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盗賊のアジト

最近夏バテと仕事が忙しく、一週間に一度のペースに陥りそうです。

その分、文章が増えるかもしれません。珍しく一万文字超えました。


前回のネタに反応する人が多くて思ったより驚きました。採用しづらかったのが残念です。ちょっと感想返しが遅れてますが、全部目を通してます。

 リデアさんの屋敷で一晩過ごし、朝になった。

 懐かしい貴族用のベッドでぐっすり眠れた。宿の時は秋葉と張り切ってしまったからなぁ。

 あ、お約束みたいなことはないぞ。秋葉も別の部屋で寝ているからな。流石に他の貴族の屋敷で色々致す勇気はない。

 

 顔を洗っていると、ドアがノックされた。


「マサキ様、お早うございます。起きてらっしゃいますでしょうか?」


「ああ。起きてるぞ。お早う」


「朝食の準備が出来ましたのでお声を掛けに来ました。……まったくリデア様もマサキ様を見習って早起きしてほしいものです」


「はは……」


 相当苦労してるな。昨日も夜這いをかけに来たのを止めに来たし、あれは良くある事なんだろう。領主がこんなので大丈夫なのかサウンシェード。

 

 食事の間に通されると、そこには既にジークと秋葉、ガードル達にジェイムズがいた。

 他の奴等はまだ寝てるようだ。


「ジェイムズ。帰ってきてたのか」


「今朝にね。いや〜、単なる盗賊団かと思ったら、とんでもない物に引っかかったよ」


「とんでもない物?」


 メイドさんが飲み物と聞いたので、俺はコーヒー、ジェイムズはカフェラテを頼んだ。

 

「全身鱗に覆われた獣人達さ。それだけじゃない。一人異世界人がいたよ。【カオス・クロニクル】というMMOに聞き覚えはあるかな? 日本にもサーバーがあったはずだけどさ」


「ああ。悪魔を捕らえ、融合して最強の悪魔を作るというオンラインゲームだろ。俺は興味が無かったから手を出してないが……っておい、まさか」


「そう。そのプレイヤーがいたよ」




◇◆◇





 時刻は昼。

 正樹達がパラケルススと戦っている頃、ジェイムズは信頼のおける冒険者達と共に森を駆け抜けていた。

 目的は盗賊団のアジトを強襲だ。ジェイムズは手練れのAランク冒険者を引きつれ、目的のアジトの場所へと向かっている。

 Aランクだが、実質実力はSランク相当であり、ブタタに匹敵する冒険者達だ。

 

 先行するのはダークエルフの暗殺者シヴァイ。その後ろにジェイムズ、狼頭族の双剣士のクルーニ。殿を務めるのは猫人族の武道家タタン。因みに全員女性である。

 シヴァイが大きな樹の影に隠れると、そこに全員を集める。樹の影から覗くと、そこには洞穴を守るように見張りが立っていた。

 

「ジェイムズ。この先が廃坑だ。情報通り、盗賊団の根城になっているらしいな」


「はいはいっと。やっぱ森はエルフに案内してもらうに限るねぇ」


「森は我らの世界だからな。しかし入り口に三人か」


「いや、そうじゃないみたいだねぇ。入り口から入った直ぐの所に一人いるみたいだねぇ」


 ジェイムズだけが見えるマップには、入り口を見張る三人の盗賊の他に入って直ぐにある横穴に一人の反応があった。


「にゃにゃ。良く判るにゃねぇ」


「マップの力とやらでござろうか。素晴らしい力でござるな」


「位置は横穴っぽい所だねぇ。あれじゃ矢も届きゃしない。でも、あれなら入り口にいる奴らは見えそうにないかな。うん。やれそうだねぇ。シヴァイ、クルーニ、タタン。入り口のをお願いしてもいいかな。俺は奥のをやるよ」


「構わん」

「心得た」

「りょーかいにゃっ」


「その前にこれを使っておこうか」


 ジェイムズはアイテムボックスから薬瓶を四つ取り出す。

 

「これは?」


「消臭薬。一定時間自分の匂いを消す魔法薬だよ。これさえあれば、中の獣人達の鼻も誤魔化せるよ」


「そのような貴重な物を使ってよいのでござろうか?」


「いいのいいの。どうせ使わなきゃゴミ当然だし」


「それなら使うにゃっ。飲めばいいのかにゃ?」


「うん。ぐいっと飲んじゃいなよ。味は水だから美味しくはないかな」


「下手に味が付くよりはこっちの方が安心するな」



 三人ともジェイムズが取り出した魔法薬を躊躇せずに飲み干していく。

 ここまで信用されるのは、ここまでジェイムズが普段から築いた信用の賜物だ。

ジェイムズも取り出した薬を飲み干し、自らの匂いを消し、空になった薬瓶を眺める。


(元からゴミ当然だったけど、ここではこうも役に立つとは思わなかったねぇ)


 消臭薬は【ブリタニアオンライン】では匂いを消す薬として出されたが、全く使われないゴミ当然のアイテムだった。

 

 嗅覚感知は戦闘から離れたプレイヤーを追う為にあるものだ。

 基本的に、敗走するような状況になると、『スリープ』の魔法で眠らせ、その間に逃げて追って来れないエリア外に逃げる事が当たり前になっていた。

 更に『クリーン』という消臭魔法があるので、消臭薬は使う価値がない死蔵アイテムの筆頭となってしまっていた。

 

 だが、この世界では消臭薬はポーションに次ぐ魔法薬として専門の間では大活躍している。

 匂いというのは重要な要素であり、姿を消す方法があっても、匂いまでは消すのは難しく、匂いに敏感な獣人やモンスターには嗅ぎ取られてしまう。

 

 獣人やモンスターの鼻を完全に誤魔化すことは今まで存在しなかったが、ジェイムズがもたらした消臭薬のレシピにより密偵や斥候の間では無くてはならない魔法薬となった。

 勿論、取り扱いには気を付けなければならないので、リデアが認めた人にのみ魔法薬は販売されることになっている。

 


 消臭薬により、匂いを消したジェイムズ達は音を立てずに茂みから茂みへと忍び寄る。

 見張りの盗賊達は欠伸をしながら退屈そうに立っていた。

鳥人族、熊頭族、犬人族の三人だ。


 四人とも気配を消しながら忍び寄り、ジェイムズが木の枝を拾い、入り口付近の樹に向かって放り投げた。

 木の枝は真っ直ぐに飛び、樹に当たるとガサガサと物音を立てる。

 

「ん? なんだ?」

「動物か何かだろ。一応見に行ってくる」


 視線が木の枝に向くと、その隙にシヴァイが死角から忍び寄り、見張りの鳥人族の首を切り裂いた。

 

「なっ!?」


「散ッ!」


 驚く犬人族の隙を狙い、クルーニが双剣を素早く振り抜き、首と胴体を両断。あっという間に仲間を殺された事に唖然としていた熊頭族の盗賊だが、正気に戻り、洞窟の中へと駆け抜けていく。


「てっ敵「させないにゃっ」


 自慢の跳躍力によってタタンは一気に距離を詰め、手と足を首に絡ませてゴキリと首をへし折った。それと同時にキンっと洞窟の奥で音が鳴った。

 

「ウグゥ!?」


 どさりと頭に矢が突き刺さった猿人族の盗賊が横穴から倒れてきた。


「〈リフレクトショット〉。上手く決まったねぇ」

 

 〈リフレクトショット〉は壁に打ち込むと矢が跳弾するように跳ね返るスキルだ。

 ジェイムズは矢を〈リフレクトショット〉により、壁に跳弾させて横穴に潜んでいた盗賊を的確に打ち抜いていた。


横穴に潜んでいた盗賊は、万が一に備えて入り口が強襲された場合、鐘を鳴らして仲間に襲撃を伝える役目を持っていた。だが、その役目も即死してしまっては果たすことが出来なかった。


「見事。惚れ惚れする弓の腕だ」


「なんならお兄さんに惚れちゃっていいんだよ」


「戯言を」


 軽薄そうな言葉を受け流し、シヴァイは草むらへと死体を隠していく。

 手際よく死体を隠すと、ジェイムズの指示の下、不意打ちに気を付けながら奥に入っていく。


 元は金の採掘場なだけあって、洞穴はしっかりとした作りになっていた。

 暫く進み、時折盗賊を見つけては不意打ちで仕留め、目的だった休憩所のドアの前にまで辿りつく。

 正樹とは違い、ジェイムズのマップによって判るのは周辺の敵の位置までだ。

 それでも室内の盗賊達の配置は分かるが、ジェイムズは奇妙な事に気付いた。


「なんだこれは……?」


「ジェイムズ、どうかしたのか」


「なんか妙なんだよねぇ。中に盗賊がいる事はいるんだけど……全員が綺麗に整列されてるんだよ」


「整列でござるか? 盗賊がそのような事をするとは妙でござるな」


 室内の盗賊達の並びにジェイムズ達が首を傾げていると、タタンがジェイムズの袖を引っ張った。

 

「ジェイムズ、おかしいにゃ」


「ああ。だからさっきからいってるよねぇ。何で綺麗に整列してるのかって」


「違うにゃ。その事じゃないにゃ。中……誰の声も聞こえないにゃ。息遣いも、何も」


 タタンは体を震わせながらジェイムズを見上げる。

 その表情は怯えきっていた。タタンは熟練の冒険者だ。それもSランク相当の実力を持つ。しかし、タタンでさえ中の様子に未知の恐怖を感じていた。


「息遣いすらも、か……。シヴァイ」


「わかった!」


 ジェイムズの掛け声にシヴァイが応じ、扉を蹴破るとそこには異様な光景が広がっていた。

 

 室内は盗賊達全員が筒の中に入れられていた。筒はガラスの様に出来ていて、中にいる盗賊達の様子がしっかりと見える。

 筒の中で盗賊達は目を閉じ眠っているようにピクリとも動かない。だが、顔色は青白く、死体のように見える。


「なんだこれは……」

「ガラスの筒……でござるか? 中の盗賊は死んでるのでござろうか」

「にゃ。心の音は聞こえるにゃ。まだ生きてるけど……音が弱いにゃ」


「なんともSFチックなものだねぇ。奥に3人反応があるが……あ~ダメだ。逃げ道防がれてた」


「何っ!?_」


「扉に鍵がかかって開きゃしない。しかもご丁寧に魔法障壁つきときた。こいつぁ罠か」


「そういう事。報告にあった人が来るかなって思ったけど、うん、冒険者達の方が来ちゃったかー。ま、一人いいのが要るみたいだからいいか」


 声がする方を振り向くと、そこには奥の扉を開け、笑顔で手を振っていた。

 その両隣には闘獅子バトルレオ王鳥ガルーダ族の二人がいた。

 その風貌は盗賊には見えず、手練れの兵士のように見える。

 だが、異質なのは全身を覆っている黒い鱗と赤く光る目だ。


 彼らに護られるように一人の少年が無邪気な笑顔でジェイムズ達を見ていた。

 少年は白いローブを羽織り、手には杖。髪の色は栗色で肌は褐色。

 傍から見ればダークエルフに見えなくもないが、ダークエルフの特徴的な額の黒い宝玉と耳は尖っていなかった。

 ジェイムズに心当たりが一つだけあった。持つ杖も羽織っている白衣も盗賊団のボスが持つにしては上質すぎた。この設備を作るだけの技術を持つ存在――異世界人だ。

 

「やれやれ。お宅がここのボスってことでいいのかな?」


「うん。予想とは外れたけど強そうな人が来てくれた良かったよ。いやー、雑魚だったら退屈になるだろうなと思ったけど良かったよかった」


「それは我らが来るのを予測してたと」


「まぁ、そこは教える義理はないよ。どうしても教えてほしかったら、ここにいる奴らを倒したら教えてあげてもいいよ」


 少年の言葉に両隣の兵士が一歩前に出る。

 二人の武器は闘獅子バトルレオ族は両手に二つの盾を。王鳥ガルーダ族は小太刀を二つ手に持っていた。


「なんとも珍しい武器を持ってるござるな」

「盾二つで攻撃が出来るのかにゃ?」


「いーや、二人とも見た目に騙されちゃダメ。あれは相当面倒な物持ってるねぇ。雷と氷の魔方盾に炎と風の魔法刀。異世界人の希少武具アーティファクトって所か」


「ご名答―。良く判ったね〜」


「そりゃお兄さんも手は幾つか持ってるからねぇ」


 ジェイムズはマサキと同じく【ブリタニアオンライン】出身。

 生産職システムでジェイムズは木工と鍛冶を取得しており、その過程で〈鑑定〉スキルも取得していた。

 ジェイムズもまた、〈鑑定〉の便利さは知っているので頻繁に使用していた。


「へぇ。そりゃ楽しめそうだ。なら手加減はいらないね。皆。やっちゃえ」


「「ハッ!」」


 少年の指示により二人の兵士が素早い速度でジェイムズ達に間合いを詰める。その足捌きは盗賊とは比べ物にならず、熟練の達人のような無駄のない動きだ。

 

 距離を詰められたクルーニは双剣で斬りつけるが、難なく闘獅子バトルレオ族の右盾によって受け止められる。だが、それだけでは済まなかった。

 

「ぐがっ!?」


「オロカナ」


 盾から放たれた雷光によりクルーニは体に電撃を浴び、一瞬の隙を作ってしまった。

 闘獅子バトルレオ族の兵士はその隙を逃さず。

 

 「クダケロ!」

 

  盾を水平にし、横薙ぎに振り抜くとクルーニの体が宙に舞った。

 

 「にゃっ!」

 

  続いて攻撃しようとしていたタタンは跳躍し、飛ばされたクルーニの体を受け止めると、思わぬ冷たさに落としそうになる。

 

「うくぅ」

「これは凍ってるにゃっ!?」


 クルーニは殴りつけられた部分が凍結し、苦しそうに呻き声をあげていた。意識はあるようだが、寒さと打撲のダメージにより、体をふらつかせている。


「タタン、彼女を下がらせて、シヴァイの方に行ってちょうだい。こいつは俺がやっとくよ」


「にゃっ。判ったにゃ」


 タタンは苦しそうに呻くクルーニを連れて下がっていく。

 ジェイムズの横を通り過ぎる際、クルーニはか細い声でジェイムズにささやいた。


「申し訳ない……」


「いいのいいの。後はお兄さんに任せときな」


 ジェイムズは二人にだけ聞こえる声量で返事を返し、追撃を仕掛けようとした闘獅子バトルレオ族の兵士に向かって赤い矢を放つ。

 真っ直ぐに赤い線を描きながら飛んでくる矢を闘獅子バトルレオ族の兵士は弾き落とそうと盾を構えるが、ズガァン! と爆発音が響き、闘獅子バトルレオ族の体を吹き飛ばした。

 

「グガァ!?」


「女の子に傷跡が出来そうな攻撃をする奴はぁ、お兄さん許せなくてねぇ。ちょっと本気で行くよ。〈ダブルショット〉〈ナパームアロー〉」


 吹き飛び、体勢を整えようとしていた所に足元に向けて二つの赤い矢が飛んでいく。

 一つは盾に当たり、もう一つは盾に当たらず地面へと突き刺さるが、その瞬間に再び爆発を起こし、闘獅子バトルレオ族の兵士が吹き飛ぶ。

 

「グウウ!?」


 その後も執拗に着地を狙われては、〈ナパームアロー〉で執拗に着地点を狙い闘獅子バトルレオ族を吹き飛ばしてくジェイムズ。

 

「うわぁ。えげつない」


 少年の言葉にジェイムズ以外の全員が同意するように心の中で頷いた。王鳥ガルーダ族の兵士はジェイムズの下へと駆けようとしたが、手数が多いシヴァイとタタンのラッシュによって足止めをされている。

 

 炎の小太刀によって火炎を生み出すが、それらは全てシヴァイによって防がれる。

 ダークエルフが得意なのは幻覚や妨害魔法だ。これらはマナの影響を受けにくいため魔力嵐ガストが蔓延するこの状態でも難なく発動できる。その分、扱えるものが少ないのが特徴的だが、シヴァイは貴重な妨害魔法の使い手だった。

 

 自慢の小太刀もシヴァイ相手にはただの小太刀にしかならない。

 更に手数ではタタンが上で、思う様に攻撃が出来ず、徐々に防戦に押し込まれる。

 

「ウググ! コノ下等種族ガ!」


王鳥ガルーダ族らしい上から目線だな。だから貴様は負けるのだ」

「いっくにゃー!」


 悔しそうに悪態を吐く王鳥ガルーダ族だが、それも長く続かなかった。

 

〈幻覚剣〉ミラージュソード


 ゆらりと脱力し、鞭のように腕をしならせながらシヴァイは短剣を振るう。

 速くとも、その直線的な動きに王鳥ガルーダ族の兵士は笑みを浮かべ、小太刀で受け止めようとするが、短剣と小太刀が衝突する瞬間、するりと短剣が小太刀をすり抜けた。

 すり抜けた短剣は体を切り裂くが痛みはなかった。だが、その直後に肩に衝撃が襲った

 

 〈幻覚剣〉ミラージュソードは幻覚により攻撃を先に作り出すスキルだ。

 一種の魔法剣の一つだが、上手く使えば炎や雷などと言った魔法剣よりも効果が期待できる。

 幻影の攻撃はダメージも受けないが、受け止める事すら出来ない。

 幻覚を打ち破るのは同じ妨害魔法の使い手でなければ困難だ。

 シヴァイの本当の攻撃は、降りおろしではなく、攻撃を受け止めようとして隙だらけになった肩に向け、鋭く短剣を突き刺す。

 短剣は硬い鱗を貫くが、鱗に衝撃を殺されて深く突き刺さらなかった。

 

「チッ! なんて硬さだ!」

 

「クカカ! 軟弱ナ攻撃ナゾ通用スルモノカ!」

 

「ならこれはどうかにゃっ!」

 

「ヌッ!?」


 鱗によって攻撃を凌いだ王鳥ガルーダ族の兵士だが、シヴァイに気を取られているうちに懐に入り込んでいたタタンに気付くのが遅れてしまった。


「〈斬鉄脚〉!」


 タタンは脚を光らせ、勢いよく振り上げると小太刀ごと王鳥ガルーダ族の身体を断ち切った。


「グギャァァ!?」

 

 自慢の鱗ごと、王鳥ガルーダ族は胴から肩まで切り裂かれ、大量の血を流しながら後ずさりをする。

 

 その直後だった、どさりと王鳥ガルーダ族の後ろで物音がした。

 王鳥ガルーダ族が振り向けば、そこには自慢の盾もヒビが入り、全身が黒焦げになった闘獅子バトルレオ族が転がっていた。


「バ、バカナ!? コイツノ防御ヲヌケルナンテ!」


「いかに頑丈な盾でも、爆発までは防げないよねぇ」


 ジェイムズは肩に弓を担ぎながら、倒れ込んだ王鳥ガルーダ族を見下ろす。その目は狩人そのもので、何時でも射れるぞという気配が思わせていた。

 

「いや〜、見事見事。こいつらは僕が作った中でも上位に入ってたけど凄いねぇ。というか、あの爆発は酷くない? 鱗あったのに貫通する矢とか、跳弾とか僕の方にも飛んできてたんだけど」


「酷いのは褒め言葉だねぇ。それに、〈リフレクトショット〉は避けてたじゃないか」


「だって当たったら痛いじゃん」


「はは、確かにねぇ。で、もう君一人だけど、降伏してくれるかな? そこの王鳥ガルーダ族は使い物にならないし」


「なんで? 僕言ったよね? 皆って。〈融合〉」


 少年が杖で地面を突くと、床一面が青白く光った。

 光は部屋全体を埋め尽くし、ガラスの筒の中が青白く発光していく。


「ウ、ウァァァ!?」


 光る地面の中に、死にかけだった王鳥ガルーダ族と闘獅子バトルレオ族の二人が飲み込まれていく。



「チッ!」


 ジェイムズが舌打ちをしながら、少年に向けて矢を放つが、少年が杖を突きだすと矢がへし折れながら地面へと落ちていく。


「いい弓の腕だけど、当たらなかったら意味が無いよね」


「はは。こりゃ拙い相手だ。魔方が使えないのにどうやったんだい」


「これくらいは教えてあげるよ。使ったのは魔法じゃなく〈念動力〉。っていうか、ここまで手を出せたんだ。そろそろ僕の力は分かってるでしょ?」


「大体はねぇ。【カオス・クロニクル】。であってるかな。まさか魔物融合がメインのプレイヤーが相手とはねぇ」


「ご名答。こんな能力だし、わかりやすいよね。ほら、出来たてホヤホヤの新しいモンスターだよ」


 少年の隣に巨大な魔方陣が描かれ、そこから生えるように一人の巨人が現れた。


「FUSYURURURURURU……」


「な、なんだこいつは……?」


 魔方陣から現れたのは三メートルを超える巨人だった。背が高すぎて、天井に頭が当たっている。

 だが、それ以上に異質なのは腕の数だ。腕は三〇本もあり、その全てに様々な武器を見っている。更には闘獅子バトルレオ王鳥ガルーダ族と同じく、黒い鱗を全身に身にまとっていた。


「名づけるなら“ヘカトンケイル”って所かな。実力は、身を以て知ってね」


「UOOOOO!!」


 ヘカトンケイルは雄叫びを上げ、洞窟の中を大きく揺らす。

 聴覚が敏感なクルーニとタタンは堪らず耳を抑えるが、シヴァイは一人、怯まずに間合いを詰めていく。


「はぁぁぁ!!」


 シヴァイがヘカトンケイルの巨大な体を短剣で斬りつけるが、ガギン! と音を立てて攻撃を阻まれた。


「くっ! 硬い!」


「やーれやれ。シヴァイ。下がって!〈トリプルアロー〉〈ナパームアロー〉!」


 ジェイムズは赤い矢を3本手に持ち、ヘカトンケイルに向けて穿った。

 シヴァイは転がるように後ろに下がると同時に、3本の爆発性の矢がヘカトンケイルを襲う。

 爆発による粉塵が辺りを埋め尽くし、視界を防ぐ。

 ジェイムズはシヴァイの手を取り、まだ体が冷えて動けないクルーニを脇で抱える。


「まぁ、やってないだろうねぇ。皆、今の内だ。撤退するよ」


「何っ!? しかし」


「しかしでもなんでもないの。あれで倒せないんだから、これ以上やったらここが持たないでしょ」


「なんと……!」


 クルーニが目を凝らすと、そこには平然と立っているヘカトンケイルと、笑顔で眺める少年の姿があった。爆発は少年を巻き込むようにしていたが、ヘカトンケイルの無数の手が少年をカバーしたのであった。


「タタン。扉の横を蹴りぬいて。そこから脱出するよ」


「了解にゃっ!」


 タタンは脚に力を籠め、全力で蹴りを穿つと扉の横の壁が大きく吹き飛び、穴が開いた。


「あっ! ずるっ!」


「障壁を扉にだけ張ったのが間違いだったねぇ。後は逃げさせてもらうよっと。生き埋めになってくれると嬉しいなぁー」


 ジェイムズはクルーニをシヴァイに預け、光る矢を弓に番える。

 弓と矢は強く光り輝いて辺りを光で埋め尽くす。


「UOOOOOO!!!」


 危険性を感じたヘカトンケイルは、ジェイムズに向かい突進してくるが、それよりも早くジェイムズの矢が放たれた」


「〈バニシングショット〉」


 ジェイムズが矢を話した瞬間、爆音とともに巨大な光の線が一直線にヘカトンケイルへと襲い掛かり、ヘカトンケイルの巨大な体を吹き飛ばしながら少年へと光の線が向かっていく。


「うーわ!? まずっ!」


 少年は焦った様子で杖を前にやり〈念動力〉の障壁を幾つも張ってヘカトンケイルと〈バニシングショット〉を抑え込むが、その被害は坑道を崩すには十分だった。

 ジェイムズの〈バニシングショット〉は弓系最上級スキルだ。その範囲は見た目以上に広く、衝撃波だけで敵が吹き飛ぶほど。

 その衝撃波は坑道全体を襲い、パラパラと天井から石が落ち、大きく揺れながら崩落を始めた。


「あ〜あ。こりゃダメだね。また次回に持ち越しかな。僕はテダ・サントス。獣王祭でまた会おう」


「会いたくはないんだけどね。お兄さんは出来れば可愛い女の子がよかったよ」


「悪かったね男で」


 軽口をたたきながらも、クルーニをお姫様抱っこしながら崩れゆく坑道を最短距離で走っていく。

 

 次々と大きな岩が落ち始め、崩落が進む休憩所ではテダが楽しそうに笑顔でその後ろ姿を眺めていた


「マサキってのも楽しみだったけど、あのジェイムズもいいねっ。こりゃ獣王祭が楽しみになってきた!」


 テダはヘカトンケイルを魔方陣の中に戻すと、奥にあった地下水路への階段を下っていく。

 それからしばらくして、盗賊団のアジトは完全に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

◇◆◇






「とまぁ、こんなところ。仲間の皆は疲労困憊でぐっすり休んでるよ」


 ジェイムズも随分ときつい戦いをしてきたみたいだなぁ。こいつの口ぶりと態度からすると楽そうに見えるが、実際は相当ヤバかったのかもしれない。

 

 多分、坑道を崩す手を打ったのは仲間の為だろう。ジェイムズの攻撃で倒し切れない相手だ。あのまま戦えば仲間に被害が出たか、戦いの余波でどのみち洞窟が崩れたかもしれない。

 

 しかし、洞窟に巨人召喚するって何考えてるんだ。もうちょっと別の作れよ。中型のとかさ。やってる事は非人道的なのには変わりがないけど。


「ジークから聞いたけどさ、マサキの方も大変だったようだね。大量のゾンビなんて、まるでゾンビハザードのようだ」


「リアルハザードは要らんけどな。しかし、アジトは潰したがボスには逃げられたか。生き埋めになった可能性は?」


「無いだろうねぇ。あそこって調べだと地下に川が流れているんだよ。きっとそこから逃げただろうなぁ。埋まってくれてたら助かるんだけど」


 本当にそれだと楽だよな。この世界に来た異世界人って大体強い奴が呼ばれてるから困る。仲間としては助かるんだが、敵だと本当に厄介だ。

 


 その後、ジェイムズは朝食を取って一眠りすると言って部屋に戻っていった。どうやら態々報告する為に起きてたらしい。律儀な事だ。

 パーティーの大半が女性との事だが、こういう律義さが女性を引きつけてるんだろうな。更にイケメンだし。

 

 尤も、本来伝えるべきリデアさんはまだ寝てる。ついさっきセバスが起こしに行ったからそろそろ起きてくるだろう。


 しかし、どいつもこいつも獣王祭か。アデル達は大丈夫だろうか。

 よし、今日は特にする事もなかったし、クリスタの鞍を作る手伝いでもして早く出発できるようにしよう。

 馬車と言っても鉄製なら俺の鍛冶の腕の見せ所だ。

 自分のだし好き勝手に改造するかー!





◇◆◇





 崩落した盗賊達のアジト。

 そこには、もはやだれも動く人が居らず、盗賊達によって活気あふれてた休憩所は見るも無残に瓦礫の山に埋め尽くされていた。

 その瓦礫は階段まで続き、地下水路へと階段の殆どが崩れ落ちていた。

 

 パラリ、パラリと瓦礫の山から小石が落ちる。

 

 次の瞬間、ズドンと大きな音を立てて瓦礫の山が吹き飛んだ。

 瓦礫の山からはヘカトンケイルと、その下からはボロボロになったテダが現れた。


「死ぬかと思ったぁぁ!? 階段まで崩れ落ちるなんて予定外だよ!」


 どうやら、ジェイムズの放った矢の威力が強すぎて、本気でテダは死にかけてたようだ。

 砂で汚れた白衣を叩き落とし、〈念動力〉で瓦礫の山を動かそうとするが、重くびくともしなかった。


「うーん、これは困った。採掘用のモンスターなんて作ってなかったし……ヘカトンケイルで掘るしかなさそう。これ……獣王祭間に合うかな」


 かっこつけた手前、テダはジェイムズより強敵な瓦礫の撤去という作業と戦う事になってしまった。


感想や評価ポイントを下さるとモチベーションの維持にとても繋がるのでありがたいです。


今回は久々の他目線での戦闘でした。ジェイムズもですが、異世界人一人ひとり主人公クラスの能力を持ってるので、こうなりがちです。


余談ですが、タタンはブタタの妹で、クルーニはアタミで温泉に浸かってたシベリアンハスキー狼頭族の妹だったりします。


それと、正樹達のイラストが先日届きました。ジロウが渋すぎて鼻血でそうです。

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