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ワイルガードへ向けて、大爆走

最近はアイギスにハマって久々にやると楽しいですね。

しかし、TRPGがやりたい……(コンペンションが仕事で潰れた人)

 今、俺の目の前には立派な装甲車が止まっている。

 貰う装甲車は一番サイズが大きい奴だ。寝転がる事も出来る広さに余裕があるサイズを選ばせてもらった。

 そこから俺が手を加えた。久々に遠慮なしでやるのは楽しい。いつもは周りに気をつかってたしなぁ。


「まさか、装甲をミスリルにする奴がいるなんて思わなかった……」


 作業を手伝ってくれた職人が呆れたように声を漏らす。

 うん、やってしまった。普通の鉄より軽く、更に頑丈という事で俺は手持ちのミスリルを大盤振る舞いして装甲を全てミスリルに変えてみた。といっても、薄くても強度は鋼鉄以上なのでそこまで多くのミスリルは使っていない。

 結果的に全面的に軽く、丈夫になった。ただし、重量も必要なので内装部分ではあまり手を加えていない。

 

 細かい部分としはサスペンションのバネやホイール、ベアリングには〈コーティング〉を使い、オリハルコンで表面をコーティングしていく。要所ならオリハルコンの消費も少なくて済む。それにオリハルコンなら滅多な事では摩耗しないのがいい。

 その分、オリハルコンは貴重なんだけどな。まだインゴットで余分はあるからいいけどな。

 

 他に加えた改良点と言えば、天井の一部を開けれるようにした事と、装甲車の後ろをハッチバックにした事だ。これなら荷物の出し入れも楽になるし、天板のハッチを開けて、狙撃も出来る。移動しながら秋葉に狙撃をしてもらえば、狂獣やモンスターに道を防がれても戦闘することなく効率的に進めそうだからな。


「正樹さん、随分と改良しましたね。それにしても……三日かかるって言われた作業が2時間って……速すぎませんか?」


「そうか? 錬金術スキルの〈分解〉で装甲を剥がして鍛冶スキル〈成形〉と〈溶接〉で形を変えて取り付けるだけだったからなぁ。細かい部分はメッキみたいにコーティングするだけで済んだし」


「正樹さんが自重なくすとこうなるんですね……。簡単に言ってますけど、これって職人泣かせですよ。今は旅先だからいいものを、領地に戻ったら自重してくださいね」


「お、おう」


 流石にアタミでは自重するぞ。下手な事やったら職人の仕事奪う事になるってジミーやルードリッヒから口うるさく言われてるし。

 

 秋葉から感じる威圧感に、これから尻に敷かれそうな気配がひしひし感じるのは気のせいと思いたい。

 

 装甲車の魔改造が終わると、クリスタを放っている牧場の方に向かう。

 ここには多くのジェノスライノスが放たれていて、休養や育成、調教などが行われている。

 クリスタは生まれたてとはいえドラゴンだ。こういった設備じゃないと馬車を引く訓練なんて出来ないからだ。

 レヴィアの話によると、ドラゴンは知性が高いので訓練とかは短時間で済むらしい。

 

 さて、目立つ身体だから直ぐに見つかるとは思うが……お、いたいた。

 

 手を振ると、クリスタがレヴィアと頭にアリスを乗せたまま一直線にこっちに向かってくる。

 クリスタの勢いに通り道にいたジェノスライオス達が道を開ける様に逃げている。

 

 レヴィアがクリスタに乗っているのは、クリスタを訓練するためだ。ジェノスライオスを調教している魔物使いの人でも良いのだが、同じ竜種同士のレヴィアの方が教える速度が早いらしい。それに魔法も教えると言ってたが……大丈夫だろうか。

 アリスはただの付添いだ。ゾンビ騒動の時にアリスが怯えていたから心配してたが、どうやら大丈夫そうだ。

 

 クリスタが砂煙を起こしながらやってくると、ズザァーと俺の手前で綺麗に止まった。クリスタが巻き起こした強風がぶわっと俺と秋葉を包み込む。

 どんだけ速度出してたんだよ。これでぶつかられたら間違いなく吹き飛ぶぞ。

 

「マサキはどうしたのじゃ? あの馬車の強化をすると言うておったがまさかもう終わったのかぇ?」


「ああ。終わった」


「……早過ぎるわ! あのような仕事は一日以上はかかるモノじゃろ」


「早く終わる事に越したことはないだろ。それで、クリスタの訓練の方はどうなんだ?」


「ううむ、そうじゃが……。クリスタの訓練は問題ない。元からこやつは頭が良いからのぅ。妾達の言葉も理解しておるし、ちょいちょいっと力加減さえ教えれば重い馬車も難なく牽けるようになったぞ」


「クリスタったら凄いんだよー! 暴れてたジェノスライオスも止めちゃったの!」


「ほう、それは凄いな。クリスタ、良くやった」


「がうっ♪」


 よしよしと頭を撫でてやると、クリスタは嬉しそうに眼を細めて尻尾を振っていた。

 レヴィアがじーっと物欲しそうに見てたので、レヴィアの頭も撫でてやる。

 

「うにゃにゃっ。何をするのじゃ」


「いや、撫でてほしいのかと」


「だ……誰もそんなことはいうておらん……」


 口ではそう言ってるが、撫でられるのは好きらしく目を閉じて心地よさそうにしていた。


「マサキー! 私も私も!」


「あーはいはい」


 アリスは小さいので指先で。後ろで秋葉がじーっと見つめてたので、なし崩しに秋葉も撫でて、全員撫でる事に。

 

 

 

 クリスタの訓練も終わったので早速、出来上がった装甲車の下へ。

 革紐の調整をしてクリスタの胴と首に革紐を通して、長さの調整をする。

 

 クリスタの鱗は凄まじく硬いので革紐で擦れるという心配はしなくて済みそうだ。

 軽く走らせてみたが、難なく装甲車を牽く事が出来た。装甲車は6輪なので悪路でも大丈夫だろう。

 

 装甲車の調整も終わったので、その事をリデアさんとガードル達に伝えたらやっぱり驚かれた。

 出発の準備は昨日と今日で終わっていたので、ワイルガードやアデル達の事が気になるので早速出発することに。

 その前に冒険者ギルドに立ち寄ってアデル達に向けて手紙を出しておく。今から出発し、近いうちに付くという手紙だ。手紙を読めばすれ違う可能性も抑える事が出来るだろう。


「手紙はギルドが責任もって届けるにゃ。それにしても、マサにゃーはもう行くのかにゃ?もっとのんびりしていけばいいのににゃー」

「ブタタ、年から年中昼寝している貴方とは違って、マサキ様にも都合というのがあるのですよ。その弛んだ腹をもう少し何とかしてください。見苦しい。ああ、やっぱりサウンシェード周辺100週くらい毎日させるべきでしょうか」

「テティスはにゃーを殺す気かにゃ!?」


「はは……まぁ、ブタタも元気でな。用事が終われば、今度こそこの街でのんびりさせてもらうよ」


「その時はお勧めの昼寝スポットを紹介するにゃよー」


 昼寝スポットか。ブタタらしいが、そう言う所でノンビリ寝るのもよさそうだな。


クリスタの下に戻ってくると、ジークが待ってきた。

 クリスタの首を撫でながらスキンシップを図ってるようだ。

 俺達に気付くとそっと手を放す。クリスタが少し名残惜しそうに「くるる」と鳴いていた。


「ジークはどうしたんだ? 見送りか?」


「いや、リデアさんに頼み込んで行けるようになった。御者も出来るからな。それにメンテナンスも出来る。頼む、よかったら連れて行ってくれ」


「ジークなら歓迎だ。メンテが出来るのは正直助かる。鉄板の張替えや加工とかはスキルで何とか出来るんだが、故障した時が怖いからなぁ。しかし、何でまた」


「アイツは獣王祭で何かしでかそうとしてるんだろ? 俺も毎年楽しみにしてる祭りなんだ。あんな奴らに無茶苦茶にされてたまるか。俺もあのパラケルススとかいう胸糞悪いカラス野郎をぶちのめしたい所だったしな」


「ダンとジェイムズは?」


「あいつらにはサウンシェードとリデアさんの護りを任せた。特にジェイムズは疲労している上に、仲間も怪我しているしな。後でリデアさんと一緒に来る予定だが、俺一人じゃ不安か?」


「いや、そんなことはない。ジークが来てくれるのなら嬉しい限りだ」


「ああ。豪華客船に乗ったつもりでいてくれ」


「その豪華客船の名前は?」


「ヒンデンブルグ・タイタニックジョーズ号」


「沈みそうな名前だなおい」


「冗談だ」


 真面目なジークが言うと冗談に聞こえんわ! しかも何故最後にサメが入るんだ。



 出発前にはリデアさんが見送りに来てくれた。急な事なのでオーガスは鍛冶が忙しく来れなかったようだ。まぁ、どうせ後で来るからいいか。


「正樹ちゃん、はい。これは餞別よ♪」


 リデアさんが胸の谷間から一枚の封筒を取り出した。何故そんな場所に入れてるし。

 受け取ると人肌で温かい……じゃなくて、兎の形を模した封蝋が押されてある。

 

「これは?」


「私からの紹介状。獣王祭を滅茶苦茶にしようとする奴らがいるって話じゃない。その紹介状を熊猫パンダ族のトントンに渡せばきっと協力を得られるはずよぉ〜。あと、門番に見せれば審査なしで入国出来るわ」


「なるほど。助かります」


「お礼なんていい……いや、お礼するならちょっと今から一時間ほどしっぽりと」


「正樹さん! 早く行きましょう!」


「あ、ああ。秋葉、そんなに引っ張らなくても」


 半ば強引にずるずると引きずられる形で装甲車の中に押し込められた。窓から眺めるとリデアさんがセバスチャンに怒られてる様子が見えた。ぶれねぇなあの人。

 

 装甲車の中は全員が乗っても余裕があるくらい広く、中身は俺好みに改装してある。

 床は全て畳を敷いた。それに合わせて座布団もある。棚には緑茶も置いてある。

 炬燵が無いのが残念な所だ。アタミに帰ったら絶対に作ろう。


「全員、靴を脱いで入ってくれよ。靴はそこの棚にな」


「おお、なんだ? この草っぽいカーペットは」

「さわり心地良いわね」

「香りも……うん、車内なのに落ち着きますね」

「のんびりーごろごろしたくなるねー」


「正樹さんって畳好きですよね。あ、お茶もある」

「本当にのぅ。まぁ、気持ちは分かるがの」

「私もこれ好きー!」


 全員が乗り込んだので、ジークの御者の下、俺達はワイルガードへと出発した。

 10人が乗り込んでも、クリスタはきつそうな顔をせずに悠々と装甲車を牽いていく。

 速度はジェノスライノスよりも速く、あっという間にサウンシェードの門が小さくなっていく。

 

 速度は出しているが、改造したお蔭か揺れはかなり抑えられている。装甲車に元から付いていたサスペンションや畳と座布団のお蔭で尻が痛いという事も無さそうだ。

 

 一度、アタミで普通の馬車に乗ったことあるが、尻が痛くて痔になるかと思った。

 

「凄まじい速さだな。クリスタ、まだ速度は出せるか?」


「がうがうっ!」


「よーし!」


 ジークが手綱を操ると、クリスタは前傾姿勢になって更に速度を上げた。おい、これって80キロ超えてるんじゃないか……? 装甲車改良しておいて良かったよ。普通ならこれバラバラになりそうだ。


 後で知った事だが、ジークは爆走癖があるらしい。若いころ色々やんちゃをしていた頃の名残だそうだ。大型バイクが恋しいと呟いてたのが印象的だ。似合いすぎるな。

 

 

 

 




 荒れ地やモンスターもなんのその。クリスタの爆走で旅は順調に進んでいた。

 途中でモンスターとも遭遇するが、爆走するクリスタに怯えて逃げていく。たまに挑む無謀な奴がいたが、クリスタのブレス一発で吹き飛ばされた。

 

 クリスタのブレスは親竜のゴールドドラゴンとは違い、光輝くブレスだった。

 貴重な無属性のブレスで、全ての属性に対して有効なブレスのようだ。

 

 クリスタの魔法も見せてもらった。普通の魔法は使えないが、竜魔法というものはこの環境下でも使えるらしい。見せてもらったのは『ジュエル・ジャベリン』という魔法だ。

 鋭い水晶の塊を敵の真上に発生させ、串刺しにする魔法だ。アイアンアリゲーターに使ってもらったら、見るも無残なミンチになった。流石に美味しく頂けなかったのでクリスタの餌に。

 

 旅の道中ではガードル達にフェンの事も紹介した。当然ながらウロボロス教団の元巫女という事は隠して、俺の義妹という事で紹介した。こいつ等なら信用できるしな。

 

 紹介してからは旅の食事も楽になった。フェンだけが『ルーム』の中を行き来できるので中で調理してもらった。俺と秋葉も調理はするが、この人数だと人手が多い方が助かる。

 

 クリスタの餌は俺が担当している。クリスタが適当に狩ってきたモンスターや狂獣、野生の動物を調理スキル〈味の神髄〉で調理して、野草と一緒にクリスタに食べさせている。

 好き嫌い無く食べてくれるお蔭で残飯も何も出ない。骨まで食うのが竜らしいと思う。

 

 〈味の神髄〉のお蔭か、早速第1回目の脱皮が始まった。

 夜中にごそごそと動いてたので、覗いてみると脱皮していた。寝てたレヴィアを起こして聞いてみると、相当成長が速いらしい。

 

 脱皮したクリスタは水晶の鱗のツヤが更に良くなり、身体がちょっと大きくなった。お蔭で革紐の長さを調整する手間が出来たがな。それでもすくすく成長してくれるのは嬉しい限りだ。

 

 脱皮した皮は良い革素材になるという事なので俺が保管。

 

 

 その後もハプニングらしいハプニングは無く、あっても装甲車に目を付けた盗賊が出てくるくらいだった。

 



「おい! てめぇら止りやがれ!」


 武器を構えて立ち塞がる盗賊達。

 クリスタがジークに目を向けて「がう?(止まる?)」と目線で問いかける。


「止まる理由なんてないだろ。このまま突き進め」


「がうっ」


 ズドドドドドドと、爆走しながら盗賊達に向けて走る。うん。止まる理由なんてないよな。そもそも、モンスターでさえ通り道から逃げるのに態々立ち塞がるって自殺しに来たようなものだ。

 

「お、おい! 止まれって! 止まれ! うわぁぁ!!?」


 盗賊達は流石に自分の命は惜しいのか、間一髪のところで草むらに飛び込んで難を逃れていた。ちっ。

 

 盗賊達の姿を確認するが、単なる獣人と人の盗賊で鱗も無い。

 ただの盗賊のようだ。

 

 後ろで盗賊達が騒いでいるが、無視。

 

「正樹さん、あの人たち撃っておきますか?」

 

「んー。別にいいだろ。それより秋葉、お茶を淹れてくれないか」

 

「はい。どうぞ」

 

 秋葉は手慣れた様子で緑茶を入れて出してくれた。

 珈琲もいいんだが、緑茶も落ち着く。はぁ、平和だなぁ。

 俺の膝上ではレヴィアとアリスが頭を乗せて昼寝をしている。


 俺達から少し離れた所でガードル達が熟睡している。

 

 夜には腕が鈍らないようにと、止まって軽く訓練で汗を流している。レヴィアが直々に鍛錬をつけてやっているが、終わるころには全身疲労の上ボコボコだ。

 昼は寝て、夜は軽く地獄モードで鍛錬。というのがここ最近の日課だ。俺もフルボッコにされてるけどな!

 

 ジークは武器が特殊すぎるので訓練に参加が出来ない。基本が射撃武器だもんな。

 

 

 

 装甲車を走らせて1週間。

 

 マップで見るとようやく森以外に平原が見えた。だが、森の出口には巨大なモンスターが立ちはだかっていた、

 

 タイラントベアー。4つの大きな腕を持ち、狂獣でさえも餌にする凶悪な熊のモンスターだ。

 その爪は鉄をも切り裂き、分厚い毛皮は矢も剣も通さない。

 動きは機敏でジェノスライノスに匹敵する速さを持つと言われている。

 

 

 

 そんな凶悪なモンスターが今――消し飛んだ。

 

 

 

 

 天井のハッチを開けて秋葉とジークのライフルによる精密射撃を足に受け、崩れ落ちた所にクリスタのブレス、アリスの妖精魔法によって跡形も無く吹き飛んだ。自慢の速度も弾丸にはかなわなかったようだ。

 お蔭で俺の〈イグニス〉の出番がなかった。

 

「B級パーティーでも苦戦するタイラントベアーがあんなにあっさりと……」

「マサキ達と一緒にいると常識が壊れそう」


「そんなの今更だろ。そろそろ森を抜けるぞ」


「お、もうフェクラン平原に出るのか。なら、後は街道沿いに真っ直ぐ進めばワイルガードだ」



 本当なら、あのタイラントベアーが森の出口のボス的存在だったんだろう。出落ち乙。

 

 

 

 

 

 

 

 森を抜けると視界に広がる平原。

 遮るものが無い平原の遠くにぽつんと巨大な建物が見える。

 城だ。巨大な樹の上に城が立っている。どうやって立てたのか気になるが、こういうのは気にしたらダメだろう。

 あれがワイルガードか……。

 

 平原には畑や果樹園が作られている。果樹園には今の時期は赤い果実、マスカットマトというのが生っている。マスカットなのかトマトなのか。

 この辺りまで来ると農地を巡回している兵士とも遭遇するらしいので、速度を落とした。

 農夫たちの姿もちらほら見えるし、爆走すると無駄に怯えさせてしまうかもしれないからな。

 

 ゆっくりと街道を歩いていると、収穫が終わった農夫達が冒険者達と一緒に街道に戻ってくる。農地とはいえ、モンスターが襲ってくる危険性もあるからだ。人数が多いのは狂獣に備えてだろう。


「おーい」


 向こうから手を振りながらこっちにやってくる。敵意は……マップを見る限り敵対するマーカーは付いてないな。賊が潜んでるという事も無さそうだ。


 装甲車を止めて話を聞くと、収穫量が多すぎて農夫の爺さんが腰を痛めてしまったらしい。

 どうしようかと冒険者達と相談している所に俺達が運よく通りがかったようだ。


「それでよがったら乗せてほしいんだげどもええべか? お礼ならするべ」


「どうせワイルガードまで行くつもりだし、俺は構わないぞ。ガードル、後ろのドアを開けて爺さんを入れてやってくれ。荷物は屋根に置いておけば大丈夫だろ」


「判った」


 爺さんは畳の床に驚いていたが、柔らかい座布団と寝転がれる畳にご満悦のようだ。

 

「おおぅ……寝転がれる馬車というのもええべぇ。こんな別嬪さん達に囲まれるなんて、もういつでもしんでええ」


「助けたのに死ぬんじゃないっての」


 収穫したマスカットマトの籠の山は屋根にあげて、冒険者達の歩きのペースに合わせてクリスタを歩かせている。


「モンスターに牽かせる馬車というのは何度も見たことあるが……まさかドラゴンなんてなぁ」


「しかも鱗がとても綺麗……あ。これ食べる? 形が不ぞろいなんだけど味はいいの」


 農家の少女が手籠に入れていた、形が悪いマスカットマトをクリスタの口元に運ぶと、クンクンと匂いを嗅ぎ、パクッとマスカットマトのみを咥えて食べた。


「がううっ♪」


「美味しい?」


「がうがうっ」


「よかったぁ。あ、皆さんもどうぞ!」


「お、ありがとうな。ほう、中身がずっしりと詰まってるな」


 マスカットマトに徐にがぶりつくと、中からマスカット風味の汁が溢れ出てきた。形はトマトで味はマスカットという感じだ。うん、美味い。

 冷やして食ったら更に美味そうだ。

 

 

 

 農夫達の護衛もしながら、のんびりとフェクラン平原を歩き、ワイルガードの門に差しかかる頃には夕方になっていた。

 

 爺さんの方は腰を痛めたままだと辛いだろうから、腰に手を当てて『ヒール』を使ってやった。魔力嵐ガストの影響で効果は薄いが、腰痛の痛みが和らげればもうけものだ。

 と思っていたら、思った以上に効果が出てワイルガードに着くころには完治していた。

 


「まさか、癒し手様だったとは、ありがてぇありがてぇ。これで明日から仕事が出来るべ」


「あ、ああ。治ったら何よりだ。でも、無理はするなよ? しかし、何でいつも通りの魔法が出たんだ……? 魔力嵐ガストの所為で魔法の効果は薄いと思ってたんだが」


「あぁ。魔力嵐ガストんなら、大丈夫だ。ワシらはよぅわからんけど。ヨルムンガルド様が張った結界っちゅーのがあって、魔力嵐ガストを弾いてるって話だべ。ありがたいこどだぁ」


「本当にありがたい事だな……」


 住民用の門まで運ぶと、そこで荷物と冒険者達、農夫達を降ろした。お礼として1籠分のマスカットマトを貰った。後で『ルーム』の中に入れて水で冷やそう。

 

 正門に戻る前に門番にリデアさんの紹介状を見せてみると、少し待っていてくれと言われて、直ぐに奥から立派な鎧を付けた兵士がやってきた。恐らく上官だろう。


「お待たせして申し訳ございません。リデア様からの紹介状を拝見させていただきました。

正門は審査で混んでいますので、住民用の門ですがどうぞお通り下さい」


「すまないな。本当なら正門を通るべきだろうに」


「いえ、貴族の方々もお忍びでこちらから通る場合もございますので大丈夫です」


 門をくぐると、そこにはサウンシェードと同じように巨大な大樹が聳え立ち、その上には立派な王城が建っていた。

 ここがワイルガードか……長い道のりだった。いや、クリスタのお蔭で凄まじく短縮しているけど。


 魔力嵐ガストを弾いているという事なら、街に入れば『ウィスパー』が使えそうだ。

 やっとアデルとヨーコに会える。それとネメアーにも。


 早速ヨーコに『ウィスパー』を送ろうとしたその時。思いっきり横から吹き飛ばされた。

 

 うおっ! 何だ!? 敵襲か!? パヴァリアがもうっ……!?

 

 俺に突撃した者を見るとそこには……。

 

「マサキ……!」

「本物のマサキよ! くんくん……うん、いつものマサキの香り……」


 アデルとヨーコの二人が俺に抱きついてました。本物って偽物でも出たのか?

 ついさっき着いたばかりなのに、どうやって直ぐに気付いたのか色々問いただしたかったが、愛おしそうに抱きしめてくる二人を見るとそんな事言う気が失せた。

 久々に二人の頭を撫でる。ああ、やっと会えたんだな……。

 

「あの、正樹さん。皆さん見てますし、そういうのは宿で……」


 秋葉に言われてハッと気づく。そういえば、ここは最も人目に付く門の入り口だった。

 辺りを見渡すと門番の皆さんや露天商、通りすがりの主婦たちが好奇の目で見ていた。男からは嫉妬と殺気が混ざった視線が飛んでくる。

 ぼそぼそとリア充爆発しろとか、死ねばいいのにとか聞こえてくる。

 

 このままだと野郎連中から嫉妬で刺されそうだ。いや、ダメージなんて受けないけどな。

 

 アデル達ががっちり抱きついて離れる様子が無いので、俺は二人を持ち上げてそそくさと人気のない場所に逃げ込むのだった。

 

 あ、人気が無い場所と言っても卑猥なことするんじゃないからな!

 


感想や評価ポイントを下さるとモチベーションの維持にとても繋がるのでありがたいです。


やっとアデル達と合流しました。心臓に悪い修羅場というのはありません。あんなのは昼ドラの中だけで十分です。マジで。


先に言っておきますがクリスタは人化は考えてません。


次回の水曜更新ですが、誤字修正と書く物があるのでお休みします。

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最近はこちらの方も日曜更新で頑張ってます。 宜しければこちらの方も感想や評価諸々を下さると大変喜びます。 TSさせられた総帥の異世界征服!可愛いが正義! re:悪の組織の『異』世界征服記~可愛い総帥はお好きですか~
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