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農場

 春香の言うとおりに村長は村人達に声をかけ、総勢50名余りの村民達が村長宅前に集まった。

 村人達はいったい何が起きるのかと興味と不安が入り交ざった表情を浮かべている。


「言われました通り、村人達を集めましたが農場の設立とは一体どういう事ですかのぅ?」


「そう難しくありませんよぉー。植える作物を変えるだけですねぇ」


「たったそれだけだべ?」


 一人の大柄の女性が子供をあやしながら春香に声をかけてきた。

 女性の周りには子供が5人もいてこの村では大家族で知られている女性だ。

 

「はい〜。差し当たっては〜丁度収穫時期が終わったのがちょうどいいですねぇ。こちらとこちらの種を植えようと思います〜」


 春香が外に出した机に袋を置き、口を開けると皆の目の前に黒い粒と黄色い粒が現れた。

 大柄の女性はその中で黒い粒を指先でつまみ転がしながらじっと見ている。


「こん種は……見たことあるようなねぇような」


「ある程度、改良してますがぁ。皆さんも毎日よく見てる草の種ですよぉ」


「草ん種?」


「はい〜。これですねぇ」


 春香が次に取り出したのは道端で採取してきたクローバーの草だった。

 それは村民たちが毎日よく見て、ただの風景と雑草としか見てこなかった物だった。

 雑草の種を植えるという事を言い出した春香に村民たちの半分以上が春香に不安と嫌疑の目を向けるが、春香はそれを全く気にしてないようにニコニコと笑みを浮かべたままだった。

 その眼に兵士達が動こうとするが、ネメアーが横目で見ながら頷き、動きを止めた。

 明らかに悪くなった空気の中、大柄の女性だけがマジマジと種を見つめ、指先で転がしていく。


「こんな草ん種植えて何するだ?」


「肥料づくりですよぉ。この種はここにある草よりも、栄養価と蜜の量を増やした特殊な種ですねぇ。もちろん茹でて食べても、おいしいですよ〜。これを肥料にしたりー、乳牛や鶏の餌にしようと思います。ゆくゆくは養蜂とかもやりたいですがぁ、それは余裕が出来てからですねぇ」


「養蜂ちゅーと、蜂蜜だべっ!?」

「蜂蜜食べてみたいだぁ」

「あまいもんなんて何年もくってねぇだよ」

「おらも食ってみたいだぁ」

「肥料ができんのも助かるべ。これならもっとええのが作れる」

「んだんだ」


蜂蜜と肥料いう言葉に村人達が沸きかえる。その様子に春香は手ごたえを感じながら笑みを浮かべて更に話を続ける。


「余裕が出来たらしますのでぇ。まずはーこれを植えて〜ある程度育ったら鶏から買いましょうー。そのお金もマサキさん、あ、ここの新しい領主さんですがぁ、出すと確約してくれてますのでご安心をぉ」


春香の声に村民たち全員がオォ!と喜びの声を上げている。

基本的に村人の仕事には貴族や領主などは関わる事が無かった。それをマサキが率先して関わり改善を促すことに村民たちは驚きと喜びを感じたのだ。


「それと、こちらの方はロイヤルスイートコーンというトウモロコシの種と、黄金小麦という種類の種で~、植えると砂糖が取れる温暖テンサイという名前の改良種の種と、ホクホクと美味しくて甘みがある伯爵芋の種イモもありますよ~。ラーフの街にも出回っていない種類ですので~食べるもよし、売るのも良しで病気にも強くしてあります~。ある程度肥料さえ与えれば土がやせ細る心配もありませんが~その代わり、水はしっかりとやってくださいねぇ。植える時期はしっかりと教えますのでご安心下さい~」


 村人達の視線が次々と出てくる種に注目している中、村長だけが不安そうな表情を浮かべていた。


「領主の使いのお方サマ。お気持ちはありがてぇですが、人手が足りねぇです。ごらんのとおり、村ん若い者や働ける男衆はみーんな連れていかれちまっただ。そこを何とかせなぁ……この話もただの夢物語にしかならねぇです」


 村長の言葉に今まで喜んでいた村民たちが一転して暗くなる。

 現実上、これを植えればよくなるかもしれない。それでも今、この村には女や子供、病気やけがで動けない男衆や老人しかいなかった。

 だが、春香の笑顔は変わらずに優しく村長の手を握って口を開いた。


「大丈夫ですよぉ。マサキさんに頼めば怪我は直ぐに治りますしぃ、働ける男の人達も沢山雇いますのでぇ。ちょっと複雑かもしれませんけどぉ。言いましたよねぇ。農場を作るって〜。ここの農家の皆さん全員に〜、従業員になってもらいますよ〜」


「はい?」


 首を傾げ頭に?浮かべた村長を尻目にニコニコと春香は手を握っていた。




◆◇◆


 街道の大体の整備が終わり、夕方になって全員、屋敷に戻ってきた。

 帰ってきたら屋敷で書類仕事を引き受けてくれたアデルが出迎えてくれた。領地の仕事で何度か手伝っていたこともあったらしく、慣れた手つきで夕方前には終わらせてくれた。


 料理長が作ってくれた夕食を食べながら今日の作業進行具合を各自報告。

 あ、今日の飯はポトフでした。地元の野菜とソーセージがいい味を出して実にうまかった。パンは黒パンだったので俺が加工を。一回気合を入れ過ぎて焼きそばパンになった。


 経過報告の方だが、街道の方はヨーコのお蔭ですでに3分の1程、石板を敷き終った。あとは両端に火山灰と水を混ぜ合わせたコンクリートで補強するだけだ。


 街の方は壊れた家を完全に取り壊して、新しく建築を始めている。

 建築に携わっているのは秋葉とタツマだ。

 なんとタツマは仕事が建設業でその道のプロだった。親が大工で大工仕事も小さいころから手伝っていて経験が豊富。

 今、建ててもらっているのは観光の目玉になっている温泉を生かすために、日本風の旅館を建ててもらっている。魔法の手と人手が必要という事なので円卓の海賊団に手伝わせている。土魔法が使えるペドルが大活躍。

 

 タツマは高いステータスを生かして丸太を軽々と担いでいたが、バルバロッサも真似して丸太を一本担いで運んだらしい。でも調子に乗って腰を痛めたとか。今は温泉に浸けて療養中だ。ムチャシヤガッテ……。

 

 秋葉はゲーム時代で戦車を修理する用のバーナーが鉄製品の溶接に使える事が判明。

 旅館を建てるにあたって必要な鉄製品の加工を慣れないながらもやってくれている。



 餅は餅屋に任せるべきと思って春香に農業の方は任せてみたんだが……春香が改善案を出してきた時はこれを本気でやれるのかと俺は考えてしまった。

 取れたクローバーや村周辺の雑草、安値で買いたたいた古古米を餌に養鶏と牧畜を始めるなんて思わなかったぞ。

 

 「春香、まずこういうのは農産物から変えていくんじゃないのか? 確かここのって二期作だからノーフォーク農法で生産率上げたほうがいいじゃないか?」


 たまに見るライトノベルでもこの方法で生産率を引き上げた話を見る。興味本位で調べてみたが穀物の生産率が若干落ちる代わりに、畑を休ませずに牧畜が出来る事から農業革命と言われたほどの生産率を誇る方法だ。

 

「それはもうラーフの街周辺の方で〜実践してますよぉ。あちらは食料が急務で必要という事でしたのでぇ、行ないましたけどぉ。戦争が終わりましたよねぇ? 軍備の備蓄に回っていた分の食料が市場に出回っちゃうわけでしてぇ。そうなっちゃうと私が提供した種の関係上沢山取れちゃましてぇ、どうしても今度の収穫には価値が安くなった穀物になってしまうのですよぉ。帝国さんに捕まっていた頃は通常の倍くらいの収穫できる麦や米、ジャガイモとかを提供しちゃっていましたのでぇ」


 あ〜、食糧難にはならないけど、作れば作るほど安くなる豊作貧乏というやつか。

 王国にいたころでも思ったが食料が豊富な理由って、大体春香が原因だったのかもしれない。ここでも飢えてる住民とか全く見かけなかったしな。


「こちらの方では私から肥料や堆肥とか提供できますのでぇ。それに〜農畜を強化しておけばラーフの街と競合しないように差別化できますからねぇ。飼う家畜さんの方は〜今は鶏と乳牛が良さそうですねぇ。両方とも温泉と相性がいいですし〜少ないですけど村では飼っていましたからねぇ」


 ああ、なるほど。農業系のゲームならその辺りのアイテムは必須だし持っててもおかしくはないか。

 鶏なら温泉卵も作れるな。卵かけごはんとか食べてぇ……。

 風呂上りに冷たい牛乳の一杯とか最高じゃないか。


「人手の方はぁ、戦争で職を失った兵士さん達がいますのでそちらを雇えば肉体労働と、警備の両面でお得になりますねぇ」


「農畜はモンスターや野犬が問題となっていますですねはい。それらの対処も元兵士が居れば大丈夫。よく考えられています。領主様。春香様の案は実行しても大丈夫と思いますが、村民の方々の雇用も含め、初期費用の方が……」


 ジミーが春香の案に頷きながらも予算の事を考えて冷や汗をかいている。

 ここの領地は帝国から税収の数割が軍事費として取られ、予算が心もとない感じだ。

 資金なら俺の手元に使う予定のない金がいくらでもあるからこれを出すべきだろう。資本金として出すには全く問題ない。


「初期投資として考えたらそれくらいは出しても大丈夫だ。俺が抱え込んでいても仕方ないし。春香。他に何かいるものはあるか?」


「そうでしたぁ。とっても頑丈な鍬を作ってもらえませんかぁ? できれば岩を砕けそうなぁ」


「どんな鍬要求してるのお姉ちゃん!?」


 どう見ても普通の鍬じゃありません。岩を砕いたら農具じゃない。作るけどな。


「材料的にミスリルでいいか。ブリタリアオンラインでのミスリル旧貨幣が山のように余っている」


「しかもマサキさんもノリノリ!?」


 秋葉が突っ込んでいて数人が苦笑していた。鍬の設計図を一から作る事になるけど、頑丈な鍬を送って領民の心をつかむのも大事だ。

 村民達はミスリル製とは思わないだろうな。驚く顔が楽しみだ。


 全員で食事を終えたが、数人が俺の飯が良かったと告げていて、料理長が凹んでいた。調理スキルレベルカンストと普通の料理長を比べたらダメだと思う。






 その日の夜のうちに俺はルームの中でミスリルの鍬の設計を筆写スキルで組み立てる。システムの関係上、一度は設計図に起こしておかないと鍛冶レシピとして登録されない。

しかも登録されるには何度もその武器を作り、熟練度を100まで引き上げないといけない。今回は農具だけどな。


 一度登録さえできれば後は短時間で量産することが出来る。

 普通なら数日以上かかる作業もゲームシステムが干渉すると量産が容易になる。

 

 しかし、この量産には欠点があった。

 

 料理のレシピで料理を量産すると、味が普通にしかならない。それは最大の欠点だ。拙くもないが特に美味しいとも感じない。

 量産を選ばずに、手打ちや手作業でやればスキルレベルの影響を受けて上物になるのは戦争中、ポーション作成をしていて気付いた。

 量産で作ったポーションより、乳鉢でゴリゴリ潰して作ったポーションの性能が高かったのだ。試しに料理をして確信を持った。


 今回は農具なので大した性能を求めなくていい。ミスリルという腐食耐性を持つ金属で出来ている時点で性能が高すぎる。下手な武器より実は強い。

 見本とした普通の鍬を見て、紙に筆写スキルで設計図を書き込み、鍛冶スキルで作っては潰して、作っては潰して、材料の節約をしつつ熟練度を上げていく。

 作り方は音ゲームのように素材に槌をタイミング合わせて振るう必要がある。上手く成功させると見る見るうちに形が変わっていく。


 ようやくミスリルの鍬の熟練度100まで到達した時には深夜の2時を過ぎていた。久々に夜更かしし過ぎたか……。

 ミスリルの鍬(量産型)試しに作るとこういう性能になった。


ミスリルの鍬:ミスリル製で出来ており腐食耐性を持つ豪華な鍬。鍛えられた鍬は岩をも砕く。STR+5 攻撃力:30


 一般的な王国や帝国兵士が持つ鋼鉄の剣の攻撃力は30程度だ。熟練の鍛冶屋が作ればもう少し上がると思うが、STR+5の時点でうちの農家達の方が良い武器を装備していることになった。

 流石に農家に負けては、うちの兵士達の面目が潰れるので量産できるようにしておいたスタンバトンを渡そう。攻撃力40にスタンの追加効果があるので鎮圧に役立ってくれるだろう。

 

 思わず二つの武器(農具)を作り上げ、鍛冶作業用の為に改装したルームの一室からキッチンがある大型ルームに移動すると、ソファーに座ったまま誰かが舟を漕いでいた。

 横顔でもよくわかる、綺麗な銀髪、透き通るような白い肌。アデルだ。


(作業が終わるまで待っていてくれたのか。悪いことしたな)


 仕事に熱中しすぎるのは悪い癖だなぁ……。日本人特有なのかもしれないが、反省しないといけない。

 

 寝ているアデルを起こさないようにお姫様抱っこして『ルーム』を退出。足で雑に閉じると何もなかったように扉が消えた。

 

 そのまま、俺にあてがわれた寝室に向かうとヨーコがぐっすりと眠っていた。エクスマイザーの操作で疲れていたようでドアを開けても起きる気配が全くなかった。


 アデルをそっとベッドに寝かせて、作業をして汗をかいた体を洗い流すべく、屋敷の風呂場へと足を延ばす。

 

 天然温泉の風呂場は、温泉特有の香りを漂わせて懐かしい気持ちを引き起こす。

 

 「あぁー……気持ちいい。生き返るようだ」

 

 深夜の贅沢な温泉を楽しみ、俺は仕事の疲れを取り除いて、明日からの事を考えていく。

 

 今日、街道整備していた時に襲い掛かってきたイノシシ型のモンスターの肉があるから、煮込み料理か塩豚にしてもいいかもなぁ。

 あ、それより先に熟成期間があるか。うろ覚えだが、低温で3度か5度で4日? 正確な事は春香に聞こう。それがいい。荒業になるが魔法で氷を作って専用の部屋を作らないとな。

 

 明日もあの岩板層で、いや、あと少し先に行ったら鉄鉱山跡地があったな。あの辺りで硬い岩盤があるって聞いたからそこで作業しよう。

 

 うん、明日の仕事や料理まで考えるのはもう癖だな。この癖を取るのは時間がかかりそうだ。


春香のこのやり方は改良穀草式農法と言います。

小麦・大麦→ トウモロコシ・ジャガイモ・かぶ (テンサイ)→クローバーでやっていくノーフォーク農法と同じ農業革命の一つですね。牧草期間が長いのが特徴です。


水田も考えましたが、慣れない物をやると農家が大変と思うのでこちらの方に。合鴨農法も考えましたけど。


たまにですが、ネトゲキャラネタ募集とか考えてます。

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