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サウンシェード

お知らせ、異世界人組で日本人同士の名前の呼び名を漢字に統一します。

秋葉なら正樹で。アデルや外人組は通常通りマサキとなります。



 装甲車に揺られて、二週間が経過した。

 スコールや洪水に遭い、多少の足止めを食らったが、ようやく南街『サウンシェード』にたどり着いた。

 

 いやー……アース大陸は本当に広かった。こりゃ帝国も沿岸しか攻めれんわ。本格的にこっちの大陸まで侵略するつもりなら、ランド大陸を平定しないと補給や戦力が圧倒的に足りないだろうし、それにモンスターや狂獣の問題もあるしな。

 

 『サウンシェード』を取り囲んでいるのは、高さ5mもある巨大な外壁と鉄の門だ。

 ここまで立派な門は帝国や王国でしか見たことが無い。生半可な攻撃じゃ開きそうにないな。

 狂獣やモンスターに備える為だろう、城壁の上にはバリスタが配備されてある。

 

 

 そんなことより、今はフェンだ。妹認定してから装甲車の中でのみ『ルーム』から出す事にした。密室だし、他に誰かから見られる心配もないからな。

 装甲車の中ではフェンは嬉しそうに外を眺めたり、俺の隣でくつろいだりしている。 

 櫛で髪や尻尾を梳いてやると、心地よさそうにするので毎日梳くのが日課になった。

 ふわふわでサラサラだ。

 しかし、思わぬ弊害があった。秋葉とレヴィアだ。


「フェンは愛い奴じゃのー♪ 毛並もサラサラじゃ」

「尻尾も良いー♪」


「はわっ……あ、あのっえっと……はぅぅ」


 物凄く可愛がってる。下手すると俺以上に。寝るときは『ルーム』に帰そうとすると二人とも物凄く寂しそうな目をして見送ってた。走り出す時には会えるんだからいいだろうに。

 アリスもフェンとは仲が良いが、こっちは友達同士と言う感じだ。たまに『ルーム』の中で一緒に寝てるから秋葉達より寂しさを感じないのだろう。


「おーい、そろそろ街の中に入るからな。フェン、悪いがまた留守番頼むよ」


「あ……はい。マサキ……お兄さん。また……夜です……ね」


 フェンはいい子だ。『ルーム』に帰る時も、我儘を言わずに素直に戻ってくれる。

 もう少し我儘を言ってもいいんだが、まだ遠慮があるのかもしれないな。徐々に鳴らしていけばいいか。


 フェンを『ルーム』に帰した時には門の前にまで辿りついていた。ジーク達が門番と何か話をしていたが、特に問題も無く重厚な門が開いた。



 ゴトンゴトンと、ゆっくり門を潜り、窓から身を乗り出してみると、緑あふれる街並みが見えた。

 

 建物は全て木材で出来ていて、一部の店舗は巨大な枯れ木をくり抜き活用しているようだ。

 一番目立つのは緑が多い茂った高さ8メートルもありそうな大樹だ。

 大樹の至る所に窓や手すり階段が設置されていて、中に人が要るのがチラホラ見える。

 建物として使っているのに、樹がまだ生きてるのか。

 凄いな。これぞファンタジーの醍醐味だ。

 

 草木が多いが、街道は整備されていて、石畳と緑が丁度いい具合に噛みあっている。

 よく見るとマンホールや道の両端に用水路あった。まさか下水道も完備してるのか?

 アタミでもまだ途中だというのに。


「正樹さん……凄いですね」


「本当だな。これだけでも来た価値があったもんだ」


「街には初めて来たけど、面白そー! あ、あの中行ってみたい!」

「またんか、馬鹿妖精」


 アリスが窓から飛び出そうとするが、俺を押しのけてレヴィアが首根っこを摘む。


「ちょっとなによー! 少し遊びに行くだけじゃないー!」


「独りで行くと迷子になるじゃろうが! 少しは大人しくしておれ馬鹿妖精!」


「馬鹿って言ったなー! この馬鹿竜!」


「誰が馬鹿じゃと!」


 うるせぇ、精神年齢が同じだ。食事や寝るときは一緒に寝てるが、良くこの二人は喧嘩する。喧嘩するほど仲が良いと言うが、人の耳元で騒ぐな。


「いいから二人ともじっとしてろ」


 二人纏めて頭を撫でながら、抑え込むとようやく落ち着いてくれた。

 もうちょっとフェンを見習ってほしいものだ。

 

 

 ジェノスライノス専用の小屋にたどり着くと、そこで下ろされた。綺麗な白線が敷かれていて、駐車場のようだった。元の世界と違うのは、そこで装甲車を繋いでいた鎖を外してジェノスライノスが飼育員の誘導の下、小屋の中に帰っていくくらいか。

 

 外に出ると街の中とは思えない程、空気が濃い。森の中にいるのとまったく変わらないな。

 全員が外に出ると、ジークが兵士を伴ってやってきた。ジェイムズとダンも一緒だ。

 ダンは普段着に着替えていて、皮ジャンとジーンズとウェスタンハットだ。こうラフな格好は本当に似合うな。ヒーロースーツよりこっちの方が似合っているぞ。


「マサキよ。妾はちょいと領主に会うてくるでな。先に宿を取っておいてくれぬかのぅ」


「ああ、いいぞ。ついでに何か美味そうなものでも見繕っておく」


「流石マサキ、わかっておるではないか。では、ジークとやら、行くぞ」


「おう。そうだ。マサキ、冒険者ギルドに連絡取ったんだが、どうやらお前さんあての手紙が張り出されてるらしいぞ。名前はー……クローディアっていったか」


 クローディア! ヨーコの冒険者としての偽名だ。

 魔力嵐ガストで連絡が取れないから、冒険者ギルドの掲示板を使ったのか。

 

 冒険者ギルドは近隣の冒険者ギルドと掲示板を共有していて、そこで手紙のやり取りや、依頼、人探しや広告、ギルドからの告知も行っている。

 通信手段は強靭な伝書鷹を使っているので、嵐の中でも土砂崩れや流行病の緊急事態は冒険者ギルドが責任を持って告知している。下手に二次被害やデマなどを防ぐ為だ。


 ヨーコが手紙を張り出したってことは無事、獣王国『ワイルガード』に辿りついたのだろう。3人とも無事だろうか。


「分かった。教えてくれてありがとな」


「大事な仲間なんだろ。安否を知りたいって気持ちは俺も良く判るからな。それにお前も手紙を出せば向こうも安心するだろう」


「早く手紙を出してアデル達を安心させるとよい。ほれ、さっさといったいった」


 そう言いながら、ジークとレヴィアは迎えの馬車に乗り込み、領主の館へと去っていった。

 ジェイムズとダンは捕縛した盗賊団を牢屋に放り込む為、何かあった時の為にとついていくようだ。ジェイムズが女性兵士の腰に手を回していたが、女好きもここまで来ると凄いな。よく修羅場にならないものだ。


 ジーク達と分かれた俺達は、真っ直ぐに冒険者ギルドに向かう事にした。ガードル達は先に宿に向かうようだ。長く装甲車に揺られて疲れたのだろうな。シブラは車酔いでダウンして、グンアに背負われていたし。


 ガードル達と別れる前に冒険者ギルドの場所を聞いてみると、中央通の一番大きな樹が冒険者ギルドのようだ。

 『サウンシェード』に入り、直ぐ見えたあの樹か。ここからでも見えるし、迷うことなくいけそうだ。

 

 秋葉とアリスを連れて、街中を歩くと当たり前だが人族より獣人の数が多かった。

 妖精のアリスは人前に出すと目立つので、俺のフードの中に隠れてもらった。

 「これなららくちーん♪」とかいってたから大人しくしてくれそうだ。

 

 帝国の所為で人族を排他しようとする動きがあるかと懸念したが、そういう事もなさそうだな。だが、場所が変わればそういう事もあるだろうな。

 村でも酷い目にあったし、一見平和に思えても油断はしないほうが良いか。

 

 冒険者ギルドに向かう途中、一部の獣人達に憎しみを込められた視線を送られたが、多分帝国の被害に遭った獣人達なのだろう。

 戦争が終わっても憎しみの連鎖は中々絶える事はないからな。こういうのは何処の世界でも一緒か。

 

 流石にそういう連中でも街中で襲い掛かってくるような真似はせず、睨み付けて舌打ちするだけで立ち去っていく。

 度々そういう視線が飛んでくるが、無視していると秋葉が気まずそうに顔を下に向けていた。

 そういえば、秋葉は元帝国の兵士だったな。無理やり、やらされていたが思う所があるのだろう。俺から言わせてもらったら、秋葉も同じ被害者だ。

 

 秋葉の歩調が少しずつ遅くなったので、ここは手を引いて歩くことにした。

 秋葉が驚いた様子でこっちを見るが、振り向かない。

 自分でも自覚するが今、俺は顔が少し赤いだろう。顔が熱い。

 全く、こうやって女性の手を引きながら歩くのは中々慣れない。ジェイムズに何かコツでも教わった方がいいだろうか。

 

 秋葉の手を引きながら、冒険者ギルドの扉を開くと一斉に視線が俺達に注ぎ込まれる。アリスはその視線に怯えたのか姿を消してフードの奥に引っ込んでしまった。

 まるで品定めをされてるような視線だ。

 ま、戦争で殺意が籠った視線に比べたら生ぬるいけどな。

 秋葉に突き刺さるのは、どちらかと言うと性的に見る視線だ。特に男共の視線は胸に集中していて、鼻の下が伸びてるのが見える。

 

 さてと、掲示板はっと……あったあった。

 掲示板には無数の依頼書が張り出されていて、内容は薬草の採取依頼や、特定のモンスター討伐依頼などが張り出されている。端には土地売りますの広告や、人体実験募集の広告がある、おい、これ大丈夫なのかよ。

 狂獣についての告知もデカデカと張り出されている。


内容は。『ダマスクリザード以上の狂獣に遭遇した時は逃げてください。今、武器が壊れても鍛冶をするドワーフ族が居ないため修繕できません。無茶、絶対ダメ』と書かれてある。


 そういえば、ダマスクリザードとの戦いで、ガードルが武器を折られてたな。

 ドワーフ族が居ないのが気になるが、受付に聞けばいいか。

 

 掲示板を隅々まで見ると、手紙が多く張り出された場所を見つけ、その中に『クローディアより』と書かれた張り紙を見つけた。

 

 張り紙の内容は『マサキへ。こっちは無事に『ワイルガード』に辿りついたわ。今は獅子頭のお師匠さんの家にお世話になりつつ、こっちでも情報を収集しているわ。ついた当初はアデルも心身不安定だったけど、今は落ち着いてギルドの依頼をやっているわね。でも、夜に寂しそうにしてるから、早めに連絡頂戴。私も、会えないのは凄く寂しいから。

クローディアより』

 

 アデルが心身不安定か……。普段が凛としてて気丈に振る舞っているが、目の前で俺達が落ちていった事にショックを受けたんだろう。リヴァイアサンの時も俺が死んだと思って泣いてたしな。

 獅子頭はネメアーの事だろう。名前を出さないのは元邪教の神官だったからか。


 ネメアーのお師匠は確か異世界人って話は聞いた。同時にネメアーを邪教団から足抜けさせる切欠を作った人物とも。信頼のおける相手と合流できたようだし一安心だ。


 アデルも今は落ち着いたようだが、早く安心させた方がいいか。ヨーコにも気楽に手紙を書いているが、堪えてるだろうし、毛並も荒れてる可能性が高い。

 ヨーコの尻尾は抱きつくと凄くもふもふして心地いいんだ。あの毛並みが荒れるのは勿体ない。



 ギルドで手紙を出したいが、受付嬢は……やめとこう。ただでさえ秋葉を狙って男達の視線が集中してるのに、絡まれる原因になりそうな女性の受付に行く理由はないな。

 ぼんやりと暇そうにしてる猫獣人のおっさんを見つけた、顔が完全に獣顔のタイプの獣人で、まん丸の腹が印象的だ。

 

「おや、いらっしゃいにゃー。ここいらで見ない新顔だにゃ」


「ついさっきこの街についたばかりだからな」


「おーそうだったんにゃね。あっちの美人の方に行かなくて良かったのかにゃ? こんにゃ腹が出た中年猫の所よりもにゃ」


「だからだよ。美人の方に行くと、要らん奴らが厄介をかけてくるだろ。それならあんたの方が良い。話してみると気が楽だしな」


「にゃはは。そういってくれると助かるにゃ。おいらはブタタというにゃ。改めて、冒険者ギルドへようこそにゃ。今日はどんな用事にゃ?」


「クローディアからの手紙を読んだので、その返事の手紙を出したい」


「おーあの手紙にゃ。とするとおみゃーさんがマサキなのかにゃ。ちょいとギルドカード見せてもらってもいいにゃ?」


 別に隠すような物でもないので、ギルドカードを出すとネコ目を細めてカードと俺をじっと見比べる。

 


「おみゃーさん、実力にあるのになんでDランクにゃ」


「見ただけでわかるのか?」


「当然にゃ。これでもギルドマスターやってるからにゃー」


 ブタタはギルマスだったのか。人……じゃないや、猫は見かけによらないものだ。しかし、ギルマスが受付やってていいのか?

 

「ここは日向ぼっこに丁度いい場所なんにゃー」


 やっぱり猫か。よく日が当たって尚且つ、風も通る絶好の場所だ。机の上には同類なのか黒猫が丸くなって寝ている。

 

「あ〜、手紙だったにゃ。手紙は銀貨3枚頂くにゃ。一週間張り出して、延長料金は一週間で銀貨一枚となるにゃ。延長料金は纏め払いもOKにゃよ」


「んー、じゃあ延長は無しで。銀貨3枚だな」


 銀貨3枚と言うと30フランか。ちょっと高めだが、こんなものかな。

 銀貨をブタタに渡すと、ブタタは引出しから頑丈な紙と羽ペン、インクを取り出した。

 

「手紙はこの紙とインクを使うにゃ。この紙とインクは魔法具ににゃってるから、雨でも滲まない優れものにゃよ。期限が過ぎると文字が消えるから更新する時は銀貨を出すといいにゃ。本人確認も済んだ事にゃし、あの張り紙は剥がしておくかにゃ」


 なるほど、高めの理由は紙自体が魔道具だからか。さてと、手紙を書くか。



 

『クローディア達へ。今、『サウンシェード』にやっとたどり着いたところだ。俺もだが、レヴィアも秋葉も無事だから安心してくれ。ちょっと余計なのも一人付くことになったが、心強い味方だ。どんな奴かはあってのお楽しみという事で待っていてくれ。『ワイルガード』までの道案内は確保した。あとは足の確保が済み次第そちらに向かう。それまで待っていてくれ。決して無茶はしないように。マサキより』




 政務でも何回か貴族や王様あてに手紙は書いたが、張り出される事を考えての手紙は書く内容に悩むが、まぁ、こんなものでいいか。

 

「これを『ワイルガード』まで頼む」


「はいはいにゃー。ついでに何か依頼でも受けるかにゃ?」


 そうだな。折角来たし、何か受けておこう。確か、狂獣の皮が常時依頼の中にあったはず。


「旅する途中で狩った狂獣の皮でも大丈夫か?」


「大丈夫にゃ。ここ最近あいつらが暴れてるお蔭で生態系が無茶苦茶にゃ。一匹でも多く倒してくれると助かるんにゃけど。ランクポイントも普通の依頼より多いにゃ。危険な依頼にゃけど、ランクを上げるのには効率はいいにゃよ」


 冒険者ギルドはランクポイントが溜まると次のランクに進めるシステムだ。

 シーサーペントを乱獲した時に十分溜まっているはずだったが、冒険者になり立てという事だったのでDランクになった時はポイントは0だ。

 

 ランクポイントが多いのは助かるな。いつまでもDランクのままだと不都合だし、こういったクエストも受けてみたかったんだよな。

 

 道中に倒したのはブロンズフロッグに、アイアンアリゲーター、シルバーラプトルに、稀にダマスクリザードだ。

 

 ダマスクリザードの皮は3枚あるが、2枚はとある武器用に取っておきたいので保存。

ブロンズやアイアンやシルバーは特に必要性がないな。全部出してしまおう。

 

「それで、どれくらいの狂獣を狩ったのかにゃ? 量によってはCにあがるにゃよ」

 

「えっとだな、ブロンズフロッグの皮は30枚に、アイアンアリゲーターは20枚、シルバーラプトルは11枚で、ダマスクリザードは1枚。これでどうだ?」


「にゃにゃにゃ!? なんにゃ、この数は!?」


「少なかったか?」


「多すぎるにゃ! しかもダマスクリザードまで狩るってどういう事にゃ……!」


 あ、やっぱりダマスクリザードはレベルが違うのか。シルバーラプトルと戦った後に、ダマスクリザードともかち合ったけど、硬さが一気に変わった。

 一緒に狩りにきた兵士の全力の振り下ろしが通用してなかったもんな。シルバーラプトルの首を刎ねる程の威力だったのに、傷一つ入ってなかったのには驚いた。

 

 まぁ、俺は幾ら防御が高くても防御無視スキルの〈無音撃〉であっさりと打ち抜いたが。『ロストドミニオン』でも斬れるんだが、〈無音撃〉の方が外傷が少なく済むんだよな。

 レヴィアも強烈な打撃で撲殺してたし、狂獣には剣より打撲武器の方がいいかもな。

 狩りの成果は半々で、残りはジーク達に渡している。

 

「ちょっ、ちょっと待つにゃ、今鑑定するからにゃー。あ、シンにゃー、こいつを伝書鷹に着けて『ワイルガード』まで頼むにゃ」


 ブタタは通りすがったシンという職員に俺の手紙を押し付けて、鑑定を始めた。

 メガネを付けて皮一枚一枚を観察している。皮の質や剥ぎ取り具合、鱗の状態などを見ているのだろう。

 

「おいおい……何だよこの数」

「アイアンアリゲーターの皮まで……」

「ちょっと待て、あれってダマスクリザードの皮か!?」


 気づけば俺の周囲に人だかりが出来てた。もうちょっとこっそり出すべきだったか。

 失敗した。

 

「ええい、おみゃーらちょっと離れるにゃ! 仕事の邪魔にゃ!」


 ふしゃーと毛並を逆立てて威嚇すると、惜しみつつも集まった連中が離れていった。

 目立ちたくないのに妙な事で目立ってしまった。ダマスクリザードの皮の価値も聞いておけば良かったなぁ……。

 

 しばらくして、メガネを置いてサラサラサラと、何か紙に記入している。これはさっきの紙とは別の物のようだ。厚さも色も違うし。

 

「肉がないのは残念にゃね。あれも買い取り対象になってるにゃ」


「あー……あれは食べた」


 ブロンズフロッグは揚げ物にして食った。鶏肉みたいな味だったな。秋葉は最初、顔を真っ青にしながら食べるのを拒否していたが、香ばしい香りに負けて手を伸ばしていた。

 「あれはただの肉ただの肉」と自分に自己暗示をかけていたのが印象的だったな。


「だろうにゃ。あの肉は美味だからにゃー。ダマスクリザードの肉とか残って無いかにゃ?」


「あるが……」


 そう答えた瞬間、ブタタの目つきが変わった。こう、獲物を定めた猛禽類のような目だ。お前猫だろ。


「後で食べさせるにゃ。それで、報酬の方にゃけど、ブロンズフロッグの皮は3枚で銀貨一枚にゃ。アイアンリザードの皮は銀貨2枚、シルバーラプトルの皮は銀貨4枚にゃ。それでダマスクリザードの皮は金貨1枚にゃね。」


「銀貨94枚に金貨一枚か。結構な金額になったな」


「計算早いにゃね。〈書記〉のスキルでも持ってるのかにゃ?」


 そんなスキルもあるのか。〈筆記〉スキルの派生で〈高速処理〉のスキルがあるがそれで代用できるのかもしれない。今回は暗算だけどな。


「いや、暗算は得意な方だからな。それで、ランクの方はどうなるんだ?」


 正直、金よりランクの方が気になる。いつまでもDランクのままだと舐められることにもなるだろうし、AまでとはいかなくてもBまではなっておいた方がいいだろう。

 

「おいおい、ブタタさん。このひょろい人族が本当に狩ったかどうか疑わしいものだぜ」


 明らかに俺達を侮るような声に後ろを振り向くと、鳥獣人に猿獣人、熊獣人の3人のパーティーがドスドスと足音を立てて近づいてきた。

 

「人族が狩れるわけがねぇよ。どうせ盗むか横取りしてきたんだろ」

「そうだ、そうに決まってる! そうじゃなきゃダマスクリザードなんて狩れる訳がねぇ!」

「貧弱な人族が狂獣なんて狩れる訳ねぇよ」


 はぁ、要らんトラブルを避けるためにこっちに来たのに、向こうからくるんじゃどうしようもない。

 

「ちょっと。言いがかりは止めてくれませんか。これは私達が狩りの成果ですよ」


 秋葉もきつい口調で言い返してるが、こういう奴等は聞く耳もたないからなぁ。

 人族を蔑んでる感じだし、周りの獣人達を見てみると、怯えや怒り、不快など様々な表情でこいつらを見ている。どうやら常習犯のようだな。


 秋葉なんて戦闘態勢に入りつつあるし、出来れば穏便にすませたいんだが。

 

「女はいい感じだな。おい、後は俺らがこの女を引き取ってやるからとっとと失せろ」


 うん、無理。秋葉に手を出すなら穏便に済ませる気はない。腕の一本でも折ろう。

 

「失せるのはお前「らにゃ」だ」


 にゃ? 俺を掴もうとした手を捻り上げ、腕をへし折ると同時にカウンターの中に居たはずのブタタが飛び出して、熊獣人の顎を拳で打ち抜いていた。

 太った見た目に反する見事な動きだった。カウンターを乗り上げて、着地と同時に流れるような右ストレートの姿勢に移っていた。流石ギルドマスターだ。伊達じゃないな。

 

「ぶべらぁぁ」


 吹き飛ぶ衝撃で捻り上げた腕がゴキっと音を鳴らして関節が外れ、熊獣人が取り巻き諸共後ろに吹き飛んだ。

 

「実力も図れにゃい坊やがゴタゴタうるせぇにゃ。おみゃーら、この前もおんにゃの子に絡んでたのは知ってるにゃ。強姦一歩手前だったこともにゃ。おんにゃのこが泣きながら内緒にしてほしいと言っていたからその場は我慢したんにゃけど、おみゃーらが脅してたのは調査済みにゃ。ここまで迷惑を掛けられると、こっちにもそれなりの対処をさせてもらうにゃ」


「ブ……ブタタてめぇ! ふがっ」


 ブタタは倒れ込んでいた男達に蹴り込んで黙らせ、顎を撃ち抜かれて気絶した熊獣人や男達のアイテム袋から冒険者カードを取り出し、何か印を押していた。カードを覗きこんでみると、印は赤だ。


「赤3回目にゃ。おめでとう、これで冒険者ギルド追放にゃ」


「おい! 嘘だろ!」

「こんなことでなんでだよ!」


 赤3回目という事は……もう2回も印押されてるのかよ。あ〜あ、可哀想に。

 反省もしてないようだし、同情の余地はないけどな。

 こんなことって言ってるが、来たばかりの人に絡んで女置いて消えろとか、そういう奴がいると、ギルドに悪評立つってわかってないのかこいつら。

 

「御託は良いからさっさと消えろにゃ。それとも何かにゃ? 蹴り飛ばされて物理的に消えたいかにゃ?」


 ブタタの猫足が光って見える。あれは……確かネメアーが使ってた〈斬鉄脚〉の予備動作だ。あれを食らったら吹っ飛ぶんじゃなくて真っ二つになるんじゃないだろうか。

 俺が知らないスキルなのかもしれないけど、ただでは済まないだろう。


「「ひいいーーー!!」」


 ブタタの足が光るのを見ると、男達は気絶した熊獣人を引きずって慌てて外に出て行った。これであいつらはもう冒険者としてやっていけないだろう。

 チラリとカウンターの中を見ると、さっきのシンという獣人が伝書鷹に新しい手紙を括り付けるのが見えた。ギルド内の書類だろう。

 こうして包囲網が出来上がり、冒険者カードを新しく発行することもこれで出来なくなるというわけか。

 

「流石、『神速』のブタタさんだ。全く攻撃が見えなかった」

「ギルマスになっても、『神速』は顕在のようね」


 ギルマスは俺達と同じ二つ名持ちだったのか。

 二つ名は自分で決めるのではなく、自然と誰かからそう呼ばれて決まるものだ。

 どういう活躍をしたかによって決まるらしいが、『神速』の名に相応しい動きだったな。


「いいもんを見せてもらった。人族のあんちゃんには悪いがありがとな」」


 険呑な雰囲気に、離れてみていた獣人達が俺達に近づいて肩を叩く。中には一緒に酒を飲まないかと誘ったり、手を出されそうだった秋葉を心配して声を掛けてくる女性冒険者もいた。

 


「おみゃーら、酒に誘うのは後にしろにゃ。マサにゃー」


「……もしかしてそれって俺の事か?」


「そうにゃ。冒険者ランクの方にゃけど、Cランクまでは余裕で溜まってるにゃ。Cランクをあがる条件の方にゃけど、聞いてるかにゃ?」


「ああ」


 冒険者ランクを上げるにはポイントを溜めるだけではだめだ。薬草採取依頼ばかり受けて実力が無いBランクなんて目も当てられないからな。

 ランクを上げるのにはもう一つ抜けるべき壁がある。Dランクは指定モンスターの討伐。


 Cランクは――。


 

「奥に訓練場があるからそこにいくにゃ」



 ギルドマスターとの一騎打ちだ。そこで一定の実力を見せる必要がある。


 さて、どうしよう。全力でやったらダメだよな……。


「正樹さん、いい人みたいですしあまり怪我とかはさせない方が……」


「分かってる。どうするかねぇ……」


 そこにはランク突破よりも、いかにギルマスを怪我させずに実力を見せるかで悩む俺達がいた。

 


感想や評価ポイントを下さるとモチベーションの維持にとても繋がるのでありがたいです。


ようやくアデル達との連絡が手紙越しですが取れるようになりました。

そして普通ならもっと早く冒険者ギルドを訪ねるのに、正樹は今頃定番イベントです。状況が状況なので仕方なかったのですが。


次回はブタタは無事生き残れるだろうか。心配する相手が違いますが、また次回。

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