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城が堕ちた日

少し投稿時間がずれました。

 ――話はタツマとシュヴァルツが対峙したところまで遡る――

 

 二人が戦っている中、俺はフィリアからの猛攻を必死に耐えていた。

 無敵なのに耐えるという表現はおかしいが、足元からの棘がまるで針山のように繰り出され、俺はそれに何度も弾かれつつも空中で体勢を整えては着地しては、その瞬間を狙われて跳ね飛ばされた。

 

 『ウィング』にずっと頼りきりだったせいで、地上での立ち回りが鈍り着地した後の回避行動がうまく取れず、何度もボールのように地面から弾かれていた。


(これは、後で訓練しないとダメだ。魔法は便利だが頼りすぎるとこういったときに困る)


 内心思いながらも、なんとかフィリアに飛ばされるように移動して近くでハイポーションを投げつけた。

 それも蔓によって叩き割られたが中身はフィリアに掛かり、淡く光ってフィリアの体力を回復していく。

 当然濡れると思いきやファンタジー補正なんだろうか、濡れることなく体力だけを回復していく。こういう真剣な場面ではその補正に助けられる。

 

 俺がフィリアの近くに来たからなのか、足元からの攻撃に加え、大樹からの蔓からも激しく攻撃を仕掛けだした。

 足元だけでもやっかいというのに……!

 

 襲い掛かる蔓に対して剣を構え、杭が飛び出てくる瞬間を狙い跳躍して床からの攻撃を回避。そして空中で蔓に切りかかり両断する。

 

 蔓は地面に落ちるが、すぐさま次の蔓が俺に襲い掛かってきた。他の奴らだったらコレはやばかったかもしれない。上下左右からの攻撃なんて面倒すぎる!


 何度か上下左右からの攻撃を避けつつ、フィリアの体力を鑑定で確認していると、城全体に小さな揺れが起き、ふっと体に力がみなぎる感じがした。

 ステータス画面を見てみると、今まで暗かった『魔法』の欄が明るく表示されていた。


(アデル達がやったか! これなら!)


 魔法にまた頼ってしまうことになるが、訓練は後ですればいい。即座に『ウィング』を発動し、フィリアに接敵する。

 

 蔓が無数に飛んでくるが、『無敵』によりダメージも、この程度の質量なら衝撃も来ないので手に魔法を集中する。

 

 使う魔法は『解呪』ディスペルだ。呪いを解くことができる魔法。重度の呪いになると二分の一で失敗してしまうが、出来るだけ早く救い出さなければ。手間取っているとイーロに人質にされたら困る。

 

 両手に魔力を込めて……!


「解呪!」


 MPを半分も消費し、解呪の魔法を使うとフィリアが強く光り輝いた。

 再度『鑑定』のスキルでフィリアの様子をみると。

 

 フィリア・ドル・グランファング

 HP70/100

 MP200

 

 よしっ! 状態異常完治! 魔力を強く込めたお蔭か一発で解除された。

 大樹が抱え込むことが出来なくなったのか、吐き出すようにずるりとフィリアが飛び出てきた。

 

 気を失っているフィリアを両手で抱えると、ふわりと甘い女性特有の香りが俺の鼻孔をくすぐった。少しドキっとしたが直ぐに気を取り直して残りの体力を回復させるために『ヒール』を使う。

 

 青白かった顔色がほんのり桜色の顔色に戻り無事体力が回復したのを確認して、俺はタツマの方に目を向ける。

 

 さっきの兵士との決着がついたみたいだな。イーロが俺の方を驚いた様子で見ている。やっぱりフィリアを人質に使おうと思っていたか。

 タツマがいる以上、フィリアの救出は確実にやるべきことだし、汚い奴ならそのフィリアを人質にとるくらいはするだろうと思って動いていたがビンゴだったな。


 タツマが土下座しながら命乞いをするイーロに対して槍を振るうと鈍い音が聞こえた。……死んでないよな? こいつからは色々聞きだす必要があるというのにここで殺されたら困る。

 

「……まさか殺したのか?」


「こいつからは色々情報を聞き出さねばならんだろう。殺すのはその後だ」


 良かった。死んだ奴からはログ解析ができないからな。

 いつまでもフィリアを抱えるのはタツマに悪いな。助ける役目も出来ればタツマにして欲しかったがこの場合は仕方ないか。

 フィリアが意識を失っているのが不幸中の幸い。タツマが助け出したということにでもしておこう。

 

 王子たちも倒し終わったらしく、駆け寄ってきた。

 フィリアの寝顔を見ながら良かったと呟いて高らかに剣を掲げた。

 

 「皆に報告せねばな。この戦、我らの勝利だ」

 

  ようやく帝国との決着がついた。イーロには根掘り葉掘り聞きだす必要があるな。

 まずは少し休んでから……と思っていたが、なんだ……足元が揺れて……!?

 

  轟音と共に、城全体が揺れていた。

  天井も壁も軋み、大樹が揺れていた。その揺れは大きくなり、壁にヒビが入って天井の一部が落ちてきた。

 

 「くっ!いったいなんだこれは!」

 

 「わわわっ……分かりませんけどぉ……! 早く逃げたほうがいいかもぉ?」

 

 「ああ! 逃げるぞ!」

 

  俺はとっさにこの城全体に声を届けるべく『システムメッセージ』を開いた。

 

 『城が崩れる! 全員逃げろぉ!』

 

  声をアデル達にも伝えて、俺はタツマ達の下へと向かった。

 

 「全員俺に捕まれ! ここから降りていたら間に合わない! 空から逃げるぞ!」

 

 レオン王子が春香を抱きかかえ、タツマがフィリアを抱きかかえたまま俺に捕まると『ウィング』を再度発動させる。

 4人分の重さになると動きが遅くなるが、空を飛ぶのには支障はなかった。

 

 続いて生き残らせたイーロを探すと、虚ろな目をしたままゆっくりと赤黒いオーラを立ち上らせながら起き上っていた。


「アアアァァァ……ヤ……ヤメテ! 意識ガ……魂ガ消エ……! 私ガ……私デナクなってイク……! アァァガガガ! タ……タスケ……テェェ……!」


 イーロに何者かが干渉したようだ。苦しそうな声を上げながら悶え頭を抱えていた。


「イーロ! 手を伸ばせ!」


「アァァァガガガ! タ……ツマ!! ヒメヲ……タスケロ……! 【パヴァリア】ニ気をツ……ガガガァァァァ!!!」


 タツマが手を伸ばすがイーロが最後の意識を振り絞り、手を弾いた。パヴァリア……それが黒幕の情報なのだろうか。

 赤黒いオーラを爆発させて触手を大樹にまで伸ばし、大樹の割れ目の中へと消えていった。


 あの状態は前に見たことがある。バリーの時と同じだ。ただ、違ったのは力の濃さといえばいいのか。無敵があるにも関わらず鳥肌が立つほどの悪寒を感じた。


 今すぐ攻撃を仕掛ければ、イーロが何かする前に止めることが出来るかもしれないが、この揺れだと城は長く持たない。

 悔しいが攻撃は諦めなければいけなかった。俺は両手にレオン王子とタツマを抱えて、タツマ達は女性達を抱えながら、イーロを取り込んだ大樹を尻目に外へと向かう。

 

 この揺れは城下町にも及んでいて帝都全体が揺れているのが目に見えた。

 

 城下町の方では、茨は波が引くように下がり、それらは全て城へと集まっている様子だった。

 

 空から眺めていると、ドゴォっと大きな音が聞こえた。

 今度は何事だと見たら、ネメアーが壁をぶち破ったようだ。あのライオン無茶やるなぁ……多分俺も出口探すより作るけど。

 

 上空から揺れが収まるのを見計らい、城前の広間へと降りる。

 直ぐにネメアー達も広間へとやってきた。全員埃まみれだが怪我はないようだな。


「マサキ、さっきの揺れは何だ?何が起こった?」


「分からんが、イーロ……この国の宰相だった奴が倒れてからだったからそれがトリガーになって起きたのかもしれない。バリーの時と同じだとすると……これは厄介な……」


 そこで俺は言葉が止まってしまった。不意に見上げた先にあったのは。


「ギャアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオォォ!!」


 天辺に獣のような大樹の頭と胴体を持ち、体中に太い触手、無数の茨を束ねたと思われる腕と爪を持ったまさに、怪獣というべき存在が城だった場所に君臨していた。城はボロボロになり、瓦礫となって崩れていた。

 

 おいおいおいおい! バリーの時と比べ物にならない程デカいぞ! 倍以上あるんじゃないかこれ!

化け物の方向に全員の視線が釘付けになる。化け物の頭がこちらに向くと赤黒い眼を開かせてこちらを憎しみと怒り、怨念、嫉妬が籠った負の目で睨み付けてきた。


「グウウアアアアアアアアアオオオオ!!!」


 化け物は大気を震わせるほどの大声を上げながら、一本一本が樹ほどの太さがある触手を俺達に向けて攻撃してきた。

 耐えるにしても太すぎるし、避けるにしても数が多すぎる!

 とっさに魔法を念じ、両手に魔力を込める。


「フレイムジャベリン!!」


 手元から巨大な炎槍を迫り狂う触手へと放ち、消滅させていく。10発以上打つが、それでも数が多すぎて全部は無理だったか!


――ドンッドンドンッ!―ズダァン!―


 隣を見ると両手にごつい銃で撃つ秋葉と、魔力を固めた巨大な弾を撃つアデル。

 その攻撃の合間を潜ってきた触手はネメアーとレオン王子、ハヤトとタツマが全て叩き落としていた。

 化け物の攻撃は俺らに届かず、攻撃が届かなかった範囲に未曾有の破壊を繰り出した。石畳に大穴が空いて、その威力をさまざまと見せつけていた。

 砂埃で俺達の姿が隠されている中、気を失っているフィリアを春香が抱えながら何かしら呟いている。


「フォレストシールド、草刈の音叉」


呟いていたのは魔法か! 俺も知らない魔法だが、この世界の魔法か、それともファーマーアイランドの魔法か分からないが体に薄い緑色の膜が張られた。

後者はスキルみたいだが、効果は何だろう。


「これでぇ、体力が徐々に回復しながら防御力もあがるはずですよー。それとー、植物に関して攻撃力が上昇するスキルを掛けましたぁ。皆さんが強くてかける必要ないかなって思いましたけど今回は必要そうですのでぇ」


のんびりしながらも魔法とスキルの効果を説明しているが、俺も支援魔法を唱えるべく魔法一覧を探る。


「クイックバイト! プロテオール! マジックシェル! パワード! 英雄のオーケストラ! 魔法剣:焔!」


 攻撃速度上昇、防御力上昇、魔法防御上昇、攻撃力上昇、武器に炎付加、全ステータス上昇の歌と支援魔法を全員にかけると体に強い脱力感を感じた。この感じは魔力をごっそりと使った時のだが、俺の様子を見ていたアデルがそっと背中に手を置くと、温かい何かが体に入ってきて力がみなぎってくる。

 これはアデルの魔力か。以前、野戦病院で受けた温かい力。


「アデル。ありがとうな。助かる」


「気にしなくていい。マサキの為に覚えた力だから」


 背に感じる力が温かい。まったく、俺には勿体ない婚約者だ。美人で、気が利く。

 春香は避難させた方がいいな。元から戦闘に向かないMMO出身だ。この敵は辛いだろう。


「『ルーム』。春香、姫さんと一緒にこの中に避難を。秋葉は……」


「私は行きます。行かせてください。帝国は嫌いだったけど、帝国の人は嫌いじゃないので。出来れば……助けてあげたい」


「分かった。後ろから支援攻撃を頼む。期待しているぞ」


「はいっ!」


 迷いが無い、いい返事だ。

 

 砂埃が晴れて、無傷な俺達を憎しみと怒りの表情で化け物が睨み付けていた。

 口からは唾液……樹だから樹液かもしれない。ダラダラと流しながら樹でできた牙を見せつけていた。


「グウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオォォォォォォ!!」


 巨大な雄叫びと共に化け物が俺達に襲い掛かってきた。

 戦力は7人。……いや、主の危機に察して王子の飛龍がやってきたから7人と1匹か。

 異世界に来てこんな戦いをすることになるとは予想してなかったが、元から異世界に呼び出されること自体が変か。ならば、敵さんの予想も徹底的に覆してやろう。 


小説書きながらTRPGをやっていると色々ネタが溢れて楽しいです。

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