姉妹
気が付いたら昨日のアクセス数が倍になってた…読んで下さって恐縮です。
『狙撃姫』と兵士に畏怖と尊敬の念で呼ばれている少女は一人、石造りの部屋で空を眺めていた。
どうしてこうなったのだろう。
彼女は何時も通り『コマンドーシティ』をプレイし、スコアを3位に落としてしまったがそれでも十分な戦果を出し、多数の歩兵や稀には戦闘機すら撃ち落としていた。
休憩しようとVRヘッドを外した所に異変が起きた。
身体が動かなくなり、謎の空間に飲み込まれた。
ただそれだけならまだよかった、よりによって偶然少女の部屋を訪ねた姉が躊躇なく手を掴み一緒に飲み込まれた。
それからはもうよくわからない。姉共々首輪を付けられて戦闘能力を調べられた。
少女は『コマンドーシティ』で操作していたPCと同じ動きが出来た。
はるか遠くの鳥すら撃ち落とした。
だが姉は違った。
姉がプレイしていたオンラインゲームは『ファーマーアイランド』
一つの島に畑をもち、育て、鶏や牛などの家畜を育成して食料などを生産する。
姉もまたそのゲームの中で上位を維持していた。
高品質な稲、部屋の中で育成できるサトウキビ、大量の玉子を生む鶏など高難易度なモノを多数作るプレイヤーとして本人は知らないが密かに有名になっていた。
帝国はそこにも目を付けた。
姉を生産に、妹を狙撃兵にと利用し、姉は妹の人質にして言う事を無理やり聞かせた。
姉を人質にされては少女は逆らうことが出来ない。
仕方なく撃つしかなかった。だが…人を撃つのは怖い。だが撃たなければ姉が…。
出来る限りの抵抗として急所を避けて腕や肩や足を撃った。
たまに異常に堅い装備をする人がいたがそれは対物ライフルでうち貫いた。
怪我は酷かった。急所は外しているが出血か…病気で死ぬかもしれない。
敵は外ばかりではなかった、内も敵だった。
夜中に襲われた。
数人がかりで襲ってきたが気配察知のスキルを持っていたので事前に気づき、ナイフ技術で返り討ちにした。
それから彼女には休まる日は無かった。
身内以外全て敵。
それがある日、目の前に現れた人物によって変わる。
俺は空を飛びながら表に出て『農家』である春香の手を繋いで空を飛んでいた。
(あんたの妹がいる部屋は解るか?)
(そうですねぇ、最上階に一番真ん中でしょうかぁ。一番射線が通るって言ってましたよぉ)
(話す機会はあったんだな)
(ええぇ。でもぉ…一週間に一度だけでしたね。運悪く攻められたら会うのもダメになりましたぁ)
なるほどな。ずっと会えないままだと『狙撃姫』も不振がる。もしかして既にこの世にないか酷い目にあわされてるのではないかと暴走する可能性もあったわけか。
(真ん中というとあのあたりか)
(そうですねぇ、あ。秋葉ちゃんがいましたぁっ♪窓からこんばんはしましょぉ)
(普通に合っても良いと思うんだが…早い方がいいか)
空を飛んでも動じずにマイペースな春香に飲まれつつある俺は多少気疲れしながら春香の妹、秋葉がいる部屋まで空を飛んでいった。
(一応姉であるあんたから確認してくれ。ヘタに着替え中だったら悪い)
(見ても良いんですよぉ?凄くスタイルいいんですからぁ、良く揉んでましたしぃ)
(俺が良くないの!良いから早く!)
こんな空の上で姉妹のセクハラ発言なんて聞きたくなかったわ!
これじゃ妹も大変だろうな…。
ため息をつきながら春香に中の様子を覗かせるとなんか………『ステルス』が解けてる!?
「やっほー。秋葉ちゃんここあけてー!」
ノックしてステルス解除してる!?何してんの!
「お…お姉ちゃん!?なんでここに…っていうか何で空飛んでるの!?」
「すまん、色々な込み入った話は後にしてくれ。見つかるとやばい。あと静かに」
「あ…あんたは一体……解ったわ。お姉ちゃんも静かにね」
「はぁーい」
俺は冷や汗をかきながら『狙撃姫』如月・秋葉の部屋へ窓から入り込んだ。
ステルスをノックで解除とかフリーダム過ぎるだろ…!
「まさかお姉ちゃんが空を飛んでくるなんて夢かと思ったわよ…」
「夢見心地だったわよぉ。身体がふわふわぁってね」
「はいはい、それであなたは何者かしら?空を飛ぶ魔法なんて聞いたことないわよ」
やっぱりフリーダム姉に秋葉は苦労してるみたいだ。
扱いが慣れてる。
「ああ。時間も惜しいし単刀直入に言う。ここから二人を王国の駐屯地まで連れ出したい。このまま帝国に使われっぱなしは嫌だろう?」
「そりゃ嫌だけど…首輪はどうするのよ?それに王国って今まで散々打ち抜いてきたのに身の保証は?」
「首輪は解除する方法がある。身の保障についてだがこれも王子に相談済みだ。王国で手厚い保護をすると書状も貰ってある。なんなら読むか?」
「え…ええ。………これ本物?」
「本物ですねぇ。帝国さんから貰った本はぜーんぶ覚えました。これは王国のサインに間違いなしっ!お姉ちゃんを信じなさい♪」
俺が差し出した羊皮紙の書状に姉妹が顔を覗き込ませている。
帝国の本を全部覚えてるってこの姉思ったより侮れないぞ…。
「お姉ちゃんの記憶は信じられるけどお姉ちゃんの…もうちょっと緊張感持ってよ…」
「フリーダム過ぎるよな…あんたの姉」
「…わかってくれて何よりよ。それであの…何で態々助けてくれるの?」
「そりゃあ…俺も帝国に身勝手な召喚された上に処刑されかけたしな。更にいえば…可愛い女性を助けるのに理由とかいるか?」
男はついでで助けるけどな。
助けるなら女の方が心情的に良い。嫁さん(予定)が二人いてもだ。
「か…可愛いってそんな…」
「あらぁ。秋葉ちゃんおかおまっかっかですねぇ♪」
「お…お姉ちゃん!」
「静かに…!秋葉、首輪外すぞ」
「よ…呼び捨てなんて…」
また顔赤くしてる、ヨーコといい秋葉といいこれで赤くなるのか。
俺は…普段から呼ばせてたから大丈夫だがあなたとか言われたらやばいかもしれん。
雑念が入った。早く外そう…………………これでよし。
「本当に外れた…これで自由…!」
「ああ。今は捕虜になってもらうということになるがな。王子ともこれは約束してる」
「それじゃあ…後は脱出ーですねぇ」
ああ。…ヤバいな。兵士のマーカーがこっちに集まってきてる。声に感づかれたか。
俺が渋い顔をしてると一瞬遅れて秋葉もハッとした表情になり真剣な顔になる。
その表情は歴戦のスナイパーで戦闘機すら打ち抜いたまさに『狙撃姫』という物だった。
「気づいたのね?…凄いわね私より早くなんて」
「高性能なスキルがあるからな。二人とも手を繋いで。行くぞ」
「おー!」
おーといいながら春香が俺の背中に乗ってきた。
や…柔らかいのが背中に…!?
「そこは背中!?」
「お姉ちゃん何してるの!?」
「いいじゃないー秋葉ちゃんは前が空いてるわよー」
「前って…」
「良いからもう手を掴め!」
俺は秋葉の手を無理やり繋いで『ステルス』『ウィング』を使ったと同時に敵兵がなだれ込んできた。
「い…いない!?さっきまで声が聞こえてたはずなのに!」
「窓だっ!窓の下を見ろ!」
「いるわけねぇだろ!此処何メートルあると思ってるんだ!」
兵士の声を余所に俺等はギリギリのタイミングで姿を消して空へ逃げ切った。
時間的にヤバかったマジで…。
(凄い凄い!空飛んでる!)
(凄いでしょー!宙返りとかやってみてー!)
(遊びじゃねぇの!!早く駐屯地まで戻るぞ!!)
((ええーー))
(えーじゃない!)
秋葉も空を飛ぶのに憧れてたようで…こういう所を姉に似てほしくなかった。
背中に春香を乗せながらアクロバットな飛行なんて出来るか…!
空を飛びながら軽く俺の方も事情を話した。
今の連れてきてる中に同じ世界の人「ジロウ・タナカ」と俺「マサキ・トウドウ」
の事。
二人とも異世界人がこうして助けに来てくれたことに驚きつつも喜んでた。
喜ばれるなら助けた甲斐もある。単純だが人が嬉しいとこっちも嬉しくなるものだ。
敵だったら容赦はしないがな。
如月姉妹を無事砦から連れ出した俺達は皆が休んでいる『ルーム』の中に入り、対面を果たした。
当然王子もルームの中で軽やかに「よぉ」と手を上げてあいさつした。
王子、口元にビールの泡付いてます。ジロウも。
予定では攻めるのが明後日でものんきに酒飲むんじゃねぇよ。
「王子、無事に『狙撃姫』、そして人質にされていた彼女の姉を救出してきました」
「見事だ。まさか話の狙撃姫がこんなに麗しい女性だなんてな。それにそちらも…っ……こほん」
あれ?王子が春香さんの方を見て慌ててビールの泡を吹いて身嗜み整えてるぞ。
「失礼、私がセントドラグ王国第一王子のセントドラグ・エル・レオンだ。お二方の名前を聞いても?」
「私はぁ、如月・春香っていいます。王子様ですかぁ、宜しくお願いしますねぇ」
「あっ…ああ。春香殿ですね」
王子の顔が赤い、これビールに酔ったからじゃないな。もしかしてドストライクなのか?
(ジロウ、王子は独身?そしてもしかして…)
(はい、独身で……胸が大きいおっとりとした女性が好みと断言しておりました…セントドラグの女性は皆気が強いもので…私の妻も…)
ジロウも苦労してる様だが王子がまさかおっぱい星人だったとは。
確かのあの背中は良かったと思うが……視線が痛い。ヨーコとアデルの視線が痛い!
「マサキ殿、不貞な行為は働いていないだろうな?」
「まだ結婚してないとはいえ…ホイホイ手を出すのは感心しないわよ?」
「手を出してないし何もしてない!」
変な方向で流れ弾が来た…うちの女性二人も気が強かったこと忘れてた…。
「あ…あの〜…私もいいかな?多分私が皆が言ってる『狙撃姫』の如月・秋葉です。この度はお姉ちゃんとも共助けてくれてありがとうございました!」
「いえいえ、同じ異世界人の仲間同士、助けあえるのであればした方がいいでしょう」
「はい、それであの…私達の処遇は?」
やはり書状だけでも心配らしく不安げに秋葉が俺達の顔色を覗き込んでる。
といってももう決まったようなものだよな。王子がこれだし。
「安心したまえ。君らの身柄はこのセントドラグ・エル・レオンが全身全霊、命を掛けて御守りしよう!」
「王子、命まで掛けたら困ります。貴方は国を継ぐ身なのですからお体を大事に」
王子がすげぇやる気出してる。さっきまで怠惰にビール飲みながらソファーで寛いだ人とは思えない。
「あら〜、それじゃあ…不束者ですが?宜しくおねがいしますねぇ」
「お姉ちゃんそれだと誤解されるって!あ、宜しくお願いします!」
こうして俺等は無事砦の鉄壁の要と化していた『狙撃姫』如月・秋葉と、のちに王国と俺に多大な益をもたらす『農家』の如月・春香をセントドラグ王国の保護下に置くことが出来た。
余談になるが秋葉の居なくなった砦は俺とジロウの罠解除で砦までのトラップは全部解除され、秋葉に頼り切ってた砦はあっさりと落ちた。
今まで出番が無かったアデルとヨーコ作成ごーれむ君が多大に暴れまわってたので今度ストレス解消にご機嫌取りをすることになった俺がいた。