使い方次第で、良くも悪くもなる。これがフェンの自信に繋がればいいな。

 マップで確認するが、特に変わった動きはなく、結界が破られた事に気付いた奴はいないようだ。

 

 結界の破られた扉を盗賊王の針金で鍵を開け、神殿内部へと侵入する。

 懐かしのギルドメンバー司。そして闘獅子バトルレオ族の領主であるシーザー、この国の王子。囚われの神官達、そしてヨルムンガルド。彼ら全てを助けに。


感想や評価ポイントを下さるとモチベーションの維持にとても繋がるのでありがたいです。


秋葉のイラストを公開した所、皆さんのコメントが正樹爆発しろ一色でした。私もそう思います。更にアデルやヨーコも付くんだぜ……膝割れて爆発しろ。



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