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獣人の宿

今日からいつも通りのペースで投稿になります。病気は無事治りました。ご心配を掛けて申し訳ございません。

「はぁー。『妖精の抜け道』から落ちてこんなところに着いたのか。そいつは災難だねぇ」


 村に着くまでの間に、これまでの事情をガードル達に説明した。勿論、面倒事を控える為に貴族や英雄とか呼ばれてることは隠しておく。バリーじゃあるまいし、自分で英雄とか言うのは嫌だ。


「それでも、飛ばされた先が南領で良かったな。規律が厳しい闘獅子バトルレオ族が領主を務める北や、最近、きな臭い動きをしてる西じゃなくてよ」


 この辺りの話はネメアーやガルムから聞いている。南の領主は月兎ルナラビィ族で東の領主は熊猫族だ。外見を聞いてみると完全なパンダだった。西の領主は王鳥ガルーダ族で怪しい動きがあるとガルムから聴いている。

 本当に変な所に飛ばされなくてよかった。アデル達は無事、中央の獣王国に着けただろうか。


「まぁなぁ。道案内頼んだのもこんなのだったしな」


「なによー! 人と会えたからいいじゃない!」


 ふくれっ面で俺の頭の上で足をばたつかせるアリス。脚が額に当たってウザい。

 更に俺の肩の上にはレヴィアも乗っている。

 

「お前ら歩けよ! 俺は乗り物じゃないっての」

 

「はははっ。ここまで妖精に気楽に接してもらえる人間ってのも珍しいですね。普段は人にもですが、獣人である私達にも姿を見せないものなんですよ。私も初めて見ましたし」

「そーそー。私も初めて見たよー」


 グンアとネシアも初めてなのか。気楽なのはこいつの性格の所為もあると思うんだが。

 雑談しながらしばらく歩くと、マップの端に村が見えてきた。暗くなる前にたどり着けそうだ。良かった。村の名前はドラン村と言うらしい。


「マサキさん。そろそろライト点けますか?」


「んー、大丈夫だろ。マップで村も見えてきたし。あと30分も歩けば着きそうだしな」


「マサキさんのマップ広いですね……」


 まぁ、GM専用だしな。フィールドマップでも相当遠くまで見通せるし、街中や城だと全体図が見えるくらい高性能だ。

 秋葉は固有スキルの一つで〈ライト〉を持っている。使った時にだけヘッドライトが出現する。普段からつける必要がないのは便利だな。


「まっぷ、ってなんだ? 地図とは違うのか?」


 俺達の会話を聴いていたガードルが首を傾げながら聞いてくる。地図とは違うものだな。


「あ〜、異世界人特有の能力の一つだよ。周辺の地図を空間上に出す奴だな。持ってる奴も多いはず」


「異世界人ってのは凄い能力持ってるんだな。俺らも欲しいぜ」


 彼らには異世界人という事も伝えてある。俺達の強さに疑問を持っていたし、変に隠して疑いを持たれたら面倒だからな。


「南領の衛兵の中にも異世界人がいるって話は聞いたことあるわ。そこの彼女みたいに銃? と言うのを振り回して暴れてる狂獣を難なく仕留めたって話は聞いたわ」


 こうして異世界人に関しての情報が聞けたのは助かる。勿論面倒事も来るとは思うが、今はヨルムンガルドの事もあって情報は出来るだけ集めたほうが良いだろう。

 情報と言うとヨルムンガルドの事に関しても忘れない。レヴィアの話によるとヨルムンガルドは獣王国にある大地の大神殿で奉られているのでそこで詳しい話を聞く予定になっていた。

 こうして飛ばされたので全員集まってからじゃないといけないけど、先に情報は入れておくほうが何かしら役に立つだろう。勿論、偽の情報もある可能性があるのでその辺りは吟味するしかない。


「そういや、アンタから貸してもらったあの剣もすごかったよなぁ。アレも異世界の物なんだろ?」


「あ〜。そうだな。同じ出身の奴が居ない限り、唯一無二かもしれない」


「なら、気を付けたほうが良いぜ。あの狂獣の硬さの所為で武器が不足しちまってるからよ。西の領主が冒険者や傭兵から良さそうな武器を巻き上げてるって話だ」


 傭兵や冒険者から武器を巻き上げるって殺す気かよ。とんでもない領主だな。

 ここ南の領主は穏やかな人なので、そういったことは毛嫌いしているがここ最近の狂獣騒動で合同任務も多く、横暴な西の兵士達が南や北でトラブルを起こすことが多いらしい。

 秋葉の重火器は別で、扱えないものは取り上げることはしないらしい。


「じゃあ、代わりの武器を何か見繕った方がいいか。別にこれじゃないとダメと言うわけじゃないからな」


「それが出来ればいいんだがなぁ。この先の村じゃ、品ぞろえに期待できそうにないかもしれないぜ。ロングソードぐらいならあるかもしれないけどよ」


 そういえば、ガードルの折れた剣もロングソードだったな。これなら狂獣も倒せるらしいが、消耗が激しそうだ。

 村で同じようなロングソードを買ったとしても、また折れては意味が無いだろう。ここは俺が一肌脱いでみようか。

 

 素材は『ルーム』の中に入れてあるから、手持ちの素材で何とかするしかない。あるのはミスリル旧貨幣と、アダマン鉱石、さっき料理する時に伐採したボルボリー原木に、先ほどはぎ取った狂獣ダマスクリザートの皮、ダマスクスケイルだ。

 ガードル達が倒したのは俺達だから、全部の皮を俺達に譲ろうとしていたが断った。

 冒険者は金が必要だろうし、このダマスクスケイルを見ると結構な値段で売れそうだからだ。正直、あまり金には困って無いしな。

 

 ガードル達を説得して2枚だけダマスクスケイルを貰う事にした。

 何かに使えないかと鑑定してみると、製鉄したらダマスクインゴットになるようだ。

 これをメインにして何か良いのを作ろう。ボルボリー原木は盾向きの素材なので保留。

 製鉄したダマスクインゴットを〈品質向上〉で素材のレベルを上げてから加工するのもいいな。どんな金属になるのかが気になる。

 

 そう考えていると、袖を引っ張られた。後ろを見ると秋葉が不安そうな表情を浮かべながら見上げていた。


「マ、マサキさん。変な武器作ったらダメですよ?」


「え? なんで分かったんだ?」


「はい。何か、また新しい武器を作ろうかと考えてるような顔でしたよ」


 俺はそんなに表情に出ているのかな。確かに、武具を作る時は楽しいけどさ。

 そういえば、俺があの提案した時も怒られたな。

 農作業や土木作業している者全員にステータス上昇の腕輪を送るのは、いい案だと思ったんだがなぁ。素材なんて二束三文の銅と鉱石だし。

 だが、それを狙って野盗や盗賊が領地に集まられては困るので俺も渋々諦めた。

 代わりに衛兵達にはステータス上昇する魔法具セットを送る事は妥協させたけど。


「大丈夫大丈夫。流石に人に渡すもので変な武器は作らないから」


「それならいいんですけど……」


 武器を作るにしても鍛冶場が無いと難しいからな。村にいいのが無ければミスリルソードでも渡そう。アクセサリーなら彫金キットがあるからどこでも作れる。

 ダマスク製のアクセでどこまでステータスを伸ばせるかが勝負だな。


「お、マサキの言う通り村が見えてきたな。いやー、よかったぜ。帰り際にモンスターに出くわさなくてよ」


「本当にね。アンタが武器ないからマサキさん達に頼る事になりそうだったよ」


 そういえば、不思議なくらいにモンスターが俺達を避けてたな。もしかすると……視線を上に向けてレヴィアを見上げる。


「ふふんっ♪」


視線が合うとレヴィアは自慢げに無い胸を張った。やっぱりこいつが何かしてたのか。マップにはモンスターの反応があったんだが、ある一定の範囲から近づかなかったから不思議に思ってた。

 虫よけバリヤーみたいな事が出来るなら旅するうえでは助かるな。


「ぬぅ、マサキ。今、失礼な事考えなかったかのぅ?」


「気の所為だろ。それよりも、宿でダマスクリザードの肉を使って何か作ってもらおうか。丸々肥えてて美味しそうだぞ」


「うむっ! 楽しみじゃのぅ」


 ちょろいな。上手く逸らすことが出来た。

 

 村、ドラン村にたどり着くと入り口で門番が出迎えてくれた。村は思ったより小さいが、それでも門番が居るという事は狂獣の問題が深刻化しているという事か。

 門番の女性陣を見る目がなんかいやらしかったので、さっさと門を潜り、村の中に入る。

 女性陣もその視線に気づいていて、門番の姿が見えなくなるとはぁっとため息をついた。


「ジロジロしてて嫌な視線……」

「あんな門番で大丈夫なのかしら」

「さー? そんなことよりもお腹すいたー。ゴハンたべよーよー」


 シブラのネズミの尻尾が力なく垂れ、腹からぐーっと空腹を訴える音が聞こえた。


ぐー。ぐー。 俺の頭の上からも聞こえた。しかも二つ、レヴィアとアリスだ。


「腹減ったのじゃー」

「お腹すいたよー!」


 腹を空かした二人が俺の上で駄々を捏ねる。

 ええい、足をばたつかせるな、頭をかじるな!


「ははっ、こりゃ早めに宿に行った方がいいな」


「すまないが頼む。このままじゃ俺の髪が酷いことになる」


 もう髪の毛は涎でべたべただ。宿に風呂があるといいんだがなぁ……。

 




 案内された宿は小さな村の割に大きく、俺達の人数でも余裕で泊まれそうなくらい大きな宿だった。

 ガードルを先頭にして、宿の受付をしてもらう。この宿屋の親父は熊の半獣人だ。剛毛の髭が生えていて半の意味が無い気がする。


「3人と4人二部屋だが、空いてるか?」


「はいはい。ちょうど二部屋開いておりますよ。部屋は両端で離れてしまいますがよろしいでしょうか?」


「ああ、大丈夫だ」


 二部屋しか空いてないって結構繁盛しているな。見た限り10部屋くらいはあるけど、俺達で全部埋まったのか。


「のぅ、マサキー。飯はー」

「飯ー!」


 ええい、人の頭の上で騒ぐな!


「はぁ、すまないが先に飯にしてもらっていいか?」


「はいはい。当店自慢のジュワ鳥の丸焼きがお勧めですよ」


 何とも美味しそうな名前の鳥だな。丸焼きなんて社内のクリスマスで、先輩がターキーを会社の敷地内で焼いた時ぐらいしか食べたことが無い。スープも絶品で美味かったな。




 ◆ ◇ ◆




 宿の裏は酒場になっていて、そこで食事も出来るようだ。今日は夜に作業するから酒は少しだけにしておこう。

 二つのテーブルを付け、7人+1匹でテーブルを囲む。これだけの大人数で囲んだのは海賊団で食べたきりだ。あいつらも元気にしてるかな。

 

 全員分の酒を注文すると馬の耳と尻尾を生やした給仕が手慣れた手つきで全員分運んでくる。

 飲み物が揃うと乾杯だ。ふと、思ったがこの風習もこの世界では当たり前に馴染んでるな。過去に誰かが広めたのだろうか。

 因みに、アリスだけは酒が飲めず、特別に蜂蜜入りミルクを作ってもらった。店主も妖精が珍しいらしく、無邪気に俺や秋葉にじゃれついてる様子に驚いていた。

 レヴィアは見た目は子供だが、実年齢は立派な大人なので酒は飲める。獣人でも大人なのに子供に見える人種はいるので特に咎められることはないようだ。

 

 ぐびぐびっとエールを呷る。うん、生ぬるい。氷の魔法でもぶち込みたい気分だ。

 魔力嵐ガストは大気中を汚染してるので、部屋の中でも魔法は使えない。水の中は知らないが、下手に『ルーム』とか唱えて部屋中が水浸しになったらフェンが可哀想だ。


 料理が届くまでの間、ガードル達の冒険の話を聞く。

 結構長くパーティーを組んでいるらしく、様々なダンジョンを攻略したり、帝国との戦いで獣王国側で戦ったりしたようだ。


「そういや、マサキ達は冒険者ランクはいくつなんだ? 俺達は全員Cだぜ」


「ん、俺はDだな。秋葉はCだったよな?」


「はい。素材を取る為に何度かダンジョンに潜る事があったのでそれでCランク貰いましたね」


「妾はAランクじゃな。ダンジョンも所有しておる」


「はぁ!? ダンジョン所有してるってどういうことだよ。マサキも、あの強さで何でDなんだよ! 絶対AかBだろ!」


「事情があるんだよ。丁度料理がきたし、食べながら話す」


 頼んだ料理はジュワ鳥の丸焼きに、ダマスクリザードの煮込み、ドテキャベツとオニミリオンのサラダだ。ダマスクリザードの煮込みはメニューにはなかったが、一頭分の肉を提供して作ってもらった。

 ジュワ鳥は切り分けると中から肉汁があふれ出ていた。これがジュワ鳥の名前の由来だろうか。

 噛みしめると口の中でうまみがあふれ出る。うめぇ。

 

 ダマスクリザードの煮込みは思ったよりあっさりしていて、脂で疲れた舌を休めるのにちょうどいい。うん、こいつの肉は煮込みがいいな。焼いたら硬くなりそうだ。

 箸休めでサラダも食べながら、Dランクの事情を説明する。ダンジョンにも籠ったことが無く、依頼は緊急依頼でシーサーペントだけを倒した事があるという事を教えるとすげぇ驚かれた。

 レヴィアは昔に色々あったという事ではぐらかしていた。正確な事はいえないよな。ガードル達もAランク相手には追求しづらくそれ以上聞くことはなかった。

 その代わり、追及が俺に来ることになったがな。


「おいおいおい、どうやったらあのシーサーペントを何十体も倒せるんだよ。というかどういう状況でそうなるんだよ」


「こっちでも色々あったようにランド大陸でも色々あったんだよ。帝国が本格的にセントドラグ王国を攻めていたし。それでダンジョン潜る暇なんて俺にはなかったからな」


 レヴィアも操られてたし。流石にレヴィアがリヴァイアサンという事は隠してある。本人も騒動になるのは嫌っているし、その為のこの姿だしな。


 因みにレヴィアは今、ジュワ鳥の肉に食らいついている。エリスが切り分けて楽しそうにレヴィアに食べさせていて、美味しそうに頬張るたびにエリスの黒いウサ耳がピコピコと動いている。触ってみたいが、怒られそうだな。


「それならクランにも入ってねぇのか?」


「ああ。冒険者ギルドに登録したのも最近だし、クランにも入ってないな」


 クランは大規模なパーティーで、元のゲーム感覚で言うとギルドと同じだ。

 

「はー。それは勿体ないですね。マサキさん達の実力なら上位クランの人達が欲しがりますよ。よかったら俺達のクランに入りませんか?」


「おいおい。グンア、団長の許可得ずに勧誘するのはマズイだろ。っても団長も欲しがるだろうけどな」


「勧誘はありがたいが、事情が合って入れないんだ。あ、誤解が無いように言っておくがブラックリストに入ってるわけじゃないからな?」


 冒険者ギルドで聞いたが、詐欺や恐喝や暴行をする悪質な冒険者もいて、そういった連中はブラックリストに載るらしい。クランに入る手続きをする時には冒険者ギルドを使うので、自然とそういう奴等は弾かれるような仕組みになっている。

 犯罪を犯したり、運ぶように頼まれた物を盗んだりとかすると冒険者カードに赤字で専用の印がでるらしい。赤い印が3つ集まると冒険者ギルドの使用が禁止になる。イエローカードかよ。


「事情があるのなら仕方ないわよ。はい、レヴィアちゃんあーん」


「あーんじゃ♪ うむ、美味いのぅ」


 エリスが凄くご機嫌に食べさせている。傍から見ると仲のいい姉妹だな。歳の差は果てしなく離れてるけど。


「あ、マサキさん。肉汁が……」


 秋葉の指を差したところを見ると、襟の所に汁が付いていた。コスチューム衣装でも汚れるんだよなぁ。


「ありゃ、話に集中してて汚れてたか」


「ちょっとじっとしてくださいね。早く拭けばシミにならないと思うので」


 水で濡らした布で丁寧にふき取ってくれると処置が速かったのもあってシミにならずにすんだ。秋葉が気づいてくれて良かった。

 

 何かガードル達がニヤニヤしていたが、他の冒険者やチンピラに喧嘩を売られるでもなく恙なく食事を終えた。他のテーブルでは濃厚なソースをたっぷりと使った肉料理もあった。香りは俺達の席にまで届いていて、つい追加注文をした。ソースはオイスターソースに近く、アタミで焼きそばを作った時に獣人達が群がったのが何となくわかった。これは似てるな。


 程よく腹が膨れた俺達は、男女で別れて泊まる事にした。流石に、嫁入り前の秋葉と一緒に寝るのはダメだろ。色々と。

 アリスとレヴィアが喧嘩したら面倒なので、レヴィアを男部屋で引き取る事に。

 こいつが暴れた時は俺ぐらいしか止められないからだ。

 レヴィアとアリスは満腹で眠くなったらしく、レヴィアは俺が、アリスは秋葉に持って行ってもらった。本当に子供だなあいつ等。





 部屋にたどり着くとレヴィアをベッドに寝かせて作業を始める。

 まずはダマスクスケイルから鍛冶スキル〈インゴット精製〉を使い、ダマスクインゴットを作る。鍛冶場があれば複数個出来るんだが、無い物ねだりしても仕方がない。

 その一部始終を見ていたグンアが、鉄の塊が出来たことに驚き、磨いていた槍を落としかけた。


「い、今のは一体?」


「ああ。俺、生産のスキルも持ってるんだよ」


「は、はぁ!? あれだけの戦闘能力を持っていて生産のスキルもですか」


 グンアが唖然としていた。生産スキルは上級の冒険者なら覚えてる奴もいるみたいだが、ダマスクスケイルからインゴットを作る人は滅多にいないらしい。


「それで、何を作ってるんですか?」


「身体能力を強化する腕輪をな」


「あれだけの強さを持っていてまだ強化するんですか……!?」


「あー。俺のじゃない。お前達に渡す奴だな」


 ミスリルとダマスクインゴットの複合金属で『ブラックサーカス』という剣を作りたかったが我慢だ。

 

「えっ? 私達にですか? 一体何故……」


「その辺りはガードルが帰ってきたら教える」


「は、はぁ……分かりました」


 喋りながらも腕輪の加工の手は止めない。彫金は彫金セットがあればどこでも作れるから便利だ。

 彫金スキル〈加工〉で腕輪の形にし〈細工〉で特殊な模様を刻み込む。

 最後に〈融合〉でミスリル旧貨幣を球状に加工し埋め込めば完成だ。



 ダマスクブレスレット:防5 STR+5 VIT+5 対衝撃耐性 対炎耐性 対魔法耐性(弱)


 

 良い宝石があったらもっといい性能にできるんだが、無い物ねだりしても仕方ない。

 一つ作るとあとは単純作業だ。スキルが示すとおりに指を動かしインゴットからブレスレットを作り続けていく。


 最後の一個を作り終えると同時に、ドアがガチャリと音を立てて開かれた。

 買い物に出かけていたガードルが不満そうな表情を浮かべながら帰ってきた。これは良い物が無かったか?


「戻った。まさか粗悪品のロングソードしかないとは思わなかったぜ。しかも思いっきり足元見やがって」


 商売人としては分からなくもないが、狂獣が暴れ回ってる現状、足元を見るのは拙いだろう。


「買ったのか?」


「買うわけないだろ。普通のロングソードの3倍の値段だぞ」


 完全なぼったくりだな。

 

「じゃあ、こいつを使うといい。俺は使わないしな」


 怒り心頭なガードルに向けて、アイテムボックスから取り出した鞘付きのミスリルソードを放り投げる。


「おっととと! っておい、こいつぁ。ミスリルソード!? 助かるけどよぉ。い、いいのか?」


「まぁ、ただじゃないけどな。依頼の前報酬という奴だ」


「依頼?」


「お前達に依頼を頼みたい。依頼内容は獣王国までの道案内。報酬はそいつと、このブレスレットだ」


 今、俺達に一番大事なのは獣王国まで道案内をしてくれる人だ。ガードル達は強さもあり、獣王国にも行った経験がある。下手な奴に頼んで騙されるより、今こうやって知り合った信頼できる奴に頼んだほうが良い。

 それに、見知った顔が困るのは嫌だからな。タダで渡してもいいんだが、タダより高いものはない。遠慮されたり、怪しまれるよりは依頼報酬として渡す方が受け取りやすいだろう。


「破格の報酬だな。だが、正直な所、剣はありがてぇ。エリス達に相談してからになるがそれでもいいか?」


「ああ。大丈夫だ。その剣はひとまず渡しておく。武器無しは辛いだろ」


「すまねぇ。助かる」


「お互い様だ。村にまで案内してもらったしな」


 ガードル達が案内してくれなければ、今頃は野宿だ。

 明日の準備をしていると、コンコンコンとノックの音が聞こえた。

 誰だろうと、扉を開けると酒場で給仕をしていた女の子だ。

 俺達、何か忘れ物でもしたかな?


「失礼します。当宿屋のサービスで飲み物を無料で配っているのですがどうでしょうか?」


 こんなサービスもあったのか。これなら人気にもなるはずだ。

 4人分受け取り、一口頂く。味は程よく甘く落ち着いて―――






     『――――超麻痺:レジスト!――――』






 一口飲んだ途端、目の前に『レジスト』の文字が表示される。

 GM設定の〈全状態異常無効化〉が発動した!?


 この飲み物には麻痺毒が入ってる。しかも超ってことは相当強い麻痺だ。一瞬の内に身動きが取れなくなるほどの強力な奴だ。

 

 慌てて二人を見ると、麻痺毒入り飲み物を飲んでしまったらしく、全身を痺れさせて床に突っ伏していた。


「から、らがうごからっ……?」


「こ、こ、こは麻痺……?」


 呂律が回らず、動けない事に戸惑っていた。隣の部屋でもバタリバタリと、倒れる音が聞こえた。

 くそっ。何が起きてるか分からないが、罠に嵌められてたってことか!


 まずは二人を麻痺から回復だ。作ってよかった万能薬。魔法封じが存在する世界だ。魔法が使えない状況で毒になったら目も当てれないと思って作っておいたのがここで立つとは。

 一々毒消し薬や麻痺治し薬、眠気覚ましを持ち歩くよりこっちの方が手軽だ。他のゲームの出身の奴なら、もっと性能が高い奴もありそうだ。


「二人とも直ぐに楽にしてやるからな。こいつを飲んでくれ」


 痺れたガードルの口元に万能薬の瓶を押し付けてゆっくりと飲ませる。

 こくこくと飲む音が聞こえ、体に浸透していくと黄色く、淡い光が二人を包み込み、しばらくすると体に染みこむように光が解けて消えた。すると、ガードルの手足がピクリと動き、驚きながら立ち上がった。


「はぁっはぁ! 助かった、こいつは万能薬!? すまねぇ、高いもんを使わせちまって」


「いいんだよ」


 別に高い素材を使ってるわけじゃないからな。蜂蜜ベースで各種ハーブを調合しただけだし。

 グンアにも飲ませると、淡く黄色い光りと共にすぐに効果が表れた。掛けても効くが飲ませた方が即効性があるな


「助かりました。一体何が……」


 判らないが、隣の部屋で呻く声が聞こえるとするとこの宿全体が被害に……!

 俺達がこうなってるなら秋葉達が危ないじゃないかっ! 早く気づけよ俺!


「詮索は後だ。秋葉達が危ない!」


 剣を取ったその時、扉が騒々しい音を立て勢いよく開かれた。


感想や評価ポイントを下さるとモチベーションの維持にとても繋がるのでありがたいです。

後、書籍化関連の方ですがもう少し情報が出たら活動報告に書かせていただきます。ダイジェスト化の予定はないのでご安心を。

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最近はこちらの方も日曜更新で頑張ってます。 宜しければこちらの方も感想や評価諸々を下さると大変喜びます。 TSさせられた総帥の異世界征服!可愛いが正義! re:悪の組織の『異』世界征服記~可愛い総帥はお好きですか~
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