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王国と帝国

『狙撃姫』が守り抜いていた砦をマサキ達が奪取して数日後のセントドラグ王国。



王の間にはセントドラグ王国、国王のローラン王と宰相のアルベルト。

そしてあと一人、白いシャツの上に学ランを羽織り、長い学生ズボンを履いた少年。

腰には先端が紅い木刀を刺した『番長』ハヤト・キリュウがいた。


「ハヤトよ。此度の北方遠征ご苦労だった。休みを与えたばかりであったが急な呼び出しをしてすまないな」


「構いませんよ。呼び出される要件も解ってますし、私もその話は聞きたいと思ってたので丁度良かったです」


ローラン王の言葉に『番長』のハヤトは見た目に反して礼儀正しく一礼する。

彼は学生生活を舞台としたVRMMO、『番長都市』で大勢の不良プレイヤーを纏めるヘッドとして君臨していた。

数多くのグループを倒し、束ね、本人が気づいた時には一つの都市のグループが全て傘下に入っていた。


実力はヘッドらしく非常に強く、何よりタフだった。

バットで殴られても弾丸で撃たれても車で弾き飛ばされても平然と起き上がり、敵には畏怖を与え、味方からは尊敬するヘッドとして君臨していた。


番長都市では腕力や脚力やスタミナなどがあるがその中でハヤトが選んだのはスタミナと防御、敏捷といった防御優先の特化型だった。

彼の真骨頂は戦闘継続能力と類まれなる指揮能力だった。


運営のバグによって起きた40時間にも及ぶ大規模襲撃イベントを一人、唯一寝落ちも戦闘不能もせずに戦い抜き、他のグループのリーダーに的確な指示を短い時間の間に行って自分が縄張りにしていた都市を護りぬいたプレイヤーだった。

その後は一日プレイを休んでいたが他のプレイヤーからには「リアルチート」とまで呼ばれる程だった。


だが彼も突如姿を消した。

大勢の部下を抱えていたことからこの消失は青天の霹靂であり、リアルの彼を探そうとまでする人すら現れた。

それはリアルの彼を知る知人から本当に消息を絶ったと告げられて調査を止められる。


これがマサキやジロウが知る都市伝説の大きな元であり要因だった。


そして彼はこの世界へと呼び出され戦い抜き、今はセントドラグ王国の将軍となっている。





「この度、皆を呼び出したのは他でもない。マサキの事だ」


今や街中で英雄扱いをされているマサキ。

その声は貴族や重鎮の間でも無視は出来ず、下手に批判すれば庶民はともかく、彼に取り入ろうとしている豪商やここには呼ばれていない貴族からも批判されるほどだった。

それは今行われている「蒼の英雄と深紅の姫騎士」という劇も影響していた。


余談であるがしつこく交渉された上に更には国王から

「戦時中故に民は娯楽に飢えている。マサキには悪いがここは劇を開かせてほしい」

と頼まれて渋々許可し、今は一大ブームにもなり、他の都市にまで影響が飛んでいる。


「ジロウから報告があった。透明になる能力と空を飛ぶ魔法を使い、『狙撃姫』とその姉を助けだしたとな」


「助け出した…となると従属の首輪を解除できたのですか?」


ハヤトの言葉にローラン王は頷いて肯定を記す。

従属の首輪を解除するにはその首輪専用のカギが無ければ開かないのが常識であり、無理に破壊しようとすれば死に至るという首輪だった。


「マサキには盗賊王の針金というマジックアイテムがあるようだ。これが無ければ彼も助け出せなかったであろうな」


「それがあれば…」


「うむ、帝国に無理やり使われている他の異世界人も解放できるかもしれん」


「しかし、陛下。マサキ殿の力は恐ろしすぎる程の力を秘めてる模様。あのリヴァイアサンともやりあえる力…あの者をこのまま我が国へ引きとどめる事が出来るのでしょうか?」


ハヤトとローラン王のやり取りを黙して聞いていたアルベルトが不安げに口を挟んだ。

彼の言う事にも一理ある。異世界人が強いと言っても限度がある。

だが本気を出せば大陸を沈めると言われるリヴァイアサンとやりあえるマサキは味方としても頼りになるがもし敵となったら…と思うとぞっとするものがある。


「アルベルトよ。安心せよ。その為に爵位を与え、弟の大事な忘れ形見であったあったアーデルハイトを進めるようにとアラン伯爵へ伝えたのだ。アーデルハイドも気はあったようだしの」


「さり気無く王家とのつながりを確保させて他国に流れるのを阻止してましたか…相変わらずですね。陛下」


ニヤリと笑っていたローラン王に苦笑するハヤト。

国は綺麗事ではやっていけないのだ。頼りになる強者が野に居れば自国へ引き込む。

そのためには遠縁であるアーデルハイドをも使った。

もしアーデルハイドがマサキに助けられていなかった場合は14歳となるヒルデガルデ王女を進めるつもりだった。


「それに安心せよ。マサキはあのような強さを持っていても後ろ盾を望んで我らを頼ってきたようだ。一人で国を滅ぼせそうな力を持っていても無駄な虐殺は望んでおらぬ。我らが非道な行いをせねばいいのだ」


「その分帝国は可哀想ですね。あの強さを隠されてたとはいえ知らずに投獄し、逃げられ、大多数の船団と兵士を失った上に敵となったのですから。彼らの侵略を見ると同情はしませんけどね」


ハヤトの言葉に全員が頷く。

帝国は知らずとは言え不運だったのだ。

従来の方法で強引に押す進めたまま、傲慢なり。人を道具としてしか見てこなかった。

そのツケがマサキという大きな戦力が敵に回るという形となって表れたのかもしれない。


「ですがこれで砦の奪取が出来たとなると次はグランド大平原ですか…」


「うむ、危険を察した帝国が兵力を集めてると聞く。それに捕虜にした扱いだが『狙撃姫』の姉にもたらされた情報によるとグランド大平原の先にあるラーフという街が帝国の食料の4割を生産する街となっているらしい」


「4割って相当じゃないですか!?どうやったらそんなに…」


普通は色々な街や村からわずかながら集め続けて備蓄するのだがそれが4割ともなると流石のアルベルト宰相とはいえ声を大きくし驚いてしまった。


「うむ、それがだな…どうやらその姉の『農家』とやらの能力で作った一か月で実が実る作物が多数あるようだ。マサキは思わぬ大きな拾い物までしてしまったようだな」


「狙撃姫だけでなくその方と生産している街まで取られては帝国も必死になりますね…」


「それでは今後の方針としては…」


「うむ…ラーフを制圧することになるだろうな。それにはハヤト。お主にも休暇が終わり次第出てもらう。済まないな。まだ若いのに作戦ばかり頼んでしまって」


「拾われた恩というのもありますし、それにここは俺も居心地がいい。出来る限り早く平和にしたいというのは俺の部下達も同じでしょうし構いませんよ」


申し訳なさそうにしていたローラン王にハヤトは番長らしくないにこやかな笑みを浮かべる。

だが戦場に行く者は知っている。

普段は優しげなハヤト。だが戦場で敵に対した時には獣以上に凶悪な戦士となることを。












時刻は同じ頃の帝国。

作戦会議室の中には皇帝と重鎮、将軍達が集められ重々しい空気の中伝令が扉をノックし、入ってきた。


「入れ」


皇帝はただ一言告げて入室を許可する。

伝令の男は扉を開けて異様な重々しい空気に怯むも伝えたくないが伝えなければならない事をつげた。


「…申し上げます。ただ今…確認をしましたところ…ラーフ北東砦が落ちました。『狙撃姫』『農家』の消息は不明。恐らくは殺害、または捕えられたものかと…」


信じられない、信じたくないと行った伝令の言葉に皇帝は深くため息をつく。


「そうか。下れ」


「ハッ!」


短く伝えると伝令は足早にこの場を去った。

一秒たりとも居たくなかった。あの場に居続けたら一般卒の伝令である自分などおかしくなりそうだった。


「糞ッ!忌々しい北方の蛮族共め!こうも我らに抗うとは!万死に値する…!」


長方形のテーブルに荒々しく拳を叩き付け、憎しみに、傲慢に満ちたバリー将軍。

この将軍は以前にマサキを訪ねたあの兵士だった。


「口ではなんとでもいえる。だが実際問題どうする。どうやってあの砦を落としたのか解らぬがそれを可能とする方法を相手が見つけた…これはまるであの時の…」


「従属が効かなかったあの者の時のようだ。何故逃げ出せたのかもわからず、姿を見せないまま消え失せた。それどころか我らが船団を壊滅…あの時のまま訳も分からない時と同じだ」


「やはり即刻首を跳ねるべきだったのだ!使い物にならぬ異世界人なぞゴミにも劣る!」


「おい、同じ同郷のを余り悪くいうんじゃねぇ。強引に引き込んだのはてめぇらだろ」


「なんだと!貴様っ!」


「つい昨日だ、俺は伯爵になった。つまりお前より上だ、バリー子爵殿よ。立場を弁えやがれ」


「なっ!」


「黙れ」


怒鳴り続ける兵士に向けて眼光鋭く背に大きな槍を背負った武将が一人静かに、だが異様な迫力を突き付けて強引に黙らせる。


「今は言い争いをしている場合ではない。どうにかせねばラーフも攻められてしまうぞ」


「あれを落とされては我が帝国の食料が…!何としてでも防がねば!」


「近隣から兵士を集めたとしてどこまでいく。『魏武将』よ」


「ラーフ駐在が5万、ラーフの北から20万、南から50万、西から10万って所だ。だが西はまだ戦ってる最中だから援軍寄越すにはやべぇだろ。魔族にまで手ぇだすからだ。やるなら一時停戦でもしろ。後はそうだな船の経験値上げに忙しいだろうが『大提督』に声かけたら捕虜の1万でも引っ張り出せるかもしれねぇぞ」


『魏武将』の男は淡々と何も資料を見ずに告げる。

この男は今の王国が侮れない戦力を持っていると判断し、魔族方面まで手を出すのは反対したが先ほどの騎士の男が自信満々に攻めると豪語し、戦争で功績を欲した貴族や将軍を味方に付けて無理やり押し進めたのだ。


「だが魔族など我らが帝国が本気になれば一ひねり…」


「出来ておらぬではないか。精神論だけで口先だけのものなぞいらぬ!次失敗したら貴様の首が飛ぶと思え!出て行け!」


「は…はいっ!」


バリー子爵の言い訳に皇帝から怒声が飛び、彼が小さくなって俯いて出て行ってしまう。

今度失敗すれば死。今の彼の頭の中ではこれだけで埋め尽くされていた。


「一時停戦の条件としては捕虜の返還、一部の備蓄の提供が無難であろうか」


「相手さんがそれを飲めばな。話だけでも持っていきやがれ」


重鎮の言葉に『魏武将』の男は雑な言葉で返答する。

この男は皇帝に対してもこうだ。だが実力は悔しくともある。指揮も上手だ。

だからこそ伯爵まで上り詰めれたのだ。


「だが問題点は策をどうするかだ。王国には『番長』『忍頭』と下手すりゃ『狙撃姫』『農家』まで加わっちまってるぞ。それに逃げられた奴が一番厄介だ。街に対してバカみたいな威力がある魔法をぶちかまさねぇだろうがな」


「なら策は此方で考えよう。『魏武将』よ。先に兵と『ハンター』と『超合金』を引き連れて出向いておいてくれ」


「おう、解った。ラーフの市民は俺の方で逃がしておいてやる」


大きく頷くと席から立ち上がり『魏武将』は皇帝に対して気楽に手を振りながら出て行った。

彼は戦では強いが策を考えるのは苦手なタイプだった。

ただひたすら暴れる。だが一騎当千な彼の強さは確かで王国とやりあい、小国に至っては彼一人によって騎士団丸々潰された事もある。


こうして『魏武将』が立ち去り、王国へ対してどうするべきかの作戦会議が始まった。









そして今までの面目、活躍、立場をすべて奪われ、追い詰められた一人の将軍が居た。


「どうするどうする!このままでは…俺が姫を娶って皇帝になる夢が…!忌々しい異世界人共めっ…!!」


自室で大きく拳で机を叩き付け、怒りで荒れ狂うバリー。

もう彼は追い詰められ風前の灯ともいえる状態だった。


「だが…どうすれば…」


それでも考えなければならない。何かいい案を出さねば首が無くなる。

その彼の元に一人の人物が現れた。


「「いい方法がありますよ」」


「誰だ!?」


彼の自室には誰もいないはずだった。

だがそれは…自分の目の前にいた。顔はローブで隠されて何も見えない。

男は気づいていなかった。ただ暗くて見えてないのだと思い込み。

【脳が認識できていなかった】ということに気づけるわけがなかった。


「「誰だっていいではないですか。貴方は活躍できる力がほしい。そうでしょう」」


「ああそうだ!それさえあれば異世界人等!この高貴な俺が一掃してやるというのに!」


「「その異世界人を超える力…欲しくありませんか?」」


「何…?そのようなものがるのか?」


「「ええ。ありますよ。そうですね…世界を超える力…【神薬】とでも言いましょうか。これさえあればすべてはあなたの思うがまま…」」


ローブの人物は男の声なのか女の声なのか、解らない声を出しながら将軍に一つの紙包みを受け取る。


「お…おおお…!これさえあれば…!」


「「舞台は私が整えてあげましょう。指示はこちらで出します。貴方はそこで【英雄】になるのです」」


「英雄…俺が…はは…俺こそが…英雄に…!」


「「では…頼みましたよ。【英雄バリー】」」


「ああ!解った!ははははは!!」


スウッと姿を消すローブにバリー子爵は薬に目を向けて気づかなかった。


この部屋には扉を開けた形跡も窓を開けた形跡もない。

あるのは机と本とソファーと多数の調度品。

その中で高笑いし英雄という言葉に酔いしれるバリー。

それをあざ笑うように一つの観葉植物がゆっくりと揺れていた。









「「愚かな種は植え終った。さぁ、ゲームの始まりですよ」」








何処か解らないはるか遠くで何者かが呟いた。

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最近はこちらの方も日曜更新で頑張ってます。 宜しければこちらの方も感想や評価諸々を下さると大変喜びます。 TSさせられた総帥の異世界征服!可愛いが正義! re:悪の組織の『異』世界征服記~可愛い総帥はお好きですか~
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