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温泉玉子

 まだ朝の涼しさが残る中、俺と春香は馬に乗りながら農場を建設する予定の村へと向かっていた。

 馬には初めて乗ったが、俺に宛がわれた馬は大人しく、不慣れな俺に合わせるように動いてくれる。そのうち徐々に慣れていってそれなりの速度は出せるようになった。

 春香は農大で乗り慣れていたらしく、暴れ馬を自分から選び、見事乗りこなしている。

 ゆったりとした朝の時間を、馬に乗りながら過ごす。貴族らしいかもしれないが、昨日は夜遅くまで作業してた所為でものすごく眠い。


「ふぁぁぁ……」


「マサキさん眠そうですねぇ? 昨日は遅くまで?」


「ああ。ちと張り切り過ぎた。鍬だけで止めておけば良かったんだが、警備隊用の武器まで手を出していたからな。気づいたら深夜になっていた」


「そうなんですかぁ。その武器の方もミスリル製とかですかぁ?」


「いや、鋼鉄とトルマリン原石と桑の木材の組み合わせで作った」


 元のゲームでは、宝石には魔法属性の力が付与されていて、鍛冶・木工・錬金術の3つのスキルを使い制作するロッドだ。

 頑丈な木材の両端に鋼鉄の部品を付け、更にその先端に研磨したトルマリンを埋め込んで作った。相手に攻撃をすると微量の雷を与え、極まれに動きを止める追加効果がある。

 警備業務の人が持っているような警棒型スタンガンのような威力は出せないが、攻撃を防御しても軽く痺れるような威力はある。

 長さも六尺(1,8m)あるから剣の範囲外から突くことが出来る。

 先端に取り付け可能なサスマタのようなパーツも考えている。これはアタミにいる鍛冶屋に頼む手筈になっている。

 

 俺が作っても良かったんだが、職人の仕事を奪ってどうするんですかとジミーとルードリッヒから怒られたので止めることになった。

 結局俺が作れるのは、稀に料理と、身体強化の為の装飾品の類だけという事に決まった。豊富なスキルがあるがやりすぎは禁物だな。

 鍛冶屋には今度、詫びにミスリルの槌と金床を送ろう。これなら俺も彼らに色々頼むことが出来る。

 

「集中するのはいいのですがぁ、あまり無理しちゃだめですよぉ? アデルさん達が心配しますから〜」


「だな。気を付ける」


 出来上がったミスリルの鍬を農家の皆に配ると、非常に喜ばれた。


「気の所為だと思うんだが、持つだけで力が溢れるような気がするだぁ」


 それは気のせいじゃないだろうな。STR+5の効果だと思う。STRは腕力に関係するからな。

 試しに使ってもらうと土が豆腐のように抉れて、岩も切り株も粉々にしながら耕していた。うん。これ凶器だ。製造番号掘って厳重に管理させよう。


 スタンロッドは警備隊に配布するようにアデルに頼んである。

 警備隊の訓練はタツマの担当なのだが、今日もタツマ達は大工と一緒に壊れた家屋の修繕、足湯の建設、旅館の建設と大忙しだ。それでも疲れを見せず、楽しそうにしてる様子を見せていた。戦いと同じようにモノづくりも好きなのだろうな。



◆◇◆




 領地の復興を始めて早くも二週間が経った。

 早朝、屋敷のベランダに出ると、遠くに見えるアタミから湯気が見える。温泉の蒸気だ。

 


 俺は全体的な復興具合を見るために、アタミ周辺に点在する村々が見える範囲までマップを拡大した。


 マップを開くと、完成した街道が各村まで伸びていて、その道はラーフの街まで通っている。

 街道には行商人や荷馬車、冒険者達の姿が見える。前まではラーフの街までは迂回路が多く、二日かかったらしいが、街道整備でヨーコが大暴れ。


「GO! エクスマイザー!!」


 山のように大きな岩を粉砕、玉砕、大喝采!

 人が通れない程、竹が生い茂る竹林を強引に開通させたので僅か半日でたどり着けるようになった。

 因みに竹は資源としてきちんと活用する為に持ち帰りました。





 マップから目を離し、部屋に戻るとアデルが珈琲を持ってきている所だった。

 この珈琲は『ルーム』の中にあるコーヒーメーカーのとは違い、街で購入したものだ。無料でいつでも好きなだけ飲めるとはいえ、こういった嗜好品にも金は出すべきなので屋敷にいる時はこうやって飲むようにしている。


「もう起きていたのか。おはよう。マサキ」


「ああ。二度寝するのもいいんだが、せっかくの休みを寝て過ごすのももったいないからな。珈琲ありがとな」


 アデルから珈琲を受け取り、一口啜る。何時ものとは違い、変わった風味があるがこれはこれで美味い。


「それなら今日はどうするつもりだ?」


「そうだなぁ。久々の休みだからなぁ」


 そう、ここ二週間ずっと働きづめだった。皆には各自週休二日、または一日と半日休みを与えていたが、街道の作業だけでなく、色々案を出したり、身体強化のアクセサリーを作ったりしていて気付けば2週間も休みを取り損ねていた。

 スキルセットや装備品の恩恵でさほど疲れを感じていなかったが、ずっと休まないでいると精神的な疲れが溜まりそうだったので今日と明日は休むことにした。

 その事をジミーに伝えると快く了承してくれた。そろそろ俺に休むように言うつもりだったらしい。


「アデル。今日は休めるか?」


「そうだな。書類仕事も昨日のうちに今日の分を半分ほど終わらせたからな……」


 すげぇな。昨日、珈琲を差し入れしたが机の上に山積みになっていたのを覚えている。あれを終わらせた上に今日の分までやってしまったのか。

 スタイルも良く、戦えて、書類仕事も手際よく出来る。何と言うハイスペックな嫁さんだ。


「それなら今日は街に出かけてみないか? 報告書見る限りだと街の復興も9割がた終わって、足湯も完成したみたいだしな」


「足湯か……。どのようなものか興味があるな。ヨーコはどうする?」


「あ〜……多分ダメだと思う。昨日、泥酔するまで酒飲んでたし、今頃二日酔いでダウンしてるんじゃないか? 魔法でもあれは治らないしなぁ」


 ヨーコは休みだからと言って、久々に羽目を外して酒を飲んでいた。ビールに地元の果実酒、ワインと次々と開けていた。俺も付きあったがここの果実酒は糖度が高くてまるでジュースみたいだった。のど越しが良く、呑みやすいが度数も高く、気づいたらヨーコが顔を真っ赤にしてふらふらしていた。

 俺も5本ほど開けたが久しぶりに少し酔ってしまった。ビールならジョッキで10杯飲んでも平気だが、結構度数がきつかった。


 ダメ元でヨーコの部屋を訪ねると案の定二日酔いでダウン。後でお土産を持ってきてやろう。酒以外で。







 いつもの蒼龍のクロークを装備欄から外して、ベージュ色を基調としたジャケットとズボンに着替える。更に伊達メガネを付けて気楽に回れるように少しだけ変装をしておく。

 これでも領主だし、下手に騒がられるとゆっくりと街を回れない。

 

 アデルは王国で着た黒いゴシックドレスに着替えて、長い髪は束ねてポニーテールに。つばが広いベージュ色の帽子をかぶっていた。


 思えばこうしてアデルと二人っきりで出かけるのは初めてだな。

 ガチガチに緊張するような歳でもないが、こうしてデートのように出かけるのは心が弾む。

 ジミーに今日の仕事は任せ、ルードリッヒに見送られながら屋敷を馬車で出発。

 

 野盗の襲撃とか、モンスター襲来などのイベントっぽいモノは何も起きずにアタミに辿りついた。


「それじゃ、夕方になったら連絡するから迎えに来てくれ」


「分かりました」


 御者は礼儀正しく深く一礼すると、馬をゆっくりと歩かせてアタミの中に入っていく。

 彼は街と村を繋ぐ定期便の仕事も請け負ってもらっている。夕方には定期便も終わるのでついでに一緒に屋敷まで帰る事にした。



 街の中に入ると清掃の仕事をしている冒険者と遭遇した。

 手には箒とちり取りで欠伸をしながら掃除をしている。俺達は軽く会釈して進むとごみを一纏めにしている冒険者ギルド職員が目に入った。

 新人なのか眠そうにしているが、丁寧な仕事をしている。彼の隣を通り過ぎて、綺麗になった通りを歩く。ゴミ一つないのは素晴らしい。


「これはマサキの案だったか? 街の清掃を冒険者ギルドに依頼すると言った時は驚いたが、住民からも冒険者達からも好評だった」


「街が綺麗なら、それだけ人が集まりやすい。それに観光地だと景観は大事だしな」


 街の清掃の仕事は朝と夕方に行われる。冒険者ギルドに依頼として出していて、報酬は2時間掃除で10フラン(日本円にすると1000円くらい)と温泉半額券だ。食事するなら余程豪華にしなければ二食分。それに加えて温泉の半額券が付くので割と好評だ。

 好評すぎて争奪戦迄、起きるとは思わなかったがな!

 

 実際使う場所は殆どアタミなので、報酬は領民達に還元、そして領主である俺に間接的に帰ってくるわけなので特に痛手が無い仕組みになっている。


 領内に住む住民には専用の鉄のプレートを配ってあるのでそれが住民の証、及び永続温泉半額券の代わりになっている。売買は禁止させている。

 無くしたら再発行はするが、その際には費用が掛かるという事を配る際に伝えてある。


「前の港町だった頃より、明らかに綺麗になっているな……。確かにこの方が商人や貴族達にも印象がいいだろうな」


「貴族は見た目を気にするみたいだからなぁ」


「……そういうマサキも、貴族なのだぞ?」


 自覚があまりなかったがそうでした。


 アタミの大通りにたどり着くと多くの屋台が立ち並んでおり、朝食を求めて主婦や冒険者、兵士や職人達が各々好みの店に並んでいる。


 一つの屋台を覗くと、竹かごが温泉の蒸気で蒸され、中には無数の卵が入っていた。

 

「いらっしゃい! 生みたてほやほやの卵を蒸した温泉玉子だよ! 一ついかがですかい!」


「じゃあ二つ貰おうか。塩はつくか?」


「おうよ! 二つだな。まいどあり!」


 代金を手渡して、別の店でハムサンドイッチ、牛乳も買った。ハムも温泉の蒸気で蒸されていて美味そうな匂いが鼻孔をくすぐる。

 食事できそうなスペースに移動して、ハムとパンをアデルに渡し玉子の殻を剥く。


「朝からこういう食事もいいな。蒸気蒸しは懐かしい味がする」


「アデルは昔はよく食べたのか?」


「ああ。幼い頃だが、小遣いで買った魚やエビを籠に入れて蒸してもらっていた。その時は卵はなかったが、この温泉玉子も美味しいな」


「そのために優先して鶏を多目に発注したからな。出来れば生卵で卵かけごはんをしたいがな」


「な、生で卵を食べるのか?」


「あ〜……衛生上大丈夫か分からないが、意外といけるものだぞ。ダメなら半熟で出来るし」


「ふむ、半熟は私も好みだな。その卵かけごはんとやらがどのような味がするか興味がある。今度やって見せてくれ」


「おう」


 温泉玉子を3口で食べ終わり、ハムサンドイッチを頬張り、牛乳を飲み込む。

 牛乳も餌が良質な所為か乳の出が良いと報告が来ている。

 元の世界では低温殺菌しないと腹を下す可能性があるが、こっちの世界の人達はそういった事はせずに平気で飲めるようだ。モンスターやダンジョンがある世界だ。胃腸が俺達の世界よりも丈夫なのだろう。


 こっちの世界の牛乳は味が濃く、最初呑んだときは驚いた。安定供給の目処が立ったので、風呂上りの一杯がここ最近の楽しみだ。


 二人とも簡単な朝食を終えると、手を繋ぎながら市場を歩いていく。

 通り過ぎる人達の視線が俺達に時々アデルの胸元と足に向かい、同時に俺に親の仇のように殺意が籠った嫉妬の視線が飛んでくる。


「いいなあの人」

「彼女に欲しいなぁ」

「いや、嫁にだろ」

「おっぱいこのやろう」

「理不尽だ、なんであんな男に美人が……」



 おい、何か変なセリフが聞こえたぞ。誰だよ! 最後のより途中の方が気になったぞ!嫉妬の目線が気になり落ち着いてられないので、足早にその場を立ち去る事になった。



今日と明日と明後日でTRPG漬けになるので水曜日の更新が怪しくなります。出来るだけ頑張ってみます。

温泉の話を書いていると温泉に行きたくなる……。

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