脱出
おっさんを連れて行く以上はスキルの設定をし直した方が良いだろう。俺は鍵を開ける前に波動剣を外し、パッシブの気配探知能力(大)を付けるとマップに今まで移ってなかったマークが多数現れる。
人のマークをしているのはこの帝国の兵士だろう。範囲は外まで伸びていて鷲や犬の形をしたマークも少数ながら見つかる。これならぶつからないように注意していけるな。
「……このままじゃ俺も部下達も死ぬ運命だ。いいぜ。乗った!しかしどうやってこの牢屋開けるんだよ。それにどうやって逃げるんだ?」
「色々説明するのは難しいな。帝国の奴らの言う異能力って奴を使う」
盗賊王の針金を使い、俺は鍵を静かに開ける。音を立てないに越したことはない。この階には兵士は少ないが通り道に詰所がある。そこを通らなければ出ることが出来ない。
しかも、その下には大多数の兵士のマークがあるな。この前来た兵士のチェックもそこにいるようだ。
「よう、対面だ。これで直ぐに開けるぜ」
「この厳重な警備の中どうやってそれ手に入れたんだ…」
「企業秘密だ」
説明するのは面倒ともいうな。静かに慎重に鍵を開けると、扉がギギギギと異音を響かせながら開いていく。
その音で警備の奴らが気づいてないかとヒヤヒヤしたが、マップを見る限り動く様子がない。
「すげぇなその針金…。ここの牢屋って魔法とか使えないように結界張られてるって話なのによ」
「だから魔法は使えなかったのか…」
大体予想してたがこれからでも結界がある場合もあるだろう。その対抗手段も安全が確認できた後に考えておいた方がいいな。
「それで、どうやって出るんだ」
「おっさん、俺の背に乗れ。乗ったらすぐに異能力を使う」
「乗れってお前さんみたいな華奢な身体じゃ潰れちまうぞ」
「鍛えてるから問題ない。おっさんは腹位引っ込ませる努力した方がいいぞ。それじゃ女にもてねぇな」
「けっ…痛い事を言いやがる。ああ、もうわかったよ。お前さんに全部任せる!」
そう言っておっさんは俺の背に乗る。最初は手を繋いでいこうかと思ったが、大分昔のゲームだったか。女の子の手を繋いで移動するゲームを思い出した。
だが、おっさんの手を繋いで脱出というのは色々な面で精神的にきつい。
それぐらいなら背負う方がまだましだ。
おっさんを背負った後に立ち上がると身体能力上昇と近接戦闘能力のパッシブスキルのお蔭で軽々持ち上がる。
牢屋に居た頃にパッシブスキルを付けた状態で動くと、どのような感じかと試したら、想像以上に速かったりジャンプの移動力が高かったりした。ジャンプは高すぎて頭を強打したが無敵を付けていたお蔭で死なずに済んだ。
おっさんを背負う理由もここにある。手を繋いでいたらおっさんを振り回してしまう可能性が非常に高い。MMOのプレイヤー達はこんな能力を常時使ってるのかと思うとドラゴンを倒せるのも納得するな。
考えが脱線した。直ぐに『ステルス』を使うと俺はおっさんごと半透明になった。これで俺たちの存在を確認できるものは居ない。
(おっさん、今から移動する。降り落ちないようにしっかりと俺に掴まって居ろよ)
(俺とお前さんの身体が薄くなったのは俺の目の錯覚じゃなくて異能力かよ…聞いたことはあっても実際に受けるのは初めてだぞ)
(その他の奴らの異能力についても後々聞こう。いくぞっ!)
何かしらの原因でステルスが解ける事も考えて同時に『無敵』も併用する。これなら王の前でも凶暴なドラゴンの前でも素通りだ。
パッシブスキルのお蔭で異常な速度が出る。壁走りも出来そうだがおっさんが危険だな。
(おおおおおお!?速い速すぎる!?)
(速度を落とすつもりはないが背中で吐くのは止めてくれよ)
(海賊舐めんなっ…といってもこれは速いな!)
ここに来るときは意識を失っていたから気づかなかったが、ここの牢屋は横に長い仕組みだ。マップで念入りの脱出のルートも作ってある。
牢獄の入口に兵士の詰め所があるがステルスを使っている俺らは華麗にスルー。風すらも起きないので通った事に気づく者がいないのだ。
(すげぇ…本当に気付かねぇんだな)
(おっさん、飛ぶから口閉じてろ。舌噛むぞ)
(へ?おおお!!?)
詰所のベランダから外に出ると大きな塀が見える。そこへ向かって全力でジャンプ!
今の速度と身体能力なら届くと思いやってみたが……予想外に飛び過ぎた!!
8mも有りそうな大きな塀を軽々と飛び越え俺はそのまま住宅街へと落ちていく。
(しぬっ!しぬぅぅぅ!!!)
おっさんが耳元で五月蠅い。俺は無敵で平気だがこのままじゃおっさんが危険だ。
空中で魔法の欄を開くよう念じると、結界の外に出たようで使えるようになっていた。
直ぐに俺は『ウィング』の魔法を使いMPが続く限りの滞空を得る。
『ウィング』はMPの消費が大幅に大きいが、空を飛べる魔法だ。
主に使い道は高い所へ移動する際に使う魔法で戦闘機の様な空中戦闘は行えない。
やったら間違いなくMPが切れて落ち、落下ダメージで死ぬことになる。
以前それで遊んでいたPC達が纏めて落ちて全員死んだ。という笑い話がある位だ。
MP自動回復を積んでいる俺でもMPの消費は大きいが、何とかMP回復量の方がギリギリ上回っている。最低でもこうならないようにウィングを使える魔法使いクラスは精々MP自動回復(小)となってるがGMはバランスなぞ考えなくていいのでずっと空を飛べるようになっている。
どうやら身体強化に入るウィングは使ってもステルスは解除されないようだ。解除判定は攻撃した時なのかもしれない。好都合なのでこのままおっさんのアジトへ向かおう。
(空…空飛んでるぞおい!?)
(そういう魔法使ったからな)
(お前さん、こんな魔法まで使えるのかよ!?)
(おっさん、アジトの方角はどっちだ?)
(あ…ああ。あっちだ。あの森の中に洞窟がある)
(解った。速度出すから掴まってろ。落ちたら死ぬぞ)
(こんな高い所で手を離せるか!!)
そりゃそうだよな。マップを見てみるが、グリフォンも気づいた様子はない。魔法で感知される可能性があったがステルス中は無理なようだ。
そのまま俺は、おっさんを背負いながら初めての魔法を使った気分に興奮しつつ、森の中にあった洞窟へと飛び去って行った。
変更があったのでスキル更新、そして、今回出た魔法と使えるジョブです。
パッシブスキル
移動速度増加(中)(ハイシーフ)
身体能力上昇(特大)(グラップラー)
近接戦闘能力上昇(大)(ダークロードナイト)
隠密性能上昇(大)(アサシン)
MP自動回復(中)(マジックフェンサー)
HPMP自動回復(中)(ロードパラディン)
気配探知能力(大)(アサシン、ハイシーフ、テイマー、アーチャー系)
アクティブスキル
無音撃 (アサシン)
疾風の如く (アサシン)
時限式ボマー(ハイアルケミスト)
魔法
ウィング(風系上級魔法)