昼食を探して
ブタタの嘆きを後に、ギルドの受付に戻るとブタタからシンにゃーと呼ばれていた狼獣人の女性、確かシンシアだったかな。彼女が出迎えてくれた。
「昇格試験お疲れ様です。冒険者カードの提出をお願いします」
「ああ」
アイテムボックスに入れていた冒険者カードをシンシアに差し出し、何かしら言葉を紡ぐと、カードの色が青色から緑色に変わった。
ブタタが戻る前に何か印や説明は要らないのかと聞くと、試験時に使われた結界自体に特殊な仕掛けを施されていて、ギルド員が倒されるか、合格と認めると冒険者カード自体に登録される仕組みになっているそうだ。今回は俺がブタタを倒したので合格判定だな。
「Cランク昇格おめでとうございます。Cランクになりますとギルドでポイントを消費して武器や防具、アイテムと交換できるようになりますが、一覧をご覧になりますか?」
ほう、昇格以外にもポイントの使い道が出来るのか。どんな武器があるか気になるし、一覧を見るだけ見ておこう。
ざっと見てみるが、Cランクなだけあってあまりいい武具はないな。武器や防具はアイアンソードやアイアンシールドなど鉄製品だ。アイテムはポーションや解毒剤や解熱剤、虫除けのお香など、冒険者にとってはあったら便利なものが揃っている。虫除けのお香は装甲車で寝泊まりする時に皆が焚いていたな。
他には魔物図鑑や、野草図鑑など、地図もポイントで交換できるようだ。〈鑑定〉もある事だし、どれも今の俺には必要ないかな。
地図は試しに見せてもらうと俺の《マップ》の方が精密に描写されてた。
当然と言えば当然か。
「今回はいいや。それで『ルッツの銀弧亭』って宿に行きたいんだが、何処にあるんだ?」
「『ルッツの銀弧亭』ですね。それでしたら……」
「マサキ。それなら俺達が案内するぜ。丁度俺達の宿もそこなんだ」
声の方に振り向くと、ガードル達が俺達の後ろに立っていた。
すると、周りにいた冒険者達がガードルを見てザワザワと騒ぎ出す。
「お、おい。あれって『鋼断ち』のガードルじゃないか?」
「本当だ! ガードルさん達帰ってきてたのか」
ガードル、お前二つ名持ちだったのか。そういえば、アイアンソードでダマスクリザード相手とよくやりあえてたもんだ。今思うと相当強かったんだな。
「ガードルさん、お帰りなさい。マサキさんとお知り合いだったんですか?」
「ああ。ちょっと一緒に旅をしててな。それで、先に換金をしてもらいたいがいいか?」
「はい。構いませんよ」
ガードルがアイテムボックスからモンスターや狂獣の素材を取り出すと、シンシアが手早く調べ始める。
出した量が量なので鑑定にはしばらく時間がかかるだろうな。
「マサキ。手紙の方は読んだのか?」
「ああ。無事辿りついてたようだ。本当に良かったよ。怪我もしてないようだしな」
アデルとヨーコが無事だと分かった瞬間には心の底からほっとした。
改めて思うが、どれだけ俺の中で彼女等が大事なものになってるのか自覚することになった。
婚約しているし、当然と言えば当然なんだが、離れて気付く事もやっぱりあるものだ。
ネメアーも大事な仲間だが、真っ先にアデルとヨーコが出てくるのはまぁ、仕方ないよな。大事な嫁さんだし。
「手紙も返したし、ついでに昇格試験を受けてきた所だ」
「それってついでで受けるようなもんじゃないだろ……相変わらずお前は変わってるな」
「それで合格は……聞くまでも無いわよね。マサキだし」
「マサキさんですからね」
「マサキだもんねー」
なんだよ。俺がそこまで異常なのか? いや、異常だとは思うけどそういわれると複雑な気分だ。
そう思っていると、秋葉の胸ポケットの中に居たアリスが顔を出してきた。お前まだそこにいたのか。代われとかちょっと思う。ちょっとだけな。
「マサキったら凄いんだよー! あのブタタって猫人相手にガッツンガッツンやってたの!」
「おいこら、アリス。余計な事を言うな」
「えー? だって本当の事じゃん。最後にゴーンって止めもすごかったし!」
本当の事でも、言って良い事と悪い事があるっての。止めとか言うと殺したみたいじゃないか。
チラリとガードル達の方を見ると、ほら。呆れた様子で俺を見てるぞ。
「やっぱりお前さんは異常だわ。Sランク相手に何やってんだよ」
「むしろブタタさんは何やってるのよ……。Sランク冒険者が試験に出るなんて悪夢以外なにものでもないじゃない」
ガードルとエリスが何か言ってるが、俺は悪くない。悪いのはブタタだと思う。うん。
今頃ブタタは調教されてる頃だろう、内容は知りたいとも思わない。だが、ノーロープバンジーはただの飛び降りじゃないだろうか。
「ガードルさん、お待たせしました。報酬の方はこちらになります」
ジャリンと、貨幣が詰まった袋が机の上に置かれるとガードルは嬉しそうにアイテムボックスに仕舞った。
ギルドを出る時に騒ぎを見ていた冒険者達から「一緒に酒飲み行こうぜ」「ここなら飯だろ」等など言われた。気楽に付きあえそうな気のいい奴等だな。
合同依頼に行こうとも誘ってくれたパーティーもいた。『サウンシェード』には長居はするつもりはないが、時間があったら行ってもいいかもな。
こう、冒険してる感じがやっぱり男心をくすぐる。
ガードルの案内で『ルッツの銀弧亭』まで歩いていく。
全員で6人+一匹のグループは冒険者パーティーに見えるらしく、女性が多いパーティーでも絡んでくる男達はいなかった。
逆に、女性達が引っ切り無しに絡んできた。目的はアリスだ。
「わわっ。妖精! いいなぁー!」
「かわいいー! 握手させてもらってもいい?」
「ねぇねぇ! どうやって仲間にしたの?」
「ちょっと、その妖精頂戴。金貨出すから」
アリスを求めて女性が来るわ来るわ。お蔭で足止めを何度も喰らった。最後に至ってはアリスを愛玩動物と勘違いしてるんじゃないかと。金で買えるかアホ。
追い払いつつもアリスは何故かご機嫌だ。
「えへへー♪」
「何で嬉しそうにしてるんだ?」
「だって森の中に比べて凄く新鮮だもん。こういう風に喜ばれることもないし、触れ合う事もなかったんだよ。だから凄く楽しいの!」
「森の中じゃどういう生活してたんだ?」
「つまんないよ。毎日毎日花の蜜集めて、お祈りして、村の中で変わらない遊びするだけ。ほんっとつまらない! 大体長老にしても話が長いし、グダグダ掟だの、外に出るなだの、人に関わるなだの……」
アリスの愚痴を聞く限り、妖精の里は閉鎖的なようで、極まれに人が迷い込んで来る事があるが大体は直ぐに追い返してしまうようだ。
「つまらないとか言ってるが、それでもアリスは村の事大事に思ってるんだな」
「は? なんで?」
「だってお前、一度も嫌とか嫌いとか言ってないじゃないか」
「う……そりゃ、つまらなくて退屈だけど……」
「帰れる場所があるというのは良い事なんだ。こうやって外に出るのもいいが、偶には帰ってやれよ。お前にも心配する友達がいるだろ」
「……うん。そうする。でも今はマサキ達についていくからね!」
そういってアリスが俺のフードの中に戻ってきた。分かってるならいいか。
ギルドを出て20分くらいだろうか。キツネの尻尾を模した看板が見えた。3階建ての建物で、屋敷の中に大樹が生えたような宿屋だ。
扉を開けると、真正面に天井を貫いてた大樹が堂々とそびえ立っていた。
宿の中はカウンターと、大樹を囲むようにテーブルが6つ並んでいて、今は昼食時な事もありテーブル席もカウンター席も満席だ。こりゃ昼飯は外だな。まずは部屋の予約だけでも済ませてしまおう。
受付嬢は銀色の狐尻尾を生やした銀髪の女性だ。看板通り銀弧だな。見た目は20台と若そうだ。
「いらっしゃいませ。『ルッツの銀弧亭』へようこそ。お食事ですか? お泊りですか?」
「泊まりで。それで冒険者ギルドからの紹介状があるんだが……」
「えっ? あ、はい。拝見させていただきます」
女性は紹介状を受け取ると驚き、「おかーさーん!」と言いながら奥に消えていった。奥からは「ええ!? ちょっとアンタ! ここ任せたよ!」と聞こえた。紹介状一つで忙しくさせてしまったようでなんか悪いな。
奥から二人が出てくると、新しく出てきた女性は先ほどの女性と同じ姿形をしていた。違うのは胸囲くらいか。新しい女性の方が若干大きい。年齢も少し年上ぐらいだ。
親子に見えん。姉妹と言う方がしっくりくるぞ。
「お待たせしました。ええっと、アプリスさんからの紹介ですね。部屋は一部屋で宜しいでしょうか?」
「二部屋で」
男女別だな。レヴィアと秋葉で泊まらせて俺は一人部屋。
「え?」
「ん? 何か不都合があったか?」
「い、いえ、なんでもありません」
「ならいいが……」
後ろを見るとガードルがニヤニヤしてると、エリスに脛を蹴られて悶絶していた。何やってんだあいつ等。
部屋は最上階のスイートルームのようだ。温泉は自由に入っていいらしいが、当然ながら男女別。混浴なんてない。これが当たり前だからアタミの温水プールは人気だったのか。
料理も食べてみたかったが、昼は無理そうだ。夜は予約さえすれば部屋でも食べられるらしいので、予約を入れておいた。レヴィアは肉料理が好きだから肉メインだな。
さてと、ガードル達と別れて出店を探すことにする。ガードル達はもう飯を食べたようだし、これ以上付きあわせるのも悪いだろう。
「んー……秋葉。今日の昼飯は何食べたい?」
「そうですね……。最近お肉ばっかり続いたので魚を食べたいですね」
「あ〜……確かに。狂獣の肉は美味かったけど、そればっかりだったからなぁ。何処か良い店無いか聞いてみるか」
「私は果物―!」
「はいはい」
適当に露店を見て回ると、売られてるのは肉や果実、時折野菜ばかりだ。流石に海の幸があるとも思ってないが、せめて川の幸は無い物か。
焼いた果物を串に刺して売ってる露店を発見。見た目はバナナのようだが、色が赤い。香りは蒸かした芋のような香りだ。
「すまん、こいつはどういう食べ物なんだ?」
「なんだ知らないのかい? こいつはペトトっていう果物だ。食ってみるかい?」
差し出された串を一本手に取り、一口食べると「銅貨3枚な」と言われた。試食じゃないのか、やられた。
金に困ってるわけでもないので、代金を渡してじっくり味を確認する。
触感は少し硬い芋のような感じでホクホクしてる。味はほんのり塩味で淡白な味だ。中心まで塩味がついてるなら、これは素材自身の味だな。うん、ジャガイモっぽくて美味い。バターとかあったら良いなこれは。
「中々美味いな。秋葉も食べてみるか?」
「あ、はい」
新しく買おうと銅貨を取り出していると、秋葉の視線がじーっと俺の食べかけに向いていた。試しにすっと差し出すと、ぱくっと食べて咀嚼する。
「美味しいですね。こう、バターが恋しくなるかも」
「お、秋葉もそう思ったか? ここにバターがだな……。店主、あと一本」
「あいよ! 焼きペトトにバターか……合うのか?」
「こういうのは試さないと判らないだろ」
ニヤリと微笑んで、アイテムボックスから取り出したバターを食べかけのペトトと、焼きたてのペトトに塗って新しい方は秋葉に手渡し、一緒に食べる。
「「美味い」」
同時に口に含むと、狙いは読み通りだった。口の中でバターの濃厚な味がペトトの仄かな塩味と混ざり合う。思った以上にじゃがバターの味に近くなった。蒸したら完璧なのかもしれないが、焼く方が調理的には簡単だろう。
「お、おい。旦那、俺にもそのバターを」
「あいよ」
バターを1センチほどの大きさに切って店主に差出し、売り物の焼きペトトに塗り付けると「銅貨一枚な」と告げる。ささやかな仕返しだ。
「くっ、こっちからやった分言い返せねぇ……!」
渋々店主が銅貨を俺に渡すと、バターが塗られたペトトをがぶりと食らいつく。
「おお……! こいつは美味い!」
店主はこの味が気に入ったようで瞬く間に焼きペトトを食らい尽くしてしまった。
「いやー、こいつはいいもんを教えてもらった。旦那ありがとな」
「こういう美味いのは共有した方がいいだろ」
「違いねぇ。一人で美味い物独り占めしたって虚しいだけだしな。俺も明日からバターを仕入れてみるか」
「ところで親父さん、この辺りで魚や川の幸を取り扱ってる店とかないか?」
「魚か? それならこの先を真っ直ぐ行って、十字路があるからそこを右に曲がってくれ。そこを大体2,3分くらい歩くと良い魚を扱ってる屋台があるぞ。最近は新しい食材を仕入れたっていってたが……あんなの売れるのかねぇ」
「そうか。新しい食材と言うのも気になるし行ってみる。ありがとな」
「こっちこそ新しい味を教えてくれて助かったぜ。また来てくれよ」
焼きペトト売りのおっさんに見送られながら言われた道を歩いていく。
残った焼きペトトを口に放り込んで、串はアイテムボックスのごみ枠に放り込んでおく。
「こうして屋台で買い食いしながら歩くと、お祭りを思い出しますね」
「あー、そうだな。日本の祭りはこんな感じだった」
狂獣が暴れてるとはいえ、街中は至って平和だ。時折酒の勢いで喧嘩を始める奴らも見かけるが、周りの獣人は止める所か囃し立てる。
屋台には良く判らない物も売ってある。ツボやら皿やら。折れた剣なんて誰が買うんだ。
話を聞くと、昔にドラゴンと戦った際に急所を貫いた剣だと。切り裂いたならともかく折れてたら突けないだろうに。
期待もせずに〈鑑定〉してみると『ただの折れた剣:ゴミ』と評価された。〈鑑定〉ですら酷評か。
そのまま立ち去ろうとして見ると、とある一枚の鉄板が目に入る。でこぼこのくぼみが付いた鉄板だ。価格は50フラン、銀貨5枚分だ。
「んあ? 兄ちゃんこいつ買うのか? ちょいと前にとあるお屋敷で買い取った奴なんだが、でこぼこすぎて何に使うかわかりゃしねぇし、買ってくれるんなら銀貨3枚にしとくぜ」
お、交渉もせずに値段を下げてくれた。恐らく、物珍しさで置いとくよりもさっさと売ってしまいたいんだろう。持ってみると結構重いしな。
「じゃあ、これを貰おうか。ついでにツボも」
「お、本当かい!? これはいい壺だ。大事な人にプレゼントするのもいいだろうぜ」
お前は何処の壺評論家だと思ったが、これは良い物が手に入った。秋葉も鉄板を見て驚いてるだろう。何でこんなのがあるのかと。
代金を払って再び歩き始めると、アリスがフードの中からひょこっと顔を出してきた。
「ねぇねぇ、マサキ。そんなボコボコの鉄板なんて使えないんじゃないの? ドワーフの所にでもいって平らにしてもらう?」
「そんな勿体ないこと出来るか。こいつは俺達の元居た世界で使われていた調理道具の一つだぞ」
「へー。そうなんだ」
「本当に何でこんなところにあるんでしょうか」
「さぁな。どうせ同じ異世界人が、ドワーフや鍛冶屋に頼んで作ってもらった一つじゃないか? 日本人は食に対して無駄に追及するからな……」
「そうかもしれませんね。正樹さんもその傾向強いですし」
うん、言い返せない。焼きそば作った後にソースが気に入らないという事で屋敷でソースの作り直しをしたんだよな。春香や秋葉、竜馬に味見を手伝ってもらってようやく満足いく形になった。
ソースは安定供給が出来るようになったら売り出すつもりだ。
しかし、昼食時なのか人が多い。特に十字路に差しかかる頃には人と人の群れが重なり込みあっていた。このままじゃはぐれそうだな。
っと、冒険者の軍団がこっちにやってきた。酒も入って、話に夢中になってる。
このままじゃ流れに巻き込まれそうだ。
俺は秋葉の手を取って隅によると、特にトラブルも無くやり過ごせた。よく見ると全員が同じ三つの牙のエンブレムを肩に着けている。アレがクランなのか。
アタミじゃ事務処理に追われてて碌に冒険者達を見る事がなかったからなぁ。
「あ、あの、正樹さん」
あ、そういえば秋葉の手を握ったままだった。
「す、すまん」
謝りつつ、手を放そうとするが逆に秋葉の方が握り締めてきた。
「逸れそうなので……手を握ってもらってていいですか?」
「あ、ああ。いいぞ」
仄かに汗ばんだ秋葉の手を俺は優しく握り返し、エスコートするように道を歩いていく。懸念していた十字路は逸れることなく突破。
中には子供が逸れそうになっていたが、少し立ち止まって道を開けると、足早に親らしき獣人の下に駆け寄っていく。
思えば、アデルやヨーコとは時間を作って二人っきりで歩いたことはあったが、秋葉とはアタミでも全くなかったな。
こうして手を繋ぎながら歩いていると……。
「正樹さん、これってデートみたいですね」
「げほっ!」
「だ、大丈夫ですか!?」
大丈夫と言いながら、呼吸を整える。あー……考えてた事を秋葉に言われるとは思ってなかった。
「ふぅ、確かに男女でこうしていればデートに見えるかもな。だけど、ごめんな。相手がこんなさえないおっさんで。もっといい男がいいんだろうけどさ」
俺の顔は普通だと思う、特にモテる事もないし合コンでもただいるだけだった。秋葉としては同じ年代の人の方がきっといいんだろうな。美人だし、元の世界でもモテるはずだ。
そう思っていると、握っていた手が強く握り返された。
「そんなことありません! 私は正樹さんだからいいんですよ」
「あ、秋葉? それって」
俺が驚きながら秋葉の方を振り向くと、秋葉が口を押えながら困惑し、真っ赤になりながらオロオロとしていた。
「え、ぇあ。な……何でもありません。あ、あれが魚を売ってる屋台のようですよ。行きましょう」
誤魔化されたような気がする。もうちょっと追及してもいいんだが、夜辺りにでもするか。これ以上気づかない振りするのも難しいし……な。
秋葉に手を引かれるままに屋台に近づくと何か騒ぎ声が聞こえる。
何事もなく、ここまで来たのに厄介事か? 勘弁してくれ。
新しい食材と言うのも気になるし、顔を出すだけ出してみようと屋台に近づいてみると。
「きゃー♪ ぬるぬるー!」
「ご、ご主人様―! ちょっと店主! 引きはがすの手伝ってくださいよー!!」
そこにはウサ耳で巨乳な女性が50センチもありそうなタコに纏わりつかれ、必死に引きはがす執事服少年と、屋台の店主であろう獣人がいた。
「ご主人様を助けてくれてありがとうございました!」
「いや、気にしないで良い。吸盤の痕がついてると思うが、明日にでもなれば治るから安心していいぞ」
その後、タコに怯えて戸惑ってる獣人を押しのけ、俺達は四苦八苦しながらもなんとか女性からタコを引きはがすことに成功した。
タコも俺達から逃れようと女性のドレススーツの中に忍び込んで、彼女は艶やかな声を出しながら服を脱ぎだしたからマジで大変だった。
路上から無理やり屋台裏まで運んだところで、服を脱がしてたタコを引きはがした。
何でタコってあんなに人の隙間に入り込むかね。胸の谷間や色んな所に入り込んだお蔭で女性の体に色々と触れてしまった。秋葉の視線が凄く痛かった。
怒られるかと冷や冷やしたが、逆に熱っぽい視線と艶やかな声を出されて困った。
「ご主人様もほら、お礼を」
「助けてくれてありがとうね♪」
「さっきも言った通り気にしなくていいって」
ふわりと柔らかくお辞儀をする女性は笑顔も仕草も何処かしら気品を感じる。
どこかの貴族なんだろうか。
「すいません、うちの商品が。こいつは売りに出すのはもうやめた方がいいかぁ」
店主が平謝りに頭を下げて、箱に入ったタコを見つめてぼやく。
「あら? 勿体ないわね。あのぬるぬる感とても良かったわよ? こう吸い付いてくる感じたまらなくって♪ 一匹買って使いたいわね」
「ご、ご主人様ダメですよ!」
おい、詳しく聞きたくはないが、なんに使うつもりだ。
箱に入ったタコに指を這わせる姿は何処かしら色っぽい。何と言うかエロいお姉さんだ。
それでいて気品を感じさせる仕草があるから尚たちが悪い。娼婦とかだったらトップの人だなこれは。
「それにしても、良くタコなんて手に入りましたね。海まで遠いのに」
「ああ、それはこいつが森ダコっていう種類のタコだからだよ。川辺の穴に住んでてな。大量に捕れたからって、知り合いの釣り師から押し付けられちまってなぁ。食うにしてもこの見た目だろ? もう川に逃がしちまうか」
あ〜……、見慣れない人達から見るとタコはモンスターの様に見えるからな。食おうとも思わないんだろう。ぬるぬるしてるし。しかし、逃がすのは勿体ない。
よし、ここはひとつタコ料理と行こうか。肉ばかりで魚料理に飢えてたところだし、タコは俺も好物だ。さっき手に入ったアレもあることだし。
「それなら一匹貰ってもいいか? ちょっとやってみたい料理があるんだよ。あとは油も貸してくれるとありがたい」
魚を取り扱ってるこの屋台は川魚をフライにして出してる屋台でもある。小魚なので骨まで食べる事が出来る。ジャンクフード的な感じな店だ。
「あぁ、構わないが揚げるのか?」
「揚げてもいいんだが、ちょっと作りたいものもあったからな」
秋葉を見ると、俺が何を作りたいか理解したようで、凄く嬉しそうだった。天かすも出来そうだし。
さーって、久々に腕を振るいますか。
感想や評価ポイントを下さるとモチベーションの維持にとても繋がるのでありがたいです。
ペトトは完熟しても甘くないバナナのような架空果物です。種の方は甘みもあります。じゃがバターとかいいですよね。
次回は飯回になります。何を作るかもうわかってるな!
所でたまに息抜きしてストーリー進める方が気疲れしないでしょうか?