食事と大事な人
作業と、何度も書き直してたら時間がかかりました。申し訳ない。
今度の日曜は更新が多分出来ません。日曜出勤め……!
感想はまだ返事で来てませんが、全て目を通してます。
ある程度落ち着いたら返します。
まさか森の中にタコがいるなんて思わなかった。念のために〈鑑定〉してみると。
森ダコ:普段は苔や岩の色に擬態しているが、威嚇の時には真っ赤に体の色を変える。臆病な性格で墨を吐いて逃げる。食べると非常に美味。
説明文にまで美味って書かれてあった。毒性も無いし、大丈夫そうだな。
「一応味見をしてからだな」
確か、テレビでやってたな。タコは眉間を狙うといいって。
屋台で使われている鉄の串を一本拝借して、タコの眉間を狙い一撃で〆る。
今さっきまでまた板の上で元気よく蠢いていたタコは、急所を貫かれて動きを止めた。上手くいったみたいだな。
「おお! あんちゃんすげぇな!」
「こうすると良いって前に聞いてたんだ。やってみたのは初めてだが、本当みたいだな」
「正樹さん、下処理用の水を持ってきました」
「お、助かる。ありがとな」
今から水を用意してもらおうと思っていたが、秋葉が用意してくれたようだ。海育ちだしこういうのをやったことがあるのかな。
「正樹さん、他に何か手伝うことありますか?」
「あー、じゃあ生地づくり頼んでもいいか? 揚げ玉はそこの油を借りれば出来るはず」
「はい! わかりました。タコ焼き久々ですし、楽しみにしてますね」
そう期待されたら応えないわけにはいかない。秋葉に生地の材料を渡して俺はタコの処理に戻る。アイテムボックスだと保存が効くから助かるな。
タコは胴をひっくり返して内臓を処理。あ、卵があるな。うーん……保存しておこう。
居酒屋で食べた卵の煮付けが美味かったし。夜の酒の肴用にとっておこう。
後は全体的に粗塩を振ってヌメリを落とす。結構力がいる仕事って聞いたが、今の俺のステータスなら余裕のようだ。すげぇ勢いで泡立ってぬめりが落ちていく。
水でヌメリを洗い流し、足をぶつ切りにしていく。
「凄い凄い! あのヌルヌルがこんなになるなんて」
ぶつ切りにしたタコを、さっきまで絡まれていた女性が興味深そうに突いている。
料理の現場とか見たことないのだろうか? でも内臓を見ても引く様子はなかったな。
「あんまり材料に手を触れるもんじゃないぞ? 食べたいなら食べさせてやるから大人しく待っててくれ」
「はーい」
「ええ!? ご主人様これ食べるんですか!?」
「当然じゃない! こんなの食べた事ないもん」
それならさっと食べれるものでも出しておくか。何と言うかこの人、レヴィアに近い感じがするな。
タコの足をお湯で湯がき、真っ赤になるまで待つ。その間にサニートマトを薄切りにして、オニキュウリを千切りに。器も借りてマリネ液も作っておく。
オリーブオイルはないが、代わりにオイルシードという種から良質な油が取れたのでそれで代用。花は松明の材料になるらしい。異世界らしい植物だ。
「正樹さん、そろそろいいころだと思いますよ」
「本当だな。ちょっと味見を」
「あ、私も」
二人でタコ足の一部を摘まむ。鑑定で美味って書いてあるだけあって美味いなこれは。
商売にしたらこれ、普通に売れるんじゃないだろうか。
じーっと、少年付きの女性から食べたそうな視線を感じるので、さっさと料理に戻ろう。タコ足を串に刺して油の中に投入。
熱しておいたタコ焼き鉄板に秋葉に作ってもらった生地を溢れるぐらいに流し込む。
「おいおい! あんちゃんそれ入れ過ぎじゃないか!?」
「これでいいんだよ。見てたら判るからさ」
最初はくぼみに合わせた量って思うが、そうすると小さなタコ焼きになるんだよな。一度作った時にそれで失敗したことがある。
後は生地の中にタコを入れてっと。
揚げダコは秋葉が見てくれるようだ。それなら俺はタコ焼きとマリネに集中しておこう。
タコ足をぶつ切りにしてマリネの材料と合わせる。
染みこませるのに時間がかかるので調理スキル〈熟成〉を使おう。
これは食材の発酵を促したり、漬け込む時に使うスキルだ。
これを使わないと作れないレシピも多い。漬物とか、梅酒とか。スペアリブもだな。
時間を掛ければ使わなくてもいいんだが、待たせるのも可哀想だし使っておこう。
「出来上がるまでこれを摘まんでてくれ。味見はしたから大丈夫なはずだ」
「じゃあ遠慮なくー」
「ご主人様! 手づかみははしたないですよ!」
器に入ったまま差し出すと、女性は指で摘まんで食べようとし始めたが、少年が寸前で止めてくれた。せめて串を出すまで待ってくれ。
女性は串にタコと野菜を突き刺して、小さな口でパクリと食べると一瞬味に驚き、頬に手を当てて美味しそうな笑みを浮かべた。
「あら、凄く美味しいわ」
こういう表情してくれると作った甲斐があるんだよなぁ。
お付の少年もオドオドしながらタコを食べたが、食感と味に驚いてるようだ。
タコ焼きも丁度良さそうだ。窪みから溢れ出た生地を巻き込みながら丸くしていく。
「正樹さん、揚げダコできましたよ。……あーん」
「あーん」
「え!?」
秋葉が何を思ったかあーんと言いながら揚げダコを出してきたので、一口食べる。手が串で塞がってるので丁度良かった。
外は衣でサクっとしていて、中身はタコの旨みが噛むたびに溢れる。美味い。
「うん、いい感じって、おい。秋葉どうした」
「ぁぁ……うん、なんでもありません」
自分からやったのに何してんだ。やってみたかったのだろうか。
揚げダコも少年とそのご主人様に出して、さっきから食べたそうにしていた店主にも食べさせる。
「美味い……美味いなこれ。手間もそこまでかからないし、商売になりそうだ。で、あんちゃん、そっちのはまだかい」
店主の目は既に揚げダコからタコ焼きに向いていた。もう少し待てよ。
アリスも興味津々に食べたそうにしてたので、揚げダコの端をやると口いっぱいに頬張って食べていた。まるでリスみたいだ。タコの味が気に入ったのかがつがつと食べている。
そんなことを思っていると丁度いい具合に焼けてきた。
器に盛って最後の仕上げに自作の焼きそばソースとマヨネーズをかける。
青海苔と鰹節はないが我慢だ。
味見で食べると、外はサクっと、中はトロトロと溶けて、出汁と森タコが良い味を出している。
秋葉にもあーんで、食べさせると顔を赤くしながら食べていた。その後、中が熱くて悶えていたのはお約束。
ウサ耳の女性にも差し出すと、平然としながらアツアツのタコ焼きを美味しそうに頬張って食べていた。今さらながらこの人は本当に何者だろうか。お付の少年も奴隷って感じはしないし。
だが、俺のその疑問は直ぐに氷解することになった。
ウサ耳女性の後ろに小さいながらも仁王立ちする存在が現れた。執事服を着た黒ウサ耳の男性だ。その表情は笑みを浮かべているが、雰囲気が怒りに染まっている。
その後ろには呆れた様子でレヴィアとジークが立っていた。
「リデア様、ここで何をしやがっていますか?」
「あ、あら? セバス? えっとこれはー……ごはん!!」
「ご飯! じゃありません! 今日はレヴィア様とジークハルト様が来訪する予定なので屋敷で大人しくして下さいとあれほど言っておいたでしょう!!」
「きゃうん!」
黒ウサ耳執事……セバスのチョップがウサ耳女性に当たると、ぷしゅーと頭から煙を上げながら女性が突っ伏した。お付の少年が「ご主人様―!?」って騒いでるが……え? リデアって言ってたよな? え? これがここの領主?
場所は変わって、今は『ルッツの銀弧亭』に戻ってきた。
流石に屋台の奥を借り続けるわけにもいかないし、あのままだと迷惑も掛かりそうだったしな。
店主からはタコの美味い料理方法を教えてもらったと感謝されて、追加で三匹程貰った。アイテムボックスに入れておくにしてもあのままだと嫌なので、買った壺にでも入れてから仕舞った。あれは良い蛸壺だった。
リデアさんはあの後、レヴィアとセバスに引きずられるように連れ去られていった。
「私のタコ焼きー」
去り際のセリフが食事な事からレヴィアの知り合いだなと妙に納得してしまった。……ヨルムンガルドもレヴィアと同じく大食いなのだろうか。今さら不安になってきたな。
レヴィアは丁度夕食の時間になると帰ってきた。飯の臭いでも嗅いで戻ってきたのだろう。
「もぐもぐ、うむ。ここの肉も美味いのぅ」
今日もうちの子は沢山食べます。いや、子じゃないけどな。
羊肉のミートパイにスペアリブ。シカ肉のシチューにブロンズフロッグの唐揚げなど見てるだけで腹がいっぱいになりそうな肉料理の山を次々と平らげていく。本当にその小さな体の何処に入るのやら。
アリスは俺手製のパンケーキだ。甘いものが食べたいんだとさ。
俺と秋葉はシカ肉のシチューとパン(元は黒パンだったが〈品質向上〉で白パンに変化させた)とサラダを食べている。シカ肉は初めて食べたが中々美味しかった。流石冒険者ギルドがお勧めする宿だ。
「なぁ、レヴィア。リデアさんとの話はどうなったんだ?」
「んぐ? ごくごく、はぁ。うむ、そうじゃな。リデアの調査によるとどうも土地の穢れが各地で見つかっておるようじゃ」
「土地の穢れ?」
「うむ、それについても詳しく説明しておこうかのぅ。あむ」
レヴィアの説明によるとこうだ。
レヴィアやヨルムンガルド、他の土地神は信仰される周辺の土地を縄張りとしていて、そこで力を蓄えるらしい。しかし、土地が穢れると土地の中の精霊が死に、蓄える力が無くなって土は砂に、木は枯れ果て、水は毒になってしまうらしい。何と言う世紀末。
その事を調べたのは土地に詳しいドワーフやエルフ達のようで、彼らの都合に合わせて再びその土地を調査することになった。
レヴィアなら気づけることが出来る可能性があるかららしい。
「なぁ、レヴィア。それは俺達も行った方がいいか?」
「うむ。強制は……もぐもぐ。せぬがの。出来れば全員で行きたい所じゃ。妖精のアリスなら気づけることもあるかもしれぬからのぅ」
「ふぉふぁふぉ?ふぁふぁふぃふふぉ」
何言ってるか分からないが、どうやら行くようだ。というか二人とも飯を口に入れたまま喋るな。行儀悪い。
「まあ、足が届くまで時間があるし、何か手がかりがあるのなら、少し足を止めてでも調べておきたいかな。俺も行くぞ」
「私も行きます。正樹さんみたいにそういうスキルは持ってませんけど、何か役に立てるかもしれませんし」
「三人とも感謝するの」
どうせ『ワイルガード』までの足は当分使えないからな。時間もあるし。
『ワイルガード』までの足はレヴィアがリデアさんに頼んであるが、今はまた遠出していたり、休ませていたりと使えるディオスライノスが残っていなかった。
俺達が乗ってきたディオスライノスは数日間休ませないと『ワイルガード』まで持たないらしい。幾ら強靭でも馬と一緒で休息は必要だ。
レヴィアにジーク達の事も聞いてみると、どうやらあの村の盗賊達は冒険者拉致の実行犯だったらしい。今まで数多くの冒険者達が彼らに攫われていて、ギルドでもその行方を捜していたようだ。
今は盗賊達を尋問してアジトを探すとのこと。ジェイムズは軽いフットワークを活かしてもう動いているようだ。
ジェイムズの職業『狩人』には〈気配感知能力上昇(大)〉がある。それとマップを活かせば見つかるのも時間の問題だろう。
食事を終えて今度は温泉だ。何とスイートルームには貸切温泉が付くらしい。
一度秋葉達と別れて部屋に戻り、着替えを取る。
楽しみにしながら温泉に行くと秋葉が温泉の脱衣場に入るところだった。
「あ、正樹さんもこっちの温泉ですか?」
「あ〜、うん。そっちは秋葉が使っていいぞ。俺は共同の方にでも……」
タイミングが被ったか、仕方ない。共同の方も大きいようだしあっちでもいいか。
踵を返して戻ろうとすると、服を引っ張られた。
振り向くと秋葉が顔を赤くしながらもじもじしている。
「あ〜……あの。秋葉。離してくれないといけないんだが」
「……行かなくてもいいですよ」
「いや、それだと」
「正樹さん、あのですね……ここなら混浴してもいいって……女将さんが」
◇◆◇
秋葉は以前から正樹に恋心を抱いていた。
最初の切っ掛けは春香と一緒に、帝国から助け出してくれた時だ。
その時は、「助かったけど、何をされるか分からない。注意しておかないと」と警戒心を露わにしていた。
だが、正樹は見返りを全く求めず、逆に安全を与えようとしていた。
秋葉の能力を使えば戦闘の役に立つだろう。それなのに、彼は戦闘から遠ざけようと『ルーム』の中か後方支援の方に遠ざけようとした。
最初は呆気に取られたが、このまま恩を与えられるままと言うのは秋葉には耐えられなかった。
春香と相談し、正樹の様子を見ながら前線に立つことを志願した。
彼は強かった。『英雄』と呼ばれる事が、相応しい位に強かった。
同時に隔てなく優しかった。秋葉は春香と一緒にいると、殆どの男性が春香の方に目が向かってしまう。おっとりとした性格に豊満な体、それでいて気遣いのできる優しさに男達は魅了された。レオン王子でさえ一目ぼれで恋に落ちた。
だが、彼は平等に見てくれた。優しく頼りになった。そして頼ってくれた。
【コマンドーシティ】の能力があったから頼ってくれたのかもしれないと思ったが、じっと彼を見ていた秋葉はそうではないと理解した。
正樹の能力は秋葉の目から見ても異常だが、一人で出来る事には限界がある。
正樹は自分にできない事をしっかりと人に頼っていた。それは兵士でも関係が無く、『英雄』としての立場があっても頭を下げて頼る彼を秋葉は見続けた。
気が付いた時には自然と正樹を目で追い、自覚した時には恋心に顔が赤くなった。
恋心を自覚してからは、正樹への気持ちが抑えきれなかった。
正樹には婚約者がいると判っているのに、年上の正樹に恋をしてしまった。
春香に相談をしても「ここは日本じゃないんだから、秋葉ちゃんの好きにしたらいいのよ〜?」と言われた。頭を抱えたくなったが、こういう姉だったと秋葉は諦めた。
秋葉はアタミに住み始め、復興に携わっている時にヨーコから声を掛けられた。
秋葉はアデルともヨーコとも復興や戦闘を通して仲良くなっていた。
「ねぇ、アキハってマサキの事が好きなのかしら?」
「げほげほっ」
ドストレートの言葉に、秋葉は飲んでいたミントティーが気管に入り咽た。
「あ、ごめんなさい。ほら深呼吸して、ひっひっふー」
「それは出産のときです!」
「あれ? ハルカがそうするって言ってたけど違うの?」
「違います。お姉ちゃんなにしてんのよ……」
「あはは。ごめんごめん。でも、落ち着いたでしょ」
「はぁ……まったく。……それで何でいきなりそんな事を」
秋葉は不安を抑えながらヨーコを見つめる。
婚約者であるヨーコにばれてしまった。もうここにはいられなくなるかもしれないと。
だが、ヨーコの次の言葉は先ほどのより強烈な爆弾だった。
「だって、ずっと目で追ってたし。嬉々としてマサキの方に向かってるし、それにもし好きなら側室にでもとアデルと相談してたのよ」
「はい……? ええ!?」
見られていたという羞恥に、まさかの婚約者からの側室勧誘。衝撃的すぎる言葉に唖然とした。そして更にヨーコは畳みかけてくる。
「アキハもマサキと同じ世界の人みたいだし、もし、好きなら出来れば彼の支えの一つになってあげてほしいの。同じ世界の人なら、私達よりも彼の事を判ってあげる事が出来る所があると思うから。アキハなら良いってアデルも言ってくれたわよ」
「正樹さんの支え……」
秋葉は以前から正樹の支えになりたいと思っていた。
彼の側室、本当の意味での隣に立つことが出来れば支える事が出来る。
それでも、秋葉はまだ日本の常識に囚われ、ハーレムというものに抵抗があった。
「少し考えさせてください」
その場はそう答えるだけが精一杯だった。
獣王国に渡る際、アデル達と逸れるような事があってもその事が心に残っていた。
正樹はそんな状況に陥っても、しっかりと自分を見てくれることに嬉しく感じた。
その心が吹っ切れたのは宿屋での出来事だ。
薬を仕込まれ、動けずに犯される寸前で正樹が駆けつけてくれた。
媚薬でぼんやりとした頭だったが、嬉しさよりもその後の正樹の事が怖くなった。
目の前で残酷に、ただひたすら自分を犯そうとした男を殴り続ける。正樹が自分の事で怒ってくれた事に嬉しさを覚えたが、それ以上に正樹が遠くに行く予感がした。手が届かない遥か遠くに。
媚薬で朦朧とする中、ヨーコの支えてほしいという意味が分かった。
彼は大事な人の為ならいくらでも残酷になれる人だ。
遠くに行ってほしくない。その一心で手を伸ばし、秋葉は彼の服を掴んだ。
そこで一瞬意識が途切れ、気が付いた時には正樹に口づけされていた。
媚薬に促されるままに押し倒した事により吹っ切れた。
(ああ、私はこの人の事が好きなんだ。もう、ここは日本じゃない。お姉ちゃんの言う通り、好きにしたらいいんだ)
ヨーコやレヴィアの後押しもあり、秋葉は決心した。気持ちを伝えると。
◇◆◇
結局秋葉に押し切られて混浴することになった。秋葉ってこんなに積極的だったか?
秋葉に背を向けながら服を脱いでいく。籠には湯浴み着も置かれていて温泉にはこれを着てもいいようだ。……流石にそういう付き合いはちゃんと話をしてからだ。うん。
湯浴み着を着終え、後ろをチラ見すると秋葉も湯浴み着を着るようだ。綺麗なうなじにドキッとするがここは我慢。理性頑張れ。
貸切温泉は小さな窓があるだけで、外の風景を眺める事は出来ないようだ。アタミを基準にしたらダメだな。あれはうちだからこそやれることだ。
その代わりに、数人入っても広々と浸かれる湯船がある。これだけでも今は幸せだ。
「あの、正樹さん。背中流しましょうか?」
「あ、ああ。頼む」
秋葉に背中を流してもらうと、心地いい熱が背中を伝う。ぁー……これだよ。長く風呂入って無い所為もあるが、これだけでも気持ちいい。
「あ、正樹さん。シャンプーと石鹸を出してもらってもいいですか?」
そうだった。シャンプーや石鹸は王族や貴族ぐらいしか使えない貴重品だ。たとえスイートルームでもそこまで求めるのは酷というものだ。
アイテムボックスに仕舞っておいた石鹸とシャンプーを秋葉に手渡すと、強い力で背中を擦ってくれた。
垢すり用にヘチマも置かれているが、使うのはタオルの方が肌に良かったりする。その事はアタミで実地しているので、秋葉も擦るのはタオルだ。
本当は絹タオルが良いんだが、残念ながら流石にそこまでは用意できなかった。
俺も秋葉の背中を洗い、擦る。少々強めにしてるが、秋葉はこれでも大丈夫なようだ。うなじに見惚れながらも丁寧に背中を洗っていく。
日本人特有の肌を見るとなんか落ち着く。アデルやヨーコの白い肌もいいんだが、健康的な肌と言えば秋葉のような肌だ。
前と髪は二人とも自分で洗う事にして、洗い終わるとゆったりと湯船に浸かる。
ぁ゛〜……生き返る。本気で気持ちい。ブタタには悪いが、スイートルームで良かった。
身体の疲れがほぐれ、溶けるようだ。
「くすっ、正樹さん。おじさんみたいですよ」
「え? 声に出てた?」
「はい」
恥ずかしい所を聞かれてしまった、よっぽど疲れたのかもしれないなぁ。
秋葉は俺の隣に座り、ふっと気持ちよさそうな声を出している。
胸の谷間が見えたので、直ぐに視線を窓に向ける。今日は満月なようで、月明かりが明るい。
「あの……」
月明かりを眺めている中、声に釣られて視線を向けると、秋葉がじっと俺の方を見つめていた。
「正樹さん、あのですね。村の時はありがとうございました」
「あ〜……あの時か。気にしなくていいって。大事な仲間があんな目に遭ったら助けるのは当たり前だろ。逆に俺は秋葉に謝らないといけないんだからさ」
「何でですか?」
「そりゃ……、救急措置とはいえ、口移しで秋葉の唇を奪ってしまったからな……。すまん」
「え? そんな事気にしてたんですか?」
「そんな事って、大事な事だろ。秋葉はもっと体を大事にしないとだな」
「……私は嬉しかったですよ。正樹さんにファーストキスをあげる事が出来て」
「そ、そうか……それなら、いいの、か?」
年下の子にそんなこと言われると照れる。多分、今俺の顔は真っ赤になってるな。
「どうしても気にするのなら、ちょっとお願いを聞いてもらっていいですか?」
「ん? ああ、俺にできる事ならな」
「……えっとですね……。正樹さん……今度はちゃんと、私の唇を貰ってください」
いかん、ものすごくグラってきた。女の子にこんなこと言われるなんて思ってなかった。いや、嫁さんからはある程度おねだりはされたことはあるけどさ。
「あ〜……うん。いいんだな?」
顔を赤くしながらこくんと頷いた秋葉を抱き寄せる。その唇は薄桜色をしていて若さに溢れている。
「んっ」
「んぅ」
秋葉の唇に俺の唇を重ねて、初めて正気の秋葉の唇を貰う。秋葉の唇は村の時とは違ってしっかりと触感を感じる事が出来た。あのときは早く助けなければと必死だったからな。
「はぁ……」
時間にして10秒ぐらい唇を重ねていたが、感覚的には長くやってた気がする。
久々のキスは……うん。凄く良かった。ここで秋葉を押し倒さなかった、俺の理性を褒めてあげたい。
「はぁ……ん。正樹さん」
「なんだ?」
「好きです。側室にしてください」
落ち着いたと思ったらとんでもない爆弾が飛んできた。え? はい? 側室って……嫁に来るの?
「いやいや、ちょっと待て秋葉。少し落ち着こうか」
「落ち着いてるから言ってるんです。アタミに居たころに、ヨーコさん達からも許可は得てます。私ならいいって」
二人とも何してんの!? 既に根回し済みってどういう事だよ。というか、その頃から二人は秋葉の気持ちに気付いたのか。
俺は最近そうかなって思ったぐらいなのに……女の勘という奴なのだろうか。
「ダメ……ですか?」
ここでダメって言える男が居たら凄いと思う。正直、俺も理性が限界だ。
秋葉も覚悟を決めてこう言ってるんだ。俺が覚悟を決めないでどうする。
「いいに決まってるだろ。アデルとヨーコが良いって言うなら、俺が断る理由はない」
秋葉を強く抱きしめる。俺の腕の中で秋葉が震えて、少し泣いてるようだ。顔を覗き込むと、それは怯えではなく、嬉しそうな笑みを浮かべながら泣いていた。
「まあ、その何だ。これからも宜しくな」
「はい……はい。正樹さん、不束者ですが……ひっく……よろしくお願いします」
異世界で3人目の嫁を娶った。アデル達同様まだ式は出来てないが、ヨルムンガルドの件が終わったら絶対に式を挙げよう。
そう心に決め再び秋葉と唇を重ねる。強く抱きしめ月明かりの中、俺は秋葉と共に夜を過ごすのだった。
我慢の限界だしな。少し張り切ってみよう。
感想や評価ポイントを下さるとモチベーションの維持にとても繋がるのでありがたいです。
明石焼きは屋台で出汁を用意するのは難しいので断念。アタミに帰ったら多分作ります。書きながらたこ焼きを食べたくなったのは内緒です。
とうとう秋葉が嫁入りになりました。秋葉ルートは好評なようで何よりです。