獣王国に向けて
王国での用事を済ませた俺達は直ぐには帰らずに、数日ほど王国に停泊していた。
フィリアがレヴィアのお蔭で目覚めたとはいえ、王宮医師に精密な検査を受けてもらう必要があった。
レヴィアが魂に干渉したことにより、フィリアの体に何か異変が起きてないか検査の為だ。五感に異常がないか、性格が変わったりしてないか、魔力の波長が乱れてないか色々な方面から調べるので時間がかかっている。
その間、俺とアデルは久しぶりにデイブ裁縫店を訪れたり、時間があるうちにと冒険者ギルドで俺の冒険者カードを作ってもらったりしていた。
「トウドウ伯爵様の冒険者カードはこちらになります。本来ならば、新人のFランクからとなりますが、多数のシーサーペント討伐の記録が正式に残っておりますのでDランクになっております。本来ならば戦争の記録も入れるべきなのですが、冒険者としての実績とは不釣り合いになりますのでDランクまでとさせて頂きました。ご了承ください」
まぁ、それは仕方ないよな。冒険者として戦ったことなんてないしな。シーサーペントだけでも記録として入れて貰えただけ御の字だ。リヴァイアサンは倒したわけじゃないので除外。今、あいつは屋台で買い食いしてるよ。
Dランクは中級冒険者程度の実力者の目安になっていて、Cランクになると上級冒険者として認められるらしい。
「ランクを上げるにはどうすればいいんだ?」
「依頼を請け負ったり、ダンジョンの素材を持ち帰ったりですね。前者は薬草採取からモンスター討伐、護衛など幅広くありますが、トウドウ伯爵様は……その、申し訳ございませんが受けられる依頼は少ないと思います」
そりゃ伯爵が護衛に来たり、薬草採取していたりしたら変だよな。出来そうなのはモンスター討伐ぐらいか。
ダンジョンの方はモンスターの素材やどこまで深く潜ったかによってポイントが溜まっていくようだ。因みに、俺の領地の近くにあるダンジョンは魔窟という入るたびに内部の構造が変わるダンジョンだ。資料によると昔に異世界人が『ダンジョンクリエイター』という異能力で作ったダンジョンの一つらしい。そういったダンジョンは世界各地に点在している。
ダンジョンコアさえ無事であれば無制限にモンスターが湧くく仕組みになっている。
まさに不思議のダンジョン。
俺がランクを上げるにはダンジョンに潜るのが一番効率いいみたいだ。今は潜る時間はないが、騒動が落ち着いたらダンジョンに行くのもいいだろう。
無事、冒険者としての身分を手に入れた俺達は、フィリアの検査が終わるまで王子と訓練をしたり、買い物をしたりしていた。王国の方がアタミより品ぞろえが良かったのは助かる。
アタミは復興の方を優先している所為で冒険者用の品ぞろえはそこまで良くなかった。
目安箱にも冒険者から多くの意見が来ていたのでアラン伯爵に相談してみると、獣王国に行っている間に商人の方に掛け合って手を回してくれるとのこと。アラン伯爵には世話になってばかりだ。この恩はしっかりと返さなければ。
王子との訓練は俺が渡した竹刀 (攻撃力0)での打ち合いだ。スキルによる身体能力底上げはしていても、実際に振るう剣の技術だけはスキルでカバーが出来ない。この時だけは〈無敵〉を外している。痛みが無いと、どうにも自分で必死にならないのは自覚しているからなぁ。
鍛錬のお蔭である程度自分の体を思い通りに動かせるようになった。最終的には本気になった王子が〈ドラグーンフォース〉を発動させるというハプニングもあったが、ジロウが割って入り事なきを得た。王子、訓練で本気出すなよ! 攻撃力0の季節ネタ武器だったから良かったものの、マトモな武器だと死ぬぞ! 〈無敵〉張るけどな。
やや危ない出来事もあったが、数日後のフィリアの検査の結果は問題なしと出た。ただ、寝たきりの期間があった事と侵食された時に相当の体力を奪われていた所為で、軽いリハビリは必要との事だ。これくらいならアタミでも十分出来ると王宮医師のお墨付きももらえたのでアタミに連れ帰る事が出来る。自転車が出来たし今度は車椅子も作ってもらうか。
フィリアと王子の準備が終わると、俺達はアタミに向かって出港した。ある程度、沖合にまで出るとレヴィアが口笛を吹く。眷属を呼ぶ合図だ。
ザバァァ! と大きな水音を立てながら現れたシーサーペントに王子が剣を抜くが、大人しくレヴィアに撫でられる様子を見せられると唖然としつつも剣を収めた。
フィリアは突如現れたシーサーペントを見上げながらぼーっとしていた。後で聞いたがこういったモンスターの類を見るのは初めてで、実は腰を抜かしていたらしい。
それでもシーサーペントが船を運ぶ速度には二人とも驚きつつも楽しそうだった。モーターボートのような感じで船が進むのは快適だろう。今後、シーサーペント達にはシュッツバルト〜アタミ間の船をけん引してもらう事になっている。流通の速度が上がれば復興や発展も早くなるな。
無事アタミまでたどり着くと直ぐに屋敷に向かう。王子とフィリアがアタミの様子に目移りしていたが観光は後にしてもらおう。まだこっちでも準備に時間がかかるからその間に観光する時間くらいはある。
屋敷に付くと客室に全員を集め、今後の方針を固める。全員とは言っても執事やメイド達は席を外してもらっている。流石にこのことは話すわけにはいかないからな。
「俺はこれからレヴィアの要請を受けて獣王国に向かう。それでだ、連れて行くメンバーを決めようと思う。連れて行くメンバーはアデル、秋葉、ヨーコ、レヴィア、ネメアー。そしてフェンだ」
「ん? 何でフェンを連れて行くんだ? フェンは戦えないだろう?」
「ああ。タツマの言う通り戦えないが、フェンを狙う奴らがいるんだよ」
フェンについてある程度の情報を秘密にし全員に事情を説明をした。流石に『神喰らい』の力を持つ巫女とは教えられなかったが、ネメアーの手によって邪教団から助け出し、平穏な日々を求めて帝国に渡った事。
あの時点で言えば、帝国が一番安全だったからな。判断的には間違っていない。
そして、ついこの間、邪教団の密偵がフェンを狙い襲い掛かってきたことを教えた。
「なるほどな……。ここ最近、ネメアーとフェンの姿が見えなかったと思ったがそういう事だったのか。フェンは今は何処にいる?」
「俺の『ルーム』の中だ。外部から干渉が不可能だからな。一番安全だ」
ずっと付きっきりで警備するのも無理だろうしな。軟禁的な扱いだが、『ルーム』の中では自由にさせている。外には出れない以外はベッドやソファー、食事や風呂、トイレも完備してるので快適な暮らしになっている。
部屋も広いので、様子を見に行ったらそう窮屈そうな思いはしてなさそうだった。
「俺が移動すると『ルーム』の中のフェンも移動することになるから、自動的に連れて行くメンバーの中に入ってしまうんだ」
「狙われている以上は仕方ないか」
「タツマと春香には離れている間、アタミの事を頼みたい。王子にも手伝ってもらうが、まだ野盗もいる事だしな。全員連れて行きたいところだが、復興もまだ途中だ」
帝国の残党兵が山賊か野盗に成り果て、各地の領地で村や行商人を襲っているという話は良く聞く。うちの領地でもここに来る行商人が襲われたという報告は受けてる。直ぐに警備兵やタツマ、俺かアデルが向かって鎮圧させてるお蔭で数は減りつつあるが、アタミを離れた所を狙われるとマズイ。
それに、タツマには建築、春香には農業の方で忙しいのが現実だ。連れて行ってしまうと復興や発展に大きな影響が出るだろう。
「まだ旅館の方も建設途中だしな。離れるわけにはいかないか。分かった。アタミの事は任せておけ」
「任せてくださいね〜。帰ってくるときには収穫祭でお出迎えしたいので〜秋ごろまでに帰ってきてくれると助かりますぅ〜」
そういえば、そういう企画もしてたな。秋ごろになると復興の方も落ち着いてるだろう。
「マサキ、全力を尽くそうぞ!」
収穫祭と聞いてレヴィアの目の色が変わった。……この場合、レヴィアの食費は俺が払う事になるのだろうか。
獣王国の事を話していると、コンコンとドアからノックの音が聞こえた。来たか。
「お館様、ジミーです。ネメアー様と密偵をお連れしました」
「分かった。入っていいぞ」
「失礼します」
ガチャリとドアが開けられると、ネメアーと一緒にガルム達が入ってくる。見慣れない獣人の姿に客室に緊張が走るが、全員に視線を送り、大丈夫と言うと落ち着いてくれた。
「ガルム。密偵の話だが、どうだ?」
「……離れている間、ネメアーの力を借りて妻子を連れてきました。別室に寝かせています。目の前で治してください」
「話はそれからか……。いいだろう」
まぁ、信じられないよな。都合のいい嘘と思われても当然だ。
皆に断ってから、別室に向かうと右腕を失ったうさ耳の獣人と、両足を失った子供がベッドに寝かせられていた。何かに追われてきたのか、軽い擦り傷も負っている。よく見るとネメアーもガルムも軽傷を負っていた。こいつら、相当無茶をしたようだな。
女性と子供の切断部分を覆っている包帯を取ると、痛々しい切断面が見える。びくっと女性の方が震えて、うっすらと目を開けた。
「アナタは……? それに……ここ……は?」
「ガルム、彼女の手を握ってやってくれ」
「分かった」
ガルムが女性の手を両手で覆い包み、宥めている間に俺は右腕の切断面に向けて『フル・ヒール』を発動させる。これは一番強い回復魔法だ。相当の量のMPを消耗するが効果は完全治癒。死亡していない限りはどんな重傷からでも全回復する魔法だ。戦争の時は人数が多すぎて単体魔法は出番がなかったんだよな。
掌から放たれてる光が切断面を覆い、そのまま光が腕の形へと変化していく。
良かった。生々しく腕が生えるような描写じゃなくて。地味にそういうのはダメージがくる。
光りが収まるとそこには白い二の腕と手首に純白のもこもこが生えた手が現れる。
ガルムはその様子を見ると、驚きながら感涙の涙を流していた。
「奥さん、右腕を動かしてみてください」
「え? 申し訳ございません……ワタシ……右腕は……え……ある……動くっ……動くわ!」
「ああ……ミニィ。ある。右腕だ。お前の……手だ……!」
ボロボロと泣きながらガルムは奥さん、ミニィを抱きしめていた。お互いに泣きながら、両腕でしっかりと抱きしめあっている。
『フル・ヒール』の完全治癒という説明は本当で、後遺症も、筋力の衰えもないようだ。
『オールエリアヒール』だと血の方が足りずに貧血に陥っている奴らもいたからな。良い発見だ。
続いて子供の方にも『フル・ヒール』を発動させると無事両足が光の中から現れた。
ガルムが優しく起こして立たせるが、ぐらっとバランスを崩して尻もちをついた。どうにもバランス感覚だけはある程度馴染まないとダメなようだな。
それでも二人、いや、三人は喜び合っている。こっそり覗いているガルムの部下達も涙目で鼻水を啜る音が聞こえる。いい部下じゃないか。
無事、治療を終えるとガルム達は片膝をついて俺に忠誠を誓ってくれた。
「この命、尽きるまでマサキ様に捧げます」
こうして俺は出発前に密偵の獣人6人を手に入れることが出来た。客室に戻り、更に獣王国についての情報を纏める。
ネメアーとガルムの情報を纏めると、帝国の残党兵の殆どは獣王国の兵士達によって捕えられ、占領下にあった都市は解放されている。
だが、その代わりに『狂獣』というモンスターの被害が甚大で、獣人達のみならず、妖精やエルフ達を悩ませているらしい。
ウロボロス教団も例外ではなく、力を借りる為にフェンを探していたようだ。
そんなことよりエルフだ! 獣王国にはエルフがいるのか! 獣人、魔族や吸血鬼、仙狐と言った種族は見たがエルフだけは見たことが無かった。ファンタジー好きとしては是非お目にかかりたい。
「狂獣が暴れておるのか。……ヨルムンガルドの爺に何かあったのは間違いないようじゃのぅ」
「何か関係があるのか?」
俺の質問にはヨーコとレヴィアが同時に頷いた。
「マサキ、私がリヴァイアサンの時に止めた理由って覚えてる?」
「あ〜……確か……。海のモンスターが抑圧から解放されて暴れまわる。だったか」
「うむ。その通りじゃ。狂獣はその凶暴さ故に爺の支配下に置かれ、人とは離れた地域に住まわせられておるはずじゃ。狂獣が人を襲いだしたという事であれば……」
「ヨルムンガルドの支配が弱くなって、モンスター達が活発になってるってことか」
人同士の戦争ではないとはいえ、モンスターの問題も大変なことになりそうだ。それに、ウロボロス教団の事もある。後は『パヴァリエ』もか。厄介な問題が山積みじゃねぇか…!
◆◇◆
話し合いから更に数日が経ち、俺達は出発に向けて準備を整えていた。
遠出するにあたっての事務的な引き継ぎは終え、次にやったのは装備の準備だ。
各自、手持ちの武具を公開し、装備を整えていく。
アデルには魔力の浸透率が一番高かった『ドラクル』という儀式用長剣を持たせた。名前の元ネタはドラクル=ドラキュリアだ。吸血鬼繋がりで相性が良かったのだろう。元のゲームでも上位に位置する武器だ。
防具は闇天使一式装備にアーリーブレスレットだ。INTと防御力とMP自動回復 (小)を重複させた装備にしてある。
ヨーコに関しては武器として儀式指輪「ケルベロスリング」とセイメイ装備一式を。INTと自動障壁、MP自動回復 (小)、MPセーブがついている。純後衛装備だ。ケルベロスリングはなかったので手持ちの材料にあったケルベロスの牙で作った。これで残り在庫は0だ。似たような敵が居なければ唯一無二の装備になるな。補助装備としてタツマが持っていた土の属性宝玉を渡している。元は武器の強化用だったが職人に渡さないと強化できず持て余したままアイテムボックスの中に寝かせていたようだ。ヨーコなら上手く活用してくれるだろう。
ネメアーに関しては、武器は必要が無かった。素手だしな。防具に関しても下手に鎧や服を着せると動きを阻害されてしまうと言われたので、アクセサリーとして剛力の腕輪と黒帯を付けてもらった。STR上昇と格闘攻撃の速度上昇だ。元から筋肉の壁で防ぐネメアーだ。力を増強するSTR上昇と相性がいいのかもしれない。
レヴィアの装備は無し。というか何もなくても俺以上に強い。それでも何か欲しいと駄々を捏ねたので肉球ハンドというネタ装備を渡した。意外と喜ばれた。
問題は秋葉だ。主力武器が銃なので俺とタツマの持つ装備では融通することが出来ない。秋葉が付けている防弾チョッキも下手な防具より性能が高かった。
秋葉とは話し合って銃の火力を上げさせる方向に落ち着いた。
サバイバルナイフから『ヴァジュラ』という短剣に。アクセサリーとして『与一の指貫』を付けてもらった。両方とも射撃攻撃が上昇する装備だ。
試しにマグナムで射撃練習をしてもらうと、鉄の板を貫き、支えていたミスリルの板にまで穴が開いた。ここまで威力あがるのかよ。
RPGも試してもらいたいが、流石にここで試すと屋敷で何かあったのかと住民に思われるので、獣王国でだな。
俺の装備は特に変更が無し。武器はセブンアーサーの他に、単体の攻撃力が高いロストドミニオンという長剣を持っていく。追加効果が攻撃速度上昇なのでアーサーとうまく使い分けていこう。
装備を整えながら、俺はひそかに作っていたネックレスを秋葉とアデルに手渡した。
「これは?」
「この間、アタミを見て回っていただろ。その時に露店で良さそうな素材が売ってたからそれで作ったんだ。まぁ、お守りみたいなものと思って付けてくれ」
隕鉄の土台に薄い赤色の水晶が付いたネックレスだ。不要な外側を削ると中身は綺麗な水晶が出てきた時は驚いた。
これは良い物だ。出来ればヨーコの分も作りたかったが、材料が足りず二人分までに。ヨーコには代わりに予定通り香木を渡したので特に不満は起きなかった。
「あ、ありがとう……」
「有難うございます……大事にしますね」
二人の嬉しそうな表情を見ると張り切って作った甲斐がある。モノづくりってこういう感謝されるときが一番嬉しいんだよな。
準備を終え、出発当日。俺達はガルムとネメアーの誘導の下、『妖精の抜け道』の入り口まで案内をしてもらった。見送りはガルムとレオン王子に春香、そして車椅子でここまで来てくれたフィリアとそれを押したタツマだ。後ろにはジミーが影が薄いながらも付いてきている。ルードリッヒは時間の都合上、間に合わなかったようだ。
『妖精の抜け道』は鬱蒼と茂った草むらの中にあり、一目では何の変哲もない草むらにしか見えない。
そこにネメアーが『妖精水晶』をかざすと草むらが割れるように開き、青白く光る空間が現れた。まるでワープゾーンみたいだな。
『妖精の抜け道』にネメアーが先行して入る。ここは獣王国のみならず、色んな場所に繋がっている可能性があるのではぐれないようにするためだ。
「ここからまっすぐ行くと獣王国に着く。迷う事が無い一本道だから大丈夫だろうが、この道から落ちないように。落ちてしまうと何処か別の場所に飛ばされてしまうからね」
軽く覗き込むと幅が広い通路が見える。馬車でも余裕で通れそうなくらいの道幅だが、その両端は崖になっており、底が青白く光り輝いて見えない。
ネメアーを先頭にして全員で慎重に並んで歩いていく。既に帰り道は塞がっているようだ。全員分の水晶はあるので戻ろうと思えば戻れるけどな。
歩き出して一時間が経った頃だろうか、長く、果てしなく変わらない風景にいい加減飽きてくる。これを一日中、一か月以上歩くとかなったら苦痛で心が折れるかもしれない。
そんなことを思っていたその時だった、今まで変わらなかった空間に異変が起きた。大きく空間が振動し、地面が大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
「きゃっ!」
「くっ!」
「これは……しもうた!!」
全員が地面に伏せて揺れに耐えている所にレヴィアが初めて余裕を崩し、顔色を変えた。
「全員、急いで走れ! 魔力嵐じゃ! このままだと飛ばされてしまうぞ」
レヴィアの必死の形相に俺達は理由を聞く気すら起きず、ただこのままではヤバいとだけ分かった。
揺れる中、支え合いながらに出口に向けて走っていくと数分もしないうちに強い風が俺達を襲ってきた。これが魔力嵐なのだろう。それと同時に黒い穴が見えた。
「見えた! 出口じゃ!」
全員で必死に走るその時だった。
「きゃあっ!!」
俺の前を歩いていた秋葉が――ゴウッと突風の音と同時に宙に浮いた。一瞬の出来事だった。秋葉の前を走っていたヨーコが手を伸ばすが、届かない。
俺は迷わずに秋葉に向けて手を伸ばすが、強風は秋葉だけでなく、俺と後ろを走っていたレヴィアを巻き込み、通路の外――崖に放り出した。
「ぬぅぅっ!」
「くそっ! 『ウィング』!」
秋葉を抱きしめながら『ウィング』を発動させようとするが、一瞬の浮遊感が得たと思ったらすぐに消え、谷底に落ちていく。
「ここではマナが乱れ魔法は使えぬ! マサキ、妾の手を握るのじゃ! このままでは散り散りになってしまうぞ!」
「分かった!」
「マサキ!」
「マサキーー!」
アデルとヨーコの悲痛な声が聞こえるが、ネメアーが強引に手を引きながら出口に引っ張ってくれている。
「皆! 獣王国に必ず向かう! そこで待っていてくれ! ネメアー! それまで頼んだぞ!」
「分かった!」
遠く離れていくアデル、ヨーコ、ネメアー達の姿を見ながら、震える秋葉を抱きしめ、レヴィアの手を離さないようにしながら俺達は青白く輝く光の中に落ちていった。
今日はTRPGコンペの日なので返信等は遅れそうです。
それと、あまり気にしない様にはしてましたが、モチベーション的に評価をしてくれると上がるので入れて下さるとありがたいです。




