妖精
評価ポイントを入れて下さりありがとうございます。これを励みにもっともっと潰れない程度に頑張ろうと思います。
……暖かい……。ぁ〜……でも起きないと仕事がなぁ……。この柔らかさと温かさ……いいなぁ。
「……ぁ……の………キ……ん」
ずっとこのまま寝ていたい……。触り心地もいい。ふわふわだ……。この触感前にも感じたけど、いつだったか……?
温かくて実にいい……。
こんなソファー買ったっけ? ……温かい?
「ぁ……ぁの……マサキ……さん?」
声のする方を寝ぼけ眼で見上げると、そこには大きな双丘と、顔を真っ赤にした秋葉の顔が……。
俺はそこで目が覚めた。温かいソファーと思ってたのは秋葉の豊満な胸で、顔を擦りつけていたことに気が付いた。
胸から顔を引き離すが、慌てすぎて思いっきり尻餅をついてしまった。
「うわっわわっ!? あ、秋葉! す、すまん」
「い……いえ、事故のようなものですし、それにマサキさんも幸せそうに寝てましたので……」
「事故にしても思いっきり抱きしめてた上に胸に……」
「い、言わないでくださいっ。思い出して恥ずかしくなっちゃいますから……」
顔を真っ赤にしながらうつむく秋葉。俺もさっきの温かさと柔らかさを少し思い出してしまい、軽く頬が熱くなるのを感じる。
「おーい。お主ら。偵察から戻ったいうのに何イチャイチャしとるんじゃ」
「わひゃっ!?」
「うおっ!?」
呆れ顔でレヴィアが俺と秋葉の間に顔を突っ込み、ジト目で見られた。
「緊張感の欠片もない二人じゃのぅ。飛ばされてここが何処かもわからぬというのにのぅ」
そうだ。思い出した。『妖精の抜け道』を通る際に、魔力嵐に巻き込まれ、秋葉と一緒に俺とレヴィアも飛ばされたんだった。
さっき秋葉が事故って言ったのは、俺が秋葉の上に落ちてしまった事だろう。重かった上に胸に顔を……、いかん。思い出すのはやめておこう。
気を取り直して、草の上に座り、二人を見る。秋葉に怪我は無いようだな。よかった。
レヴィアの方は気にしてない。頑丈すぎて心配するだけ無駄だろう。
「それで、ここが何処か分からないって本当ですか?」
「うむ。濃厚な森の香りからするとアース大陸には間違いないのじゃが、ここが大陸の何処かかはわからぬ」
「それなら俺がちょっと『ウィング』で空を飛んでみてくる。何処か街道か村くらい見えるだろ」
「無理じゃぞ。魔力嵐の影響で魔法は長時間使えぬ」
『ウィング』を発動すると、一瞬の浮遊感が得られるが、2秒もしないうちに魔力が霧散し、地面に落ちてしまった。さほど高く無い位置だったから問題はないが、これは困った。
マップを開いてみると、一面森・森・森・森・森ばかり。ジャングルってレベルじゃねぇぞ。
かろうじて街道が見えるくらいだ。マップで見て初めて気付くが、このアース大陸は本当に広い。マップにはモンスターや動物の影は見えるが、村や町が全く見当たらない。
「参ったな。空も飛べない。マップを開いてみたがようやく街道が見えるぐらいだ。レヴィアも空は飛べないんだよな?」
「うむ。妾もマナの力を借りて空を飛んでいるに過ぎないしのぅ。方法は無くもないがの」
「あるのか?」
「うむ。妾が本来の姿のリヴァイアサンに戻れば」
「それは無しで」
「無しでお願いします!」
俺と秋葉が同時のタイミングで却下する。あの馬鹿でかい巨体が現れたらいったい何事だと思われてしまう。最悪、ドラゴンが襲い掛かってきたのかと獣人と戦闘になりかねん。自然破壊も酷いことになるな。
「ひとまず、街道の方にいくか。そこから道なりに行けばどこか街や村にいけるだろ」
「そうですね。ここでじっとしても変わりませんし、日が暮れたら身動きが取れなくなりそうですからね」
「夜が更けると獣達の動きも活発になるからのぅ。マサキ、ちょっとしゃがむのじゃ」
「は?」
いいからいいから。と言われてしゃがむと、ヒョイっと背中に飛び乗られた。
「よしっ! さぁゆくぞ!」
「行くぞじゃねぇよ」
下ろそうとしてもがっちりと肩を掴んで離れない。ジャンプしても揺さぶってもダメだったので、諦めて道なき道を『ロストドミニオン』で切り裂いていく。セブンアーサーだと無駄に斬り過ぎ、樹が倒れて来て逆に邪魔になった。
大体4時間位経った頃だろうか、ようやく街道にまでたどり着くことが出来た。マップを見ながら一直線に進んでいたが、凶暴化した獣に襲われたり、途中に川が流れていたり、沼地があったりと思った以上に時間がかかってしまった。俺はスキルによる身体強化で疲れは特に溜まっていないが、秋葉は別だ。何かしらステータス補正は掛かっているのだろうが、RPG系とFPS系の差がここで出ている。肩で息をしていて疲労を隠せていない。
「秋葉、少し休もう。街道に出たし、ここなら襲い掛かれても対処がしやすい」
「だ、大丈夫です」
気丈に振る舞っているが、汗を流している。ここは強引にでも休ませるか。
「いいからいいから。レヴィアもいいよな」
「うむ。丁度昼飯の時間じゃしのぅ」
大体今の時間は昼を少し過ぎたくらいか。それでも昼の時間には間違いない。
俺は『ルーム』の魔法を使おうとするが、ドアではなく小窓が出てきた。
そうだった、魔力嵐の影響で魔法がうまく持続しないんだった。
攻撃魔法も途中で霧散し、回復魔法は傷口に直接当ててやらないと効果が無かった。強化魔法だけは影響が受けにくく、少し効果は低めだがいつも通りかかった。
何より『念話』が使用不可能だったのは痛い。秋葉との〈ウィスパー〉(個人通話)はある程度離れてもノイズが入らず通じた。タツマとは通じなかったが、これは距離的な問題だろう。
流石の〈システムメッセージ〉も自分が認識できる範囲でないと効果が無い。
『ルーム』はどのマナにも該当しない魔法だが、それでも影響は受けたようだ。これじゃ人が入るのは無理だな。
試しに開けてみると、丁度掃除をしているフェンの姿が目に入った。フェンは俺に気付くとメイド服をはためかせながら俺の下に向かってくる。
「あ……あの……マサキ……さん。どうしたんです……か?そんな……窓から?」
「あ〜……。ちょっと事情がな」
フェンにも事情は説明した方がいいだろう。軽く説明して、ネメアー達と逸れてしまった事を伝えると流石に落ち込んだが、窓から手を伸ばして優しく撫でてやるとにこりと笑顔を見せてくれた。
「それで、悪いがフェン。魔力嵐が収まるまでここを開けれそうにない」
「それは……しょうがない……です……ね。でも……魔力嵐は……滅多な事では……起きなかったはず……です。何が……あるか……わからないので……気を付けて……下さいね」
「分かった。今から飯だからフェンも一緒に食うか?」
「あ、はい……♪」
たどたどしく喋り、はにかむような笑顔のフェンの頭を再度撫でてやると、目を細めて心地よさそうにしている。後ろで秋葉が物欲しそうに見てるが、撫でてほしいのだろうか。
『ルーム』が使えなかったのは残念だが、一応調理器具などはアイテムボックスの中に入れてあるので料理は出来る。
材料は、手持ちの調味料と、森を抜ける時に襲い掛かってきた鳥型のモンスターだ。魔力風の影響で正気を失い、無謀にもレヴィアに襲い掛かり、一撃で仕留められた。
調味料とハーブで下味をつけ、片栗粉をまぶしていく。土魔法で小さな竈を作り、じっくりと焼いていく。炎の魔法はコンロ程度なら何とか出せる。何時ものフレイムジャベリンの火力がここまで落ちると悲しくなるな。
パンも竈で焼いて、卵もあったのでデザート用にフレンチトーストも作っておく。砂糖は『ルーム』の中から持ってきてもらった。
出来上がり次第、レヴィアと秋葉、フェンには窓越しに手渡して軽めの昼食を取っていく。アウトドアみたいな料理は久々だ。こういうのもいいなぁ。
そろそろフレンチトーストが焼きあがるころだな。久々に作って食べたくなった。
竈の方に目を向けると、そこには。
「あちっあちちっ! なによこれぇ!」
小さな妖精がフレンチトーストを持ち上げては落とし持ち上げては落としを繰り返していた。
「お前は何をやってるんだ?」
フライ返し代わりのナイフでヒョイっと木皿に移し、泥棒妖精をじっと睨みつける。
「だってこんな美味しそうな香りしたら食べたいじゃない! ってあわわ! 人間! 早く姿消さなきゃ!」
「い〜や、もう遅いぞ」
姿を消そうとした妖精をレヴィアがひょいっと小さな手でつまみ上げる。じたばたしながら妖精は抜け出そうとするが、レヴィアの指は羽をしっかりと摘まんでいて逃げられない。
「人間風情がぁー! これでもくらえ!」
妖精が俺達に向けて手をかざすと、バチバチとした音ともにレヴィアに強烈な電撃が打ち付けられる。電撃はレヴィアの頭に直撃して、軽く煙が出ている。
まぁ、無駄だよな。というか……ヤバくないかこれ?
「へへーん! どうだ!」
「どうだじゃないわ! こんの泥棒妖精が!」
「へぁっ!? 何で効いてないの!」
俺の魔法が効いたことが無いのに、あの程度の電撃が効くわけがないだろうな。やるなら高火力の火魔法で膜を取り除いてからじゃないと効果は無いだろう。
「妾の大事なデザートを奪おうとした挙句、この妾の髪を焦がすとは万死に値する。貴様をデザート代わりに喰らってやろうか!」
髪を焦がしたとは言ってるが、本当に先端が軽くクルクルと縮れただけだった。魔法防御力半端ないな。
あーんっと口を開けて妖精を口元に運ぶレヴィア。おい、本気で食べる気じゃないよな?
「ひいいぃぃ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ!」
必死に泣き叫ぶ妖精をレヴィアは―――ぱくっと食った。おいいいぃぃぃぃ!?
「―――――――!!????!?」
「吐けぇ!」
思わず後頭部をスパーンっと平手で叩くとぺっと妖精がレヴィアの口から吐き出された。あぶねぇよ! 本当に食う奴がいるか!
「なっ何をするかマサキ! 妖精は美味なのじゃぞ!」
「知らんわ! どうせ食うならこっちにしとけ!」
大き目のサイズのフレンチトーストをレヴィアの口に押し込むと、ほわわぁっと幸せそうな笑顔を浮かべてもぐもぐと食べ始めた。
「ひー! はー! ひー! はー! た、助かったぁぁ! あ、あんた命の恩人だよぉ!」
涎塗れで妖精は俺にすり寄ってくる。ええい! せめてその涎は拭け!
秋葉が気を利かしてくれたのか小さなタオルを妖精に差しだして、涎塗れの体と顔、髪の毛を拭いていく。妖精は秋葉にされるがままに綺麗になっていく。
一息ついて、俺と秋葉の分から少しずつ妖精にフレンチトーストを分けてやる。それすらもレヴィアは欲しがっていたが、一人一枚なので却下させた。明らかに落ち込んでいたレヴィアの為にフェンが自分の分のフレンチトーストを半分分けてあげていた。
喜んで食べるレヴィア。お前は明らかな子供に恵んでもらってプライドという物はないのか。
「あまーーい! おいしーーい!」
「気に入ってくれて何よりだ。で、お前、名前は?」
「んぁ? 妖精の名前は人には発音出来ないんだけど……そうだ! よかったらアンタが付けてよ」
何で俺がとは思うが、おい、とかお前、とかじゃ呼ぶには不便すぎるし、失礼な感じが強く感じる。
見た目はそのまま妖精、で、水色と白いドレスに金色の髪の毛、藍色の目。童話に出てきそうな登場人物を妖精にした感じだ。なら……アリスかな。ラプンツェルとも考えたけど、髪の長さは普通だし。
「あの、マサキさん。名前なんですけど、アリスってどうですか?」
「お、秋葉もそう思ったか。やっぱり似てるよな」
「アリス? それが私の名前……。うん、いいよ! 私アリス!」
「俺はマサキ、で、彼女が秋葉。お前を食おうとしたのがレヴィアだ。この辺りに住んでるのか?」
「妖精の里に住んでるに決まってるじゃん。私がここにいたのはこの近くに『妖精の抜け道』があったからだよ」
妖精の里についても聞いてみるが、『妖精の抜け道』を妖精に案内されないと辿りつけない場所のようだ。妖精は魔力嵐の影響を受けずに飛び回れ、行き来は自由のようだ。
「そうだ。どうせなら案内しよっか? アンタ達には邪な感じがしないし。そこの女は危険だから連れて行かないけどね!」
「なんじゃと! お主こそ泥棒する邪な者ではないか!」
また喧嘩が始まりそうだったので二人纏めて頭を撫でて落ち着かせる。なんというか、撫で方のコツを覚えてきた。特にうれしくないけどよ。
「今は急いでるからまた今度だな」
「えー。里の皆にも食べさせてあげたかったなー。あんなに甘いの、蜂蜜以外じゃ初めてだったのにー」
「さてと、俺達はちょっとできれば今日中に人が居る場所にまで向かわないといけないからもう行くぞ」
「野宿は困りますからね。それじゃ、アリスちゃん。またいつか会えたら」
「ちょっちょっと待った!」
ん? なんだ?
「人が居る場所に向かうっていうのならアタシが案内するよ。どうせ暇だし、それに付いていったらまた何か美味しいの食べれそうだしっ」
道案内か……。確かにマップ見る限りどっちの方角に人が居るか見当もつかない。ここは地元民を頼る方が確実だろうな。
「はぁ、いいぞ。その代り、ちゃんと人が居る場所にまで案内してくれよ」
「マサキさん、いいんですか?」
「どうせ、断ったって付いてくるつもりだろ?」
「とーぜん! 最近うちの長老がうろつくなってうるさかったからね。アンタ達と一緒にいると楽しそうだし嫌でも付いていくわよ」
「妾は嫌なのじゃが」
「そこで嫌っていう!?」
どうやら妖精の里でも何かあったようだが、アリスは良く知らないようだ。それで、外出禁止命令のような物が出てる中、こっそりと抜け出してきたようだ。家出妖精か。
「それじゃ、獣王国に迄案内を頼むよ」
「そりゃまた遠い所まで。いいわよ! アタシにまっかせなさーい!」
無さそうな胸を張りながら、俺達の目の前をうろちょろと飛び回るアリス。道案内をしてくれる奴が見つかったのは幸運だが、こいつで良かったのかと俺は頭を抱え込んでしまった。




