ユニバーサル
村を乗っ取った盗賊達と変態ヒーロー、改めダンとの戦いを終えて早朝。
俺は寝ているガードル達を起こさないように、一人村の外れまで向かった。
アイテムボックスから『ロストドミニオン』を取り出し構える。
前まではアデルやタツマと鍛錬をしていたが、今は剣を使うのは俺一人だ。
目の前に居ない相手、昨日戦ったダンをイメージして集中する。
変態な格好をしていたが、ダンの実力は確かだった。ガードのタイミング、回避や立ち回りは俺より上だろう。
この差は〈無敵〉を使っている所為なのだろうか。しかし、ダメージを受けないという利点は果てしなく大きい。出来る限り常用しておきたいが、何時バレるかいつも怯えている。
イメージしたダンも動きは機敏で中々捕えられないが、こうも遠慮なく叩けそうな相手と言うのも珍しいと自分で思う。変態だからな。
汗を流しながら剣を振るうが、後ろから誰かが近付いてくるのがマップで判り、剣を振るうのを止める。
「朝から精がでるのぅ」
「レヴィアか。今日は珍しく早起きだな」
いつもは飯が出来るまで起きてこないのにな。朝食が出来上がると同時に起き上がってくるから呼ぶ手間は省けている。
「まぁのぅ。それで、何か悩んでおるようじゃな」
「ああ。どうにも、このままじゃダメな気がするんだよなぁ」
「声を掛けたついでじゃ。お主に稽古をつけてやろうかの」
「稽古? 剣も使えるのか?」
「うむ。これでも無駄に長く生きておるからのぅ。人の持つ剣術なぞ朝飯前じゃ。ところで今日の朝飯は何かのぅ」
そこでその話題になるか。本当に食欲旺盛だな。この小さな体の何処に山のような食事が入るのか本当に気になる。
「独りじゃどうも行き詰ってた所だ。頼む」
「よいよい。お主の飯は美味いからのぅ。では、さっそく」
レヴィアが水晶で出来た剣を何処からか取り出して構える。
ふらっとレヴィアが揺れたかと思えば次の瞬間には近づかれ、避けようとしたが間に合わず袈裟切りにされた。
〈無敵〉越しに衝撃が通り、強い振動が体に響く。
「見えはしたようじゃが、体が付いて行っておらぬようじゃな。それにしてもお主の防御壁は凄まじい物があるのぅ。戦闘不能にするつもりで斬ったのに無傷とは恐れ入る」
一撃で終わらせるつもりで打ったのかよ! 危ねぇな!
「痛みが無い訓練は体に染みこまぬ。見ればタツマとの鍛錬でもその防御壁は外しておったじゃろ。なら」
「分かってる。……これでいい。続けてくれ」
〈無敵〉を外して改めてレヴィアと対峙する。
ゆらりと消えたレヴィアと鍛錬が始まった。
◇ ◆ ◇
「マ、マサキさん。どうしたんですか!? そんな大怪我を! 大丈夫ですか!」
「いつつ、大丈夫大丈夫。骨も折れてないし打撲だけだ」
レヴィアとの鍛錬は一方的に叩きのめされるだけだった。
まさか剣を持ったレヴィアがあそこまで強いとは思わなかった。ステータス底上げで動きは見えるが、本当に体が追いつかない。
自分がどれだけスキルに頼っていたのかが体を以て教えられ、ようやく一撃を入れれた頃には朝食の時間になっていた。
「ふぅむ。まだまだじゃな。しかし、最後の一撃は良かったぞ」
「良く言うよ。最後の瞬間、何かに気を取られただろ」
「う、芳ばしいベーコンの香りが凶悪だったのじゃよ……」
一撃を入れて鍛錬が終わり、痛む体を引きずりながら宿屋まで戻ると本当に朝食がパンと、スクランブルエッグと焼いたベーコンだった。ベーコンはジーク達から提供されたものだ。ドンファンゴというイノシシ肉で作ったベーコンらしい。
折角一撃を入れれたというのに、これに気を取られたという事に肩を落としつつ朝食を4人分注文する。アリスの分は別で作るから、これはフェンの分だ。
昨日はこっそり『ルーム』を使って声を掛けたら、一人寂しく夕食を食べていた。俺達はもう飯を食べ終わった後だったからフェンが食べ終わるまでのんびりと話をしたが、流石に連日で独りぼっちは寂しいだろう。
使われてない空き部屋を借りて『ルーム』を使って小窓を出す。
「フェン、起きてるか?」
「あ……はい。起き……てます。えっと、おはよう……ございます」
フェンが小窓を開いて礼儀正しく挨拶をした。もうメイド服に着替えている。別に屋敷じゃないんだから普通の格好をしてもいいと思うんだが。
フェンにもいくつかコスチューム衣装を渡してある。ポップな感じで可愛らしい服装だ。
それでもフェンはメイド服の方が落ち着くらしい。俺も見慣れてるし、可愛いからいいんだがな。
空中に『ルーム』の小窓を出して、俺と秋葉とレヴィアとアリス、そしてフェンの四人+一匹でテーブルを囲みながら朝食をとる。
小窓のサイズはフェンなら辛うじて出れるくらいのサイズだ。這い出るような感じで小窓から出てもらい、椅子に座らせる。
アリスのは甘く作ったフルーツオムレツだ。これは料理長は作ったことがないらしいので、厨房を借りてさっと作った。
フェンは小さな口でサクサクサクとパンを食べる姿が可愛らしい。秋葉が口元に付いたミルクを拭うと恥ずかしそうに顔を赤くしてた。
レヴィアは俺の分のベーコンを取ろうとしたのでフォークで防ぎ、食卓の上で拮抗する。
「ぬぐぐ。鍛錬の時より対処が速くないかの」
「誰かさんから鍛えられたからな。俺の分はやらん」
ナイフを厚切りのベーコンに刺して、がぶりつくと口の中いっぱいに燻製肉と肉汁の味が広がる。元の世界のベーコンとは味が違うが、これはこれで美味い。
あぁっと悲しそうな目でレヴィアが見てると、フェンがベーコンの半分をレヴィアに分けてあげていた。
「フェン、ありがとうじゃー!! お主は本当にいい子じゃのぅ」
「い、いえ。ど、どういたしまして……」
レヴィアはフェンを抱きしめながらワシワシと頭を撫でて抱きしめていた。
まるで姉妹のようだが、立場が逆だ。海神が神喰らいに朝食分けてもらってどうするよ。
フェンに和みつつ、朝食を終えると惜しくはあったが再びルームの中に戻ってもらった。
いずれこういう風にこそこそとせずに、獣王国でもちゃんとフェンを外に出してやりたいものだ。
朝食を終えると、次はジーク達との話だ。
ジーク達は元村長宅に拠点を構えている。宿屋以外では一番広い家だ。
どうやら村長の娘も奴隷として囚われていて、性奴隷にされていたらしい。
もし、仮にあと少し遅ければ秋葉も酷い目に合っていただろう。本当に間に合ってよかった……。
元村長宅に付くと、入り口に二人の兵士達がいた。
背筋を伸ばし、綺麗な敬礼に驚きつつもノックをすると、いきなり怒声が聞こえた。
「ジェイムズ! お前という奴は!」
「ジーク、何をそんなに怒ってるんだい。ほら、かわいこちゃんが怯えてるじゃないか」
「当たり前だろうが!」
一体何があったんだろう……。
このまま入るのも気まずいし、もう一度ノックをする。
「おや、ジーク。彼らじゃないかな。秋葉ちゃんにレヴィアちゃん、アリスちゃんだね。あとマサキだね」
まるで俺がおまけのような扱いだ。彼らには宿に戻る前に軽く名前だけ自己紹介をしている。
「ちっ。このことは後できっちり話をつけるからな。マサキ、入ってくれ」
「あ、ああ」
家に入るとそこには、簀巻きにされたダンと、女の子の肩を抱いているジェイムズ。そして不機嫌そうな顔をしているジークの姿があった。
一体、この状況はどういうことなんだろうか。
「えーとだな、色々突っ込みたい所があるんだが、ダンはどうしたんだ?」
「マサキ、ヘルプミー!!」
ダンが陸にあげられた魚みたいにびちびち跳ねてる。正直気持ち悪い。秋葉もレヴィアもドン引きだ。アリスは面白がってるけどな。
「ああ、こいつは昨日の騒ぎの罰で拘束してある。ほら、お前は言う事はあるだろう」
「ああ! サインなら解いてくれたら直ぐにでも」
そんなものはいらねぇ!
すると、ゴツンっとジークから鉄拳が振り下ろされた。あのごつい手で殴ったら相当痛そうだ。まるで親父の鉄拳。
「馬鹿野郎! 謝罪だ謝罪! お前まだ一度も謝ってないだろうが!」
「オウ! シット! そうだった! マサキ、この間はソーリーね。この通り」
そういうとダンが芋虫のように体を動かして頭を地面にこすり付けた。
これは……土下座のつもりなのだろうか。正直気味悪い。
「ま、まぁ。マサキさん、ちゃんと……かどうかは分かりませんが、謝ってますしこのくらいで」
「あ、あぁ。分かった」
「このような謝り方初めてみたのぅ……」
うん。俺も芋虫のような土下座は初めて見た。あまり見ていて良い物でもないから止めてもらおう。
ダンの謝罪が終わり、微妙な空気のまま話し合いが始まった。因みにダンはまだ簀巻きにされたままだ。罰として当分の間はずっとこのままらしい。
まずは俺達から話を聞きたいという事なので、とある目的で獣王国に用事があり、その際に村で襲われた事を事細やかに伝える。
秋葉達が襲われた所になると、つい言葉が強くなってしまったが、ジーク達は冷静に聞いてくれた。同時に、ふつふつと内心盗賊達に対して怒りを感じるのが見て取れた。
「そうか。俺達は依頼されて、最近の冒険者失踪の件について調べてた冒険者だ。調査の結果だが、どうにもこの村との境で姿を消していてな。ここの門番に詳しい事を聞いてもさっぱりだ。んで、裏事情に詳しい奴に聞いてみると、どうやらその門番が妙に金の羽振りがいいと報告が上がっていた。交代で街に戻ると高い酒を飲んで、娼館にも入りびたりになってたらしい。兵士の給料じゃとても手がでねぇ娼婦とも寝たってな」
「なるほど。それならここの門番が奴隷商人と手を組んでいたと読んだってわけか。しかし、よく兵士まで連れ出せたな。しかも指示には良く従ってるようだし」
「ああ。そいつは依頼主が南領の領主だからだよ。リデアってお方だ。俺達がこの世界に来てから世話になってる恩人だ。兵士の方は俺も兵役で教えてもらったことを教え込んだだけだ」
「俺も教えたよー」
「おじさんも昔の時を思い出しながらだったねー。いやー、辛かったけど役に立つとは思わなかったよ」
そうか。国が違えば兵役がある国もあるもんな。後で聞けばジークはドイツ人、ジェイムズはフランス人、ダンはアメリカ人らしい。なんというユニバーサル。
道理でさっきみた兵士達は統一が取れていたわけだ。
多分、ジークが必死に頑張った結果だと思う。ダンのいう事は余り当てにならない。ジェイムズは判断に悩む所。
軍方面での知識がある奴はうちの領地にも欲しいな。
タツマは良くやってるともうが、あれは我流だ。
しっかりとした訓練と戦術を学べば兵士達ももっと強くなれるだろう。
ヨルムンガルドの件が片付いたら勧誘してみよう。ダン以外で。
「それで、さっきマサキが言った通りビンゴだったわけだ。だが、この近辺には盗賊が出るって話もあった。救援の伝書鷹が来た時、本当に盗賊か、それとも冒険者か確認する必要があったんだが、この馬鹿が話を聞かずに突っ込んでな……このザマだ」
「ごめんよー……」
「まぁまぁ、ジーク。それくらいでいいじゃないか。結果的にだけど、ちゃんとした証拠も押さえれたし、かわいこちゃんも助けることが出来たんだからさ」
ジェイムズが隣にいる女の子を抱き寄せる。さっきから気になったがこの子は誰なんだろうか。
「あ、この子は村長の娘さんだよ。全く、女の子を傷物にするなんて許せないね。女の子はあの人の言う通り世界の宝なのにさ。ふふ、今日も心身までケアしてあげるからね」
「お、お願いします」
おい、心身って何するつもりだ。顔を真っ赤にしてるところを見るとさっきジークが怒鳴ったのはこの件か。ため息ついてるし恐らく当たりだろう。
まぁ、嫌がってる様子はないし。いいかな。恋愛は個人の自由だ。
まだ彼女には隷属の首輪が付いていたので、盗賊王の針金を使ってさくっと外す。
簡単に外せたことにジーク達は驚いたが、マジックアイテムという事で納得してくれた。
確かに性能的にマジックアイテムだよな。何でも外せるし、むしろ何が外せないのか気になるくらいだ。
後、気になる事で何故到着があんなに早かったのかと聞くと、伝書鷹で門番の仲間宛に手紙が来ていたが、ジーク達はそいつも捕えていたらしい。魔力嵐で念話が通じない場合はこういう通信手段があるのか。
手紙で事件を知ると、この川の上流にある村からカヌーで川を下り、その後、兵士達が集まるのと準備を整えている間にダンが一人先走って俺達を盗賊と勘違いし、襲い掛かったと。アホだな。
今後、この村は代わりの村長が来るまで兵士達が駐留することになるらしい。確かにこの村が無くなると冒険者達も困るし、奴隷として売られた村民達が戻ってきた時にモンスター達に乗っ取られてたら意味が無い。
「まぁ、村に関してはこんなもんだ。それでマサキ、お前達に聞きたいことがあるがいいか?」
「なんだ? 答えられる範囲でなら答えるが」
「何故獣王国を目指している? 狂獣が暴れてるって話は知ってるはずだ。しかも女子供を連れて。何か深い事情でもあるのか?」
「それは……」
答えにくい所がきたな。さて、どうするべきか。
「妾達は大地の大神殿を目指しておる。ちと、ヨルムンガルドについて情報が欲しくてのぅ」
「はぁっ!? ヨルムンガルドってあの三龍のか!?」
「おい、レヴィア。言っていいのか?」
こういうものはもう少し信頼置ける相手を選んでやるべきじゃないだろうか。
ジーク達は良い奴だと思うが、まだこの件について巻き込んでいいのか悩んでたというのに、あっさりと教えやがった。
「構わぬ。今は少しでも情報が欲しい所じゃしの」
「レヴィアが良いのなら別にいいんだが……」
レヴィアが訝しむ俺の耳に顔を寄せてくる。
(以前、見せたアレもあることじゃしの。記憶を暴くスキルじゃ。仮にこやつらが通じておるなら、引き出してしまえばよい)
ああ、〈ログ解析〉か。確かにあれを使えば情報は根こそぎ引き出せるな。黒い歴史も。
そう気軽に使っていい奴でもないが、情報を手に入れるには最適だな。
「ヨルムンガルドに関する情報か。すまん、それに関してはリデアさんの許可が無いと俺達からは話せない」
つまり、ジーク達も何か情報は掴んでるみたいだな。
領主の許可さえあれば教えてもらえそうだ。最悪、荒事も候補にあったがどうやら穏便に済みそうだ。殴るのはダン(変態)だけでいい。
「ふむ、ならリデアと繋ぎを取ってくれぬかの」
「リデアさんを呼び捨てってお嬢ちゃん……。分かった。だが、あの人は忙しいから会うには時間がかかるかもしれん」
「こいつを渡せば直ぐに会えるはずじゃ」
レヴィアは何処からか水色に光る龍鱗を取り出して、ひょいっと無造作にジークに放り投げる。
もっと大切に扱ったらどうだろうか。それ、王子たちが喉から手が欲しがるほどの貴重品だぞ。
「こいつは……、わかった。やるだけやってみよう」
「うむ。頼んだぞ」
勝手に約束を取り付けてたが、レヴィアの知り合いなら信用が置ける相手という事だろう。しかし、南の領主の月兎族ってどういう人なんだろうか。
その後、ジーク達は準備に四日かかるが南街に戻る際、一緒の馬車に乗るかと言われたので同行することに。
事後報告になってしまったがガードル達にもその事を伝えると、補給や武器の手入れが必要で南街に一度戻る必要があったので丁度良かったらしい。
俺からの依頼も二つ返事で受けてくれた。
ダマスクブレスレットを報酬先払いで渡すと、全員が性能の凄さに絶句していた。
うん、やりすぎたかもしれん。後悔はしてないが反省はしよう。
さて、時間が出来たのでレヴィアと鍛錬と行きたいが、先にやる事はやっておこう。
まずはガードルに渡したミスリルソードを錬金術スキルで〈アイアンコーティング〉を掛ける。綺麗な薄緑色をしていた剣が鋼色になったことにガードルは焦っていたが外見を変えただけと言うと冷や汗をかきながら落ち着いてくれた。事前に説明するべきだったな。これ。
後は自分の武器も〈アイアンコーティング〉を掛けて偽装を掛ける。地味に攻撃力が+3上がった。そういえば、そういう効果だったな。使い道が無い死にスキルだったから正式な効果を忘れていた。
〈アイアンコーティング〉は攻撃力が+3されるが、見た目が鉄武器になるということなので使う人が少なく、すぐに上位スキルの〈ミスリルコーティング〉が使える様になるので使われることが無いスキルだった。更に上位スキルでや〈プラチナコーティング〉、〈ダマスクコーティング〉、最高峰で〈オリハルコンコーティング〉などもあるが今はやめたほうがいいだろう。付与には各種鉱石が必要だ。オリハルコンの在庫は限りなく少ないから使うつもりはない。
出発までの間、レヴィアにボコボコにされ、秋葉に心配され、アリスに笑われながら二日間を過ごした。
その間、深夜に一緒に戦った冒険者達は半分ほどが村から移動した。南街に向かう人もいれば、また別の村に向かう人。逞しい商人の中にはこの村で露店を開く人もいた。復興をするなら商機と思ったんだろう。
常時兵士もいるし、地形の関係上ここには訪れる人も多い。店を開くには良い場所かもしれない。
出発する前にはボコボコにされた成果か、少しマシな動きになったと言われた。
俺の剣の肩は我流だ。無駄な動きが多いと、レヴィアには何度も剣の型を指摘され、徹底的に扱かれた。お蔭で体中が痛みで悲鳴を上げている。
痛みで意識を失えばポーションで叩き起こされる。ステータスの所為でスタミナはあるから疲れで倒れる事さえできなかった。
出発前には思ったより剣を早く振るえるのが何となくだが感じた。
レヴィアによると素質はあるらしい。何がとは言わなかったが多分剣だろう。
高校で剣道の成績も5だったからな。ネトゲする為に部活は入らなかったけどな。
出発の準備を終えると、ジーク達が用意してくれた馬車っぽいのに乗り込む。
っぽいというのは馬車を引いてるのが馬ではなく、サイだった。しかも体毛が黄色で、角は黒いサイ。引く乗り物の方も鉄製で出来ていて、まるで装甲車だ。現代知識を駆使して何とか作ったのだろう。狂獣相手には木製馬車じゃ心もとないしな。
「こいつはな、乗り物で使われるジェノスライノスだ。従順で足も速く、狂獣でさえ物ともせずに吹き飛ばす力も持っている。こいつに乗っていく」
「こいつに弾き飛ばされたら狂獣でもひとたまりもないな。頼りになりそうだ」
グルルと、任せろというように唸るジェノスライノスにガードルがビクっと驚いていたが、エリスに蹴りを入れられて無理やり装甲車の中に押し込まれる。尻に敷かれてるなぁ。
シブラもグンアも慣れた様子で笑いながら乗り込んでいく。
俺達も装甲車の中に入ると、中は思ったより広く、座椅子は綿と毛皮を詰めていて柔らかかった。
馬車と聞くと硬い椅子と言うイメージがあったが、内装もしっかり手を加えていた。こういう所は各地の異世界人達に感謝だ。
「おお、このような馬車には初めて乗るのぅ。ふかふかじゃなっ」
「あ、ずるい! 私もー!」
広々と開いた席にレヴィアが寝転がり、競う様にアリスも一緒に寝転がる。二人ともフカフカな椅子にご満悦でそのまま寝そうな勢いだ。
座椅子を確認すると、根元にサスペンションが入ってるような感じがする。長距離移動用に簡易的なベッドにもなるようだ。
車内は広いが、片方がレヴィアとアリスに占領されたので秋葉が隣に座ってきた。ふわっと柑橘系の香りが漂う。そういえば、風呂が無かったから代わりにシャンプーだけでもとルーム越しにフェンから貰っていたな。
女の子は髪が命だし、秋葉の綺麗な赤い髪は俺も好きだ。
そういえば、この間のあれを謝らないとなぁ……。治療行為とはいえ、秋葉の唇を奪ってしまった。
いつか謝ろうと思ってると、つい先延ばしにしてしまっている。
「マサキさん、何か悩み事ですか?」
「ん、いや。なんでもない。それよりそろそろ出発するぞ」
南街に着いたら謝ろう。うん、それがいいな。下手に先延ばしにし続けると、どうにも気まずい。
御者が手綱を操り、ゴトンとジェノスライノスが歩き出すと、寝転がっていた二人が同時に床に落ちて頭を打った。ゴンっと軽快な音が車内に響く。いい音がしたな。
「「いったーー!!」」
同時に頭を押さえる二人の様子に俺と秋葉は笑いつつ、ジェノスライノスが引く装甲車に揺られながら、森を切り開かれた道を走っていく。
感想や評価ポイントを下さるとモチベーションの維持に繋がるのでとてもありがたいです。
ただの馬だと狩られるので乗り物としてはこういうことに。異世界人が多いと、各自好き勝手に現代知識を使うのでこういうことも。




