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妖精の抜け道

今日は出かける予定ですので感想、誤字修正は帰ってきてからになります。ご了承ください。

「ふぁぁぁ……眠……」


「随分と眠そうだな。マサキ。昨日は何かあったようだが何があったんだ?」


「んー……。後で説明する。すまんが、ちょっと寝直す」


「そうか。まだ王国に着くまで時間があるからな。ゆっくりと休むといい」


「頼む。んじゃ、おやすみ」


 結局、昨日の出来事の所為で睡眠時間を大幅に削られた俺は、碌に眠れないまま船に乗る事になった。

 レヴィアも同じく寝不足で、ダメソファーを合体させたダメベッドでぐっすり眠っている。

 俺は自分のベッドにもぐりこみ、二度寝をすることにした。





◆◇◆





 昨日の黒歴史尋問の後、知られたくない過去を暴露されて身もだえしている獣人密偵達を連れて屋敷まで帰った。

 意気消沈しても気配を消すのは上手く、アデルにさえ気づかれないまま政務室までたどり着けた。ネメアーによると、俺とレヴィアが言うまで密偵の存在に気付かなかったようだ。明日も朝が早いから起こすのは可哀想だったから都合が良かったが。

 相当の腕だが相手が悪すぎたな。


 フェンを別室に寝かせたネメアーが政務室に戻ってくると、全員に珈琲を振る舞う。

 領主自ら珈琲を振る舞っている姿に密偵の連中が驚いたが、メイドや執事を深夜に起こすのは気が引ける。本当なら起こしてでもするべきなんだろうが、なんというか自分でやれることは自分でやるっていうのが染みついてて中々取れない。

 

 密偵の連中は出された珈琲を訝しみながら、軽く啜って何か確認してる様子だった。毒は入れてないっての。飲み物に入れたら勿体ないだろ。


 一口飲んで毒が無いのを確信したのか、狼の獣人――ガルムは部下達にも大丈夫と告げて温かい珈琲を啜る。部下達は戸惑いながらも珈琲を飲み、豹の獣人は猫舌なのか何度も息を珈琲に吹きかけていた。

 ネメアーは猫舌ではないらしく、普通に啜っている。ちょっと期待したのは内緒だ。

 レヴィアはブラックは苦手で、甘いカフェオレにしている。見た目通りお子ちゃま……とか思うと吹き飛ばされそうなので止めておく。死なないにしても吹き飛ばされるのは辛い。

 俺も珈琲を飲み、一息ついてから視線を密偵達に向ける。


「さてと、色々聞きたいことはあるが、お前らはどうやってフェンの居場所を突き止めた?」


「……」


 だんまり決め込むとまた黒歴史暴露するぞ? と言いかけた所にガルムがあわてて口を開いた。まだまだネタはあるのだよ。


「帝国の方で吟遊詩人から聞いたのだ。脚で怪物の腕を斬る獅子の獣人の事を。今では各国でその戦いの事は歌われている。そこから各地を転々とし、この領地に訪れた所でネメアーの姿を見つけたのだ」


 ああ、あの戦いって歌になってたのか。そういえば、手紙で演劇の打診が来てたな。忙しいから後回しにしてるけど、蒼の英雄第二部らしい。俺の羞恥の刑第二部でもある。


「なるほど。それなら納得だ。あと一つ、これはネメアーにも聞きたかったことなんだが、なぜあの位置にいた。海からも離れ、山からも離れた森の中だ。街道も通っていないあの場所に何故」


 マップで見て不思議に思ってたんだ。逃げるなら船で密航するなり、最悪奪って逃げるなり、街道も仮とはいえ整備しているのだからラーフの街に逃げ込めるはずだ。そこから更に色々な領地への街道が通っているので追いにくくなる。

 俺のマップの性能が高いとはいえ、遠くまで逃げ込まれると方角しか判らなくなるので追跡が難しくなる。最終的には追いつくが時間がかかる。


 不思議に思っていたことを聞くと、今度はネメアーが手を上げる。


「その質問には私が答えよう。あの森には『妖精の抜け道』が存在するんだ」


「『妖精の抜け道』……。なるほどのぅ。まだそのような場所が残っておったか。主らはそこを通ってアース大陸からランド大陸に来たというわけじゃな」


「はい。獣人は傭兵家業をやっている者も多く、帝国の中に紛れ込むのは容易でした」


「獣王国を援助している王国ではなく、逆に敵対していた帝国にか。道理でそちらの方に手を伸ばしても見つからないはずだ」


「ガルム、時には危険な所に飛び込んで身をひそめるのも手段だよ。私はそうやって生き延びてきた。それに、あのころの帝国なら、懐にさえ入り込めば密偵も中々動きづらくなるからね」


「なるほどな……」


 いやいや、俺を置いて話を進めないでくれ。この世界に来て半年は経つつがまだ知らないことが山のようにあるんだよ。


「すまん、『妖精の抜け道』って何だ? あの場所にそういうのがあるのか?」


「ん、ああ。マサキは知らぬのか。『妖精の抜け道』というのはの、言葉通り妖精族が通るための空間の事じゃ。その空間はこの世界、物質界とアストラル界の狭間にあってじゃな、空間がねじ曲がって遠くの場所と繋がっておる場合があるのじゃよ」


 魔法の説明は聞いたから、大体何となくだがわかる。

 アストラル界は魔法の元、マナがある世界だ。時間の流れも空間の流れも違う世界だ。物質界は何かのゲームで聞いたことあるからわかるが、俺達が今いる世界だな。幻想界とも言いそうだが置いておこう。

 『妖精の通り道』というのは二つの世界の間にある隙間の世界の事のようだ。道路で言えば中央分離帯のようなところか。


「それで、その『妖精の抜け道』ってのがアース大陸、獣王国と繋がってるんだな。それって誰でも通れるのか?」


 もし通れるなら船で移動する時間が短縮できそうだ。その上、獣王国の方と交流もできるかもしれない。


「いや、『妖精の抜け道』は妖精の加護で出来た結晶を持たぬと入る事すら出来ぬ。ちなみにこれじゃな」


 レヴィアが胸元から淡く青白い光を放つ水晶の塊を取り出した。何故そんな場所に入っている。

 〈鑑定〉してみると


『妖精結晶:妖精に認められた者にのみ与えられる水晶。半アストラル帯への道を切り開く力を持っている』


 半アストラル帯というのは『妖精の抜け道』と思って良さそうだな。妖精もこの世界にはいるようだ。良くあるファンタジー通りの姿だといいのだが、ムキムキマッチョな妖精じゃない事を祈ろう。


「思ったんだが、ガルム達も『妖精の抜け道』を通ってきたなら妖精結晶を持ってるんだよな? こういってはなんだが、良く手に入ったな」


「あ、あぁ。これは裏ルートでは高額で取引されているんだ。妖精と言っても全てが良い奴じゃないからな。金が欲しくて結晶を売ったり、俺達のように裏の仕事をしている奴もいるし、俺達もそいつから買ったんだ」


 なるほど。物である以上売買は可能だ。表にも出るには出るが、殆どはオークションで出るらしい。裏で手に入れる人物は表だって動けないこいつらみたいな奴らか。


「それで、当然それは渡してもらえるよな?」


「……」


 ガルムは渋々と懐から妖精水晶を机の上に置き、部下達もそれにならって置くと合計5つの妖精水晶が目の前に並んだ。こうしてみると本当に綺麗だ。

 さて、ガルムがじっと暗い目で水晶を見ている。意地悪し過ぎるのも何だしな。ここいらで希望を出してやろう。


「よし、ガルム。俺はお前の過去を見たが……子供と嫁さんが戦争で足と手を失ったからこうしてウロボロス教団の闇として動いてるんだよな?」


「っ……! 俺の過去をそこまでみていたか……ああ、そうだ。全ては家族の為に……」


 だろうな。俺が見えた記憶の風景は見ていて心苦しいものだった。結婚から初めての子供が生まれた時、幸せな家庭……そしてそれを打ち砕いた戦争。子供や妻が兵士達の攻撃に巻き込まれ、身動きできない体に。

 薬代を稼ぐために全うな仕事では足りず、文字通り命懸けで金を稼ぐ為にウロボロス教団で密偵の仕事に。過酷な訓練や仕事も家族の為に乗り越え、部下や仲間、市民の命を踏み台にして家族を助けてきたガルムの姿。その手は血にまみれていても家族を守る姿は立派だ。黒歴史があっても。

 ここで見捨てる事は出来なかった。まだまだ俺も甘いとは思うが偶には甘くても良いだろう。


「助けてやるよ。俺の魔法の事は聞いているか?」


「えっ? う、噂になら。切断された腕や足が生えたと……まさか本当に!?」


「ああ。出来る。回復魔法を何千人も掛けて回った。完治した全員が後遺症も無く元気に走り回るほどだ。その謝礼代わりだ、俺の密偵として働いてほしい。ネメアーやアデルに気付かれない腕前なら十分だ」


 正直な所、ずっとジロウの配下を借り続けるのは気が引ける。ここいらで自由に扱える手駒が欲しかった。


「当然、部下もまとめてだ。どうだ? 悪い話じゃないだろう」


 このまま表には出ずに裏で働いてもらう。この世界でも綺麗ごとでは生きていけない。各領地の動きも見る必要がある。王国も一部の貴族は俺を排除したいと考えている。何があるか分からない以上は打てる手は増やしておくに限る。


「……」


「悩むのは当然だな。俺に仕える気があるのなら明日から王国に行くからその間に決めておいてくれ。それと、ネメアー。悪いがフェンは俺の『ルーム』の中に預からせてもらうぞ。あそこは外部からの干渉は一切受け付けない。護るならあの場所が一番安全だ」


「そうしてくれると助かるよ。私も王国に行くべきかな?」


「いや、こいつらを見張っててくれ。場所は寮を使っていい。ついでに、獣王国の現状について詳しく聞いておいてくれると助かる」


「分かった。出来る限りの事はやろう。……フェンを頼みます」


 立ち上がり、深々と頭を下げるネメアー。本当にフェンの事を守りたいと思っている。

 俺にとってもフェンは秋葉より妹に近い存在だ。ウロボロス教団が何をするか分からないが、フェンは戻るべきじゃないだろう。少なくとも、確実に幸せにはなれない。


「任せとけ」


 俺はネメアーにはっきりと答え、約束をした。






◆◇◆






 こうして『妖精水晶』と『妖精の抜け道』の情報の二つを手に入れた俺は、出発まで軽く仮眠をし、船に乗っても眠気が取れずにいたので二度寝することになった。フェンは『ルーム』の中をきれいに掃除してくれている。不思議とゴミは消えるが小さな屑などは残っていたりするのでありがたい話だ。


 仮眠が終わった俺が甲板に出ると、涼しげな風が体を包み込む。

 海に目を凝らすといつもより数倍も速い速度で船が進んでいる。


「思った以上に速いな……」


「ああ。レヴィアのお蔭だ」


「ふふん、妾の自慢の眷属の力じゃ。ありがたく称えるがよい」


「おう、ありがとな」


 ふんぞり返るレヴィアの頭をわしゃわしゃと撫でまわしてやる。うにゃぁぁっと鳴くレヴィアが可愛らしいが、嫌ではないらしく離れる様子はない。


 高速で辿りつけたのには訳がある。レヴィアが眷属を使い、海賊船を安全にかつ、高速で運んでくれたのだ。船を運んでくれたのはシーサーペント達だ。こいつらは海の中ではマグロ並の速度を出し、なおかつ大型の船を運べる程の力を持っている。

 

 乗り心地などはアデルやバルバロッサ、ローハス達の話によると悪くないらしく、揺れは思ったよりなかったらしい。支障があったのはパドルとペドルで出番が無いと不貞腐れていたぐらいか。タツマはご察しで船酔いでダウン。これで姫さんの前に出して大丈夫だろうか……。


 セントドラグ王国の港に付く前に眷属には一旦隠れてもらった。まだ前の襲来の騒動を思い起こさせて混乱を引き起こすわけには行かないからな。港に付く前にパドルが王国の通信係に連絡を入れている。今回はスムーズに軍港に入る事が出来た。以前はレヴィアとの戦いで負傷船が多く、軍港には入れなかったからな。


 軍港ではアラン伯爵が待っていてくれた。久しぶりだ。前にあったのは祝勝会で軽く挨拶をしたときぐらいだ。


「やぁ、マサキ。っと伯爵になっていたのだな。トウドウ伯爵。思った以上に速い到着だな」


「レヴィアのお蔭だ。アラン伯爵。紹介する。これ、リヴァイアサン」


「は?」


「これとはなんじゃこれとは!」


 ふくれっ面で俺の脚をガスガスと蹴ってくるレヴィア。これだけ見たら兄妹だな。

 アラン伯爵は俺の言葉に唖然としながらも、直ぐに平静を取り戻し、レヴィアに対して深く一礼する。


「これは失礼しました。リヴァイアサン様。まさか貴女様までご来訪とは」


「レヴィアでよい。王に話がある。案内してもらうぞ」


「畏まりました」


 こうしてみるとどこかのお姫様と貴族のやり取りだ。レヴィアもずっとこの調子で上品ならいいのだが、大食いの面と子供っぽさが出てお姫様というより親戚の子供に近い。 

 今回も王様とはスムーズに対面することが出来た。事前に念話で話を通しておいたので待つ時間がかからなかった。

 レヴィアの事を知ると腰を抜かしかけたようだが、これは仕方ないだろう。国を滅ぼしかけた存在が目の前にいるのだからな。


 王様にヨルムンガルドの異変の事を伝え、準備が終わり次第向かう事。それまでの間、領地の運営に関してサポートが欲しいと伝えると快く引き受けてくれた。


「では、私が向かおう」


 というかレオン王子が率先して自薦してた。どうにも急激な発展をするうちの領地に興味があったようで、最も、一番の目的は春香だろう。

 王政について学んでおり、その中には領地の運営も含まれていた。王子なら大丈夫だろう。引きつぎの書類も準備期間の間に書き上げれそうだ。〈筆写〉スキルが無ければ無理だったな。パソコンも無いこの世界だし。


 王様とレオン王子のサポートと遠方に行く許可を得ると、次は眠り姫、フィリアが眠り続ける医務室へと向かう。

 フィリアがいる部屋は王族専用の部屋だけあって厳重な警備がされていた。フィリアの存在は死亡したことになっているが、それでもその美貌で気づく人は何人かいた。過激派の帝国残党兵が奪いに来ないとも限らないのでこの警備は当然か。


 医務室に入ったレヴィアは徐にフィリアの胸を肌蹴させ、触診するように小さな手を胸に当てていく。

 俺含む男達は部屋の外だ。いきなり肌蹴(はだけ)させたところで追い出された。

 タツマが鼻血を噴いて床が真っ赤に染まり、血の池が出来かけた。お前はどれだけ初心なんだよ。


 増血の魔法なんてないのでタツマは椅子に寝かせて安静にさせておく。これは先が思いやられるぞ。


 大体1時間ぐらい経った頃だろうか。固く閉ざされた医務室の扉が開かれた。


「やれやれ、人の魂は脆いが、なんとかなったぞ」


 疲れた様子で肩をぐるぐると回すレヴィア。どうにも破壊は得意だがこういった治療行為は不慣れで疲れたらしい。


「それでは、フィリアは?」


「うむ。ほれ、もう目覚めておる。会いに行くがよい」


「あ、ああ! ありがとう!」


 貧血気味にも関わらず急ぎ足で医務室に飛び込むタツマ。良かったよかった。

 扉の間からは涙を流しながらフィリアを抱きしめるタツマと、驚きながらも優しく抱き返すフィリアの姿が見えた。こういった幸せな様子を見ると助かって本当に良かったと思う。


「妾の時とは違い深くまで侵食しておった。あとひと月遅ければ死んでおったじゃろう」


 あぶねぇ! 本当に良かったよ!


「マサキ、この労いはケーキで頼むぞ♪ それも飛び切りでっかい奴じゃ!」



 あれ? ヨルムンガルドを調べに行く報酬としての治療では? と思ったがここは別にいいか。フィリアが無事目覚めた祝いとして美味い飯と共に作ってやろう。久々に〈味の真髄〉を使うのもいいか。

 

 そう思いながら俺達は、晴れやかな気持ちで王宮の通路を歩いていった。


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